水戸地方裁判所竜ケ崎支部 平成9年(ワ)35号 判決 1999年10月29日
原告
多田晃
右訴訟代理人弁護士
東松文雄
被告
櫻井栄二
外二名
右三名訴訟代理人弁護士
野口啓朗
同
吉田淳一
同
村田陽子
同
丸山知子
主文
一 アメリカ合衆国ハワイ地区連邦地方裁判所が、原告と被告ら間の同裁判所民事第九四―〇〇四八六ACK号事件について、平成八年(一九九六年)八月一九日に言い渡した判決のうち「被告らは各自、原告に対し、154万2132.30アメリカドルを支払え。」との部分について、原告が被告らに対し強制執行することを許可する。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
主文一項と同旨
第二 事案の概要等
一 事案の骨子
本件は、アメリカ合衆国ハワイ地区連邦地方裁判所が、被告らが証拠開示手続への参加を怠ったことに対する制裁として、被告らに対し原告に損害賠償金を支払うことを命じた懈怠判決について、原告が被告らに対し民事執行法二四条に基づき執行判決を求めた事案である。
二 前提事実(争いがない。)
1 原告と原告を代表者とする株式会社第一相互開発(以下、原告及び株式会社第一相互開発を「本件外国訴訟の原告ら」という。)は、アメリカ合衆国ハワイ地区連邦地方裁判所(以下「ハワイ地区連邦地方裁判所」という。)に対して、平成六年(一九九四年)六月二三日に訴状を、同年九月一九日には修正訴状をそれぞれ提出し、被告らのほかカウマナ・カントリークラブ株式会社(以下「カウマナ・カントリークラブ」という。)、サンディー・スミス(以下「スミス」という。)ほか数名を共同被告として、スミス及び被告ら等の詐欺、横領、共同の陰謀によりアメリカ合衆国ハワイ州(以下「ハワイ州」という。)においてゴルフ場等の開発運営をするために設立されたカウマナ・カントリークラブの株式所有権を原告が喪失する結果となったことから損害を被ったなどと主張して、右被告ら等に対し、裁判時に証明される補償的損害賠償金及び懲罰的損害賠償金の支払等を求める訴え(以下「本件外国訴訟」という。)を提起した。
2 被告拓也に対して、平成六年七月二一日、本件外国訴訟の訴状写しと召喚状が、これに係る文書の要領とともに、ハワイ州所在のホノルル国際空港二二番ゲートでハワイ州副保安官により交付送達され、また、被告栄二及び被告久子に対して、同年一二月二日、本件外国訴訟の修正訴状写しと召喚状が、これに係る文書の要領とともに、国際司法共助手続の定める方式による日本国外務省を通じた嘱託に応じて水戸地方裁判所龍ヶ崎支部裁判所書記官により平成八年法律第一〇九号附則三条ただし書に定める経過措置に伴う同附則二条による削除前の民訴法(以下「旧民訴法」という。)一六二条二項、一七一条一項後段の規定に従い、同年一二月二日に郵便によって送達された。なお、被告拓也に対する送達書類については日本語の翻訳文は添付されていなかった。
3 被告らは、本件外国訴訟について、ハワイ州から弁護士業務を行う免許を受けているケン・クニユキ弁護士(以下「クニユキ弁護士」という。)に対しその訴訟手続全般の追行を委任するものと認識して訴訟委任した。クニユキ弁護士は、ハワイ地区連邦地方裁判所に対し、平成六年八月九日に本件外国訴訟の訴状に対する被告拓也の答弁書を、また、同年一二月二三日に本件外国訴訟の修正訴状に対する被告栄二及び被告久子の答弁書を提出し、訴状ないし修正訴状(以下「訴状等」という。)記載の事実についての認否、管轄違いの抗弁及び主張をして訴え却下を求め、平成七年(一九九五年)四月二五日には本件外国訴訟の原告らの訴訟代理人弁護士に対し原告及び被告らなどの宣誓供述録取に関する日程調整に係る連絡をするなどした。しかし、被告らは、クニユキ弁護士との間で月々弁護料を支払うことを約していたが、これが高額のため、途中から支払わなくなった。クニユキ弁護士は、同年六月二九日にハワイ地区連邦地方裁判所に対し、被告らが本件外国訴訟の防御において弁護士と協調せず、本件外国訴訟の活動指針について意味のある指示も対話も得ていないこと、月々の弁護料を支払期限が過ぎても支払わないことを理由に挙げて被告らの弁護士辞任の申立てをするとともに右申立てが審理される期日を被告らに通知した。ハワイ地区連邦地方裁判所は、右申立てを審理し、正当な理由があるとして、同年七月二七日に本件外国訴訟の原告らが提出する和解合意強制執行申立てが解決するまで被告らの弁護士として留まること、被告らが本人訴訟で進めるかどうかの確認を誠実に努力して行うこと等の条件を付して被告らの弁護士辞任を許諾し、さらに、同年一〇月二日に補足許諾をし、被告らは本人訴訟で進めるとした後、同年一一月一五日、本件外国訴訟の原告らが同年八月二三日に提出した和解合意強制執行申立てを棄却するとともに、クニユキ弁護士が被告らの弁護士を辞任することを許可した。なお、その後、被告らは、本件外国訴訟について弁護士を選任して訴訟委任することをしなかった。
