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津地方裁判所 平成14年(ワ)141号 判決 2005年2月17日

主文

1  被告らは,原告甲に対し,連帯して,2100万円及びこれに対する平成14年7月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは,原告乙に対し,連帯して,2000万円及び内金600万円に対する平成14年9月4日から,内金1400万円に対する平成16年3月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告丙及び原告丁の被告らに対する請求並びに原告甲及び原告乙の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,原告丙に生じた費用の全部と被告らに生じた費用の50分の3を原告丙の負担とし,原告甲に生じた費用の5分の3と被告らに生じた費用の4分の1を原告甲の負担とし,原告丁に生じた費用の全部と被告らに生じた費用の50分の1を原告丁の負担とし,原告乙に生じた費用の5分の4と被告らに生じた費用の5分の2を原告乙の負担とし,原告甲,原告乙及び被告らに生じたその余の費用を被告らの負担とする。

5  この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告丙(第1事件)

(1)  主位的請求

被告らは,原告丙に対し,連帯して883万0638円及びこれに対する平成3年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  予備的請求

被告らは,原告丙に対し,連帯して803万0638円及びこれに対する平成14年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(4)  仮執行宣言

2  原告甲(第2事件)

(1)  主位的請求

被告らは,原告甲に対し,連帯して5272万0953円及び内金4192万0873円に対する平成3年3月11日から,内金656万0080円に対する平成11年4月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  予備的請求

被告らは,原告甲に対し,連帯して4922万7640円及びこれに対する平成14年7月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(4)  仮執行宣言

3  原告丁(第2事件)

(1)  主位的請求

被告らは,原告丁に対し,連帯して330万3480円及び内金83万8500円に対する平成3年3月11日から,内金218万4980円に対する平成11年4月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  予備的請求

被告らは,原告丁に対し,連帯して302万3480円及びこれに対する平成14年7月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(4)  仮執行宣言

4  原告乙(第3事件)

(1)  主位的請求

被告らは,原告乙に対し,連帯して7173万3767円及び内金2206万3624円に対する平成5年5月27日から,内金915万8295円に対する平成12年4月5日から,内金3739万1848円に対する平成15年10月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  予備的請求

被告らは,原告乙に対し,連帯して6861万3767円及び内金3122万1919円に対する平成14年9月14日から,内金3739万1848円に対する平成15年10月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(4)  仮執行宣言

5  被告ら

(1)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第2事案の概要等

1  被告調正機関は,参画者らが被告調正機関に全財産を出えんして一切の返還を求めない旨の誓約書を差し入れた上で参画し,ヤマギシズムの理念に基づく生活を送っている参画者の集合体であり,被告法人は,被告調正機関が農業協同組合法に基づき設立した農事組合法人である。本件は,全財産を出えんするなどして被告調正機関に参画した後に同被告を脱退した原告らが,被告らに対し,主位的に,不法行為に基づく損害賠償を請求し(原告乙の請求するA分を除く。),予備的に,信託契約による信託財産返還請求権,消費寄託契約終了に基づく預託金返還請求権,不当利得返還請求権又は参画契約の解除による原状回復請求権(原告乙の請求するA分を除く。原告乙については,以上に加えて被告調正機関の贈与税納付に関する不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権)に基づいて,参画時に出えんした財産及び参画中の労務提供の対価に相当する金員並びにこれらに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  前提事実(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 原告ら

(ア) 原告丙(甲A1~3)

原告丙は,昭和32年5月にa県b市で生まれ,昭和55年3月にc芸術大学を卒業すると同時にBと結婚し,同人との間に,昭和56年に長男C,昭和59年に長女D,昭和61年に次男Eをもうけた。

原告丙は,平成2年5月10日,Bと協議離婚し,子3名の親権者を原告丙と定めた。

その後,原告丙,B間で,平成3年2月8日,C及びDの親権者をBに変更する家庭裁判所の調停が成立し,同月21日,その旨が届け出られた。さらに,平成6年9月26日には,C及びDの親権者を原告丙に変更する家庭裁判所の調停が成立し,同年10月7日,その旨が届け出られた。

その間,原告丙は,平成4年6月にFと再婚したが,平成12年11月に離婚した。

(イ) 原告甲(甲B2)

原告甲は,昭和22年1月にd県e郡f町で生まれ,昭和40年3月にd県立g高校を卒業後,hに就職した。昭和49年3月に原告丁と結婚し,同人との間に,同年12月に長男G,昭和51年4月に次男Hをもうけた。

(ウ) 原告丁(甲B1)

原告丁は,昭和24年9月にd県g市で生まれ,昭和43年3月にd県立g高校を卒業後,洋裁店に勤務した。その後,上記(イ)のとおり,原告甲と結婚して二子をもうけた。

(エ) 原告乙(甲C1)

原告乙は,昭和23年1月にi市で生まれ,昭和43年3月にj専門学院を卒業後,k病院や財団法人l県総合リハビリテーションセンターに勤務した。昭和49年7月にAと結婚し,同人との間に,昭和50年に長女I,昭和52年に次女J,昭和57年に三女K,昭和60年に長男Lをもうけた。

原告乙は,平成11年11月にAと離婚した。

(オ) A(甲C7)

Aは,昭和20年12月にl県m市で生まれ,昭和43年3月にn大学を卒業後,自動車部品関係の会社に就職し,昭和47年10月から財団法人l県総合リハビリテーション事業団に転職した。その後,上記(エ)のとおり,原告乙と結婚し四子をもうけたが,平成11年に離婚した。

そして,平成11年12月,Mと再婚した。

イ 被告らについて

(ア) ヤマギシ会は,ヤマギシズムの提唱者山岸巳代蔵が自然と人為の調和を基調とした理想社会実現の思想を応用した独特の養鶏法を進めるうちに,これに同調共鳴する人々が集まって昭和28年に結成された。ヤマギシ会の提唱する行動原理は,無所有・共用・共活(あたかも,太陽が誰のものでもないのに,生きとし生ける物すべてがその恵みを共に用い,共に生かしている状態)の生き方こそが全人幸福の真実世界を実現することができるというヤマギシズムである。

ヤマギシ会は,発足以来,「本当はどうだろうか」と主体的に検べていこうとする考え方(研鑽態度)を身に付ける機会として1週間のヤマギシズム特別講習研鑽会(以下「特講」という。)を開催している。

(イ) 被告調正機関は,ヤマギシズムに参画した構成員の集合体であって,平成10年当時には,別紙1「ヤマギシズム生活実顕地調正機関(表1)」のとおり,全国39か所,海外7か所のヤマギシズム社会実顕地(所在地の地名を冠して「ヤマギシズム社会○○実顕地」などとされている。なお,平成6年以前は「ヤマギシズム生活実顕地」との名称であった。以下,特に区別せず,「単位実顕地」,「実顕地」,「○○実顕地」,「村」などという。)の活動主体であり,法人格を有しない。

(ウ) 被告法人は,被告調正機関が昭和44年に農業協同組合法に基づいて設立した農事組合法人であって,o実顕地,p実顕地,q実顕地,r実顕地,s実顕地,t実顕地の6つの単位実顕地の土地・建物・生産財を所有し,これら単位実顕地における産業経済活動の法的主体となっている。

(2)  ヤマギシ会への参画の方法について

ア ヤマギシ会での生活を希望する者は,まず,ヤマギシズム研鑽学校の実施する特講(その期間は1週間[7泊8日]で,一生に一度しか参加できない。)に参加し,次にヤマギシズム研鑽学校(以下「研鑽学校」という。)に2週間(14泊15日)入校し,ヤマギシズムとは何かを体得しなければならない。

イ 研鑽学校を修了した者が,ヤマギシズム社会実顕地におけるヤマギシズム生活を希望して被告調正機関に参画する場合は,被告調正機関本庁(以下,単に「本庁」という。)あてに,参画申込書,出資明細申込書及び誓約書(以下「3点セットの文書」ともいう。)を提出する。

参画申込書には,「私,及び私の家族は,最も正しいヤマギシズム生活を希望しますので,ヤマギシズム生活実顕地調正機関に参画申込み致します。」との記載,出資明細申込書には,「私は終生ヤマギシズム生活を希望しますので,下記の通りいっさいの人財・雑財を出資いたします。」との記載があり,誓約書の内容は次のようなものである。

「誓約書

私は,此の度,最も正しくヤマギシズム生活を営むため,本調正機関に参画致します。

ついては,左記物件,有形,無形財,及び権益の一切を,権利書,証書,添附の上,ヤマギシズム生活実顕地調正機関に無条件委任致します。

一 本財

身・命・知・能・力・技・実験資料の一切

一 雑財

田畑・山林・家・屋敷・不動産の一切

現金・預金・借入金・有価証券・及び権益・位階・役職・職権等の一切

一 しかる上は,権利主張・返還要求等,一切申しません。

一 以後,私は調正機関の公意により行動し,物財は如何様に使用されても結構です。

一 調正機関の指定する研鑽学校へは何時でも無期限入学致します。

年  月  日

住所

氏名

ヤマギシズム生活実顕地調正機関本庁殿」

ウ 上記書面を提出した参画予定者には身辺整理等をする時間が与えられる。

エ 参画者は,従前有していた有形無形の全財産を被告調正機関に対して出えんする(以下,3点セットの文書の作成提出から財産の出えんに至る手続を「参画契約」という。)。

(3)  参画の際に被告調正機関に出えんされた財産について

参画者が被告調正機関に出えんした財産の処理は,原告らが参画したころは,おおむね以下のとおりであった。

参画者が参画の際に本庁窓口に持参した現金は,本庁財務部にその占有が移転したとき出資は完了したものと扱われる。振込送金の方法によって金員を持ち込む場合は,本庁財務部が保管する参画者個人名義の預金口座に入金されたときに出資は完了したものと扱われる。参画時に持ち込まれた財産である不動産や株式等については,被告調正機関によって換金されるが,その代金等もこの預金口座に入金される。こうした金員(預金については払い戻されるか解約される。)の大半は「ヤマギシズム生活実顕地調正機関本庁(代表a”)」名義の預金口座に預け入れられ,残りは本庁財務部が現金のままで保管し,収支は本庁現金出納帳に記載される。本庁財務部が保管する現金は,身辺整理に関する旅費や参画者の参画前の未払金(公共料金等少額のもの)の支払等に充てられ,「ヤマギシズム生活実顕地調正機関本庁(代表a”)」名義の預金口座に入金された金員は,「ヤマギシズム世界銀行」名義の預金口座に預け入れられる(最終的には,単位実顕地調正機関名義の口座に送金され,被告調正機関が設立した(形式的には参画者が出資者である。)農事組合法人への貸付金等に充てられる。)ほか,未売却不動産の管理費,固定資産税,ローンの返済,不動産売却所得に対しての税金等に充てられる。なお,事実上換金できない家財道具等は「世界の蔵」と呼ばれるところに入れられ,村人(参画者)たちで利用できるようにされる(弁論の全趣旨)。

(4)  原告らの参画及び脱会の経緯等

原告らの特講及び研鑽学校への参加並びに被告調正機関への参画及び脱退の経過は,別紙2「経過表」のとおりである。すなわち,原告らは,それぞれ,同別紙の各「名前」欄に対応する「特講参加年月日」記載の日から開催された特講に参加し,「参画前研鑽学校」欄記載の日から開催された研鑽学校に参加し,「参画申込日」欄記載の日に被告調正機関に対して参画申込みをし,「参画受付日」欄記載の日に参画受付がなされた後,「参画日(到着日)」に実際に参画し,「脱退日」記載の日に被告調正機関を脱退した。

(5)  Aの債権譲渡(甲C3,4の1・2)

Aは,平成15年10月27日,元妻である原告乙に対して,被告調正機関及び被告法人に対する参画時に出えんした財産の返還請求権を譲渡し,同月28日,被告調正機関に通知した。

3  争点

(1)  Aの原告乙に対する債権譲渡の効力

(2)  原告らが参画するに先立って行われた特講及び研鑽学校における勧誘の不法行為の成否(原告乙の請求するA分を除く。)

(3)  預託金返還請求権,信託財産返還請求権の成否

(4)  不当利得返還請求権の成否

(5)  参画契約の解除に基づく原状回復請求権の成否(原告乙の請求するA分を除く。)

(6)  被告調正機関の贈与税納付に関する不法行為又は債務不履行の成否(原告乙について)

(7)  被告法人の責任の有無

ア 法人格否認の法理の適用の有無

イ 被告法人による被告調正機関の債務の重畳的引受けの有無

4  原告らの主張

(1)  争点(1)(債権譲渡の効力)について

ア 脱退者の被告らに対する別件訴訟の判決によると,参画者の出えんした財産の一部については公序良俗違反による不当利得返還請求権が認められているが,どの範囲で返還すべきかは,裁判所が諸事情を考慮して決められるのであるから,「債権の内容が一義的に確定していない」,「債権の特定性がない」との被告らの主張は失当である。

イ Aが債権譲渡をした目的は,原告乙が引き取った実子4人に対する教育及び生活支援並びに離婚した妻に対する慰謝料及び生活支援であり,人倫にかなったものであって,「一身専属的な権利」とか,「その性質が譲渡を許さない」との被告らの主張は失当である。

(2)  争点(2)(原告らが参画するに先立って行われた特講及び研鑽学校における勧誘の不法行為の成否)について

ア 不法行為該当性

被告調正機関の担当者の特講・研鑽学校への勧誘行為,ヤマギシへの参画・全財産持込み勧誘行為は,目的・手段・結果において到底社会的に許容されない不相当な行為であるか,インフォームドコンセントを欠如した違法行為であるか,詐欺行為であり,担当者の所為は民法709条の不法行為に該当する。よって,被告調正機関は,民法715条1項の責任を負う。

(ア) 勧誘

a 目的

特講及び研鑽学校への勧誘並びに参画及び全財産の引渡勧誘行為は,農事組合法人が知事認可に定められた法人の目的の範囲を逸脱し,かつ,全財産の引渡勧誘行為の目的が専ら被告調正機関及び農事組合法人の利益獲得にあるものであって社会的相当性を欠く。

b 手段

特講への勧誘は,特講及び研鑽学校がヤマギシへの参画及び全財産を提供させる目的を有していること,参画者から労働を搾取して被告調正機関及び農事組合法人の財産を増殖させることを目的としていること,離村者の実態が悲惨なものであることを秘匿してなされている。そして,特講及び研鑽学校においては,支配管理,監視,思想矯正・再教育,自由にものが言えないというヤマギシの村社会の現実を秘匿して,こうしたことのない「仲良し村」のごとき幻想を与え,物理的にも心理的にも逃げ難い状況下で,長時間拘束して脅迫的威嚇の下で自我(人格)の変容を迫り,自我(人格)を喪失抹消させてヤマギシの価値観を注入するというマインドコントロールの手法を駆使しており,参画及び全財産引渡しの勧誘の手段も社会的相当性を欠く。

c 結果

入村したら脱会しても全財産の返還を拒絶されることにより,離村後の人生設計を不能に陥し入れるという結果においても社会的に許容できない。また,雇用契約が結ばれているにもかかわらず,農事組合法人は賃金を支払っていない。

(イ) インフォームドコンセントの欠如

ヤマギシは,不実の告知,重要事項の不提供(不告知)を継続しているもので,インフォームドコンセントの欠如の違法があり,被告調正機関は民法715条1項の責任を免れない。

a 不実の告知

ヤマギシは,特講や研鑽学校受講者に,「①指導者や幹部といったものは存在せず,全体の意思はすべて研鑽によって決定される。②研鑽が重視され,研鑽の一致点が必ず見い出される。③ヤマギシには提案書という制度があり,個人が必要とするものは申し出て,外から買ってきてもらうことになっている。④腹の立たない人間になる。」等と説明しているが,実際には,①権力を握っている人間が存在し,権力が集中しており,組織を動かす立場にある者や精神的な指導者もおり,②研鑽の一致点は容易に見い出されず,力のある者が押し切っている,③提案がすべて受け入れられるわけではなく,懲罰的な意味で提案が拒否されることもある,④腹の立たない人間になるというのは全くの虚構であり,これらは,いずれも不実の告知に該当する。

b 重要事項の不提供(不告知)

ヤマギシは参画手続以前に,離村者が多いという情報を提供していない。

また,離村した直後の参画者の心理状態は不安定であり,ヤマギシ会を出たまま,自殺した人間が何人かおり,特講受講者においても,神経を痛めて精神神経科に入通院する例があるが,このような生命身体の安全性にかかわる重要情報も提供していない。

さらには,ヤマギシは参画者の財産持込みを,裁判に至ると「所有権の譲渡」と強弁するが,ヤマギシから受講者に対し,財産引渡し=ヤマギシへの贈与という説明は一切なく,全財産贈与という人生に大きな影響を及ぼす重要事項に関してなすべき情報提供,告知をヤマギシはしていない。

(ウ) 詐欺行為

被告調正機関は,3点セットの文書の断片的表現をたてにして脱会者に財産の返還を拒否しているが,それは明らかに最初から組織的にだましとることを企図していたことの証である。

すなわち,真実は受講者の全財産をだましとる意図があるのにないように装い,「だれのものでもない。」と受講者に申し向けて,受講者に「ヤマギシに所有権移転することがない。」旨錯誤させて欺もうし,誤信状態のまま参画申込受付に追い込まれた受講者に対し3点セットの文書に署名指印などさせて全財産をヤマギシに交付させる「返還義務のない出資契約」を結ばせ参画者の全財産を交付させてへん取したものであって,詐欺行為として民法715条1項の責任がある。

(エ) 契約締結上の過失

原告らは,参画契約前の上記不実の告知,重要事項の不告知がなければ,参画契約は未然に回避できたものである。よって,被告調正機関は,契約締結上の過失によって原告らが被った損害を賠償すべき責任がある。

イ 損害額

上記不法行為による原告らの損害は以下のとおりであり(詳細は別紙3の1~5),被告調正機関はこれを賠償する責任を負う。

(ア) 原告丙 883万0638円

(イ) 原告甲 5272万0953円

(ウ) 原告丁 330万3480円

(エ) 原告乙 3434万1919円

(3)  争点(3)(預託金返還請求権,信託財産返還請求権の成否)について

ア ヤマギシにおける参画契約は,上下の階級及び権力者がなく,対立や立場の違いがなく,村人全員が横一列の立場に立ち,個人を縛る統制や罰則もなく,個人が最大限に尊重され,衣食住の心配もなく,安楽に一生幸福に生活できるという一定の目的(信託法1条)のために財産や参画後稼いだ賃金の財産管理を委託するものであり,信託法の適用を受ける。

原告ら及びAの出えんした財産は,以下のとおりである(詳細は,別紙3の1~5)。

(ア) 原告丙 803万0638円

(イ) 原告甲 4922万7640円

(ウ) 原告丁 302万3480円

(エ) 原告乙 3122万1919円

(オ) A 3739万1848円

イ(ア) 原告ら及びAは,参画後次第にヤマギシの入村前の説明とかけ離れた実態に失望し,そのため被告調正機関との信頼関係が消失し,それぞれ,「信託の目的を達することが能わざるに至」り,上記各信託は終了した(信託法56条)。

(イ) 被告調正機関は,上記各信託に関し,分別管理義務(信託法28条),帳簿備付義務(同法39条1項),財産目録作成義務(同条2項)を怠り,委託者である原告ら及びAが帳簿等の閲覧を請求し,信託事務の処理について説明を求める権利(同法40条2項)を妨害するなどの善管注意義務(同法20条)違反もしている。

そこで,原告らは,それぞれ,被告調正機関に対し,本件各訴状の送達をもって上記各信託契約を解除する旨の意思表示をした。

(ウ) 原告らは,上記各信託において,委託者であると同時に受益者であるから,原告らは,委託者が受託利益の全部を享受する場合においては委託者はいつでも信託契約を解除できる旨定める信託法57条に基づき,本件各訴状の送達をもって上記各信託契約を解除する旨の意思表示をした。

ウ したがって,原告ら及びAは,被告調正機関に対し,本件信託契約に基づき,それぞれ,上記アに記載の金額の信託財産の返還請求権を有する。

エ 仮に,原告ら及びAと被告調正機関との間に,それぞれ,上記各信託契約がなかったとしても,原告ら及びAは,それぞれ,上記ア記載の各信託財産(相当額)を被告調正機関に対して寄託したものとみるべきであるから,原告ら及びAは,被告調正機関に対し,それぞれ,各消費寄託契約に基づき,上記寄託金返還請求権を有する。

オ 財産の出えんの法的性質が一種の出資であるとしても,返還義務の有無については,被告調正機関から全く説明がないし,参画者も脱退することを予定していないから,消費者契約法3条1項の趣旨,民法681条の規定を考慮すると,返還義務がないとすることはできない。

(4)  争点(4)(不当利得返還請求権の成否)について

ア 被告調正機関は,参画者の法的地位について説明することなく,特講・研鑽学校の受講者にマインドコントロールをかけて,自我の喪失に陥れ,それに乗じて参画を迫り,被告調正機関の用意した文書に署名をさせ,不当に利益を得ているが,以下のとおり,ヤマギシへの参画(出資)契約は,根本において憲法,民法90条の公序良俗に違反するものであり,原告ら及びAの締結した参画(出資)契約は無効である。

(ア) 参画時に書かされる誓約書には,「身・命」を無条件委任する旨の記載もあるが,個人の身体・生命を「無条件に委任」させる契約は,公序良俗に反することは明らかである。

(イ) ヤマギシ会は,参画時にすべての財産を持ち込ませ,離村後に返還せず,また,参画中の労働に対して対価を支払わないが,これは,憲法18条の「奴隷的拘束,苦役」そのものである。

(ウ) ヤマギシの村の中では,ヤマギシズム以外の思想や宗教を持った場合,迫害の対象となり,村を追われるが,そこでは「思想及び良心の自由」(憲法19条)や「信教の自由」(憲法20条)は保障されていない。

(エ) 離村者へ持込財産を返さず,労働の対価も支払わないというのは,生存権(憲法25条)の侵害である。また,1枚の紙切れによる財産収奪は財産権不可侵(憲法29条)に違反する。

(オ) また,ヤマギシ会による子供の「虐待」(二食の強制,父母と子との分離,個別研鑽と称する個室への強制収容と登校禁止,進学・就職の自由の抑圧等)は,子供の人権へのあからさまな侵害であり,子供の教育を受ける権利を踏みにじるものである。

本件と同種事案の東京地裁平成8年(ワ)第7072号事件判決(平成12年1月31日言渡し)においては,「本件参画契約において,脱退後も参画時に出資した財産の返還ができない旨定めている部分は公序良俗に反し無効というべきである。」として,被告調正機関に対し同事件原告が参画時に持ち込んだ財産のほぼ全額を支払うよう命じたが,本件原告ら及びAの締結した参画(出資)契約においても,脱退後も参画時に出資した財産の返還ができない旨定めている部分は公序良俗に反し無効である。

イ 仮に,財産(給料剰余金を含む。)の引渡しにつき,「返還義務のない出資契約」であるとしても,原告ら及びAについては,以下のとおり,詐欺,錯誤,信義則違反に当たる事実がある。

(ア) 詐欺による取消し

被告調正機関の担当者は,原告ら及びAの全財産(給料剰余金を含む。)をだまし取る意図があるのにないように装い,「だれのものでもない。」と原告ら及びAに申し向けて,「ヤマギシに所有権移転することがない。」旨欺もうし,誤信状態のまま参画申込みに追い込まれた原告らに対し,3点セットの文書に署名指印などさせて,全財産(給料剰余金を含む。)を被告調正機関に交付させる「返還義務のない出資契約」を結ばさせたもので,これは,詐欺による意思表示(民法96条1項)に当たる。

