津地方裁判所 平成15年(行ウ)9号 判決 2003年10月30日
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,差戻前当審,控訴審及び差戻後の当審を通じて原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 一般会計から工業用水道事業会計への長良川河口堰建設事業負担金190億3002万1103円の支出につき,出資,貸付けその他名目の如何にかかわらず,被告三重県知事P1は支出命令を,被告三重県出納長P2は支出をしてはならない。
(2) 被告P3は,三重県に対し,20億3058万2690円及びこれに対する平成11年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告三重県知事P1は,被告P3に対して,12億5949万6314円及び内金6億2964万1043円に対する平成14年9月21日から,内金6億2985万5271円に対する平成15年3月21日から各支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
(4) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 本案前の答弁
(1) 被告三重県知事P1
ア 請求の趣旨(1)項のうち,被告三重県知事P1に対して支出命令の差止めを求める部分に係る訴えを却下する。
イ 訴訟費用は原告らの負担とする。
(2) 被告P3
ア 請求の趣旨(2)項のうち,10億1406万2464円及びこれに対する平成11年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分に係る訴えを却下する。
イ 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2事案の概要
本件は,三重県の住民である原告らが,水資源開発公団が建設した長良川河口堰の建設負担金支払のために三重県が一般会計から工業用水道事業会計(特別会計)に支出するのは違法であると主張して,①被告三重県知事に対してはその支出命令の,被告三重県出納長に対してはその支出の各差止めを求め,②既に支出した部分については不法行為が成立するとして,三重県に代位して三重県知事であった被告P3に対し支出額と同額の損害賠償を請求し,③さらには被告三重県知事を被告として被告P3に対し支出額と同額の損害賠償を請求するよう求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1) 当事者
原告らは三重県の住民である。
被告P3は,平成7年4月から平成15年4月13日まで三重県知事の職にあったものである。
(2) 長良川河口堰(以下「本件堰」という。)の概要
本件堰は,木曽川水系水資源開発基本計画(以下,改正の前後を含めて「本件基本計画」と総称する。)に基づき水資源開発公団(以下「公団」という。)が建設する水資源開発施設で,木曽川水系長良川の河口から約5.4キロメートル上流に位置する(右岸は桑名市,左岸は桑名郡α)堰延長661メートルの可動堰である。その設置目的は,①治水面堰の設置により塩水の遡上を防止しながら,相当上流域までの河床の大規模浚渫を可能にし,これにより河床を下げて長良川の洪水を安全に流下させること,②利水面堰の上流水域を淡水化し,三重県,愛知県及び名古屋市の水道用水,工業用水として最大毎秒22.5立方メートルの用水(このうち,三重県の工業用水は毎秒6.41立方メートルである。)を確保することとされている。
(3) 本件堰建設の経緯
ア 内閣総理大臣は,昭和43年10月15日,目標年次を昭和60年として,「木曽川水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の基本となる水資源開発基本計画」(以下「旧基本計画」という。平成11年法律第160号による改正前の水資源開発促進法(以下「促進法」という。)4条参照)を策定し(甲9の2),これに基づいて建設大臣が定めた「長良川河口堰建設事業に関する事業実施方針」(甲11,以下「事業実施方針」という。)により,公団は,「長良川河口堰建設事業に関する事業実施計画」(以下「事業実施計画」という。)を作成し,建設大臣の認可を受けた(水資源開発公団法(以下「公団法」という。)19条1項,20条1項)。そして,旧基本計画に基づいて,木曽川水系において,βダム,三重用水,γダム,本件堰,δダム及びεダムの建設計画が立てられ,建設事業が進められていった。
イ 旧基本計画の目標年次である昭和60年度の8年後である平成5年3月26日,内閣総理大臣は,旧基本計画を全面的に改定し,目標年次を平成12年度として新しい基本計画(以下「新基本計画」という。)を策定した(甲9の5)。新基本計画の決定に伴い,事業実施方針は平成7年3月1日に,事業実施計画は同月20日にそれぞれ改定された。
ウ 本件堰は,昭和63年に建設工事が着手され,平成7年3月に完成し,同年5月から本格運用がなされるようになった。
(4) 本件堰の建設費用及びそれに関する三重県の負担
