水戸地方裁判所常陸太田支部 昭和45年(ワ)16号 判決 1973年9月28日
原告
茅根わくり
ほか八名
被告
平塚敏靖
ほか一名
主文
一 被告浅尾光広は、原告茅根わくりに対し金一一六万四、六九七円、同富沢静枝、同田野倉つや、同茅根富雄、同茅根昭子、同小森谷和子、同茅根英良、同三橋紀子に対し各金一三万二、二四七円、同茅根憲に対し金七万一、一二三円および以上の各金員に対する昭和四四年一二月二八日から支払がすむまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告浅尾光広に対するその余の請求をいずれも棄却する。
三 原告らの被告平塚敏靖に対する請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告らと被告浅尾光広との間ではこれを五分し、その三を原告らの、その余を同被告の負担とし、原告らと被告平塚敏靖との間では原告らの負担とする。
五 この判決は第一項にかぎり、かりに執行することができる。
事実
第一当事者双方の求めた裁判
一 原告ら
(一) 被告らは、原告茅根わくりに対し金二五四万〇、〇一〇円、同富沢静技、同田野倉つや、同茅根昭子、同小森谷和子、同茅根英良、同三橋紀子に対し各金四五万五、〇四八円、同茅根富雄に対し金九五万五、〇四八円、同茅根憲に対し金四二万七、五二四円及びみぎ各金員に対する昭和四四年一二月二八日から支払がすむまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(三) 仮執行の宣言。
二 被告
(一) 原告らの請求はいずれもこれを棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者双方の主張
一 請求の原因
(一) 被告浅尾光広は、昭和四四年一二月二八日午後七時三〇分ころ小型自動四輪貨物自動車(茨四ふ八六七四号、以下被告車という。)を運転して茨城県常陸太田市下大門町二〇四番地付近県道(幅員約一〇メートル)を同市方面から水府村和田方面に向けて進行中、折から同一方向に向かい歩行中の茅根勝之介に対して被告車を衝突させたため、同人は昭和四五年二月六日脳震盪性頭部打撲傷、右下腿及び腰部打撲傷により死亡した。なお同人の死亡診断書によれば、直接の死因は吐血及び下血による全身衰弱で胃癌の疑いとなつているが、本件事故直前の胃集団検診の結果によつて誤診であることが明らかであり、勝之介の死因は本件交通事故による前記傷害である。
(二) 被告平塚敏靖は、運送業を営むものであつて被告車を所有し、被告浅尾を雇傭してこれを自己のために運行の用に供する者であるので、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)第三条により後掲の損害を賠償する義務を有する。
かりに、被告平塚が自賠法第三条に定める責任を負わないとしても、本件事故は同被告の事業を執行するについて発生したものであるから、同被告は民法第七一五条に定める使用者責任を負うものである。
また被告浅尾は民法七〇九条により損害賠償責任を負うものである。
(三) 原告らは本件事故によつて、以下のような損害を被つた。
(1) 勝之介の得べかりし利益の喪失
勝之介は、本件事故当時七三才であるが、妻わくりが病弱で農作業に従事できないため単独で農作業を行つていたが、その耕作面積は田二、九九四平方米、畑七四九平方米であり、農業収益は年間金一四万一、九一六円であつた。そして茅根家は勝之介の父栄作が八八才、母たけが九四才まで存命したほどの長命の家系で、勝之介は本件事故当時健康状態に何ら異常がなく農業に従事していたものであるので、このような事情を考えると死亡時より五年間は就労が可能である。
一方、勝之介は以前警察に勤めていた関係で受領していた恩給年額金一一万三、五九七円が、同人の死亡によつて半額になつたので金五万六、七九〇円(一〇円未満切捨)の損害を被つた。この場合前記の事情によれば勝之介は八〇才まで生存するものと推定するのが相当である。勝之介は年令すでに七〇才を超え生活も質素であり、みぎ農業収入以外の自家製米及び野菜等により十分生活が可能であり、以上のほかに特に生活費はほとんどかからなかつたから前述の得べかりし収入から生活費を控除する必要はない。
