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水戸家庭裁判所 平成21年(少)222号 決定 2009年6月16日

少年

A (平成○.○.○生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は,

第1  平成19年2月6日午後10時30分ころ,○○県××市△□□番地○所在のB方において,C(当時16歳)に対し,その右肩及び顔面を数回手挙で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に加療約1週間を要する顔面打撲傷,右肩関節打撲傷の傷害を負わせ,

第2  前記日時・場所において,前記C所有の携帯電話機1台(損害額2万円相当)を両手で二つに折って破損し,もって他人の物を損壊し,

第3  平成20年6月26日午後6時20分ころ,○○県△×市×○町×丁目○番△号所在の株式会社×□店において,同店店長Dが管理する歯ブラシ等6点(税込価格合計4563円)を窃取し

たものである

(法令の適用)

第1の所為につき 刑法204条

第2の所為につき 刑法261条

第3の所為につき 刑法235条

(処遇の理由)

1  本件は,少年が,当時の交際相手であるCと些細なことから口論になった末,Cに腹を立てて,同人に暴行を加えて傷害を負わせるとともに,同人の携帯電話を壊したという傷害(第1の非行),器物損壊(第2の非行),ドラッグストアで歯ブラシ,毛染め液等を万引きしたという窃盗(第3の非行)の各事案である。

2  少年は,平成7年ころに実父母が離婚した後,実母とともに暮らしていたが,実母から虐待を受けるようになり,平成15年8月に,児童相談所に一時保護され,同年9月9日,児童養護施設である××に入所することになった。しかし,少年は,××において,施設職員や教師への反抗的態度,児童への暴力,無断外泊などの問題行動を繰り返したため,平成16年9月27日,児童自立支援施設である○○に措置変更となったが,○○においても,無断外泊,窃盗等の問題行動を繰り返したため,ぐ犯保護事件として立件されるとともに,茨城県××児童相談所長から強制的措置許可の申請がなされ,平成17年2月14日,当庁において,少年を児童自立支援施設に送致するとともに,上記申請を許可する旨の決定がなされた(なお,少年が行った上述の窃盗行為は,その後,2件の窃盗保護事件として立件されたが,いずれも,別件保護中を理由として審判不開始となっている。)。上記決定に基づき,少年は,平成17年3月15日から1年間,△△に入所し,△△を退所した後は,自宅に戻り,実母,養父(なお,養父は,その後,平成19年8月23日,実母と離婚し,平成20年4月7日には,少年とも離縁している。),異父弟と生活していたが,平成18年7月ころに,実母と喧嘩して家出をし,その後,住み込み付きの職場や交際相手・友人らの家を転々としていたが,その中で,同年10月ころ,本件第1及び第2の非行の被害者Cと出会い,一時は同人宅で同棲していたが,同年12月ころに,Cの家族から家を追い出され,2人で家出生活をしている中で,些細なことから口論となり,本件第1及び第2の非行に及んだ。少年は,同非行で通常逮捕され,水戸少年鑑別所での観護措置を経て,平成19年5月2日,当庁において,当庁家庭裁判所調査官の試験観察に付する決定がなされたが,少年は,同月14日に上記調査官と第1回目の面接をした直後に家出をし,以後,当庁からの連絡に一切応じることなく逃走を続けたため,当庁においてぐ犯保護事件として立件され,数回にわたり,緊急同行状が発付されたが,少年は出頭しなかった(上記傷害・器物損壊保護事件,ぐ犯保護事件は,同年12月21日,少年の所在不明を理由に審判不開始となっている。本件第1及び第2の各非行は,少年の所在が判明したことに伴い,上記傷害・器物損壊保護事件が再起されたものである。)。

少年は,上記逃走中,土木作業等の仕事をしながら,交際相手・友人らの家を転々とする生活をしていたが,土木作業等の仕事は長続きせず,所持金に窮するようになり,平成20年6月26日,当時,同居させてもらっていた友人の歓心を買うために,率先して本件第3の非行を敢行した。その後,少年は,同年7月ころから,東京に移転し,ホストクラブの仕事をしていたが,そのうち,手っ取り早く大金を稼ぐために,ゲイバー,アダルトビデオへの出演,同性専門の風俗店で稼動するようになり,同所で同性相手に性的サービスを提供する仕事を行いながら,同年8月ころからは,風俗店で働く女性の下で同棲生活を送っていた。少年は,その間,本件第3の非行につき,茨城県×△警察署から再三の呼出しを受けながら,これらに応じなかったため,平成21年5月19日に,通常逮捕され,その後,水戸少年鑑別所での観護措置を経て現在に至っている。

