津地方裁判所 平成14年(行ウ)36号 判決 2005年2月24日
第1,第2事件原告
山本謹一
外2名
同3名訴訟代理人弁護士
村田正人
同
石坂俊雄
同
福井正明
同
伊藤誠基
第1,第2事件被告
御浜町長
北浦公教(以下「被告町長」という。)
第1事件被告
御浜町税務住民課長
梶家佳二(以下「被告税務住民課長」という。)
同2名訴訟代理人弁護士
坪井俊輔
主文
1 被告町長が,パーク七里御浜株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)〜(10),2〜12記載の不動産について,別紙2一覧表記載の平成元年度第3期から平成12年度第4期までの各期別の固定資産税延滞金の徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
2 被告町長が,パーク七里御浜株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)〜(10),2〜12記載の不動産について,別紙2一覧表記載の平成13年度第1期から第4期までの各期別の固定資産税延滞金の徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
3 原告らの被告町長に対するその余の請求及び被告税務住民課長に対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを3分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告町長の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 第1事件
被告らが,パーク七里御浜株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)〜(10),2〜12記載の不動産について,別紙2一覧表記載の平成元年度第2期から平成12年度第4期までの各期別の固定資産税延滞金(合計3347万6100円)の徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
(2) 第2事件
被告町長が,パーク七里御浜株式会社に対し,別紙1物件目録1(4)〜(10),2〜12記載の不動産について,別紙2一覧表記載の平成13年度第1期から同年度第4期までの各期別の固定資産税延滞金(合計179万3600円)の徴収を怠っていることが違法であることを確認する。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告らは御浜町の住民である。
(2) パーク七里御浜株式会社は,遅くとも平成元年以降,別紙1物件目録1(4)〜(10),2〜12記載の不動産(以下「本件課税対象物件」という。)を所有又は共有している。
(3) パーク七里御浜は,平成元年分から平成12年分までの固定資産税を延滞して支払った。平成元年度第2期から平成12年度第4期までの固定資産税にかかる延滞金(以下「本件延滞金(1)」という。)は,別紙2一覧表記載のとおりであり,合計3347万6100円である。
(4) パーク七里御浜は,平成13年度分の固定資産税を延滞して支払った。平成13年度第1期から第4期までの固定資産税にかかる延滞金(以下「本件延滞金(2)」といい,本件延滞金(1)と併せて「本件各延滞金(3)」という。)は,別紙2一覧表記載のとおりであり,合計179万3600円である。
(5) 被告らは,本件各延滞金(3)の徴収を違法に怠っている。ここで,「徴収」とは,滞納処分のみならず,現実の延滞金徴収に向けて実効性のある措置をとることを意味する。
ア 被告らが租税債権の消滅時効の中断の措置を講じることは,消極的な手段にすぎず,これだけでは御浜町は現実に収入を得ることができないし,パーク七里御浜が倒産した場合には回収が困難となる。積極的に,本件各延滞金(3)を徴収する手段を講じるべきである。
イ パーク七里御浜は,第13期(平成10年4月1日〜平成11年3月31日)に44万3905円,第15期(平成12年4月1日〜平成13年3月31日)に305万6106円,第16期(平成13年4月1日〜平成14年3月31日)に202万0643円の当期利益を計上している。租税債権は一般債権に優先するから,被告らが本件各延滞金(3)を徴収することは可能である。
