大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸家庭裁判所 昭和46年(家)613号・昭46年(家)612号 審判

〔主文〕本件申立は、いずれもこれを却下する。

〔理由〕申立人は、「相手方今福辰男、米津晃を推定相続人たる地位より排除する。」旨の審判を求め、その理由の要旨とするところは、次のとおりである。<略>

よつて、以下申立理由の有無について判断する。

一 本件記録中の戸籍謄本二通によると、相手方辰男は申立人とその妻亡もとの四男、相手方米津は同二男である事実を認めることができるから、相手方等は、いずれも被相続人たる申立人の推定相続人の地位にあることは明らかである。

二 そこで、相手方両名に対する推定相続人廃除の事由の有無について考えるに、

(1) 本件記録中の診断書三通及び家庭裁判所調査官の事件調査報告書によると、

(イ) 申立人は、予ねてから革新的立場にあつたものであるが、昭和四五年二月二八日午後五時三〇分頃当時の申立人の住所地(相手方辰男の住所地)において部落の婦人部の者二名が保守派に属する県議会議員候補者松野太郎後援会加入者の署名を求めて来た時、相手方辰男の妻トキ子がこれに署名したところ、右婦人部の者に対して米の生産調整の問題を捉えて難詰し、これを咎めた右トキ子に襯衣を投げつけるようなことをして争いとなり、たまたま家に入つて来た相手方辰男と口論をなし同人が湯呑茶碗を床に叩きつけたうえ申立人の襟首を握んで突き飛ばしたため、申立人は一時付近の今福重造方に難を避けたが、同日午後八時頃迎いを受けて帰宅したところ、再び相手方辰男に押えつけられ、かつ相手方米津に頭部を殴打される等の暴行を受け、よつて加療約九日間を要する前頭部打撲傷を蒙つたこと

(ロ) 申立人は、同年四月一〇日の夜部落の○○から自転車に乗つて帰宅しようとしたところ、その場に来合わせた相手方等から「今迄何処に行つていたのか」等と詰問されたため、それより今福重造方に赴いて話し合い、その後三男文男の妻の姉の嫁ぎ先である大洗町の松本康明方に宿泊するに至つたこと

(ハ) 翌一一日午後七時頃申立人は、帰宅すべく右文男に送られて相手方辰男方に赴き、苗代の種蒔きのことを話し出したが、相手方等が取り合わなかつたため外へ出たところ、追いかけて来た相手方等から今福重造方に同行を求められて同人方に赴いたが、その際右辰男等から後記土地の所有権移転登記の抹消につき詰問されたうえ殴打等の暴行を受けたが、文男の連絡によつて駆けつけた警官によつて制止されたこと

(ニ) 同月二四日申立人は、右文男とともに農機具を引き取るべき相手方辰男方に赴いたが、これを格納していた納屋の鍵が取り替えてあつたため、そのまま立ち帰つたこと

(ホ) 申立人は、更に同年八月一二日帰宅すべく相手方辰男宅に赴くも、相手方等に拒れた挙句大洗町に送つてやるとして自動車に乗せられたが、途中申立人の「大洗の警察へ行こう」との言によつて大洗町警部派出所に赴いたけれども、取り合つて貰えなかつたため、更に右辰男方に赴いたが、トキ子によつて家に入ることを阻止されていた折柄、たまたまその際帰宅した相手方辰男に顔面頭部を殴打する等の暴行を受け、よつて左肩、両前膊挫傷等加療約一週間を要する傷害を蒙つたこと

