水戸家庭裁判所土浦支部 平成4年(家)236号 審判 1992年9月22日
申立人 松本充子
事件本人 呂慶華
主文
申立人が事件本人を養子とすることを許可する。
理由
まず、本件は、日本人である養親となるべき申立人が中国人を養子とすることの許可の審判を求める渉外養子縁組事件であるので、我が国に本件についての国際裁判管轄権が認められるか、当裁判所に国内土地管轄があるかについて付言する。本件記録によると、養親となる申立人は、日本に住所を有するものであるが、養子となるべき者は、短期滞在の許可を得て日本に居住する者で、最後に日本に入国した平成4年5月15日以前の約1か月は本国(台湾省)で生活していたものであり、その住所は本国にあり、日本には居所を有するに過ぎない。しかし、法例20条は養子縁組について多くの立法例と同様養親の本国法を準拠法としており、この本国との密接な関連性からすると、その法の解釈適用を行う法廷も右の本国とするのが妥当であるというべきであるから、養親となるべき者の本国で住所地でもある我が国に国際裁判管轄権があるというべきである。そして、国内土地管轄は家事審判規則63条により養子となるべき者の住所地であるところ、本件の養子となるべき者は日本に住所がないものの、居所は当裁判所の管内であるので、非訟事件手続法2条1項により当裁判所に土地管轄がある。
次に、本件養子縁組については、法例20条1項前段により養親の本国法である日本の法律が適用されるところ、本件の養子となる者は成年者であるので、我が民法上は家庭裁判所の許可は要しないのである。しかし、同条1項後段は、養子の本国法が養子縁組の成立につき公の機関の許可等を要件とするときは、その要件をも備えることを要する旨、いわゆる保護要件を定めているところ、本件の養子となるべき者の本国法である中華民国民法は、養子縁組をするときは法院の認可を得なければならないと定めており、同法は、右の認可に際しては、縁組の無効又は取消原因の有無、縁組が養子に不利であると認められる事実の有無等を判断することになっている。そこで、右法院の認可は、公の機関が後見的作用として事前に養子縁組の実質的成立要件について判断して処分を行うものであり、いわゆる保護要件に該当し、我が国の家庭裁判所が未成年者の養子縁組について許可の審判を行う場合と実質を同じくするものというべきであるから、我が国の家庭裁判所の許可の審判をもってこれに代えることができるものと解される。そこで、検討するに、本件記録によると、本件養子縁組については、中華民国民法が右の認可をしてはならないとしている事由はないものと認められるので、本件養子縁組を許可するのが相当である。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 福嶋登)
〔参考〕 中華民国民法
第1079条 養子縁組は、書面をもつて、これを行わなければならない。ただし、養子となる者が7歳未満であり、かつ、法定代理人がないときは、この限りでない。
<2> 7歳未満の未成年者が養子となるときは、法定代理人が、これに代わつて意思表示をし、かつ、意思表示を受ける。ただし、法定代理人がないときは、この限りでない。
<3> 満7歳以上の未成年者が養子となるときは、法定代理人の同意を得なければならない。ただし、法定代理人がないときは、この限りでない。
<4> 養子縁組をするときは、法院に認可を申し立てなければならない。
<5> 縁組が次に掲げる場合の1に該当するときは、法院は、認可してはならない。
1 縁組に無効又は取消しの原因があるとき。
2 縁組が養子に不利であると認めるに足りる事実があるとき。
3 成年者が養子となる場合において、その事情により、縁組がその実父母に不利であると認めるに足りるとき。