ウ パーク七里御浜は,第13期,第15期及び第16期の損益計算書で,当期利益を計上しているが,これらには本件各延滞金(3)は計上されておらず,粉飾決算である。被告らは,この粉飾決算を許したまま,漫然と本件各延滞金(3)の徴収を放置している。
パーク七里御浜の第17期貸借対照表によれば,それまでは,「負債の部」の「固定資産」,「その他の負債」に計上していた本件各延滞金(3)を,突如「負債の部」の「流動資産」,「長期未払金」として計上している。本件各延滞金(3)は,本税を支払った時点で即時に返済時期が到来している債務であるにもかかわらず,これを被告町長との分割返済の合意もないままに,長期未払金として計上することは,パーク七里御浜が,本件各延滞金(3)を直ちに支払わなくてもよい債務と認識していることを示している。
税金の滞納者が差押えを免れるために「支払う意思はあります。」と言いながら,その支払をしないで先延ばしにするのは,税金の滞納者の常套手段であり,そのような弁解を聴取しているからといって,本件各延滞金(3)の徴収をしないことの怠慢を正当化できるものではない。
エ 地方団体の徴収金である本件各延滞金(3)は,一括納付が原則であるが,仮に徴収猶予を認める場合には,地方税法15条の規定に従ってなされるのでなければ違法となる。
同条は,地方団体の徴収金の徴収猶予の要件等について規定しており,同条1項各号に該当する場合において,地方団体の徴収金を一時に納付することができないと認めるときは,その納付することができないと認められる金額を限度として,その者の申請に基づき,1年以内の期間に限り,その徴収を猶予することができると規定しており,同条3項において猶予した期間内に納付することができないやむを得ない理由があると認めるときは,期間延長できるが,既に徴収ができる期間と併せて2年を超えることができないと規定している。
このような地方税法の趣旨にかんがみれば,同法15条1項の要件を満たさない場合において徴収猶予を行うことは違法であるし,また,要件を満たしている場合においても,2年を超える期間の徴収猶予は違法である。
したがって,被告町長に対する分割納付誓約書を提出させて,2年を超える期間の長期にわたる事実上の徴収猶予を行うことは,地方税法の規定に反し違法である。地方団体の長が,納税義務者に対して2年を超える期間の分割納付誓約書を提出させて,2年を超える期間の分割納付を認めるような裁量権は,地方税法上,どこにもその根拠となる規定はなく,また,条例にも根拠規定はないのであるから,裁量によって救済される余地はない。
オ 被告らがパーク七里御浜から担保を徴しないのも違法である。
地方税法16条は,地方団体の長が同法15条の規定により徴収を猶予した場合には,その猶予に係る金額に相当する担保を徴さなければならないと規定し,1号から6号までの担保を掲げている。これは義務的規定であり,徴収猶予の場合には担保の徴収は不可欠である。
地方税法は,徴収を猶予するについても担保の徴収を義務付けているにもかかわらず,被告らがパーク七里御浜から担保を徴収しないまま,2年以上の期間を超える分割納付誓約書を提出させて,事実上の徴収猶予をすることは,地方税法に反し違法である。
地方団体の長にこのような裁量の余地はなく,地方税法にも条例にも,このような取扱いの根拠となる規定は存在しない。
カ 被告らは,パーク七里御浜の現金や預金を差し押さえることが可能である。なぜなら,第17期の貸借対照表によると,パーク七里御浜は,平成15年3月31日現在,現金68万2400円及び第三銀行御浜支店の当座預金,普通預金,売上管理,受託事業の各口座を持っているほか,百五銀行熊野支店,中京銀行熊野支店,新宮信用阿田和支店,三重南紀農協にも普通預金口座を有しているからである。
これに対し,被告らは,第三銀行の預金を差し押さえても,同行が相殺するから意味がないと主張するが,銀行の債権は税金に劣後する債権であるし,御浜町とも取引関係にありパーク七里御浜に役員派遣までしていた同行が,税金の差押えに対抗して相殺の措置をとるとは現実的に考えられない。
キ パーク七里御浜は,巨額の負債を抱えていて,いつ倒産してもおかしくない状態にあり,被告らが,債権回収のための措置をとらないで放置していることは違法である。