原告らは,本件各訴状の送達をもって,被告調正機関に対し,上記「返還義務のない出資契約」を締結する旨の原告らの意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

(イ) 錯誤による無効

「すべてのものは,元来,だれのものでもない。」というのがヤマギシズムの根本的な考え方(教義)であるから,そもそも「返還義務のない出資」により被告調正機関に所有権移転する余地はない。原告ら及びAも,3点セットの文書に署名した際の意識としては,「だれのものでもない。」,「無所有」などという抽象的なイメージしか抱いていなかった。

したがって,仮に「返還義務のない出資契約」により被告調正機関に所有権が移転したとすると,原告ら及びAはその旨の意識を有していなかったのであるから,意思表示の内容の重要な部分に錯誤(民法95条)があることになり,上記「返還義務のない出資契約」は無効である。

(ウ) 信義則違反

原告ら及びAが脱会した理由は,入会勧誘において標ぼうしていたことと実態とのかい離(殊に支配・被支配の事実,管理の事実,すべて研鑽により決定するとの事実のうそ等),不実の告知・重要情報の不開示,特講・研鑽学校における心理操作等社会的相当性を欠く非違行為がヤマギシ側にのみ存在したためである。

この事情の下では,被告調正機関が脱会者である原告ら及びAとの間で財産の精算をしなくてよいという根拠はなく,原告ら及びAが3点セットの文書に署名したことのみをもって財産(給料剰余金を含む。)を返還しないことは信義則に反して許容されない。

ウ 被告調正機関は,悪意の受益者(民法704条)である。

エ 仮に,悪意の受益者であるという主張が認められなかったとしても,判決により税務署長から贈与と認定された参画契約の一部が公序良俗に反し,無効であり,原告らが被告調正機関に対し,不当利得返還請求権を有するとされた場合には,少なくとも判決が自ら公序良俗に反し無効と判示した部分に対応する贈与税額については,被告調正機関は相続税法32条,同法施行令8条1号又は国税通則法23条2項1号により更正の請求をして,還付を受けることができるのであるから,現存利益があるというべきである。

オ よって,原告ら及びAは,被告調正機関に対し,それぞれ,不当利得返還請求権を有する。

(5)  争点(5)(参画契約の解除に基づく原状回復請求権の成否)について

ア 被告調正機関は,原告らに,「ゆりかごの前から墓場の後,子々孫々まで一切の生活を保護・保証する」,「a無階級 長なし」,「b機会均等」,「c専門分業」,「d一役三人制」,「e自動解任」,「f代表制 世話係制 委し合い」,「g権利なし・義務なし」,「h報償なし 罪罰なし」,「i報償なし 分配なし」,「j規則なし 監視なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」等と説明し,原告らは被告調正機関がこれを保障,履行するものとして全財産を出資し,参画したものである。

よって,被告調正機関は,「ゆりかごの前から墓場の後,子々孫々まで一切の生活を保護・保証」し,上記a~lを実行する義務を負う。

イ しかるに,ヤマギシの実態は,一部の幹部が支配,管理し,封建的圧政支配体制が厳然と確立しており,「ゆりかごの前から墓場の後,子々孫々まで一切の生活を保護・保証する」や上記a~lとは対極にある現代版奴隷制社会であった。

(ア) 原告丙の場合

a 原告丙は,ヤマギシから,「女の人は相手に合わせるというのが本当の生き方である」との思考を強要され,3回程度しか会ったことがなかったFと調正結婚させられた。これは,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」に反するものである。

b 原告丙は,次男Eの問題行動を知った世話係のNから「次男と丙さんは実顕地を出たらどうか。」と言われたが,離村するつもりがなかったので,uのv実顕地や規模の小さい実顕地への配置換えを提案し,その配置換えがEの希望でもあることを伝えたところ,「子供のいいなりになるような親は駄目な親だ。」と提案を一蹴され,「ヤマギシという要素を除いて,後は親子二人でやってください。子供もその方が落ち着くでしょう。」と言われ,離村を強要された。

このように,ヤマギシの実態は,「ゆりかごの前から墓場の後,子々孫々まで一切の生活を保護・保証する」,「a無階級 長なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」とは正反対である。

c 原告丙の長男Cは,w実顕地で村人にいきなり殴られて歯が折れた。Eは世話係のOから「ばかだ,ばかだ。」と言われ続け,その暴力的な態度に恐怖を感じ,何も言えずおびえて暮らした。長女Dは食事の打合せに遅れた罰として,一晩中,学育舎の外に出され,一睡もせずに学校へ行った。

これは,「a無階級 長なし」,「g権利なし・義務なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」や後記ウの「愛児に楽園を」に反するものである。

(イ) 原告甲及び原告丁(以下「原告甲ら」という。)の場合

a 原告丁は,重労働により肩と腰を悪くし,係に整体に行きたいと提案したが認められず,仕方なく診療所のマッサージ師にマッサージを受けたが,肩がはれ上がってしまい,針治療を受けて,その後しばらくして,整体へ行くことが認められた。

また,原告甲は,父親の23回忌で実家に帰る際,田舎で交通の便が悪いので車で行きたい,姉の姑の葬式に行きたい,たばこを吸いたい,姪の結婚式に参列したい,ドライブのために車を借りたいなどと提案したが,研鑽もないまま一方的に却下された。

これらは,一般の構成員の権利は抑圧され,ヤマギシのみは権利を独占して義務を負わない実態を示しているものであり,「g権利なし・義務なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」に反するものである。

b 原告丁は,衣生活部で働いたが,勤務時間を常に係から監視され,終了する時間の5分前でも食事に行こうとすると,「早すぎる。」と注意され,また,「どんなに労働時間が長くなっても,作業日報には10時間以上働いたことを書くな。」と言われ,実際より短い労働時間を記入させられた。

これは,「a無階級 長なし」,「g権利なし・義務なし」,「j規則なし 監視なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」に反するものである。

c ヤマギシでは,一部の幹部が優遇されており,原告丁は,幹部のPがふろに入るときの湯加減まで係から指示される始末であった。また,正月には,医者の妻などは特別優遇で,良い着物が用意されていた。

このように,ヤマギシの実態は,「a無階級 長なし」とは正反対の現代版奴隷社会である。

d 原告丁は,平成11年2月,原告甲が離村したことを理由に,調整所から実顕地を出ていくよう強要された。原告丁は,原告甲が離村した後も実顕地にとどまる意思を有していたが,村を出ていけと執ように責められ,平成11年4月に離村させられた。

原告丁は,参画すれば,「ゆりかごの前から墓場の後まで安心して仲よく暮らしていける仕組みを作っている。」との被告調正機関の説明を誤信し,これを同被告が保障,履行するものとして,全財産を出えんして参画したが,上記のとおり被告調正機関によって離村させられた。

(ウ) 原告乙の場合

a 原告乙の実父が亡くなり,相続問題が浮上した際,原告乙を含め親族間では,ゴルフ会員権を実妹に相続させ,その他の財産は法定相続分どおりに分けることで合意していたにもかかわらず,調整所のQは原告乙に対し,ゴルフ会員権を含めて法定相続分を相続するよう強要した。

これは,一部の幹部が決めたことを下に押し付けるもので,ヤマギシの上命下服の実態を示しており,「a無階級 長なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」に反するものである。

b 平成4年12月,t実顕地でサルモネラ菌による食中毒が発生し,多数の村人がり病した。原告乙は,研究所に配置されていたため,食中毒発生の事実を知っていたが,職場から口止めされ,ヤマギシは保健所にも届けなかった。

これは,「a無階級 長なし」,「g権利なし・義務なし」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」に反するものである。

c 原告乙は,研究所の和牛種畜部門で,獣医のRに言われ体調を崩した牛をつなごうとしたところ,牛が暴れ出し,牛に引っ張られて振り払った右手が棚にひどく打ち付けられ,人差し指の関節が砕けるという大けがを負った。ヤマギシはこの事故を職場や仲良し班の構成員に報告することもなく,原因の解明や安全対策の検討なども一切なく,原告乙の一方的な過失であると決め付けられた。

これは,「g権利なし・義務なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」に反するものである。

d 原告乙の次女Jは,大学部を辞め,参画者として育苗部で仕事を続けたいと希望したが,大学部退学を理由に拒否され,v実顕地の乳牛部配置にさせられた。

これは,「g権利なし・義務なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」や後記ウの「愛児に楽園を」に反するものである。

e 原告乙の三女Kは,小学校卒業を控えたころ,世話係のSに「中等部に行きたくない。」と言ったところ,その日から小学校を休ませられ,他の子供たちとは別棟の部屋に隔離され,朝から晩まで衣類のネームテープ付けをさせられた。食事も他の子供たちと一緒に食堂で食べることを禁止され,隔離された部屋に食事を運んで一人で食べることを強要された。

これは,「g権利なし・義務なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」や後記ウの「愛児に楽園を」に反するものである。

f 原告乙は,長男Lを引き取りたいと調正所に希望を出したが認められず,調正所のNから,「息子をそんなに引き取りたいなら,村を出て自分でやったらよい。」と離村を促されるようになり,その後,Nから,「長男の高校進学に備えて,慣れるために街へ行く準備をしたらどうか。」,「いつ村を出るのか。」などと執ように離村を迫られ,原告乙が係に離村する意思はないことをはっきりと伝えたにもかかわらず,調正所全員に「今,この時期,親がやるべきことは,子供と一緒に暮らして面倒を見ることだ。」と離村を迫られ,村を追放された。

これは,「a無階級 長なし」,「k対立なし 一体運営」,「l自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」に反するものである。

ウ 「愛児に楽園を」の債務不履行

(ア) 被告調正機関は「愛児に楽園を」とうたって,子供をすばらしい環境で育てたいと考えていた原告らを参画に導いていったものであり,原告らは,子供たちに楽園のようなすばらしい環境が提供されるものとして,全財産を出えんし,参画したものである。

「愛児に楽園を」の標語は,生産物販売車に書かれており,この標語を見て原告らはヤマギシに関心を持ち,特講に参加したり,子供を楽園村に参加させるようになった。特講では,テキスト「ヤマギシズム社会の実態」(甲17,98頁)に「心あらば,愛児に楽園を」と明記され,各実顕地の入口にある標柱にも「愛児に楽園を」のうたい文句が掲げられており,原告らはいたるところで「愛児に楽園を」と教えられ,参画へと誘導されていったのである。

しかし,ヤマギシズム学園の実態は,以下に述べるとおり,「愛児に楽園を」とは正反対であった。

(イ) ヤマギシ会が平成10年に「私立「やまぎし学園」設立の計画書」をa県に提出したことに対し,平成11年,a県が県下のヤマギシズム学園の小中学生7校にアンケート調査を実施した。そして,平成15年5月,アンケートの内容が公刊された(甲27)。

これには,入園の気持ちにつき「いやだった」が51.2%と半数を超え,親と会う回数については「月に一回くらい」が63.1%と圧倒的に多く,二食について「腹がへってつらかった」が43.8%と多く,朝食については「朝食がある方がよい」が76.5%と圧倒的に多く,罰としての食事抜きについては「あった」が48.4%も存在し,賞味期限切れの食物の支給について「あった」が65.9%,放課後の作業(実学)について「いつもしている」が77.7%に達していた(いずれも中学校の数値)。

朝の作業,休日の作業が常態化していること,世話係による私物の点検,手紙の封をしないで渡すこと,手紙の書き直し,手紙の開封,病気等につき世話係がなかなか対応してくれなかったこと,テレビも自由に見られないことが分かる。

ヤマギシズム学園の実態は,うたい文句「愛児に楽園を」に反しており,被告調正機関の債務不履行は明らかである。

エ 以上のとおり,被告調正機関の責に帰すべき事由により,同被告は,参画契約の債務の本旨の最も主要な部分を履行しなかったものであるから,原告らは,脱会の意思表示をもって,参画契約を解除した。

よって,原告らは,被告調正機関に対し,民法543条,545条1項に基づき,原状回復を請求する。

(6)  争点(6)(贈与税納付に関する不法行為又は債務不履行の成否)について

被告調正機関は,平成10年4月ころ,原告乙につき平成5年分贈与税等283万9900円を納付し,そのうち198万2000円については不当利得の現存利益がないと主張している。

しかし,被告調正機関は,別件訴訟(津地裁平成7年(ワ)第270号ほか)において,「出資が贈与ではない以上,出資に関し,贈与税の納税義務が発生しないことはいうまでもない。」,「出資が法律的に贈与でないことは明らか。」などと主張していた。

ところが,平成10年4月の新聞報道で贈与税納付の事実が発覚したが,被告調正機関が原告乙の分として,いつ,幾らの納付税額だったのかを明らかにしたのは,平成16年3月4日付け準備書面が初めてである。

税務署から贈与税の課税をされ,争うことなく納付してしまえば,原告乙が判決を得ても現存利益がないとしてその分を減額されることは被告調正機関にとって十分予見可能であった。

一方,原告乙は,財産の出えんは贈与ではない,所有権も放棄していないと一貫して主張し,被告調正機関も出資は贈与ではないと主張し,参画契約に当たっても贈与とか所有権放棄とか返還義務なき出資という説明をせず,参画者に贈与の意思がないことを知っていたのであるから,被告調正機関は,原告乙に対し,贈与税課税による不当利得の現存利益の減少を回避すべき注意義務があった。

したがって,被告調正機関は,名古屋国税局の調査に対し,贈与には該当しないとか,原告乙は贈与ではないと主張していると主張ないし争訟するなり,原告乙の言い分を直接聴取してほしいと主張するなり,原告乙に自ら連絡を取って状況を報告するなりして,原告乙に防御の機会を与えて贈与税課税を回避する義務を,信義則上の一般的注意義務として,あるいは参画契約に付随する義務として負っていたと解される。

ところが,被告調正機関は,原告乙の主張を国税局に伝えることもせず,直接聴取の要求も出さず,自ら争訟することもなく,原告乙に連絡することもせずに防御の機会を与えることをしなかったため,上記金額を贈与税等として課税・納付させられ,同額の現存利益が減少するという損害が発生した。

したがって,被告調正機関は,不法行為又は債務不履行により,上記金額を賠償する義務がある。

(7)  争点(7)(被告法人の責任の有無)について

ア 法人格否認の法理

被告法人に対して現実に出資したのは被告調正機関であるが,協議(研鑽)により,名目的に参画者の氏名を「組合員」の氏名としていること,被告らは,特講及び研鑽学校において参画者に被告らの関係や経理処理について説明した形跡はなく,参画者の中には,給料が支払われている形式になっていることを知らない者も相当数存すること,参画者の具体的な就業場所への配置は被告調正機関の世話係によって決められること,農事組合法人等で働く参画者には就業規則等の適用はないものとして扱われていること等からすると,被告法人の法人格は,少なくとも参画者に対する関係では形骸化しているから,法人格否認の法理により,被告法人も被告調正機関と同様の責任を負うと解すべきである。

イ 重畳的債務引受けについて

被告調正機関が法人格を有しない権利能力なき社団であるため,ヤマギシズム社会実顕地の産業経済活動における対外的な法律上の権利主体になるものとして,被告調正機関が設立主体となって被告法人を始めとする農事組合法人が設立され,農事組合法人が被告調正機関に代わって単位実顕地の不動産や生産財を取得所有し,消費者や各種団体に生産財を供給している。つまり,法人格を有しない被告調正機関が対外的に負う債務は,すべて対外的な法的主体である農事組合法人が重畳的に債務引受けをしているのである。敷えんしていえば,参画者が被告調正機関を脱退したときに,被告調正機関が負う参画者の持込財産返還義務や参画中の賃金から生活費等の経費を控除した剰余金で被告調正機関が受託している金員の返還義務についても,参画者の承認を条件として,承認したときは遡及的に債務引受けの効力を生ずることを内容とした被告調正機関と被告法人間の債務引受けの合意がなされていた。

原告らは,それぞれ,各訴状の送達をもって両被告間の債務引受けの合意を承認するから,引受けの合意時にさかのぼって上記債務引受けの効力が生じ,被告調正機関のみならず,被告法人も重畳的に財産返還等の義務を負う。

5  被告らの主張

(1)  争点(1)(債権譲渡の効力)について

ア 債権の特定性がないこと

Aに関し,「不返還約定がどの範囲で公序良俗に反するとされ,どの範囲で財産を返還すべきか」は具体的に確定されていないのであるから,結局,Aが取得することになる債権は特定もしていなければ,いまだ抽象的な権利というほかなく,譲渡の対象性を認められるほどの具体的な権利として確定はされていない。

イ 債権の性質が譲渡を許さないものであること

「債権ノ性質ガ譲渡ヲ許サズト謂フハ給付ノ性質上原債権者ノミニ給付スベキモノト認ムベキモノ謂フ。債権者ノ人ヲ異ニスルニヨリテ給付ノ内容ニ差異ヲ生ズル場合ハ勿論之ニ属スルモ(独民三九九条)必ズシモ之ニ限ラズ。一般ノ見解上債務者ハ原債権者ニ対シテノミ給付義務ヲ負ウモノ認ムベキ場合ハ又之ニ属ス。」(鳩山秀夫・増訂改版日本債権法論(総論)342頁)とされており,この関係では,「特定の債権者に対して弁済させるか,または少なくともこの者との間に決済させることを必要とする特殊の理由のある債権もまた譲渡しえない」(我妻榮・新訂債権総論(民法講義Ⅳ)522頁)とされている。

ところが,東京高裁平成14年2月27日判決(乙102)に従う限り,被告調正機関は離脱参画者に対し全面的かつ無条件の返還義務を負うものではなく,当該離脱参画者の個人的事情との相関関係で返還義務の有無,範囲が決まることになるというのであるから,「返還請求権」は特定の離脱参画者との個人的事情という一身専属的な要素との相関関係において,当該離脱参画者との間で決済させることを必要とする特殊の理由のある債権である。

その意味で,一種の一身専属的な権利であるというべきである。

したがって,もし,Aが被告調正機関に一定の返還請求ができる場合であっても,原債権者たるAに対してのみ給付されるべきものであるから,譲渡は許されないものである。

ウ 譲渡禁止の合意があること

すべての参画者は参画するに当たって,「誓約書」をもって,①「ヤマギシズム生活実顕地調正機関に無条件委任します」,②「しかる上は,権利主張・返還要求等,一切申しません」,③「以後,・・・物財は如何様に使用されても結構です」と被告調正機関に誓約をしており,上記東京高裁判決のいうごとく離脱参画者の個別事情によって「不返還約定」の一部が無効となる結果,離脱参画者に発生することがあり得る不当利得返還請求権が当然に譲渡できるなどとは予想しておらず,反対に,誓約書の誓約の趣旨からは,離脱参画者の個別事情によって発生することがあり得る不当利得返還請求権の譲渡を禁止する約定が当初から参画者と被告調正機関との間であったものと解するのは当然である。

エ 訴訟信託に当たること

そもそも,訴訟係属中になされたAの原告乙に対する債権譲渡は,実質的には訴訟信託(信託法11条)に該当し,許されない。

もし,本当に,Aが何らかの請求権を有しているのであれば,同人が訴訟を提起するべきであって,結果的に,あたかも原告乙を任意的訴訟担当にするようなことは,何らの正当性もないのである。

(2)  争点(2)(原告らが参画するに先立って行われた特講及び研鑽学校における勧誘の不法行為の成否)について

ア 被告調正機関の担当者は,原告らに対し,何ら不法行為を行っていない。

(ア) 「勧誘」について

a 特講・研鑽学校の目的

特講は,独断と偏見を排し,謙虚な態度で,だれの言うこともよく聞いて,主体的に考える考え方を身に付けることを目的とし,研鑽学校は,特講受講者が,研鑽会や作業を通じて,さらに深いヤマギシズムの理解や,研鑽態度の修得等,すなわち,ヤマギシズムの理念を科学的に究明し,実証的に理解・体得することを目的としており,特講,研鑽学校,参画は,それぞれ別個の完結的な目的を指向し,相互に手段目的の関係はないのであり,特講や研鑽学校は参画勧誘目的で開催されているわけではない。

b 特講・研鑽学校への勧誘の方法

特講への勧誘方法は,出版物,実顕地生産物に記載された特講の案内等によって,だれが,何のために特講を開催するかを明らかにした上で,自発的な参加を待つだけであり,詐術や害悪の告知等の不相当な手段は一切用いていない。ただ,特講の内容は,特講の方法からの制約により,先入観を持って参加することは望ましくないため,広く公表していないだけである。

研鑽学校については,特講を終了してからしか入校できないので,特講を受けたことが入校の動機ではあるが,入校を希望する者は自発的意思によって入学する。

c 特講の実態

特講の会場は人里離れた場所ではなく,所持品も参加者の同意のもとで自己申告で預けてもらうだけであり,参加者が途中で家に帰ったり,会場から出たりすることは自由であり,物理的に滞在を強要したり,特講会場の外部との連絡を遮断したりはしていない。参加者が外部から完全に隔離されているわけではない。

特講の方法としては,進行係は単に問いかけをし,これを受けて,参画者が思考を深めるという方法が採用されている。進行係の発言や態度が参加者の思考に過大な影響を与えることは特講の目的に背馳するから,進行係は,一定の意味付けをするような言説を長々としたり,結論のための発言をしたりすることはない。参加者がどんな回答をなし,いかなる意見を言っても,進行係は,問いかけをひたすら繰り返し行うか,あるいは,もっと考えるよう言うだけである(答えても答えても質問が繰り返されるソクラテス式問答法は,アメリカの大学では日常的に取り入れられているところである。)。しかし,考えるか考えないか,いかに考えるかは,根本的には参加者個人の問題であり,それを外から強制することはできないし,そのように指導することもできないため,はじめから監視役はいないし,リーダー役も指導員もいない。

また,思考を妨げる睡眠不足は危険なものと考えられ,全体研鑽会で参加者が多いときは結果的に早朝にまで及ぶこともあるが,そのようなときは起床時間を遅くし,昼寝の時間は毎日設けてあって,睡眠時間にも十分に配慮したスケジュールにしている。

以上のとおり,特講は,一定の結論を押し付け,教え込むという方法をしていないことは明らかであり,物理的にも,精神的にも,全く強制の要素はない。

d 研鑽学校の実態

研鑽学校の会場は人里離れたところではなく,参加費も妥当な価格に設定されており,途中で帰ることは自由であり,その場合には日割計算で参加費が返還される。また,研鑽学校は規則正しい生活リズムで行われていて,適度な運動と十分な栄養と睡眠の上で行われており,後述する作業は強制ではなく,体調不良の場合には休むことも診療を受けることもでき,いったん帰って別の機会に再入学することも可能である。

研鑽学校は,研鑽会と研鑽作業がその主なプログラムであるが,研鑽会は,提示されたテーマについて意見を出し合いながら考えるというやり方で行われ,世話係が何かを正しいとしたり,間違っているとかの評価を下したり,結論づけたり,誘導したりすることはない。また,研鑽作業は,研鑽会において考えたテーマについてそれぞれが実践の中で体得するために行われるもので,農作業や,自分たちの生活のための清掃・食事準備・洗濯等の作業がこれに当たるが,年齢や体調に合わせた無理のないものが用意される。

