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津地方裁判所 平成8年(行ウ)11号 判決 2002年9月26日

主文

1  被告が原告P1に対し,平成10年7月6日付け換地処分通知書(賀農第659号)でした換地処分を取り消す。

2  原告P2の訴え及び原告P1のその余の訴えをいずれも却下する。

3  訴訟費用は,被告に生じた費用の4分の3と原告P1に生じた費用を被告の負担とし,被告に生じた費用の4分の1と原告P2に生じた費用を原告P2の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告P1

(1)  第1事件

被告が,平成8年6月10日付けで,原告P1に対しなした,同原告の異議申立てに対する決定のうち,同申立てを棄却する部分を取り消す。

(2)  第3事件

被告が,平成9年3月7日付けで,原告P1に対してなした,被告が平成8年12月10日付け三重県広報第813号をもって公告し,縦覧に供した県営ほ場整備事業上野南部第二地区第1換地区の変更換地計画に対する同原告の異議申立てに対する決定のうち,同申立てを棄却する部分を取り消す。

(3)  第4事件

主文1項と同旨

(4)  訴訟費用は,被告の負担とする。

2  原告P2

第2事件

(1)  被告が,平成8年6月10日付けで,原告P2に対しなした,同原告の異議申立てを棄却する決定を取り消す。

(2)  訴訟費用は,被告の負担とする。

3  被告

(1)  本案前の答弁

原告P1の第1事件及び第3事件の訴え並びに原告P2の第2事件の訴えをいずれも却下する。

(2)  本案の答弁

ア 原告らの請求をいずれも棄却する。

イ 訴訟費用は,原告らの負担とする。

第2事案の概要

本件は,原告らが,被告に対し,換地計画に対する異議申立ての棄却決定(決定のうち棄却部分)及び換地処分の取消しを求めた事案であるが,具体的には次のとおりである。すなわち,①第1事件は,原告P1が三重県営ほ場整備事業上野南部第二地区第1換地区(以下「本件換地区」という。)に関する換地計画(平成8年3月5日公告。後述の「当初換地計画」)に対して異議を申し立てたところ,被告において同申立ての一部を棄却する決定をしたため,同原告が被告に対し同決定のうち棄却部分の取消しを求めた事案,②第2事件は,原告P2が,同原告が本件当初換地計画に対して異議を申し立てたところ,被告において同申立てを棄却したため,同棄却決定の取消しを求めた事案,③第3事件は,原告P1が本件換地区に関する(変更)換地計画(平成8年12月10日公告。後述の第1変更換地計画)に対して異議を申し立てたところ,被告において同申立ての一部を棄却する決定をしたため,同原告が被告に対し同決定のうち棄却部分の取消しを求めた事案,④第4事件は,原告P1が,本件換地区に関し同原告に対して被告がなした換地処分の取消しを求めた事案である。

1  前提となる事実(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 原告らは,いずれも本件換地区の対象地域に農地を所有する権利者である。

イ 被告は,本件事業の事業主体である三重県の知事である。

(2)  本件事業等(平成9年3月13日時点)

ア 上野南部第二土地改良区(以下「本件土地改良区」という。)は,昭和60年9月28日設立が認可され,上野市α3271番地に事務所を置いている(組合員数296名,代表者P3)。本件土地改良区は,三重県から県営ほ場整備事業上野南部第二地区の換地業務につき業務委託を受けた。

イ 県営ほ場整備事業上野南部第二地区の概要は,次のとおりである。

(ア)

事業年度

昭和60年~平成8年度(予定)

(イ)

換地区数

3換地区

(ウ)

場所

上野市β,γ,α,δ

(エ)

事業主体

三重県

(オ)

地区面積

232ヘクタール

(カ)

関係農家戸数

296戸

(キ)

事業費総額

23億8700万円(10アール当たり約129万円)

ウ 本件換地区は,上野市βの一部,γの一部で,面積は約77.8ヘクタール,関係農家戸数116戸である。

(3)  本件各処分の経緯等

ア 当初換地計画

平成7年8月30日,上野市β423番所在のβ公民館において,土地改良法89条の2第2項,52条5項による会議(換地会議。権利者会議)が開催され,権利者の総数142名のうち,123名が出席し(書面議決書提出者,委任状による出席者を含む。),120名が賛成したということで,本件換地区の換地計画(以下「当初換地計画」という。)の決定についての議決がなされた(乙1)。

被告は,当初換地計画を定め,平成8年3月5日付け三重県広報第734号をもって公告をなし,かつ,換地計画書の写しを縦覧に供した。

イ 原告P1による異議申立てとこれに対する被告の決定

(ア)a 原告P1は,平成8年4月9日(甲3),土地改良法89条の2第4項,87条6項,行政不服審査法6条に基づき当初換地計画に対する異議申立てをなした。

b 原告P1が被告に申し立てた異議理由の要旨は,次のとおりである。

(a) 本件換地区の対象地の一部が本件土地改良区により土地改良法の認めない競争入札が実施され,当初換地計画もこれを是認している。

(b) 権利能力なき社団である依那具区も本件換地区の対象地の一部(333㎡)を取得し,しかも,当初換地計画ではP4名義で換地を受けることとされている。これは,従前地の存在しない者への換地を認めたことになり明らかに違法な換地である。

(c) 当初換地計画では,上野市が本件換地区の対象地内に新都市進入道路及び歩道用地を機能交換で取得することになっているにもかかわらず(実質は旧道の付け替え),一方で上野市は本件土地改良区から上記用地を売買で取得し,同改良区は売却代金を第1換地区の権利者に分配している(原告P1は勝手に振込入金されたので返納している。)。

(d) 死者名義で不換地申請書が出ており,当初換地計画もこれを是認している

(イ) 被告は,平成8年6月10日付けで,(c)及び(d)について是正を行うとして原告P1の異議申立てを一部認めたものの,その余の(a)及び(b)については,競争入札は換地の手法として受益者会議で決議され,処理されたものである,依那具区という団体は換地を受けておらず,組合員に換地されているとして当該部分を棄却した(以下当該棄却部分を「本件棄却決定①」という。)。

ウ 原告P2による異議申立てとこれに対する被告の決定

(ア)a 原告P2は,土地改良法89条の2第4項,87条6項,行政不服審査法6条に基づき法定期間内に当初換地計画に対する異議申立てをなした。

b 原告P2が被告に申し立てた異議理由の要旨は,次のとおりである。

(a) 本件換地区の対象地の一部が本件土地改良区により土地改良法の認めない競争入札が実施され,当初換地計画もこれを是認している。

(b) 権利能力なき社団である依那具区も本件換地区の対象地の一部(333㎡)を取得し,しかも,本件換地計画ではP4名義で換地を受けることとされている。これは,従前地の存在しない者への換地を認めたことになり明らかに違法な換地である。

(c) 原告P2は,他県居住者として権利者会議まで被告からも本件土地改良区からも土地改良が実施されていることすら知らされず,自己の権利を擁護するための手続的保障が全く考慮されていなかった。

(イ) 被告は,平成8年6月10日付けで,(a)及び(b)について,競争入札は換地の手法として受益者会議で決議され,処理されたものである,依那具区は換地を受けていない,(c)について,原告P2は従前地に照応する換地を受けているとして同原告の異議を全部棄却した(以下「本件棄却決定②」という。)。

エ 第1変更換地計画

平成8年9月1日,β公民館において,土地改良法89条の2第2項,5項(土地改良法89条の2第5項については,平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。),52条5項による権利者会議が開催され,権利者の総数142名のうち124名が出席し(書面議決書提出者,委任状による出席者を含む。),120名が賛成したということで,当初換地計画を変更する決定についての議決がなされた(甲22,弁論の全趣旨)。

被告は,当初換地計画を変更し(以下この変更後の換地計画を「第1変更換地計画」という。),平成8年12月10日付け三重県広報第813号をもって公告をなし,かつ,関係書類を縦覧に供した(弁論の全趣旨)。

オ 原告P1による異議申立てとこれに対する被告の決定

(ア)a 原告P1は,土地改良法89条の2第4項,87条6項,行政不服審査法6条に基づき法定期間内である平成9年1月20日,第1変更換地計画に対する異議申立てをなした。

b 原告P1が被告に申し立てた異議理由は次の点である。

(a) 権利者会議決議の無効

被告が平成8年9月1日召集した権利者会議には,議案書として換地設計総括表のみが示され,土地改良法52条の5(平成11年法律第160号による改正前のもの。)に定める各筆換地明細書等の提出がなく,決議対象が存在しなかったのであるから,第1変更換地計画についての権利者会議の議決は無効である。