パーク七里御浜は,前年度からの租税等の未払債務の履行を引き続き延期するとしても,平成16年度で,市中金融機関への返済額(設備)5451万円,(運転)2700万円,建設協力金返済額1516万9000円,御浜町への借入返済額3000万円,これらの支払利息合計1458万3000円,総額1億4126万2000円の資金が必要となるが,予想されるキャッシュフローは6500万円しかなく,返済が成り立たないことは客観的に明らかである。そして,このような返済資金が不足する状況は,平成17年度以降も続くのである。
ク 被告らが,パーク七里御浜から受け取った分割納付金を,平成14年度から平成16年度の固定資産税に充当せず,本件延滞金(1)に充当したのは,地方税法14条の5第1項の本税優先の規定に反し,違法である。
被告らは,パーク七里御浜から分割納付金を受領して本件延滞金(1)が減少したと主張しているが,これは本件裁判の対策であり,これを延滞中の固定資産税に充当すれば,本件各延滞金(3)はまったく減少しないまま推移していることになる。
(6) 原告らは,平成14年7月24日,御浜町監査委員に対して,本件延滞金(1)の徴収措置を講じるよう求める住民監査請求を行ったが,同年9月18日に棄却された。
(7) 原告らは,平成16年2月17日,御浜町監査委員に対して,本件延滞金(2)の徴収措置を講じるよう求める住民監査請求を行ったが,同年4月16日に棄却された。
(8) よって,原告らは,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,被告らに対し,本件延滞金(1)の徴収を怠っていることが違法であることの確認を,被告町長に対し,本件延滞金(2)の徴収を怠っていることが違法であることの確認を求める。
2 請求原因に対する認否及び反論
(1) 請求原因(1)〜(4),(6),(7)の事実は認める。
(2) 請求原因(5)の事実は否認ないし争う。
ア パーク七里御浜は,平成10年8月24日,本件延滞金(1)について350万円を納付し,被告町長は,内金255万4500円を平成元年度第1期分の延滞金に,残金94万5500円を同年度第2期分の延滞金の一部に充当した。また,パーク七里御浜は,平成15年10月29日付け「固定資産税に係る延滞金の納付について」と題する文書(以下「本件計画書」という。)に基づき,平成15年度に150万円,平成16年度(同年9月21日現在)に60万円を納付した。このように,パーク七里御浜は延滞金について1円も支払っていないわけではない。
イ 被告町長は,本件各延滞金(3)について,地方税法15条に定める徴収猶予を認めているわけではない。
被告町長は,パーク七里御浜に対し,本件各延滞金(3)につき,告知,督促の手続をなし,その納付を求めているが,同社は納付の強い意思を持っているものの,長期にわたる不況の影響もあってその経営は厳しい状況にあり,毎年度発生する新たな固定資産税本税を支払うのが精一杯の状態で,本件各延滞金(3)を納付する余裕がないので,この納付についてはしばらく猶予してほしいと申し出ている。被告町長としては,地方税法の本税優先の精神に則り,新たに発生している固定資産税本税の納付を本件各延滞金(3)の納付に優先させているが,平成14年度の本税の納付も納期限が過ぎているにもかかわらず,未だ納付されていない状態であり,同社の説明は虚偽ではないと考えている。
そして,パーク七里御浜は,決算書において本件各延滞金(3)を計上しており,被告町長がその納付について,パーク七里御浜に納税催告した際も,同社は誠実なる納入支払の意思を表明していた。
さらに,パーク七里御浜は,平成15年10月29日,本件計画書を提出し,これに記載された分割納付額に従い,同月31日から納付が開始された。本件計画書には,平成19年度以降の納付の時期,金額等について具体的な記載がなく,平成18年度までの分割納付予定額も年額150万円と少額であるので,被告町長としてはこれを了承したわけではなく,早期に完納するよう申し入れたところであるが,パーク七里御浜の納税意思がこれまでより具体的に示されたといえる。
これらのことから,被告町長は,パーク七里御浜には本件各延滞金(3)を支払う意思があるものと判断している。
