大判例

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水戸家庭裁判所日立支部 平成9年(家)2300号

主文

本件申立てを却下する。

理由

第一申立ての趣旨

申立人の氏「松永」を父の氏「本田」に変更することの許可を求める。

第二申立ての実情

申立人法定代理人親権者父本田泰央(昭和29年6月17日生、以下「泰央」という。)と松永直子(昭和32年4月11日生、以下「直子」という。)は、平成2年10月29日に婚姻し、平成4年10月20日に長男である申立人をもうけたが、平成7年12月26日、申立人の親権者を直子と定めて協議離婚した。

ところが、直子は、平成9年1月22日に死亡した。

このため、申立人は、直子の兄であり、申立人にとって母方の伯父にあたる松永和秀(以下「松永」という。)に引き取られ、監護教育されている。

そこで、泰央は、同月28日、当裁判所に対し、申立人の親権者を亡直子から泰央へ変更する旨の審判を申し立てた(当裁判所平成9年(家)第××号親権者変更申立事件、以下「別件親権者変更申立事件」という。)。

これに対して、当裁判所は、同年9月1日、別件親権者変更申立事件について、申立人の監護者を参加人である松永と定めて、申立人の親権者を亡直子から泰央へ変更する旨の審判をした(以下「別件親権者変更審判」という。)。

よって、泰央は、申立人の氏「松永」を父の氏「本田」に変更することの許可を求める。

第三当裁判所の判断

一  本件に至るまでの事実経過(当裁判所に明らかである。)及び本件の事実関係(一件記録により認められる。)

1  泰央と直子は、平成2年10月29日に婚姻し、平成4年10月20日に長男である申立人をもうけたが、平成7年12月26日、申立人の親権者を直子と定めて協議離婚した。

ところが、直子は、平成9年1月22日に死亡した。

このため、申立人は、直子の兄であり、申立人にとって母方の伯父にあたる松永に引き取られ、監護養育されている。

2  そこで、泰央は、平成9年1月28日、当裁判所に対し、別件親権者変更申立事件を申し立てた。

3  他方、松永は、平成9年4月9日、当裁判所に対し、自らを候補者として、申立人につき後見人の選任を求める旨の審判を申し立てた(当裁判所平成9年(家)第××号後見人選任申立事件、以下「別件後見人選任申立事件」という。)。

4  このため、当裁判所は、別件親権者変更申立事件及び別件後見人選任申立事件について、家庭裁判所調査官に包括調査を命じた上、審理した。

そして、当裁判所は、平成9年9月1日、別件親権者変更申立事件について、別件親権者変更審判をする一方、別件後見人選任申立事件について、これを却下する旨の審判(以下「別件却下審判」という。)をした。

5  当裁判所が別件親権者変更申立事件及び別件後見人選任申立事件について上記4のような審判をした理由の要点は、次のとおりである。

すなわち、申立人については、単独親権者である直子の死亡により後見が開始した状態となったが、このような場合、親権者の変更によって申立人の福祉・幸福を図ることも許される。

そして、直子が交通事故で死亡したことに伴い、多額の死亡保険金や退職金等の問題が残されているが、泰央と松永は、いずれもこれらの金員を申立人名義の預貯金で積み立て、将来、申立人のために使用することを約束しているので、前記各事件は、いずれも財産取得の目的に出たものとは認めがたく、むしろ、いずれも申立人に対する愛情から申し立てられたものと認められる。

そうすると、結局、申立人の監護養育を泰央と松永のいずれに委ねるのがその福祉・幸福に適するかを総合考慮すべきである。

ところで、そもそも未成年者の後見制度は、親権の補充的な役割を果たすべきもので、離婚時に単独親権者を定めるのは親権行使の便宜的措置にすぎないところ、泰央は、申立人にとって唯一の実親であるから、申立人は、本来泰央のもとで監護養育されるのが自然というべきである。

そして、泰央が直子と離婚した後も申立人の養育費を負担するとともに、申立人と一定の交渉をもち続けていることに加え、申立人は泰央に対しても好意を抱いていること等を考え併せると、泰央を申立人の親権者とすることについて、不適格ないし不適切な点は認められない。

しかしながら、現状における未成年者の生活環境としては、泰央方よりも松永方の方がやや勝っているというべきであり、また、申立人の生育歴や現状に照らすと、申立人をよく慣れた松永方から不慣れな泰央方へ直ちに移すことになれば、申立人に対して少なからず精神的動揺を与えることが懸念される。

そうすると、将来的には申立人を松永方から泰央方へ移すことが自然であるとしても、当面の間は松永が申立人を監護養育し、その間に泰央において申立人との交流を深め、自然な形で同居に至るというのが最も申立人の福祉・幸福に適するというべきである。

6  泰央方及び松永方の現在の生活状況は、別件親権者変更申立事件及び別件後見人選任申立事件について、家庭裁判所調査官が調査を行った当時と変わっていない。ただ、申立人は、以前、夜に泣くなど精神的な動揺を見せていたが、最近は落ち着いている。

7  泰央が本件申立てをした具体的な理由は、泰央と申立人は親子でありながら氏を異にするのは社会通念上不自然であり、申立人と今後さらに交流を深めていくためには、泰央と申立人の氏を一致させる必要があり、このことは申立人の福祉・幸福に適するというものである。

そして、泰央は、当裁判所が別件親権者変更審判及び別件却下審判をして以降、松永に対し、内容証明郵便や電話等により、申立人の現在の状況を知らせてほしいこと等の具体的な要望を伝えているが、松永は、正式な回答をしていない段階にある。

8  他方、松永は、申立人を監護養育する上で支障になるという理由により、本件申立てに反対している。もっとも、泰央が今後さらに申立人との交流を深めていくこと自体については同意しており、申立人に動揺を与えないよう、泰央が段階的に申立人との交流を深めていくことを希望している。

二  具体的な検討

以上一の各事実に基づき具体的に検討する。

1  まず、泰央が主張するとおり、一般論としては、親子でありながら氏を異にするのは社会通念上不自然というべきであろうけれども、現行法上及び社会生活上、親子であっても氏を異にする場合はあり得るのであって、上記主張が絶対的なものであるとは言い難い。

2  また、泰央は、申立人と今後さらに交流を深めていくためには、泰央と申立人の氏を一致させる必要があり、このことは申立人の福祉・幸福に適する旨主張するけれども、泰央と申立人とが今後さらに交流を深めていくためには、申立人の精神面に一定の配慮をしながら、面接交渉を中心とした具体的な交流をいかに図っていくかを考えるべきであって、このことは申立人の氏如何と直接結び付くものとは言い難い。

むしろ、当裁判所は、前記一の5のとおりの理由により、監護者を松永と定めて別件親権者変更審判及び別件却下審判をしたものである上、前記一の6のとおり、その後も大きな事情の変化は認められないから、当面は監護者である松永の立場を尊重して、申立人の氏を変更しないことが相当である。

三  結論

以上によれば、本件申立てについては却下するのが相当であるから、主文のとおり審判する。

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