(b) 死者名義の書面議決書の存在

本件権利者会議に提出された書面議決書の中には死者が署名,押印したことになっているものが存在する。

(c) 本件土地改良区P3理事長に対する増歩換地に関する違法性

第1変更換地計画によると,P3理事長に対して新たに676㎡の増歩換地を行うとしているが,増歩換地の目的はP3が上野市との間で締結している道路用地の売買契約を履行するためのものである。したがって,上野市から支払われる売買代金(1149万2000円)は権利者全員に公平に配分されなければならないところ,変更換地計画書にも清算金として明記されていなければならない。しかるに,本件変更換地計画にこの清算金について何らの定めもないのは不明朗であり,清算金についても適正に処理することを求めている土地改良法の趣旨を没却する違法がある。

(d) 換地交付基準地積減少の理由が不明確

変更前の換地計画と比べ変更後の換地計画では換地交付基準地積が減少して表示されている。他方,全体の換地地積は増大しているが,この矛盾が合理的に説明されていない。

(e) 換地事業記念碑用地の扱い

記念碑用地は農業従事者の便益に資する施設でないのに本来の換地対象地内に設け,かつ,換地から除外するのは不当である。

(イ)a 被告は,平成9年3月7日付けで,(b)については是正を行うとしたものの,その他の異議理由は全て棄却する旨の決定をした(以下「本件棄却決定③」という。)。

b 棄却理由は次のとおりである。

(a) 権利者会議は適正な手続により開催されており,これを受けて作成された変更換地計画書は有効である。死者の書面議決書を除外しても法定要件を超える賛成決議がある。

(b) P3に対する増歩換地も,換地交付基準地積の11.05%増に留まるので土地改良法53条1項(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)に定める増減の許容範囲内である。

(c) 換地交付基準地積が減少したのは,第1変更換地計画において記念碑を設置する用地が土地改良区名義となったことなどから変更されたものである。

(d) 清算金については換地処分後に行われるところ,未だ実施されていない。

(e) 記念碑用地は組合員の総意に基づいて設置されるものである。

カ 換地計画の変更ができなかったこと

第1変更換地計画の変更についての決議を得るため,平成9年7月31日に,β公民館において,土地改良法89条の2第2項,5項,52条5項による権利者会議の開催が予定されたが,一部の相続人の事業同意が得られないなどの理由から,同権利者会議は流会になった(乙22,30,39,弁論の全趣旨)。

キ 第2変更換地計画

平成9年11月16日,β公民館において,土地改良法89条の2第2項,5項,52条5項による権利者会議が開催され,権利者の総数149名のうち,120名が出席し(委任状による出席者を含む。),115名(乙39)ないし116名(乙30)が賛成し,第1変更換地計画を変更する決定についての議決がなされた(乙23,30,39,弁論の全趣旨)。

被告は,第1変更換地計画を変更し(以下この変更後の換地計画を「第2変更換地計画」といい,当初換地計画,第1変更換地計画,第2変更換地計画を特に区別せず,あるいはまとめて,「本件換地計画」などということもある。),三重県広報をもって公告をなし,かつ,関係書類を縦覧に供した(弁論の全趣旨)。

ク 本件換地処分

被告は,原告P1に対し,平成10年7月6日付け換地処分通知書(賀農第659号)をもって,別表1のとおりの内容の換地処分(以下「本件換地処分」といい,本件棄却決定①ないし③と合わせて「本件各処分」という。)をした。原告P2に対しても,このころ換地処分がなされた。

被告は,平成10年7月21日付け三重県公報により,換地処分の公告を行った。

2  争点

本件における争点は,①第1ないし第3事件の訴えの利益の有無(換地処分がなされた場合,換地計画に対する異議申立てに対する棄却決定の取消しを求める訴えの利益があるか否か。)及び②本件各処分が適法か否かである。

②に関しては,原告らは,「本件換地計画・換地処分には,土地改良法の認めない競争入札がなされた,従前地を有しない依那具区に対して換地が与えられている,道路用地として売却された土地の売却代金についての清算金の定めがない,3.5倍以上の交付率となった者がおり,照応の原則に反する,権利者会議での決議は違法な手続によるもので無効である,同一換地区域内にない土地に換地をした,本件換地区の換地交付基準地積が減少したなどの違法があるから,本件各処分は違法である。」旨主張している。

3  本案前の争点に関する当事者の主張

(被告の主張)

(1) 原告らは,換地計画に対し異議申立てを行い,これが棄却されたので,その棄却決定に対する取消訴訟を提起しているが,結局,換地処分の取消しを求めるべきであって,異議申立ての棄却決定に対する取消しは法律上訴えの利益を喪失したというべきである。

(2) 第1ないし第3事件において,原告らが主張する違法事由の要旨は,土地改良法の認めない競争入札がなされたこと,権利能力なき社団である依那具区に対する換地は従前地を有しない者に対する換地であり違法であること,権利者会議の決議の無効,一時利用地指定変更の違法,照応の原則違反であり,第4事件において原告P1が主張する違法事由とほぼ同一であり,第4事件において換地処分という終局処分の取消しを求めている以上,原告らが本件訴訟の訴訟物である前記異議申立ての棄却決定の取消しなどを求める訴えの利益は喪失したというべきである。

(3) よって,第1ないし第3事件は却下されるべきである。

(原告らの主張)

被告の主張するように第1ないし第3事件で原告らが主張している違法事由は第4事件で原告P1が主張する違法事由と同一であるが,土地改良法89条の2第4項,87条10項に定める異議申立てに対する棄却決定取消訴訟は,換地処分取消訴訟とその目的,効果を異にするものであり,換地処分がなされ,換地処分取消訴訟を提起したからといって訴えの利益が消滅するものではない。

すなわち,異議申立てに対する棄却決定取消制度は,換地計画の遂行過程で違法事由が存在する場合,これを是正させる手段を権利者に与え,事業施行者に適正な方向転換を図らしめ,もって,土地改良法の公益目的を実現することを目的とする制度であり,取消訴訟手続中においてたまたま終局処分たる換地処分がなされたからといって,当該訴訟の訴えの利益が消滅すると解すべきではない。このことは,異議申立てに対する棄却決定取消訴訟において主張されている違法事由と換地処分取消訴訟において主張されている違法事由が同一であったとしても別異に解すべき理由はない。

換地処分は従前地と同一の権利関係を換地に移転する民事的効果を発生させる行政処分であり,取消訴訟によって取り消されたとしても,換地に対する権利移転効果が生じなかったことになるだけである。そして,その効果は当該処分を受けた権利者に及ぶにすぎない。これに対し,異議申立てに対する棄却決定取消訴訟制度は,計画遂行過程における違法事由の存在が認められ,異議申立てを棄却した決定の誤りが明らかとなれば,事業施行者に対し計画の見直しを迫る法的効果が生ずるものであり,異議申立てをした権利者のみならず,計画区域内の全ての権利者に影響を与え得る可能性のある公益的制度である。

被告は,原告らが違法な競争入札を前提とする換地計画の是正を求めて異議申立てに対する棄却決定取消訴訟を提起しているにもかかわらず,それを無視して換地処分を強行したが,棄却決定取消訴訟が認容されても個々の権利者に対してなされた換地処分が当然に失効するものではないので,原告P1においては併せて換地処分の取消訴訟を提起したにすぎない(なお,原告P2は換地処分取消訴訟を提起していない。)。また,換地処分取消訴訟のみが認容されたとしても,換地に対する権利移転の民事的効果が発生せず,換地処分前の状態に復帰するだけのことであり,事業施行者に計画の見直しを迫る法的効果が生ずるものではない。

以上のように,異議申立てに対する棄却決定取消訴訟と換地処分取消訴訟はその趣旨,目的,効果は必ずしも同一であるとはいえないのであり,両訴訟は両立し得る関係にあり,後者の提起によって前者の訴えの利益が消滅すると解釈するのは誤りである。

4  本件各処分の適法性に関する当事者の主張

(原告らの主張)