被告町長は,本件各延滞金(3)につき滞納処分としての差押えも検討はしたが,滞納処分をしても本件各延滞金(3)の納付につながらないだけでなく,新たに発生する固定資産税本税等の納付を確定的に不能にするおそれがあるため,滞納処分を控えているのであり,徴収権者である被告町長には,このような裁量権があるというべきである。
原告らは,被告町長が地方税法15条に基づく徴収猶予をしているかのように主張しているが,被告町長は徴収猶予をしたことはなく,直ちに差押えの滞納処分をとることなく,自発的な納付を促しているにすぎないのである。
ウ 被告町長は徴収猶予をしたことがないのであるから,これを前提とする担保の請求について考慮する余地はない。
エ パーク七里御浜は第三銀行に対して多額の債務を負担しており,仮に被告町長が第三銀行御浜支店の預金を差し押さえても,第三銀行から相殺権を行使されて,納付にはつながらない。
被告町長が滞納処分として差押えの手続をとっても本件各延滞金(3)の全額の徴収にはつながらず,同社を倒産に追い込み,その結果,本件各延滞金(3)の徴収が確定的に不能となるおそれが大きく,さらに今後新たに発生する固定資産税本税の納付も確定的になされなくなるおそれも大きい。
パーク七里御浜は,第三銀行等に対し,約2億円の借入債務を負担していて,この返済については期限の利益を有しているが,本件各延滞金(3)の滞納処分として差押えをすると,上記借入債務の返済について期限の利益を喪失し,全額を即金で支払わなければならなくなる。
パーク七里御浜の収入で最も大きいのは,キーテナントである株式会社オークワからの賃料収入であるが,オークワとの契約では差押えを受けたときは,オークワは賃貸借契約を解除することができることとなっており,賃料収入がなくなるおそれが大きい。
パーク七里御浜の預金は,その大半が第三銀行に対してなされていて,仮にこの預金に対し差押えの手続をとっても,同行から相殺権を行使される可能性が極めて高く,徴収にはつながらない。
パーク七里御浜の各テナントに対する賃料債権を差し押さえても,抵当権者が抵当権に基づく物上代位を行使すれば,結局,徴収にはつながらない。
オ 以上のように,パーク七里御浜の現状においては,滞納処分としての差押えをしても本件延滞金の徴収にはつながらないのみならず,かえって,そのことがパーク七里御浜を倒産に追い込み,残余の延滞金の徴収を確定的に不可能ならしめるおそれが大きいのみならず,今後発生する固定資産税本税の徴収をも不可能ならしめるおそれが大きい。このため,被告町長は本件各延滞金(3)の滞納処分を控えているのであり,その判断に誤りはなく,裁量権の正しい行使というべきである。
理由
1 請求原因(1)〜(4),(6),(7)の事実は当事者間に争いがない。
2 請求原因(5)について
(1) 法令の定め
ア 地方税の徴収猶予について
地方団体の長は,納税者がその事業につき著しい損失を受けたとき,その他これに類する事実があったときで,これに基づき税金を一時に納付することができないと認められるときは,その納付できないと認められる金額を限度として,納税者の申請に基づき,1年以内の期間に限り,その徴収を猶予することができ(地方税法15条1項4号,5号),徴収を猶予した場合において,その期間内に納付することができないやむを得ない理由があると認めるときは,納税者の申請により,合計して2年を超えない限度で徴収猶予期間を延長することができる(同条3項)。
地方団体の長が徴収を猶予する場合,特別の事情のない限り,猶予に相当する金額の土地や保険に付した建物等を担保として徴収しなければならない(同法16条1項)。
地方団体の長は,徴収猶予期間内は,新たに督促及び滞納処分(交付要求を除く。)をすることができず(同法15条の2第1項),徴収の猶予を受けた者の財産の状況その他の事情の変化によりその猶予を継続することが適当でないと認められるときは,地方団体の長は,徴収猶予を取り消し,一時に徴収することができる(同法15条の3第1項3号)。
イ 固定資産税の徴収について
納税者が納期限までに固定資産税を完納しない場合,市町村の徴税吏員は,納期限後20日以内に,督促状を発しなければならず(地方税法371条1項),滞納者が督促を受け,その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る固定資産税を完納しないときは,市町村の徴税吏員は,当該固定資産税に係る地方団体の徴収金につき,滞納者の財産を差し押えなければならない(同法373条1項1号)。
