水戸家庭裁判所土浦支部 昭和54年(少)537号 決定 1979年4月27日
少年 K・M(昭三六・七・二四生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
押収してある玩具拳銃一丁(昭和五四年押第七一号の一)を没取する。
理由
(非行事実)
少年は、
1 金員を強取しようと決意し、昭和五四年三月二三日午後一時ころ、札幌市○○区○○○○×丁目株式会社「○○○」において、玩具拳銃一丁(昭和五四年押第七一号の一)を買い求め、これを携帯して同日午後三時ころ、同市○区○○○○町×丁目○○○○郵便局に赴き、金員強取の機会をうかがい、もつて強盗の予備をなし、
2 同月二一日午前四時ころ、茨城県土浦市○町×丁目×番×号トルコ「○○○○」において、A所有又は管理にかかる現金約一〇万九八〇円、腕時計一個(時価約八万円相当)、スーツ上着二着(時価約七万円相当)、真珠四点セット一組(時価約二万円相当)、カフス三点セット一組(時価約三、〇〇〇円相当)、カフス三個(時価約一万六、〇〇〇円相当)、ネクタイ一本(時価約五、〇〇〇円相当)、下着一枚(時価約五〇〇円相当)、オープンシャツ一枚(時価約三、〇〇〇円相当)、目覚時計一個(時価約五〇〇円相当)、ワイシャツ一枚(時価約三、〇〇〇円相当)、ライターケース一個(時価約一〇〇円相当)を窃取し、
3 同月二六日午前三時ころから四時ころまでの間、札幌市○○区○○○○×丁目○○ビル内トルコ「○○」において、B所有のライター三個(時価約三〇〇円相当)を窃取し
たものである。
(適用した法令)
1の事実につき 刑法二三七条
2、3の事実につき 同法二三五条
没取につき 少年法二四条の二、一項二号、二項
(保護処分に付した理由)
1 少年の基本的問題点は、広い視野に立つて常識的、堅実なものの考え方や行動ができず、非現実的な夢を追つて突拍子もない言動を示し、また自分勝手で些細なことから簡単に転職を繰り返したり、家を飛び出したりし、他方で格好をひどく気にしてほらを吹いたり、嘘をついたりする傾向である。このような性格、行動傾向は、少年自身の低い知能(IQ=七三、偏差値二七、新制田中B式第一形式、限界域)及び家庭環境の劣悪さ、小学校時度重る父の転職に伴いしばしば転校し、生計維持のため飲屋勤めに出た母は大酒飲みで、父母の間でいさかいが絶えず、母は昭和五一年二月家出して以後行方が分らないなどの事情から、基本的なしつけ、教育が十分なされなかつた。)によるところが大きいと思われるが、中学校卒業直後就職したパン屋を約三か月でやめ、以後パチンコ店店員、プレス工、大工見習、キャバレー従業員、土工、トルコ風呂従業員などの職をごく短期間で転々とし、多少まとまつた金が入ると、トルコやクラブなどで遊興したり、それを持つて放浪の旅に出るといつた不安定かつ気ままな生活を送つて来、そのようなことから堅実で規則正しい生活習慣が身につかず、遊び中心で放恣な生活態度を身につけて来ていることもまた無視できない。本件各非行もこのような問題点を背景にし、それまで勤めていた土浦市のトルコ風呂で自分の年齢が経営者に分つてしまつてそこをやめる際に現金や物品を盗み出し(2の事実)、それをもとに京都へ行つてホテルに泊つたのち北海道に渡り、ホテルに宿泊して遊び回り、所持金がなくなつたので強盗を思い立ち、付近で玩具拳銃を買い求めたうえ郵便局まで赴いて金員強取の機会をうかがつたり(1の事実)、札幌市内で偽名を使つて就職したトルコ風呂で就職後間もなく盗みをしたり(3の事実)している。各非行を仔細に見ると、いともたやすく盗みや強盗の予備に及び、その手口も大胆で、あまり罪の意識を持つていたとは感じられず、以前にも親類方からかなり多額の年金証書を持ち出して単身北海道へ遊びに行つたこともあり、少年の盗癖及び放浪癖は拡大固着しつつあり、このまま少年を放置するならば、その性格環境に照らして将来非行を繰り返すおそれは強い。
2 少年は昭和五三年三月二九日、当庁において、現金六万円の忍び込み窃盗により観護措置を経たうえ不処分決定を受けたが、その際の調査、審判の過程で少年の問題点はほぼ網羅的に指摘されており、矯正についての指導もなされたのに、その後も前記のような不安定かつ気ままな生活に終始して本件各非行に及んだものであつて、本件についても観護措置を経て審判に至るまで、自己の抱える問題点とその更生につき表面的な反省を示すに止まり、真摯な更生意欲と改善のための内省の深まりは窺われず、前記のような少年の問題点、ことに限界域の知能、職業観の貧しさ、放浪癖並びに盗癖、劣悪な家庭環境(少年の父は、父子家庭の現状を維持するのに精一杯で、少年の度重る非行に当惑し切つており、少年自身も家族の者らからひどい扱いを受けているものと感じ、家庭への帰属感を持てないでいる。)等に照らすと、少年の問題点の改善のためには、少年を一定期間少年院に収容し、自己の問題点につきじつくり考えさせて更生意欲を引き出し、併せて規則正しい生活訓練、職業訓練を通して崩れた生活態度を建て直し、堅実な生活観、職業観に基づいて広い視野に立つて主体的に着実な生活を粘り強く送れるように教育、訓練を施す必要がある。
3 少年の前記のような問題点、ことに自己の非行についてもケロリとしていて内省の兆しがあまり窺われないことなどからみると、かなり内省の深まりにくい少年とも考えられ、その非行性の除去のためには相当の期間を要することも予測されないではないが、少年は本件が二度目の係属であり、これまで十分な教育を受けることなく放任されて育つて来たこと、年齢も比較的若年であることなどを考えると、この際中等少年院での一般短期の処遇に期待し、短期間に集中的な教育を施すことが相当と判断した。
4 よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三号により、主文のとおり決定する。
(裁判官 山下満)