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水戸地方裁判所日立支部 平成4年(ヨ)23号 決定 1992年8月10日

申請人

甲田乙平

右代理人弁護士

広田次男

渡辺正之

被申請人

株式会社茨城県北自動車学校

右代表者代表取締役

豊田稔

右代理人弁護士

清水謙

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

一  申立

1  申請人

(一)  申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

(二)  被申請人は申請人に対し、平成四年二月一日から本案の判決確定に至るまで、毎月二五日限り月額二七万六三〇〇円の割合による金員を仮に支払え。

2  被申請人

主文と同旨

二  当裁判所の判断

1  本件一件記録によれば、次の事実を一応認めることができる。

(一)  被申請人は、自動車教習等を目的とする株式会社であり、申請人は、昭和五三年一一月被申請人に社員として採用され、翌五四年運転技能指導員としての資格を取得し、以後技能指導員としての業務に従事していた。

(二)  被申請人は、平成四年一月一八日申請人に対し、書面により、同日付で申請人を解雇する旨の意思表示をなし、右意思表示は同日申請人に到達した。

(三)  解雇の理由は、「平成四年一月一四日県北自校事務所において制服の不着用に関し管理者から注意を受けたところ著しく反抗的な暴言を弄した。このことは就業規則に違反し職場秩序を乱す不都合な行為である」というものであり、就業規則の三七条(服務の基本原則)、三八条(服務心得)、四六条(懲戒)及び四七条(懲戒の種類)を各適用している。

(四)  平成四年一月一四日の申請人と管理者(校長)との間で生じた事態は、次のようなものである。

同日午前八時一五分ころ、申請人がジャンパー着用のまま事務所から指導員室へ向かって行くのを見た被申請人の管理者(校長)が申請人に対し、制服であるブレザーを着用していない理由を糺したところ、申請人が「ブレザーはクリーニングに出してしまった」と答えたことから、両者の間で「どこのクリーニング屋だ」「女房が出したんだから判らない。制服(ブレザー)を着なければならないとどこに書いてあるんだ」「今日は監査(県警交通部免許課が行うもの。)があるので、全員制服を着用してくれ」「何で、これでもいいではないか」等の遣り取りが繰り返された後、待合室に居た生徒達が驚いて注視する中で、さらに、「管理者、手前だって制服着ていないではないか。自分で着もしないでうんぬん言うんじゃねえよ」「制服を着てきたよ。これならいいんだろう」「手前は俺にばかりうんぬん言うが、何だと言うんだよ。ふざけんじゃないよー」「そんな脅迫する様な言葉はないだろう」等の問答があり、結局、四分位経ってから、申請人は管理者のブレザーを借りて指導員室へ行った。

この間、申請人は、「てめえー」とか「この野郎」とかの乱暴な言葉を口にし、生徒達の目を気にした職員が事務室入口のドアを締める程であった。

(五)  平成四年一月一四日に申請人がブレザーコートを着用していなかったのは、同人の妻が前日クリーニングに出したことが理由として挙げられているが、ブレザーコートは三着は使用が可能なものを持っているはずであり、三着全部を同時にクリーニングに出すことは考えられないから、結局は、申請人がブレザーを着なくともよいと考えていたことが当日ブレザーを着ていなかった真の理由と認められる。

尚、申請人は、当日生徒の送迎バスの運転を指示されていたので、ジャンパーでもよいと思ったと述べているが、前日の一月一三日は休校日であり、一月一二日は申請人が年休で休んでいたので、申請人が一四日当日は送迎バスの運転をする旨指示した者はなく、この点について申請人が述べることは信用できない。

(六)  申請人は、昭和六一年ころ指導員全員が揃いのジャンパーを購入してから、ジャンパーも制服としての扱いを受ける事となり、どちらを着用して勤務するかは各自の好みにまかされたと主張する。

就業規則三八条(服務心得)一三項は「勤務中は、制服、制帽を着用し、端正な服装を心がけること」と定めているが、就業規則は昭和六〇年一二月一日から施行されたのであるから、右に定めた「制服」が被申請人貸与のブレザーコートを意味することは明らかである。

そして、本件疎明資料によっては、ジャンパーを防寒服として制服の上に着ることは通常行われていたと認められるものの、ジャンパーが制服と同等の扱いをされていたと認めることはできない。

2  右に認定した事実によれば、申請人の行為は、被申請人が指摘した就業規則に違反するものといわなければならない。

ただ、前記認定のとおり、一月一四日の申請人と管理者(校長)との遣り取りは四分間程度であり、結局、申請人が管理者に説得された形で、同人のブレザーコートを借りて指導員室へ行ったものである。教習所の生徒や他の指導員に与える影響等を考慮するとしても、仮りに、申請人の日常の勤務態度に特別問題が無く、たまたま申請人の思い違いから偶発的に発生した出来事であるとすれば、必ずしも懲戒解雇に相当する程の重大な規律違反とはいえない。

3  しかしながら、それ以前の申請人の言動に問題があり、一月一四日の言動がその一端に過ぎない場合には、同日の言動が懲戒解雇に相当する重大な規律違反となることもありうる。そこで、一月一四日以前の申請人の言動について検討するが、本件一件記録によれば、次の事実を一応認めることができる。

(一)  申請人は欠勤時間数(有給休暇以外)が他の指導員より極端に多く、昭和六三年から平成三年までの四年間で指導員全体の平均が四〇時間(五日間)に対し、五三五時間(六六日七時間)にのぼる。

また、午前中遅刻する旨連絡をし、そのまま一日欠勤したこともある。

(二)  申請人が教習生の送迎バスを担当する場合、バスでの送迎を行わず、申請人の自家用車に教習生を乗せ、途中教習生を降ろしながらそのまま帰宅することがあったため、自家用車に乗れない教習生は最終バスまで待たされる結果となり、その度に教習生から苦情が寄せられた。

(三)  平成二年四月四日、雨の中で自動二輪車の技能教習を実施していた際、他の指導員は雨合羽を着て、自らも自動二輪車に乗り、教習をしていたが、申請人は、一人普通車に乗り車の中から自動二輪車の指導をしていた。そこで、指導課長が、自動二輪車は必ず教習生に追随して指導する事になっているので、普通車を使用するのはやめるよう注意した時に、申請人は「大したふりをするんじゃねえよー」等と言って反抗的態度を取ったあと謝罪もしなかった。

右に認定した事実によれば、申請人は同人が主張するような「申請人の勤務態度は極めて真面目であり、一三年三か月余に亘り勤務期間中無断欠勤は一日たりとてなく、且つ、上司から注意を受けた事も一度もなかった。」というようなものではなく、職場の同僚や上司とかなりの回数衝突したり、秩序を乱す行為をしていたことがうかがわれる。従って、本件の一月一四日の行為も、たまたま生じたものというよりは、申請人が以前から取っていた言動が偶然教習所の校長という現場の最高責任者に対しても向けられたものと判断せざるを得ない。

そうすると、申請人が本件の一月一四日に取った言動は、日常の勤務態度の発現といわざるを得ず、それが校長にまで向けられたという点において、被申請人が懲戒解雇に相当するものと判断し、申請人を解雇したのは、解雇権の濫用ということはできない。

4  よって、申請人の本件申請は被保全権利についての疎明がないというべきであり、本件申請は失当であるから却下することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 村上和之)

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