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津地方裁判所 平成13年(ワ)152号 判決 2003年4月02日

大阪市西区南堀江1丁目2番13号

原告

株式会社クオーク

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

被告

●●●

同訴訟代理人弁護士

村田正人

石坂俊雄

福井正明

伊藤誠基

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,38万2592円及びこれに対する平成12年9月1日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,割賦購入斡旋等を目的とする会社である原告が,被告との間で,被告が株式会社フォーラムニジュウイチコーボレーション(以下「フォーラム21」という。)から買い受ける「医療事務速習講座」という名称のパソコン用ソフトのCD-ROM及びテキスト(以下「本件教材」という。)の代金を原告においてフォーラム21に立替払し,その立替金及び手数料(以下「立替金等」という。)につき被告から分割して支払を受けるとの立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結したと主張して,被告に対し,本件立替払契約に基づき,立替金等の残額38万2592円及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日である平成12年9月1日から支払済みまで商事法定利率年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

なお,本件は,当初,被告が,津簡易裁判所に対し,原告,フォーラム21及び株式会社アド・ホック(以下「アド・ホック」という。)を共同被告として,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,支払済みの分割金の返還等を求めて訴えを提起したところ(平成12年(ハ)第349号事件,以下「甲事件」という。),原告が,同裁判所に対し,別訴として提起したものである(平成13年(ハ)第11号事件,以下「乙事件」という。)。乙事件は,同裁判所において甲事件に併合された後,職権で当裁判所に移送となったが,被告が最終段階で甲事件を取り下げたので,現在では乙事件のみが係属している。

1  前提となる事実

(1)  原告は,割賦購入斡旋等を目的とする会社である(乙ハ1,2,弁論の全趣旨)。

(2)  原告と被告との間で平成11年11月24日に成立した本件立替払契約(ただし,その内容については,原告が本件教材の売買代金を立替払することを約したものであるか,それとも在宅ワークの受講科を立替払することを約したものであるかについては,後記2(1)のとおり争いがある。)には,以下の約定がある(乙ハ1)。

ア 被告は,原告に対し,立替金31万5000円及び手数科10万3320円の合計41万8320円につき,平成12年2月26日に9420円を支払い,平成12年3月から平成16年1月まで毎月26日限り8700円ずつ分割して支払う。

イ 被告が上記分割金の支払を遅滞し,原告が20日以上の相当な期間を定めてその支払を書面で催告したにもかかわらずその支払をしないときは期限の利益を喪失する。

ウ 被告は,期限の利益を喪失したときは,分割金の残額に対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済みまで年6パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(3)  原告は,平成11年12月3日ころ,フォーラム21に対し,本件教材の代金31万5000円を立替払した(乙ハ1,弁論の全趣旨)。

(4)  原告は,被告に対し,平成12年8月10日到達の書面により,支払期の過ぎた分割金を,同月31日までに支払うように催告した(乙ハ4,弁論の全趣旨)。

(5)  被告は,平成12年6月28日ころ,フォーラム21に対し,書面により本件教材の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を解約する旨の意思表示(クーリングオフ)をした(甲1,被告)。

2  争点

(1)  本件立替払契約は,原告が本件教材の売買代金を立替払することを約したものであるか(原告の主張),それとも在宅ワークの受講料を立替払することを約したものであるか(被告の主張)。

(2)  クーリングオフの抗弁につき,フォーラム21は在宅ワーク募集の新聞の折り込みチラシにより被告に電話をかけさせて,その電話における勧誘により被告と本件売買契約を郵便等によって締結させたものとして,本件が電話勧誘行為に当たるかどうか。

(3)  被告が,本件売買契約を申し込んだころ,フォーラム21からクーリングオフに関する事項等を記載した本件立替払契約の契約書(以下「本件契約書」という。)の控えを送付してもらったかどうか(クーリングオフの抗弁に対する再抗弁その1)。

(4)  被告が本件売買契約を締結したのは営業のためにしたものであるかどうか(クーリングオフの抗弁に対する再抗弁その2)。

(5)  被告は,本件売買契約の締結当時,本件売買契約を締結すればアド・ホックから分割金の支払をなし得る程度の在宅ワークの提供を受けられると誤信しており,フォーラム21に対し,そのために締結するものであることを述べたかどうか(動機の錯誤)。

