津地方裁判所 平成10年(行ウ)33号 判決 2003年4月24日
原告
X1
(ほか3名)
原告ら訴訟代理人弁護士
石坂俊雄
同
村田正人
同
伊藤誠基
同
福井正明
被告
(御浜町長) 奥西清
同
(御浜町収入役) Y1
被告ら訴訟代理人弁護士
楠井嘉行
同
北薗太
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 本件貸付の経緯等
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) パーク七里御浜設立の経緯
ア 御浜町は三重県の南端部の東紀州地域に位置し、大阪、名古屋まで自動車・JR東海紀勢本線でそれぞれ4時間を要する距離にある。従来柑橘類の生産を中心とする農林水産業を基幹事業としていたが、農林水産業などの沈滞とこれによる過疎化が著しく進行しており、昭和33年当時約1万4000人であった人口は昭和59年には約1万人と域少し、昭和46年には三重県から準過疎地域に指定され、平成2年4月1日には過疎地域活性化特別措置法による過疎地域に指定されている。
このような状況にあって、御浜町は、昭和58年ころから阿田和中学校の移転に伴う跡地(御浜町所有地)の利用について、同町が熊野市と新宮市の商業の中間にあり購買客が流出していること等に鑑み、御浜町の商業の振興と活性化に資する有効利用の方策を検討することとした。
イ 阿田和中学校跡地利用について、御浜町がアジア航測株式会社に委託した調査や、御浜町商工会が三重県の補助事業で実施した御浜町商業近代化対策調査事業の結果を基に、御浜町は、昭和59年7月に御浜町長、助役、収入役、町議会議員、三重御浜農業協同組合組合長、御浜町商工会会長等を委員とする御浜町阿田和駅前開発協議会を設置した。この協議会は、商業の集積、地場産業の育成、観光開発等を目標とする開発を検討し、御浜町はその提言に基づいてコクド鑑定調査株式会社に開発事業の計画策定を委託した。
同社は、三重大学人文学部教授Aを代表とするプロジェクトチームを組織して調査研究を行い、昭和59年12月、阿田和中学校跡地利用基本計画報告書を提出した。さらに、昭和60年11月には、この基本計画に基づく阿田和中学校跡地利用実施計画報告書が提出された。これに伴い、御浜町でも町議会全員協議会において事業に関する討議が繰り返された。
これらの計画の内容は次のとおりである。
事業は、(ア)商業振興として地元商業の活性化を図るためのショッピングセンター建設、(イ)観光振興のため、日本百選、白砂青松百選に指定されている七里御浜海岸を中心とする海浜レクリエーション施設の創出、観光センター、リゾート型ビジネスホテル、みかん博物館の建設、(ウ)広域的視点に立った地場産業振興センターの建設、(エ)地域住民のコミュニティ活動の場として中央公民館(総合文化センター)の建設を内容とする。
開発主本は第三セクター方式によることとし、第三セクターが土地を御浜町から買い受けて所有し、原則として建物施設を建設所有し、テナント方式で運営するが、ショッピングセンターの協同店舗部分は建物施設のみ協同組合に譲渡し、第三セクターとの区分所有とする。そして、この第三セクターは主にショッピングセンター部門と観光部門につき、テナントの管理業務及び建物施設の維持管理、運営業務を行う。資本の形態は、御浜町及び民間の出資とし、御浜町は株式の過半数を所有する。
総事業費は26億5273万5000円とし、資金調達計画は、資本金3000万円、組合施設売却収入3億4408万円、建設協力金収入(預かり保証金)8億1059万円による自己資本金合計11億8467万円と、借入金14億7000万円の合計26億5467万円を予定する。
ウ なお、パーク七里御浜設立後昭和62年12月に作成されたパーク七里御浜施設運営計画書は、用地取得、整備費用の増額、ホテル・レストラン棟の規模拡大と建築単価の上昇から施設建設事業費は総額35億4000万円とし、借入金25億2300万円、預かり保証金6億2300万円、売却収入2億2800万円、資本金1億2000万円、分担金4600万円をもって資金調達を行うこととした。
(2) パーク七里御浜の設立及び事業の運営
