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津地方裁判所 平成18年(ワ)485号 判決 2009年1月28日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  時機に後れた攻撃防御方法の申立てについて

原告は、平成20年11月26日の本件口頭弁論期日において、前記第1のとおり請求の趣旨を変更するとともに請求原因を補充したところ、被告は、かかる請求の趣旨の変更及び請求原因の補充は、時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たり却下されるべきであると申し立てた。

しかしながら、上記の変更後の原告の請求は、従前の請求と訴訟物を異にするものではなく、請求原因の補充についても、あくまでも従前の請求原因を補充するものにすぎず、これらの審理のために新たな期日を指定する必要があったものではないから、これにより本件訴訟の完結を遅延させることとなるものとは認められない。よって、被告の申立ては理由がない。

2  争点(1)について

(1)  原告の主張

原告は、①5722番4の土地にある唯一の量水器付近からホテル建物に付設された受水槽まで直接に給水管が敷設されていた、②仮にホテル建物への給水が寄宿舎建物に付属する受水槽から行われていたとしても、従前aホテル土地建物全体に対する給水を目的としていた給水装置は、原告とBが共同で承継取得した、として、本件土地建物への給水のために設置されていた給水装置を使用して給水を受ける権利を承継する地位にあると主張する。

(2)  給水装置の意義とその承継者の地位について

本件条例は、給水装置について、「配水管から分岐して設けられた給水管及びこれに直結する給水用具」と定義しているところ、「直結する給水用具」とは、給水管に容易に取り外しのできない構造として接続し、有圧のまま給水できる給水栓等の用具をいい、ホース等容易に取り外し可能な状態で接続される用具は含まれず、ビル等でいったん水道水を受水槽に受けて給水する場合には、配水管から受水槽の注入口までが給水装置であり、受水槽以下はこれに当たらないと解されているところである。

そして、本件条例は、給水装置の所有権を承継した者は、これに付随する工事費や未納使用料等の納付義務も、ともに承継したものとする旨規定するとともに、給水装置の使用者や所有者等に変更があったときは、水道事業管理者に届け出るべきことを規定している。これらの規定を併せて見れば、給水装置の所有権を承継した者は、当該給水装置を使用しての給水に係る各種費用や未納使用料の納付義務を前主から承継する反面、当該給水装置の所有名義の変更を水道事業管理者に届け出ることにより同給水装置を使用して給水を受け得る地位を、取得すると解するのが相当である。

以上によれば、原告が、ホテル土地建物の取得に伴い、本件土地建物への給水のために従前から設置されていた給水装置を承継したと認められるかが問題となる。

(3)  本件土地建物の給水設備の変遷及び給水の経過等について

前記前提事実、〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア  aホテルは、代表者の親族が旧久居市○○町内で経営していた温泉旅館の建物(別紙物件目録1記載63の建物。昭和34年5月新築)を昭和48年11月に譲り受け、温泉宿泊施設の営業を行うようになった。その後、同社は、上記建物の増築を繰り返すとともに、昭和57年7月には別紙物件目録1記載62の建物を新築するなどし、破産宣告を受けた平成6年2月当時には、収容人数約1200名の宿泊施設6棟を含む棟数にして9棟のホテル建物を所有していたほか、従業員用寄宿舎として、収容人数114名程度の寄宿舎建物4棟を使用し、これらの建物の敷地と併せ、本件土地建物を一体として宿泊施設の営業に供していた。

イ  旧久居市○○町内の本件土地建物所在地付近への上水の供給は、旧久居市を事業主体とする榊原簡易水道(以下「本件簡易水道」という。)によって行われており、aホテルの使用する建物への給水も、同社が別紙物件目録1記載63の建物を譲り受けた当時から、同簡易水道によって行われていた。

aホテルは、同建物で温泉宿泊施設を営むようになった後、旧久居市水道事業管理者に届け出て水道の使用を開始し、その後、同社の申込みにより、以下のとおりの給水設備の設置・改造等の工事が行われた。

(ア) 昭和51年4月には、5722番4の土地の南側道路の地下に本件簡易水道の配水管(以下「本件配水管」という。)が敷設され、この配水管に同土地内に向かう給水管が接続された(この接続個所を、以下「本件接続個所」という。)が、この給水管は、同土地内に設置された量水器(以下「本件量水器」という。)を経由してホテル建物近くに設置された受水槽に至る経路で敷設され、aホテルが宿泊施設営業のために使用する建物への給水は、この受水槽から行われるようになった。