(6)  被告は,以前にも在宅ワークに応募したときに仕事の提供を受けられず,また,そのときに解約の話はなかったにもかかわらず,分割金の支払をなし得る程度の在宅ワークの提供を受けられるというフォーラム21の話を軽信したものとして,重過失があるかどうか(動機の錯誤の抗弁に対する再抗弁その1)。

(7)  被告は,原告担当者から意思確認の電話を受けたときに,在宅ワークの斡旋等が関係する契約であることや,フォーラム21から説明を受けた内容について言及してないにもかかわらず,原告に対して動機の錯誤の抗弁を主張することが,信義則に反して許されないものかどうか(動機の錯誤の抗弁に対する再抗弁その2)。

(8)  原告が,その加盟店であるフォーラム21に対する管理が十分でなかったのに,被告に対して立替金等の支払を求めることが,信義則ないし公序良俗に反して許されないものかどうか(信義則,公序良俗違反の抗弁)。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(本件立替払契約の内容)について

被告が乙ハ第1号証の本件契約書の契約者欄に署名押印したことは当事者間に争いがなく,また,証拠(乙ハ1,被告)によれば,被告がフォーラム21から送付されてきた本件契約書に署名押印したときには,商品名欄に医療事務速習講座との記載がされていたほか,役務の提供欄には「無」との記載や,金額欄の記載も既にされていたことが認められるから,本件立替払契約は被告がフォーラム21から買い受ける本件教材の売買代金を原告が立替払することを約したものであるものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

2  争点(2)(電話勧誘行為に当たるかどうか。)について

証拠(甲12,13,22,被告)によれば,被告は,平成11年11月ころ,パソコンによる文書入力等に関する在宅ワーク募集の新聞の折り込みチラシを見て,フォーラム21に電話をかけたところ,フォーラム21の担当者●●●から,文書入力の仕事は誰でもできる簡単なものであって,アド・ホックに登録して仕事をすれば1日1時間で月5万円くらいの収入になり,さらに医療事務の勉強をしてその仕事をすると収入が増えるが,仕事をするには本件教材を買い受けるためにローンを組む必要があるものの,収入によってローンは返済できるし,いつでも解約できるとの勧誘を受け,郵送されてきた本件契約書に署名押印するなどして本件売買契約を締結したことが認められる。そうすると,フォーラム21は,在宅ワーク募集の新聞の折り込みチラシにより被告に電話をかけさせ,その電話における勧誘により被告と本件売買契約を郵便によって締結させたものであるから,被告は,電話勧誘行為による指定商品の販売に当たるものとして,本件売買契約をクーリングオフすることができるというべきである。

原告は,この点について,被告は自らの意思で電話をかけ自らの意思で申込みをしたものであり,通信販売に類似した類型であるところ,通信販売にはクーリングオフの適用はないから,本件においても被告はクーリングオフをすることができない旨主張する。しかし,そもそも通信販売は電話勧誘販売に当たらないことを要件とするものであるうえ,フォーラム21は在宅ワーク募集の折り込みチラシにより本件売買契約の締結を勧誘するものであることを告げずに被告に電話をかけさせたものであって,被告が自ら本件売買契約を締結する意思で電話をかけたものではないから,原告の上記主張は採用できず,その他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

3  争点(3)(本件契約書控えの送付)について

証拠(甲1ないし3,23,乙イ6,乙ハ3の1及び2,被告)によれば,フォーラム21は,本件契約書を返送してもらった後,被告に対し,仕事についての簡単な説明書,アド・ホックに対するアドネットタウンの入会申込書,本件教材であるパソコン用ソフトのCD-ROM及びテキストのほか,いつでも解約できる旨記載した覚書等を遅滞なく送付しており,また,被告は,平成12月6月28日付けの内容証明郵便において,ローン代金額について正確な金額を記載していることが認められるところ,これらの事実に加え,フォーラム21は本件契約書控えを送付しなければ,いつまでもクーリングオフにより本件売買契約を解約される立場にあることや,被告は本件において当初クーリングオフの主張をしていなかったことなどを考え合わせると,フォーラム21は,本件売買契約締結のころ,本件契約書の控えを被告に対して送付した事実を推認することができる。

