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水戸地方裁判所麻生支部 昭和52年(ワ)49号 判決 1979年4月26日

原告

石橋章弘

被告

高橋宏

主文

一  被告は原告に対し、金七八二万三〇一一円及び内金七一二万三〇一一円に対する昭和五〇年九月九日から、内金一〇万円に対する同五二年七月一日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告において金二〇〇万円の担保を供するときは、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告は、「被告は原告に対し金二一八六万八五三一円及びこれに対する昭和五〇年九月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因として、別紙「請求の原因」記載のとおり述べ、被告の答弁及び主張に対する反論として、別紙「原告の反論」記載のとおり述べた。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、

「一 請求原因第一の事業中、原告主張の日時にその主張の場所で原告運転の自動二輪車七五〇cc(直進車)が被告運転の普通貨物自動車(右折車)に接触し、原告が負傷した事実は認めるが、その余の事実は争う。

二 同第二の事実中被告車が被告の所有であることは認めるが、責任は争う。

三 同第三の事実は争う。なお、

1  入院付添費については、原告の母親が付添つているので、一日五〇〇円が相当である。

2  通院交通費については、高速道路の使用料、ガソリン代については証拠がなく、また通院が車でなければならなかつたのか定かでない。

3  後遺障害による逸失利益については、原告は現在、左腕の機能を失うという後遺障害(自賠責五級六号相当)を蒙つて、職種は制限されたということであるが、もともと原告は、父親が経営する運送業の跡を継ぐことになつており、父親は健在で弟一人も運送業にたずさわるということである。運送業の経営者になるということであるならば、仕事の経営、従業員の管理等が主な仕事であり、原告は右腕が利き腕で事務をとることには支障なく、現在車の運転も出来るようになつているということであるから、労働能力喪失全期間中の労働能力喪失率を一率に七九%とみるのは妥当性に欠ける。又減収期間を四九年間と長期にわたる場合は、中間利息控除方法は、ライプニツツ式を採用すべきである(東京基準)。年収一一三万七、二〇〇円を基準に東京地方裁判所判決例を参考に減収期間を四五年とみて計算するとつぎのようになる。

(1,137,200×0.7×4.329)(5年間)+(1,137,200×0.5×4.329)(5年間)+(1,137,200×0.4×16.374)(35年間)=13,355,731.68

したがつて逸失利益は一、三三五万五、七三一円となる。

4  慰謝料については、金七〇〇万円が相当である。

5  弁護士費用については、原告から被告に対して提訴前に何らの請求もなく、いきなり提訴されたことは明白であるから、請求の理由はない。」

と述べ、主張として、別紙「被告の主張」記載のとおり述べた。

〔証拠関係略〕

理由

第一事故の発生

昭和五〇年九月九日午後〇時四五分頃茨城県行方郡麻生町大字麻生二二五番地先路上で、原告運転の自動二輪車七五〇cc(直進車)が被告運転の普通貨物自動車(右折車)に接触し、原告が負傷した事実は当事者間に争いがなく、その傷害の程度(後遺障害を含めて)、治療経過が原告主張のとおりであることは、成立に争いのない甲第六号証、乙第七号証の一、二、第八号証、原告本人尋問の結果(但し、その一部)によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三並びに右原告本人尋問の結果及び原告法定代理人石橋弘の尋問の結果によつて優にこれを認めることができる。

第二責任原因

被告運転の車両が被告の所有であることは当事者間に争いがなく、この事実に、成立に争いのない乙第五号証を総合すると、被告が右車両の運行供用者であることは明らかである。従つて、被告は原告に対し、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