ア 本件堰の建設及び管理に要する費用の負担については,治水分及び利水分の負担率により按分され,治水分については,公団法26条,同法施行令16条に基づき,国及び都道府県が負担することとされ,利水分については,公団法29条1項に基づき,本件堰を利用して流水を水道若しくは工業用水道の用に供する者が本件堰の新築及び管理に要する費用を負担することとなっている。
イ 公団が,公団法20条2項に基づき,三重県公営企業の管理者である三重県企業庁長に対して,本件堰の建設事業費用のうち工業用水に係る費用の負担について同意を求めたところ,三重県企業庁長は,平成7年3月6日付けでこれに同意した。
本件堰の建設に係る総事業費は約1493億円であるところ,建設事業に係る事業の用途別負担並びにその負担者及び負担者ごとの負担額は事業実施計画に記載されており,これによれば,三重県の工業用水分の負担額(以下「本件負担金」という。)は266億2876万4393円となる。この負担金の支払方法は公団法施行令24条4項の割賦支払の方法であり,支払期間が平成7年から23年間の元利均等半年賦払い,利子率5.33419パーセントであって,三重県から公団への支払総額は355億0672万3796円となる(甲1,2)。
ウ なお,平成13年度に繰上償還が行われたため,支払総額は339億5791万7137円に減少した。
(5) 本件出資等
ア 公団に対する償還義務の具体化を控えた平成7年3月23日,三重県知事と三重県企業庁長との間で,本件堰建設事業の資金負担に関する協定書が取り交わされた。
その内容は,地方公営企業法(以下「地公企法」という。)18条1項,2項に基づき,本件負担金については,一般会計から工業用水道事業会計(以下「本件特別会計」という。)へ出資し,同会計から支払うとともに,将来,工業用水に需要が発生した場合は,利益の状況に応じた納付金を本件特別会計から一般会計へ納付することとするというものである。
イ 本件負担金の支払に当たっては,一般会計から本件特別会計への出資金として,平成7年度から平成14年度までの間に,合計149億2789万6034円が支出された(以下「本件出資」という。)。そして,三重県企業庁長はこれを公団に支払い,本件負担金の残額は190億3002万1103円となった(乙1,3)。
ウ 平成10年度についてみれば,平成10年9月21日に,本件負担金7億6740万1470円に企業債償還金及び公団管理費を加えた10億1652万0266円が支出された(乙1,2の1,3)。また,平成11年3月23日には本件負担金7億6761万3505円に企業債償還金及び公団管理費を加えた10億1406万2424円の合計20億3058万2690円が支出された(乙1,2の2,3)。
エ 平成14年度についてみれば,平成14年9月20日ころ,本件負担金6億2964万1043円に企業債償還金及び公団管理費を加えた8億4066万1365円が支出された(乙1,2の9,3)。また,平成15年3月20日ころ,本件負担金6億2985万5271円に企業債償還金及び公団管理費を加えた8億3278万1277円が支出された(乙1,2の10,3)。
(6) 住民監査請求
原告P4,原告P5及び原告P6は,平成10年11月26日,原告P7,原告P8,原告P9,原告P10,原告P11,原告P12,原告P13,P14及びP15は,平成11年1月18日,三重県監査委員に対して,本件負担金相当額の一般会計から本件特別会計への支出の差止め等を求めて住民監査請求を行った(甲6の1・2)。
三重県監査委員は,平成11年1月25日,原告らの上記監査請求を棄却した(甲6の2)。
(7) 本件訴訟の提起及びその後の経過
ア 原告らは,平成11年2月16日,本件訴訟を当裁判所に提起した。当時の請求の趣旨は次のとおりである。
(ア) 次の件の一般会計から本件特別会計への支出につき,被告三重県知事は支出命令を,被告三重県出納長は支出をしてはならない。
a 本件特別会計の長良川河口堰建設事業負担金355億0672万4000円(上記(4)イの金額)につき,出資,貸付けその他名目の如何にかかわらず
b 平成10年本件特別会計予算の長良川河口堰事業償還等に関する一般会計出資金のうち10億1673万2774円(上記(5)ウ後段の支出を指すが,金額には誤りがある。)
(イ) 被告P3は三重県に対し,10億1652万0226円(上記(5)ウ前段の金額)及びこれに対する平成10年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 原告らは,平成11年9月までに本件負担金のうち68億7534万7179円が支出されたことを受けて,平成11年10月7日付け口頭弁論期日において,請求の趣旨を次のとおり変更した。
(ア) 本件特別会計の長良川河口堰建設事業負担金286億3137万6613円(上記(4)イの金額から上記支出金額を控除したものを指すが,金額には誤りがある。)の一般会計から本件特別会計への支出につき,出資,貸付けその他名目の如何にかかわらず,被告三重県知事は支出命令を,被告三重県出納長は支出をしてはならない。