そこで、結局みぎ金員は本件事故によつて失なつたものであるから、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、それぞれ金六一万九、二九〇円および金三三万三、五八〇円となる。
(2) 原告茅根わくりは勝之介の妻、同富沢静枝、同田野倉つや、同茅根富雄、同茅根昭子、同小森谷和子、同茅根英良、同三橋紀子は勝之介の嫡出子、同茅根憲は勝之介の非嫡出子であるところ、同人の死亡により各原告はみぎ損害賠償請求権のうち、農業収入に相当する逸失利益を各相続分に応じ取得し、さらに原告茅根わくりは恩給収入に相当する逸失利益を承継した。
その結果、原告らの取得額は後記のとおり原告茅根わくり 金五四万〇、〇一〇円、同富沢静枝、同田野倉つや、同茅根富雄、同茅根昭子、同小森谷和子、同茅根英良、同三橋紀子 各金五万五、〇四八円、同茅根憲 金二万七、五二四円となる。
記
わくり 619,290円×1/3=206,430円+333,580円=540,010円
わくり、憲を除くその余の原告ら
619,290円×1/3×2/15=55,048円
憲 619,290円×1/3×1/15=27,524円
(3) 原告らの固有の慰謝料請求権
茅根家は前記のように長命の家系であり、勝之介も健康体であつたところ、本件事故により約二カ月の入院の後、治療の甲斐もなく死亡するに至つたものである。
原告茅根わくりは勝之介の妻として、その余の原告らは子として勝之介の本件事故による死亡のため非常な精神的苦痛を受けた。みぎのような苦痛を慰謝するには、茅根わくりにつき金二〇〇万円、その他の原告らにつき各金四〇万円が相当である。
(4) 被告らが右損害金の支払をしないので、原告らは弁護士古川太三郎外二名に本件訴訟の提起および追行を委任したが、その費用については原告茅根富雄が昭和四五年四月一七日着手金として金二〇万円を支払い、さらに報酬として金三〇万円を第一審判決言渡日に支払う旨約した。
(四) よつて被告らに対し、原告茅根わくりは金二五四万〇、〇一〇円、同富沢静技、同田野倉つや、同茅根昭子、同小森谷和子、同茅根英良、同三橋紀子は各金四五万五、〇四八円、同茅根富雄は金九五万五、〇四八円、同茅根憲は金四二万七、五二四円および以上の各金員に対する昭和四四年一二月二八日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否ならびに被告の主張
(一) 請求の原因(一)の事実中、原告主張の日時場所において、被告車が歩行中の勝之介に追突し、同人が受傷した事実は認めるが、道路の幅員が約一〇メートルであるとの点、および勝之介の死亡が、みぎの事故に基く脳震盪性頭部打撲傷、右下腿及び腰部打撲傷によるものであるとの点は否認する。
(二) 同(二)の事実中、被告平塚敏靖が運送業を営み、被告浅尾光広を雇傭している事実は認める。被告平塚が被告車の所有者であり、運行供用者であるとの点および本件事故が被告平塚の運送営業の執行につき発生したとの点は否認する。
被告車は被告浅尾の所有に属するものであつて、専ら同被告の費用で管理し、自宅からの通勤その他の個人的用務のみに使用していたのであり、被告車を被告平塚のために運行したことはなく、従つて被告平塚は自賠法第三条に定める責任を負うものではない。また、本件事故は被告浅尾が勤務時間外に外出先から帰宅する途中発生したものであり、被告平塚の事業の執行と関係なく、固より民法第七一五条に定める使用者責任も有しない。
(三) 同(三)(1)の事実中、勝之介が本件事故当時七三才(精確には七三才二カ月)であつたことは認め、当時同人の健康状態に何ら異常がなく農作業に従事していたこと、同人の農業による収入の点、同人が八〇才まで生存可能であつたとの点および同人の生計は営農による自給米、野菜等によりまかなわれ、とくに生活費支出の必要をみなかつたとの点は否認する。勝之介の家系が長命であつたとの点および同人の恩給収入の点は不知。勝之介にはかねて心筋硬塞、動脈硬化、胃潰瘍、高血圧、糖尿病等の持病があり、極めて病弱で体重が四七瓩位しかなかつた上、日夜飲酒に耽り不健康な生活をしていたのであるから、通常人の平均余命を維持できたとは思われず、勿論農業労働に従事できる状態ではなかつた。また勝之介の生活費は一カ月金一万円を必要とした。
同(三)(2)の事実中、亡勝之介の相続の関係は不知。
同(三)(3)の主張を争う。