以下のとおり,本件換地計画や本件換地処分は違法であるから,本件各処分も違法であり,取消しを免れない。

(1) 競争入札について

原告らは,本件土地改良区が土地改良法の許容していない競争入札を実施したことにより,本来換地によって取得し得べき利益を喪失したものであるところ,かかる違法な競争入札に基づいて立案された本件換地計画は違法であるから,本件換地計画に対する原告らの異議を棄却する決定や本件換地計画を前提とする本件換地処分はいずれも違法である。

ア 経緯

(ア) 受益者集会

a 本件土地改良区は,平成4年1月16日,β公民館において,本件換地区の受益者総会を開催し(総数109名,出席者87名(うち委任状36名)で開催された。),第3号議案として「残地及び調整田の処分の方法について」を提案し(第1号議案・換地計画の決定について,第2号議案・従前地・換地の等位について),残地,調整田を底値1㎡当たり1000円で競争入札に付することを決議し,併せて入札期日を同年1月26日,当日入札を実施し即日開票,落札価格の2割を3日以内,残金は同年2月末までに納入することを決めた。

なお,同総会では競争入札そのものに反対する意見は出なかった。

b 同総会では,三重県上野農林事務所土地改良部用地課長P5,同課職員が来賓として出席した。

c 原告P2には全く通知がなされず,同原告が出席する機会は与えられなかった。原告P1は,本件土地改良事業は県営であり,同総会は土地改良法上の権利者会議ではなく,また,当時は体調不良でもあったので参加しなかった。

(イ) 入札の通知

本件土地改良区理事長は,平成4年1月18日付け書面で,入札日を同月26日,場所をβ公民館,決定方法を最高価入札者に落札,最低価格を1㎡当たり1000円とする内容を受益者に伝えた。

(ウ) 入札の実施

平成4年1月26日,競争入札が実施された(その入札結果は,別表2「第1換地区調整地,残地一覧表(決定)」にすべて示されている。)。55筆,地積にして合計1万2379.50㎡の残地,調整地(調整田)が入札に付され,一部の土地を水路敷としたほか,大半が40名を超える者によって落札された。

(エ) 売却代金の処理

a 売却金額総額1961万7636円が本件土地改良区に入金されたが,同改良区は,平成5年8月6日,この売却代金を上野市から取得した道路用地売却代金1149万2000円等とともに本件換地区の権利者に換地清算金名下に(従前地面積の割合に応じて)分配した。

b 原告P1にも勝手に入金されたが,同原告は直ちに返金した。

(オ) 原告P1の一時利用地変更等

ところで,原告P1は,平成2年5月8日付け一時利用地変更指定通知書をもって,仮地番28-7(畑80㎡)を含む一時利用地の指定を受けていたところ,同仮地番の土地の指定に不服があり,行政不服審査法に基づいて異議申立てを行ったが,平成2年12月27日付けで棄却され,確定した。しかるに,上記一時利用地(別表2の11番の土地)は,上記の競争入札に付されP6名義で落札されたため,平成4年5月18日付け一時利用地変更指定通知書で取り消され,原告P1は上記一時利用地を失った。

(カ) 是正要求等

a 原告P1は,平成5年4月ころ三重県上野農林事務所土地改良用地課を訪れ,P7課長に対し,換地より売買が優先するのかと問い合わせたところ,平成6年3月ころ同課長より「換地を入札などで売ることは違法です。土地改良法も認めていません。」とする回答を得た。

b 原告P1は,平成6年4月ころ,上野農林事務所に対して,違法入札の是正を申し入れ,かつ,平成4年の受益者総会議事録を提出し,その後も平成6年中に2回是正申入れをしたが,らちがあかなかった。

c 平成7年8月30日の権利者会議では,原告P1が違法性を訴えても,法定の3分の2を超える絶対多数の賛成で,違法な入札結果に基づいた換地計画が決議されてしまった。

イ 競争入札が違法であることについて

(ア) 土地改良法は,換地配分の一手法として残地,調整地の処理のための入札手続を設けておらず,権利者の全員の同意を得ない限り,このようなことはなし得ないものと解すべきである。

なぜなら,ルールなき入札は無用の混乱をもたらすだけでなく,不利益を受けた者の救済手段がないため,土地改良法が農用地の造成,集団化という公益目的のために適正手続の下で私権の一時的,部分的制限を正当化する根拠を失ってしまうからである。加えて,残地,調整地とはいえ農用地の一部を市場原理に委ねることは,土地改良法の意図した目的とは異なる換地配分を許すことになり,同法の趣旨にも大きく反する結果となる。

なお,本件の換地設計基準においても,残地,調整地を売却する旨の内容は含まれていない。

(イ) 特に本件では,受益者会議という法に定めのない会議において重要な決議が行われ,議決権も権利者の家族等被告が招集した権利者会議の地権者とは同一ではなく,落札者も権利者であるとは限らず,権利者以外の家族名義で落札しておきながら正規の換地では権利者がその落札土地を増歩換地として配分を受けるという実質的には従前地なき換地が行われたものであり,無法状態に等しい状況であった。

原告P1の場合も,上記仮地番の土地はP6が落札しておきながら,実際の換地では父P8が換地を受けるという事態となっている。

(ウ) 入札できなかった者には救済手段がない。誰がどのように落札者を決定したのかさえ不明朗で,誰にどのような請求をすればよいのか判然としない。しかも,入札結果も公表されていないので,入札手続が果たして適正に行われたのか確認のすべがなく,密室の中で不公正な入札が行われても監視もできない。

どの程度の残地,調整地であれば入札が許容されるのか基準もなく,競争入札を決める機関もはっきりしない。入札金の処理も不明朗極まりない。

(エ) 本件において入札に付された土地は,隣接土地所有者に渡すことを前提としたとしか考えられない土地も多く,これは,無競争で隣接土地所有者が取得できるということであり,到底公正な方法とはいえない。

(オ) 被告は,①入札は被告が実施したものではない,②交付残地が生ずるのはやむを得ない,③本件調整田は引き取り手のない土地である,④競争入札に付された土地は本件換地区の地積の約1.6%にすぎない,⑤原告らに財産上の損害はない,⑥既に換地処分がなされているので混乱が生ずるかのごとく主張する。

① 本件入札が実施されることは受益者会議に三重県上野農林事務所土地改良部用地課長P5等が同席しており,競争入札が行われることを知らなかったとはいえない。換地の一手法というなら被告自ら手続主体にならなければ適正換地を担保し得ない。

競争入札は被告が実施したものではないが,本件換地計画は実質的には違法な競争入札の成果を追認する内容となっている。すなわち,原告らは,土地改良法が関与しない受益者会議の多数決で自己所有地の一部を取り上げられたようなもので,これを追認する本件換地計画は,厳格な要件の下で土地所有権の自由な行使を公益目的から部分的に制約する土地改良法の制度趣旨を著しく没却するものであり,憲法29条の財産権の保障規定にも抵触する。

② 当初の交付率を94.5%で設定して余裕地を残すような割り込み作業をあえてしたものであるからやむを得ず残地,調整地が生じたとはいえない(最終の交付率は97%である。)。

③ 落札価格を見ると,底値より高額で落札した者が多く,中には10倍以上で落札した者がいるなど,入札に付された土地は位置,形状の悪い劣悪地ではない。

④ 本件換地区の1.6%が入札対象になったにすぎないというが,決して小さくはない。

競争入札のために原告P1は109㎡も換地が少なくなったのであり,換地の評価基準が低い評価(安い金額)であることにもかんがみれば,決してわずかな損害ではない(原告P1の主張)。

⑤ 換地は金銭精算が基本ではなく,あくまで農用地の集団化,効率的利用の目的で行われるものであるから,競争入札によって換地地積が少なくなれば財産上の損害は既に発生している。

⑥ 原告らは,換地処分後に換地計画の違法性を主張しているのではなく,違法換地計画を是正するため少なくとも平成6年ころから苦情の申出を行い,それでも是正されないので行政不服申立てを行い,最後は土地改良法89条の2,87条10項に基づく異議申立棄却決定に対する取消訴訟を提起してきたものであり,被告が強行した換地処分により請求が認容されなくなるものではない。このようなことが許されれば,土地改良法が計画段階で違法を是正する手段を権利者に与え,早期に適正な方向転換を図らせようとした趣旨が失われ,特別の取消訴訟制度を用意した意義がなくなってしまう。