ア パーク七里御浜は、御浜町長を代表取締役とし、第三セクター方式で昭和61年5月28日に設立された。設立の際の資本金は3000万円で、会社が発行する株式の総数は2400株、発行済み株式の総数は600株であり、御浜町は1530万円を出資し、株式306株(出資比率51パーセント)を取得した。他の出資者は三重御浜農業協同組合、浦島観光株式会社、株式会社御浜窯、御浜町商工会、三重交通株式会社、熊野交通株式会社、株式会社第三相互銀行、株式会社百五銀行、近畿日本鉄道株式会社等であるが、いずれもその出資額は設立当時200万円以下であった。その後、平成2年1月26日に三重県が1200万円の出資をするなどの増資がされて、同年4月21日にはパーク七里御浜の資本金は1億6200万円となった。同社の経営管理・運営も御浜町主導で行われた。
イ ショッピングセンター、観光センター、地場産業振興センターは、昭和63年6月30日に建設を完了したが、ホテル、レストランについては、テナントが決まらず、建設を中断した。
こうして、パーク七里御浜は、施設建設総投資額31億5600万円余を費やして、昭和63年7月15日にショッピングセンター、観光センター、地場産業振興センターを擁する施設を開設した。地場産業振興センターは、御浜窯(地場陶芸品)等の地場産品を展示即売するとともに、その加工工程を見せる実演工房と来店客自らが制作する体験工房を設置したものであり、総てパーク七里御浜の直営である。ショッピングセンターには地元商業者による協同店舗15店が参加し、核テナントとして従来から同地区にあったスーパーオークワが入ったが、12店の一般テナントのうち6店舗については家賃が高い等の問題で入店者が見つからず、パーク七里御浜の直営店舗とされた。観光センターについてもレストランが核テナントとして入店したが、一般テナント12店のうち4店舗は入店者が決まらず、直営店舗として開業した。
ウ この施設計画は、折からの国、県の推進するリゾート開発計画の動向に応じたものであり、昭和62年6月4日、この施設は建設省から御浜町七里御浜海岸(阿田和町)コースタル・コミュニティ・ゾーン整備計画の中核施設に認定された。また、三重県は昭和58年第2次三重県長期総合計画において、東紀州地域を「サンベルト地域」として位置づけ、国民的、国際的な休養、保養基地として整備を図るとしており、昭和63年7月9日に御浜町は総合保養地域整備法に基づき、三重県が実施する国際リゾート開発としての三重サンベルト構想の特定地域構成市町村に指定され、御浜町の一部が重点整備地区に指定され、この施設は特定民間施設に指定された。これらの整備計画等に基づいて、建設省、三重県及び御浜町により、海岸高潮対策事業、交通安全施設整備事業、海岸環境整備事業、社会教育施設整備事業(中央公民館の建設)、自然遊歩道整備事業等が順次進められている。
エ パーク七里御浜の従業員は、平成元年3月31日時点で46名で、平成元年度のショッピングセンターでの集客人員が92万9000人、売上額が15億3500万円で、観光センターの集客人員が23万3000人、売上額が3億2500万円、入り込み団体バスが3631台となっており、平成2年度(第5期)ショッピングセンターの集客人員が95万7267人、売上額が15億8200万円、観光センターの集客人員が18万3900人、売上額が2億8900万円、入り込み団体バスが3693台となっていた。
パーク七里御浜のテナント等における事業者及び従業員数は、平成6年9月1日時点で約200名であり、うち約110名が御浜町居住者となっており、御浜町における大きな雇用の場となっている。
(3) パーク七里御浜の経営悪化等
ア 合計10店舗が直営店となったことによる家賃収入の減収や設備投資、ホテル・レストラン棟の建設が中断されたことによる工事進行分の投資額・家賃収入の減収、町主導型であることによる経営の経験不足や人事管理の不手際等の要因での直営店の赤字経営、不採算部門である地場産業振興センターの負担等のため、開設まもなくパーク七里御浜は経営状態が悪化した。
イ そこで、パーク七里御浜は、平成元年5月に三重県に対し中小企業経営活性化指導を依頼し、同年11月に診断勧告を受けた。
ウ また、御浜町は、平成元年2月28日及び同年3月1日に、パーク七里御浜が同日付けで施設建設資金を借り入れた借入先である株式会社日本興業銀行ほか25行の銀行と三重県信用農業協同組合連合会ほか一連合会に対し、元本合計13億1000万円につき、損失補償契約を締結した。