同(三)(4)の事実中、原告茅野富雄が着手金二〇万円を支払い、報酬金三〇万円も同原告が一括して支払うことを約束したとの点は不知。
三 抗弁
(一) 本件交通事故当夜、被害者勝之介は飲酒酩酊の上、道路左側部分の中央付近を被告車と同一方向に向かつて歩行中、被告車の直前で突如その進路上にフラフラと出て来たため、被告浅尾がハンドルを左に切り急停車したが間に合わず衝突したものであり、日没後車両の通行する道路を酒に酔つて歩行した勝之介にも重大な過失があつた。
(二) 原告らは自動車損害賠償責任保険金一五万六、九六一円の給付を受けたが、そのうち金二万七、三〇〇円が休業補償費に、金四万円が慰藉料に充当されたほか、被告浅尾から金三万三、〇一二円を受領したのであるから、右金員を本訴請求額から控除すべきである。
四 抗弁に対する認否
(一) 抗弁(一)の事実中、勝之介が本件事故当夜飲酒したとの点および同人が突如被告車の進路の直前にフラフラと出て来たとの点を否認する。
(二) 抗弁(二)の事実中、原告らが自動車損害賠償責任保険金一五万六、九六一円の交付を受けたことは認めるが、被告浅尾からその主張の金員を受領したとの点は否認する。なおみぎの保険金は全額医療費に充当された。
証拠〔略〕
理由
一 請求原因第一項の事実中、原告ら主張の日時場所において、被告車が同一方向に向け歩行中の茅根勝之介に衝突し、同人が受傷したことは当事者間に争いがない。
二(一) 〔証拠略〕を総合すると、同被告は前記日時に、被告車を運転し毎時約五〇粁の速度で本件事故現場の道路にさしかかつた際、折柄対進して来た普通乗用自動車の前照燈の照射により目がくらみ、かつ被告車の前照燈の照射方向を下向きに変換した関係上、自車の通路前方の安全を確認することが困難となつたのであるから、さような場合自動車運転者としては、減速徐行し、進路の安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのに、これを怠たり従前の速度を維持しながら漫然進行を続けた過失により、進路前方を同一方向に向かつて歩行中の勝之介を、同人との距離約七・五メートルの地点においてはじめて発見し、直ちに急制動を施こしたが及ばず((時速五〇キロメートルの場合の停止距離(空走距離と制動距離の和)は概ね二五メートルといわれている。))、被告車を勝之介に追突させて同人に傷害を与えたことが肯認でき、以上の認定を左右するに足りる証拠は存在しない。したがつて本件事故は、被告浅尾が自動車運転者として要求される徐行義務および前方注視義務を怠たつた結果惹起されたものであることは明らかである。
(二) つぎに、被告平塚敏靖の自賠法第三条に定める責任の有無につき考えるに、被告平塚が運送業を営み、被告浅尾を雇傭していることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、被告車は被告浅尾の所有であつて、専ら同人の通勤の便宜のために使用されており、従来一度も被告平塚の業務の用に供されたことはないこと、本件事故も被告浅尾が仕事を終り自宅に帰る途中発生したものであることが認められる。そうであるとすれば、他に特段の事情の認められない本件において、被告平塚は同法第三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するものとはいえない。
また、前記事実によれば、本件事故は、被告浅尾が自己の所有車によつて単に通勤する過程において惹起されたものにすぎず、この事実だけからしては、被告浅尾の被告車の運転が、客観的外形的にみても、使用者である平塚の事業の範囲に属するものということはできないし、他にさような事実を肯認するに足りる証拠も見出しえない。したがつて被告平塚がいわゆる使用者責任を負ういわれはないものといわなければならない。
三 〔証拠略〕を総合すると、勝之介は本件事故により脳震盪性頭部打撲傷、右下腿および腰部打撲傷の傷害を被り、その治療のため事故の翌日から同市木崎二町の医療法人慈仁会川崎病院に入院していたところ、昭和四五年二月六日吐血、下血による全身衰弱により死亡するにいたつたことが認められる。そこで、本件事故と同人の死亡との間に因果関係があるかどうかについて検討を加える。〔証拠略〕を総合すると、勝之介は本件事故当時慢性胃潰瘍を患らつていたが、本件事故のシヨツクのため増悪しその患部である胃体部大湾側部から出血し、前記吐血、下血をみるにいたつたものであることが肯認でき、証人川崎武夫の証言中以上の認定に牴触する部分は、〔証拠略〕に照らしたやすく信用するわけにはいかず、他にみぎ認定を左右するに足りる証拠は存在しない。