(カ) 換地清算の違法性

入札による清算方法も違法である。すなわち,入札に付された残地,調整地は本来換地の対象たるべき土地であるところ,落札者は権利者の家族である場合も多く,家族であるとはいえ,地権者との関係では第三者にすぎず,入札しなかった者はいわばその第三者に土地を奪われたに等しいものである。したがって,落札者が支払った売買代金は本来土地を換地で取得できなかった権利者に配分すべきものである。ところが,本件では,権利者全員に配分しており,入札しなかった者との間で不公平が生じている。

被告は,「競争入札は換地の一手法である。」と主張しているが,そうであるなら,正規の清算手続の中において処理されるべきである。ところが,被告は是正を行ったとはいうものの,相変わらず残地,調整地の処分代金を正規の清算金に含めておらず,その清算手続は看過できない重大な瑕疵がある。

(2) 依那具区への換地について

本件換地計画においては,従前地を有しない依那具区が,P4名義でβ公民館隣接地(333㎡)の換地を受けているが,明らかに土地改良法に反する違法なものであり,本件各処分は違法である。

すなわち,上記土地は,上記競争入札において依那具区(権利能力なき社団)が落札したもので,依那具区では換地を受けられないので,P4がその名義を依那具区に貸して換地を受けているのである(P4に対する換地は,同人の従前地を前提としないで,依那具区のために行われた名義貸しによるものであり,土地改良法上認められない。)。事業主体である三重県もこの名義貸しのことは知悉していた。

(3) 道路用地の売却代金について

P3が本件換地計画(ただし,第1変更換地計画以降のもの)において増歩換地を受ける676㎡の土地(上野市ε3408番田490㎡,同3406番田186㎡)は,当初は上野市が機能交換で道路用地として取得する予定となっていたが,原告P1の異議申立てで異種目換地に改められることになった。しかし,上野市が上記道路の取得代金として支払った金額が正規の清算手続で処理されていないから,本件換地計画及び本件換地処分は違法である。

すなわち,上野市は,本件換地区内の農用地の一部を道路(新都市進入道路)用地にあてるため本件土地改良区から1149万2000円で買い取ったが,このとき換地委員長であったP3と上野市との間で売買契約書が作成された。本件土地改良区は,売買した土地が新都市進入道路に供されることを見越してP3に一時利用地として当てがうことにしたが,被告はこのような経緯を知らずに道路用地を上野市に機能交換として換地する換地計画(当初換地計画)を定めた。そこで,原告P1は,「従前地のない換地であり,違法である。」旨異議申立てをしたところ,被告は是正する決定をなした。そして,是正方策として出てきたのがP3が一旦増歩換地を受けた後上野市に所有権を移転するという方法であった(すなわち,当初換地計画が定められる前にP3が上野市と道路用地の売買契約を締結していたことが発覚したので,被告はこの契約を是認し,P3に道路用地部分を増歩換地(異種目換地)する扱いに変更したのである。)。しかし,上野市への機能交換からP3への異種目換地に変更したとしても道路用地に供される農用地は実質的には共同減歩になるわけであり,共同減歩の見返りである上野市から支払われた売買代金は正規の清算手続の中で処理されなければならない。しかるに,本件換地計画(ただし,第1変更換地計画以降のもの)では,P3に増歩換地することのみが定められ,清算金の定めがない。

被告は,上記売買代金は上野市とP3間の通常の売買契約に基づくものであるから清算の対象にならないというが,既に実態(共同減歩)が判明している以上は,被告の清算手続に組み込まなければ適正な清算金を算出し得るものではない。

(4) P9への換地について

ア P9については,従前の土地である上野市ζ438番1田138㎡に対して同所3289番田490㎡の換地配分が行われている。実に従前地の3・5倍に達しているが,換地の増減は2割未満に留めなければならないとする土地改良法53条1項3号(土地改良法53条1項については,平成11年法律第160号による改正前のもの。以下同じ。)に違反しており,明らかな違法換地である。このような明白な照応原則違反を前提にする本件各処分は違法たるを免れない。なお,この換地は,P9が競争入札で取得した土地そのものである。

イ 被告は,「特別換地の合意書が存在する。」旨主張するが,増歩による利益を受ける者の同意書は意味をなさないのであり,土地改良法53条1項ただし書が準用する同法5条7項の権利者とは換地対象地内の権利者全員を指すものであるから,権利者全員の同意がない限り,P9の換地の瑕疵は治癒されない。

ウ なお,被告は,「水利権のない他の本件換地区の権利者に換地を行うことはできないので,ζに従前地を所有していたP9に増歩換地を行った。」旨主張しているが,水利権のない者への換地は実際には行われている。

被告は,「従前地に縄伸びがあったから増歩になった。」旨主張するが,かかる事実はない。すなわち,P9の従前の土地は138㎡であり,父親P10の従前の土地は1586㎡であったが,P9は3291番の土地(1630㎡)を一時利用地として指定され,父親P10は一時利用地の指定がなかった。ところが,P9が競争入札で3289番の土地を落札したため,P9の一時利用地であった3291番の土地(1630㎡)は父親P10に換地され,P9は落札した3289番の土地(490㎡)を換地としてもらったのである。大幅な縄伸びがあったのであれば,一時利用地の指定の時点で多くの土地の指定を受けたはずである。

エ いずれにしろ,権利者全員の合意がない以上このような2割以上の増歩換地が違法であることに変わりがない。

(5) 権利者会議の決議について

換地計画を定める権利者会議では,原告ら権利者には事前に「換地計画確認書」という法令に根拠のない文書が配布されただけで,会議当日には,権利者会議で配布することになっている換地設計総括表,各筆換地等明細書が配布されなかったが,これでは権利者が換地計画について意見を出し,その適正さを判定することができる機会を奪われたに等しく,同会議は重大な瑕疵のある決議として無効であるので,これを前提とした本件各処分もまた違法たるを免れない。

ア 平成7年8月30日の権利者会議について

(ア) 平成7年8月30日の権利者会議では,第1号議案として,「換地計画の決定」と題する議案が提案されたものの,権利者の重大な利害に関わる換地計画書,各筆換地等明細書が配布されず,原告P1の異議にもかかわらず,強引に議事が進められ,競争入札結果を踏まえた換地計画が賛成多数で決議されてしまった。

同会議では,事前に本件土地改良区より法令に根拠規定のない「換地計画確認書」が配布されたが,これは,各筆換地等明細書には記載されている,土地の等位,換地交付基準額,換地交付基準地積,換地評定,清算金の記載もない簡易な書面で,権利者から見れば,照応原則に合致しているかどうか判定する情報が圧倒的に不足した瑕疵のある資料である。

(イ) ところで,通達(「換地計画実施要領について」と題する最終改訂版の平成6年9月30日付け通達)によれば,権利者会議では,換地設計書(換地設計総括表,換地設計樹立の基本方針,地区集計表,等位別価格表),各筆換地等明細書を作成し,それらを議案書に添付して権利者の数に応じて配布しなければならない。ただ,各筆換地等明細書は当該権利者に対応する分だけ用意すればよいようである。

権利者会議が有効に成立するためには,抽象的に「換地計画の決定」と題する議案が上程されるだけではなく,その内容が権利者に呈示されること,すなわち,少なくとも法令により作成が義務付けられている資料が配付され,権利者が換地計画について意見を出し,その適正さを判定することができる機会が保障されていることが必要である。

換地設計総括表と各筆換地明細書が存在しない状況の下では,権利者はその適正さを判断するすべがないのであるから,議案の具体的対象が呈示されず,反論の機会を封じられた会議での決議は到底有効なものとはいえない。

したがって,法令,通達で作成を指示されている書面を交付せずになされた本件換地計画を承認する上記権利者会議には看過できない重大な瑕疵があり,同会議の決議は違法無効である。

(ウ) なお,この問題についても,原告P1は権利者会議でも議案の存在を示すよう訴えており,異議申立てをしているのであるから,それを無視し,換地計画を強行することは許されるものではない。

(エ) 被告は,「会議の席上に換地設計書,各筆換地等明細書が置かれていた。」旨主張するが,仮に置かれていたとしても,権利者に法令で定められた書面が存在することすら説明しておらず,閲覧に供する意思はなかったと判断せざるを得ない。