なお,被告調正機関への参画を申し込むには,ヤマギシズム生活を十分に理解し,それが実践できる程度にヤマギシズム理念を体得していることを要するため,研鑽学校を修了していることがその基礎資格となることから,研鑽学校においては,被告調正機関やそれへの参画の意義についての説明がプログラムに組み込まれているが,研鑽学校は,特講を受講した人のうちさらにヤマギシズムについて深めたいと希望する人たちの研修の場であって,被告調正機関への参画を勧誘するために開催されているものではない。

e 参画への勧誘の方法

参画は,研鑽学校の終了時の各人の希望によるものであって,特に勧誘はしておらず,希望しても被告調正機関の方から断る場合もある。もし,被告らに組織ぐるみで善良な市民の人生と全財産を違法な心理操作によって収奪するなどという目的があったならば,原告らが特講を受けた段階で参画を積極的に勧誘するはずであるが,特講では参画については説明もしないし,まして参画の勧誘もしないのであり,参画希望を断る場合があること自体からして,上記のような目的がないことは明らかである。また,参画するかどうかを決定する要因はすべて事前に明らかにされていたからこそ,研鑽学校を終了した者の4分の1程度の者しか実際に参画しないのであり,特講や研鑽学校において原告らの主張するような違法なマインドコントロールを行っていないからこそ,参画する者の数が特講や研鑽学校の受講者に比して少ないのである。

(イ) インフォームドコンセント

参画するまでには,いくつもの段階を経ながら,その都度,説明し,質問に答え,納得と熟慮の機会が設けられているのであって,参画者はこれらプロセスを経て,まさに自己決定権を行使して,参画したものである。

a 不実の告知

原告らは,「①指導者や幹部といったものは存在せず,全体の意思は研鑽によって決定されること,②研鑽が重視され,研鑽の一致点が必ず見い出されること,③ヤマギシには提案という制度があり,個人が必要とするものは申し出て,外から買ってきてもらうことになっていること,④腹の立たない人間になることについての説明が,不実の告知に当たる。」と主張する。

しかし,特講では参加者に上記のような被告調正機関の組織,運営方法等についての説明は一切していない。

また,①については,指導者や幹部は存在しない。②については,皆が自由に発言するので,全員の意見がなかなか一致しないことがあることは当然のことで,「研鑽の一致点が見い出されるはずである。」ということは言うが,「研鑽の一致点が必ず見い出される。」などと決めつけて言うことはない。③については,提案は,研鑽された結果,受け入れられることもあれば,そうでないこともあるのは当然であり,そもそも,「私意尊重公意行」とは,特定の個人の私意をそのまま尊重するということではないことは,参画者であればだれでも理解していることである。④については,ヤマギシズムを完全に体現すれば「腹の立たない人間になる。」のは当然であるが,それは飽くまで目標であって,被告調正機関は,参画しさえすれば直ちに「腹の立たない人間になる。」というようなことはどの段階でも告知したことはない。

b 重要事項の不提供(不告知)

原告らは,「離村者,自殺者・精神不安定者の情報を告知しないこと,財産の所有権の帰属がどうなるかの説明をしないことは,インフォームドコンセントを欠如した違法行為である。」旨主張する。

しかし,出版物やテレビ報道によって,相当数の離脱者のいることは,既に明らかになっていたのであり,被告調正機関は,離脱者の数を公表したことはないが,殊更秘匿したこともない。また,そもそも,離脱者の数を公表しないからといって,インフォームドコンセントを欠如した違法があるとはいえない。原告らの主張する自殺や精神不安定の原因は根拠のない推測にすぎないし,自殺者や精神不安定者がいたとしても,その割合が社会全体の統計数値と比較して有意な相違があるとはいえない。また,そもそも,自殺者や精神神経科に入通院する例があったとしても,被告調正機関がそのことを告知しないからといって,インフォームドコンセントを欠如した違法があるとはいえない。出資の意味や,参画者が参画後に脱退することがあっても,参画時や参画中に出資した物財は一切返還されないということは,参画受付のときに参画希望者には十分説明してきた。また,新聞やテレビの報道によっても公表されていた。

(ウ) 詐欺行為

特講から参画に至るまで,被告調正機関の側には何らの欺もう行為もない。

イ 各原告の出資金額

原告らは,いずれも,自発的に特講や研鑽学校に参加し,自発的に参画したものである。なお,原告らの出えんした財産は,別紙4の1~5,5に記載のとおりである。

(3)  争点(3)(預託金返還請求権,信託財産返還請求権の成否)について

ア 原告ら及びAが信託財産返還請求権や預託金返還請求権を有しないこと

(ア) 物財の出資について

参画契約は,一体理念,無所有理念,無我執理念を現実のものとして実践しようとする者が,ヤマギシズム生活の実践・顕現を目的とする団体である被告調正機関の構成員の一員として加入することを目的とする契約であり,人財(身・命・知・能・力・技・実験資料の一切,権益・位階・役職・職権等の一切)と物財(田畑・山林・家・屋敷・不動産の一切,現金・預金・借入金・有価証券等の一切)を被告調正機関に出資し,しかもこれら出資に伴う一切の権利をあらかじめ放棄して,被告調正機関の構成員となり,出資した物財や人財及びそれらの果実を,自らを含む現在及び将来の被告調正機関の構成員の共用に供すること,現在及び将来の他の構成員と共に終生ヤマギシズム生活をすることを約し,かつ,現実に人財と物財を出資する契約である。

ここに出資とは,事業(被告調正機関の構成員が,無所有共用一体の理想社会の実現を目指して,ヤマギシズム社会実顕地において,一種の部分社会を構成し,農業を中心にした生産活動等に従事しながら,ヤマギシズム理念に基づくヤマギシズム生活を実践し顕現している総体)を営む資本として,金銭・その他財産,信用・労務等を,自己もその構成員となる被告調正機関に出えんすることである。

そして,出資の目的は,①無所有と無我執の理念を現実化する,②被告調正機関の財産的基礎(構成員が活用する対象)を形成する,③参画者同士の完全対等性をもたらすという点にあるところ,仮に,出資に関し出資者として何らかの権利を持てば,それだけで無所有や無我執とはならないし,権利の大小によって完全対等性も確保されないし,その権利の行使によって被告調正機関の財産的基礎は危うくなるから,出資の目的を達成するためには,自ら所有する財産を出資するだけでは不十分である。

そのため,参画に際しては,「私は,此の度,最も正しくヤマギシズム生活を営むため,本調正機関に参画致します。ついては,左記物件,有形,無形財,及び権益の一切を・・・ヤマギシズム生活実顕地調正機関に無条件委任致します。」,「しかる上は,権利主張・返還要求等,一切申しません。」,「以後,私は調正機関の公意により行動」する旨の誓約書をもって,物財の出資に関しては,参画中はもちろん,脱退後も,権利主張も返還請求も一切しない旨誓約がなされるのである。無条件委任ということで,出えん者において設定した用途に使用する義務や受託者としての義務を被告調正機関が一切負うものではなく,出資が信託でないことが明らかにされているし,「権利主張・返還要求等,一切申しません。」というのは,参画した後は,参画中はもちろん,仮に脱退することがあっても物財の出資に関する一切の権利をあらかじめ放棄するということであるから,これにより出資が預託ではないことが明らかにされている。

つまり,出資により,出資者の物財の所有権は被告調正機関に移転され,出資者は出資に関する権利をあらかじめ放棄し,いかなる意味においても,物財の帰属主体ではなくなって無所有となり,以後,出資にかかる物財は,現在及び将来の参画者によって共用し,共活すべき対象となるのである。

上記のような出資に伴う一切の権利(債権)を放棄して行う出資は,民法の制約の下,ヤマギシズム社会実顕地という部分社会の中だけでも無所有世界を制度的に実現するための方法として案出されたもので,被告調正機関の発足当初から採用されており,すべての参画者は,その内容を理解してこれを承諾し,脱退を停止条件とする返還請求権のような一切の権利を放棄して参画しているのである。

以上のとおりであり,出資は,参画者を信託設定者兼受益者,被告調正機関を受託者とする信託ではない。また,参画者が,参画資格に伴う義務として被告調正機関に対して行う出えんは,出資であって,預託金ではない。

(イ) 人財の出資について

a 人財とは,身・命・知・能・力・技・実験資料の一切,権益・位階・役職・職権等の一切のことであるが,参画者本人そのものを構成する肉体や知能,身体的能力,経験,年金受給資格そのものや推定相続人たる地位そのもの等も人財であり,労働力そのものも人財である。そして,参画時に人財を出資した結果,参画者に受給権がある年金や各種諸手当,参画者が受け取る相続財産や,参画後の参画者の労働の成果(その変形物である給料)は,何らの手続をすることなく,当然に被告調正機関に帰属することになり,現在及び将来の全参画者及びその扶養家族のために費消されることになる。

b そして,参画者は,研鑽学校において「無報酬」,「給料なし」等のテーマを対象に十分に研鑽しており,「給料なし」等のヤマギシズムの機構・運営に賛同し,どんなに働いても「タダ働き」であることを承知した上で,「無報酬」,「給料なし」の生き方を実践するために被告調正機関に参画するのであり,「タダ働き」は当然のことである。

c なお,農事組合法人等から参画者に対し名目上給料が支払われている形になっているが,これは,飽くまで家族労働として働いた労働の成果を被告調正機関に移転させるための会計処理にすぎない。すなわち,参画時に出資される物財は,ヤマギシズム生活に必要な生活基盤の形成にだけ用いられ,参画者の日常生活の費用については,被告調正機関が農事組合法人等を設立し,農事組合法人等の産業経済活動を通じて上げた収益を被告調正機関に移転させ,これを参画者の日常生活の費用に当てることとされている。そして,その移転の方法として,労働基準法24条の関係もあり,農事組合法人等の仕事(雇用契約のない一種の家族労働)をしている参画者に対し,給料や従事分量配当金を支払った形にし,給料や従事分量配当金を被告調正機関に出資するという会計処理方法が採られている。給料額も,労働時間や労働内容によって差異があるのではなく,扶養者等の数で生活費の額が異なるのに応じて給料額に差異があり,扶養者数が同じ者には同額を支給する形にしており,給料名下に支払われるものの,その実質は労働の対償としての給料ではない。

これを人財の出資との関係で説明すると,参画者は参画時に労働力を含む人財を被告調正機関に出資しているのであるから,農事組合法人等に労働力を提供しているのは,被告調正機関であるということになるが,具体的な労働力は参画者個人の肉体と切り離して存在するものではないから,実際に労働するのは参画者個人であるところ,被告調正機関が農事組合法人等に労働力を提供した結果,農事組合法人等に生じた労働の成果(生産物の売上利益等)を,参画者に対する給料や従事分量配当金の形で,参画者を介して,被告調正機関に移転しているということになる。

d したがって,計算上,給料から生活費を引いた剰余金なるものが観念できるとしても,その剰余金が,当該給料の出資者たる特定の参画者に帰属する余地はなく,したがって,剰余金の信託や預託が成立する余地はない。

イ 原告ら,A及び被告らは,いずれも,物財や人財の出資の趣旨を理解し,これを承諾していたのであり,参画時に出資した財産や原告らの主張する剰余金につき,信託設定契約を締結する意思や脱退時に返還請求ができるとの意思は有していなかった。

なお,原告らが参画時に出資した財産(上記前提事実(3)記載のような処理をされた後の金額にして,脱退に当たり渡した現金等を控除する前の金額。)及び脱退に当たり被告調正機関が原告らに渡した財産は,別紙4の1~5,5に記載のとおりである。

また,上記のとおり,名目上の給料額は,労働時間や労働内容により決められるものではなく,剰余金の金額が,そのまま離脱参画者の人財(=提供された労働力)に由来するものとはいえない。さらにいえば,参画者の出資にかかる給料は,現在及び将来の構成員の日常的な費消に当てられて当然になくなることが予定されている。

(4)  争点(4)(不当利得返還請求権の成否)について

ア 参画契約が公序良俗違反でないこと

(ア) 被告調正機関に参画することは,終生ヤマギシズム生活をすることを目的として,実顕地に,身ぐるみ・家族ぐるみ・財産ぐるみ移住することであり,いったん参画すれば,実顕地においては,出資の多寡に関係なく食べること,着ること,寝ること,職業,慰安,結婚,育児等衣食住生活一切が保障され,病気になっても老いて働けなくなっても,安楽に一生を幸福に生活でき,死後の憂いもなく,子孫まで安心して生活することができるのである。したがって,被告調正機関に参画することで,生存の基礎は強固になるのであり,被告調正機関への参画は,何ら公序良俗に反しない。

被告調正機関は,参画者に対し自律的にヤマギシズムに則した生活をするよう期待するだけで,ヤマギシズムに則した生活を強制することはないし,除名という内部統制方法が用意されていないので,参画者の意思に反して強制することもできない。外部に現れた行動に対してすら何ら強制できない被告調正機関が,参画者の思想に強制を加えることなど到底できない。

(イ) 被告調正機関は,ヤマギシズムの実践意思をなくした参画者に対しては,自由に脱退することを認めており,実際に,様々な理由で被告調正機関を脱退する参画者がいる。

脱退する場合には,無一文で被告調正機関から出ていかなければならないことになるとしても,それは,参画時の参画者の意思決定の結果であって,被告調正機関が脱退の意思を抑圧しているものではない。すべての参画者は,脱退しても出資の返還を受けられないことを承知し,実際に参画するかどうかについて熟慮した上で参画するのであり,脱退を考える時になって初めて出資の返還が受けられないことに気が付くものではない。

また,そもそも,マイナスの出資をしたり,少額の出資をしたにすぎない者,あるいは,脱退後の生活を何ら案じない者にとっては,脱退をした場合にも出資の返還が受けられないこと自体によって,脱退の意思が抑圧されることにならない。

よって,脱退後も出資の返還を受けられないことは,脱退に関する個人の自由の侵害には当たらない。

なお,参画時に出資した物財は,参画者が脱退しても被告調正機関に帰属し続けるのに対し,給料の出資の原因となる人財の出資については,人財が参画者の人格と切り離して存在するものではないから,参画者が脱退すれば,それ以降は被告調正機関に帰属する理由がなく,脱退後の労働の成果は離脱参画者が自分だけに帰属させることができるから,参画時に人財の出資をしたからといって,そのことは,基本的には,脱退をする際の妨げにならない。

脱退しても財産の返還を受けられない制度を採っている理由は,上記(2)で述べたとおりであり,合理性がある。

原告ら及びAも,脱退しても財産の返還を受けられないことを理解した上で,被告調正機関との間で参画契約をなしたのである。

(ウ) 仮に,参画時に出資した物財については不返還約定の効力が信義則により制限されることがあるとしても,農事組合法人等が参画者に支払う給料については,その実質が農事組合法人等の利益(剰余金)の分配であり,その額は参画者が出資した人財=労働能力とは何ら関係なく決定され,現在及び将来の構成員の日常的な費消に当てられて当然になくなることが予定されていることからすると,給料剰余金についてまで不返還約定の効力が信義則により制限されるべきものではない。

(エ) 被告調正機関は,脱退することになった参画者には,個々の場合に応じて,衣類や,家財道具,自動車や当座の生活費等を交付したり,その人が仕事や住む家を見付けるまでの衣食住を保障したり,十分な生活資金を得さしめるためにヤマギシの生産物を販売する供給所で住み込み従業員として働いて給料を支給するようにしたりして,元参画者の生活が成り立っていくように配慮はしてきており(出資額とは一切連動しない。),ほとんどの場合は円満に脱退しており,後から返還を要求してくるような元参画者は極めてまれである。

原告らの脱退時の提案と被告調正機関の対応は別紙5のとおりである。

イ 詐欺,錯誤,信義則違反について

原告ら及びAは,被告調正機関に対する出資が返還義務のない出資であることを理解した上で,被告調正機関との間で参画契約をなしたのである上,被告らの側に社会的相当性を欠く非違行為はないから,詐欺,錯誤,信義則違反はない。

ウ 不当利得にかかる現在の利益

原告乙の参画時の物財の出資と参画後の「給料」の出資については,被告調正機関に対して,283万9900円の贈与税が課せられた。そのため,被告調正機関は同額の贈与税を支払ったので,贈与税相当額(ただし,上記のうち参画時の出えんに対する部分198万2000円)の利益は現存していない。

(5)  争点(5)(参画契約の解除に基づく原状回復請求権の成否)について

原告らは,「被告調正機関が,原告らに対し,「ゆりかごの前から墓場の後,子々孫々まで一切の生活は保護,保証される」,「無階級,長なし」,「機会均等」,「規則なし,監視なし」,「対立なし」,「服従なし」などの各事項を保障することが,参画契約における被告調正機関の債務の本旨の最も主要な部分であるにもかかわらず,これらが履行されていない」旨主張するが,上記のような各事項はいずれも抽象的な理念をいうものにすぎず,その債務の不履行という事態が観念し難いことに加え,本件全証拠によるも,参画契約の解除を可能とするような債務の不履行は認められない。

以下,幾つかの点を補足する。

ア 「ゆりかごの前から墓場の後,子々孫々まで一切の生活は保護,保証される」について

被告調正機関は,参画者である限り「ゆりかごの前から墓場の後」までの生活を保証しているが,しかし,離脱参画者や参画者の子孫であっても参画者でない者について「未来永劫の寄食者」を予定しているものではないことは言うまでもない。

本件でも,参画中の生活について,原告丙が,参画後6年経った時点で参加した第1186期実顕地二週間課程研鑽学校における感想文(乙A37)において,「私のあり方が,実顕地や,学園が気に入ったからここにいるだけで,生活の心配はしなくていいし,こんな便利なところはないと思っている。」と言い,原告乙が,参画後7年半経った時点で入った「振出寮」における「振出寮でこれまでやってみて」(乙C61・1枚目)において「豊かな食生活,衣生活何もかも用意されている」と言っていたように,生活は保障されていたのである。

また,原告らには,脱退後も,同人らの希望によって被告法人の外部従業員としての雇用を確保して生活ができるように給料も配慮していた。原告乙は提訴後も被告法人の外部従業員としての勤務を継続しているのである。なお,原告丁も衣生活部において引き続き稼働したいと希望したが被告法人における仕事ではなく被告調正機関ではその希望に添えなかったのである。

さらに,原告甲の希望により同人の次男Hにも被告法人の外部従業員としての雇用を確保していたし,原告丙の希望により同人の長男Cに就職先を世話し,長女Dの中等部や高等部の学園費用138万6000円やy高校の学費15万3220円を負担したのである。

また,原告丙,原告丁及び原告乙に離村を強要したことがないことは上記のとおりであり,被告調正機関では,だれにしろ離村を強要することがないことは,例えば,昭和58年11月から平成元年1月までの5年3か月の間に研鑽学校の世話係を24回もした津地方裁判所平成12年(ワ)第176号事件原告Tは平成11年よりz実顕地における仕事には一切従事せず,現在では,月のうち半分程度はz実顕地で寝起きしているもののそれ以外の時はどこで何をしているのかz実顕地の参画者のだれにも分からないのである。しかし,依然として参画者であるから実顕地における衣食住はもちろんのこと国民年金,国民健康保険料は被告調正機関が負担し,それ以外に,T夫婦の提案に応じ毎月10万~11万円の現金を渡し,それ以外にa’県で一人暮らしをしているTの母親に対する生活費として毎月3万円(平成15年までは月額2万3000円)を送金し,母親の医療費やT夫婦の携帯電話代,外食代,Tが自由に使用しているz農事組合法人所有名義の車両のガソリン代,Tの妻Uの保育士登録料等を支出し,その外に,Tの長女V(a’農業大学校在学)の学費一切と生活費一切を支出し,平成15年中には都合412万2604円の現金を支出しているのであるが,かかるTに対してすら離村を強要したことはなく,現在も参画者のままである。

イ 原告丙の調正結婚は幸せを実感できるものであったこと

原告丙はFと再婚したことについて,幸せという実感を持っていた(原告丙本人調書21頁)。

ウ 原告乙に対し法定相続を強要したことがないこと

原告乙の父Wの死亡により発生した遺産相続については,原告乙,Q,X(後に原告乙がYに替わらせた)の3人で研鑽会をしたものであって,原告乙の理解と納得により法定相続をすることになったのであって,決して強要したものではない。

このことは,原告乙がQの言いなりにはなっていなかったことを明らかにする以下の事実からも分かることである。

(ア) 原告乙の父Wが死亡して原告乙に相続が発生したときに,参画者としての遺産相続の在り方を研鑽した際,原告乙は,Qから手紙(甲C6の1)を渡すように言われたが,妹には渡さなかったという(原告乙本人調書23~26頁)。

(イ) 原告乙の亡父Wの遺産である土地の持分10分の7は,母と原告乙ら子供3人が相続し,母持分7420分の2704,原告乙ら子供がそれぞれ持分7420分の830の共有となり,建物は母が全部を相続した(乙C40の1・2)。

当初の「人財」の出資の趣旨から,原告乙の持分7420分の830は被告調正機関に出資されたのである。

しかるに,原告乙は土地の共有持分について,原告乙は陳述書(甲C1・8頁)において,「法定相続分で分割することで親族から了承を得たことをQに報告すると,Qは私が相続した持分の土地を母や兄弟に買い取ってもらい現金化して持ってくるよう執ように指示しました。私はこれ以上親族と不和になりたくなかったので断ると,Qは怒り出しました。結局Yが仲裁に入り,土地は共有名義のままになりました。」という。

この点について,原告乙は,「やりたくありませんでした。」と自己の意思を貫徹したことを明らかにする(原告乙本人調書26頁)。

Qが「怒り出しました」というようなことがあったとは考えられないが,それはともかくとして,原告乙はQの意思に反して自己の意思を貫徹できたということである。

そもそも,母親が住んでいた家は母親が単独で相続したものであるから,その敷地の原告乙の持分を母親や姉妹に買い取ってもらっても,何ら母親の居住は脅かされず,しかも現金化できるのであって,家に「母は住んでました」ということは,その敷地の共有持分の現金化の妨げにはならなかったのであるから,結局,原告乙の意思でやらなかったのである。

なお,この時現金化されなかった原告乙の共有持分は脱退時まで原告乙の名義のままであったので,被告調正機関は,脱退時にこの共有持分を原告乙に渡したのである。

エ 原告丁が整体治療を受けたこと

原告丁が整体に行ったことは陳述書(甲B1・7頁)で認めるところであり,それまでには何回もマッサージや針治療を受けていた(原告丁本人調書48~49頁)。

オ 原告甲の出張提案は応じられていたこと

原告甲は,気晴らしの出張を繰り返していたのであり,ときには病気でもない母親の病気見舞を口実に研鑽学校の途中でも気晴らしの出張に出かけていたのである。

カ 原告丁がいう「一部幹部の優遇」はなかったこと

原告丁は「PやZ(A’の妻。B’が正しい)の服は本人達からの提案がなくても作るよう指示されており,上層部の特権があったことは確かである。」と主張するが,Pの服を作ったのは,4年間に3着で,数の上ではほかの者とは特に差はなかった(原告丁本人調書46~47頁)。

体型が通常でないと思っている女性(Pも太っている体型)が他人の「採寸」そのものを嫌がることはあり得るが,原告丁が縫製した実績をつけている記録には「できあがり」の寸法が書き入れてあり,Pの場合でも例外ではなかったので,原告丁自身が採寸したかどうかは別にして,だれかが採寸していたことは明らかである。

キ 原告丙の長男の歯が折れたことはないこと

原告丙は,「長男は,w実顕地で村人にいきなり殴られて歯が折れた」と主張するが,殴られてもおらず,歯が欠けた(研磨だけで直った程度)だけである(原告丙本人調書23~24頁)。