みぎ認定事実によると、勝之介の死亡は本件交通事故と被害者の慢性疾患とが競合して発生したものであり、さような場合にはみぎ事故が生命の侵害に寄与した限度において相当因果関係を認めて損害賠償責任を負担させることが衡平の見地から相当であり、以上の観点に立つて本件を検討するとき、勝之介の死亡に対する本件交通事故の寄与度は五割程度と認め、みぎ死亡による損害の五割の限度で被告浅尾に賠償させるのが相当である。
四 〔証拠略〕を総合すると、勝之介は昭和四四年当時、田二、九九四平方メートル畑七四九平方メートルを耕作していたが、同年度における年間農業所得は自家用に充てる飯米、野菜を除き約金一四万一、九一六円に達していたこと、同人死亡後は、妻の原告茅根わくりが農耕の経験がないため、結局農業を廃止するのやむなきにいたり、前記田のうち小作地二、一六八平方メートルを地主に返還し、その余は賃貸し、前記畑のうち、一部を自家用野菜畑とし、その余は休耕し現在にいたつていることが肯認でき、以上の認定に牴触する証人根本丘宇司の証言は原告茅根わくり同茅根富雄の各供述に照らしたやすく信用できない。してみれば勝之介の前記土地資本による得べかりし年間収入は、農業所得金一四万一、九一六円ということになる(最高裁判所昭和四三年八月二日第二小法廷判決参照)。また〔証拠略〕によれば勝之介は前記死亡当時七三才であるが、〔証拠略〕によつて認められる勝之介の既往症、前示慢性疾患等の健康状態を考慮するとき、同人の農業就労可能年数は三年と認めるのが相当である。
つぎに〔証拠略〕によれば、勝之介はかつて警察官として一定期間以上勤務したことにより、死亡当時普通恩給として少なくとも年額金一二万一、〇〇〇円の支給を受けていたことが認められる。そして厚生省第一二回生命表によれば七三才の男子の平均余命は七・五二才である。
他方、〔証拠略〕を総合すると、勝之介の生活費は年間金一二万円と認めるのが相当である。
以上のようなわけで、勝之介が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、同人の死後三年間は年額一四万二、九一六円であり、その後の四・五二年間は年額金一、〇〇〇円であるから、年毎ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、合計金三九万三、六七二円となる。
ところで〔証拠略〕を総合すると、茅根勝之介は酒に酔いながら歩道と車道の区別のない有効幅員五米の道路の左側部分の中央附近を漫然歩行して被告車に追突されたのであり、同人自身道路のどの辺で衝突されたのかも判然しない状態であつたことが肯認できる。以上の事実によれば、勝之介の過失もまた無視することはできず、両者の過失割合は被告浅尾の七に対し勝之介を三とするのが相当である。そうすると被告浅尾に対し賠償を請求できる過失利益は金一三万七、七八五円
393,672円×0.5(勝之介の死の結果に対する本件交通事故の寄与度)×0.7(被告浅尾の過失割合)となる。
〔証拠略〕によれば、亡勝之介の相続人は妻である原告茅根わくり、嫡出子である原告富沢静技、同田野倉つや、同茅根富雄、同茅根昭子、同小森谷和子、同茅根英良、同三橋紀子、および非嫡出子である同茅根憲であることが認められるから、前記損害賠償債権を相続分に応じて取得した原告らの債権額は、原告茅根わくりが金四万五、九二八円、原告富沢静枝、同田野倉つや、同茅根富雄、同茅根昭子、同小森谷和子、同茅根英良、同三橋紀子が各金一万二、二四七円、同茅根憲が金六、一二三円となる。