(イ) 被告P3は三重県に対し,20億3058万2690円(上記(5)ウの合計金額)及びこれに対する平成11年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 原告らは,平成14年3月までに本件負担金のうち149億2789万6034円が支出されたことを受けて,平成15年8月28日付け口頭弁論期日において,請求の趣旨を上記第1,1のとおり変更した。請求の趣旨(1)項の金額は上記(5)イの残額,同(2)項の金額は上記(5)ウの合計金額,同(3)項の金額は上記(5)エのうち本件負担金のみの合計額である。
2 争点
(1) 本件出資が地方自治法(以下「地自法」という。)242条の2第1項1号(平成14年法律第4号による改正前のもの)及び4号(平成14年法律第4号による改正前及び改正後のもの)の対象となり得るか。
(2) 被告三重県知事に被告適格があるか。
(3) 本件訴えは出訴期間を遵守しているか。
(4) 本件出資は違法か。
ア 三重県は本件負担金の支払義務を負うか。
イ 本件出資が地公企法17条の2第2項に違反するか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(住民訴訟の対象となるか)について
(被告らの主張)
三重県の本件特別会計は地公企法17条の特別会計であるところ,特別会計は会計単位としては一般会計から独立しているものの,その会計主体は同じ三重県という地方公共団体であるから,三重県の一般会計から特別会計に支出することは同一会計主体内部における公金の移動にすぎない。したがって,このような一般会計から本件特別会計への出資は,三重県に損害を与える客観的可能性がない行為であるから,そもそも住民訴訟の対象とはなり得ない。
(原告らの主張)
差止請求訴訟(地自法242条の2第1項1号)の対象が「違法な公金支出」という財務会計上の行為であることは条文上明らかであって,財産的損害の発生は要件とされていないから,本件訴えは適法である。
仮に,差止請求訴訟において財産上の損害を与え又は与えるべき客観的可能性を有しない行為がその対象から除かれるとしても,以下のとおり本件出資は三重県に財産的損害をもたらすものであるから,本件訴えは適法である。
すなわち,工業用水道事業の経理は前記のとおり一般会計から分離独立した特別会計によって行われるものであり,料金収入による独立採算制が制度化されており,この点で主に税金を財源とする一般会計とは経費の負担者を異にする。このように,一般会計と本件特別会計とは三重県という同一人格内ではあるが,会計単位としては別単位であって,一般会計から本件特別会計への繰入れは,本来利用者からの料金収入で賄うべき地方公営企業の経費を一般会計に負担させるもので,税金で維持されるべき公金を減少させるものであるから,財産的損害を生じさせる。また,一般会計から本件特別会計に支出された公金は,直ちに本件特別会計から公団に支払われるから,特別会計への支出の時点で財産的損害が発生するといえる。
(2) 争点(2)(三重県知事の被告適格)について
(被告三重県知事の主張)
地自法242条の2第1項1号にいう「当該職員」とは,差止請求の対象となる当該行為を行うべき権限を有する当該地方公共団体の執行機関又は補助機関としての職員であると解すべきところ,三重県では一般会計から本件特別会計に対する出資に関する支出命令の権限は三重県知事から三重県地域振興部長に委任され,三重県地域振興部資源活用チームマネージャーがこれを専決することとされているから,三重県知事に支出命令に関する権限はなく,被告適格がない。
(3) 争点(3)(出訴期間の徒過)について
(被告P3の主張)
請求の趣旨(2)項の被告P3に対する損害賠償請求については,平成11年10月7日にその請求額が拡張されており,その拡張分10億1406万2464円については新訴となると解すべきである。そして,その出訴期間は地自法242条の2第2項1号の法意により,原告らが追加請求に係る支出があったことを知り得た日から30日以内と解するのが相当である。しかるに,同支出があったのは平成11年3月23日であり,原告らはそのころこの事実を知り得たというべきであるから,同年10月4日になされた追加請求は出訴期間を徒過したものであって,不適法である。
(4)ア 争点(4)ア(三重県の支払義務の有無)について
(原告らの主張)
(ア) 木曽川水系における水需要の実態等と本件堰の無用性
旧基本計画では,水需要について,昭和60年には都市用水(工業用水と水道用水)の木曽川水系からの1日最大取水量が毎秒132立方メートルになる予測であったが,同年の実績は毎秒37立方メートルにすぎなかった。このように,過大な見積もりであったため,予測されただけの水需要は旧基本計画の期限が切れる昭和60年の時点においては存在しなかったのであって,木曽川水系においては過剰な水余りの状況にあった。
このような状況において,平成5年3月に旧基本計画の改定が行われ,本件堰の工業用水の需要予測について若干の下方修正をしたものの,昭和60年から平成12年までの予測都市用水増加量は1日約330万立方メートルであるのに対し,昭和60年から平成4年までの実績を平成12年まで単純に延長してもその間の増加量は1日105万立方メートルにしか達しないなど,依然として過大な予測となっており,平成4年時の水源のままで水需要の余裕は十分にあった。