イ 平成8年9月1日の権利者会議について

平成8年9月1日開催の権利者会議でも配布がなされておらず,議案なき決議が多数決で可決されている。

ウ 平成9年11月16日の権利者会議について

原告P1には,平成9年11月16日の権利者会議でも,上記文書が配布されたとの記憶はない。

(6) 同一換地区域内にない土地への換地について

換地処分の対象となる土地は同一の換地区域内に存在しなければならないが,本件換地区域内に存しない上野市η940番2畑6.23㎡を従前地として,上野市θ3770番畑26㎡を換地としている違法がある。

(7) 換地交付基準地積の減少(原告P1の主張)

本件棄却決定③は,本件換地区の換地交付基準地積が減少したのは記念碑用地が換地から除外されたことを主たる理由としているが,原告は,権利者会議では,①P11への換地が重複していたので,重複分1050㎡を削除,②P3への増歩換地分676㎡,③記念碑用地145㎡を換地から除外することに伴う換地地積の減少があったとの説明を受けた。

上記の説明によれば,差引き1581㎡の増加となるはずであるが,変更換地計画書では逆に1185㎡の減少となっており,本件棄却決定③の理由のみでは矛盾が解消されない。

(8) 本件換地計画,換地処分の違法は重大である。

原告らは,改良工事そのものに異議を述べているものでも,改良工事前の状態に原状復帰するよう求めているものでもない。したがって,本件訴えが認容されたとしても,社会的,経済的損失が生ずるものではない。原告らが求めているのは違法な競争入札が是正され,本来の換地が行われ,原告らが違法な競争入札によって奪われた土地が回復されるとともに,違法な競争入札を前提とした清算手続が是正されればよいのであって,かかる措置をとったからといって,換地計画全体の見直しを迫っているわけではないから(違法換地は残地,調整地に対してのみ行われた。),被告に実行する意思があれば直ちに実施可能である。

(被告の主張)

以下のとおり,本件換地計画や本件換地処分に違法はなく,したがって本件各処分も違法でないから,本件各処分はいずれも適法である。

(1) 「競争入札」について

原告らは,おおむね「本件土地改良区は原告らの同意を得ず,本件換地区内の土地の一部について土地改良法の許容しない競争入札による売却を実施したが,本件換地計画は違法な競争入札に基づいて立案されたものであり,これは土地改良事業の適正な実施を保証した土地改良法の趣旨に反するだけでなく,適正な法律の手続によらずに原告らの財産の一部が不法売却されたものとして憲法29条にも反し,違法であり,本件換地処分も違法である。」旨主張する。しかし,以下のとおり,この点に関して違法はない。

ア 原告らは,「本件換地区内の土地の一部が入札方式により売却された。」と主張するが,上記入札は,被告が行ったものではない。受益者総会において,やむを得ない換地配分のための一手法として行われたものと推認される。

すなわち,本件土地改良事業においては,一時利用地の指定の際,一区画の面積及び交付率等の関係上,やむを得ず,交付残地が生じたときは,調整田とするとされていた。本件の調整田は,一時利用地の指定の際の組み合わせの結果,やむを得ず発生した形状の悪い場所や引き取り手のない事故発生田である。形式的には入札の形態がとられたようではあるが,実際上,土地改良区の権利者全員が入札に参加することができた公正な方法による配分であり,現実に調整田の割当てを受けたのは,ほとんど隣接地の所有者等関係者ばかりである。全く関係のない地権者や第三者が配分を受けた事実はない。実質的にはやむを得ない換地の一手法であるといわざるを得ない。

受益者総会において,換地処分の一手法として,原告ら主張のような調整田の割当方法がとられたとしても,本件換地計画が違法となるものではない。

イ また,原告らは,「1万2379.50㎡の土地が競争入札された。」旨主張するが,仮に,1万2379.50㎡の土地が競争入札されたとしても,これは本件換地区の地区面積約77.8haの1.6%である。さらに,それが違法であるとしても,原告らが受ける不利益は,極めて微少である。すなわち,原告らが失う所有地の一部とは,換地交付基準地積から実際に交付された換地の地積の差,すなわち,原告P1は109㎡(=換地交付基準地積5403㎡-換地地積5294㎡)だけ,原告P2は215㎡(=換地交付基準地積8177㎡-換地地積7962㎡)だけ,平均的な換地より少なく換地されていることになるが,1万2379.50㎡の土地の競争入札がなされなかった場合と比べても,本件換地計画に与える影響は,そのうちの0.042%(換地総面積77万7376.26㎡分の324㎡)と極めて微少にすぎず,原告らに対しては換地清算金が支払われるのであるから,原告らに財産上の損害もない。

また,後述のとおり,本件土地改良区は,平成13年12月,受益者総会の決議に基づく清算と本件換地処分に基づく清算との差額(差異)の清算事務を行ったのであるから,この点からしても原告らには損害はない。

ウ さらに,原告らは,「換地の交付率を当初から97%として換地割当作業をすべきであった。」旨主張するが,従前地に対する位置,形状,土壌,日照,水利,通作距離等を総合勘案して,照応した換地を定める必要があり,原告ら主張のように面積だけでは処理できない。種々の案が詳細に検討されたが,一時利用地の指定の最終段階において,調整田を最も少なくするため,94.5%の交付率となった。これを超える交付率とすると,標準的かつ合理的な農地を公平に配分できなくなってしまう。

エ 被告は,本件土地改良区より,「残地ができたため競売に付された。」旨の報告は受けていない。

オ 原告P1は,「違法な競争入札により一時利用地を失った。」旨主張するが,原告P1に対する一時利用地指定の変更は,競争入札とは関係がない。

カ したがって,原告ら主張の違法はない。

(2) 「依那具区への換地」について

原告らは,「従前地を有しない依那具区は,P4名義でβ公民館隣接地(333㎡)の換地を受けているが,明らかに土地改良法に反する違法なものであり,本件各処分は違法である。」旨主張する。しかし,以下のとおり,この点に関して違法はない。

ア 本件換地計画上,上野市ε3513番の土地は,P4に対し換地処分がなされているのであり,そもそも依那具区に換地された事実はない。

イ P4は,その従前地に対応する土地として換地を受けているのであり,同人が別枠で特別にε3513番の土地の換地を受けた事実もない。

ウ また,P4に換地されたε3513番の土地に係る固定資産税については,換地された時点から一貫して,P4が自己の土地であるとの認識のもと支払っているのである。P4が当時依那具区の会計をしていた関係からP4本人と依那具区を混同したような不適切な処理も見受けられるが,P4が自らの意思で入札に参加して換地を受けたことは間違いのない事実である。P4は換地委員,評価委員であったので,その責任上からε3513番の土地の入札に応じて自らの土地としたのものである。

エ したがって,原告ら主張の違法はない。

(3) 「道路用地の売却代金」について

原告らは,「P3が本件換地計画(ただし,第1変更換地計画以降のもの)において増歩換地を受ける676㎡の土地(上野市ε3408番田490㎡,同3406番田186㎡)は,当初は上野市が機能交換で道路用地として取得する予定となっていたが,原告P1の異議申立てで異種目換地に改められることになった。しかし,上野市が上記道路用地の取得代金として支払った金額が正規の清算手続で処理されていないから,本件換地計画及び本件換地処分は違法である。」旨主張する。

しかし,以下のとおり,この点に関して違法はない。

ア 当初換地計画について,原告P1から異議申立てがなされた段階で調査したところ,上野市とP3との間の売買契約が判明したので,P3に異種目換地をして,上野市への機能交換を是正させたものである。

イ 上野市とP3との間の売買は通常の売買契約であり,その売買代金を換地計画上,清算金として計上することはできない。当該土地は,換地計画上は通常の清算がなされており,土地改良法上違法ではない。

ウ 後述のとおり,本件土地改良区は,平成13年12月,受益者総会の決議に基づく清算と本件換地処分に基づく清算との差額(差異)の清算事務を行っているところであるので,この点からしても原告らには損害はない。

エ したがって,原告ら主張の違法はない。

(4) 「P9への換地」について

原告らは,「P9は,従前地の上野市ζ438番1田138㎡に対して同所3289番田490㎡の換地を受けているが,これは,3.5倍以上の交付率であり,明らかに土地改良法53条1項3号の2割の許容範囲を超えた違法な換地である(照応の原則違反)。」旨主張する。しかし,以下のとおり,この点に関して違法はない。