ウ 地方税と抵当権付き債権の優先関係について
納税者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは,その地方団体の徴収金は,その換価代金につき,その抵当権により担保される債権に次いで徴収する(地方税法14条の10)。
エ 地方税の優先関係について
納税者の財産につき地方団体の徴収金の滞納処分による差押えをした場合において,他の地方団体の徴収金の交付要求があったときは,当該差押えに係る地方団体の徴収金は,その換価代金につき,当該交付要求に係る地方団体の徴収金に先立って徴収する(地方税法14条の6)。
オ 無益執行の禁止について
差し押さえることができる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び徴収すべき固定資産税に先立つ他の国税,地方税その他の債権の金額の合計額を超える見込みがないときは,その財産は,差し押さえることができない(地方税法373条7項,国税徴収法48条2項)。
(2) 認定事実
証拠(甲2,10〜14,17の1〜5,18の1,19,20,乙1,2,3の2,7の1〜6・10〜19,8の1・2,9の1・2,10,11,12の1・2,証人中門雅弘)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 御浜町決裁規程4条1項,別表2(3)によると,督促状及び催告書の発付や差押え登記を行うことは被告税務住民課長の専決事項とされているが,滞納処分はこれに含まれておらず,被告町長の決裁事項である(乙1,10)。
イ パーク七里御浜は,昭和61年5月28日,御浜町立阿田和中学校の跡地の有効活用を図るとともに,御浜町経済の活性化を目的として,御浜町や三重県らが出資して設立された第三セクターの株式会社であり,平成15年3月31日時点での持ち株数は,御浜町2万5590株(議決権比率80.56%),三重県3160株(同9.95%)などとなっている(甲10)。
パーク七里御浜は,上記中学校跡地に,ショッピングセンター,観光センター,レストラン及び地域の文化活動や情報発信を支援する地域活性化センターからなる複合施設(以下「本件施設」という。)を有しており,「道の駅」に登録されている。本件施設には,ショッピングセンターの中核テナントとしてオークワが入店しており,御浜町も一部を賃借し,町民センターとして利用している。
ウ 被告町長は,平成元年度以降,パーク七里御浜に対して,本件課税対象物件に係る固定資産税の課税を行った。
しかし,パーク七里御浜は,本件施設を開業以来赤字が続き,経営不振となったため,平成元年度から平成13年度まで,固定資産税は納期限から遅滞して納付され,別紙2一覧表のとおり,本件各延滞金(3)が発生した。
被告町長は,平成元年度第1期分から平成13年度第4期分までの固定資産税につき,各納期限以降,別紙3のとおり督促状及び催告書を発付し,さらに毎年度の固定資産税が納付され延滞金が確定するたびに,パーク七里御浜に対して,延滞金額を明記した通知書等を送付し,納付の催告を行った。
なお,パーク七里御浜は,三重県に対して,不動産取得税延滞金も滞納している(甲18の1)。
エ 御浜町は,平成10年4月30日,パーク七里御浜に対し,9億5000万円を貸し付けた。
オ パーク七里御浜は,平成10年8月24日,延滞金の平成元年度第1期分255万4500円と同第2期分の94万5500円の合計350万円を納付した。
カ 被告税務住民課長ら町職員は,パーク七里御浜の代表者と平成11年8月26日から平成14年8月15日までの間に25回折衝し,固定資産税延滞金の納付の催告や経営状態の聴取等を行った。
パーク七里御浜は,平成11年8月26日,「未納の町税債務の承認及び納付確約書」と題する文書を提出し,未納付町税及び延滞金債務を承認した(甲2)。
キ パーク七里御浜は,平成15年10月29日,被告町長に対し,「固定資産税に係る延滞金の納付について」と題する文書(本件計画書)を提出した(甲14,乙3の2)。これには,以下のとおり,記載されている。