また,三重県は,本件堰から工業用水として毎秒9立方メートルを取水する計画であったが,三重県北勢地域の工業用水使用量は昭和46年をピーク(1日85万立方メートル)に以後低下し漸減傾向にあり,平成2年には三重県の工業用水のうち,余剰になっていたβダムの工業用水の毎秒2立方メートルと本件堰の工業用水毎秒2立方メートルとが愛知県に委譲される有様であり,工業用水は水余りの状況を呈していた。
以上からすれば,旧基本計画の期限が切れる昭和60年や,本件堰の建設着工時である昭和63年から現在に至るまで本件堰の水需要は全くなく,とりわけ三重県にとっても本件堰が無用の施設であることは明らかであった。
(イ) 本件基本計画自体の違法
上記のとおり,旧基本計画は水需要の予測を著しく誤っており,平成5年に改定された新基本計画も水需要の実績と大幅に乖離したものであり,いずれも違法である。そして,水源開発計画の内容についての判断がすべて本件基本計画によってなされているということなどからすれば,本件基本計画自体の違法は,以後の費用負担に関する行為(負担金の支払方法の決定,負担金の納付の通知と催促)の無効をもたらすと解すべきである。したがって,このような違法な本件基本計画に基づく本件負担金の支払義務は発生しないといわなければならない。しかるに,被告三重県知事及び被告三重県出納長は本件負担金について漫然と本件出資を行い,あるいは行おうとしており,違法である。
なお,本件出資において先行する原因行為とされるのは,本件堰の費用負担行為であるが,これは財務会計に関する行為であるばかりか,これを欠けば支出の根拠が失われるから,公金支出の直接の原因ともいうべき性質のものであって,これが違法であることは本件出資の違法を来たす。仮にそのように解されないとしても,財務会計上の行為が違法となるのは,単にそれが直接法令に違反する場合だけでなく,その原因となる行為が法令に違反し許されない場合も含まれると解すべきである。
(ウ) 工業用水未利用時における費用負担義務の不発生
公団法29条1項は,「水資源開発施設を利用して流水を水道若しくは工業用水道の用に供する者」等に当該水資源開発施設の新築等の費用を負担させるとするものであるが,これは,その文言上,水資源開発施設によって開発された流水を用いて現実に工業用水道事業等を実施する者に費用を負担させるという意に解すべきである。しかるに,三重県は,本件堰に関して工業用水道を建設しておらず,その流水を工業用水道に用いていないのであるから,この意味でも本件堰の建設負担金等について支払義務を負わない。
また,公団法20条2項は,公団は水資源開発施設の新築等に要する費用の負担について利用者等の同意を得なければならないとしているが,ここでいう同意とは当該水資源開発施設の開発水を利用する工業用水道を建設,改良して工業用水道事業を行う者の同意であって,同事業を行わない者の同意は同条項にいうところの同意ではないから,三重県知事がこの同意をしたからといって,三重県が本件負担金の支払義務を負うものではない。
(被告らの主張)
(ア) 本件基本計画自体の違法性について
a 工業用水道事業は,水源開発,水道専用施設の設置など多大な経費を要する事業であり,将来の工業用水需要を見込んで,水資源開発施設の新設に着工しても現実の給水可能時点までの長期の間に産業構造や経済環境が変化することも少なくなく,上記各時点における予測が乖離していることのみをもって直ちに本件基本計画が違法となるものではない。
b また,本件堰の建設費の費用負担を三重県に求める公団の賦課行為の性質については,公団法20条2項の同意を前提とする行政行為と解すべきである。しかるに,本件基本計画は,水資源開発水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の基本となり(促進法4条1項),公団による河口堰建設の根拠となるもの(公団法18条1項)であるが,本件基本計画それ自体が直接に費用賦課の根拠となっているものではなく,本件負担金の直接の根拠になっているのは,公団法20条2項の知事の同意を基礎とした同法29条1項に基づく公団の賦課行為であると解されるから,仮に本件基本計画において誤った給水需要予測がなされたとしても,ただそれだけでは,公団の賦課行為が無効にはならない。
c さらに,地自法242条の2第1項4号の住民訴訟において当該職員の財務会計上の行為を捉えて損害賠償責任を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,その原因行為を前提としてなされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する場合に限られると解すべきところ,本件出資には固有の違法はなく,また,本件基本計画は国家的な政策目標として定められたものであって,国の高度かつ広範な裁量が認められ,被告らが本件基本計画の内容につき容かいできる性質のものではないから,仮に本件基本計画が違法であるとしても,その違法が本件出資の効力に影響を及ぼすものではない。
(イ) 工業用水未利用時における費用負担義務の不発生について