4 本件外国訴訟の原告らは、アメリカ連邦民事訴訟規則四〇条に従い、平成八年(一九九六年)三月五日に被告栄二の、同月六日に被告久子の、同月七日に被告拓也のそれぞれ口頭宣誓供述録を取る旨を被告らに対し、それぞれの肩書住所宛てに通知書を送付して通知したが、被告らは、右期日の口頭宣誓供述録取に出席しなかった。そこで、本件外国訴訟の原告らは、同年四月二五日、ハワイ地区連邦地方裁判所に対し、アメリカ連邦民事訴訟規則三七条を適用してカウマナ・カントリークラブ及び被告らに対する懈怠を理由とした判決を言い渡すべき旨の申立てをした。同裁判所は、同年五月二九日、右申立てを審理したが、カウマナ・カントリークラブ及び被告らが右申立てに対し何らの反論書も提出せず、また、右審理に出席しなかったことから、カウマナ・カントリークラブ及び被告らに対し、開示(ディスカバリー)に参加して証言することを怠ったにもかかわらず、それに対して制裁が加えられるべきでない理由があるのであればその理由を同年六月一四日午前九時三〇分に開示することを命ずる旨の理由開示命令を発した。しかし、カウマナ・カントリークラブ及び被告らは、同裁判所の同年六月一四日の期日に、右理由開示命令に対する何らの応答をせず、かつ、本人はもちろんその訴訟代理人弁護士も右期日に出席しなかった。そこで、同裁判所は、同年七月一五日、「懈怠を理由とする判決が言い渡されることへの原告らの申立てが認められるべきであることの事実認定及び推奨」(以下「本件推奨」という。)をし、右の経過に係る事実を認定した上で、カウマナ・カントリークラブ及び被告らに対し本件外国訴訟の原告らに原告の宣誓供述書によって裏付けられているとする154万2132.30アメリカドルの支払をすることを命ずる懈怠判決を言い渡すことの推奨をしたが、本件外国訴訟の原告らが求めた本件外国訴訟の弁護士料及び経費8万9533.56アメリカドルの支払を命ずることについては再訴権付きで却下することの推奨をした。
なお、原告の宣誓供述書には、右154万2132.30アメリカドルの内訳として、本件外国訴訟の原告らがゴルフ場用地等の土地とカウマナ・カントリークラブに対する投資額及び事務所経費84万7898.55アメリカドル、許認可取得及び関連費用4万0430.63アメリカドル、日本における経費47万6615.08アメリカドル、旅費及び宿泊費3万4688.04アメリカドル、原告が費やした時間に対する費用一四万二五〇〇アメリカドルとの記載がある。
5 ハワイ地区連邦地方裁判所は、平成八年八月一九日、別紙本件外国判決写しのとおり、カウマナ・カントリークラブ及び被告らは本件外国訴訟の原告らに対し、154万2132.30アメリカドルを支払うことを命ずる懈怠判決(以下「本件外国判決」という。)及び本件外国訴訟の原告らの弁護士料及び経費8万9533.56アメリカドルの支払を求める請求については再訴権付きで却下する判決を言い渡し、右判決はアメリカ合衆国において不服申立期間の経過により同年九月一八日確定した。
6 アメリカ連邦民事訴訟規則三七条には、次の規定が置かれている。
当事者が適式に通知が送達されたにもかかわらず宣誓供述録取を行う官吏の面前に出席しない場合などには、訴訟が係属する裁判所は、かかる怠慢に関し、正当な命令をし、また、特に、主張の全部又は一部を却下する命令、訴訟又は手続の全部又は一部を棄却する命令、命令に従わない当事者に懈怠を理由とする敗訴判決をするとの命令をすることができる(同条(d)項、(b)項(2)号C)。
三 争点
1 ハワイ地区連邦地方裁判所は本件外国訴訟事件の管轄権を有するか(国際裁判管轄の有無)。
2 被告らが訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けた又はこれを受けなかったが応訴したといえるか。
3 本件外国判決が民訴法一一八条にいう確定判決に該当するといえるか。
4 本件外国判決の内容が日本における公の秩序に反しないといえるか。
5 本件外国判決の訴訟手続が日本における公の秩序に反しないといえるか。
四 当事者の主張
1 争点1(国際裁判管轄の有無)について
(一) 被告らの主張
(1) 専属的管轄合意の有無について