「 平素は,弊社運営にあたり,格別のご指導とご配慮を賜り厚くお礼申し上げます。
さて,弊社は資金繰りの関係から,御浜町の固定資産税に係る延滞金を滞納しており,誠に恐縮に存じております。現在の資金収支状況では滞納額全額の一括納付はできない状況であります。
つきましては,下記のとおり,平成15年10月31日までに金500,000円を納付させていただき,平成15年11月以降,平成16年3月に至る期間につきましては,毎月金200,000円を納付いたしますので,平成元年度第2期から平成13年度第4期分までに係る延滞金37,369,700円の内金として充当していただきますようお願い申し上げます。
残余の延滞金につきましては,出来得るかぎり早期に納付させていただく所存で御座いますが,今後3年間につきましては,下記のとおり分割納付させていただき,その後分割納付額を見直し,早期に完納できるよう努力いたす所存でございますので,実情ご賢察のうえ,格別のご配慮を賜りますようお願い申し上げます。
記
固定資産税延滞金分割納付額
平成15年度 1,500,000円納付(10月末 500,000円,11月〜3月各 200,000円)
平成16年度 1,500,000円納付(毎月 125,000円)
平成17年度 1,500,000円納付(毎月 125,000円)
平成18年度 1,500,000円納付(毎月 125,000円)」
ク パーク七里御浜は,平成15年10月31日から平成16年3月まで,本件計画書に従って固定資産税延滞金150万円を納付したが,平成16年4月以降は毎月の返済額を10万円に減額して納付し(合計60万円),平成16年9月21日時点で残額3526万9700円となった(詳細は,別紙2一覧表に記載のとおり)。
しかし,被告町長は,パーク七里御浜に対して,本件各延滞金(3)につき滞納処分をとっていない。
ケ パーク七里御浜の最近の決算状況は,次のとおりである。
(ア) 第16期(平成13年4月1日〜平成14年3月31日,乙8の1・2)
当期利益として202万0643円を計上したが,前期から繰り越された当期末処理損失として12億1840万6572円があった。
資産としては,本件課税対象物件のほか,現金187万5921円,第三銀行御浜支店売上管理口座に57万5288円のほか,残高3万円未満の預金口座7口などがあった。
他方,負債としては,御浜町からの借入金9億5000万円,日本政策投資銀行からの借入金6100万円,第三銀行からの借入金1億9437万9000円などがあった。
(イ) 第17期(平成14年4月1日〜平成15年3月31日,甲10〜13,乙9の1・2)
当期利益として140万1000円を計上したが,前期から繰り越された当期末処理損失として12億1700万5000円があった。
資産としては,本件課税対象物件のほか,現金68万2400円,第三銀行御浜支店の受託事業口座に79万3947円,売上管理口座に26万2288円,普通預金口座に19万4546円,その他残高10万円未満の預金口座5口などがあった。
他方,負債としては,御浜町からの借入金9億5000万円,日本政策投資銀行からの借入金2500万円,第三銀行からの借入金1億9384万7000円などがあり,長期未払金として本件各延滞金(3)が挙げられていた。
(ウ) 第18期(平成15年4月1日〜平成16年3月31日,甲17の1〜5)
当期損失として9843万円を計上し,前期から繰り越された当期末処理損失として13億1543万6000円があった。
資産としては,本件課税対象物件のほか,現金110万4825円,第三銀行御浜支店の売上管理口座に55万5610円,受託事業口座に11万4785円,普通預金口座に6万1477円,その他残高3万円未満の預金口座5口などがあった。
他方,負債としては,御浜町からの借入金9億5000万円,日本政策投資銀行からの借入金450万円,第三銀行からの借入金1億6775万8000円などがあり,長期未払金として本件各延滞金(3)が挙げられていた。
コ パーク七里御浜は,平成16年6月10日,被告町長に対し,「経営改善計画(案)」を添付して,町からの借入金元金及び利息の返済の猶予を求める要望書を提出し(甲19),同月14日,「現状と今後の展望について」と題する経営状況の調査報告書をまとめた(甲20)。これによると,パーク七里御浜は,御浜町からの上記エの借入金につき計画どおり返済することは不可能であるとされている。