ク 原告丙の長女Dが一晩中学育舎の外に出されたことはなかったこと

原告丙の長女Dは,平成2年4月にヤマギシズム学園w幼年部に入部し,平成13年3月に高等部1年次を退部するまでの11年間をヤマギシズム学園の学育舎で過ごしたが,原告丙の主張によると「長女も初等部の時,食事の打合せに遅れた罰として,一晩中学育舎の外に出され,一睡もせず学校に行った」ことがあったという。

確かに,初等部に在部していた小学生に反省を求めるために学育舎の外に短時間立たせることがあったことは想像に難くなく,原告丙の長女Dに対しても反省を求めるために学育舎の外に短時間立たせることがあったかもしれないが,「一晩中学育舎の外に出され,一睡もせず学校に行った」などということは全くないのである。

仮に,原告丙の長女Dに対して反省を求めるために学育舎の外に短時間立たせることがあったとしても,11年間のうちのたった1回の出来事であり,Dはその後も中等部,高等部と進級してきていたのである。

ケ 原告乙の次女Jの職場配置は参画者の立場での調正の結果であったこと

原告乙の次女Jは高等部3年次の平成8年2月に参画申込みをして参画し,同年3月14日に大学部に入部したが,平成9年10月4日大学部2年次で退部したもので,退部した以上,大学部・高等部における「農」の場である育苗部での仕事ができなくなるのは当然であったし,退部後は,次女Jは原告乙が配置されているところとは別の実顕地に配置されたいという希望であったから,v実顕地は希望に反したものではなかったが,仮に希望に反していたとしても,既に,参画者であったから,職場配置について調正されることは当然であった。

コ 原告乙の三女Kの個別研鑽について

Kは昭和63年4月ヤマギシズム学園w幼年部に入部し,平成10年5月20日高等部を退部するまで10年間,ヤマギシズム学園の学育舎で暮らしてきたが,初等部から中等部に進級するときに,原告乙主張のような隔離=個別研鑽が1回だけあったとしても,10年間のうちのたった1回の出来事であり,その後も原告乙の希望により中等部,高等部と進級してきていた(乙C59)のである。

いうまでもなく,個別研鑽とは,窓もあって部屋の内からも外からも鍵が掛けることができない構造の居室で学園世話係と子供が一対一で話すことをいうのであって,学園世話係が反省を求めて子供にその部屋にいるように命じることはあるが,子供は自由にトイレには行けるのであるし,その気になれば出入りは自由に行えるのであるから隔離ではない。

もっとも,Kは「お父さんとお母さんが村人だから,行きたくないけど行かないとダメだから中等部に入る」と中等部入学申込書(乙C56)に書いているように,中等部に行くことは原告乙の強い希望であって,そのことはヤマギシズム学園b’初等部世話係が分かっていたので,Kに原告乙の思いを分からせるために個別研鑽をしたものであって,原告乙の意思に反していたものではないし,最後にはKも原告乙の思いを十分に理解して,t実顕地にある中等部予備寮に来て,中等部に進む準備をしたのである。

そのときにKが書いた「中等部予備寮を出発するにあたって」(乙C57)には「私は中等部にいける資格をきのうやっと中等部でやらせてもらえることになってすごくうれしかったです。けど家庭研鑽一泊で,試験を受けるかどうかもまだ分からなかったし,まだうかってなかったから一日の間に中等部は何でいきたいの?とか中等部でどういうふうにやって行きたいとかの研鑽会をお父さんとお母さんとやって,試験を受けて,「合格です」といわれた時は夜の九時すぎでした。」と書いてあるように,そのころには,原告乙の希望どおり,Kも中等部に行くことを納得していたのである。

このように,ヤマギシズム学園では「子供の言いなりにはならない」という姿勢で子供に臨んでいたのであるが,かかる学育方針が決して子供にとってマイナスでなかったことは,原告乙の長男Lについては,AがLを連れ出した直後の平成9年4月下旬に原告乙にあてた手紙(乙C55)において,「Lは元気良くc’中学校へ通っています。勉強の方はあまりやっていなかったようで,大分苦労していますが,クラブ活動は野球部に入部してクタクタになるまでやっています。生活のリズムは今一つの様子ですがこちらでの生活自体はすぐに慣れて,どこでもやれる一端がうかがえます。先生方の反応は一様にこの子は今までに見たことない感性の持ち主だとビックリしています。村でやって来たことが表出しています。」とヤマギシズム学園の学育の成果を報告してきていたことからも分かるのである。

(6)  争点(6)(贈与税納付に関する不法行為又は債務不履行の成否)について

ア 被告調正機関が贈与税を納めたことが原告乙に対する不法行為ないし参画契約の債務不履行にならないこと

参画者の出資は,出資義務の履行を前提とし,ヤマギシズム社会実顕地における最も正しいヤマギシズム生活の生活者たる地位を得るのであるから,その間には対価性があり,贈与の本質的要件である無償性を欠く。したがって,かかる意味で出資は贈与とは異なるが,参画者は出資に伴う一切の権利をあらかじめ放棄しているから,その効果は贈与と一緒である。

ところで,被告調正機関は,従来,被告調正機関を代表する特定の個人が存在しないから課税団体ではないものと理解していた。ところが,名古屋国税局は,平成9年9月から,延べ1万人にも達する職員で広範かつ長期にわたる実態調査を実施し,多数の参画者に対し,ランダムに聞き取り調査を行った結果,参画者の出資につき,個人別に分別管理がされている実態がないこと,参画者のだれであれ,出資が預託あるいは信託であるとか何らかの権利があるとか,脱退時に返還されるものであるなどと認識している者がいなかったことから,本庁を代表機関とする権利能力なき社団である被告調正機関に対する出資で,かつ返還請求ができないものであると判断し,被告調正機関に対する参画時の出資や参画後の給料剰余金や相続にかかる財産の出資に対して,相続税法66条2項の財産の提供と認定した。

すなわち,名古屋国税局の調査の結果,被告調正機関が法人税法2条8号の「人格のない社団等」に該当するものとされた結果,参画者の出資は,相続税法66条2項の「社団・・・を設立するために財産の提供があった場合」の「財産の提供」には該当するものとして,同条2項が準用される同条1項により贈与税を課せられたのである。

このように,本来の贈与により取得した財産でなくても,これと同様の経済的利益を伴うような場合は,贈与により取得したものとみなして課税されるのであるが,名古屋国税局は,①参画時の出資金や参画中の相続にかかる財産の出資金を受け入れていることに対し,相続税法66条2項の適用により受入金額は,贈与税の課税対象となる,②給与等の収入から日常生活費を支出した剰余金を出資として受け入れていることに対し,相続税法66条2項の適用により受入金額は,贈与税の対象となると認定した。

そして,平成10年4月14日,相続税法66条1項を準用する同法66条2項により,被告調正機関に対し,贈与税の決定をなし(乙33~35,118の1・2),被告調正機関はその名義をもって贈与税を納付したのである。

以上の経緯であって,被告調正機関に帰属した財産に対する課税に関し,被告調正機関が原告乙との関係で,贈与税課税を回避する義務を負うことはないから,かかる義務違反を理由とする損害賠償義務を原告乙に対して負うことはない。

イ 不返還約定が一部無効になった場合でも贈与税の更正請求ができないこと

参画者と被告らの別件津地裁判決や東京地裁判決では,参画者からの出資額の全額が確定的に被告調正機関に帰属していることを認定しつつ,不返還約定がどの範囲で公序良俗に反するとされ,それゆえ被告調正機関が原告らに対してどの限度で財産を返還すべきかを考慮するに当たり,まず,納税分相当額について現存利益がないと考えられるからこれを控除した上で,事後的な事情(参画期間,参画時の状況及び脱退の経緯,参画中,脱退時ないし脱退後に受けた利益の有無や程度,家族状況,年齢及び稼働能力等)によっては,不返還約定が一部無効となる場合があると判示しているが,課税原因となった被告調正機関に対する出資そのものの効力を,出資の時期にさかのぼって否定するものではない。

これを前提に更正請求の可否を検討する。

まず,国税通則法23条2項に規定する後発的事由による更正の請求の規定は手続規定であって,同条2項に規定する後発的事由が発生すれば直ちに課税事業年度について更正の請求が認められるものではなく,更正の請求が具体的にどのような場合に認められるかは,各個別税法の規定やその趣旨に照らして判断されるべきものである(東京高判昭和61年7月3日,訟務月報33巻4号1023頁)。

ところで,相続税法32条は贈与税の更正の請求をすることができる場合を規定しているが,同条5号及び同法施行令8条は「贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと」と定めている。

そうすると,別件判決が,「贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴え」であるかどうかが問題とされなければならない。

しかしながら,別件判決は,「出資」=相続税法66条2項の「(人格のない)社団・・・を設立するために財産の提供」という財産帰属そのものについて「判決」があった場合ではなく,脱退に伴い離脱参画者に対していかに配慮したかという観点から,出資そのものに内在しない外的事情(参画期間,参画時の状況及び脱退の経緯,参画中,脱退時ないし脱退後に受けた利益の有無や程度,家族状況,年齢及び稼働能力等)が後日問題とされた結果,出資による財産帰属の一部が不当利得と評価されただけで,出資=(人格のない)社団・・・を設立するために財産の提供=財産帰属の効力が遡及的に失われたというものではないのであるから,税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての「判決」により「その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した」ときではないのである。

すなわち,過去において被告調正機関に帰属したものは帰属したものとしてそのまま効力を認め,現在の時点に立って別の観点から不当利得と評価されたものである。

したがって,課税原因が当初から存在しなかったと認定しているものではないから,国税通則法23条2項1号により更正の請求ができる場合に該当せず,被告調正機関は判決によって更正の請求ができる場合ではないと考えている。

もともと,参画者の物財の出資は参画時に被告調正機関に確定的に帰属し脱退時に当然に返還される性質のものではないという点においては,国税当局と被告調正機関の間には何らの認識のそごはなかったもので,被告調正機関は正当に納付すべき税額を納付したにすぎないのであって,今後とも,更正の請求をすべきものとはいささかも考えていないのである。

(7)  争点(7)(被告法人の責任の有無)について

ア 実顕地では,農業,食品加工等の産業経済活動が行われているが,土地,建物等の所有権登記や産業経済活動における法的主体としては,権利能力のない被告調正機関では不可能あるいは不適当であり,また,無所有理念を貫徹するためには,特定の参画者個人の名義を用いることも適当ではなかった。そこで,被告調正機関が設立主体となって,単位実顕地の土地・建物・生産財を所有し,単位実顕地における産業経済活動の法的主体とするため,被告法人を始めとする農事組合法人や,有限会社,株式会社を設立した。すなわち,被告法人は,被告調正機関が設立した農事組合法人のうちの一つにすぎない。

また,参画者の出資を受け入れるのは,被告調正機関であり,被告法人が関与することは全くない。参加者からの出資は,飽くまで被告調正機関に帰属し,その一部を農事組合法人等に出資や貸付をしたりし,残余は被告調正機関に滞留し参画者に活用されている。

以上のとおり,被告法人は,実顕地の一構成要素ではあるが,飽くまで被告調正機関とは別個に法人格を有し,経理処理も被告調正機関とはせつ然と区別されている。

したがって,被告調正機関が被告法人の一機関にすぎないとか,両被告が同一の法人格であると評価されなければならないいわれはない。

イ 被告法人が,被告調正機関との間で,被告調正機関が対外的に負担する債務について重畳的債務引受契約を締結したことはない。

第3当裁判所の判断

1  上記前提事実,証拠(甲1~3,4の1・2,13,14,17,18,21の1~4,23~28,29の1・2,31,34~37,甲A1~3,甲B1,2,甲C1~3,4の1・2,5,6の1・2,7,乙7,15,16,20,33~35,37,38,39の1・2,40,43~47,51,53~58,62,63,64の1~3,65~68,70~72,77,84~90,96,101,115~117,118の1・2,119,130,140,142,143,148,156~159,160の1・2,162,173,174,202,215,乙A1~16,17の1~3,18,19,21~39,40の1・2,41~43,45の1・2,46~50,51の1~3,52,53,乙B1~30,31の1・2,32の1・2,33,34,36,37の1~6,40~44,45の1~5,46~55,乙C1~39,40の1・2,41~45,47,48,50の1~4,51の1~9,52,55~72,73の1~4,74~82,原告丙,原告甲,原告丁,原告乙)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(被告ら等)

(1) ヤマギシズム

ヤマギシ会の目的は「無所有共用一体」の理想社会の実現にあり,ヤマギシ会会員の目指すべき心の在り方を表したものが,「ヤマギシ会会旨」の「われ,ひとと共に繁栄せん。」である。ヤマギシ会では,真理探究の方法,目指す社会の実現の方法として「研鑽方式」を採用するとされている。「研鑽」とは,「決めつけを持たないで徹底的に検討すること」をいい,「研鑽方式」とは,「研鑽」によって,各人が得心のいくまで検討し,全員の一致点を見い出して,それを一応の結論として措定はするが,しかし,絶対・最善・最高のものと断定しないで,検討の結果を実行し,さらに,実行の結果を検討の判断材料にして検討し,検討と実行,実行と検討を際限なく繰り返し,真理を究明しようとする方法である。ヤマギシズムの基本理念は,「一体」(宇宙自然万物すべては元々一つのものであり,すべての存在は時間的・空間的につながっており,自と他も分けられない。),「無所有」(すべてのものはだれのものでもない。万民の利用に供されるべきである。),「無我執」(自分の考えや感じ方が正しいとして譲らない心のこだわりをなくす。)であり,各理念は別々のものではなく,「一体」=「無所有」=「無我執」とされている。

(2) ヤマギシズム社会実顕地

ア ヤマギシズム社会実顕地は,ヤマギシズム理念に基づく人間社会及び人間生活を「実際に顕す地」であり,同時に,ヤマギシズム生活(ヤマギシズムの理念に即した生活であって,一体理念に即した「一体生活」,無所有理念に即した「無所有生活」,無我執理念に即した「研鑽生活」の総体)を志す人が「最も正しくヤマギシズム生活をするため」の場であるとされている。「一体生活」とは,自他の区別,したがって対向関係も上下関係もなく,各人が不可分な構成要素として一体に溶け合った生活のことであるとされ,労働や能力や功績に応じて個々人に「報酬」として分配することなく,個々人が必要に応じて活用していくことができる状態に置かれる(「財布ひとつ」)ものとされている。「無所有生活」とは,すべてのものは「だれのものでもない」から,必要に応じて,だれでもが,対価なく利用(共用)できる生活であり,そこに暮らす生活者の全生活に一切の対価は不要であるとする生活とされ,無所有の生き方をするためには,「私のもの」という所有意識を「だれのものでもない」という無所有意識に変えて,これを実体に表す(「放す」)こととされている。「放す」とは,財物に対する排他的支配意思と排他的支配力を放棄し,それを,だれでも必要に応じて活用できるように,いつでも利用可能な無主の状態で,「存在」せしめることであり,自分の生命・身体・能力を「放す」とは,生命や身体に由来する能力やその成果を自分を含めたみんなの必要に応じて,いつでも活用できるようにする心構えになることであるとされている。「研鑽生活」とは,生活のすべての事項を「研鑽」によって決める生活であるとされ,研鑽会で話し合いながら実践し,その結果得た材料を基にまた話し合うという,研鑽・実践,実践・研鑽の連続の過程を経て各人が行動することを「私意尊重公意行」と呼び,「われ,ひとと共に繁栄せん。」との会旨に則するものである限り一人一人の意思(私意)は尊重されるが,一人一人の私意の当面の一致点(公意)を「我が意思」として行うという意味であるとされる。

ヤマギシズム社会実顕地は,昭和33年に「ヤマギシズム世界実顕中央試験場」(w実顕地)がa県d’町(現,d’市)に作られたのを始めとして,全国各地及び海外に作られた活動拠点であり,t実顕地は,そのうち最大のものである。

このような実顕地が設けられたのは,所有制度に基づく現社会の中では実際にヤマギシズム生活をするのが困難であるため,ヤマギシズムの体得者のみで,その全人格を包摂する共同体を形成し,純粋にヤマギシズムに則した社会(部分社会)を実現しようとしたためであるとされている。

実顕地では,発足当初から,農業を中心にした生産活動を行ってきており,平成2年から林業活動にも力を入れ始めている。

イ 単位実顕地によっても違いはあるが,一般的な参画者の暮らしは,おおむね次のとおりであった。なお,実顕地の中では何をするにも金は不要であり,外部に出る場合には必要な金が渡される。

(ア) 実顕地では,概して起床時刻は早く,食事は原則として一日二食であるため,朝食は食べない者が多い。

仕事は,米・野菜作り,果樹栽培,牛・豚・鶏等家畜の飼育,精肉や農産畜産加工品の製造,生産物の運搬・販売,経理事務,庶務等の産業活動のほか,食事作り,衣類の整備やクリーニング,住環境の整備,子供の教育を担当する世話係,調正機関の専任の世話係など,様々である。全員が一斉に休む決まった日は設けていないが,職場の各自で調整し合って,仕事をしない日をとることもある。なお,乳幼児は,朝,保育所「太陽の家」に預けられ,夕方,引き取られる。

昼の食事は,食堂「愛和館」で,午前10時から午後2時ころまで食べられるようになっている。ロビーには,新聞数種類,週刊誌や月刊誌十数種類が置いてある。

夜の食事は,「愛和館」で,午後5時ころから食べることができる。食事の前後には,入浴をする。

食後には,月に数回,各種研鑽会が行われている。これらの研鑽会への参加は自由である。

夜は,夫婦単位で6畳一間の宿舎で休む。独身者は,6畳か4畳半の部屋に1人か,6畳に2人で暮している。乳児や幼児のいる家庭では,子供も一緒の部屋で休む。

なお,日用雑貨品や文具類は,「日用品展示場」に並べられて,備付けのノートに記入するだけで使えるようになっている。衣類に関しても,「衣類展示場」があり,各種の日用衣類がそこに行けば手に入るようになっている。外出用の衣類等は,外出用の専門の係が管理している衣類室で選ぶ。汚れた衣類は,洗濯の係によって洗濯される。運動施設,公園,美容室・理容室,診療所等もある。

(イ)a 参画者が妊娠し,出産予定日が近くなると,診療所のあるt実顕地に移り,診療所で出産を行う。生後約1か月以降の乳児は朝晩は親元で生活し,日中は,「太陽の家」で,専門の世話係の世話の下,母親は母乳をやったり,入浴させたり,子供の服を用意したりする。子供は,4歳までは,朝晩は親元で暮し,日中は「太陽の家」で暮すことになる。5歳になると,親元から離れ,子供同士で合宿生活に入る(「ヤマギシズム学園幼年部」)。親元へは定期的に帰る。幼年部には,専門の世話係が付いて,子供の世話をする。

b 小学生から中学生にかけては,幼年部と同じように,子供同士で合宿生活を行いながら(「ヤマギシズム学園初等部」,「ヤマギシズム学園中等部」),地元の学校に通う。小学校5,6年以降は,朝,牛の世話や菜園の世話をしたりする。子供も,一日二食であったが,平成10年4月からは,学校へ登校する日は朝食を食べてから行くようになった。親元へは定期的に帰る。

ヤマギシズム学園中等部を卒業すると,ほとんどが私塾ヤマギシズム学園高等部に行くが,高等学校へ進学希望の子供が両親の親族の家に下宿するなどして通学する場合がある。ただし,平成11年春からは,ヤマギシズム学園高等部に進学した者も高等学校教育を受けられるように,通信制高校に入学できるようなシステムを導入し,平成12年春からは,全日制高校にも入学するようになった。

ヤマギシズム学園高等部にも,高等学校にも進学を希望せず,単位実顕地の外で就職したり,実習生として単位実顕地の職場で仕事をすることを希望する子供もいる。学生たちは,作物を育てたり,家畜を飼育したり,また,農業に関連してビニールハウスを設計・建設したり,農業機械の整備をしたり,全員の食事の準備や衣生活の担当をしたりしている。

ヤマギシズム学園高等部を卒業した者は,その時点で,被告調正機関に参画するかどうかを決める。

c 参画者は,配置された単位実顕地に住み,職に就く。本庁人事部世話係が再度調正して,別の職場に配置することもある。6か月に一度すべて解任されて,各自が希望を提出し,人事部の世話係が担当する仕事を決める仕組みになっている。自動解任期以外にも,仕事が変わる場合もある。仕事は,農業とそれに関連する仕事に従事する者が多いが,衣食住を世話する役割や,経理や財務,人事その他調正機関の業務の世話係としての仕事もある。また,単位実顕地の外部の会社や病院に勤務したりしている場合もある。

結婚を望む人は,希望の人の名を添えて,結婚調正部世話係に申し込む。また,結婚希望のみ申し込んで,結婚調正部世話係が見合相手を紹介する場合もある。しばらく付き合ってみて,男女の意思が合意した場合には,結婚に至る。始めから恋愛関係にある男女が合意の上で,結婚調正部世話係に申し込む場合もある。

d ヤマギシズム社会実顕地には,「老蘇」(おいそ)といわれる65歳以上の参画者が180名程度(平成14年3月現在)生活している。盆栽作り,漬け物作り,お茶・お花・裁縫の講習等肉体的な作業ではない仕事をしたりしている。1日中遊んで暮してもかまわず,俳句や絵画や書などを趣味として老後を送る人もおり,年に1度以上は海外や日本国内に旅行に行ったり,大相撲観戦に行ったりしている者もいる。

亡くなると,葬儀が行われ,w実顕地にある墓地に葬られる。

ウ 被告調正機関の機関誌(甲31)には,t実顕地及び全国の実顕地における実質生活費支出につき,別紙6の表を載せている。なお,これは,日常的な生活に要した資金を基礎として算出されたものであり,本庁から直接支出した公人の丘墓地の建設費や老蘇旅行等の費用等は含まれていない。

(3) ヤマギシズム社会実顕地における活動主体

ヤマギシズム社会実顕地における活動主体としては,別紙1のとおり,被告調正機関と被告法人をはじめとする農事組合法人等がある。

ア 被告調正機関

(ア) 被告調正機関は,ヤマギシズム生活を実践しようとする人々の集合体であり,構成員となることを「参画」,構成員のことを「参画者」,「村人」などと呼んでいる。参画者は単位実顕地に分属し,単位実顕地に分属している参画者の集合体・生活共同体のことを,それぞれの単位実顕地の名称を冠してヤマギシズム生活実顕地調正機関○○調正所と呼んでいる。また,被告調正機関にはヤマギシズム社会を運営し,各人の生活を成り立たせるための「部」が設けられており,平成10年当時には,被告調正機関には生活部門と産業部門があり,それぞれの各部は別紙1のとおりである。参画者一人一人は,いずれかの「部」に所属しつつ,全体が一体的なものとしてヤマギシズム社会生活が運営されている(ただし,少数ではあるが,単位実顕地以外に就業場所を有する者もいる。)。そして,被告調正機関は,参画者個人を最小単位とし,①夫婦,②家族,③仲良し班(同じ単位実顕地に生活する数家族から10数家族が集まって構成し,構成員は,各自の属している部門や職場の仕事とは別に,食事の準備や後片付け,美化・清掃,家庭電化製品・日用品等の修理,し尿汲み取り,草刈り,植木や花壇の整備,図書の整理,宿直,引っ越しの手伝い等,各種の生活の役割をそれぞれ担う。生活全般の世話を専門的に行う「仲良し班世話係」が選ばれる。),④単位実顕地調正所(仲良し班によって構成され,単位実顕地調正所全体にかかわる調正を行う「世話係」として,単位実顕地「生活調正世話係」が選ばれる。また,「各部門の世話係」も選ばれ,「各部門の世話係」と「生活調正世話係」との研鑽によって,構成員各人について,様々な役割の担当者が決まっていく。),⑤調正機関という順序で,組織化,社会化されている。