荒井靖(以下「荒井」という。)、原告及び中尾博(以下「中尾」という。)の三者間で合意された平成四年五月付け持株比率に関する協定書(以下、この協定書を「本件協定書」といい、この協定書記載の協定を「本件協定」という。)七条には、「本協定書は日本法に従って解釈されるものとし、当事者間で協議の整わないような紛議の生じた時は東京地方裁判所を専属管轄裁判所とする。」と規定し、カウマナ・カントリークラブの株式に関する紛争については、準拠法を日本法とし東京地方裁判所を専属管轄裁判所とする専属的管轄合意が存在する。そして、原告は原告所有のカウマナ・カントリークラブ株式三五〇株の株券をネルソン・チャン弁護士に預託する方法で荒井に対し譲渡したが右譲渡は条件付きであり、かつ右条件は成就しなかったのに原告は右株券の返還を受けることができず荒井と右株式の帰属を巡り紛議を生じたところ、被告らは右紛議に係る荒井の地位を承継した。本件外国訴訟の主要かつ根本的な争点はカウマナ・カントリークラブの支配権であり、換言すれば本件協定に起因したカウマナ・カントリークラブの株式の帰属であって本件協定書七条に予定された紛議に当たるから、本件外国訴訟事件については本件協定にある専属的管轄合意により東京地方裁判所に専属管轄権があり、ハワイ地区連邦地方裁判所には管轄権がない。
また、原告主張のように本件協定に停止条件が付され、かつ右停止条件が成就していないとしても、そのために効力が生じないのは当該条件に係らしめる特定の合意事項に限られるのであり、専属的管轄合意には影響がない。
(2) 本件外国訴訟の原告らは、本件外国訴訟の訴状等において、不法行為の主張と思われる主張をしているが、この主張は、不法行為の要件事実のうち、不法行為者、不法行為の行為地(加害行為地又は損害発生地)、損害の発生、行為と損害との相当因果関係等の特定を欠いているから、不法行為地の管轄を基礎付ける事実の主張として不十分である。
(二) 原告の主張
(1) 専属的管轄合意の有無について
本件協定書は、専ら荒井が他から融資を受けて原告に対してゴルフ場等の開発に係る既払経費相当額等を支払うことができるようにするためのみに作成されたものであるが、この協定の核心部分の一つである既発生費用の清算等について何らの取決めもされていないから、合意としては成立しておらず、専属管轄の合意部分も成立していない。仮に、専属管轄の合意部分が成立しているとしても、本件協定は、カウマナ・カントリークラブの株式の持株比率を当事者間で協定する内容のものであり、本件協定書七条に規定する「当事者間で協議の整わないような紛議」も右株式の持株比率に関する紛議に限定されるべきであるところ、本件外国訴訟は被告らによる詐欺、横領等の不法行為等を理由とするものであり右の紛議に当たらないから、専属管轄の合意は本件外国訴訟には適用されない。また、本件協定は、荒井の原告に対する右ゴルフ場等の開発に係る既払経費相当額等の支払が停止条件とされていたところ、荒井はこれを支払っておらず、停止条件が成就していないし、荒井は、本件協定締結の後、本件協定に係る一切の権利を放棄しているから、専属管轄の合意も消滅している。さらに、荒井作成の被告栄二に対する平成六年二月一四日付け確認合意書は荒井において被告栄二がカウマナ・カントリークラブの代表株主であることを認め、被告栄二に対し同社等の運営責任を委任し、同社の全株式を預託し、融資、会員募集の権限を付与することなどを記載するものであるが、右記載の合意は本件協定とは関係がない。仮に関係があるとしても、専属管轄の合意の承継は書面に明示されなければならないのに、右確認合意書には本件協定書に言及した記載がないから、専属管轄の合意が承継されたとはいえないし、承継されたとしても、被告栄二について承継されたにすぎず、被告久子及び被告拓也について承継されたとはいえない。
(2) 本件外国判決の対象となったのは、本件外国訴訟の訴状等及び本件推奨に記載されているとおり、被告らの詐欺、横領等の不法行為及び非倫理的不動産取引等を原因とする本件外国訴訟の原告らのカウマナ・カントリークラブ及び被告らに対する損害賠償請求であるところ、その不法行為地及び不動産所在地はいずれもハワイ州であるから、ハワイ地区連邦地方裁判所が右請求に係る事件について管轄権を有している。
また、本件外国訴訟事件では被告らのほかハワイ地区連邦地方裁判所の管轄区域内に普通裁判籍を有するアメリカ合衆国民でハワイ州在住のスミスらも共同被告とされており、請求原因として被告らとスミスの共謀等の主張がされているのであるから、被告らに関してもハワイ地区連邦地方裁判所の管轄権が認められる。
2 争点2(呼出し又は応訴の有無)について
(一) 原告の主張
(1) 被告らに送達された本件外国訴訟の訴状等及び呼出状は英語で記載されたものであるが、被告拓也に対してはアメリカ合衆国内で同国の法令に従って交付されたものであるから日本語訳の添付は必要がないし、被告栄二及び被告久子に対しては日本国内で平成六年一二月二日郵便により送達されたが、日本語訳が添付されていたから、被告らは訴訟の開始に必要な呼出し又は命令の送達を受けたといえる。
(2) 被告らは、本件外国訴訟について、弁護士に訴訟委任してハワイ地区連邦地方裁判所に答弁書を提出し管轄違いの抗弁を含めて反論して応訴した。
(二) 被告らの主張