(イ) 昭和57年9月には、従前の受水槽に代わり、ホテル建物付近に3か所、寄宿舎建物のうち別紙物件目録2記載145の建物付近の5722番の1の土地上に1か所の受水槽(以下「受水槽1」という。)がそれぞれ新設され、これに伴い、給水管の経路は、本件接続個所から本件量水器を経由した後に5722番4の土地内で2つに分岐し、一方はホテル建物周辺3か所の受水槽に、他方は5722番4の土地からその南側道路下を横切って5722番の1の土地内に入り、受水槽1に至ることとなった。これにより、ホテル建物への給水は、上記のホテル建物周辺の3か所の受水槽から行われるようになった。

(ウ) 昭和58年1月には、寄宿舎建物のうち別紙物件目録2記載144の建物北側の5722番4の土地上に、新たに受水槽(以下「受水槽2」という。)が設置され、5722番4の土地内の給水管の前記(イ)の分岐個所からホテル建物周辺の3か所の受水槽に向かう給水管は、この受水槽を経由することとなった。

その後、昭和62年6月には、それまで口径30ミリメートルであった本件量水器が、口径50ミリメートルに増径される工事が行われた。

なお、上記分岐個所から受水槽1に向かう給水管からは、その途中の5722番の1の土地内で、寄宿舎建物のうち別紙物件目録2記載60の建物に向かう給水管が分岐しているが、このほかに、本件接続個所から本件量水器及び上記分岐個所を経て受水槽1及び2に至るまでの給水管に、有圧の給水管が分岐している個所があることを認めるに足りる的確な証拠はない。

ウ  aホテルは、平成6年2月23日に破産宣告を受け、A弁護士(以下「A弁護士」という。)が破産管財人に就任した(同社は、遅くともそのころ、本件土地建物を使用しての宿泊施設の営業を停止したと推認される。)。

A弁護士は、平成8年11月6日ころ、旧久居市水道事業管理者に対し、それまで本件土地建物への給水のため使用していた水道の使用中止を届け出、これに基づき、そのころ、同市水道課において、同土地建物に対する水道を閉栓する措置がとられた。

エ  平成7年5月23日に津地方裁判所において競売開始決定がされた本件土地建物は、ホテル土地建物と寄宿舎土地建物に分割されて競売が実施されることになり、寄宿舎土地建物については、Bが平成14年2月26日に競落により所有権を取得した。Bは、旧久居市水道事業管理者に対して、aホテルが所有していた給水装置の所有名義変更届を提出し、同年7月3日以降、寄宿舎土地建物のために、本件簡易水道からの給水を受けるようになった。

オ  旧久居市水道事業管理者は、平成14年8月13日、津地方裁判所に対して、ホテル土地建物に関して上申書を提出し、同物件は寄宿舎の部分と給水装置が共有されていたものの、当該給水装置は寄宿舎建物の敷地部分に存在していたために寄宿舎建物の落札者の所有として処理済みであるとして、ホテル土地建物には市営水道の給水がない旨を物件明細書に明記するよう求めた。そこで、津地方裁判所は、ホテル土地建物に係る物件明細書にその旨を記載するとともに、同年11月16日付けの日刊新聞紙上の競売物件情報においても、ホテル建物について、「本件建物には市営水道の供給がない」と記載した。

カ  原告は、平成14年12月にホテル土地建物に係る競売手続において入札を行い、代金の納付を経て、平成15年2月14日にこれを取得した。

(4)  本件土地建物に係る給水装置の範囲について

前記(3)に認定した事実に基づき検討するに、aホテルが破産宣告を受けた平成6年2月当時、本件土地建物への給水を目的とする給水管は、本件配水管から本件接続個所に接続された給水管が、本件量水器を経た後に2つに分岐し、その一方は受水槽1及び別紙物件目録2記載60の建物に至り、他方は受水槽2に至っていたことが認められ、本件土地建物への給水に関し、これ以外の経路の有圧の給水管の存在を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件条例にいう給水装置の定義に照らせば、本件土地建物に係る給水装置は、本件接続個所から、受水槽1及び2の注入口までの給水管、並びに、別紙物件目録2記載60の建物内の給水栓等の給水用具に至る部分であったと認められる(本件土地建物の給水装置であったと認められるこれらの給水管等を、以下「本件給水装置」という。)。