本庁は,被告調正機関の代表機関として対外的な窓口となり,被告調正機関全体にかかわる事柄を処理し,単位実顕地調正所間の連絡・調正の役割を担う組織であり,本庁生活調正世話係である参画者(平成14年3月現在16名),本庁人事部世話係である参画者(同16名),本庁各部世話係である参画者(同31名)によって構成されている。単位実顕地内の個々の参画者の生活については,単位実顕地の生活調正世話係や各部の世話係がその任に当たるが,被告調正機関全体にかかわる事柄や複数の単位実顕地調正所にまたがる案件の場合(参画申込みの受付,被告調正機関全体の財務,単位実顕地間の人の移動,単位実顕地の枠を越えて検討したい事柄等)は,本庁の世話係がその調正に当たる。本庁の事務所は,t実顕地内にある。

本庁は,被告調正機関を代表し,特定の個人が包括的に被告調正機関を代表することはないとされるが,本訴を追行するために,本庁調正世話係と本庁財務部世話係の協議(研鑽)により,本庁財務部世話係のC’に被告調正機関を代表し,訴訟追行する権限を授与した。

(イ) 運営方法

被告調正機関の運営(「公意」の形成)については,「仲良し班」において「仲良し班世話係」を選び,「仲良し班世話係」の研鑽会において「生活調正世話係」を選出し,「生活調正世話係」が「各部門世話係」を選び,その世話係間の研鑽会において,その部門にかかわることを「公意」として決めるものとされている。「各部門世話係」以外の人は,担当の世話係に自分の考えや希望や意見を「私意」として伝えるが,「公意」の決定に関しては世話係に委託する。

(ウ) 運営の原則

ヤマギシズム社会,被告調正機関では,次の運営の原則があるとされている。

a 無階級 長なし

ヤマギシズム生活においては,人と人はすべて横のつながりであって,上下の関係がない。しかも,自律生活である。したがって,命令する人もそれに従う人もいない。それゆえに,被告調正機関には,長の付く役職はない。もちろん,様々な仕事・役割があり,考える役割や行う役割,中心的な仕事や側面的な仕事など,持ち味や能力によって個々の働きにも相当の違いがあるが,それらは違いであって,それによって階級をつくることもしないし,指揮命令系統も作らない。

b 機会均等

ヤマギシズム社会では,生まれや育ちや年齢によって居住地が固定したり制限されることがなく,仕事や役割も,過去の知識や経験や実績等によって制限されることはない。どのような係役にも就く機会がだれにもあり,その人の持ち味やそのときの必要性によって,最も適した係役に自在に就いていくのが原則である。

c 専門分業

生活に必要な役割や各種の「世話係」は,みんなで分担して分業体制で行う。これは,一人一人の持ち味や能力はそれぞれ異なるから,一人一人が最も適した役割に就くことで,持てる能力を最大限に生かすための仕組みである。

例えば,食事の係は食事のことのみに専念して,あとの衣生活や住生活や経理や育児等はそれぞれ専門の世話係や担当者に任せて,心おきなく自分の役割を専門として打ち込める仕組みになっている。食事の係の中でも,調理をする役割,配ぜんをする役割,食材の調達をする役割と専門に分かれ,各人がそれぞれの持ち味に応じて分業していく。全員が何らかの役割に就き,互いに専門に徹しながら,全体としてみんなの生活が成り立っていく仕組みである。

d 一役三人制

世話係の選出に当たっては,1人で何役も持たず,また,1役3人以上を基本としている。これは,絶えず寄って研鑽しながら運営するためである。2人では簡単に一致しやすく,多方面からの検討に乏しくなるために,できるだけ異なる性格や能力を持った人を3人以上同じ役に就けることで,独断や独走を回避するための仕組みである。

e 自動解任

本庁の世話係や単位実顕地の世話係はもちろん,どんな役割に就いている人も,その任期はすべて6か月である。毎年6月と12月には,例外なく,自動的に解任される。

この自動解任制は,仕事や職場の配置等についても適用される。

それで,毎年6月と12月になると,一人一人に配置希望カードが渡され,どの単位実顕地に住みたいか,どのような仕事がしたいか,どのような係役に就きたいかなどを記入して「本庁人事部世話係」あてに提出する。

そして,被告調正機関の各部門からも,人事配置の要望が来るので,本庁人事部世話係はそれらの要望や,個々人の希望や適性,各役割の必要性など,様々な角度から1か月間にわたって検討し,例えば,この人は実績を上げているからそのままでよいとか,あの人は失敗をしたから適していないとも決めつけないで,飽くまで「零位に立って」総合的に考え,その時点で最も適した人事配置を見い出して決めていく。その結果,一人一人が次の6か月間の配置に就く。

ただし,個人がどうしても希望しない職場や仕事に,その個人の意思を曲げて就かされるということはない。その場合は,再び個人の意思を「私意」として提案し,それを受けた「本庁人事部世話係」が再検討して,改めて適正な配置を見い出す。

自動解任の目的は,すべての役割について,適任の人が就いているかどうか,反対に,すべての人について,その人が最も活かされる役割に就いているかどうかを検討する機会を持つことである。また,同時に,一人一人が,自分の「持ち場」に執着を持つことの弊害を防ぐものであり,構成員全員にあらゆる役割についての機会均等を保障するものでもある。

しかし,自動解任制は,結果的に,前任の役割に再任されることを否定するものではない。結果的に再任される場合でも,自動解任の期間(1か月間)中に,それぞれ自分の仕事について,自分がずっとこの仕事を担当すると思っていないかどうか,自分にしかこの仕事ができないと思っていないかどうか,自分がこの仕事について最も適任だと思っていないかどうか,自分がいないとこの仕事が成り立たないなどと思っていないかどうか等を反省する機会となっている。

f 代表制 世話係制 委し合い

世話係だけでなく,専門分業になっている係役(養豚係,食事係などすべての係役)に就いている者は,みんなの代表であって,6か月間だけ,その役割を委されているにすぎない。

例えば,食事係に就いている者は,養豚のことは養豚係に任せるが,養豚係に就いている者は,食事のことは食事係に委せるというように,互いに「委し合い」により生活全般が運営される。

しかし,「委された」からといって,私意で行動するのではなく,みんなの代表であるから,その公意によって行動するのである。

世話係にしても,6か月間だけ,任された部門や事項についての世話をするという立場であるから,みんなの意思をくみ取って「公意」に反映させ,公意を執行する役割にすぎない。

もちろん,委せているから何も意見を言わないというのでなく,意見があれば大いに提案するが,執行は「世話係」や専門に担当している係役の者に一任している。

g 権利なし・義務なし

ヤマギシズム社会は,「われ,ひとと共に繁栄せん。」の会旨に主体的・自律的に沿って生活することによって成り立つ社会である。そこでは,ヤマギシズム社会の構成員が他の構成員に対して作為又は不作為を求める権利は不要であり,その反面としての義務を負う者もいない。

仕事にしても,一人一人に適した仕事が用意されるが,労働は自律的に行う自己実現の手段であるから,義務ではない。

日本国憲法などで保障されている基本的人権などに関しては,人間として当然尊重されるべきことであり,何もとりたてて権利主張せずとも,それが互いに尊重されるのが当たり前の社会を目指している。

h 報償なし 罪罰なし

自分の身体,生命,能力,知識,経験のどれを取っても,何一つ自分だけで生み出し,維持しているものはない。秀でた能力の持ち主がそれを発揮できるのも周囲の社会があってのことで,その人だけの手柄ということはあり得ないし,失敗をしたり至らない点があったとしても,その原因をその者だけに求めることはできないのであるから,だれも責めたり責められたりすることはない。

したがって,ヤマギシズム社会には報償も,罪罰もない。しかし,現行法による報償や罪罰の対象となることは当然である。

i 報酬なし 分配なし

ヤマギシズム社会の構成員には,報酬はない。また,分配もない。

j 規則なし 監視なし

規則や監視は,間違いを表面的に押さえようとする方法である。

ヤマギシズム社会では,もし間違いがあれば,その原因を探究して取り除く方式をとっている。規則や監視によって行動を制限するのでなく,飽くまで一人一人が自律的に行動して成り立つ社会を目指している。

ヤマギシ会で「法で縛らぬ社会」というのも,ヤマギシズム社会の中で拘束力をもつ規則を設けないという意味であるが,ヤマギシズム社会といえども現在の社会秩序の中にあるから,現行法を否定したり無視したりするものではない。むしろ法律は,社会における全員の合意事項(公意)として,自主的・積極的に遵守していくのがヤマギシズムに沿った在り方である。

k 対立なし 一体運営

ヤマギシズム社会では,「研鑽方式」で物事が決定されていく。

研鑽は,各人の異なる意思を押し通したり,相手を議論でねじ伏せたりするものではなく,各人が持てる知識や経験を出し合って,何がその時点・状況から最良であるかを検討する場である。

多種多様な,中にはまるで反対のようにも思える意見が集まって,より良い結論を出すためには,各人の心の中に対立意識や対立感情のないことが肝心であり,そのためにも,一人一人が心して自らの我執を取り除いていくことが最も大切になる。

個人に対立がないように,部門にも係役にも対立がない。すなわち,特定の部門の「世話係」や係役として自らの担当する役割は,元々一つのことをみんなで手分けして分業で行っているのであるから,その他の部門すべてにかかわりがあり,独立した部門は一つもないという意識に立って,部門の「公意」といえども,全体からみれば「私意」である場合もあり,自分の部門や自分の係役を他に優先させないで,他と同列に見て,全体を運営していこうとするのが一体運営である。

l 自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし

被告調正機関においては,参画者各自が「調正」機能を有していることによって,指揮命令系統や規則や罰則がなくても,円満に運営されていく仕組みであり,個人の在り方として,自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なしの諸原則がある。

イ 農事組合法人等(乙15)

ヤマギシズム社会実顕地における活動体としては,別紙1のとおり,被告調正機関のほかに農事組合法人や有限会社や株式会社(農事組合法人等)があるが,これらは,次のようなことから設立されたものである。すなわち,参画者が参画の際に持ち込んだ財産には限りがあるので,参画者全員の日々の生活費については,産業経済活動等により上げた収益をこれに当てる必要があり,ヤマギシズム社会実顕地においては,農業,食品加工等の産業経済活動が行われている。しかしながら,土地,建物等の所有権登記や産業経済活動における法的主体としては,権利能力のない被告調正機関では不可能あるいは不適当であり,また,無所有理念を貫徹するためには,特定の参画者個人の名義を用いることも適当ではなかった。そこで,被告調正機関が設立主体となって,単位実顕地の土地・建物・生産財を所有し,単位実顕地における産業経済活動の法的主体とするため,被告法人を始めとする農事組合法人や,有限会社,株式会社を設立し,その収益を参画者全員の日々の生活費に当てることにした。

農事組合法人等は,対外的には,単位実顕地の土地・建物・生産財を所有し,単位実顕地における産業経済活動の法的主体となり,農事組合法人等が消費者や各種団体に生産物を供給したり,単位実顕地の不動産や生産財を取得したりしている。被告法人は,このようなものとして昭和44年6月に設立され,平成10年当時,o実顕地,p実顕地,q実顕地,r実顕地,s実顕地,t実顕地の6つの単位実顕地の産業経済活動の法的主体となっていた。なお,参画者個人が出資した形式がとられているが,実際に出資したのは被告調正機関であり,組合員とされている参画者は,法的手続上の制約から,名目的に組合員とされたにすぎない。

なお,特講や研鑽学校は,ヤマギシズム研鑽学校(現在では,有限会社ヤマギシズム研鑽学校)が運営している。

ウ 参画者の「給料」について(甲23,24)

(ア) 農事組合法人等において働く者には参画者(参画者の大半は農事組合法人で働いている。)と外部から雇用する参画者以外の通常の従業員がいるところ,いずれに対しても「給料」(名目上の組合員となっている参画者に対しては「従事分量配当金」。以下同じ。)が支払われた形式が採られている。参画者以外の通常の従業員に対する給料は通常どおり支払われるが,参画者に対する「給料」は,全員分を一括して「○○実顕地調正機関代表○○」名義の預金口座(あるいは,被告調正機関の管理する他の名義の預金口座。平成10年1月以降は,「ヤマギシズム生活実顕地調正機関本庁代表谷口寛」名義の預金口座)に振り込むという方法により「支払」がなされている。なお,平成5年以降は,参画者が給与振込口座に上記預金口座を指定する旨の給与振込依頼書が作成されるようになった。給与振込依頼書の作成の際には,会計処理上「給料」が出ていることになっている旨説明されることもある。また,平成7年4月の被告調正機関の機関誌(乙63)には,経理部の鈴木隆明の文書で,「私達一人一人は,農事組合法人等で働いて得た給与を<一つ財布>に入れて,その中から税金を払ったり,食べたり・暮らしたりの生活に要する費用や全人幸福運動に使っています。給与は一人一人に払われているのですが,それを個々の財布に分配し囲うのでなく,一つの大きな財布に入れて生活しています。そのことは『金の要らない』とか『仲良し』という理念や考え方のみでなく,それらをこの世に実際に現していく上での積極具現方式として採用していたのだったということが浮かび上がって来ました。」などと記載されている。

(イ) 外部から雇用する参画者以外の通常の従業員の給料額は,職種,勤務状況,勤続年数等によって決定されているが,参画者の「給料」額はそうしたものとは無関係に決定される。参画者の「給料」額は,大まかに言えば,A農事組合法人の剰余金額(売上げから物件費と外部から雇用する従業員の労務費を控除した金額)を,A農事組合法人で仕事をしている参画者全員の合計単位(仕事の内容,質,量とは無関係に,単身者なら1単位,扶養家族が1人なら1.2単位,扶養家族が2人なら1.5単位,扶養家族が3人なら1.8単位というように考えた場合の合計単位)で除し,これに当該参画者ごとの単位を乗ずるということにより計算される。ただし,平成9年に税務調査を受けて以後は,半日労働の参画者の「給料」は,1日労働の参画者の「給料」の半額とされるようになった。なお,参画者に対し,「給料」等についての説明は,特にされていないし,参画者の側から特に説明を求められるわけでもない。

また,一般に労働能力がないと判断される寝たきりの高齢者,被告調正機関の仕事だけしている参画者は農事組合法人等の「給料」支払対象者にはなっていない。労働能力がありながら仕事をしていない参画者についても以前は給料支払対象者とされていたが,現在では給料支払対象者とはなっていない。平成14年4月のt実顕地の構成員の「収入」状況は別紙7のとおりである(乙115)。

(ウ) なお,農事組合法人等ではなく,外部の企業や病院の従業員として働いている参画者に対する勤務先から支払われる給料は,被告調正機関の指示によって参画者が被告調正機関の管理する当該参画者名義の預金口座を振込口座として指定し,同口座に振り込んでもらう。そして,振込みの都度,引き出されて被告調正機関名義の預金口座に入金される。

(エ) 課税当局は,被告調正機関について,平成9年9月から税務調査をした(過去にも税務調査がなされたことはある。)。被告調正機関は,それまでは,参画者による財産の持込みや「給料」等の振込みについては,贈与税の申告はしてきておらず,また,課税当局から贈与税決定を受けることもなかったが,平成10年4月14日,津税務署長から平成8年からの過去約5年分の各贈与税決定及び無申告加算税賦課決定を受け(乙C41),同各決定は参画者による持込財産(換金されたもの)や「給料」等の振込みについての課税であるとの認識の下,特に不服申立手続をすることなく,そのころ納税した。また,被告調正機関は,平成9年分以降についても,参画者による財産持込みや「給料」の振込み等については贈与税の対象となるものとの認識の下,贈与税の申告をし,納税している。

また,被告調正機関は,参画者が農事組合法人等の「従業員」の立場で農事組合法人等から支払われる「給料」に対して参画者個人に課税される住民税や所得税を,参画者個人の名義をもって納付している。脱退後1年以内に脱退者に課される市町村県民税や国民健康保険についても負担をしている。なお,農地等を所有し,収益事業を行っている農事組合法人等は,固定資産税,法人県市町村民税,法人税を納付している。

(オ) 農事組合法人等,外部の企業や病院等から振り込まれた金員(参画者の年金等も振り込まれる。)は,参画者の生活費(食費,交通費,住居関係費,養育費,医療費,水道光熱費,通信事務費,交際費,娯楽費,健康保険料,国民年金等)に充てられる。

(カ) 原告らを含め,参画者は,給料を得るために参画したわけではない。

(4) 被告調正機関への参画

ア 参画者の資格要件

参画者になるためには,形式的資格要件と実質的資格要件の両方を満たす必要がある。

(ア) 参画の形式的資格要件は,15日間の研鑽学校を終了したことである。

研鑽学校は,8日間の特講を受講し終えた者でなければ入校できない。研鑽学校を終了した時点で参画を希望する者は,本庁事務所に赴いて参画説明会に出席する。研鑽学校終了時に参画を希望していなかった者が,後日になって参画希望を申し出たときは,その時期が研鑽学校終了時から間もないときは参画説明会に出席できるが,ある程度時間がたっているときは,もう一度研鑽学校に入校して終了しなければ参画説明会に出席することができない。

(イ) 実質的資格要件は,真にヤマギシズム生活(一体理念に即した「一体生活」,無所有理念に即した「無所有生活」,無我執理念に即した「研鑽生活」)を実践できる者であると判断されることである。

イ 参画の手続

参画の手続は次のとおりである。

(ア) 参画説明会

参画説明会は,参画希望者と本庁の「参画受付世話係」(複数)が一同に会して行われ,そこでは,「参画受付世話係」が,参画希望者に対して,参画の目的が最も正しくヤマギシズム生活をすることであること,ヤマギシズムの生活は無所有・共用・一体の生活であること,財産を「放す」必要のあることなどについて説明する。この段階で,参画希望を取りやめる者もいる。

(イ) 参画申込み

a 参画相談

参画説明会の後,参画を希望する意思はあるが,夫婦の意思がまだ一致していない場合(夫婦は一緒に参画することが原則とされている。)など,まだ具体的に参画できる条件が整っていない者については,これからどのように参画のための条件を整えていくかについて,「参画相談世話係」と相談をする。

当人の参画の意思に迷いがなく,直ちに参画できる諸条件が整っている状態の者については,「参画受付世話係」とで再びヤマギシズム生活の目的と意義等を確認し,より具体的なことまで,質疑応答をしながら話し合う。この段階で,参画希望を自ら取りやめる者や,参画する資格に疑問が持たれて「参画受付世話係」から参画を断られる者もいる。

b 参画申込書,出資明細申込書の作成

上記の過程を経て,参画希望者の参画の意思が十分確認され,かつ,参画する実質的資格要件を満たすと認定された者だけが,実際の参画手続に移る。

参画受付世話係が,参画希望者に「参画申込書」と「出資明細申込書」の用紙を手渡し,参画希望者がそれぞれの書類に自分自身で記入していく。なお,財産等の記入内容については,自己申告である。

c 誓約書の作成

「参画申込書」,「出資明細申込書」が提出されると,「参画受付世話係」は,「誓約書」の用紙(記載内容は,前提事実(2)イのとおり。)を手渡し(ただし,平成5年からは,「参画申込書」及び「出資明細申込書」が提出された時点で,本当にすぐに参画する意思があるのかどうか,また,直ちに参画できる条件が整っているのかどうか等を再度確認し,参画受付世話係の方で,十分に家族で話し合った方が良いとか,一度帰って考え直し,改めて出直した方が良いと判断した者については,「誓約書」を書く前の段階で参画申込みの受付を保留するようになった。そうした者は,「参画申込受理保留者」としていったん帰り,参画条件が整ったという申出があった場合に,改めて参画申込みを受け付けるかどうかが検討されることとなる。),参画希望者が,「右,誓約致します」と自書し,日付・住所・氏名も自書して,母印を押して提出する。

d 「誓約書」までの作成・提出があると,「参画受付世話係」の合議で,参画申込みを受理するかどうかを決める。

e 参画申込みの受理

以上の手続を経て,参画申込みが受理された者は「参画予定者」となる。参画申込みが受理された段階で,財産の整理や家族の問題等について,個別に担当の参画受付世話係が相談に応じ,実際に実顕地に移り住んで生活を行うための具体的な手順について個別に話合いをする。

この段階においても,最終的に参画を見合わせるという者や,参画受付世話係の方で現段階での参画はやはり不適当であると判断する者もおり,この場合には,参画申込みの受理が取り消される。

f 身辺整理(甲14)

参画予定者には,現実にヤマギシズム生活に入れるように身辺整理をする期間がある。その期間は個々のケースに応じて参画予定者自らが決めるものであり,画一的に定められたものではない。身辺整理の過程で参画予定者本人が参画を取りやめることもある。

g 参画

その後実際に「参画予定者」自身が本庁の参画受付窓口に来て,権利証や実印,通帳や印鑑等の物財を表象するものを現実に参画受付世話係に渡すなどしたとき(渡すべき財産のある者の場合)に,参画したものとして扱われる。

h 参画者予備寮

平成3年以降は,参画者となった者は,まず,ヤマギシズム生活参画者予備寮(以下「参画者予備寮」という。)に入寮することになる。参画者予備寮は,ヤマギシズム生活の基本を身に付けるために一定期間(おおむね3か月から半年程度),寮生活をしてヤマギシズム生活の実際を体験しながら,基本を身に付ける場として,平成3年2月にt実顕地の一角に開設されたものである。参画者予備寮では,新しく参画した者の家族が,家族単位で部屋で起居しながら,共に生活をする。新参画者は,主に農作業に従事するが,毎日同じ職場に行くのではなく,様々な職場を経験する。

また,平成5年以降は,参画者予備寮に入寮期間中に参画意思を喪失した者に対しては,参画時にさかのぼって参画を取り消し,出えんした物的財産をほぼ全額(個々のケースに応じて多少の違いはある。)を返還する扱いとされた。参画者予備寮に入寮中に参画意思を喪失して財産の返還を受けた後に,研鑽学校に再度入校し,もう一度参画した者もいる。

i 再参画

被告調正機関からの離脱者も,改めて研鑽学校に入校し,終了すれば,再参画することもできる。

ウ 参画希望者,参画予定者,参画者等の人数

研鑽学校を終えた時点で参画を希望して本庁の事務所に来た人数(A),実際に誓約書を書いて「参画予定者」になった人数(B),実際の参画者数(C)は,次のとおりである。

平成4年,(A)474名,(B)294名,(C)216名。平成5年,(A)710~711名,(B)402~403名,(C)268~271名。平成6年,(A)428~429名,(B)217~218名,(C)127~129名。平成7年,(A)465~469名,(B)129~133名,(C)86~90名。平成8年,(A)494~498名,(B)92~96名,(C)49~53名。平成9年,(A)428~430名,(B)84~86名,(C)60~63名。平成10年,(A)215名,(B)54名,(C)45名。

