津地方裁判所 平成13年(行ウ)8号 判決 2003年1月30日
原告
オアネスことX
同訴訟代理人弁護士
谷口房行
同訴訟復代理人弁護士
冨田幸嗣
被告
三重県度会郡度会町長 大野幸茂
同訴訟代理人弁護士
楠井嘉行
同
北薗太
同
川端康成
同
中山敬規
同訴訟復代理人弁護士
西澤博
主文
1 本件訴えのうち浄化槽清掃業の許可申請に対する不許可処分の取消しを求める部分を却下する。
2 原告の一般廃棄物処理業の許可申請に対する不許可処分の取消しを求める請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第3 当裁判所の判断
1 本件の経緯
〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告の父親のAは、平成11年5月13日付けで一般廃棄物処理業許可申請書を提出しようとしたが、その提出前に度会町の当時の環境施設課長Bが原告と協議をし、度会町の状況(現状の収集量や今後のし尿の収集量が減少する見通しであること)や合特法の趣旨等からすると、許可が困難なことを説明したところ、申請書の提出、受理に至らなかった。
(2) 原告は、平成12年8月17日、一般廃棄物処理業許可申請書を提出し(本件許可申請)、受理された。この申請は、生し尿の収集運搬を行うとするもの(〔証拠略〕)と、浄化槽の清掃を行った後の汚泥やスカム等の収集運搬についてのもの(〔証拠略〕)であった。
前者の許可申請書(〔証拠略〕)では、「一般廃棄物の種類」欄に「し尿」と記載され、「収集運搬処分の別」欄には「収集運搬」と記載され、「収集運搬処分の方法」欄には「町内全域の家庭からし尿を汲み取りし、伊勢度会環境衛生組合の処理場へ運搬する」と記載されている。
後者の許可申請書(〔証拠略〕)では、「一般廃棄物の種類」欄に「浄化槽清掃」と記載され、「収集運搬処分の別」欄には「収集運搬」と記載され、「収集運搬処分の方法」欄には「町内全域の家庭から浄化槽を清掃し、汚泥を伊勢度会環境衛生組合の処理場へ運搬する」と記載されている。
(3) 本件許可申請については、当時の環境施設課長のCが責任者として対処したが、Cは、本件許可申請を受理した後、平成12年9月8日に、三重県の環境部廃棄物対策課において、同課の一般廃棄物グループD副参事及びE課長補佐と協議したところ、三重県からは「業務量は汲み取りから浄化槽に変更することにより、下水道ほどではないが減少する。」「合特法8条、9条における補償等については、業務量減少により、既存業者への補償問題等は避けて通れない。」「競争原理については、市町村の委託業務ではなく許可制をとり、市町村の代行として業務をしているわけで、市場原理、2社に競争をさせて安くする、独占等というのは、合特法1条の目的にそぐわない。」という見解のもと、「新規の収集運搬の許可を行う場合は、廃掃法7条3項に基づき、合特法(ガイドラインを含む。)の趣旨及び将来予測等に鑑み、慎重に判断すべきであり、新規の申請がなされ、単に許可条件や書類が整っているからという理由だけで許可すべきでない。」というアドバイスを受けた。
(4) Cは、本件処分に先立って、度会町におけるし尿の将来予測について資料を作成したところ、し尿及び浄化槽汚泥の収集量は、平成12、13年あたりをピークとして減少し、既存業者で十分な対応ができると判断された。
そこで、被告は、本件許可申請に対し、不許可処分をすることとし、「一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可について」と題する通知書(〔証拠略〕)により、「廃棄物処理及び清掃に関する法律第7条第3項第2号に該当しないので、許可できない旨通知いたします。」と原告に通知した(本件不許可処分)。
2 本件不許可処分の理由について
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 昭和50年に制定された合特法においては、下水道の整備等により、その経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生じることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和するなどのため国又は地方公共団体が支援策を講ずるよう努める旨規定されたが、その制度化に伴い、三重県では平成10年2月に「下水道の整備等に係る合理化基本方針」を定め、各市町村長に通知した。これによると、三重県における生活排水処理施設の整備を推進するため、「三重県生活排水処理施設整備計画(生活排水処理アクションプログラム)」をとりまとめ、下水道、農業・漁業集落排水施設、合併処理浄化槽等の生活排水処理施設の整備について、それぞれの地域特性に対応した整備を推進していくこととされた。このため、し尿処理等の業務縮小と、転廃業を余儀なくされる事態が生じてくるとし、合特法の趣旨を踏まえ、その支援策及びし尿等の適正な処理を図るための合理化事業計画の策定を促している。
(2) 「下水道の整備等に係る合理化基本方針」に関する通知により、平成11年3月24日付けで、三重県市長会、三重県町村会、三重県市町村清掃協議会、三重県環境整備事業協同組合が三重県副知事を立会人として、「合理化問題に関する基本協定」を締結した。この協定においても、合特法の趣旨を遵守すべく、汲み取り業務減少に伴う業者への支援策について定めている。