原告は、ホテル建物付近に設置されている受水槽の一つに「市水タンク」との表示があるとして、本件量水器付近からホテル建物に付設された受水槽まで直接に給水管が敷設されていたと主張する。しかし、aホテルが破産宣告を受けた平成6年2月当時、上記の給水管のほかにホテル建物への給水を目的とする有圧の給水管が存在したことを裏付ける的確な証拠がないことは前記のとおりであり、ホテル建物付近の受水槽の「市水タンク」の表示についても、同受水槽に対して有圧の給水管等が直接に接続されていたことを直ちに裏付けるものではないから、上記の原告の主張は採用できない。

(5)  本件給水装置の所有権の帰趨について

ア  水道の給水装置は、一般的には、建物や土地の所有者又は使用者が、当該建物や土地に給水を受けるに際して設置するものであり、その際の給水装置の所有者は、当該所有者又は使用者である。そして、aホテルが破産宣告を受けるまでの本件給水装置の所有者は、本件土地建物を所有ないし使用して温泉宿泊施設を営み、旧久居市水道事業管理者に水道使用者として届け出て給水を受けていたaホテルであったと認められる。

そして、本件給水装置が寄宿舎建物の敷地たる5722番の1及び5722番4の各土地に埋設・敷設されて存在する以上、平成14年2月26日に寄宿舎土地建物を取得したBが、寄宿舎土地建物の付属物としての本件給水装置の所有権を、併せて取得したと解するのが相当である。このように解することは、「給水装置の所有権の区分は、公道または公道に準ずる道路地内にあるものは市の、私有地にあるものは、所有者のものとする。」と規定し、給水装置の所有権の区分につき当該給水装置が私有地にあるか否かを基準とする旧久居市給水条例5条とも整合的であり、社会通念にも合致すると考えられる。

イ  原告は、①本件給水装置からの給水は専らホテル建物において使用されていた、②本件給水装置は寄宿舎建物だけでなくホテル建物にも付合する、として、ホテル土地建物を取得した原告は、Bと共同で本件給水装置を承継したと主張する。

しかるに、本件給水装置からの給水が専らホテル建物で使用されていたとしても、このような事実状態のみをもって、本件給水装置の付属する土地建物の取得者との特段の合意もなく、当然に本件給水装置が同人とホテル建物の取得者との共同所有となることを許容すべき法的根拠は見出し難いといわざるをえない。この点、原告は、本件給水装置がホテル建物に付合すると主張するが、「その不動産に従として付合した物」といえるためには、ある物が社会通念上不動産に付着したと認めるに足りる場所的関係にあることを要するというべきであり、ホテル建物の敷地である土地上にはなく、それとは場所的隔たりのある5722番の1及び5722番4の各土地上にある本件給水装置については、寄宿舎建物との付合の有無はともかく、ホテル建物と付合したと認めることはできない。

なお、原告がホテル土地建物を競落するに当たっては、物件明細書や競売物件情報の「本件建物には市営水道の供給がない」旨の記載により、競落者が本件給水装置の所有権を取得できないことを把握し得たから、原告が本件給水装置の所有権を取得できないことが直ちに不当であるということはできない。また、〔証拠省略〕によれば、aホテル破産管財人のA弁護士は、本件給水装置に係る給水権がホテルに帰属するとの見解を有していたことが認められるが、かかる見解は、上記の説示に照らして、採用することができない。

(6)  以上によれば、原告が本件給水装置を使用して給水を受ける権利を承継する地位にあるとする原告の主張は、理由がない。

3  争点(2)について

(1)  〔証拠省略〕によれば、本件土地建物の競落後の原告と旧久居市水道課との折衝経緯等について、以下の事実が認められる。

ア  原告従業員は、平成15年12月5日、旧久居市水道課を訪れ、ホテル建物に対する給水開始の手続等について説明を求めた。これに対し、同課所属のC(以下「C」という。)が、ホテル土地建物に給水装置がないことから新規給水の申請を行う必要があり、新規給水の際の負担金については、量水器口径を本件給水装置と同口径の50ミリメートル、1日当たりの使用水量をaホテル営業中の使用水量(1か月当たり約6000トン)を参考に200立方メートルと想定した場合の加入金、負担金及び各種手数料の合計額として7000万円を超えるなどと説明した。