(4) 第1次経営改善計画について
ア 三重県の経営診断結果を受けて、パーク七里御浜は御浜町商工会事務局長、御浜町商業協同組合関係者、テナント関係者等からなる経営改善計画策定幹事会を設置し、関係者の協力が得られなかった場合の和議申請も含めて検討し、債権者に対する金利の引き下げを要請し、テナント等に建設協力金や家賃の改定について協力を求める等、関係者の協力を得るための交渉を行い、その一方で御浜町のリゾート推進室が中心となって、町からの資金援助額についても検討し、その上で、経営改善計画案を策定した。この計画案作成の過程においては、度々御浜町町議会全員協議会等に提案を行い、その審議を経て再検討が加えられ、平成2年8月に経営改善計画が策定された。
イ この経営改善計画の内容は、「三重県に対し、平成2年度の御浜町に対する市町付振興資金6億円の貸付けと平成3年度以降の地場産業振興センターの賃貸料1500万円を助成することを要請し、また、自己資本が過少で借入金の金利負担が増大していたので、低収益施設の施設投資額の補填のためにも金利負担のない資金を確保すべく、御浜町に対して出資を求めるとともに、平成6年度以降も2650万円の出資を求め、出資金を借入金の繰上償還に当て、財務内容の改善を図る。」というものである。
この計画によると、平成20年度に建設当初の借入金は総て償還されることとなる。
また、三重県の経営診断勧告に副って、施設運営の分離、直営店の廃止、平成2年3月に閉鎖された地場産業振興センターを御浜町及び近隣市町村の共同運営として平成3年4月に紀南地域活性化センターを開設することとなった。
ウ 平成2年8月24日開催の御浜町議会臨時会でこの出資金を含む予算案の決議を経た上、同月29日パーク七里御浜は取締役会でこの経営改善計画を承認した。
エ 御浜町は、この計画のとおり、平成2年8月30日に3億5500万円、同年9月14日に6億円の合計9億5500万円をパーク七里御浜に対する出資金として支出した。
この結果、御浜町は、平成3年3月31日時点で、パーク七里御浜の発行済み株式2万3290株のうち2万0290株を有することとなった。
(5) 第2次経営改善計画について
ア パーク七里御浜は、平成6年3月4日の御浜町議会全員協議会に「パーク七里御浜の経営改善計画の見直し(案)(〔証拠略〕)を提出し、その検討を求めた。
イ その案の内容は次のとおりである。
「1 見直しの必要性
(1) 金融状況の激変により運転資金の借入条件が厳しくなった。
ア 不動産投資に対して、金融機関の過剰融資が問題化し、担保物件の買取り機関設立等、融資担保の評価が非常に厳しくなった。
イ 当社の担保については、御浜商業協同組合との区分所有、共有関係にあり、担保価値の評価が高く望めない。
ウ 町の出資金について、住民訴訟が提起され銀行サイドからみて、町の支援体制が疑問視されはじめたこと。
エ 会社経営における収入が経営改善計画の10.8%下回っており(平成4年度実績)、又当初からの累積欠損金があり財務内容が悪い。
オ 借入金元金返済のための融資は当初見込みと異なり、銀行業務としては貸付困難な状況にある。従い元金返済財源の確保を明示する必要がある。
(2) 住民訴訟による悪影響が発生している。
ア バブルの崩壊による経済活動の低下や訴訟の影響により、テナントの入店勧誘が困難となっている。
イ 具体的入店交渉において、訴訟の合法判断があるまで延期をしたい旨申し入れられている。
(3) 空きテナントの充足、並びに家賃改定の遅による収益減等が発生している。
ア 家賃改定について、一部のテナントの売り上げが伸びず、経営改善計画における家賃の負担に応じられない状況にある。
イ 住民訴訟により、新規入店・増床が延期又は中止され、この訴訟が決着するまで様子を見ている傾向にある。
2 見直しの内容…
(1) 運転資金の借入条件を整備する。
財務内容改善のため、新たな資金として県よりの出資等を求める。平成6年度に県の出資1億4600万円(総資本金の10%)、又町の出資計画である2億6500万円を同時期に繰り上げ、計4億1100万円により経営基盤を確立する。
平成5年度運転資金借入額8100万円は、県・町の出資金により平成6年度に返済し、金利軽減を図る。これにより町の損失補償も抹消される。
青木建設(株)に対する建設延べ払い金2億2192万円は、平成5年度まで償還猶予を求める。その後の償還は約定どおりとする。