(1) 被告らが送達を受けた本件外国訴訟の訴状等及び呼出状はいずれも英語で記載されており、日本語訳は添付されていなかったから、被告らが訴訟の開始に必要な呼出し又は命令の送達を受けたとはいえない。なお、被告拓也に対してはアメリカ合衆国内で交付されたが、この交付が同国の法令に従ってされたか否かにかかわらず、日本人である被告拓也に対する送達がされたとして本件外国判決を承認するための要件としては、日本語訳の添付が必要と解される。
(2) 被告らは、本件外国訴訟について、訴状等が英語で記載され日本語訳が添付されていなかったため、その内容を了知しないままクニユキ弁護士に訴訟委任をしたところ、同弁護士はハワイ地区連邦地方裁判所に管轄を争うことを留保した上で請求原因を否認する旨を記載した答弁書を提出した後、内容について実質的に応訴せず手続は何ら進まないまま平成七年一〇月二日に被告らの訴訟代理人を辞任してしまい、被告らにはその後の手続について全く理解できないまま突然本件外国判決がされたのである。そうすると、被告らは、本件外国訴訟において手続的に何ら防御の機会が与えられなかったというべきであるから、被告らが本件外国訴訟に応訴したとはいえない。
3 争点3(民事性の有無)
(一) 被告らの主張
本件外国判決は民事性を有せず民訴法一一八条にいう確定判決に該当しない。すなわち、本件外国判決は、アメリカ連邦民事訴訟規則三七条に基づいてされた懈怠判決(Default Judg-ment)である。しかるところ、右条項は証拠開示手続(Discovery)における裁判所の命令に従わなかった当事者に対する一般予防ないし一般抑止のための制裁(sanction)を目的とする一種の刑事的懲罰制度規定であり、その本質は裁判所の命令に従わなかった当事者から財産を奪い取る点にあって、アメリカ合衆国における懲罰的損害賠償制度とも極めて近い法的性格を有するものである。したがって、同条に基づく懈怠判決は、その性質上民事性を有さないというべきである。本件外国判決には、本件外国訴訟の原告らの請求を理由あらしめる根拠を示していないが、これは本件外国判決の本質が制裁を課すことを目的とした刑事判決である以上、損害の厳密な立証を必要としないからである。
(二) 原告の主張
本件外国判決は民事性を有し民訴法一一八条にいう確定判決に該当する。すなわち、アメリカ連邦民事訴訟規則三七条に規定する懈怠判決は、攻撃防御の機会が与えられ、手続保障が十分であったにもかかわらず、訴訟進行に不熱心な当事者について、攻撃防御の機会を放棄したものとし、相手方当事者の主張立証を審査して根拠があると判断した場合に、相手方勝訴の判決(不熱心な当事者敗訴の判決)をするものであり、訴訟進行に不熱心な当事者による手続の懈怠から生じる相手方の不利益を救済することを目的とするものであって、アメリカ合衆国における懲罰的損害賠償制度とは法的性格を異にする。本件外国判決は、その理由中に、本件外国訴訟の原告らの請求が正当であることが認定されている。
4 争点4(判決内容の公序良俗違反の有無)について
(一) 被告らの主張
本件外国判決は、判決の内容において日本における公序良俗に反しているから、民訴法一一八条三号に該当せず、日本においてその効力を有しない。すなわち、3(一)のとおり、本件外国判決は、その本質が制裁ないし刑罰規定であるアメリカ連邦民事訴訟規則三七条に基づいてされた懈怠判決であり、仮に民事性を有するとしても、判決の内容が日本における公序良俗に反しているというべきである。
(二) 原告の主張
本件外国判決は、判決の内容において日本における公序良俗に反するものではない。
5 争点5(判決手続の公序良俗違反の有無)について
(一) 被告らの主張
本件外国判決は、その手続において日本における公序良俗に反しているから、民訴法一一八条三号の要件に該当せず、日本においてその効力を有しない。その理由は次のとおりである。
(1) 本件外国判決は、被告らが供述録取手続の通知に応じなかったこと、当該通知に関し本件外国訴訟の原告らの訴訟代理人に連絡を取らなかったこと、被告らの訴訟代理人の辞任後本件外国訴訟に参加する手続を取らなかったことを理由として、被告らが否認して明確に争っている本件外国訴訟の原告ら主張の請求原因事実を、原告の陳述書のほかには何らの証拠も提出されていないのに、領収書その他の実質的証拠の有無を検討しないまま審理を尽くさないで認定した上、裁判所が制裁(sanction)として、カウマナ・カントリークラブ及び被告らに対し本件外国訴訟の原告らにその請求に係る金額全額の支払を命じた懈怠判決(Default Judgment)であり、このような判決手続は、日本における公序良俗に反するものである。