負担金の支払時期について,公団法は支払時期及びその始期については内閣総理大臣及び建設大臣の定めるところによる(公団法施行令24条4項)と規定しているのであって,水資源開発施設を利用して流水を工業用水道の用に供する時期とは無関係である。また,一般論としても,流水を利用するかしないかという利用者個別の事情で費用負担義務が発生したりしなかったりという解釈が成り立つはずがない。したがって,本件堰を利用して流水を工業用水道の用に供していないことが,本件堰の建設費用負担義務に何ら影響を及ぼすものではない。
イ 争点(4)イ(独立採算の原則違反)について
(原告らの主張)
工業用水道事業は地方公営事業であり,独立採算制を採っている(地方財政法(以下「地財法」という。)6条,地公企法17条の2)。地方公営企業の独立採算制は地財法等で義務付けられた準則であって,法令で定める場合を除いては一般会計から特別会計への繰出出資は認められない(地財法6条,地公企法17条の2第1項)。本件堰に係る三重県の工業用水は,前記ア(原告らの主張)(ア)のとおりその需要がないことは明らかであるから,本件負担金に見合う料金収入がなく,このような債務を負担することは事業自体を再建不能な経営破綻に陥らせるものであるから,本件出資は,地公企法17条の2によって認められている繰出出資の要件にも該当しない。また,同法18条によって特別会計への「出資」が許容されているが,これは独立採算制の例外であるから,許容されるか否かは厳格に審査される必要があり,少なくとも,上記のような事業自体を破綻に陥らせるような債務の支払資金についてまで,同条の「出資」が許容されているとは到底解することはできない。したがって,このような本件出資は,違法である。
(被告らの主張)
本件出資は,地公企法18条1項に基づき資本的支出として本件特別会計に繰り出されたものであって,原告が主張する同法17条の2第1項の負担区分に基づく「出資」とは別のものであって,地方公営企業の自己資本の造成ないし増加のための一般会計からの出捐に該当し,適法である。三重県は上記出資により本件堰を利用して流水を工業用水道に供することができる権利を取得することができるなど,無条件に一般会計からの財政的援助を受けたことにはならず,このような出資は地方公営企業の独立採算制に違反するものではない。
また,本件出資に関する支出命令は公団法29条により三重県企業庁が公団に対し費用負担義務を負うに至ったことによるものであるが,同法には建設費負担行為の取消し又は撤回を認めた規定はなく,それを取り消したり撤回したりすることができない以上,建設費負担義務を免れることはできない。そうであれば,それを前提とした支出命令をしなければならず,本件出資に関する支出命令が違法となる余地はないというべきである。
第3争点に対する判断
1 争点(1)(住民訴訟の対象となるか)について
(1) 国家財政については,財政法2条3項が,同条1項の「収入」及び「支出」は会計間の繰入れを含むと規定しており,一般会計から特別会計への繰入れが「支出」に該当する旨規定されているが,地方公共団体の財政については,財政法2条3項に相当する規定は存在しない。
しかし,財政法2条3項が,会計間の繰入れも同条1項の「支出」に含むと規定した趣旨は,財政活動を複数の会計に区分して別々に整理している場合,それぞれの会計において収入支出として整理する方が経理上便宜であるとともに,すべての収入支出を予算に編入し国会の監督下に置きやすくするという総計予算主義の原則(財政法14条)から好ましいためであると解される。
そうすると,地方公共団体においても,地自法210条により国家財政と同様に総計予算主義の原則が採用され,実際の整理上の便宜という点からも国家財政の場合と異なるところがないので,会計間の繰入れは「支出」に該当すると解するのが相当である。
したがって,会計間の繰入れは地自法242条1項の「公金の支出」に該当すると判断するのが相当である。
(2) 被告らは,本件出資は単なる同一地方公共団体内部の会計間における公金の移動にすぎず,三重県に財産的損害を与える客観的可能性はないから,住民訴訟の対象になり得ないと主張する。
地方公共団体の一般会計は,住民の税金によって賄われるのに対して,地方公営企業の特別会計の経費は当該公営企業の経営に伴う収入によって賄われるのが原則であり,これは独立採算制ないしは受益者負担の原則といわれる(地財法6条,地公企法17条の2第2項)。
しかしながら,上記企業のうちでも災害時の特別な事由があるときとか,公共の目的から採算を別にしてもあえて事業を行わなければならない場合など地公企法17条の2第1項所定の事由があれば,経費を一般会計等から繰り入れることも認められているところ,違法な会計間の繰入行為はそれ自体税金の減少を来たし,住民全体の利益を害するものとして,地方公共団体の執行機関又は職員に対し,その予防又は是正を求める住民訴訟を提起できる権限が住民には与えられていると解するのが相当である。
そうとすれば,三重県の一般会計から,特別会計である工業用水道事業会計が行う長良川河口堰建設事業負担金の償還支払に充当するためになされた本件出資は(甲2),地自法前記条項の「公金の支出」に該当すべきものと考えられる。
地方公営企業は地方公共団体の事務の1つとして行われる以上,これに対する財務会計上の違法をただす住民訴訟が許されるべく,このことは,当該企業が一般会計とは別の特別会計で行われていることとは別異に考慮すべきことである。また,一般会計から特別会計への支出が違法であるからといって,当然には特別会計からの支出が違法になるものではないから,特別会計からの支出をとらえて住民訴訟を提起すれば足りるといえるものでもない。
