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津地方裁判所 平成15年(行ク)11号 決定 2003年8月22日

申立人

同訴訟代理人弁護士

増田晋

金丸和弘

宇都宮秀樹

稲田史子

増島雅和

相手方

四日市税務署長 吉村友彦

同指定代理人

平野朝子

安福達也

小林昭彦

羽土征治

濱野健

浅井俊延

池内牧子

渡邊英生

水谷公政

川口政要

岡田知美

松田清志

主文

本件移送の申立てを却下する。

理由

1  本件移送申立ての趣旨及び理由は、別紙移送申立書に記載のとおりである。

所論は、要するに、本件訴訟も別紙移送申立書に記載された対象訴訟も、申立人や対象訴訟の原告らが民法上の組合を通じて従事している裸用機の賃貸事業に係る損益を不動産所得として申告したところ、所管の税務署長がこれを雑所得に該当するとして更正処分及び過少申告加算税賦課決定を行ったことが違法であるとして、その決定の一部取消しを求めたという事案であって、証拠関係、争点及び攻撃防御方法の相当部分が共通しており、行政事件訴訟法13条6号に該当するから、対象訴訟が係属する名古屋地方裁判所への移送を求めるというものである。

2  そもそも行政事件訴訟法13条の趣旨は、行政処分の取消請求に関係ある請求を併合して審理の重複、裁判の矛盾抵触を避け、同一処分に関する紛争を一挙に解決し、迅速な審理裁判を図ろうとするものである。そうとすると、行政事件訴訟法13条6号の「その他当該処分又は裁決の取消しの請求と関連する請求」とは、同条1号から5号までに例示された場合に準ずる程度の関連性、すなわち、事実に関する争点が相当程度共通し、かつ、各請求の基礎となる社会的事実が同一ないし密接に関連する請求をいうものと解するのが相当である。

しかるところ、一件記録によれば、本件訴訟と対象訴訟はいずれも、民法上の組合を通じて従事している裸用機の賃貸事業に係る損益が不動産所得と雑所得のいずれに当たるかという法律解釈が主要な争点であることは認められる。

しかし、申立人及び対象訴訟の原告らに対する更正処分及び過少申告加算税賦課決定は、異なる税務署長によって各納税者ごとに個別になされた法的関連性を有しない複数の処分であり、各納税者ごとにその所得金額、税額が異なると認められる。

そうとすれば、争点の一部に上記の共通性があるとはいえ、争点や証拠の具体的内容は各課税処分ごとに異なると考えられるから、本件訴訟と対象訴訟を併合しても、一方についての解決が他方の解決に直接役立つものともいえず、また、併合した場合には併合しない場合に比べてかえって審理が複雑、長期化することが予想される。したがって、本件訴訟と対象訴訟は、事実に関する争点が相当程度共通するとも、各請求の基礎となる社会的事実が同一ないし密接に関連するともいうことはできず、行政事件訴訟法13条6号の関連請求に当たるとは認められない。

よって、本件移送の申立ては理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 後藤隆 裁判官 後藤誠)

移送申立書

平成15年6月20日

申立の趣旨

本件訴訟を名古屋地方裁判所へ移送する

との決定を求める。

申立の理由

1 取消訴訟の係属

名古屋地方裁判所には、平成16年5月29日付で別紙のとおり申告所得更正処分に係る取消訴訟(以下「対象訴訟」という。)が提起され、いずれも民事第9部(行政部)に係属している。なお、対象訴訟の第1回口頭弁論期日は、いずれも平成15年8月4日と指定されている。

2 本件訴訟が関連請求であること

(1) 本件訴訟

本件訴訟は、原告が、平成10年から平成12年分の所得税の確定申告において、民法上の組合を通じて従事している裸用機の賃貸事業に係る損益を、法令に従い不動産所得として申告したところ、被告が雑所得に該当するものとして更正及び過少申告加算税賦課決定を行ったことが違法であるとして、同決定の取消を求めるものである。

(2) 対象訴訟

他方、対象訴訟も、別紙記載の各訴訟を提起した個人が、平成9年ないし平成12年分の所得税の確定申告において、民法上の組合を通じて従事している裸用機の賃貸事業に係る損益を、法令に従い不動産所得として申告したところ、別紙記載の税務署長から雑所得に該当するものとして更正及び過少申告加算税賦課決定がなされたことにつき、その違法性を根拠に同決定の取消を求めるものである。

(3) 本件訴訟が対象訴訟と関連請求の関係に立つこと

行政事件訴訟法第13条6号は、ある処分又は裁決に関する取消訴訟は、当該処分又は裁決の取消の請求と関連する請求に係る訴訟が別の裁判所に継続する場合、当該裁判所に移送することができる旨を規定している。

本条の趣旨は、関連請求が各別の裁判所に提訴され、各裁判所が各別に審理を遂げることは、同一の紛争について審理を重複して行うこととなり、応訴する被告が煩に耐えないこと、及び、各所の裁判所の判断が矛盾抵触するがあることから、各別の訴えを統合して併合審理によって裁判をする必要があり、これにより審理が複雑化して訴訟が長期化することを防ぐ必要があることから、取消訴訟と併合して審理裁判するのを相当とする他の訴訟の範囲を明らかにして、移送及び併合を適正な場合に行うことができるようにすることにある。

複数人に出された同種の課税処分につき共通の理由により取消を求める各請求が関連請求に当たるか否かについては、証拠関係、争点及び攻撃防御方法の相当部分が共通するのであれば、関連請求として認める扱いがなされている。

これを本件についてみると、本件訴訟も対象訴訟も、同一内容の任意組合契約による航空機賃貸事業であり、同組合が当事者となる航空機の購入契約、ローン契約及びリース契約等はほぼ同一の仕組や内容で作成されており、基本たる事実関係は同一といえる。また、本件訴訟の法的争点も、組合法式で行っている航空機賃貸事業に係る損益を不動産所得として税額を計算したことに対し、これを雑所得であるとして更正及び過少申告加算税賦課決定を行うことの違法性であり、対象訴訟の法的争点と同一である。

本件は、同一の事実上の基礎を前提とする純粋な租税法の解釈に係る問題であって、その審理が裁判所ごとに区々になされることは、被告側にに立って本件訴訟及び対象訴訟を実質的に追行する国にとっても煩瑣であることは疑いもなく、訴訟経済上の非効率による費用の増大は無視できない。また、その攻撃防御方法もほぼ同一であることは、不服申立手続における経済を見ても明らかである。

従って、本件訴訟と対象訴訟は、行政事件訴訟法第13条6号にいう関連請求の関係に立つ。

3 結論

よって、行政事件訴訟法第13条の規定に基づき、申立の趣旨記載の決定を求める。

以上

別紙

対象訴訟一覧

名古屋地方裁判所平成15年(行ウ)第26号申告所得更正処分取消等請求事件

名古屋地方裁判所平成15年(行ウ)第27号申告所得更正処分取消等請求事件

名古屋地方裁判所平成15年(行ウ)第28号申告所得更正処分取消等請求事件

名古屋地方裁判所平成15年(行ウ)第29号申告所得更正処分取消等請求事件

名古屋地方裁判所平成15年(行ウ)第30号申告所得更正処分取消等請求事件

名古屋地方裁判所平成15年(行ウ)第31号申告所得更正処分取消等請求事件

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