(3) 度会町が平成6年度に策定した「度会町生活排水処理基本計画(基準年度-平成5年度、目標年度-平成20年度)」の汲み取りし尿量の推計については、基準年度10.1kl/日に対し、目標年度1.8kl/日と減少するものとしている。度会町では合併処理浄化槽施設の整備が年々進んでおり、今後も更に汲み取り施設から合併処理浄化槽への切り替えが進むことが予想される。また、「三重県生活排水処理アクションプログラム」による整備計画からしても、し尿汲み取り量の減少は一層進むことが予想される。
(4) 度会町の固有事務代行者である許可業者の施設能力と度会町内の年間排出量(し尿・汚泥の汲み取り)を対比すると、次のとおりであり、既存の許可業者(南島清掃)の年間汲み取り可能能力(8122kl)は、平成12年度の汲み取り実績(4328kl)をはるかに上回っている。
<1> 生し尿用バキューム車(2トン)2台
年間汲み取り可能力 4118kl
平成12年度汲み取り実績 3433kl
<2>浄化槽用バキューム車(4トン)1台
年間汲み取り可能力 4004kl
平成12年度汲み取り実績 895kl
度会町では、生し尿人口は減少の傾向にあり、し尿及び浄化槽汚泥収集量は平成12年度をピークにして減少していくことが予想される。
(5) かかる状況下で、被告は、「新規に許可を与え複数の業者で汲み取りを行うこととなった場合、既存業者の業務減少は明白で、度会町は合特法に基づく支援策すなわち金融上の措置や就職の斡旋が必要となり、さらには新規許可業者に対しても、将来同様の支援策を講ずる責任を負うこととなる。そうなれば、度会町の財政の負担が増加することはもとより、業者間の過当競争等によって、度会町の一般廃棄物(し尿)処理行政に重大な支障を来すことになる。現状況下では、原告による申請内容は度会町の一般廃棄物処理計画に適合しないから、新規申請に対する許可はなすべきではない。」と判断し、本件不許可処分をした。
3 上記認定の事実を前提として、まず、原告による浄化槽法35条の申請があったか否かにつき検討するに、その申請書(〔証拠略〕)の記載からして、その申請は廃掃法7条に基づくもので、浄化槽法35条の申請があったとは認められない。被告は、「一般廃棄物処理業及び浄化槽清掃業の許可について」と題する通知書(〔証拠略〕)により本件不許可処分をしているが、この通知書の記載は、その理由欄に「廃棄物処理及び清掃に関する法律第7条第3項第2号に該当しないので、許可できない旨通知いたします。」とあることからして「一般廃棄物処理業の許可について」とすべきものを誤記したにすぎないと認められる。
原告は、「被告の誤った教示があったから、浄化槽法35条の申請があったとみるべきである。」とも主張するが、浄化槽清掃業を営むためには、浄化槽清掃業の許可の他に、浄化槽の清掃により生ずる汚泥等の収集運搬につき必要な一般廃棄物処理業の許可もしくは他の一般廃棄物業者に業務委託することが必要であって、浄化槽清掃業の許可に先立ちその一般廃棄物処理業の許可の申請をするように教示したとしても、それが誤った教示であるとはいえず、その他上記認定事実からして被告に誤った教示があったとは認められない。
そうとすれば、原告の浄化槽清掃業の許可申請に対する不許可処分は存在しないことになるから、本件訴えのうち原告の浄化槽清掃業の許可申請に対する不許可処分の取消しを求める部分は却下されるべきである。
4 次に、本件不許可処分(し尿処理業の許可申請に対する不許可処分)に裁量権の濫用があったか否かにつき検討する。
(1) 廃掃法6条の2は「市町村は、一般廃棄物処理計画に従って、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分しなければならない。」と規定し、同法7条1項は、「一般廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならない。」と規定している。
かかる廃掃法の趣旨は、一般廃棄物の収集、処分は、市町村固有の責務であるが、これをすべて市町村自ら処理することは実際上できないため、許可を与えた廃棄物処理業者をして、市町村の事務を代行させることにより、自ら処理したと同様の効果を確保しようとしたものである。かかる趣旨によれば、市町村長が許可を与えるかどうかは、同法の目的と当該市町村の廃棄物処理計画に照らし、市町村がその責務である一般廃棄物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から決すべきものであり、市町村長の裁量に委ねられているものであるから、不許可処分が裁量権行使の正当な範囲内にとどまり、裁量権の範囲を逸脱し、その濫用に該当しなければ違法にならない。
(2) これを本件についてみるに、被告は、原告による申請内容が度会町の一般廃棄物処理計画に適合しないという観点(廃掃法7条3項参照)から、廃掃法、合特法及び三重県の定めた「下水道の整備等に係る合理化基本方針」や「合理化問題に関する基本協定」の趣旨を踏まえ、度会町の生活排水処理基本計画や許可業者の施設能力等を総合的角度から検討を加え、現状況下では新規申請に対する許可はなすべきではないと判断し、本件不許可処分をしたものであって、この処分に裁量権を逸脱した濫用は認められない。したがって、本件不許可処分に何ら違法はないというべきである。
なお、原告は、「度会町では、合特法が前提とする下水道の整備はないから、業者に対する将来的な補償の問題は生じない。」と主張するが、同法が合併処理浄化槽の整備による業務減少について支援することを禁ずるものであるとは解されないから、原告の同主張は採用できない。
(3) そうとすれば、原告の一般廃棄物処理業の許可申請に対する不許可処分の取消請求は、理由がないからこれを棄却すべきである。
5 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 後藤隆 大竹貴)