よって,被告らの前記主張は採用できない。
2 争点(2)(三重県知事の被告適格)について
被告三重県知事は,本件出資につき,自ら支出命令を行っていないから,地自法242条の2第1項1号にいう「当該執行機関又は職員」には該当しないと主張する。
しかし,地自法242条の2第1項1号にいう「当該執行機関又は職員」とは,当該訴訟において差止めが求められている財務会計上の行為をなす権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして上記権限を有するに至った者を広く意味すると解される。
本件出資の支出命令権限は,普通地方公共団体の長である被告三重県知事が本来的にその権限を有しており,同被告から三重県地域振興部長に委任され,同部資源活用チームマネージャーがこれを専決することとされている。
しかし,委任者はなお指揮監督権限を保持している以上,同人は受任者に対して差止めを命ずることができるものと解され,このことは専決についても同様であることからすれば,被告三重県知事は支出命令を自ら行っていないとしても,被告適格が認められるというべきである。
3 争点(3)(出訴期間の徒過)について
上記第2,1(5)ウ,(7)イ(イ)のとおり,原告らは,平成11年3月23日に本件負担金7億6761万3505円に企業債償還金及び公団管理費を加えた10億1406万2424円が支出されたとして,当該公金の支出が違法になされたことを理由とした被告P3に対する損害賠償請求の訴えを追加的に提起しているが,追加分の訴えの出訴期間をどのように解するかが問題となる。
この点,被告P3は,本件出資がなされたのは平成11年3月23日であり,原告らは当然,そのころ支出がなされたのを知り得たから,その日から30日以内に訴えを提起すべきと主張する。
しかしながら,法文上そのような解釈が可能であるとはいえないし,そもそも地自法242条の2第2項が出訴期間を定めた趣旨は,住民監査請求において問題とされた財務会計行為に基づく結果を速やかに確定させることにより,財務会計行政の法的安定性を図ることにあるから,既に当該財務会計行為について住民訴訟が裁判所に係属し,その適法性が争われている事情の下において,その係属中の訴訟に追加的に提起された訴えについて,前記出訴期間を定めた法の趣旨が妥当するとはいえない。したがって,被告P3の同主張は採用できない。
そして,そもそも訴えの追加的変更は,住民訴訟においても,変更後の新請求に関する限り新たな訴えの提起にほかならないから,変更後の新請求に関する出訴期間が遵守されているかどうかは,変更後の新請求と変更前の旧請求との間に訴訟物の同一性が認められるとき,又は両者の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴えの提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情がある場合を除き,当該訴えの変更時を基準として決するべきである。
本件の場合,差止請求と損害賠償請求とは,その中心的な争点を共通とするものであるのみならず,公金の支出差止め,公金の支出,損害賠償の請求はいわば一連の流れであるにもかかわらず,訴訟上差止めを求められている公金の支出がなされれば,差止請求は不適法な訴えとなり,住民としては支出に対する損害賠償の訴えに変更せざるを得なくなる関係にあるが,訴えが不適法となったことについて原告ら住民側に何らの責任はない。このような場合においては,後者の損害賠償を求める訴えは,出訴期間の遵守の関係では,前者の公金の支出差止めを求める訴えが提起された時に提起されたものと同視すべき特段の事情があるというべきである。この場合,訴えの変更の前後で被告が異なるが,前者の差止請求の被告が行政機関である三重県知事であるのに対し,後者の請求の被告は三重県知事の地位にあった被告P3個人であり,両者は観念的には異なるものの,三重県知事としての行為をなした段階で,被告P3に対する損害賠償請求の訴えに変更されることは予想できたものであるから,被告が異なることは前記特段の事情の存在を認めるべきとの結論を左右するに足るものではない。
以上からすれば,被告P3に対する訴えは,出訴期間の遵守において欠けることはないというべきである。
4 争点(4)アについて
(1) 本件基本計画の違法性とその承継について
原告らは,本件出資が違法であることの根拠として,本件基本計画自体が違法であり,その違法性がその後の事業実施計画,三重県による本件負担金を負担する旨の同意,本件負担金の支払方法の決定,同決定に基づく本件負担金の納付通知ないし本件出資へと承継されると主張する。
しかしながら,住民訴訟において,当該職員に対して損害賠償を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,上記原因行為を前提としてなされた財務会計行為それ自体が財務会計法規上の義務に違反する違法な場合に限られるというべきであり(最高裁平成4年12月15日第3小法廷判決,民集46巻9号2753頁参照),この理は,地自法242条の2第1項1号の差止請求についても同様であると解され,これに反する原告らの主張は採用できない。