(2) 被告らは、受領した英文の本件外国訴訟の訴状等写しに日本語の翻訳文が添付されていなかったためその内容を理解できず、また、被告らから本件外国訴訟について訴訟代理人として受任したクニユキ弁護士も、右受任の範囲が、被告らが訴訟全般を委任したと認識していたのと異なり、客観的には和解交渉の範囲に限定されていたため、極めて内容不十分な答弁書を提出したのみで不適切な活動しかしないまま、被告らに相談することなく平成七年六月二九日にハワイ地区連邦地方裁判所に対し訴訟代理人辞任の許可申請をし、その許可を受けて同年一一月一五日に辞任してこれを被告らに通知したが、右辞任に際しては被告らに対し訴訟の状況、今後の手続の予定ないし見通しについて全く説明しなかった。このため被告らは、その後にハワイ地区連邦地方裁判所から送付されてきた英文の本件外国訴訟の訴訟関係書類の内容を理解できず、本件外国判決が送付されたときもこれが判決であることは辛うじて理解できたものの、これに対しどのように対処すべきかを知ることができなかった。このような経過に照らせば、被告らは、本件外国訴訟の提起から判決確定に至るまでの間、自らの利益を防御する手続的保障が与えられなかったものであるから、本件外国判決は民訴法一一八条三号が要求する手続的保障を欠いていて、その訴訟手続が日本における公の秩序に反するというべきである。なお、クニユキ弁護士が右辞任をした理由は不明であるが、裁判所における本件外国訴訟の原告らとの和解が不成立になったこと若しくはクニユキ弁護士が被告らのほかに受任していた他の共同被告との間に利害相反関係が存在していたことのいずれか、又はその双方であると思われる。
(二) 原告の主張
本件外国判決は、その手続において日本における公序良俗に反するものではない。すなわち、被告栄二及び被告久子に送達された英文の本件外国訴訟の訴状等写しに日本語の翻訳文が添付されていたことは前記のとおりであり、クニユキ弁護士の受任の範囲が和解交渉の範囲に限定されていたということはない。また、仮にクニユキ弁護士の訴訟活動が不十分であったとしても、それは被告らとの内部問題であるし、被告らはクニユキ弁護士の辞任後に他の弁護士を選任する機会を有していたのであって、被告らに右辞任後の訴訟手続に有効適切に対処する術がなかったということはない。なお、クニユキ弁護士の右辞任理由は、被告らから指示がないこと及び弁護料の支払がないことである。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(国際裁判管轄の有無)について
1 本件外国訴訟についてハワイ地区連邦地方裁判所に国際裁判管轄が認められるか否かについて検討する。民訴法一一八条一号所定の「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」とは、我が国の国際民訴法の原則から見て、当該外国裁判所の属する国(以下「判決国」という。)がその事件につき国際裁判管轄(間接的一般管轄)を有すると積極的に認められることをいうものと解される。そして、どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては、これを直接に規定した法令がなく、よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことからすれば、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である。具体的には、基本的に我が国の民訴法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべきものである(最高裁判所平成六年(オ)第一八三八号平成一〇年四月二八日第三小法廷判決・民集五二巻三号八五三頁参照)が、当事者が管轄裁判所について判決国の裁判所以外の裁判所とする専属的合意をしていた場合には、我が国の民訴法の定める合意管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべきものというべきである。
2 専属的管轄合意の有無について
本件協定書七条には、「本協定書は日本法に従って解釈されるものとし、当事者間で協議の整わないような紛議の生じた時は東京地方裁判所を専属管轄裁判所とする。」と規定されているところ、被告らは、本件外国訴訟事件については本件協定にある専属的管轄合意により東京地方裁判所に専属管轄権があり、ハワイ地区連邦地方裁判所には管轄権がない旨主張する。
証拠(乙第一、第二号証、証人荒井靖)によれば、原告は、平成元年頃ハワイ州においてゴルフコースに適した土地を取得し開発してゴルフ場を運営する等の開発事業を計画し、右開発を目的としてハワイ州にカウマナ・カントリークラブを設立するなどして計画実現のため活動していたが、土地購入資金の支払に不足を来すなどして事業が行き詰まりかねない事態となったため、同社の役員でもあった中尾を通じて荒井に資金援助を要請し、これを受けた荒井、原告及び中尾の三者間で、平成四年五月頃、荒井が保証人となってカウマナ・カントリークラブ名義で外資系金融機関から融資を受けるものとすること、右融資金により右開発事業の既発生費用を清算し、右三者間で各自が負担している概算費用額を確認すること、その定款に発行するものと記載されたカウマナ・カントリークラブの株式一〇〇〇株を、荒井が五一パーセント(五一〇株)、原告及び中尾が三九パーセント(三九〇株)、スミスが一〇パーセント(一〇〇株)の比率で所有すること等の合意をし、右合意とともに本件協定書七条に前記のとおり専属管轄裁判所等の合意を規定した「持株比率に関する協定書」と題する本件協定書を二通作成して、その一通に中尾が、他の一通に荒井と原告がそれぞれ署名したが、本件協定書においては右概算費用額についての各人の負担額欄は空欄のままとされたこと、右外資系金融機関からの融資は実行されず右開発事業の既発生費用の清算等もされなかったことが認められる。