エ 脱退者

なお,被告調正機関からの脱退者数は,平成5年が47名,平成6年が63名,平成7年が65名,平成8年が41名,平成9年が61名である。

脱退者には,当座の生活に必要な資金等が渡されるが,「出資」割合に応じた清算金の返還,受領した金員の払戻しや返還としての交付は行っていない。ただし,最近では,当該脱退者の状況に照らし,数百万円から数千万円が渡されることもある。

(5) 特講

ア 特講は,昭和31年1月に開かれて以来,毎月開催されてきており,数万人が参加した。最近では海外でも開催されている。なお,o特講会場は,e’計画転作促進集落センターe’公会場から約1.2キロメートル,バス停から約1.5キロメートル,f’鉄道o駅から約6キロメートルの位置にあり,w特講会場は,a県立d’高校に隣接し,バス停から約300メートル,g’本線h’駅から約1.5キロメートルの位置にある。

特講は,7泊8日の日程で行われる。1日のカリキュラムとしては,おおむね,早朝起床して,ラジオ体操や心境調正作業(掃除等)をし,午前中に研鑽会があり,昼に1回目の食事,昼寝,午後に研鑽会,夕方から入浴,2回目の食事,夜に研鑽会,その後就寝(原則として,敷布団1枚に同性の者が2人で寝る。)というものであるが,参加者数や参加者の議論の方向が一定ではないため,その都度,時間の長短があったり,スケジュールが異なったりする。数時間にわたることもあり,深夜・早朝にまで及ぶこともあるが,そのようなときは起床時間を遅くしている。

特講参加者の中には,研鑽会から途中退席する者や特講への参加自体を途中でやめて帰宅する者もいる。なお,特講では自己申告で所持品を預かる。また,原則として外部へ電話することはできないが,緊急の電話は取り次がれ,参加者の強い要望があれば電話をかけることもできる。

特講では,世話係や進行係の間で,参加者の性格や研鑽会における態度等の情報を基に,特講の進め方について打合せがなされる。

なお,特講のカリキュラムの詳細は前もって知らされることはない。また,特講のカリキュラムの中においては,参画(財産引渡し)が直接勧誘されることはない。

イ 特講で行われる研鑽会は幾つかあるが,代表的なものは次の①~③のとおりである。いずれも,参加者全員が車座になり,中心に座る進行係の問いかけにそって,参加者は互いに話し合ったり,あるいは考えたりするものである。そして,参加者が,どのような回答や意見を述べても,進行係は「なぜ腹が立つのですか。」(怒り研鑽会の場合),「だれのものですか。」(所有研鑽会の場合),「できますか。」(割り切り研鑽会の場合)との問いかけを繰り返し行い,再考・再回答を求める。通常は,最終的には「腹は立たない。」,「だれのものでもない。」,「できる。」との回答をする者が多くなるが,必ずしも全員がそのような回答をするまで続けられるというわけではない。

①「怒り研鑽会」は,進行係が,参加者一人一人に,過去に「腹の立った」事例を出してもらい,それについて進行係が「なぜ腹が立つのか。」と問いかけるという形で行われる。途中で,参加者同士が班ごとに分かれて,そのときまでに考えたことについて話し合ったりしながら,再び「なぜ腹が立つのか。」を自問させるものである。

②「所有研鑽会」は,進行係が,参加者の持ってきたかばん等を指して,「これはだれのものですか。」と問いかけ,それについて参加者が考え,考えた結果を発表して,それについてお互いが意見を出し合いながら,さらに考えるというものである。

③「割り切り研鑽会」は,進行係が,「特講終了後ここに残れますか。」あるいは「仕事やめられますか。」,「子育てやめられますか。」など,通常であれば「できない。」と答えると思われることを問いかけ,参加者が,それが「本当にできない。」のかどうかを考えさせるというものである。進行係が声を荒げたり,厳しい物言いをしたりすることもある。

なお,実顕地に行って,見学・入浴・食事・参画者との懇談等をするという機会や,懇親会等も設けられている。

(6) 研鑽学校(乙43,53)

ア 研鑽学校は,14泊15日の日程で行われ,その主なプログラムは,「研鑽会」と農作業等の「研鑽作業」である。

イ 研鑽会

研鑽会は,おおむね,午前中の約3~4時間,夕食後の約3~4時間半に,休憩を挟んで行われる。参加者全員(通常20名ほど)が車座になって座り,研鑽学校世話係も参加者と同列に座って,研鑽学校世話係の提示したテーマについて,参加者全員で意見を出し合いながら考えるというやり方がとられている。

テーマは,①研鑽態度の研鑽,②真の人間とその生き方,③無我執研鑽,④無所有研鑽,⑤一体観と一体生活,⑥解放研鑽・解放された真の自由人となるには,⑦愛情研鑽,⑧真の幸福と幸福感,⑨機構と運営・ヤマギシズムによる機構と運営の原則について,⑩絶対的境地の研鑽・芯が入り底をつく研鑽,⑪公人公器として公意行生活,⑫Z革命とヤマギシズム運動諸機関,⑬ゴールインスタートなどというものであり,④無所有研鑽についての細目としては,「だれのものでもない,だれが用いてもよい,無報酬・無分配・共活・共用・一体用,心物豊満世界」等があり,⑥解放研鑽についての細目としては,「持たない,放す,脱,無,裸,零位,常識観念,道徳観念,権利義務観念,宗教,信仰,経験,知識,家,親子,兄弟,団体,教団,学校,師弟,先輩,友人,夫婦等,一切の縛り執われから解放する。」等があり,⑨機構と運営・ヤマギシズムによる機構と運営の原則についての細目としては,「私意尊重公意行による運営と行動,無階級,長なし,機会均等,専門分業,一役三人制,自動解任,全員一致,委し合い,研鑽運営,代表制,権利義務なし,監視なし,報賞なし,罪罰なし,給料なし,対立なし,一体運営,自発的,自覚,納得,無妥協,任意,自律,反省,自由意思,服従なし,遊休のない無停頓の生活配置,真の自由と平等,ヤマギシズム生活調正機関について」等がある(甲13)。

ウ 研鑽作業

研鑽学校では,朝の1時間程度と,午後の3~4時間程度,農作業や,自分たちの生活のための清掃・食事準備・洗濯等の作業を行う。

エ マンツーマン

研鑽学校の10日目又は11日目には,「マンツーマン」と呼ばれる1日があり,参加者一人一人が被告調正機関の参画者にマンツーマンでついて,単位実顕地での作業等を共にする。

オ 最終日

最終日は朝ないし昼ころに解散となり,参画希望者は,参画説明会に出席するため,本庁事務所のあるt実顕地へ行く。

(原告ら等)

(1) 原告丙

ア 特講への参加

(ア) 原告丙は,昭和63年,長男が通う幼稚園の同級生の母親D’から勧められて,ヤマギシの生産物を購入するようになり,徐々に楽園村やヤマギシ会に興味を抱くようになった。

(イ) 原告丙は,昭和63年4月1日から開催された第1267回特講(o特講会場)に参加した(乙A7)。特講では,これで世界中のすべての問題が解決するというような高揚した気持ちになり,近所の会員の人たちが家族のように近い存在に思えるようになった。

(ウ) 原告丙は,夫婦関係が良くなかったことからこれが改善することを願って,Bにも特講への参加を勧め,同人は,平成元年8月1日から開催された第1332回特講に参加した。

イ 研鑽学校への参加

(ア) 原告丙は,その直後の平成元年8月16日から開催された第764期研鑽学校に参加した(乙A8)。

原告丙は,平成元年8月30日,被告調正機関に対し,参画申込書,出資明細申込書及び誓約書を提出し,参画を申し込んだ(乙A9~11)が,受理されなかった。

(イ) 原告丙は,平成2年2月1日から開催された第1359回特講及び同年6月1日から開催された第1376回特講に世話係として関与した(乙A30,31)。

(ウ) Bは,平成2年3月16日から開催された第790期研鑽学校に参加したが,次第にヤマギシに対して不信感を抱くようになり,4日目ころに帰宅した。その後,ヤマギシの考え方を信じる原告丙との間で夫婦関係はさらに悪化したため,平成2年5月に協議離婚し,子3名の親権を原告丙と定めた。

(エ) 原告丙は,平成2年8月1日から開催された第803期研鑽学校に参加したが,参画申込みはしなかった(乙A32)。

(オ) 原告丙は,Bとの間で,平成3年2月8日,C及びDの親権をBに変更すること,養育費として300万円を支払うことなどを内容とする家裁調停が成立した。

原告丙は,平成3年4月30日,Bから受け取った養育費を含む352万円を持って,t実顕地に引っ越し,同年5月1日から開催された第837期研鑽学校に参加した(乙A6,33,34)。

ウ 参画と財産引渡し

(ア) 原告丙は,平成3年5月15日,参画申込書,出資明細申込書及び誓約書を提出し,参画を申し込んで(乙A1~3)受理され,参画者となった。

(イ) 原告丙は,被告調正機関に対し,平成3年4月30日,現金352万円を渡すなどして,そのころ合計355万8131円を出えんした(乙A4,5)。

(ウ) 原告丙は,上記参画の時点においては,ヤマギシズムの基本理念に賛同し,終生,被告調正機関の下で生活することを前提として,自らの提供する財産が,被告調正機関や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で,その全財産を出えんしたものである。

エ 参画中ないし脱退

(ア) 原告丙は,予備寮終了後,次のとおり,配置され,その間研鑽学校に参加するなどした(甲A1)。

平成3年7月19日 w実顕地ヤマギシ会本部に配置

平成3年12月 w実顕地養牛部に配置

平成4年1月1日 w実顕地太陽の家(保育所)に配置

平成4年4月25日 第885期新参画者研鑽学校に参加(乙A35,36)

平成4年6月16日 t実顕地村人窓口に配置

平成5年7月21日 t実顕地乳牛部に配置

平成5年9月 t実顕地肉牛部に配置

平成9年5月23日 第1186期実顕地二週間課程研鑽学校に参加(乙A37)

平成10年4月29日~5月25日 振出寮に参加(乙A12)

(イ) 原告丙の長男Cは,平成11年1月,在籍していたtのヤマギシ学園高等部を辞めて,外で働きたいと言い出したことから,いったん,原告丙は,bの実家へ預けることにした。しかし,働きたいと思っていたCは,高校進学を勧める祖父母と折り合いが悪く,同年3月にいったんt実顕地に戻った。そして,Cは,同月下旬から,ヤマギシと取引のあるi’県内の肉屋で住み込みで働き始めた。

(ウ) 原告丙の次男Eは,平成11年7月,在籍していたtのヤマギシズム学園中等部を辞めて,t実顕地の原告丙と同居を始めた。Eは,同年9月後半からはt中学校も休みがちになり,ヤマギシに対して批判的な発言を行い,飲酒,喫煙,窃盗,深夜はいかい等の問題行動を起こすようになった(乙A45の1・2,46~49)。

(エ) 原告丙は,平成11年12月,離村することを決意し,同月3日,被告調正機関に対し,次のとおり支払等を求めた(乙A13,14,43)。

a アパートの敷金及び礼金24万円,家賃毎月6万円の一部(具体的な金額の提示はない)

b Eの中学校転校に伴う制服代等 10万円

c 家財道具一式

d 被告法人の肉牛部の仕事 月収20万円

e Dのヤマギシズム学園中等部,高等部の学費

f 軽自動車

(オ) 原告丙は,平成11年12月15日,脱退届に署名押印して,脱退した(乙A24)。これには,次のとおり記載されていた。

「私は,此の度,一身上の都合により,ヤマギシズム生活実験地調正機関を脱退致しますので,お届けします。

かくなる上は,参画時,および参画中の出資金に関して,参画申込書,出資明細申込書,誓約書に記載した趣旨に則り,今後一切返還請求や,金銭請求をしないことは勿論,何らの異議も申し立てません。」

(カ) 被告調正機関は,原告丙に対して,次のとおり支払等をした。

a 現金 平成11年12月14日 70万円(乙A15)

b 家財道具一式

c 被告法人肉牛部で月額20万円程度の仕事(乙A28,29,53)

d Dのヤマギシズム学園中等部,高等部の学費 平成12年1月~平成13年3月 138万6000円(ヤマギシズム学園に直接送金,乙A50)

e 軽自動車代金及び車検代 平成12年1月9日 26万0173円(乙A16)

(キ) 原告丙は,被告調正機関に対して,追加して次のとおり支払等を求めた。

a クーラー 平成12年4月20日(乙A17の1)

b Dのy高校の学費 平成12年10月25日(乙A25)

c 現金 平成13年5月 700万円(乙A26)

(ク) 被告調正機関は,原告丙に対して,次のとおり支払等をした。

a クーラー代金 平成12年5月8日 16万円(乙A17の2・3)

b Dのy高校の学費 平成12年3月 15万3220円(y高校に直接送金,乙A51の1~3)

c 現金 平成13年6月8日 33万8960円(所得超過のため支給停止となった母子扶養手当相当額,乙A27)

d 市民税・県民税(平成11年度) 平成12年1月9日 1万8600円(乙A18)

市民税・県民税(平成12年度) 平成12年6月6日 5万6300円(乙A21)

e 国民健康保険料(平成11年度) 平成12年1月24日 8万2210円(乙A19)

国民健康保険料(平成12年度) 平成12年7月13日 26万2210円(乙A22)

オ 脱退の後の生活状況等

原告丙は,脱会後も,平成13年10月20日まで,被告法人で外部従業員として働いていたが,同日,被告法人を退職し,実家で暮らすようになった。

その後,原告丙は,ホームヘルパー2級の資格を取得し,現在は老人施設で介護の仕事をしている。

(2) 原告甲ら

ア 特講への参加

(ア) 原告甲らは,昭和62年,次男の同級生の母親E’から「子供たちに自然体験をさせるイベントがあるので,参加してみませんか。」と勧められ,子供にとっても良い体験となるだろうと考えて,次男Hをj’県k’郡l’町の乙実顕地で開催された「小学生大集合」に参加させた。

その後もE’に誘われて,原告丁は,昭和63年1月に子育て講座に参加し,同年5月には子供2人とともにw実顕地で開催されたヤマギシの散財まつりに参加し,同年8月にもt実顕地で開催された「ヤマギシの夏の子ども楽園村」に子供2人を参加させた。

(イ) 原告丁は,平成元年3月15日,第1313回特講(o特講会場)に参加した(乙B40)。特講では,研鑽という言葉に初めて触れ,ヤマギシでは物事をとことん追究して,一番良い方法を見極めていくという考え方や生き方ができると思い,また,実顕地を見て,家畜や農や自然から学ぶといったことが新鮮で,能力に合ったことをやっていくだけで成り立つ社会があるのかと驚き,お金を持たなくても困らないということなど,今までの人生に対する観念を覆されたように感じた。

(ウ) その後,原告甲らは,ヤマギシの様々なイベントに参加するようになった。

そして,原告丁は,ヤマギシ学園には学歴よりも身に付くものがあると考えて,子供らを入学させたいと考えるようになり,原告甲もこれに賛成した。

(エ) 原告甲は,平成元年12月29日,第1354回特講(o特講会場)に参加した(乙B8)。特講では,ヤマギシの社会は,それまで勤務してきたhやm’と異なり,規則がなく,地位や学歴も関係なく,皆が横一列の同じ立場で楽しく生きていけるところであると思うようになった。

また,原告甲は,その後も何度か,村を訪れ,村人と触れ合ううちに,村の暮らしもいいかもしれないと思うようになった。

(オ) 原告甲は,平成2年3月28日~31日,第31回ヤマギシズム高度研鑽会に参加した(乙B46)。

そして,原告甲は,平成2年3月31日,m’を退社し,同年4月から,ヤマギシズム実顕地生産物n’供給所外部従業員となった。また,Gも同供給所の手伝いを始め,Hはヤマギシズム学園t中等部2年に入学した。

Gは,平成2年9月,ヤマギシズム学園高等部5期に入部した。

イ 研鑽学校への参加

(ア) 原告丁は,平成2年9月16日から開催された第809期研鑽学校に参加したが(乙B9),参画申込みの手続はなされなかった。

(イ) 原告甲は,平成3年1月16日から開催された第823期研鑽学校に参加した。

(ウ) 原告丁は,平成3年3月16日から開催された第832期研鑽学校に参加した(乙B10)。

ウ 参画と財産引渡し

(ア) 原告甲は,平成3年1月30日,参画申込書,出資明細申込書及び誓約書を提出し,参画を申し込んで(乙B1~3),受理された。

(イ) 原告甲は,被告調正機関に対し,平成3年3月6日,400万円を同被告の管理する預金口座に振り込み,さらに同年3月13日,o’火災から7470円の振込入金を受けた。また,原告甲は,所有する不動産の権利証を被告調正機関に渡していたが,この売却代金3843万0132円も同口座に振り込まれた。さらに,p’県税事務所から3万3000円,預金利息9446円の入金もあった。原告甲は,そのころ,被告調正機関に対し,以上を含め,4315万4260円を出えんした(乙B4~7)。

こうして,原告甲は,原告丁とともに,平成3年3月8日,本庁において参画を受け付けられ,w東部実顕地の予備寮に入った。

(ウ) 原告丁は,平成3年3月30日,参画申込書,出資明細申込書及び誓約書を提出し,参画を申し込んで,受理された。

(エ) 原告丁は,そのころ,被告調正機関に対し,24万1813円を出えんした(同原告は出えん額を98万8500円と主張しているが,被告らの自白する24万1813円を超える部分についてはこれを認めるに足りる証拠はない。)。

(オ) 原告甲らは,上記参画の時点においては,ヤマギシズムの基本理念に賛同し,終生,被告調正機関の下で生活することを前提として,自らの提供する財産が,被告調正機関や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で,その全財産を出えんしたものである。

エ 参画中ないし脱退

(ア) 原告甲は,予備寮終了後,次のとおり,配置され,その間研鑽学校に参加するなどした(甲B2)。

平成3年5月 t実顕地建設部に配置

時期不明 肉鶏部に配置

時期不明 車輌部に配置

平成4年4月25日 第885期新参画者研鑽学校に参加(乙77,乙B11,48)

平成6年7月19日~8月15日 振出寮に参加(乙B14,49)

平成8年12月13日~平成9年1月9日 振出寮に参加

平成10年2月19日~25日 第1230期実顕地二週間課程研鑽学校に参加したが中退(乙B53)

平成10年2月26日~3月3日ころ 実母の見舞いに帰郷(乙B52)

平成10年3月23日~4月21日 振出寮に参加(乙B16,51)

平成10年4月21日 地域農業開発部

(イ) 原告丁は,予備寮終了後,次のとおり,配置され,その間研鑽学校に参加するなどした(甲B1)。

平成3年5月 t実顕地第2次製品製造部(豆腐の製造)に配置

平成4年1月 衣生活部(ふろ掃除と裁縫)に配置

平成4年5月25日 第889期新参画者研鑽学校に参加(乙B12,13)

平成7年3月26日~4月20日 振出寮に参加

平成10年11月2日 第1271期実顕地二週間課程研鑽学校に参加(乙B17)。

(ウ) 原告甲は,平成10年ころから,ヤマギシに疎外感を抱くようになる一方で,一生をかけて全人幸福のために参画したのだから頑張っていきたいという気持ちもあり,精神的に不安定な状態となっていた。そこで,平成11年1月ころ,原告丁に,村を出たいと考えていることを伝えたが,原告丁は離村する気にはなれなかった。

原告甲は,平成11年1月29日,被告調正機関に対し,実顕地外で就職するために,住民票1通,実印及び銀行印,現金100万円の交付を求める提案をした(乙B18)。

(エ) 原告甲は,平成11年2月3日,b市方面に仕事を探しに出かけ,q’興業に住み込みで働き始めた。

原告甲は,平成11年2月27日,住民票の移動を求めるために,t実顕地に戻った。そこで,Nらとの間で話合いが行われ,原告丁と離婚するのか,原告丁も原告甲とともに離村するかなどが話題となった(乙B42)。

原告丁は,平成11年4月14日,原告甲に会いに,b市へ出かけ,このころ,原告丁も離村すること,原告甲は被告法人の外部従業員として働くことなどを決めた(乙B55)。

(オ) 原告甲は,平成11年4月16日ころ,被告法人の労務担当であるF’に電話をかけ,外部従業員として働きたいと伝えた(乙B44)。

原告丁は,同月17日,離村に当たり,被告調正機関に対し,次のとおり支払等を求めた(乙B19)。

a 衣類 黒礼服,黒靴,外出用スーツと合う靴,留め袖,喪服,和装用小物,外出用スーツ,靴,バッグ

b 寝具 毛布,タオルケット,こたつ布団,こたつ敷布団(新しいもの)

c 裁縫道具 工業用ミシン(今使用しているもの),ロックミシン,アイロン,アイロン代

d 軽自動車

e 家具 整理たんす,洋服たんす,食器戸棚,ダイニングテーブル,いす4個

f 電気製品 冷蔵庫,洗濯機,炊飯ジャー,掃除機,電子レンジ,ガスレンジ,電気ポット,ホットプレート

g 調理器具一式

h 食器一式

i 食品 お米,みそ・しょう油など調味料各種,日持ちのする野菜類

また,原告丁は,同月27日,被告調正機関に対し,生活費及び緊急用に現金100万円の支払を求めた(乙B22)。

(カ) 原告甲らは,平成11年4月27日,受領証に署名押印して,脱退した(乙B23)。受領証には,次のとおり記載されていた。

「私はこの度一身上の都合により,ヤマギシズム生活実顕地調正機関を離脱することにしました。

貴本庁は,上記金品を本庁よりの出資返還としてでなく,お渡し下さり,私,それを正に受け取りました。

かくなるうえは,参画申込書,誓約書に記載した趣旨に則り,今後一切返還請求や,金銭請求は致しません。」

(キ) 被告調正機関は,原告甲らに対して,次のとおり支払等をした。

a アパートの入居費用 平成11年4月22日 33万0900円(乙B21)

b 現金30万円 平成11年4月27日 30万円(乙B23)

c 衣類,寝具,家具,電気製品,調理器具,食器,食品 平成11年4月27日

d 自動車代金 平成11年5月7日 31万5000円(被告法人に直接支払。乙B20)

e 市民税・県民税(平成11年度,原告甲分) 平成11年7月9日 2万6700円(乙B24)

f 国民健康保険料(平成11年度,原告甲分) 平成11年7月21日 18万5290円(乙B25)

国民健康保険料(平成12年度,原告甲分) 平成12年7月18日 31万0600円(乙B26)

オ 脱退後の生活状況等

原告甲は,被告法人の外部従業員として月額35万円前後の給料で,平成11年4月30日から10月31日まで車両運輸部の運転手の仕事を,平成11年11月1日から平成12年7月24日まで地域農業開発部の仕事をした(乙B27~30)。

その後,原告甲は,平成13年5月ころから,平成15年1月ころまで,被告法人で毎週日曜日にアルバイトをした。

(3) 原告乙及びA

ア 特講への参加

(ア) 原告乙は,専門学校在学中であった昭和41年8月,ヤマギシズムu試験場で開催されたキャンプに参加し,その日程に組み込まれていた第346回特講に参加した。特講では,他の参加者との連帯感を味わったことが印象に残ったくらいで,それほど強い印象を受けなかった。

(イ) 原告乙は,昭和49年7月,Aと結婚し,同人との間に,昭和50年に長女I,昭和52年に次女J,昭和57年に三女K,昭和60年に長男Lをもうけた。

(ウ) 原告乙は,昭和62年6月ころ,自宅近くの住宅街でヤマギシの子供車に出会い,懐かしさもあってその生産物を購入するようになった。それ以降,原告乙は,楽園村の生活スタッフとして活動したり,ヤマギシズム文化祭に参加したり(乙C11),子供を楽園村やはれはれゼミナールに参加させたりして,ヤマギシへの関心を深めていき,昭和63年4月にはKをヤマギシズム学園w幼年部4期に入部させた。