ア P9については,特別換地の合意書が存する(土地改良法89条の2第3項,53条1項ただし書)。

イ 上野市ζの換地については,水利権等の関係上,上野市ζに従前地を所有していた者に対して換地を行うこととし,上野市βに従前地を所有する者の中には換地を行わないことが適当であることとなった。その結果,P9外3名に換地することとしたが,P9は従前地の面積が138㎡で少なかったため,特別換地を行ったものである。上野市ζにおいては,従前地の登記簿表示面積に比して実測面積が多かったため,P9以外の2名についても増歩されている。

ウ したがって,原告ら主張の違法はない。

(5) 「権利者会議の決議」について

原告らは,「本件換地処分に先立つ換地計画を定める権利者会議では,原告ら権利者には事前に「換地計画確認書」という法令に根拠のない文書が配布されただけで,会議当日には,権利者会議で配布することになっている換地計画総括表,各筆換地等明細書が配布されなかった。これでは権利者が換地計画について意見を出し,その適正さを判定することができる機会を奪われたに等しく,同会議の決議は重大な瑕疵のある決議として無効であるので,これを前提とした本件換地計画,本件換地処分もまた違法たるを免れない。」旨主張する。しかし,以下のとおり,この点に関して違法はない。

ア 平成7年8月30日の権利者会議について

(ア) 平成7年8月30日の権利者会議に先立ち,平成7年8月18日,本件換地区の権利者全員に権利者会議通知書が配布され,会議の日時,場所,議案(本件換地区の換地計画の決定及び軽微な変更の取扱いについて)は周知されている。また,権利者会議の当日出席できない権利者のための委任状用紙,書面議決書も添付されている。

本件土地改良区は,権利者会議の前に「換地計画確認書」を権利者に配布し原告らを除く権利者全員から「下記明細について,確認しました。」旨の署名押印を徴収している。「換地計画確認書」は土地改良法に規定する書面ではないが,各権利者の従前地と換地が記載されているので,権利者会議以前に権利者は自らの換地を確認することができた。

権利者会議の席上に,換地設計総括表,各筆換地等明細書,清算金明細書等が置かれており,自由に閲覧できた。また,「現形図」,「換地図」は掲示されていたので,各権利者は換地計画を十分理解することが可能であった。

(イ) 原告らは,「換地関係通達集によれば,権利者会議では各権利者に各筆換地等明細書を配布するべきであった。」旨主張するが,通達の趣旨は各権利者が換地計画,従前地・換地の地番,面積,等位等を十分理解できるようにするというものである。本件土地改良区は,前述のとおり「換地計画確認書」を権利者全員に事前に配布し,権利者が明細についての確認をしていること,権利者会議の席上に換地設計総括表,各筆換地等明細書,清算金明細書等が置かれ,「現形図」,「換地図」も掲示されていたので,各権利者は換地計画の内容を十分に把握できたのである。

イ 平成8年9月1日の権利者会議について

平成8年9月1日の権利者会議に先立ち,平成8年8月23日付け権利者会議開催通知書が権利者全員に配布されたところ,同通知書には,日時,場所,議案(「県営ほ場整備事業上野南部第二地区(第一換地区)の換地計画の変更の決定及び軽微な変更の取扱いについて」)が記載されていた。

権利者会議に出席した権利者には,換地設計総括表が配布された。この時も本件土地改良区作成の変更に係る「換地計画確認書」が関係者に事前に配布されており,また,換地設計総括表,各筆換地等明細書,清算金明細書等は,会議の席上に置かれており,各権利者は自由に閲覧できた。また,「現形図」,「換地図」も掲示されていたので,各権利者は換地計画の内容は十分把握できた。

ウ 平成9年7月31日の権利者会議について

平成9年7月31日の権利者会議に先立ち,平成9年7月24日付け権利者会議開催通知書及び換地設計総括表,各権利者の各筆換地等明細書が権利者全員に配布された。議案としては,「県営ほ場整備事業上野南部第二地区第一換地区の換地計画の変更の決定及び軽微な変更の取扱いについて」が事前に権利者全員に提示された。

エ 平成9年11月16日の権利者会議について

平成9年11月16日の権利者会議に先立ち,平成9年11月10日付け権利者会議開催通知が権利者全員に配布されている。議案は既に,平成9年7月31日流会となった権利者会議と同じである。この時も換地設計総括表,各筆換地等明細書,清算金明細書等は,会議の席上に置かれており,各権利者は自由に閲覧できた。「現形図」,「換地図」も掲示されていたので,各権利者は換地計画を十分に把握できた。

オ このように,権利者会議は,議題が十分特定されており,各権利者は,換地計画,従前地,換地の地番,面積等を十分に理解できたのである。権利者会議は適法かつ適正に行われ,原告ら主張の違法はない。

(6) 「同一換地区域内にない土地についての換地」について

原告らは,「換地処分の対象となる土地は同一の換地区域内に存在しなければならないが,本件換地区域内に存しない上野市η940番2畑6.23㎡を従前地として,上野市θ3770番畑26㎡を換地している違法がある。」旨主張する。しかし,以下のとおり,この点に関して違法はない。

ア 本件土地改良事業計画当初より上野市η940番畑201㎡の一部は道路(農道)とする旨予定されていた。

そのため,平成元年7月10日上野市η畑201㎡は土地改良法114条の規定に基づき代位登記手続を経由し,同所940番1畑194㎡と同所940番2畑6.23㎡に分筆されている。

平成10年7月22日,上野市η940番2畑6.23㎡を従前地として,上野市θ3770番畑26㎡を換地したものである。

イ なお,分筆登記手続が昭和60年9月28日付け事業認可以降,約3年10ヶ月後になされたのは,地権者のP8の相続登記の遅れが原因である。上野市η940番2畑6.23㎡は,計画当初より土地改良区域内に存したものである。

原告P1は,昭和60年9月から平成2年10月31日まで,本件土地改良区の理事の職にあり,農道の一部となる道路の立案に参画する等計画に知悉していたものであって,本件の主張は著しく信義にもとる主張である。

ウ 従前地が事業計画当初より存在する以上,原告らの違法事由の主張は,理由がない。

(7) 「換地交付基準地積の減少」について

原告P1は,「換地交付基準地積が減少したことの理由が不明である。」旨主張する。しかし,以下のとおり,この点に関して違法はない。

ア 換地交付基準地積の変更について,説明すると次のとおりである。

① P11への換地が重複していたので(誤り),重複分上野市ι3669番田1050㎡を削除した。

② 記念碑用地(施設用地)上野市ε3404番地畑145㎡を換地するため,P12の換地のうちの畑145㎡を減じている。

③ P13の換地上野市κ3605番1田8.87㎡が換地もれであったので追加した。

④ P14の換地上野市ε3535番畑369㎡とすべきところを誤って368㎡とされていたので,1㎡追加している。

上記変更により,差引き1185.13㎡の減少となり,換地計画書の換地設計総括表のΣSが61万8270.98㎡とされていたのを61万7085.85㎡に変更したものである。

イ 原告P1の主張は,同原告の誤解である。

(8) 清算について

ア 三重県と本件土地改良区との間では,すでに清算が完了している。

イ 本件土地改良区は,平成5年8月,残地等処分額の配分と換地清算を同時に行った独自の清算をしたが,本件換地処分に基づく清算との間には,差異が存在した。清算金に差異が発生した主な原因は次のとおりであった。

① 換地交付基準額の算出において,改良区の清算では,受益者総会の決議による残地等処分額,上野市への道路用地売却代金,小作料を算入している。

② 換地交付基準額の算出の根拠となる従前地地積の総面積に相違があった。

③ 改良区清算金では,残地等処分額の分配金と換地清算を本来分離分割して行うべきであったところを同時に一括して行っている。

ウ(ア) 本件土地改良区は,遅くとも平成13年7月ころには,新たな清算事務(改良区清算金から換地のみに係る換地清算金相当額を算出し,換地清算金と改良区清算金相当額との差額を清算することにより,換地清算金に是正しようとするもの。)を行うこととした。