イ  原告は、この説明を聞き、A弁護士に照会したところ、同弁護士から、「aホテル内には、上水道(既契約)は存在し、平成7年(ケ)第60号に移行したものであるとの結論となりましたので、ご通知申し上げます。」と記載された平成15年12月15日付けの通知書と、「ホテル用飲料水については、ホテル所有地内に貯蔵してホテル本体へ引導していたもので、給水権はホテルに帰属していたものです。(水道料金もaホテルで納めていたものである。寮そのものは法的に当事者適格などはあり得ません。メーターの設置場所は当時ホテルの所有地にあったものですが、設置場所の問題以前に給水権を侵害されてはなりません)」と記載された同月22日付けの書面を受領した。そこで、原告は、これらの書面を旧久居市水道課に持参するなどして、給水装置の所有名義変更の手続によってホテル建物に給水するよう求めたが、Cら同課職員は、本件給水装置の所有名義はBに変更済みであり名義変更を受け付けることはできない旨回答した。

併せて、原告は、Cらに対し、新規給水を申請する場合の負担金の額を軽減するよう繰り返し求めたが、Cは、これを軽減すべき制度上の根拠がないと説明した。

ウ  原告は、平成16年2月17日付けで、5722番の1の土地を設置場所とする給水装置について、自らを給水装置の新所有者とし、aホテル破産管財人のA弁護士を給水装置の前所有者とする水道所有名義変更届を作成し、旧久居市水道事業管理者宛てに提出したが、旧久居市水道課においては、ホテル土地建物に原告が承継した給水装置が存在しないとして、これを受理しなかった。

エ  原告は、前記アのCの説明に加え、前記ウのとおり水道所有名義変更届が旧久居市水道課に受理されなかったことから、量水器の口径を50ミリメートルとする給水を受けることを断念し、平成16年4月19日、旧久居市水道事業管理者に対し、量水器の口径を25ミリメートル、1日当たりの希望給水量を10立方メートルとする新規給水申請を行った。榊原水利調整委員会においてこの原告の申請について協議した結果、量水器の口径は20ミリメートル以下に限るとの協議結果が示されたことから、原告は、口径20ミリメートルとして申請書を差し替え、同月28日付けで、この条件による新規給水の承認を受けた。

オ  旧久居市の制定に係る以下の各条例には、旧久居市の水道施設から新規に給水を受けようとする場合に徴収されるべき負担金等について、以下のとおりの規定があった。

(ア) 久居市水道施設利用加入金徴収条例

(趣旨)

1条

この条例は、久居市水道事業給水条例(中略)の規定により、久居市水道施設を利用し、新しく給水の供給を受けようとするものからその必要とする水量に応じて加入金を徴収することを定めるものとする。

(加入金)

2条1項

加入金は、設置するメーターの口径に基づき次の区分により当該工事ごとに徴収する。

6号 口径50ミリメートル 645,000円

2条2項

加入金は、前項に定める額に100分の105を乗じて得た金額とする。この場合において、1円未満の端数が生じたときは、その端数金額を切捨てるものとする。

(イ) 久居市榊原簡易水道水源施設等工事負担金等徴収条例

(事前協議)

3条1項

新規給水等の施行者は、次の各号のいずれかに該当する場合は、久居市水道事業管理者(中略)と、新規給水について事前に協議しなければならない。

3号 新規給水の申込みが、計画1箇月最大給水量千立方メートル以上の水道水を使用する場合

(水道水源施設等工事負担金の適用範囲)

4条1項

水道水源施設等工事負担金(以下「負担金」という。)を徴収する範囲は次の各号のいずれかに該当する場合とする。

1号 前条第1項第1号、第2号、第3号及び第4号の各号に該当するもの。

(負担金の額)

5条1項

負担金は、1日使用水量割により換算し1立方メートル当たり35万円とする。

5条2項

負担金は、前項の規定に基づき徴収する負担金の額に100分の105を乗じて得た金額とする。この場合において、1円未満の端数が生じたときは、その端数金額を切捨てるものとする。

(ウ) 久居市榊原簡易水道水源施設改良等工事費負担金徴収条例

(水道水源施設改良等工事費負担金)

4条1項

水道水源施設改良等工事費負担金は、36万3000円とする。

4条2項

前項の場合において、口径25ミリメートル以上の設置者については、次の各号の率を乗じて得た金額とする。ただし、100円未満は切上げる。

4号 口径50ミリメートル 6.2

4条4項

負担金は、前項の規定に基づき徴収する負担金の額に100分の105を乗じて得た金額とする。この場合において、1円未満の端数が生じたときは、その端数金額を切捨てるものとする。

(エ) 久居市水道事業給水条例(旧久居市給水条例)

(手数料)