右事実によれば、仮に本件協定が合意として成立しているとしても、本件協定は外資系金融機関から融資を得ることを前提としたものとみられるが右融資は実行されなかったのであるから、本件協定はその効力が発生したといえるか疑問である。また、仮にその効力が発生したとしても、本件協定の目的は、本件協定書の表題に照らすと、カウマナ・カントリークラブの株式の持株比率を当事者間で協定することにあり、そうすると、本件協定書七条に規定する「当事者間で協議の整わないような紛議」も右株式の持株比率に関する紛議をいうのであって、被告らが主張する三五〇株の株券の帰属を巡る紛議を含むかは疑問であり、被告らの前記主張は前提を欠くことになるし、本件外国訴訟は被告らによる詐欺、横領等の不法行為等を理由とするものであるから右の紛議に当たるといえるか疑問が残る。以上によれば、被告らが本件協定の合意に係る荒井の地位を承継したかどうかにつき検討するまでもなく、本件外国訴訟事件については東京地方裁判所に専属管轄権があるとの被告らの主張は理由がない。
3 ハワイ地区連邦地方裁判所の国際裁判管轄の有無について
前提事実1に証拠(甲第三号証、第四号証の1ないし3、第五号証)を併せると、本件外国訴訟は、本件外国訴訟の原告らが、被告らのほかカウマナ・カントリークラブ、スミスほか数名を共同被告として、右被告ら等の詐欺、横領、共同の陰謀によりハワイ州においてゴルフ場等の開発運営をするため設立されたカウマナ・カントリークラブの株式所有権を原告が喪失する結果となったことから損害を被ったなどと主張して、右被告ら等に対し、裁判時に証明される補償的損害賠償金及び懲罰的損害賠償金の支払等を求める訴えを提起したものであるが、右詐欺、横領、共同の陰謀としては主にハワイ州における一連の行為を摘示しており、損害もハワイ州におけるゴルフ場用地等の土地に対する投資額や事務所経費を主な内容としていることが認められ、右事実によれば、その不法行為地の裁判籍(旧民訴法一五条)はハワイ州であって、ハワイ地区連邦地方裁判所が右請求に係る事件について管轄権を有していることが認められる。また、前提事実1及び右証拠によれば、スミスはアメリカ合衆国民でハワイ州に在住する者であり、ハワイ地区連邦地方裁判所の管轄区域内に普通裁判籍を有することが認められるところ、本件外国訴訟において本件外国訴訟の原告らは被告らとスミスとの共謀等の共同不法行為の主張をしているのであるから、被告らに関してハワイ地区連邦地方裁判所に併合請求の裁判籍(旧民訴法二一条)が認められる。
4 以上によれば、ハワイ地区連邦地方裁判所は本件外国訴訟ついて国際裁判管轄を有するものと認められる。
二 争点2(呼出し又は応訴の有無)について
1 民訴法一一八条二号所定の被告が「応訴したこと」とは、いわゆる応訴管轄が成立するための応訴とは異なり、被告が防御のための方法をとったことを意味し、管轄違いの抗弁を提出したような場合もこれに含まれると解される(前掲最高裁判所平成一〇年四月二八日第三小法廷判決参照)。
2 前提事実及び証拠(甲第三号証、第一三号証の2ないし4、第一四ないし第一六号証、乙第一一号証)によれば、被告らは、本件外国訴訟について、クニユキ弁護士に訴訟追行及び和解全般を委任してハワイ地区連邦地方裁判所に答弁書を提出し管轄違いの抗弁を主張したほか本件外国訴訟の原告らの訴状等記載の事実等について認否反論して応訴したことが認められる。これによれば、被告らは、本件外国訴訟について、民訴法一一八条二号所定の応訴をしたといえ、これは、被告らの本件外国訴訟の内容及び手続についての理解の程度、被告らから見てクニユキ弁護士の訴訟活動が十分であったか否かにかかわらないというべきである。
3 そうすると、被告らについて、本件外国訴訟の開始に必要な呼出しを受けたか否かにかかわらず、本件外国判決は、民訴法一一八条二号所定の要件を具備しているものというべきである。
三 争点3(民事性の有無)について