第三過失について

被告は、本件事故は原告の自爆的行為ともいえる一方的過失によつて発生したものであり、被告には過失がない旨主張する。

そこで、この点について判断するに、成立に争いのない乙第一号証の一ないし七、第二号証の一、二、第四ないし第六号証並びに原被告本人の各尋問の結果(但し、原告本人についてはその一部)を総合すると、(1)本件事故現場は行方郡牛堀町方面から同郡玉造町方面に通ずる幅員六・二メートルの歩車道の区別のない平坦なアスフアルト舗装路で、牛堀町、玉造町両方面からの前方の見通しはともに良好であること、(2)被告は当日牛堀町方面から玉造町方面に向かい、前記車両を運転して右道路左端寄りを進行し、現場近くに差しかかつたこと、(3)そして、道路右側にあるガソリンスタンドに立ち寄るべく、時速を三〇ないし三五キロメートルに減速し、右折開始地点の約一七メートル手前の地点あたりで右折の合図をなし、次いでルームミラーによつて後方の安全を確認したあと、ハンドルを右に切つて右折を開始し、時速約一〇キロメートルで道路左端寄りからセンターラインを経て斜め横断の形でガソリンスタンドに進入しようとしたこと、(4)そして、右折開始地点から約三・五メートル進行した地点で、原告運転の自動二輪車が自動荷台右側部に衝突したこと、(5)被告車はその衝撃で、その衝突地点付近から玉造町方面に向け、路面に弧を描くように三条のスリツプ痕(最長一四・二メートル)を印象して道路左側に自車左側部を下にして横転するに至つたこと、(6)一方原告も当日牛堀町方面から玉造町方面に向け、前記二輪車を運転し、被告車の後方から時速六〇ないし七〇キロメートルで道路左側を進行して来たものであるが、現場手前に至つて、減速進行中の被告車を認め、右折の気配もなかつたところから、これを追い越そうと考えたこと、(7)そして、前記速度のまま進行し、被告車の後方約一六・五〇メートルの地点に迫つたところ、被告車が急にハンドルを右に切り前に出て来たため、原告は危険を感じ、とつさに急制動の措置をとつたこと、(8)しかし、間に合わず、自車を被告車に衝突させ、さらに前記ガソリンスタンドの構内に自車を逸走させ、同所に駐車中の車両に衝突させたこと、(9)その際、衝突地点の一〇・一〇メートル手前の地点から一条のスリツプ痕(原告車によつて印象されたもの)が路面に全長一三・五五メートルに亘つて印象され(衝突後も印象されている)、さらに右衝突地点から再衝突地点付近まで全長二一・五五メートルに亘つて原告車による擦過痕が印象されたこと、(10)当時現場の路面は乾操していたこと、が認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実を総合すると、被告には右折に際して予め道路中央に寄ることなく、道路左端から直ちに斜め横断を開始した点、後方の安全確認も不十分であつた点、さらに、右折の合図も遅きにすぎた点において過失が存したことは明らかであり、また、原告においても、追越しに際しての前車である被告車の動向に対する注視が十分でなかつた点、殊に被告車の右折の合図が遅れたとはいえ、これを見落して進行した点において、過失が存したことは明らかであるというべきである。

第四損害の発生

一  治療費(但し、診断書代等を含む)金四一万一三七九円

内訳 釼持外科医院分 金一万五六一五円

岡村整形外科医院分 金一一万一一二七円

慶応大学病院 金二八万四六三七円

二  入院付添費 金七万八〇〇〇円

三  入院雑費 金三万九六〇〇円

四  通院付添費 金一万六五〇〇円

五  通院交通費 金五万五〇〇〇円

前掲甲第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、成立に争いのない甲第六号証に前掲原告本人(但しその一部)及び原告法定代理人の各供述を総合して、以上の一ないし五の損害を本件事故と相当因果関係のある損害と認める(五の損害については、特に交通の便が悪いことを考慮した)。

六  後遺障害による逸失利益 金一五二四万〇八六七円

成立に争いのない甲第二号証及び弁論の全趣旨によつて認められる原告が本件事故当時一六歳(昭和三三年一〇月一五日生)の健康な男子であつたこと、右事故による前記認定のような後遺障害、前掲原告本人(但し、その一部)及び原告法定代理人の各供によつて認められる家庭の事情(殊にその営業面)等を総合して、逸失利益を金一五二四万〇八六七円と認めるのが相当である。その計算関係は別紙「計算書」記載のとおりである。

七  慰藉料 八〇〇万円

原告の年齢、傷害の程度等証拠によつて認められる一切の事情を考慮し、慰藉料を金八〇〇万円と認めるのが相当である。

第五過失相殺

前記認定のとおり、原告にも過失が認められるので、本件の賠償額を算定するに当つては、これを斟酌すべきであるが、その減額の割合はほぼ三割程度にとどめるのが相当である。そうすると、右過失相殺により、原告の受けるべき額は右第四の損害総額二三八四万一三四六円のほぼ七割に当る金一六七〇万円となる。

第六損害の填補

原告が自賠責保険金九五七万六九八九円を受領したことは原告の自認するところであるから、原告の前記賠償を受くべき額からこれを控除すると、その額は金七一二万三〇一一円となる。

第七弁護士費用

前掲原被告本人(但し、原告についてはその一部)及び原告法定代理人の各供述を総合すると、原告が本件訴提起に踏み切つたのもやむをえないところと認められるので、右金七一二万三〇一一円のほぼ一割に当る金七〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