このように,少年が,過去に,児童養護施設,児童自立支援施設に入所するも,同所で無断外泊,窃盗等といった問題行動を繰り返し,その後,強制的措置を許可され,△△に入所し,△△で指導・教育を受けたにもかかわらず,△△を退所後に再び家出し,その後も,徒遊生活を続ける中,再非行を犯し,逮捕・観護措置を経て,当庁において,試験観察の決定を受けたにもかかわらず,ほどなくして逃走し,その後,さらに再非行を犯し,警察から再三の呼出しを受けながら,約1年近くにわたり,これらに応じようとしなかったことなどからすれば,少年は,規範意識に欠け,社会のルールを遵守する姿勢に乏しいことは明らかである。本件各非行は,些細な口論から生じた当時の交際相手への傷害及び器物損壊,並びに,ドラッグストアでの万引きといった比較的軽微なものであり,また,少年には,平成20年6月の本件第3の非行から現在まで,再非行は見当たらないが,上述したように,少年が法律や社会のルールといった枠組みに従おうとせず,地道に働く代わりに,同性相手の風俗業といった仕事で手っ取り早く大金を稼ごうとする姿勢には大きな問題があるし,少年は,このような仕事を始めてから,ますます自己嫌悪に陥り,逆流性食道炎を患うようになるとともに,自傷行為にも及び,日々のストレスをパチスロで解消しようとするなど,その生活は行き詰まりかけていたもので,将来的に,少年の生活が破綻することで,少年が窃盗等といった再非行に及ぶおそれは大きいものというべきである。そうすると,少年の非行性は,前回の審判時に比して,より深刻化しているというべきで,少年の抱える問題は根深く,その要保護性は大きい。

3  次に,少年の性格・行動傾向について検討すると,鑑別結果・調査結果によると,少年は,不遇な養育環境を背景に,自己イメージが悪く,対人不信感が根強いとともに,根気や忍耐力,責任感に乏しい。そのため,少年は,困難が予想されることは,例えその必要があっても避けようとする一方で,手っ取り早く成果が出せそうなことには,後先を考えることなく飛び付いてしまい,事の善し悪しを考えずに,派手なものや格好の良いもの,金回りの良いものなど目先の利益につられてしまうため,軽率に行動しては失敗しやすい。本件においても,少年は,実母と適当な関係を築くことができなかったために,△△を退所した後や,試験観察の決定を受けた後であっても,家出を繰り返し,一時は,土木作業員としての稼動を目指すも長続きせず,本件各非行を犯す一方で,交際相手を次々に替えては,交際相手や友人らの家を転々とする生活を送った挙げ句,結局,同性相手の風俗業で生活費を稼ぎながら,風俗店で働く女性の下に転がり込んで同棲するという生活に行き着いたもので,上述した少年の性格・行動傾向が顕れている。このような生活が早晩破綻を来すのは明らかであり,少年の資質を矯正して,内面の成長を促し,健全な生活を送れるように指導しない限り,少年がますます健全な生活からかけ離れていくおそれは大きい。少年の抱える資質上の問題は根深く,専門家による強力な関与が必要である。

4  最後に,少年の保護環境等について検討すると,少年の母は,少年の受け入れ自体に消極的であるし,そもそも,過去,少年に対して虐待を行ったことで,少年が児童養護施設に入所することになった経緯があり,また,少年が△△を退所した後や当庁の試験観察の決定を受けた後であっても少年と適当な関係を築くことができず,いずれも少年が家出するに至っていること,さらには,現在においても,審判期日における母の発言から,少年と母との間には未だ強いわだかまりが残っていることが窺われることなどに照らすと,少年の母に,少年に対する適切な監護を期待することは極めて困難である。他の適当な社会資源も見当たらず,上述した大きな問題を抱える少年を社会内処遇で更生させることは著しく困難であるといわざるを得ない。

なお,終局決定前に,在宅ないし身柄委託付での試験観察の機会を設けることを検討するも,前回の審判後,少年が第1回目の当庁家庭裁判所調査官との面接を最後に逃走するとともに,その後,本件第3の非行につき,警察からの度重なる呼出しにも応じようとしなかったという経緯や,基本的に忍耐力に乏しく辛いことからすぐに逃げ出してしまうという少年の資質,及び,試験観察に付された前回の審判に比べて要保護性が高まっているという少年の現在の状況などを考慮すると,少年にかかる機会を付すことで,非行性のより一層の進行をもたらすおそれさえあり,かかる中間処分を下すことは適切ではない。

5  以上を前提に処分を検討するに,本件各非行それ自体をみれば比較的軽微といえるものの,少年のこれまでの生育歴,資質上の問題,健全な生活とはかけ離れた現在の生活状況,それに伴う再非行のおそれ,保護環境等を総合考慮すれば,少年の抱える問題は根深く,深刻であり,その要保護性は大きく,かかる少年を社会内処遇で更生させることは困難かつ不適当というほかない。少年を,中等少年院に収容して,矯正教育を施すことで,基本的な生活習慣や,職員との関わりを通じて,適切な対人関係の持ち方を身に付けさせるとともに,先の見通しをもって行動できるように指導すると同時に,健全な枠組みで生活できるよう,職業補導や資格取得を通じて,自信や忍耐力,責任感を身に付けさせるとともに,性格の矯正を図り,規範意識や健全な価値観を涵養することが相当である。

よって,少年を中等少年院に送致することとし,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定するとともに,別途,保護観察所長に対して,少年の仮退院後の社会内処遇を円滑に行うため,環境調整命令を発することとする。

(裁判官 髙見進太郎)

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