1 前提事実1ないし6によれば、本件外国判決は、民事訴訟として提起された本件外国訴訟中の、本件外国訴訟の原告らが被告らほか数名の不法行為により被ったと主張する補償的損害賠償を求める部分の請求に対し、被告らが適式に通知された口頭宣誓供述録取へ出席しなかったことから、本件推奨を経て、アメリカ連邦民事訴訟規則三七条(d)項、(b)項(2)号Cに基づく懈怠判決(Default Judgment)として、原告の宣誓供述書により本件外国訴訟の原告らに実際に生じたと認定した損害額の支払を命じた一部認容判決であることが認められる。
前提事実6に証拠(甲第三号証、乙第一七、第一八号証)及び弁論の全趣旨を併せると、アメリカ連邦地方裁判所における民事訴訟手続では、裁判所の法廷で行われる事実審理(トライアル)の前の段階(プリトライアル)において、その準備のために当事者が法廷外で事件に関する証拠を開示し収集する証拠開示手続(ディスカバリー)を設けているところ、アメリカ連邦民事訴訟規則三七条は、右事実審理の前の段階における当事者等による証拠開示又は証拠収集の協力懈怠(不履行)について裁判所が広範な内容の制裁をすることができることを詳細に規定し、特に、適式に通知された口頭宣誓供述録取へ出席しないなどした当事者に対しては、訴訟の係属する裁判所が、他方当事者の主張事実を証明があったものとみなすこと、懈怠当事者の証拠提出を制限することなどのほか、懈怠当事者の主張等を却下すること、懈怠を理由として懈怠原告の請求を却下し、又は懈怠被告に対して敗訴判決をすること等ができることを規定していること、実際にいかなる制裁をするかについては、当事者の懈怠についての故意の有無、理由及び程度等を検討して決定するが、特に懈怠当事者の主張等を却下し、懈怠を理由として懈怠原告の請求を却下し、又は懈怠被告に対して敗訴判決をするに当たっては懈怠が故意又は重過失によるものであるか否かを判断しなければならないと解されていることが認められる。このような訴訟手続は右の証拠開示手続への参加を怠る不熱心な当事者に対する一般予防ないし一般抑止としての懲罰の一面を含むものと評価でき、特に懈怠被告に対し制裁として重い敗訴判決(懈怠判決)をする手続についてはその要素を多分に含むものと評価できるが、これを原告の立場から見れば、原告の請求を認容する勝訴判決をするのであるから、訴訟追行に不熱心な被告から原告を救済する結果となるものである。ところで、我が国の民事訴訟手続においては、正当な理由なく主張立証を怠るなど訴訟追行に不熱心な当事者に対しては、訴訟上の信義則や弁論の全趣旨を適用して他方当事者を救済する結果となる様々な措置が規定及び運用されており(これは現行民訴法下に限らず旧民訴法下でも同様)、特に、被告が適式に呼出しを受けた口頭弁論期日に出頭しない(このため弁論をしないか、被告本人尋問ができない)場合には、審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況を考慮して(当該期日が被告本人尋問を行う期日であった場合にはその尋問採用決定を取り消した上)口頭弁論を終結して原告の請求の当否を判断し被告敗訴の判決をすることもできる(弁論をしない場合につき、民訴法二四四条参照)のであるが、この措置規定及び運用が当事者に対し訴訟追行に不熱心であることに対する一般予防ないし一般抑止、あるいは制裁として機能する面があることは否定できない。そして、訴訟追行に不熱心な当事者に対して、裁判手続上どのような措置を採るかは、その国ないし地域の訴訟制度の歴史的沿革、訴訟観等によって異なるにせよ、訴訟追行に不熱心な当事者から他方当事者を救済する必要性は国ないし地域、訴訟制度のいかんを問わないと考えられる一方、このような救済をすることが、訴訟追行に不熱心であることに対する一般予防ないし一般抑止、あるいは制裁として機能することになるのである。以上のことからすると、アメリカ連邦地方裁判所における懈怠判決の手続ないし制度は、基本的には訴訟追行に不熱心な当事者から他方当事者を救済する措置として、我が国の民事訴訟手続ないし制度と相容れない異質なものとまではいえないというべきである。
2 そうすると、本件外国判決は、その法的性格において本質的に民事性を有する判決といえるのであり、民訴法一一八条本文の「外国裁判所の確定判決」に当たると認められる。
四 争点4(判決内容の公序良俗違反の有無)について
右認定説示のとおり、本件外国判決は、アメリカ連邦民事訴訟規則三七条に基づいてされた懈怠判決であり懲罰的な評価が含まれていることが認められるが、他方、前提事実4及び5によれば、本件外国判決が被告らに対して支払を命じた金員の額は原告に実際に生じたと認定した損害の額であるから、本件外国判決の内容が我が国の公の秩序に反するということはできない。
五 争点5(判決手続の公序良俗違反の有無)について