第八結論

以上の次第で、被告は原告に対し、金七八二万三〇一一円及びこれより弁護士費用分七〇万円を除いた金七一二万三〇一一円に対する損害の発生した日である昭和五〇年九月九日から、弁護士費用中の内金一〇万円(着手金)に対する昭和五二年七月一日(訴提起の日)からそれぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、右の限度で原告の本訴請求を認容し、その余は理由がないから棄却することとし(弁護士費用中の残額六〇万円についてはまだ支払がないので、この分に対する遅延損害金の支払を求めることはできない)、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小田部米彦)

別紙 請求の原因

第一 事故の発生

原告石橋章弘(以下原告章弘という)は次の事故(以下本件事故という)により負傷した。

1 事故日 昭和五〇年九月九日午後〇時四五分ころ

2 発生地 行方郡麻生町大字麻生二二五

3 被害者 原告 章弘

4 被害車 自動二輪車七五〇cc(以下原告車という)

5 加害車 普通貨物車(以下被告車という)

運転車 被告 高橋宏

6 態様

被害者が原告車にのつて牛堀方面より玉造町方面に進行中、その直前を同方面に進行中の被害車が道路左側へ寄つたので、右被告車を追越そうとした原告車はセンターラインを越えて道路右側部分に出て被告車の右斜後方へ接近したところ、被告車は後方未確認のまま方向指示器を上げることもなく急に右折してきたため、右原告車と接触した。

7 傷害の部位程度

頸椎損傷、上腕神経マヒ、頭部、顔面、両肩、左上腕、両膝部打撲挫創

8 後遺障害

左腕神経根マヒ、左上肢筋力低下、前腕知覚異常、左上腕の機能廃絶、左肩マヒのため不垂するまま、左肘筋力は二分の一、左手指は自動的にはマヒのため不能、拘縮は少ない。

9 治療経過

(一) 釼持外科医院

入院 昭和五〇年九月九日より同月一四日までの六日間

(二) 岡村整形外科医院

入院 同月一四日より同年一〇月五日までの二二日間

(三) 慶応義塾大学病院整形外科

入院 同月八日より翌一一月一七日までの四〇日間

通院 一〇月七日より昭和五一年一一月二五日までの四〇五日中通院実日数一一日

第二 責任原因

被告高橋は被告車を所有し、本件事故当時運行の用に供していた者であるから自動車損害賠償保障法第三条に基づき本件事故による後記損害を賠償する責任がある。

第三 損害

一 治療費 金三二万一三七九円

内訳

1 釼持医院分 金一万五六一五円

2 岡村医院分 金一一万一一二七円

3 慶応病院分 金二八万四六三七円

二 入院付添費 金七万八〇〇〇円

右釼持及岡村医院の各入院期間(二六日間)原告の母親が付添看護した一日三〇〇〇円として二六日分の付添看護料

三 入院雑費 金三万九六〇〇円

一日六〇〇円として全入院期間(六六日間)の入院雑費

四 通院付添費 金一万六五〇〇円

右慶応病院の通院(一一日)に原告の父親が付添つた。

一日一五〇〇円として一一回分

五 通院交通費 金五万五〇〇〇円

自宅より右慶応病院への通院につき自家用車にて通院した。一往復の高速道路使用料金二〇〇〇円及同ガソリン代金三〇〇〇円として一一回分

六 後遺障害による逸失利益 金二一九三万五〇四一円

原告章弘は昭和三三年一〇月一五日生れの健康な男子で本件事故当時一六歳の高校一年生であつたところ、右後遺障害のため左上肢の用を全廃するに至り、今後一生上肢の機能障害に悩まされる。

従つて、原告の右後遺障害に伴なう労働能力喪失による逸失利益は次の通りである。

(一) 労働能力喪失率 七九%(五級六号相当)

(二) 労働能力喪失期間 一八歳から六七歳までの四九年間

(三) 中間利息控除 新ホフマン係数二四・四一六による

(四) 年収 金一一三万七二〇〇円

但し昭和五〇年賃金センサス第一巻第一表男子労働者学歴計年齢別(一八歳~一九歳)による

(五) 算式

1137200×0.79×24.416=21935041

七 慰藉料 金八〇〇万円

原告は本件事故当時茨城県立麻生高等学校二年に在学中であつたところ、前記のごとき重傷長期治療の結果、学業を中途で止めざるをえなくなりさらに、左腕の機能全廃といういわば片手の人間となつたため、職種は極めて制限され今後の人生設計は甚だ暗たんたるものがある。