サ 本件課税対象物件には,いずれも次の抵当権及び根抵当権が設定されている(乙7の1〜6・10〜19,12の1・2)。
(ア) 平成元年5月15日受付第2781号設定,平成15年5月21日受付第1410号移転の抵当権
抵当権者 日本政策投資銀行
債権額 4億3000万円
(イ) 平成元年5月15日受付第2783号設定の根抵当権
根抵当権者 株式会社第三銀行
極度額 3億3000万円
(ウ) 平成10年4月30日受付第1597号設定の抵当権
抵当権者 御浜町
債権額 9億5000万円
シ パーク七里御浜が第三銀行との間で平成元年3月1日に取り交わした銀行取引約定書5条1項3号によると,パーク七里御浜の第三銀行に対する預金やその他の債権について,仮差押え,保全差押え又は差押命令がなされたときは,パーク七里御浜は,第三銀行からの通知催告等がなくても当然に期限の利益を喪失し,直ちに債務全額を弁済することとされ,同5条2項2号によると,担保の目的物について差押え又は競売手続の開始があったときは,第三銀行の請求により一切の債務の期限の利益を失うこととされている(乙2)。
(3) 被告税務住民課長に対する請求について
上記(2)ア,ウの認定事実によれば,被告税務住民課長は,督促状及び催告書の発付を怠ったとは認められない。また,被告税務住民課長は,滞納処分について権限がないから,滞納処分を怠ったとも認められない。さらに,被告町長による滞納処分がされていないから,被告税務住民課長がこの滞納処分がなされたことを前提とする差押え登記を怠ったとも認められない。
よって,被告税務住民課長が,本件延滞金(1)の徴収を違法に怠ったということはできず,同被告に対する請求は理由がない。
(4) 被告町長に対する請求について
ア 平成元年度第2期の固定資産税延滞金はすでに納付され残高がなくなっているから,被告町長が同延滞金の徴収を怠っているとは認められない。したがって,以下,被告町長が平成元年度第3期から平成13年度第4期までの各期別の固定資産税延滞金(以下「本件各延滞金(4)」という。)の徴収を怠っているか否かにつき検討する。
イ 地方税法は,租税法律主義に基づき課税権の主体としての地方公共団体と納税者としての住民との間の租税に関する法律関係を規制するものであるところ,地方税法373条1項は,市町村吏員に対して,督促状を発して10日以内に徴収金を完納しない滞納者の財産を差し押さえる権限を与えたものであるが,他方で,同法15条が,上記(1)アのとおり,地方税の徴収猶予について規定し,同法15条の5が,滞納者が徴収金の納付について誠実な意思を有すると認められ,かつその財産を直ちに換価することにより事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあり,換価を猶予することが,直ちに換価をするよりも滞納にかかる徴収金及び最近に納付すべきこととなる徴収金の徴収上有利であるときは,換価の猶予のために必要だと認められれば,地方団体の長は,差押えにより事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがある財産の差押えを猶予することが,2年を超えない範囲でできるものとしていることからすると,滞納者に対して滞納処分を行う対象や時期については,一方では,個々の滞納者の担税力や誠実なる納入意思の有無に応じてその事業の継続や経済生活の維持がむやみに損なわれることのないよう配慮しながら,他方では,公平を欠き,偏頗な徴税行為であるとの非難を受けることのないよう,計画的,能率的かつ実質的にその徴収権の確保を図るに相当な範囲での裁量が与えられているものと解される。
したがって,固定資産税の滞納分に対する督促状を発してから10日以内に差押えがされないからといって,当然にこれが地方税法に違反するとはいえないが,差押え等滞納処分を取られないために実質的に公金徴収権の確保が図られない場合や,公平を欠き偏頗な徴税行為であるとみられる場合には,地方団体の長はその裁量を逸脱し,徴収金の徴収を違法に怠るものと解するのが相当である。
ウ そこで,被告町長において上記の裁量の逸脱があったか否かにつき検討する。