公的機関等に対し運転資金充当のための無利子又は低利子融資を求める。
(2) 空きテナント充足、並びに家賃改定は、努力可能な期間に収益を見込み、住民訴訟の進行状況を考慮して、平成6年度から順次計上する。
3 見直しによる経営状況
(1) 損益状況
黒字転換は平成12年度となり、平成11年度末における累積欠損額は11億7260万9000円となる。
累積欠損額の解消は、平成25年度になる見込みである。
(2) 運転資金
建設資金の償還期間中は、全額自己資金での対応は困難であり、平成9年度から再び運転資金の調達が必要となる。…
運転資金借入残高のピークは、平成17年度末で5億6961万5000円、平成21年度での借入金残高は3億7291万5000円となる。
(3) 当初の設備資金借入額25億4000万円は、平成29年度で完済し0となる。…」
ウ 御浜町議会全員協議会はこの計画を承認し、御浜町はこの計画のとおりに、平成6年度に、2億6500万円をパーク七里御浜に対する出資金として支出した。また、三重県は、平成6年度に1億4600万円をパーク七里御浜に対する出資金として支出した。
(6) 第3次経営改善計画について
ア 第1次経営改善計画及び第2次経営改善計画にもかかわらず、バブル崩壊による経済不況と住民訴訟による裁判の悪影響等で空テナントヘの入店が進まないことや、予想外の日本経済の長期低迷等極めて厳しい経営状況にあること、パーク七里御浜が御浜町主導型の第三セクターであることから、御浜町は、平成6年4月にパーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会設置要綱を制定して、委員会を設置し、パーク七里御浜の経営安定化を図るため必要な事項を検討し、御浜町長に提言することとなった。
委員会は、御浜町助役、御浜町企画振興課長、御浜町総務課長、御浜町商工会事務局長、金融機関を代表する者(第三銀行御浜支店長)、学識経験者、三重県職員等で構成され、会社の現状と課題及び会社の経営改善を図る方策について検討された。
そこでは、既存施設の改善及び整備充実、周辺の整備、イベント開催等ソフト事業の強化、会社の内面的な取り組みが検討されたが、平成7年度において滞納固定資産税の一括納付や塩害等に伴う突発的な空調設備の修繕の必要が生じたことにより、第3次経営改善計画の必要性が論じられるに至った。
委員会は、平成8年度から平成9年度にかけて、会社の経営内容や経営環境の他、金融情勢など経営全般にわたり詳細な検討をし、平成9年10月3日に、第三次経営改善計画案を御浜町長に提出した(〔証拠略〕)。
パーク七里御浜は、平成10年4月23日に開催された取締役会等において、第3次経営改善計画案を検討した(第3次経営改善計画。〔証拠略〕)。
そこで、御浜町は、町民の利便性を含む町内外への波及効果、万一、パーク七里御浜が倒産した場合の地域経済に及ぼす影響度、今後の町財政に与える負担等について検討し、新たな改善計画にもとづいた支援を行うこととした。
御浜町議会においても、平成10年4月27日開催の平成10年度第1回全員協議会で第3次経営改善計画が検討され、その承認が得られた。
また、御浜町議会は、平成10年3月に、本件貸付にかかる支出を含む平成10年度一般会計予算案を可決した。
イ 第3次経営改善計画の概要は、次のとおりである。
(ア)これまで、借入金等の利息の返済が会社の経営を大きく圧迫していることから、御浜町より公的資金9億5000万円の低利融資(利率年1%)を受け、それを財源として利息の高い日本政策投資銀行等の借入金等を早急に返済し、支払利息の軽減を図る。御浜町は、三重県の支援を経て、9億5000万円の2分の1にあたる4億7500万円を三重県から県市町村振興資金として借り入れて、これをパーク七里御浜に対する貸付金の財源の一部とする。
(イ) 家賃、共益費の見直し
(ウ) 大規模な修繕にかかる賦課金の徴収
(エ) 管理運営経費の見直し
(オ) 建設協力金返済にかかる見直し
(カ) 周辺の整備、空テナントの解消、会社の内面的な取り組みの強化を図る。御浜町は、貸付け以外に地域内外の集客対策等について積極的な支援を行う。
ウ パーク七里御浜は、御浜町に対し、平成10年4月16日、9億5000万円の貸付申請を行い、御浜町はパーク七里御浜に対し、同月17日貸付けの決定を行い、支出命令を発した(本件貸付)。