被告は,その本人尋問において,本件契約書の控えをフォーラム21から送付してもらったことはない旨供述するが,フォーラム21はいつでも解約できる旨記載した覚書さえ被告に送付していることなど上記認定の事実に照らして直ちに採用できず,その他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

4  争点(5)(動機の錯誤)について

上記認定のとおり,被告は,●●●から文書入力の仕事は誰でもできる簡単なものであって,アド・ホックに登録して仕事をすれば1日1時間で月5万円くらいの収入になり,さらに医療事務の勉強をしてその仕事をすると収入が増えるが,仕事をするには本件教材を買い受けるためにローンを組む必要があるものの,収入によってローンは返済できるし,いつでも解約できるとの勧誘を受け,そのために締結するものであることを述べて本件売買契約を締結したものである。ところが,証拠(甲12,13,被告)によれば,アド・ホックから文書入力の仕事をもらうためには1か月に2回行われるテストを受けてCランク以上でなければならなかったが,被告はテストを受けてもEランクになるなどしてなかなか仕事をもらえず,5か月以上も経ってから●●●に申し出て他の業者から文書入力の仕事を紹介してもらったものの,提出期限について事前に話はなかったにもかかわらず仕事が遅いからこれからは仕事を紹介できないと言われ,それなら解約すると言うとローンが発生しているから解約できないとか,解約金がいるなどと言われたことが認められる。そうすると,被告は,本件売買契約の締結当時,本件売買契約を締結すればアド・ホックから分割金の支払をなし得る程度の在宅ワークの提供を受けられると誤信しており,フォーラム21に対し,そのために締結するものであることを述べたものというべきである。

原告は,この点について,原告は被告から動機について明示にも黙示にも表示を受けていないから,被告は原告に対し錯誤無効を主張することはできない旨主張する。しかし,この点についての被告の主張は,被告はフォーラム21との間の本件売買契約について錯誤無効を主張するとともに,割賦販売法30条の4に基づき,フォーラム21に対して生じているのと同じ事由をもって,支払の請求をする割賦購入斡旋業者である原告に対抗しようとするものであるから,原告の上記主張は失当である。

5  争点(6)(被告の重過失)について

証拠(甲12,13,被告)によれば,被告は以前にも在宅ワークに応募したときに仕事の提供を受けられず,また,そのときには解約の話はなかったことが認められるところ,原告は,被告にはそのような経験があつたにもかかわらず,分割金の支払をなし得る程度の在宅ワークの提供を受けられるし,いつでも解約できるというフォーラム21の話を軽信したものとして,重過失がある旨主張する。しかしながら,上記認定のとおり,被告はフォーラム21からいつでも解約できる旨記載した覚書を受領しているものであって,●●●の話を何の根拠もなく軽信したということはできないし,また,上記認定のとおり●●●から言葉巧みに勧誘を受けて本件売買契約締結に至った経緯に鑑みると,被告に重過失があったものとはいえず,その他にこれを認めるに足りる証拠はない。

6  争点(7)(錯誤無効主張の信義則違反)について

証拠(乙ハ5,被告)によれば,被告は,原告担当者から意思確認の電話を受けたときに,在宅ワークの幹旋等が関係する契約であることや,フォーラム21から説明を受けた内容について言及してないことが認められるところ,原告は,それにもかかわらず被告が原告に対して動機の錯誤の抗弁を主張することは信義則に反して許されない旨主張する。しかし,証拠(乙ハ5,被告)によれば,原告担当者は意思確認の電話の際に,契約金額と被告の住所,生年月日等は確認したものの,それ以上には契約内容についてなど全く確認していないことが認められるから,それにもかかわらず被告の方から積極的に在宅ワークの斡旋等が関係する契約であるとか,フォーラム21から説明を受けた内容について原告担当者に告げなければならない義務があるものではなく,そのような話をしていないからといって原告に対して動機の錯誤の抗弁を主張することが信義則に反して許されないものではないというべきである。

したがって,この点についての原告の再抗弁は理由がない。

7  以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官 後藤隆)

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