かかる精神的苦痛をあえて金銭をもつて評価すれば、原告の精神的苦痛を慰藉するには金八〇〇万円が相当である。(後遺障害分金七〇〇万円、通常慰藉料分金一〇〇万円)

損害の填補 金九五七万六九八九円

原告は本件事故による損害の填補としていわゆる自賠責保険より金九五七万六九八九円(後遺障害五級四号相当分八八四万円を含む)の支払を受けているので、これを前記損害合計金三〇四四万五五二〇円より控除する。

従つてその差額は金二〇八六万八五三一円となる。

弁護士費用 金一〇〇万円

原告は被告の任意の弁済を受けられないためやむなく本訴提起を余儀なくされ、本件原告訴訟代理人に着手金として金一〇万円を支払つた外、訴訟終了時に成功報酬として認容額の一割相当額を支払う旨約束しているので、右相当額の損害を蒙つているというべきところ本訴において金一〇〇万円を請求する。

よつて原告は被告に対し本件交通事故による損害賠償として自動車損害賠償保障法第三条に基づき金二一八六万八五三一円およびこれに対する不法行為発生日たる昭和五〇年九月九日より民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め本訴に及ぶ次第である。

別紙 被告の主張

一 本件事故は、原告の自爆的行為ともいえる一方的過失によつて発生したものであり、被告には過失がない。

原告は本件事故を起す以前からしばしば、いわゆるオートバイ仲間とかなりのスピードを出して町内を暴走しており、近所の人達も原告がいつか事故を起すのではないかとはらはらしていたものである。事故当日も、原告は理由もなく学校を休み友人宅で遊んでいたのであるが無免許であるにもかかわらず友人のオートバイを借りて乗りだしたのである。

原告は、道路交通法一八条に違反して道路中央部分を制限速度四〇キロを三〇キロもオーバーした時速七〇キロの速度で事故現場付近にさしかかり、先行車である被告車の動静を注視することなく無謀な追い越しをかけ、右側のガソリンスタンドに入る為右折を開始し、もう少しでガソリンスタンドに入ろうとしていた被告車の右側前方に衝突し、それから二一・五メートルも走行してガソリンスタンド内に停車中の車に衝突し転倒したものである。

二 本来車の運転手は、前方注視義務が最も基本的な注意義務として科せられているものであり、大体運転手は、前方に対する注意に万全を期し、後方に対する注意は、前方に対する注意力の配分からいえば二割程度である。同一進行路においては、各運転手が前車との車間距離を守り、前車の動向に万全の注意を払つておれば、先行車と後行車との事故は殆ど起り得ない。

本件交通事故は、原告が六〇キロから七〇キロの違反速度で、被告車に接近し、友人から借りた運転操作に慣れていないはじめて乗るオートバイで、被告車を追い越すことばかりに気をとられ、被告車の動静を充分に注視しなかつたため、被告車が右折の合図をした(乙第八号証)のを見落し、無謀な追い越しをかけたことによつて発生したものである。このことは、原告がブレーキを踏む余裕もなかつたこと、ガソリンスタンドに、もう少しで入ろうとしていた被告車の運転席右側後方の側部に追突していること、被告車を一四・五メートルも先に一回転させて横転させていること、原告のオートバイの前部が原形をとどめないほどの破損状況であることなどの事実から明白である。

三 被告は本件道路を道路交通法一八条の規定に従い、道路左側寄りを制限速度四〇キロの速度で進行し、ガソリンスタンドより約三〇メートル手前で右折の合図をし速度を落しながらセンターライン寄りに進行し、右にハンドルを切るに際し左側及び右側後方の安全を確認し、右折の徐行を開始したものであるから被告の右行為には何らの過失もなく、かつ、被告車両には構造上の欠陥又は機能の障害もなかつた。

四 原告は、事故後五ケ月後に取調べを受け、その際、被告車が右折の合図をしなかつたと述べているが、一方原告は自ら被告車の動静を注視していなかつたとも述べており、被告車の動静を注視していなかつたのであれば、被告車が右折の合図をしていたかいなかつたかわからなかつたはずである。

原告は事故後意識が不明になり、釼持病院で気がついたときは、「最初夢を見ているようであり、しばらくしてからあの時軽トラツクとぶつかりけがをしたのだなということを知つた」(乙第三号証)というのであるから、原告が事故直前の状況を詳細に述べている点は信用できない。