パーク七里御浜は、御浜町からの借入金9億5000万円を当初の設備資金の借入金のうちの日本政策投資銀行の無利子融資を除く高金利分、及びその他の高金利分の借入元金等の返済に全額充当した(〔証拠略〕)。
エ 第3次経営改善計画(〔証拠略〕)は、平成10年度より実施されているが、支払利息の軽減実績及び経常利益の推移はおおよそ次のとおりである。
(ア) 支払利息の軽減実績
年度 支払利息 対平成9年度比較
平成9年度支払利息 5013万1000円
平成10年度支払利息 2412万円 -2601万1000円
平成11年度支払利息 1605万5000円 -3407万6000円
平成12年度支払利息 1920万8000円 -3092万3000円
平成13年度支払利息 1977万7000円 -3035万4000円
(イ) 経常利益の推移
年度 経常利益 対平成9年度比較
平成9年度 △2252万9000円
平成10年度 △1530万円 722万9000円
平成11年度 33万円 2285万9000円
平成12年度 403万円 2655万9000円
平成13年度 297万円 2549万9000円
オ 第3次経営計画策定後、観光センターの大型テナント株式会社北尾商店が平成11年2月15日に主に和歌山県の観光地である白浜町での営業不振等により破産宣告を受けた(〔証拠略〕)ほか、平成12年11月30日には観光センターのテナントa社が退店し(〔証拠略〕)、平成13年5月31日にはショッピングセンターのゲームコーナーを運営する株式会社タイトーが退店する(〔証拠略〕)など厳しいものがあったが、他の既設テナントに空き店舗部分への入店を要請したり、平成12年6月16日からは1坪夢ショップを開設したり(〔証拠略〕)、平成12年5月にコインランドリーを開設したり(〔証拠略〕)、ゲームセンターを直営化したりして(〔証拠略〕)、その減収を減らす努力がなされている。
(7) 御浜町がパーク七里御浜に対する本件貸付に際して徴求した担保物件評価について
ア パーク七里御浜の本店所在地の南牟婁郡御浜町大宇阿田和字松原4926番5は、御浜町の固定資産評価のための基準地で、その標準価額は1m2当たり8万9000円である。御浜町は、本件貸付に際し、改めて鑑定評価を行っていないが、上記の標準価額と直近の鑑定評価額(1m2当たり6万9400円、価額総額7億4763万5100円)を参考にして、パーク七里御浜の土地に関する帳簿価額は適正な数値であると判断した(〔証拠略〕)。
イ 平成14年3月31日において担保に供している不動産の帳簿価額の総額は20億3414万5000円であり、担保権によって担保されている借入金の総額は12億0537万9000円で、期末帳簿価額の約59%にあたる。パーク七里御浜の建物、建物附属設備、機微、工具器具備品の取得価額は会計帳簿に記載されており、適正に減価償却されている(〔証拠略〕)。
ウ 南牟婁郡御浜町大宇阿田和字松原4926番5の宅地は御浜商業協同組合と持分案分という共有関係にあるが、その共有割合は58095/1135379であり、御浜商業協同組合の持分は5.1%で、担保評価にさほど大きく影響するものではなく、抵当権もそれぞれの持分に対し設定されている(〔証拠略〕)。また、パーク七里御浜の土地の帳簿価格は持分部分のものである。
2 上記認定事実を前提として、まず、原告らの主張(1)、(2)につき検討する。
(1) 原告らは、「本件貸付が地方自治法第232条に違反する。」旨主張するが、地方自治法232条は、普通地方公共団体の事務処理のために必要な経費の支弁義務を定めるものにすぎず、普通地方公共団体が貸付けを行うことを禁じる趣旨であるとは解されない。
(2) 原告らは、「民間会社に対する本件貸付は、法令の根拠に基づかない違法な融資である。」旨主張する。
しかし、普通地方公共団体は地方自治の本旨に基づき、貸付けを行うことができると解するのが相当である。