(ヘ) 申立人は、同年一〇月三一日頃前記松本康明方から肩書住所地に移転して現在に至つた

事実を認めることができる。前示事件調査報告書の申立人の陳述中右認定に反する部分は前示疎明に照らして措信できず、他にこれを動かすに足る疎明は存しない。

(2) 他方、前示事件調査報告書、土地証明書、評価証明書及び当庁昭和四六年家(イ)第八〇号損害賠償申立事件記録によると、

(イ) 申立人は、肩書本籍地において水田等約一九、八三四平方米(約二町歩)の耕作に従事し、妻もととの間に相手方両名及び前示文男のほか、長男庄一、長女みわ、二女ひろ子(死亡)三女信子をもうけ、右もとが昭和二〇年四月二八日死亡したので同二二年頃妻なつを迎えた(届出は同三七年一月一六日)が、元来気分が変り易く持続性に欠け、短気粗暴で金銭的に細く、頑固で協調心に乏しく、家族に対する思い遣りに欠ける等の傾向にあつたほか、当裁判所に対し同二七年辰男を相手方として推定相続人廃除(同年家(イ)第三八二号事件)、同三一年文男を相手方として推定相続人廃除(同年家(イ)第三七八号事件)、同四五年なつを相手方とする夫婦関係調整(同年家(イ)第三四二号事件)、辰男を相手方とする家屋明渡(同第三三九九号事件)、文男を相手方とする衣類等返還(同第三四〇号事件)、文男ほか二名を相手方とする損害賠償(同四六年家(イ)第八〇号事件、もつとも右事件は水戸地方裁判所において当裁判所の調停に付されたものである。)を申し立てた事実等によつても明らかなとおり好訴性にも富んでいたところから、子等も快く思わず、ともに農業に従事していた長男庄一、次いで三男文男も申立人の許を去り、その余の子等も結婚或いは独立し、妻なつもまた同三八年一二月二三日頃から別居したため、その後妻子から全く孤立した状態となつたこと

(ロ) 老齢に達した申立人が独り農業に従事しているのを見兼ねた相手方辰男は、同四四年四月頃兄姉等の参集を求め申立人の後を継いで農業に従事するとともに申立人の老後の面倒をみるものを選ぶべく話し合つたが、結論をみるに至らなかつたところ、申立人の希望により相手方辰男が申立人の後継者となりその老後の面倒をみることに定つたこと

(ハ) そこで、相手方辰男は、同年五月下旬頃長年勤めた○○交通株式会社を退職して肩書住所地に戻り申立人と同居して農業に従事し、円満な家庭生活を営んでいたが、申立人もこれを多とし、かつは老後の扶養のこと等を考えて同年七月頃相手方辰男及びその妻トキ子に対しその所有にかかる水田約一一、六〇三平方米(約一町一反一畝)を贈与し、その頃その登記手続をなしたこと

(ニ) ところが、同四五年二月二八日の前示紛争を契機として申立人は、相手方辰男等に対し贈与した土地の返還を要求し、同年三月一二日頃には強引にトキ子から相手方辰男等の実印を交付させ、その後言葉巧みに右土地の権利証の交付を受け、同月一九日これを利用して相手方辰男等の右土地取得登記の抹消登記手続をなし、(以上の事実は、水戸地方裁判所昭和四五年(ワ)第一〇九号事件の審理を通じて、当裁判所に顕著な事実である。)次いで同年四月頃種籾全部を搬出して右辰男を困惑させ、同年七月頃には夜間数人の者とともに申立人の衣類、家財道具を搬出したほか、同年九月頃文男に対し相手方辰男の居住する建物及びその敷地の登記名義を移転したこと

(オ) 相手方辰男は、申立人の反省を期待し、同人の老後の扶養を期している事実を肯認することができる。

(3) およそ、子たる者が親に対し暴行等をなすが如きことは厳に慎しむべきことではあるが、以上に認定した事実関係によると、相手方両名の昭和四五年二月二八日の暴行傷害は、一時的な所為というべきものであつて、その原因は申立人が作出し、しかもその性格等に負うところ大であり、また相手方等のその後の暴行傷害等の所為も、申立人の贈与した登記の抹消、種籾を搬出して自らその営む農業の後継者と定めた相手方辰男の農業を妨害したこと等に原因すると認めるのが相当であるばかりでなく、相手方辰男は、申立人の反省を期待し老後の扶養を期しているのであるから、申立人の現在の状態そのものには同情すべきものがあるけれども、相手方両名の前示所為は、民法第八九二条にいうところの「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき」に該らないのはもとより、申立人の主張するが如く、相手方辰男が申立人の後継者となつたのは申立人の財産乗つ取りのため仕組んだ陰謀とも認められず、他に相手方等の推定相続人たる地位を排除するに足る事実も認められない。

以上の次第であるから、申立人の本件申立は、失当として棄却することとし、主文のとおり審判する。 (長久保武)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!