1 前提事実3によれば、被告らは、本件外国訴訟について、ハワイ州のクニユキ弁護士に対しその訴訟手続全般の追行を委任し、クニユキ弁護士は被告らの訴訟代理人として本件外国訴訟の原告らの訴状等記載の事実についての認否、管轄違いの抗弁及び主張をして訴え却下を求めることなどを記載した答弁書を提出するなどの訴訟活動を行ったが、訴訟の途中から被告らが訴訟活動について協調したり指示したりなどしなくなった上、約束に係る月々の弁護料を支払わなくなったため、被告らの訴訟代理人を辞任するに至り、その後、被告らはクニユキ弁護士が辞任したことを知りながら本件外国訴訟について弁護士を選任して訴訟委任することをしなかったばかりか、被告本人としても訴訟活動をせず、これを受けて、ハワイ地区連邦地方裁判所がアメリカ連邦民事訴訟規則三七条に基づく懈怠判決として、原告の宣誓供述書によって認定した本件外国訴訟の原告ら主張の損害の賠償を命ずる本件外国判決をしたことが認められる。
2 右1の事実によれば、被告らには、本件外国訴訟の提起から判決確定に至るまでの間、自らの訴訟上の利益を防御する手続的保障が与えられていたものと認められる上、本件外国訴訟の判決手続についても、それが懈怠判決であることについては、懈怠判決の手続が我が国の民事訴訟手続と相容れない異質なものとまではいえないことは前記三1認定説示のとおりであり、また、原告の宣誓供述書のほかに領収書等の証拠の有無を検討しなかったことについては、我が国の裁判所としては、本件外国判決における証拠の取捨判断の当否については調査し得ないものである(民事執行法二四条二項)。そうすると、本件外国判決の訴訟手続が我が国の公の秩序に反するとはいえないというべきである。
3 被告らは、受領した英文の本件外国訴訟の訴状等写しに日本語の翻訳文が添付されていなかったためその内容を理解できなかったと主張するが、被告らはクニユキ弁護士を訴訟代理人に選任したのであるから、右翻訳文が添付されていたか否かにかかわらず、本件外国訴訟の内容を理解していたと推認されるし、そうでなくとも本件外国判決がされるまでの間には理解する機会が十分にあったのであるから、右主張は理由がない。また、被告らは、クニユキ弁護士の受任の範囲が和解交渉の範囲に限定されていた旨主張し、被告拓也の供述及び陳述書(乙第一六号証)には右主張に沿うかのような部分があり、証拠(乙第八号証、第一五号証の2及び3、第一六号証及び被告拓也)によれば、本件外国訴訟の原告ら訴訟代理人アイラ・ライテル弁護士から平成六年八月三日に和解交渉の目的について被告らの代理をすると連絡をしていたクニユキ弁護士に対し本件外国訴訟に関する紛争解決のための和解案が提案されたこと、被告らは同年七月一一日頃クニユキ弁護士に対し本件外国訴訟が妥当な条件で和解解決できるのか本件外国訴訟の原告らと最初の交渉をすることを委任したこと、平成七年三月頃から同年五月頃までの間クニユキ弁護士から被告らに対し本件外国訴訟の原告らとの間における和解案が何度か提案されたことが認められる。しかし、前提事実3によれば、被告らはクニユキ弁護士の受任の範囲を和解交渉の範囲に限定されない訴訟追行全般と認識していたのであるし、クニユキ弁護士は被告らの訴訟代理人を受任した後、答弁書を提出したり、原告及び被告らなどの宣誓供述録取に関する日程調整に係る連絡などの訴訟活動を行っていることなどに照らすと、右認定の事実から被告らの主張を推認することはできない。
六 相互保証
弁論の全趣旨によれば、我が国とアメリカ合衆国との間には、民訴法一一八条四号所定の「相互の保証」があることが認められる。
七 執行承認の範囲
前提事実によれば、本件外国判決の趣旨は、カウマナ・カントリークラブ及び被告らは不可分的にそれぞれが、本件外国訴訟の原告らそれぞれに対して不可分的に、認容額である154万2132.30アメリカドル全額を支払うことを命ずる判決であると推認されるが、その主文には、我が国の判決主文において原告ないし被告が複数の場合に原告ら又は被告らが全額の金員の支払請求ができ、又は支払義務を負うことを明らかにするためにされる「それぞれ」ないし「各自」のような表示がされていないことが認められる。しかし、外国判決の承認とは、当該判決がされた国においてその判決の有する一切の効力そのままを我が国が承認することであって、ここにいう効力とは、当該判決がされた国の法律に基づいて有する効力をいうものと解すべきであるから、本件外国判決についても、アメリカ合衆国法上認められる効力をそのまま承認すべきものである。そうすると、原告の本訴請求の趣旨は、本件外国判決の一部である、被告らそれぞれに原告に対し認容額全額の支払を命じた部分の承認を求めるものであり、これを認容して承認する我が国の判決主文としては、その趣旨を明らかにするため「それぞれ」ないし「各自」の表示をすべきものである。
第四 結語
よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六五条に従い、仮執行宣言につき同法二五九条一項、四項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官納谷肇)
別紙<省略>