もっとも、貸付けも普通地方公共団体の行う支出である以上、公共性ないし公益性の認められないような支出は地方公共団体存立の基本理念に反し、許されないというべきである。そして、当該貸付けの支出が公共性ないし公益性を有するか否かについては、当該区域住民の民意に存立の基礎を置く当該地方公共団体の担当機関が、<ア>当該貸付の趣旨、目的、<イ>当該地方公共団体の置かれた地理的、社会的、経済的事情や特性、<ウ>議会の対応、<エ>当該地方公共団体の財政の規模及び状況、<オ>他の行政施策との関連等を総合的に考慮して判断することが、地方自治の精神に合致するといい得るから、貸付けの適法性の判断は当該地方公共団体の担当機関の裁量に委ねられているというべきであり、その判断が著しく不合理で、裁量権を逸脱し、又は濫用するものであると認められる場合にのみ違法となると解するのが相当である。
しかるに、上記1の認定事実によれば、パーク七里御浜は、三重県の指導のもと御浜町主導によって株式会社方式で設立された会社であること、パーク七里御浜の施設は、過疎化が進む御浜町にとって、町民の利便性や雇用の場の確保等の経済効果を生み出すと共に、町の商業近代化、活性化に一定の貢献をもたらしていること、第1、2次経営改善計画にもかかわらず、不況の長期化や会社を取り巻く経営環境等の悪条件(パーク七里御浜の出資に関する住民訴訟や長期にわたる不況による売上げの低下)等による経営悪化のため、第3次経営改善計画を策定したこと、この第3次経営改善計画は御浜町議会においても、全員協議会で審議されその承認を得ていること、本件貸付は第3次経営改善計画に従い支出されたものであるが、その支出について御浜町議会の議決を経ていること等が認められ、これらの事実からすれば、本件貸付をすることが、公共性ないし公益性を有するとの御浜町の判断は、著しく不合理で裁量権を逸脱し、又は濫用するものであったとは認められない。
3 原告らの主張(3)につき検討する。
原告らは、「本件貸付は、地方自治法221条2項の調査を尽くさずに行われた。」と主張するが、上記1の認定事実のとおり、委員会が設置され、その検討の結果第3次経営改善計画が策定されて、本件貸付に至ったのであるから、地方自治法221条2頂の調査が尽くされなかったとは認められない。
4 原告らの主張(4)につき検討する。
原告らは、「本件貸付が、貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けである。」旨主張するが、上記1の認定事実によれば、第3次経営改善計画策定後、観光センターの大型テナントの北尾商店が破産した他、観光センターのテナントa社の退店やショッピングセンターのゲームコーナー会社の退店などがあったにもかかわらず、第3次経営改善計画の実施により支払利息が軽減し、経常利益も平成11年度にプラスに転じていること、平成14年3月31日のパーク七里御浜の担保設定債務の残高は12億0537万9000円に減少していることが認められ、これらの事実からすれば、本件貸付が、貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けであるとは認め難い。
この点、原告らは、第3次経営改善計画の問題点をるる主張し、本件貸付が、貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けである旨を述べるが、上記認定事実に照らし、採用できない。
また、原告らは、「御浜町が本件貸付に際して徴求した担保物件の評価が不当である。」旨主張するが、上記1の認定事実によれば、パーク七里御浜の本店所在地の南牟婁郡御浜町大字阿田和字松原4926番5は、御浜町の固定資産評価のための基準地で、その標準価額は1m2当たり8万9000円であること、御浜町は、本件貸付に際し、改めて鑑定評価を行っていないが、上記の標準価額と直近の鑑定評価額(1m2当たり6万9400円、価額総額7億4763万5100円)を参考にして、パーク七里御浜の土地に関する帳簿価額は適正な数値であると判断したこと、平成14年3月31日において担保に供している不動産の帳簿価額の総額は20億3414万5000円であり、担保権によって担保されている借入金の総額は12億0537万9000円で、期末帳簿価額の約59%にあたること、パーク七里御浜の建物、建物附属設備、機械、工具器具備品の取得価額は会計帳簿に記載されており、適正に減価償却されていることが認められ、これらの事実からすれば、御浜町は、本件貸付に際して徴求した担保物件を評価するに当たり、その裁量権を逸説し、又は濫用したものであるとは認められない。
5 原告らの主張(5)につき検討する。