本件においては,財務会計行為である一般会計から本件特別会計への支出である本件出資それ自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものといえるかが検討されなければならない。
しかるに,原告らは,本件基本計画の違法(その違法は,将来の水需要を誤ったというものであり,財務会計上の違法でないことは明らかである。)が,その後の本件負担金の負担の同意や本件負担金の納付通知へ承継されたとして,先行する原因行為の違法を主張するだけで,原因行為が違法である結果,本件出資それ自体が財務会計法規上の義務に違反することとなった事実を具体的に主張していない。原告らの主張の中には,本件基本計画は違法であるから,これによって本件負担金の支払義務が生ずることはないとの主張があるが,前記第2,1(4)のとおり,本件堰の建設のために現実に要した費用を治水分と利水分に分けて国,都道府県及び流水の利用者で分担するという目的の下に三重県が負担したことにより発生したものであるから,本件基本計画の違法により直ちに本件負担金が発生しなくなるという原告らの主張には法理論上飛躍があり,にわかに採用し難く,これを根拠とする本件出資の違法の主張は理由がない。
仮に,原因行為の違法が財務会計行為の違法につながる余地があるとしても,原因行為である非財務会計行為が国の行政機関や当該普通地方公共団体における行政組織上独立の権限を有する機関により,その権限に基づいてなされた行政処分その他の行為である場合には,一定の要件を満たした場合にのみ当該行為の効力を争うことを認めている抗告訴訟制度(行政事件訴訟法3条)に抵触することになるだけでなく,住民訴訟という枠の中で国の行政活動一般をも対象とすることになるものであって,住民訴訟の目的を著しく逸脱するものである。
これを本件についてみるに,本件基本計画は,促進法4条1項に基づき内閣総理大臣が決定したものであるところ,原告らが同計画には違法性があり,本件出資もその違法性を承継しているから違法であるとして本件出資の適法性を争うことは,実質的にみて,住民訴訟である本件訴訟において内閣総理大臣が行った本件基本計画の計画決定を争うものであって,明らかに住民訴訟の目的を逸脱するものであるといわざるを得ない。この点においても,原告らの主張は失当というべきである。なお付言するに,原告らは本件基本計画の違法事由として,同計画における将来の水需要の予測が著しく誤っていることを主張するのみであるが,かかる主張は国が行う同計画を含んだ木曽川水系における水資源開発政策の当否を問題にしているにすぎないというべきであって,本件基本計画の違法事由とはならないものであり,この意味でも失当である。
(2) 公団法29条1項に基づく費用負担者について
当該水資源開発施設の新築費用等について,公団法29条1項は,「水資源開発施設を利用して流水を水道若しくは工業用水道の用に供する者」に負担させると規定している。
同規定について,原告らは,同規定の文言が「供する者」となっていることから,上記費用の負担者は本件堰によって開発された流水を用いて現実に工業用水道事業を実施する者であるとし,三重県は本件堰の流水を利用していないから,本件負担金の費用負担者ではなく,よって三重県は本件負担金の支払義務を負わないと主張する。
しかしながら,同規定は,当該水資源開発施設の建設によって利水面で恩恵を受ける者に同施設の新築費用等を負担させることとした規定であって,文言上も「用に供している者」とは規定されていないのであるから,「水資源開発施設を利用して流水を水道若しくは工業用水道の用に供する者」とは,現に同施設を利用して流水を水道若しくは工業用水道の用に供している者に限らず,将来にわたって同施設を利用する予定があり,その恩恵を受けることとなっている者もこれに含まれると解するのが相当である。
よって,原告らの前記主張は採用できない。
5 争点(4)イ(独立採算の原則違反)について
原告らは,本件出資は,地方公営企業の経費について独立採算の原則を定めた地公企法17条の2第2項に違反するものであって,違法であると主張する。
地方公営企業の独立採算ないし受益者負担の原則とは,法によって認められた場合を除き,その事業ごとに設けられた特別会計においては,当該地方公営企業の経営に伴う収入(地財法5条の地方債による収入を含む。)をもってこれに充てることを原則とするというものであり,その性質上,上記収入をもって充てることが適当でないものや,当該地方公営企業の性質上能率的な経営を行ったとしても,なお上記収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費については当該地方公共団体の一般会計又は他の特別会計により負担することができるとされているほか(地財法6条本文,地公企法17条の2第1項),例外として,災害の復旧その他特別の理由により必要が生じた場合には,一般会計又は他の特別会計から補助を受けることができるものとされている(地公企法17条の3)。