つぎに、原告茅根わくりは前示のように金四万五、九二八円の損害賠償債権を相続することになるが、このなかには勝之介が余命年数七・五二年間に取得すべき恩給が算入されている。その額は、全所得金一三三万五、六六八円〔農業所得{141,916円(年額)×3}+恩給所得{121,000円(年額)×7.52}〕に対する恩給所得{121,000円(年額)×7.52}金九〇万九、九二〇円の割合によつて計算すると、金三万一、二三一円となる。ところで〔証拠略〕を総合すると、同原告は、勝之介死亡当時同人により生計を維持し、同時に同人と生計を共にしていた配偶者として、勝之介が支給されていた普通恩給額の一〇分の五の遺族扶助料(年額少なくとも金六万五〇〇円)の支給を受けるべき地位に在り、既に昭和四六年一〇月第一回分(年額の四分の一)の支給を受けたことが肯認できる。以上の事実にかんがみるとき、原告茅根わくりが請求できる損害賠償額は、同原告が相続した前示金四万五、九二八円の損害賠償債権額のうち、前示支給を受くべき扶助料額に満たない恩給受給利益喪失による損害賠償額金三万一、二三一円はこれを減縮すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年四月七日第一小法廷判決参照)。したがつて同原告は、同人が相続した損害賠償債権のうち、金一万四、六九七円の限度で請求できる筋合である。
五 つぎに慰藉料について考えると、〔証拠略〕を総合すると、同原告は昭和二四年、四〇才で勝之介の後妻となり、爾来二〇有余年連れ添うてきたのであるが、子供に恵まれず、同人死亡後は若干の小作料、遺族扶助料等で生活を支えていること、同原告を除くその余の原告らは既に成人し、原告茅根昭子(同人は原告三橋紀子と同居している。)以外の者は結婚していることが認められ、以上の事実と上来説示した各般の事情、なかんずく勝之介の死の結果に対する本件事故の寄与率、勝之介の過失を総合検討すると、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告茅根わくりについて金一〇〇万円、同茅根憲について金五万円、その余の原告七名についていずれも金一〇万円をもつて相当と思料する。
六 原告らが自動車損害賠償責任保険金一五万六、九六一円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。そして〔証拠略〕を総合すると、みぎの保険金の給付対象は治療費金八万九、六六一円、休業補償費金二万七、三〇〇円、慰藉料金四万円であることが肯認できるけれども、他方、〔証拠略〕を総合すると、みぎの損害はすべて、保険事故が傷害であることを前提としたものであつて、生命侵害に基く損害に充当されたものでないことが肯認できるのである。また〔証拠略〕によれば、同被告が勝之介に対し合計金三万三、〇一二円を支払つたことが認められるが、そのうち金三、〇〇〇円は見舞金として、金三万〇、〇一二円は治療費として授受されたことも前示被告本人の供述に照らし明らかである。してみると、被告らの弁済の抗弁は、しよせん失当たるを免れない。
七 上来説示したところから明らかなように、被告浅尾に対し、原告茅根わくりは金一〇一万四、六九七円、同茅根憲は金五万六、一二三円、その余の原告らは各金一一万二、二四七円をそれぞれ請求しうるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、被告浅尾はその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士である古川太三郎ほか二名に訴の提起と追行を委任し、原告茅根富雄はその余の原告らの代理人の資格を兼ねて、手数料として金二〇万円を支払い、さらに成功報酬として金三〇万円を第一審判決言渡の日に支払うことを約したことが肯認できるところ、本件事案の難易、前示認容額等を勘案すると、本件事故と相当因果関係にある損害に該当するものと思料される弁護士費用は、原告茅根わくりにつき金一五万円、同茅根憲につき金一万五、〇〇〇円その余の原告らにつき各金二万円とするのが相当である。
八 よつて原告らの本訴請求のうち、被告平塚敏靖に対する請求はいずれも失当として棄却し、被告浅尾光広に対する請求のうち、原告茅根わくりの金一一六万四、六九七円、原告茅根憲の金七万一、一二三円、その余の原告らの各金一三万二、二四七円および以上の各金員に対する本件事故発生の日である昭和四四年一二月二八日から支払がすむまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容し、その余の各請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条第九二条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石崎政男)