特に、事故後二年半経過している法廷で、「被告車がスタンドの一五メートル位前の所を斜めに急に曲つたのです。ゆるやかに曲つたのでありませんでした」という原告の証言は、警察で述べておらず、警察で述べた被告車の右折の状況と矛盾することになる。

五 被告は右折をする際に、ルームミラーでは後方に後続車両のないことを確認しており、原告は、前方一六・五メートルのところで被告車の右折を確認しているのであるから、原告が速度違反(規制四〇キロ乙第二号証の二)をしていなければ、追突事故は避けられたものであり、又原告が言うように、被告車が速度をゆるめず急に曲がつたとすれば、被告車の後部に追突するか、或は追突が避けられていたはずである。

六 仮りに被告に過失があつたとしても、その過失は、原告の道路交通法一八条違反、前方不注視、速度違反、無免許による運転操作という過失からみれば、二割程度である。そうすると、過失相殺によつて、原告が請求できる金額は四一五万九六四二円であり、自賠責保険金をもつて全額填補されてもなお余剰金があるのであるから、本訴で認容されるべき金額は全くない。

別紙 原告の反論

一 後遺障害による逸失利益について

1 原告本人は本件事故により、左上肢の用を全廃するとの後遺障害に悩まされている。自賠責においても、後遺障害等級表(自賠法施行令二条)五級六号が認定されている。右別表によれば労働能力喪失率は七九%とされており、本件においても右喪失率によることを妨げる事由は何もない。本件事故による後遺障害のため、原告は自分一人で独立してなしえた父の仕事たる運送業を、独力では継ぐことが出来なくなつた。現在は、集金や、銀行とか法務局へ使い走りといつた手伝等、極めて軽易な労務以外に就労は出来ない状況にある。運送業といつても、大会社ではなく、父が経営者兼運転者の家内業務であるから、貨物車(一一トン車)の運転が出来なければ運送業を営むことは不可能である。従つて、原告一人で運送業を経営して行くことは現実には不可能であり、だからこそ、父親は原告の弟をも運送業をやらせて、原告を援助するようにしたいとの希望を持つに至つたのである。これは父親の希望であり、弟本人が右希望通りになるとの保障はどこにもない。また、なつたとして、何時まで弟が兄と協力してやるかは弟の気持如何であつて、極めて不安定な状況にある。もし、この弟がその気にならなければ、原告は左上肢機能全廃のかたわ者として、とうてい厳しい労働市場では無価値な存在にすぎない。何人もかかるかたわ者を採用することはない。原告は完全に労働市場から放置されてしまい、その労働能力は零に近く、喪失率は一〇〇%とみてもよいと思われる。従つて、原告主張の喪失率七九%は極めてひかえ目な率といわなければならない。

2 中間利息控除方式について、被告はライプニツツ方式が東京地裁の基準であるかのように主張されるが、かかる理解は被告の独自の理解であつて、本件においてもライプによるべきとの根拠とはなりえない。

3 また、喪失率について被告はいわゆる逓減方式を主張されるが、本件における左上肢の用を全廃した後遺障害の内容及び年収について、一八歳~一九歳の年齢別による賃金センサスを基礎としており、全年齢平均を算出基礎にしていないこと、従つて、初年度の収入で就労全期間を固定し、賃金上昇分を加味していないことを考えれば、七九%の定率方式によるのが適正な額を得られると思料される。

二 慰藉料について

訴状記載の諸事実からみれば、八〇〇万円の慰藉料額は低額であり、むしろ、右額は本件事故の態様を考慮した後の慰藉料とみるべきで、右八〇〇万円は過失相殺からはずすべきである。

三 弁護士費用について

被告は、原告から提訴前に何らの請求がなく、いきなり提訴されたから右請求は理由がない旨主張されるが、右主張自体失当である。けだし、本件においては被告は自分が被害者であつて、原告宅へ見舞いにも行かない態度に終始している(被告本人尋問の結果)、かかる被告に対して何故に、原告が訴に先立つて請求をしなければならないのであろうか。甚だ不可解である。のみならず、被告としてはむしろ、賠償問題について相当額の賠償額を提供して誠意を示したことは一度もないのである。原告は見舞いにも行きそれなりの誠意を示し、不当に抗争したことは一度もない。不当に抗争しているのは被告の方である。不当抗争する被告に対抗するため弁護士を依頼することは、まさに本件事故と相当因果関係がある。因果関係がないというのであれば、被告としては賠償問題に誠意を示し、相当損害賠償額を現実に提供した等の不当抗争不存在を構成する具体的事実を主張立証すべきである。