(イ) 本件土地改良区が清算金を支払う必要のある地権者に対しては,平成14年4月12日現在,90件408万2959円を支払うべきところ,P153万3329円を除き,全て支払済みである(89件404万9630円)。P15は,平成13年12月7日本件土地改良区が同人に清算金3万3329円を支払ったところ,平成14年1月11日返納してきたものである。

本件土地改良区に対し,差額の金員を納付すべき地権者からは,本件土地改良区第一換地区特別会計代表P3名義の普通預金口座に入金されているところであり,平成14年4月12日現在,人数では48名中43名が振り込んでいる(金額では,408万2959円中341万4901円が振り込まれている)。

残余の地権者についても,理事らの責任において,鋭意交渉し,入金処理する予定である。

(ウ) この清算により,平成5年8月の本件土地改良区の清算と本件換地処分に基づく清算との差異は解消される見込みである。

(エ) 原告P1はこの清算金の受領を拒否したので,本件土地改良区は,平成13年12月27日津地方法務局上野支局に供託をした。原告P2は,賦課金を滞納していたので,平成13年12月7日,賦課金の滞納分の一部と今回の清算金とを対当額で相殺した。これにより原告らには,損害は全くなくなった。

エ よって,本件換地処分が違法でないことは明らかである。

また,本件土地改良区の事業実施の経過に照らし,万一,本件換地処分が取り消されたときは,多数の農地,多数の人について生じた各種の法律関係及び事業状態を一挙に覆滅し去ることとなってしまい,著しく公共の福祉に反するものといわなければならない。この点からしても,本件換地処分が取り消されるべきでない。

第3当裁判所の判断

1  本案前の争点(第1ないし第3事件の訴えの利益の有無)について

都道府県営土地改良事業においては,土地改良法89条の2第4項,87条10項により,換地計画に不服がある者は,異議申立てに対する決定に対してのみ取消しの訴えを提起することができるとされているが,換地計画はいわば換地の予定図にすぎず,そもそも国民の法律上の地位,権利・義務に影響を与えるものとはいい難いものであるから,上記規定は,終局処分たる換地処分がなされる前にその不当な箇所の是正を図ろうとする趣旨に出たものと解され,すでに終局処分たる換地処分がなされたのであれば,端的に換地処分の取消しを求めるべきであり,上記異議申立てに対する決定に対する取消しの訴えの利益は消滅するものと解するのが相当である。

この点に関し,原告らは,「異議申立てに対する棄却決定取消訴訟は公益的制度であるが,換地処分取消訴訟はそうではないから,訴えの利益はある。」旨主張するが,異議申立てに対する棄却決定取消訴訟も,自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができるものとは解されず(行政事件訴訟法10条1項参照),自己の権利を擁護するためのいわば私益的制度であると解され,公益目的を図るために創設された制度であると解することはできない。

また,原告らは,「①換地処分取消訴訟のみが認容されたとしても,換地に対する権利移転の民事的効果が発生しない。つまり換地処分前の状態に復帰するだけのことであり,事業施行者に計画の見直しを迫る法的効果が生ずるものではない。②棄却決定取消訴訟が認容されても個々の権利者に対してなされた換地処分が当然に失効するものではない。したがって,両者の効果は異なるから棄却決定取消訴訟の訴えの利益はある。」旨主張するが,①換地計画は換地処分のいわば予定図にすぎないところ,「計画の見直しを迫る」のは同一内容の換地処分をさせないことが目的であり,換地処分取消訴訟が認容されれば,同一内容の換地処分がなされることはないのであるから,それ以上に「計画の見直しを迫る」必要性はないし,②換地計画は換地処分のいわば予定図にすぎないのであるから,換地計画が取り消されても換地処分が維持されるということであれば,まさに異議申立てに対する棄却決定取消訴訟の訴えの利益はないということになる。

よって,本件第1ないし第3事件の訴えの利益は消滅したものというべきであり,同訴えは却下を免れない。

2  本案の争点について

(1)  証拠(甲3,4,7ないし10,16の1・2,17ないし19,23,30,31,36,40ないし42,44,45の1ないし3,乙1,4ないし7,9,10,14,16ないし18,19の1・2,24,25,28ないし31,34ないし37,39,45ないし49,53,56,60,62,64ないし78,証人P3,証人P16,証人P4,証人P17,原告P1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 競争入札をすることの決定

(ア) 本件土地改良区は,平成4年1月16日,β公民館において,本件換地区につき,受益者総会(土地改良法に規定のあるものではない。以下「本件受益者総会」という。)を開催した(総数109名,出席者87名(うち委任状36名))。

(イ) 原告らは本件受益者総会に出席しなかった。

(ウ) 本件受益者総会には,三重県上野農林事務所土地改良部用地課長P5,同用地課P18が来賓として出席した。なお,上野市耕地課長(担当換地士)P19,同耕地課P20も来賓として出席した。

(エ) 本件受益者総会においては,第1号議案(換地計画の決定について),第2号議案(従前地・換地の等位について)の外,第3号議案として「残地及び調整田の処分の方法について」が提案され,残地,調整田を底値1㎡当たり1000円で競争入札に付することが決議された。

そして,本件土地改良区の換地委員から,上記競争入札につき,参加資格者は組合員,入札期日を同年1月26日,当日入札を実施し即日開票,落札価格の2割を3日以内,残金は同年2月末までに納入するとの説明があった。

(オ) 本件受益者総会において,P4は,「区の代理として,皆様にお聞き頂きたい。これについては区長のお考えでもありますが,只今残地及び調整地の処分方法については,競争入札に決まった訳ですが,公民館の南側の残地については,区の公共用地として利用させていただきたいと考えていますので,入札の対象枠から外して頂きたくお願いいたします。本日区長が議長を務めていますので考えを代理して申し上げさせていただいたものです。」と述べたところ,出席者全員の同意が得られた。

イ 競争入札等の実施

(ア) 本件土地改良区理事長は,平成4年1月18日付け書面(甲9)で,入札日を同月26日,場所をβ公民館,決定方法を最高価入札者に落札,最低価格を㎡当たり1000円との内容で調整地及び残地についての競争入札を行う旨を受益者に通知した。

平成4年1月26日,競争入札が実施された。なお,落札されなかった物件もあった。

(イ) 本件換地区の「換地委員長」P3は,平成4年1月27日付け書面(乙63)で,入札日を同年2月2日として,上記(ア)と同様の内容で,上記(ア)により落札されなかった物件につき,再度競争入札を行う旨を通知した。

(ウ) 本件土地改良区は,本件換地区について,上記(ア)(イ)の競争入札による場合や上記ア(オ)の公民館の南側の残地の処理,その後の追加の処分等を含め,残地及び調整地を「売却」等した結果を,別表2記載のとおりにまとめた。

(エ) なお,同別表においては,番号33の残地333㎡は依那具区が落札者とされた。

(オ) また,P9は,番号54の調整地490㎡を落札した。

(カ) 被告の認識

a なお,三重県上野農林事務所土地改良用地課長P7は,平成6年3月ころ,原告P1に対し,上記競争入札等について,「売買は違法であるが,換地して増歩という扱いにすればいいのではないか。」との考えを述べた。

b また,平成7年8月30日の権利者会議においても,原告P1は,「上記競争入札は違法である。」旨述べた。

ウ 道路用地の売買契約について

上野市が施行する市道λ線道路改良工事のために必要な用地を本件換地区内において取得することについて,上野市,本件土地改良区及び当該土地につき一時利用地の指定を受けたP3の三者間において,平成4年2月21日付けで土地売買契約書(甲23)が交わされ,P3は当該土地を上野市に1149万2000円で売り渡し,本件土地改良区は同意するものとされた。

エ 第1次改良区清算

(ア)a 上記イによる残地及び調整地の競争入札等による「売却代金」は,総額1961万7636円が上野南部第二土地改良区第1換地区特別会計代表P3名義の預金口座(乙53)に入金された。

b そのうち,別表2の番号33の残地333㎡の「売却代金」33万3000円は,平成4年12月に「依那具区会計P4」名義で振込依頼(甲17)がされ,「イナグクカイケイサマ」名義で上記aの預金口座に振り込まれた。また,依那具区の平成4年度一般会計決算報告書(甲18)においては,公民館横改良区残地333㎡収得費として33万3000円を支出したとされた。