もっとも,独立採算の原則は,地方公共団体内部における一般会計と特別会計との負担区分のあり方に関するものであり,同一地方公共団体内部での金銭の受入れであっても,財貨やサービスの供給の対価として受け入れるのであれば,通常の経済的な取引であり,独立採算の原則に触れるものではない。同様に,地方公営企業が,その活動資金を調達するために,一般会計又はその他の特別会計から出資を受け(地公企法18条),長期借入れをすることは(同法18条の2),その対価として納付金の納付や利子の支払をすることを前提としている点で,通常の経済的取引と変わらず独立採算の原則に触れるものではないとされており,このように出資を受けたり,長期借入れをすることにつき,補助を受ける場合のような特別の条件は付されていない。
原告らは,独立採算の原則から出資できる場合は制限されている,また,地公企法43条,49条を根拠として,一般会計から本件特別会計への繰入れの許容基準が定められているなどと主張しているが,前記のとおり出資を受けることは独立採算の原則に触れるものではないし,地公企法43条,49条の規定は,実質上収支が均衡していない,一定の不良債務を有する地方公営企業について,地公企法第7章の規定によって財政の再建を行おうとする地方公共団体に国の援助,協力のもとに計画的に再建を行わせるために必要な措置を定めた規定であって,同法18条の出資の許容基準を規定したものでないことは明らかであり,原告らの主張は失当というべきである。また,原告らは自治省財政局長通知「地方公営企業繰出金について」も根拠の1つとしているが,同通知は地方公営企業繰出金の運用のあり方についての基本的な考え方を示したにすぎないものであり,上記出資の許容基準を通知したものではないから,これを根拠とする原告らの主張もまた失当である。
本件出資は,地公企法18条に基づく出資によるものであるが,前記のとおり,同条による出資は,利益の状況に応じて納付金の納付を受けることのほかは,三重県の裁量によりなし得るものである。そして,三重県は,前記第2,1(4)イの負担同意に基づき本件負担金の支払義務を負っているところ,その負担金は工業用水道事業の水資源確保のために発生した費用であるから,本件特別会計において負担させるのが受益者負担の原則に適うものの,現時点においては,三重県における本件堰を利用する工業用水道事業は事業化されておらず,本件特別会計を利用した工業用水の料金収入がなく,同会計をもって本件負担金の支払をする余裕がないために,工業用水道事業が事業化されるまでの措置として本件出資を行ったと認められる(弁論の全趣旨)から,三重県が本件出資をすることには合理的理由があるというべきである。
したがって,本件出資は地方公営企業の独立採算の原則に抵触せず,適法である。
なお,原告らは,βダム,木曽川用水からの工業用水ですら需要がなく供給過剰であるから,本件堰を利用する工業用水道事業の採算見通しは全くなく,本件負担金の支払のために出資をしても納付金の納付を受けることができないことは明らかで,三重県知事事務引継書(甲16)にも,「工業用水の需要の伸びがなく,今後の伸びが見込めない。供給過剰になっており,本件堰の工業用水51.5万‰/日は使い途がない。事業化が見込めないため本件堰の建設費の償還が事業収入ではできず,県財政の負担になっている。」旨の記載があると主張する。
しかし,乙8及び弁論の全趣旨によれば,平成15年4月21日に三重県の四日市市,ζ及びηにつき構造改革特別区域計画が認定され,四日市臨海工業地帯を中心とした地域において高付加価値素材産業や新しい産業分野への展開が図られることが見込まれること,平成15年3月に第二名神高速道路(四日市JCTと名古屋南IC間)が開通したため愛知県の知多半島の工業地帯との流通経路移動時間の短縮が図られ,三重県北勢内陸部への企業誘致が見込まれること,三重県では積極的に企業誘致を行っており,その結果,北勢地域ではTFT液晶関連部材産業関連企業の集積が進んでいること(クリスタルバレー構想),四日市やθには半導体産業の核工場が存在し,関連企業を誘致する可能性があること(シリコンバレー構想)などが認められ,本件堰を利用した工業用水道につき,事業の見通しが全くないと断定すべき証拠はないし,工業用水道事業化後の料金収入により,利益が生じた時点において一般会計への納付金の納付がなされるものと考えられるから,現段階において本件特別会計が破綻し本件出資による納付金の納付を受けられなくなる事態が生ずることが明らかであるとはいえない。
原告らは,クリスタルバレー構想,シリコンバレー構想,構造改革特別区域計画,第二名神高速道路(四日市JCTと名古屋南IC間)の開通によっても,工業用水の需要が増加する見込みがないともるる主張するが,これらのクリスタルバレー構想などにより工業用水の需要が増加する見込みがないとまではいまだ認め難く,原告らの同主張は採用できない。
6 結論
以上判示したところによれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用については,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項,67条2項後段を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 後藤隆 裁判官 後藤誠)