四 過失相殺について

1 本件事故は被告が(1)右折する時にセンターラインの方へ寄らず、道路左寄りの方から右折したこと、及び、(2)右折手前三〇メートルの地点付近より右折の合図をすべきなのに、被告は右折直前約一五メートル付近から何らの合図もすることなく、かつ後方の安全を確認することなく右折したために発生したものである。右の事実は、被告の捜査官に対する供述(乙第五、六号証)及び、乙第一号証(実況見分調書)及び、原告の供述調書(乙第四号証)、原告本人尋問の結果から認められる。

2 原告には被告が主張するような無謀な運転はしていない。すなわち、被告は原告が速度違反している旨主張される。しかし、これは全くの誤解である。本件事故当時は何ら速度規制はなされていない。このことは、事故直後になされた実況見分調書(乙第一号証の四)から明白である。速度規制がなされたのは本件事故後である。第二回の実況見分がなされたのは昭和五一年二月であり、この実況見分調書(乙第二号証の二)は事故後の交通規制を表示しているにすぎない。被告の主張は右の点を誤解したもので失当である。

また、事故当時は追越禁止の規制はなく、現場は見通しのよい直線道路であつた(乙第一号証の四)。従つて、理由もなく他車の走行を妨げる低速進行の被告車を追越した原告には何らの過失もなく、無謀追越ということは証拠によらない主張である。従つて、被告がなしている、原告には道交法一八条違反ありとの主張は、それ自体失当である。

また、原告は、被告の動静に注視していたところ、被告が右折の合図もなく左に寄つたので、右折はないものと判断し、追越を開始したものであり、前方注視に何ら欠けるところはない。

以上のとおりであるから、原告に過失があるとの主張は何ら理由が全くない。

3 のみならず、被告自身自認している通り、被告は、後方車への安全を単にルームミラーのみでしか確認していない。ルームミラーには死角があり、自車の右側に接近している車両の確認はルームミラーでは不可能である。このことは経験則上明白である。被告のかかる初歩的な誤りが本件事故原因の一つになつている。

また、被告は、乙第一号証の四の図面<1>(右折手前約一五メートル付近)で右折の合図をした旨主張されているが、仮りにその通りとしても、その合図が遅れたこと(このことは乙第五号証で被告自認)のために、直近に接近していた原告単車には、右合図は全く意味をなさなかつたのである。従つて、右遅れた合図は、原告単車に対しては合図はなされなかつたものと同一である、といわなければならない(同旨判例タイムズ別冊一号75~4一二二頁)。

4 以上のように、本件事故は被告の後方未確認、進路変更禁止義務違反(道交法二六条の二)、右折方法違反(同三四条二項)等の過失により生じたものであり、原告には何ら非難される落度はなく、少なくとも、過失相殺されるような落度はない。

5 以上の事実を、民事交通訴訟における損害賠償額算定基準と過失相殺率等の認定基準(判例タイムズ別冊1号75~4)に照らせば、原告車が単車であること、被告車は合図なしに、予め中央に寄らない早まわりの右折をしたため、後続直進車たる原告車と衝突したこと、等の事実からみて、被告車には九割以上の過失がある。

別紙 計算書

1 労働能力喪失期間及び喪失率

18歳から28歳に達するまでの10年間は70パーセント

28歳から67歳に達するまでの39年間は50パーセントとする。

2 中間利息の控除

新ホフマン式係数による。

3 年収 113万7200円

昭和50年度の賃金センサス第一巻第一表男子労働者学歴計年齢別18歳~19歳の給与額による。

4 計算の便宜上、事故当時原告が18歳に達するまで1年の期間があつたものとする。

以上によつて、原告の逸失利益を算出すると、

(イ) 18歳から28歳に達するまでの10年間

28-17=11 (係数)………………8.590

18-17=1 (係数)………………0.952

8.590-0.952=7.638

1,137,200×0.7×7.638=6,080,153(円)(円未満切捨て)

(ロ) 28歳から67歳に達するまでの39年間

67-17=50 (係数)………………24.701

28-17=11 (係数)………………8.590

24.701-8.590=16.111

1,137,200×0.5×16.111=9,160,714(円)(円未満切捨て)

(ハ) 18歳から67歳に達するまでの49年間

6,080,153+9,160,714=15,240,867(円)

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