(1) 原告らは、「地方財政法4条の4第3号の「経費」とは地方公共団体の経費であって、貸付けはこれに含まれない。」旨主張する。しかし、地方公共団体はその予算の中で、他の団体に対する貸付けをなし得るものであって、この貸付けが地方財政法4条の4第3号から特に除外されたものと解する理由はない。
(2) また、原告らは、「本件貸付が地方財政法4条の4第3号後段に定めるその他必要やむを得ない理由により生じた経費に当たらない。」旨主張する。
ところで、同条は、地方財政の運営の健全性を確保し、もって地方自治の発達に資することを目的とする同法の趣旨に基づき、長期的な視野に立った経費の財源とすべく設定される積立金(同法4条の3)について、処分し得る場合を制限的に列挙したものである。このような本条の趣旨からすれば、「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」とは、支出をしようとする事業の種類等を特に限定するものではないが、前段にいう「緊急に実施することが必要となった大規模な土木その他の建設事業の経費」と同等の緊急性と必要性が認められる場合でなければならないと解される。もっとも、その必要性等の判断は、<ア>その支出の趣旨、目的、<イ>当該地方公共団体の置かれた地理的、社会的、経済的事情や特性、<ウ>議会の対応、<エ>当該地方公共団体の財政の規模及び状況、<オ>現実に直面している行政課題等の関連を総合的に考慮すべきものであり、第1次的には、地域住民の民竟に根拠を有する地方公共団体のそれぞれの機関の裁量に委ねられているものであって、その判断が著しく不合理で、裁量種を逸脱し、又は濫用していると認められる場合にのみ、当該基金を取り崩した公金の支出が違法となるというべきである。
本件においては、前述のとおり、パーク七里御浜は、三重県の指導のもと御浜町主導によって株式会社方式で設立された会社であること、パーク七里御浜の施設は、過疎化が進む御浜町にとって、町民の利便性や雇用の場の確保等の経済効果を生み出すと共に、町の商業近代化、活性化に一定の貢献をもたらしていること、第1、2次経営改善計画にもかかわらず、不況の長期化や会社を取り巻く経営環境等の悪条件(パーク七里御浜の出資に関する住民訴訟や長期にわたる不況による売上げの低下)等による経営悪化のため、第3次経営改善計画を策定したこと、この第3次経営改善計画は御浜町議会の全員協議会で審議され承認を得られたこと、本件貸付は第3次経営改善計画に従い支出されたものであるが、その支出について御浜町議会の議決を経ていること等の事情が認められる。
また、上記1の認定事実によれば、本件貸付は金利の高い当初の設備資金等の返済に充当し、金利負担の軽減を図るためになされたものであり、パーク七里御浜の経営改善のために、本件貸付の早急な実行が要求されていたことが認められる。
さらに、〔証拠略〕によれば、御浜町の財政調整基金は、平成10年度当初、6億0806万円が積み立てられていたところ、本件貸付を含む5億円を取り崩したが、同年に8717万円を新たに積み立てたこと、その後、大災害復旧、尾呂志小中学校の建設等に3億5240万円取り崩したが(パーク七里御浜に関係のない取崩し)、平成14年3月末で約2億3600万円の残高となっていることが認められ、財政調整基金等の積立金の運営の健全性の確保という趣旨は損なわれていないといえる。
以上の事情を考慮すれば、本件貸付が地方財政法4条の4第3号後段にいう「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」に該当するとした御浜町の判断が著しく不合理であり、裁量権を逸脱し、又は濫用したものであるとはいえない。
6 以上によれば、本件貸付の支出負担行為、支出命令、財政調整基金の取崩し、本件貸金の支出については、違法性が認められない。
また、上記1の認定事実によれば、パーク七里御浜が本件貸付の全額返済が不可能であることを承知しながら本件貸付申請を行って借り入れたとは認められず、被告奥西に商法266条の3に基づくパーク七里御浜の取締役としての責任があるとはいえない。
7 したがって、原告らの請求は理由がないからいずれもこれを棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 後藤隆 大竹貴)