まず,原告らの指摘する第三銀行の預金債権については,仮に差押えをしても,1億6000万円を超える反対債権により相殺され,徴収に効果のないことは明らかであるから,預金債権の差押えをしないとしても,本件各延滞金(4)の徴収を違法に怠っているとはいえない。他の預金債権についても,反対債権があり相殺されるか,残高が少額であることからすると,やはり徴収を違法に怠っているとはいえない。
また,本件施設に入店するテナントに対する賃料債権については,仮に差押えをしても,第三銀行が平成元年5月15日付け根抵当権に基づく物上代位を行使すれば,法定納期限がこれに遅れるため本件各延滞金(4)は劣後し,徴収に効果のないことは明らかであるから,賃料債権の差押えをしないとしても,本件各延滞金(4)の徴収を違法に怠っているとはいえない。
しかし,本件課税対象物件については,本件各延滞金(4)に優先する日本政策投資銀行及び第三銀行の被担保債権を弁済してもなお剰余があり(平成13年度における固定資産税1148万3000円を税率1.4%で割った約8億2000万円が本件課税対象物件のおおよその時価であると考えられ,他方,上記優先債権は平成16年3月31日時点で約1億7200万円である。),滞納処分としての差押えをすれば,本件各延滞金(4)を徴収することが十分に可能であると認められる。
もっとも,差押えをし公売すると,御浜町の貸付金9億5000万円の回収も困難となるが,租税法は,一般的標準により,多数の人を相手方として公平かつ普遍的に租税を課することを建前とするものであるから,同じ御浜町の貸付金とはいえ,その回収可能性に配慮することは相当ではない。
そして,本件各延滞金(4)は,古いものでその発生以来15年以上もの長期間にわたって未納となっていること,パーク七里御浜は平成10年8月24日に350万円を納付したほか,平成15年10月29日付けの本件計画書に基づき,平成15年度に150万円,平成16年度(同年9月21日現在)に60万円を納付したものの,現在の毎月10万円ずつの分割納付では完納までに30年近くかかり,さらに,これ以外に平成14年度分以降の固定資産税本税も滞納し,これに対する延滞金も発生しているという状況からすれば,差押えを控えても徴収につながるとはおよそ認め難い。
そうとすると,被告町長が本件課税対象物件について滞納処分をしないことは,実質的に公金徴収権の確保が図られないものであるとともに,公平を欠き偏頗な徴税行為であるともいうべきであって,被告町長はその裁量を逸脱し,徴収金の徴収を違法に怠るものと認められる。
この点,被告は,パーク七里御浜が本件計画書を提出していることをもって,納付の意思はさらに明らかになったと主張するが,パーク七里御浜はこれを提出後1年も経過しないうちに,1か月当たりの支払額を12万5000円から10万円に減額していることからすると,同計画書に従って支払われる見込みすら低いといわざるを得ない。
これに対し,被告は,1か月当たりの支払額を20万円に増額し,そのうち10万円を平成14年度固定資産税に,10万円を本件各延滞金に充てることになったとも主張するが,本件計画書の提出に際して,本件各延滞金(4)の分割返済と並行して,平成14年度以降の固定資産税本税を速やかに支払うことは当然予定されていたというべきであり,1か月当たりの返済額を増額したとの評価は採用できない。
証人中門雅弘は,本件課税対象物件は権利関係が複雑で,公売には時間を要するなどと供述するが(乙10),パーク七里御浜の本件各延滞金(4)の滞納状況からすれば,時間がかかるとしても地方税法所定の手続をとるべきであって,滞納処分をとらない理由とはなり得ない。
3 結論
以上によれば,原告らの被告町長に対する請求は,平成元年度第3期から平成13年度第4期までの各期別の固定資産税延滞金の徴収を怠っていることの違法確認を求める限度で理由があるから認容すべきであり,被告町長に対するその余の請求及び被告税務住民課長に対する請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・内田計一,裁判官・上野泰史,裁判官・後藤誠)
別紙
1 物件目録<省略>
2 パーク七里御浜株式会社延滞金内訳書(平成16年9月21日現在)<省略>
3 町税(固定資産税)に対する督促状・催告書発付簿<省略>