(エ) Aは,当初はヤマギシの活動にそれほど積極的ではなかったが,原告乙やヤマギシの地域の会員から強く勧められて,昭和63年8月15日から開催された第1287期特講(o特講会場)に参加した。特講では,ヤマギシの考え方が新鮮に映り,新しいものの見方が加わった気がしたが,人生観や価値観が変わったというほどではなかった。

イ 研鑽学校への参加

(ア) Aは,昭和63年12月16日から開催された第741期研鑽学校に参加した(乙C12)。

(イ) 原告乙は,平成元年3月,Kが幼年部を卒園して自宅に帰ってくるのを前に,子供を受け入れる親の在り方を考えたいと思い,同月16日からw東部実顕地で開催された第749期研鑽学校に参加した(乙C13,14)。

ウ 参画と財産引渡し(原告乙1回目)

(ア) 原告乙は,上記イ(イ)の研鑽学校終了後の平成元年3月30日,参画申込書,出資明細申込書及び誓約書を提出し,参画を申し込んだ(乙C1~3)。

(イ) Aは,参画申込みを済ませた原告乙から研鑽学校へ行き,一緒に参画するよう求められ,同原告の気持ちが収まるのであればと,平成元年5月1日から開催された第754期研鑽学校に参加したが,参画申込みはしなかった。

原告乙は,参画申込みをせずに帰ってきたAを残して,子供4人を連れて参画することをAに告げたところ,同人は妻のみを参画させるわけにはいかないと考えて,自らも参画することを承諾した。

(ウ) そこで,原告乙は,平成元年7月19日,r’銀行s’支店の預金口座を解約して,492万4773円を払い戻し(乙C69),同日,このうち370万円を被告調正機関の開設した原告乙名義の預金口座に振り込んだ(乙C6)。また,Aから,平成元年7月27日に22万5000円,同年9月1日に17万円の振込を受けた(原告乙は492万4773円を持ち込んだと主張するが,370万円を超える部分についてはこれを認めるに足りる証拠はなく,この370万円にAからの上記振込額を併せた409万5000円を出えん額となる。乙C4)。

(エ) 原告乙は,上記参画の時点においては,ヤマギシズムの基本理念に賛同し,終生,被告調正機関の下で生活することを前提として,自らの提供する財産が,被告調正機関や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で,その全財産を出えんしたものである。

エ 参画中ないし脱退

(ア) 原告乙は,平成元年7月20日,子供4人を連れて被告調正機関に参画した。同原告は,t実顕地に配置され,検査室で,家畜及び食品の検査を担当した。Iはt実顕地,Jはt’実顕地,Kはp実顕地に配置された。

(イ) Aは,平成元年9月に仕事を辞め,同月16日から開催された第768期研鑽学校に参加し,同月30日,参画申込書,出資明細申込書及び誓約書を提出し,参画を申し込んだ(乙C7)。

しかし,その後の身辺整理中に原告乙との間でいさかいが生じたため,参画するのを辞めた。

(ウ) 原告乙は,Aが参画してこなかったことから,同人と離婚するか,参画を取り消すかで悩むことになり,精神状態が不安定になった。そこで,平成元年11月4日,いったん,参画を取り消して自宅に帰ることになった。

(エ) 自宅に戻った原告乙はひどく落ち込んだ状態が続き,Aとの夫婦関係は冷え切った状態であった。

そこで,Aは,このような状態を解消するためには,夫婦そろって参画するほかないと考え,同人は平成2年7月30日から開催された第802期研鑽学校に,原告乙は同年8月16日から開催された第805期研鑽学校に参加した。

オ 参画と財産引渡し(原告乙2回目,A1回目)

(ア) Aは,平成2年7月30日,原告乙は,同年8月30日,それぞれ参画申込書,出資明細申込書及び誓約書を提出して,参画を申し込んだ(乙C8~10,38)。

(イ) Aは,次のとおり,被告調正機関に財産を出えんした(合計3535万2379円)。

a 平成2年8月 現金199万4670円

b 平成2年9月11日 現金171万1952円(r’銀行u’支店から払い戻した354万7844円のうち342万3904円の半分乙C70,71)

c 平成2年12月 現金22万3250円(44万6500円の半分,乙C71)

d 平成3年2月~11月 -8万0213円(-16万0426円の半分,乙C5)

e 平成3年11月 不動産売却代金の10分の8 3150万2720円(乙C5)

(ウ) 原告乙は,次のとおり,被告調正機関に財産を出えんした。

a 平成2年9月11日 現金171万1952円(r’銀行u’支店から払い戻した354万7844円のうち342万3904円の半分乙C70,71)

b 平成2年12月 現金22万3250円(44万6500円の半分,乙C71)

c 平成3年2月~11月 -8万0213円(-16万0426円の半分,乙C5)

d 平成3年11月 不動産売却代金の10分の2 787万5680円(乙C5,7)

e 平成4年4月14日 原告乙の父の遺産の土地697.74m2の持分7420分の830(ただし,名義は原告乙のまま。乙C40の1)

f 平成5年6月3日 原告乙の父の遺産相続分 775万4649円(乙C6)

被告調正機関は,上記eの土地の持分に対する固定資産税相当額として,原告乙の母G’に対し,平成9年2月17日に9万3939円,平成12年2月25日に7万3847円を送金した(乙C4,15,16)。

上記eの土地持分を除き以上を合計すると,原告乙の出えんした金額は,1731万7532円となる。

(エ) 原告乙及びAは,上記参画の時点においては,ヤマギシズムの基本理念に賛同し,終生,被告調正機関の下で生活することを前提として,自らの提供する財産が,被告調正機関や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で,その全財産を出えんしたものである。

カ 参画中ないし脱退

(ア) Aは,次のとおり,配置されるなどした(甲C7)。

平成2年8月 v’県b’実顕地供給部(子供車で生産物の販売)に配置

平成3年4月 t実顕地本庁供給部(デパート催事コーナーでの生産物の販売等)に配置

時期不明 第2次製品製造部冷蔵所部門(大型冷凍倉庫での生産物の入出庫管理)に配置

同じころ ヤマギシズム学園生に対する合唱指導にも関与

平成7年ころ 原告乙に離婚を求める。

平成8年1月 希望により原告乙と別居(乙C42)

平成8年7月ころ 参画者のM(t診療所,皮膚科・眼科医師)との交際が深まる。

(イ) 原告乙は,次のとおり,配置され,研鑽学校に参加するなどした(甲C1)。

平成2年8月 v’県b’実顕地に配置

平成3年2月ころ t実顕地t研究所に配置

平成3年5月10日 原告乙の父が同年3月27日に死亡したため,遺産分割協議のやり方について,原告乙は,Q及びYと研鑽会(甲C6の1・2)

平成6年7月 t実顕地乳牛部(乙C18)に配置

平成7年ころ Aから離婚を求められる。

平成8年1月 t研究所に配置

平成8年1月 Aの希望により同人と別居

平成10年1月26日~3月8日 振出寮(乙C61~63)に参加

(ウ) Aは,子供たちの通うヤマギシズム学園には勉強する環境が整ってない,仕事が過酷である,実際には研鑽が行われていないと考えるようになって,交際していたMと共に離村することを決意し,平成9年3月17日,被告調正機関に対し,「私議 この度一身上の都合により,本年3月をもって実顕地への参画を終了することとしましたので所要の手続きをしていただくようお届けいたします。」と記載された届出書を提出した(乙C19,20)。そして,その中で,A及びMは,次のとおり支払等を求めた。

a A

(a) 自動車1台(できれば,ステーションワゴン)

(b) 自転車2台

(c) 整理タンス1本

(d) コート類等の若干の衣料,食器類,日用雑貨

(e) 生活費60万円及び旅費5万円

(f) 平成8年収入にかかる市民税・県民税の支払

(g) 実印の返還

b M

(a) 絵画2点(小山敬三作浅間山,上村淳作水鳥の画)

(b) 真珠のネックレス1連

(c) 有田焼(大きな絵皿2枚,銘々皿5枚,小皿5枚)

(d) 整理タンス1本

(e) 若干の衣料,食器類,日用雑貨

(f) 生活費60万円及び旅費5万円

(g) 平成8年収入にかかる市民税・県民税の支払

(h) 実印の返還

(i) 医師免許証及びそのコピー

これに対して,被告調正機関は,平成9年3月21日,A及びMに対して,各現金65万円及び動産類(自動車1台を含む。)を渡した(乙C65,66)。

また,Aと原告乙は,同日,同年4月以降のK(ヤマギシズム学園t中等部3年)及びL(ヤマギシズム学園q中等部1年)の学園費につき,Kにかかる費用はAの負担とし,Lにかかる費用は原告乙の負担とする確認書を取り交わした(乙C21)。

こうして,A及びMは,平成9年3月21日,離村したが,その際,ヤマギシズム学園に残していくはずだったLを無断で連れ出した。

(エ) Aは,平成9年4月ころ,ヤマギシズム学園からKの学園費の請求を受け,同月下旬ころ,「自分がLを養育している以上,Kの学園費は原告乙が負担すべきである」旨の文書を送付した(乙C55)。

その後,A及びMと原告乙の間で,Lの養育をどちらが行うのかについて対立が生じ(乙C22,23,43~45,47,77),平成11年7月ころからLは原告乙の元で暮らすようになり,結局,同原告の希望どおり,同原告が養育し,Aが5万円の養育費を支払うことに決まった(乙C48)。

(オ) Aは,平成11年11月26日,原告乙と離婚し,同年12月16日,Mと再婚するとともに,同人の子3人を養子にした。

AはMと共に,l県で眼科診療所を開院したが,平成12年に養女の進学のため,w’県x’郡y’町に転居し,自宅付近で眼科等の診療所を開設している(乙C78~82)。

(カ) 原告乙は,平成12年3月,Lのa県立b工業高校入学を機に離村して,L及びKと暮らすことにし,同年4月5日,「私は,此の度,一身上の都合により,一時期,ヤマギシズム生活調正機関の構成員としてではなく,既存のヤマギシズム社会実顕地以外のところで,自分の家族で生活したいので,お届け致します。」と記載された文書に署名押印し(乙C24),引っ越した。

(キ) 被告調正機関は,原告乙に対して,次のとおりの支払等をした。

a Kのy高校2年次授業料 平成12年3月17日 16万3845円(直接,y高校へ振込み。乙C50の1~4)

b Lの高校入学費用 平成12年3月23日 14万7012円(乙C72,73の1~5)

c アパートの入居費用 平成12年3月28日 6万8000円(乙C25)

d アパートの入居費用 平成12年3月30日 32万6150円(乙C25)

e 現金 平成12年4月6日 110万円(乙C26)

f 市民税・県民税(平成12年度) 平成12年6月20日 3万0900円(乙C33)

g 国民健康保険料(平成12年度分) 平成12年6月2日 1万8000円,同年10月2日 30万6400円(乙C32,34)

国民健康保険料(平成13年度分) 平成13年8月30日 16万6808円(乙C35)

h 児童扶養手当減額分(平成12年度分) 平成12年12月28日 40万0200円(乙C28)

児童扶養手当減額分(平成13年度分) 平成13年7月10日 50万8440円(乙C29,30)

児童扶養手当減額分(平成14年度分) 平成14年8月5日 33万8960円(乙C31,37)

また,原告乙名義の土地持分(上記オ(ウ)e)については,第三者に所有権移転登記がされないままとなっており,原告乙に渡されたものと評価できる。

キ 脱退後の生活状況等

(ア) 原告乙は,平成12年4月11日からt実顕地家畜診療所研究所で社員として月額20万円前後の給料で働いている(乙C27,51の1~9,52)。

(イ) 原告乙は,平成14年7月5日,H’と会い,社員としての給料の増額を要求した。この際,H’は,「もう一度参画して僕らと一緒にやりませんか。」と誘ったが,原告乙はその意思がなく断った。

そして,原告乙は,同月7日,生活準備金として4500万円,Lの学費として600万円(合計5100万円)の支払を要求した(乙C36)が,交渉はまとまらなかった。

ク 被告調正機関に対する贈与税課税

z’税務署長は,平成10年4月14日,原告乙の上記オ(ウ)fの現金及び平成5年度の賃金相当額(乙C75)の出えんが贈与に当たるとして,贈与税283万9900円を課税し(乙C41),被告調正機関はこれに従って納税した(弁論の全趣旨)。

2  そこで,まず,争点(1)(債権譲渡の効力)について検討する。

(1)  被告らは,Aの被告らに対する不当利得返還請求権が特定されておらず,債権譲渡の対象となり得ないと主張する。

確かに,後記のとおり,上記不当利得返還請求権の認容額は,原告ら及びAが出えんした財産の価額の総額,原告ら及びAが被告調正機関の下で生活をしていた期間,その間に原告ら及びAが被告調正機関から受け取った生活費等の利得の総額,原告ら及びAの年齢,稼働能力等の諸般の事情を総合考慮して決まるものであるが,その額は客観的には確定しているといえるから,他の債権と同様,これを譲渡することにつき何らの支障もないというべきである。

(2)  また,被告らは,上記不当利得返還請求権は,債権の性質が譲渡を許さないものであるとか,譲渡禁止の合意があるとの理由で,債権譲渡の効力がないと主張する。

しかし,上記不当利得返還請求権は金銭債権であって,債権の性質が譲渡を許さないものであるとはいえないし,誓約書によって,譲渡禁止の合意がされたと解することもできない。

(3)  さらに,被告らは,Aが原告乙に対して不当利得返還請求権を譲渡するのは,訴訟信託に当たり,許されないと主張する。

しかし,上記不当利得返還請求権の行使により利益を享受するのは,Aではなく,原告乙自身であるから,債権譲渡が信託に当たるとはいえず,被告らの主張は採用できない。

(4)  よって,Aが原告乙に対してした債権譲渡は有効というべきである。

3  次に,争点(2)(不法行為の成否)について検討する。

(1)  勧誘の目的について

ヤマギシズムは,「無所有共用一体」の理想社会の実現を目的とし,そのために,「一体」,「無所有」及び「無我執」を基本理念としており,被告調正機関は,そのようなヤマギシズムを実践しようとする人々からなる社団であるところ,ヤマギシズムの上記の基本理念は,これに賛同する者が賛同している者ら同士の間で実践する限りにおいては,特に公序良俗に反するとまでいうことはできない。したがって,ヤマギシズムへの理解を求め,これに賛同し,かつ,全財産の出えんを含めて実践をするよう働きかけること(参画を勧誘すること)は,その目的のゆえに社会的相当性を欠くものであるということはできず,特講・研鑽学校への勧誘についても,仮にそれが参画の勧誘を目的としたとしても,その目的のゆえに社会的相当性を欠くということもできない。

(2)  勧誘の手段について

ア 原告らが特講や研鑽学校に参加した経緯等は上記1で認定したとおりであり,ヤマギシ会側の者が参加を強要したり,参加する以外に選択の余地がないと考えさせるほど執ような勧誘があったりしたような事実は認められず,特講や研鑽学校への勧誘行為自体が社会的相当性を欠くものであったということはできない。

イ 原告らは,「特講・研鑽学校においてはマインドコントロールの手法を駆使しており,社会的に許容されない。」旨主張するところ,特講では,世話係や進行係の間で,参加者の性格や研鑽会における態度等の情報を基に,特講の進め方について打合せがなされ,研鑽会では,進行係が声を荒げたり,厳しい物言いをしたりすることもあり,また,参加者がどのような回答・意見を述べても進行係が同じような問いを繰り返して参加者に再考と再回答を求め,それが数時間にわたって,ときには深夜・早朝にまで及ぶこともあるというのであるから,「無所有」や「無我執」などのヤマギシの基本理念が一般社会人がそれまで身に付けていた観念とは異なることにもかんがみると,原告らを含め,上記のような思考方法に不慣れな者にとっては,ある程度の緊張や不安感を覚え,また,周囲の参加者の多くが一定の回答に達したときに自分独りが取り残されたかのような心理的な負担を感じたこともあったものとは推認することができる。

しかしながら,特講の目的はヤマギシズムを理解してもらうことにもあり(弁論の全趣旨),原告らは,特講のカリキュラムの詳細については知らされていなかったものの,少なくとも,特講がヤマギシ会が開催するものであること,合宿形態であり,通常は途中で帰ったり,外出したりすることは性質上予定されていない講習会であることを理解した上で参加したものと認めるのが相当である。実際の特講の会場も人里離れた場所というわけではない。

また,講習会を運営する側で参加者の性格や講習会における態度等の情報に応じた働きかけをしたりすることは,講習会を効果的に運営する手段として,それ自体不相当なものとはいえず,研鑽会での進行係の態度も,「割り切り研鑽会」が必ずしも参加者全員が「できる」というまで続けられるというわけでもないことからすると,一定の回答を強要するというほどのものではないものと推認される。

さらに,特講では研鑽会が深夜まで続いた日もあったが,翌日の起床時間が遅らされるなど一応の睡眠時間は確保されており,緊張や不安感を覚えるような研鑽会がある一方で,懇親会のような行事も行われることなどからすると,特講のカリキュラムの厳しさは,合宿形態の講習会を運営する上で通常付随する程度のものであったと認められる。

そして,そもそも原告らの参加した特講のカリキュラムの中では,参画や全財産の出えんを直接勧誘するようなことはなされていないから,特講で感じた心理的負担等が原告らの参画を招来したものということはできない。特に,①原告丙については,1回目の研鑽学校への参加は特講参加から1年4か月経過後,2回目は2年4か月経過後,3回目は3年1か月経過後であること,②原告甲については,研鑽学校への参加は特講参加から1年経過後であること,③原告丁については,1回目の研鑽学校への参加は特講参加から1年6か月経過後,2回目は2年経過後であること,④原告乙については,1回目の研鑽学校への参加は特講参加から22年7か月経過後であること,平成元年7月~11月にいったん参画し,その実態を見たにもかかわらず,再度平成2年8月に研鑽学校に参加し参画していることなどの事情もある。

以上によれば,特講のカリキュラムが社会的相当性を欠く違法なものであるということはできない。

研鑽学校についても,特講より期間は長いものの,研鑽会のやり方等については,特講の参加によりある程度予想がつくこと,農作業等の研鑽作業が特に不当なものとも認められないこと等にもかんがみれば,特講と同様,そのカリキュラムが社会的相当性を欠く違法なものであるということはできない。

(3)  勧誘の結果について

被告調正機関への参画に際しては,全財産の引渡しが必要とされているが,参画後(参画中)の生活に要するものは被告調正機関によって用意されており,ヤマギシズムに賛同してヤマギシズム生活をすることを希望する者にそのことを前提に全財産を被告調正機関に出えんさせることも,それ自体をもって社会的相当性を欠くものということはできない。同様に,実顕地内で働いている参画者に「給料」が現実には交付されていないことについても,参画者の生活に要するものは被告調正機関によって用意されていることからして,参画への勧誘が社会的相当性を欠くものということはできない。また,参画者に対しては,自由に脱退することが認められ,実際にも相当数が脱退しており,被告調正機関への参画により不当に個人の自由が奪われるものともいえない。

(4)  インフォームドコンセントの欠如の主張について

被告調正機関は,ある程度組織化され,各種世話係等が担当の事項について決定をしているが,原告らの主張するような指導者や幹部がいるとまでは認められず,「研鑽の一致点が必ず見い出される。」,「個人の提案が必ず受け容れられる。」,「参画さえすれば直ちに腹の立たない人間になる。」などといった断定的な説明がなされたとも認められない。

被告調正機関が,原告らの参画に当たり,「被告調正機関からの脱退者も相当数いる。」と告げたことはないが,殊更秘匿したわけでもなく,脱退者が相当数いることを告げなかったことが社会的相当性を欠くものということはできない。

被告調正機関は,脱退者及び特講参加者に心理状態が不安定な者がいたり,自殺した者がいたことを特に告げていないが,そのような者がいたとしても,その原因は必ずしも明らかではなく,そのような者の割合が社会全体の統計数値と比較して有意な相違があることや,被告調正機関においてそうしたことを認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,上記のような者がいることを告げなかったことが社会的相当性を欠くものということはできない。

(5)  詐欺の主張について

被告調正機関は,脱退者に対し,当面の生活費等を渡すことがあるが,出えんされた財産を返還していなかったところ,そうしたことは報道もされ,特に秘匿されていたわけではなく(弁論の全趣旨),特講や研鑽学校受講者に,被告調正機関から脱退した際には出えんした財産を返還するかのような説明をし,その旨誤信させた上で,参画させたとは認められない。

(6)  契約締結上の過失について

上記1の認定事実と上記(1)~(5)の説示に照らせば,被告調正機関の担当者に,参画契約前の不実の告知,重要事項の不告知を前提とする「契約締結上の過失」があるとは認められない。

(7)  まとめ

以上によれば,被告調正機関の担当者の,原告らに対する特講・研鑽学校への勧誘行為,ヤマギシへの参画・全財産持込み勧誘行為が不法行為(契約締結上の過失を含む。)に該当する旨の原告らの主張は理由がない。

4  争点(3)(預託金返還請求権,信託財産返還請求権の成否),争点(4)(不当利得返還請求権の成否)及び争点(5)(参画契約の解除に基づく原状回復請求権の成否)について

(1)  上記1の認定事実によれば,原告ら及びAは,講習等を受講し,被告調正機関の思想,活動の目的,内容等を認識し,理解した上で,参画を決意し,被告調正機関との間でその全財産(参画後の労務提供を含む。)を出えんする旨の約定をし,これに基づきその全財産を出えんしたものである。上記出えんに係る約定及びこれに基づく原告ら及びAの出えん行為は,ヤマギシズム社会において要求される「無所有」の実践として行われたものであり,原告ら及びAが,終生,被告調正機関の下でヤマギシズムに基づく生活を営むことを目的とし,これを前提として行われたものであることが明らかである。そうとすると,原告ら及びAが被告調正機関に対し出えんした財産は,被告調正機関に預託したものでも信託したものでもないということができる。

しかし,本件においては,原告ら及びAは,被告調正機関への参画をした後,上記のような事情の変更があったことから,被告調正機関の同意を得て被告調正機関から脱退をしたものである。これにより,上記出えんに係る約定及びこれに基づく原告ら及びAの出えん行為の目的又はその前提が消滅したものと解するのが相当である。そうすると,上記出えんに係る約定は,上記脱退の時点において,その基礎を失い,原告ら及びAの解除を待たずして,将来に向かってその効力を失ったものというべきである。したがって,上記原告ら及びAの出えん行為は,原告ら及びAの脱退により,その法律上の原因を欠くに至ったものであり,原告ら及びAは,被告調正機関に対し,出えんした財産につき,不当利得返還請求権を有する。