31条

手数料は、次の各号の区別により請求者からこれを徴収する。

1号 設計審査手数料

1件につき1000円

2号 給水装置工事検査手数料

1件につき2200円

3号 開栓手数料

1件につき500円

カ  なお、原告は、旧久居市水道課職員から新規給水契約に際して1億円の負担金が必要であるとの説明を受けたと主張し、〔証拠省略〕には、①原告役員のD(以下「D」という。)は、ホテル土地建物を取得後の平成15年3月ころ、他の原告従業員とともに旧久居市水道課に赴き、同課課長やCと面談してホテル建物への給水を求めたところ、新規給水申請が必要であり1億円の負担金が必要であると言われた、②Dやaホテル元代表者のE(以下E」という。)が、平成15年7月ころに三重県職員のF(以下「F」という。)と面談した際、Fが旧久居市水道課に架電して負担金の額について確認したところ、Fは同課職員から1億円が必要との説明を受けた、との部分がある。一方、被告はかかる説明をしたことを否認し、証人Cの証言には、これに沿う部分がある。

そこで検討するに、新規に給水を受ける際の負担金等の額については、前記オのとおりの各条例の定めに基づいて算出されるものであるから、旧久居市水道課職員が負担金等の額について説明を行うのであれば、その算定根拠についても併せて説明がされるのが通常と考えられるにもかかわらず、EやDをはじめとする原告関係者が1億円という金額の算定根拠について同課職員から説明を受けた形跡はなく、かかる金額がいかなる算定方法に基づき導き出されるのかも明らかでない。Fが旧久居市水道課職員から1億円について説明を受けたとする部分についても、Fからの伝聞にすぎず、実際にFが誰からどのような説明を受けたのか全く明らかではない。

そうすると、旧久居市水道課職員が原告関係者に対してかかる説明をしたとの事実は、これを認めることはできないといわざるを得ない。

(2)  原告は、被告が水道法15条1項に違反して原告の水道所有名義変更届の受理を拒んだと主張する。

しかし、原告の提出に係る前記(1)イの水道所有名義変更届上の給水装置を本件給水装置と考えたとしても、原告が本件給水装置の新所有者であるとは認められないのは前記2(5)のとおりである以上、本件給水装置の所有名義を原告に変更することはできないし、他に原告が承継した給水装置の存在を認めるに足りる証拠はない。

よって、仮にこの届出をもって水道法15条1項の給水契約の申込みと解するとしても、旧久居市水道課が上記変更届を受理しなかったことには正当な理由があったというべきであり、かかる行為が水道法15条1項に違反するものであったと評価することはできない。

(3)  原告は、被告が原告に対し、口径50ミリメートルの新規契約の負担金が1億円ないし7000万円であるとの虚偽かつ不当な説明をして、原告に同口径による新規契約を断念させた、と主張する。

この点、旧久居市水道課職員が、原告関係者に対し、新規契約の場合の負担金が1億円であるとの説明をした事実を認めることができないのは、前記(1)カのとおりである。

また、前記(1)アのとおり、Cが、原告従業員に対し、新規給水の際の負担金等の合計額が7000万円を超える旨の説明をした事実が認められるところ、Cが上記の額を算定するに当たり想定したaホテルの使用水量については、これを覆すに足りる証拠はなく、さらに量水器口径を50ミリメートルと想定し、前記(1)オの各条例の定めに照らして負担金等の額を算定すると、加入金が67万7250円(645,000×1.05)、水道水源施設等工事負担金が7350万円(350,000×200×1.05)、水道水源施設改良等工事費負担金が236万3130円(363,000×6.2×1.05)、設計審査手数料が1000円、給水装置工事検査手数料が2200円、開栓手数料が500円となり、その合計額は7654万4080円と算定される。

これによれば、上記のとおりのCの説明に虚偽があったと認めることはできないし、かかる説明が不当であったと直ちに認めることもできない。

なお、〔証拠省略〕の証言には、新規給水契約に際しての負担金等の額につき7000万円との説明を受けた時期や経緯について、前記(1)アの認定と異なる部分があるものの、負担金等の額それ自体が上記のとおりの算定根拠を有する以上、かかる事情は、旧久居市水道課職員の説明の違法性を左右するものではない。

(4)  以上によれば、被告が、原告の水道所有名義変更届の受理を違法に拒んだとか、新規契約の負担金について虚偽かつ不当な説明をしたとの原告の主張は、理由がない。

4  結論

以上の次第であるから、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないから、これをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中正哉)

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