(2)  次に,原告ら及びAが被告調正機関に対して不当利得として返還を請求し得る範囲について検討する。上記不当利得返還請求権が原告ら及びAの脱退により事後的に法律上の原因を欠くに至ったことを理由とするものであること,原告ら及びAは,脱退するまでの相当期間,家族らと共に,被告調正機関の下でヤマギシズムに基づく生活を営んでいたのであり,その間の生活費等は,すべて被告調正機関が負担していたこと,また,原告ら及びAは,自己の提供する財産が被告調正機関や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で,その全財産を出えんしたものであること等の諸点に照らすと,原告ら及びAが被告調正機関に対して出えんした全財産の返還を請求し得ると解するのは相当ではない。原告ら及びAの不当利得返還請求権は,原告ら及びAが出えんした財産の価額の総額,原告ら及びAが被告調正機関の下で生活をしていた期間,その間に原告ら及びAが被告調正機関から受け取った生活費等の利得の総額,原告ら及びAの年齢,稼働能力等の諸般の事情及び条理に照らし,原告ら及びAの脱退の時点で,原告ら及びAへの返還を肯認するのが合理的,かつ,相当と認められる範囲に限られると解するのが相当である。

もっとも,原告らの労務提供による被告調正機関の利益については,次の点も考慮すべきである。①被告調正機関においては,参画者の日々の生活費には産業経済活動により上げた収益をこれに当てる必要があったところ,被告調正機関自身には権利能力がないことから,産業経済活動の法的主体として農事組合法人等が設立されたこと,②被告調正機関自身は産業経済活動をしていないこと,③全参画者の日々の生活費は,農事組合法人等から振り込まれた「給料」等をもって当てていること,④「給料」額の決定方法が上記1(被告ら等)(3)ウのようなものであること,⑤原告らを含めた参画者の農事組合法人等における労働は,「報酬なし,分配なし」等のヤマギシの運営の原則の下,「無所有共用一体」のヤマギシズムの生活を実践する中でなされたものであり,原告らを含めた参画者は「タダ働き」であることを承知の上で,働き始めたこと,⑥参画者の具体的な就業場所への配置は,農事組合法人等の担当者ではなく,被告調正機関の世話係の調正により決められていること,⑦農事組合法人等の組織・運営についても,被告調正機関がその重要部分を決めていること(弁論の全趣旨)を総合すると,農事組合法人等と原告ら参画者との間には雇用契約はないが,それにもかかわらず農事組合法人等が被告調正機関の管理する預金口座に金員を「給料」として振り込んでいるのは,労働基準法の関係で当該参画者に対する給料が支払われたという形を整える必要があったためであること,この「給料」の振込みの扱いは,農事組合法人等の上げた収益を被告調正機関に移転させるための会計処理にすぎないことが認められる。そして,①上記労働は,参画後,実顕地において無所有共用一体のヤマギシズム生活を送る中,「タダ働き」であることを承知の上でなされたものであり,参画前に少なくともその原因が既に形成されていた財産を参画に際して出えんするのとは質的に異なること,②被告調正機関の上記利得は,全参画者の日々の生活費に当てられていること,③脱退後の労働力ないし労働の対価は当該脱退者に帰属し,それについてまで被告調正機関に出えんしなければならないものではないことなどの事情を考慮すれば,被告調正機関の上記利得(これから当該参画者個人及びその家族のみの生活費相当額を控除したもの)が全く返還されないとしても,ごく例外的な場合を除き,被告調正機関から脱退することが著しく制約されることになるとはいい難い。

また,被告調正機関は原告乙から出えんを受けた財産につき課税当局から課税処分を受け,その後贈与税283万9900円を納税しているが,この点も考慮されるべきである(なお,贈与額は乙英子から振り込まれた相続分と被告法人から支払われた形式がとられている給料を含むものであり,相続分に関する具体的な金額は確定できない。)。なぜならば,①後記のとおり公序良俗に反し無効であるとはいえ参画契約には出えんした財産の返還請求等を一切しない旨の約定が存するため,被告調正機関が悪意の受益者であるとはいえないこと,②課税当局の課税処分が,違法であるか否かはともかくとして,少なくとも重大かつ明白な瑕疵があるために無効であるとまではいえないこと,③原告ら及びAの出えん行為が事後的に法律上の原因を欠くに至ったものであるため,被告調正機関において国税通則法23条2項に定める更正の請求をすることが困難であるとみられることから,この納税分だけ被告調正機関に現存利益がなくなったといい得るからである。

なお,原告ら及びAと被告調正機関との間の参画に係る契約には,原告ら及びAが出えんした財産の返還請求等を一切しない旨の約定があるが,このような約定は,その全財産を被告調正機関に対して出えんし,被告調正機関の下を離れて生活をするための資力を全く失っている原告ら及びAに対し,事実上,被告調正機関からの脱退を断念させ,被告調正機関の下での生活を強制するものであり,原告ら及びAの被告調正機関からの脱退の自由を著しく制約するものであるから,上記の範囲の不当利得返還請求権を制限する約定部分は,公序良俗に反し,無効というべきである。

(3)ア  この点,原告らは,「①参画時に書かされる誓約書には,「身・命」を無条件委任する旨の記載もあるが,個人の身体・生命を「無条件に委任」させる契約は,公序良俗に反することは明らかである。②ヤマギシ会は,参画時にすべての財産を持ち込ませ,離村後に返還しないし,また,参画中の労働に対して対価を支払わないが,これは,憲法18条の「奴隷的拘束,苦役」そのものである。③ヤマギシの村の中では,ヤマギシズム以外の思想や宗教を持った場合,迫害の対象となり,村を追われるが,そこでは「思想及び良心の自由」(憲法19条)や「信教の自由」(憲法20条)は保障されていない。④離村者へ持込財産を返さず,労働の対価も支払わないというのは,生存権(憲法25条)の侵害である。また,1枚の紙切れによる財産収奪は財産権不可侵(憲法29条)に違反する。これらから参画契約は公序良俗に反する。」旨主張する。

確かに,誓約書には,「身・命・知・能・力・技・実験資料の一切」を無条件委任する旨の記載もあるが,ヤマギシ会の理念・運営原則,誓約書の内容からして,この記載は,研鑽による公意により行動し,労働力や技能等を含むすべての財産を提供する趣旨であると解され,肉体的危害を加えられてもよいなどという趣旨ではないと解される。

また,ヤマギシ会は,参画時にすべての財産を持ち込ませ,また,参画中の労働に対して対価を支払わないが,ヤマギシズムは,「無所有共用一体社会」の理想社会の実現を目的とし,そのために「無所有」及び「無我執」を基本理念としており,参画者がこの基本理念を実践しようと被告調正機関と参画契約を締結していること,参画者は,職場の各自で調整し合って,仕事をしない日をとることもあること,自らの裁量で休むことも可能であること,しかもその脱退が自由であるとされていることからすると,憲法18条の「奴隷的拘束,苦役」に当たらないと解される。また,上記のとおり不当利得返還請求権を制約する約定については無効と解されることからすれば,同様に,参画契約自体が憲法25条,29条にも反するものではないと解される。

ヤマギシの村の中で,ヤマギシズム以外の思想や宗教を持った場合に,迫害の対象となったり,村を追われたりしたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告らの同主張は,採用できない。

イ  また,原告らは,ヤマギシ会による子供の虐待(二食の強制,父母と子との別離,個別研鑽と称する個室への強制収容と登校禁止,進学・就職の自由の抑圧等)は,子供の人権へのあからさまな侵害であり,子供の教育を受ける権利を踏みにじるものであることを理由に,参画契約は公序良俗に反する旨主張する。

(ア) アンケートの調査結果(甲27)によれば,学園世話係により暴行(たたく,殴る)を受けていた旨の回答が,小学生については対象190名のうち,162名(85.2%)があったと回答し,回数として5回以内が73名(45.1%),6回以上(分からないも含む。)が79名(48.7%)であったこと,中学生については対象217名のうち,173名(79.7%)があったと回答し,回数として5回以内が73名(42.2%),6回以上(分からないも含む。)が97名(56.0%)であったことが認められる。

もっとも,アンケートの調査結果によれば,世話係が暴行を加えた理由・経緯は,多くは生活態度の不良等を原因とするもので,暴行に至った理由・経緯が不当なものであったと認めるに足りる証拠はない。しかしながら,アンケートの調査結果によれば,学園世話係による暴行の中には,1度に合計10発(回)を超える暴行や,鼻血が出るような暴行等が行われていたと認められ,このような行為はいかに教育的な目的に基づくものであったとしても,社会通念上許容の範囲を超えているといわざるを得ない。

なお,上記アンケートの調査結果は,無記名であり暴行の有無について裏付けを欠くものではあるが,その数や記載内容に照らし,全体として全く信用性のないものとはいい難いから,学園世話係によりたたく・殴るという暴行が行われていたことは否定できないというべきである。

(イ) また,アンケートの調査結果によれば,個別研鑽については,あった旨の回答が,小学生(対象190名)については126名(66.3%),回数として5回以内が90名(71.4%),6回以上(分からないも含む。)が30名(23.8%)であり,中学生(217名)についてはあった旨の回答が176名(81.1%),回数として5回以内が93名(52.8%),6回以上(分からないも含む。)が80名(45.4%)であったことが認められる。

しかしながら,アンケートの調査結果によれば,個別研鑽の多くは生活態度の不良等を原因とするものであると認められ,不当な理由に「虐待」に該当するような個別研鑽が行われたと認めるに足りる証拠はない。

(ウ) また,アンケートの調査結果によれば,中学生では,高校に行けると思わないとか,自分の進路を自分で決定できないとする回答が半分程度であることが認められる。

しかしながら,子供の進路については,ヤマギシズム生活の中で暮らす親の方針も考慮せざるを得ないところでもあり,進学について制約を受けることが直ちに虐待に当たるとは認め難い。

(エ) その他,ヤマギシズム学園の方針により行われていた二食の強制,父母と子との分離,作業(実学)に従事させていること,村の行事による学校の欠席があること,友達の家への訪問が自由にできないこと等は,アンケートの調査結果を考慮しても,虐待に該当すると認めることはできない。

(オ) ところで,原告ら及びAの参画契約は,子供を学園に入園させることを目的とするものではなく,ヤマギシズム生活をするという目的のために参画するものであり,上記のとおりヤマギシズム学園の学園世話係による暴行が行われていたとしても,それは参画契約全体を公序良俗に反するものとして無効とするものではないというべきである。

したがって,原告らの同主張は採用できない。

ウ  原告らは,「被告調正機関の担当者は,原告ら及びAの全財産(原告らについては参画後の給料を含む。)をだまし取る意図があるのにないように装い,「だれのものでもない。」と原告ら及びAに申し向けて,「ヤマギシに所有権移転することがない。」旨欺もうし,誤信状態のまま参画申込みに追い込まれた原告らに対し,誓約書等の文書に署名指印などさせて,全財産(参画後の給料を含む。)を被告調正機関に交付させる参画契約(返還義務のない出資契約)を結ばさせたもので,これは,詐欺による意思表示(民法96条1項)である。」とか,「「すべてのものは,元来,だれのものでもない。」というのがヤマギシズムの根本的な考え方(教義)であるから,そもそも「返還義務のない出資」により被告調正機関に所有権移転する余地はない。原告ら及びAも,誓約書等に署名した際の意識としては,「だれのものでもない」,「無所有」などという抽象的なイメージしか抱いていなかった。したがって,仮に参画契約(返還義務のない出資契約)により被告調正機関に所有権が移転したとすると,原告ら及びAはその旨の意識を有していなかったのであるから,意思表示の内容の重要な部分に錯誤(民法95条)があることになり,参画契約(返還義務のない出資契約)は無効である。」などと主張するが,上記のとおり,原告ら及びAは,講習等を受講し,被告調正機関の思想,活動の目的,内容等を認識し,理解した上で,参画を決意し,被告調正機関との間でその全財産を出えんする旨の約定をし,これに基づきその全財産を出えんしたものであって,原告ら及びAに錯誤があったとはいえないし,そのことにつき被告調正機関に欺もうがあったともいえない。

エ  原告らは,「原告ら及びAが脱会した理由は,入会勧誘において標ぼうしていたことと実態とのかい離(殊に支配・被支配の事実,管理の事実,すべて研鑽により決定するとの事実のうそ等),不実の告知・重要情報の不開示,特講・研鑽学校における心理操作など社会的相当性を欠く非違行為がヤマギシ側にのみ存在したためである。この事情の下では,被告調正機関が脱会者である原告ら及びAとの間で財産の清算をしなくてよいという根拠はなく,原告ら及びAが誓約書等に署名したことのみをもって財産(参画後の給料を含む。)を返還しないことは信義則に反して許容されない。」と主張する。

しかし,上記3(2)で認定のとおり,原告ら及びAの特講,研鑽学校への参加,参画と続く一連の過程への被告調正機関の担当者の関与について,社会的相当性を欠く違法な行為があったとは認められないから,原告らの同主張は採用できない。

オ  原告らは,被告調正機関は,参画契約に基づき,原告らに対し,「ゆりかごの前から墓場の後,子々孫々まで一切の生活を保護・保証」し,「無階級 長なし」,「権利なし・義務なし」,「規則なし 監視なし」,「対立なし 一体運営」,「自発的・自覚・納得・無妥協・任意・自律・反省・自由意思・服従なし」,「愛児に楽園を」等を実行する義務を負うとした上で,原告らに対して債務不履行があったとして,それを理由とする解除を主張する。

しかし,原告らが主張する「無階級 長なし」の債務不履行については,被告調正機関においてこれに反するような運営が行われていたとは認められないから,いずれも理由がない。

また,原告らの希望がかなえられなかったことについては,被告調正機関の運営の原則に基づいて決められたものであるから,参画者である原告らもこれを尊重せざるを得ないものであり,これをもって直ちに債務不履行に該当するものとは認め難い。

「愛児に楽園を」に反する行為について参画契約の債務不履行と認められないことは,上記イのとおりである。

その他,原告らが債務不履行としてるる主張するものは,上記説示に照らし,いずれも理由がない。

したがって,原告らの同主張は理由がない。

(4)  以上を踏まえ,被告調正機関が原告らに対して負う不当利得返還責任の有無及び具体的金額について検討する。

ア 原告丙については,上記前提事実及び上記1で認定した事実により認められる諸事情,特に,出えんした財産の価額は脱退時に支払われた96万0163円(自動車代金を含む。)及び脱退後に支払われた203万8180円(学費及びクーラー購入費用を含む。)を除くと約56万円にすぎないこと,被告調正機関に参画していた期間は約8年7か月と相当長期にわたり,その間被告調正機関から家族を含め生活費等の利得を受けていること,昭和32年5月生まれで脱退時42歳であったこと,脱会後も平成13年10月20日まで被告法人で外部従業員として働いており,その後ホームヘルパー2級の資格を取得し,現在は老人施設で介護の仕事をしていることを総合考慮すると,原告丙の脱退に当たり,上記金員のほかに更に返還させるのが相当であるということはできない。

イ 原告甲については,上記前提事実及び上記1で認定した事実により認められる諸事情,特に,出えんした財産の価額は脱退時に支払われた47万2950円(自動車代金を含む94万5900円の半額)を除いても約4268万円に上ること,被告調正機関に参画していた期間は約8年1か月と相当長期にわたり,その間被告調正機関から家族を含め生活費等の利得を受けていること,妻である原告丁と共に脱退したこと,昭和22年1月生まれで脱退時52歳であったこと,脱退後被告法人の外部従業員又はアルバイトとして稼働していたことなどを総合考慮すると,原告甲の脱退に当たり,上記金員のほかに更に2100万円を返還させるのが相当である。したがって,被告調正機関は,原告甲に対し,2100万円を返還すべきである。なお,遅延損害金については,被告調正機関が悪意であったとは認められないから,第2事件訴状送達の日の翌日である平成14年7月4日からこれを認めるべきである。

ウ 原告丁については,上記前提事実及び上記1で認定した事実により認められる諸事情,特に,出えんした財産の価額は脱退時に支払われた47万2950円(自動車代金を含む94万5900円の半額)を除くと残らないこと,被告調正機関に参画していた期間は約8年1か月と相当長期にわたり,その間被告調正機関から家族を含め生活費等の利得を受けていること,夫である原告甲と共に脱退したこと,原告丁は昭和24年9月生まれで脱退時49歳であったことを総合考慮すると,原告丁の脱退に当たり,上記金員のほかに更に返還させるのが相当であるということはできない。

エ Aについては,上記前提事実及び上記1で認定した事実により認められる諸事情,特に,出えんした財産の価額は脱退時に支払われた65万円を除いても約3470万円に上ること,被告調正機関に参画していた期間は約6年8か月と相当程度にわたり,その間被告調正機関から家族を含め生活費等の利得を受けていること,Aは昭和20年12月生まれで脱退時51歳であったこと,Aは脱退後一緒に脱退したMとともに診療所を開設,運営していることなどを総合考慮すると,Aの脱退に当たり,上記金員のほかに更に1400万円を返還させるのが相当である。

原告乙については,上記前提事実及び上記1で認定した事実により認められる諸事情,特に,出えんした財産の価額は脱退時に支払われた180万5007円を除いても約1960万円に上ること,被告調正機関に参画していた期間は合計約9年10か月と相当長期にわたり,その間被告調正機関から家族を含め生活費等の利得を受けていること,原告乙は昭和23年1月生まれで脱退時52歳であったこと,被告調正機関が原告から出えんを受けた財産につき贈与税283万9900円を納税していることなどを総合考慮すると,原告乙の脱退に当たり,上記金員のほかに更に600万円を返還させるのが相当である。

したがって,被告調正機関は,原告乙に対し,以上合計2000万円を返還すべきである。なお,遅延損害金については,被告調正機関が悪意であったとは認められないから,内金600万円については第3事件訴状送達の日の翌日である平成14年9月14日から,内金1400万円については原告乙の平成16年2月26日付け「請求の趣旨拡張の申立」送達の日の翌日である同年3月2日からこれを認めるべきである。

5  争点(6)(贈与税納付に関する不法行為又は債務不履行の成否)について

原告乙は,被告調正機関は,名古屋国税局の調査に対し,原告乙の言い分を直接聴取してほしいと主張するなり,原告乙に自ら連絡を取って状況を報告するなりして,原告乙に防御の機会を与えて贈与税課税を回避する義務を,信義則上,あるいは参画契約に付随する義務として負っていた旨主張する。

しかしながら,原告乙が出えんした財産が相続税法上贈与に当たるとした場合にその納税義務を負うのは被告調正機関であって原告乙ではないから,被告調正機関が原告乙の言い分を直接聴取してほしいと主張したり,原告乙に自ら連絡を取って状況を報告したりする義務は信義則上もあるいは参画契約に付随する義務としてもないというべきである。

したがって,原告乙の同主張は採用できない。

6  争点(7)(被告法人の責任の有無)について

(1)  被告法人が,本件参画契約につき,原告に対し,重畳的に債務引受けをしたことを認めるに足りる証拠はない。

(2)  しかし,上記1の認定事実に証拠(乙15,62)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

ア 被告調正機関が設立主体となって設立した被告法人などの農事組合法人等は,対外的には,単位実顕地の土地・建物・生産財を所有し,単位実顕地における産業経済活動の法的主体となっている。

このようにして設立された被告法人においては,農業協同組合法73条,同法13条により,組合員は「出資」をしなければならないことになっているが,「組合員」とされている参画者は,被告調正機関に参画した時点で,すべての財産を被告調正機関に出えんしているから,被告法人に対して,現実に「出資」したのは被告調正機関となる。しかし,協議(研鑽)により,名目的に参画者の氏名を「組合員」の氏名としている。

イ 被告法人の定款第17条では「組合員」の持分払戻しの請求を認めない旨を規定している(乙15)。

ウ 参画者の出資金の金員の流れと会計処理の状況は,別紙8のとおりである(乙62)。

すなわち,参画者が参画に当たり出えんした財産は,現金化され,百五銀行椋本支店の本庁口座に入金される。その本庁口座から百五銀行上野支店の「ヤマギシズム世界銀行」の口座へ送金される。

「ヤマギシズム世界銀行」の口座からはヤマギシズム生活t実顕地調正機関の口座ほか各地の調正機関の口座に送金され,さらに調正機関の別の口座に預け替えられ,その口座から被告法人ほか各地の実顕地農事組合法人に貸付けがなされる。

被告法人ほか各地の実顕地農事組合法人においては,参画者の給与名目でヤマギシズム生活t実顕地調正機関の口座ほか各地の調正機関の口座に送金するほか,借入金の返済分等をヤマギシズム生活t実顕地調正機関の口座ほか各地の調正機関の口座に送金する。

ヤマギシズム生活t実顕地調正機関の口座ほか各地の調正機関の口座からは,さらに当該調正機関の別の口座に預け替えられるなどした上,参画者の生活費が支出される。

エ ヤマギシズム社会実顕地において,収益事業を行っているのは,農事組合法人等だけであり,被告調正機関は収益事業を行っていない。

しかし,被告調正機関の構成員は生活のための資金を必要とする。

他方,被告調正機関が参画者から出えんされた財産の使途は原則的には農事組合法人等への出資や貸付けに当てられて農地購入や宿舎等の建物建設や生産手段の購入等に用いられ,参画者の日常の生活費に用いられない。

そこで,農事組合法人等の収益をもって参画者の日常の生活費に当てるため,参画者が農事組合法人等の「従業員」ではないのに形式上「従業員」の立場を有するものとしてこれに「給料」を支払うという方法や,名目上の組合員となっている参画者に対する「従事分量配当金」を支払うという方法を採り,農事組合法人等の収益を被告調正機関に移転させている。

オ 被告らは,特講及び研鑽学校において参画者に被告らの関係(被告調正機関と農事組合法人等)や経理処理について説明した形跡はなく,参画者の中には,上記エの経理処理を知らず,給料が支払われている形式になっていることを知らない者も相当数いた。

カ 参画者の具体的な就業場所への配置は被告調正機関の世話係の調正により決められる。

キ 農事組合法人等で働く参画者には就業規則等の適用はないものとして扱われている。

ク 農地等を所有し,収益事業を行っている被告法人などの農事組合法人等は,固定資産税,法人県市町村民税,法人税を納付している。

他方,被告調正機関は,参画者が農事組合法人等の「従業員」の立場で農事組合法人等から支払われるとされる「給料」に対して参画者個人に課税される住民税や所得税を,参画者個人の名義をもって納付しているほか,参画者から被告調正機関に出えんされた財産に関して贈与税を納付している。

(3)  上記認定の事実によれば,納税や外部との一般取引においては被告調正機関と被告法人とはそれぞれ別の団体として扱われていると認められるし,被告調正機関の財産が被告法人名義で隠匿されているとか,被告調正機関が被告法人を脱退者の財産返還請求を困難にする目的のために用いているなどの事情はうかがえない。しかし,被告法人の組合員が名目的であるとか,被告法人が名目的に参画者に給料を支払うとかいう処理がなされていることのほか,そのことが参画者の全員に説明されているわけではないこと,被告法人等が産業経済活動により上げた収益は,参画者の「給料」名下に,被告調正機関に移転され,全参画者の生活費に当てられていること,参画者の具体的な就業場所への配置は被告調正機関の世話係の調正により決められること,農事組合法人等で働く参画者には就業規則等の適用はないものとして扱われていることなどの事情からすれば,被告法人の法人格は少なくとも参画者に対する関係で形がい化していると認められる。

そうとすれば,被告法人は被告調正機関と同様の責任を負うというべきである。

7  結論

以上によれば,原告丙の被告らに対する請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべきである。

原告甲の被告らに対する請求は,不当利得返還請求権に基づき,連帯して2100万円及びこれに対する平成14年7月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきである。

原告丁の被告らに対する請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべきである。

原告乙の被告らに対する請求は,不当利得返還請求権に基づき,連帯して2000万円及び内金600万円に対する平成14年9月4日から,内金1400万円に対する平成16年3月2日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきである。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 上野泰史 裁判官 後藤誠)

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