なお,P4は,平成7年ころ,上記残地につき,平成4年1月30日付けで「自己への換地処分後も一切所有権の主張はしない。」旨の依那具区長宛の覚書(甲19)を作成した。また,依那具区は本件土地改良区の権利者ではないにもかかわらず,同土地改良区は平成12年5月16日に「依那具区P4」宛の賦課金通知書(甲40)を送付しており,依那具区の平成12年度一般会計決算報告書(甲42)においても,依那具区が土地改良区負担金2107円を支出したとされた。

(イ) 上記ウの上野市への道路用地の「売却代金」1149万2000円は,平成4年3月31日,上記(ア)aの預金口座に入金された。

(ウ) 上記(ア)aの預金口座へは,上記(ア)の競争入札等による「売却代金」1961万7636円や上記(イ)の道路用地の「売却代金」1149万2000円のほか,一時利用地指定前の小作料(昭和60年から平成元年まで)30万1852円も入金されている。

(エ) 本件土地改良区は,平成5年8月ころ,上記(ア)ないし(ウ)の分配を含めた内容で,土地改良法の規定に基づかない独自の清算表(乙49)を作成して,当該「清算金」の支払や徴収をした(この「清算」のことを以下「第1次改良区清算」という。)。

(ウ) なお,原告P1にも第1次改良区清算における清算金が支払われたが,同原告は直ちに返金した。

オ 本件換地計画

(ア) 本件換地計画は,三重県から委託を受けた本件土地改良区がその案を作成し,それにつき権利者会議において賛成の決議がされたものであるが,上記競争入札等の結果を反映したものとなっている。すなわち,競争入札に付された残地及び調整地は,落札者ないしはその家族等の関係者に換地配分された。ただし,別表2の番号33の残地333㎡(β公民館の南側の残地)は,上野市ε3513番雑種地333㎡として,依那具区ではなくP4に対して換地配分された。なお,同土地は依那具区が使用している。

(イ) 上記ウの道路用地については,当初換地計画においては,これを上野市が機能交換で取得するとされていたが,原告P1の異議申立てを受け,これが改められ,第1変更計画以降においては,P3に676㎡の異種目換地を行うとされた。

この土地は,上野市ε3408番田490㎡,同3406番田186㎡(いずれも,用途は道路)として,P3に換地されることになったが,同土地の評定は,それぞれ,24万5000円,9万3000円とされた。

(ウ) 上野市η940番2畑6.23㎡は本件換地区域内にある。

(エ) 当初換地計画に係る換地計画書と,第1変更換地計画に係る換地計画書とでは,換地交付基準地積が異なっているが,その理由は上記第2,4(被告の主張)(7)ア記載のとおりである。

カ 本件換地区についての換地処分に基づく清算(以下「換地清算」という。)三重県と本件土地改良区との間では,平成11年2月12日,本件換地区につき,土地改良法89条の2第11項(平成11年法律第160号による改正前のもの)の規定による清算金の徴収・支払がなされた。

キ 第2次改良区清算

本件土地改良区は,遅くとも平成13年12月ころから,第1次改良区清算と換地清算との差異をなくす趣旨で,新たな清算作業を行っている(以下「第2次改良区清算」という。)。

(2)  上記前提となる事実及び上記認定事実に基づき,本件換地計画及び本件換地処分の適法性につき検討する。

ア 競争入札等による売却の違法性

(ア) そもそも,何人にも換地しない土地を定めて第三者に売却しその代金を事業費用に充てることは,土地改良事業においては許容されていないと解される。なぜなら,①土地改良法の前身ともいうべき耕地整理法の30条2項では替費地としてこれが是認されていたが,土地改良法では替地費に関する規定はなく,また,②土地改良法は,従前地に対する換地としてではなく,対象地内の土地を第三者に取得させることができる場合としては,一定の条件の下で土地改良施設用地や道路用地等の公共用地として,土地改良区等が当該土地を取得する創設換地制度(同法53条の3[平成11年法律第160号による改正前のもの]),53条の3の2[平成13年法律第82号による改正前のもの])を規定しているにすぎないし,さらには,③農用地を第三者に処分することは,土地改良事業が農用地の造成及び集団化を目的とすることに反する上,農用地の処分についての農業委員会の許可等の規制の潜脱のおそれもあるからである。

(イ) 本件においても,被告自らなしたものではないにせよ,三重県から換地業務の委託を受けていた本件土地改良区が残地及び調整地を競争入札等により「売却」しているのであり,かかる行為が違法であることは明らかである。

(ウ) なお,本件受益者総会に三重県上野農林事務所土地改良部用地課長P5,同用地課P18が出席していること,平成6年3月ころに三重県上野農林事務所土地改良部用地課長P7が原告P1に対し競争入札について「売買は違法であるが,換地して増歩という扱いにすればいいのではないか。」との考えを述べたこと,平成7年8月30日の権利者会議において原告P1は「競争入札が違法である。」旨述べていることなどからすれば,本件事業主体である三重県においても,当初換地計画が定められた際には,上記競争入札等による「売却」について認識していたものと認められる。

イ 名義貸しの違法性

(ア) また,換地処分は,処分当時における従前地の権利者に対してなされなければならないのは当然であって,いわゆる名義貸しでなされた換地処分は違法であると解される。

(イ) 本件においては,β公民館の南側の上野市ε3513番雑種地333㎡について,競争入札もしくは任意売却により名義上はP4に対して換地配分されているが,①受益者総会におけるP4の説明(上記(1)ア(オ)),②別表2の記載内容(上記(1)イ(エ)),③同土地に関する依那具区の会計処理(上記(1)エ(ア)b),④P4作成の覚書(上記(1)エ(ア)b),⑤同土地は依那具区が使用していること(上記(1)オ(ア))などの事実に照らせば,実質的には本件事業の対象地区内に従前地を有しない依那具区に換地(ないしは売却)されたもの(いわゆる名義貸し)と認めるのが相当であり,かかる手法が違法であることは明らかである。

ウ P3への異種目換地配分の違法性

(ア) 換地計画ないし換地処分においては,合理的な理由もないのに特定の者に対し,故意に不利益あるいは特別の利益を与えるものとなってはならないという公平の原則を満たすことを要すると解される。

(イ) 本件においては,上野市へ「売却」された道路用地(上野市ε3408番田490㎡,同3406番田186㎡)については,上記(1)ウの売買契約の締結や当初換地計画においては上野市が機能交換により取得するものとされていたことなどの点にかんがみれば,P3への異種目換地と同人から上野市への売却という本件における処理も,これを全体的,実質的にみれば,共同減歩により上野市の道路用地が創設されたものと同視することができる。

しかるに,上野市が当該土地の売買代金として支払った金額(1961万7636円)は,当該土地の適正な価額を著しく上回る不当に高額な金額であるとは考え難いところ,本件換地計画(ただし,第1変更換地計画以降のもの)における当該土地の評定の額(合計33万8000円)はこれと著しくかけ離れた金額であるから,本件換地計画(ただし,第1変更換地計画以降のもの)は,実質的には共同減歩による地権者の不利益の下にP3に多額の利益を保持させる内容となっている。

また,機能交換から異種目換地へと換地計画の計画内容を変更した経緯に照らせば,同変更までには三重県も上記売買代金額を認識したものと認められる。

そうすると,仮に,P3に対する異種目換地という処理自体が許容され得るものだと考えたとしても,合理的理由もなく特定の者に多額の利益を与えるような内容となっている本件換地計画(ただし,第1変更換地計画以降のもの)は公平の原則に反し違法というほかはない。

なお,本件においては,第1次改良区清算により,上記売買代金は地権者に配分されているが,これは,土地改良法の規定による清算とは全く別個に,何らの法的規制も受けることなく,私的に行われたものにすぎず,被告自身も認めているように本件換地計画の内容に含まれているものということはできない。

エ 以上によると,本件換地計画には,競争入札等による「売却」を前提として換地配分がなされたという違法(上記ア),名義貸しがなされたという違法(上記イ),及び特定の者に多額の利益を与える内容の換地配分をしたという違法(上記ウ)があるというべきである。そして,換地計画は換地処分をなすに当たってのいわば予定図であるから,本件換地計画の違法は,そのまま本件換地処分の違法となるものということができる。

したがって,その余の点を判断するまでもなく,本件換地処分は違法である。

なお,本件換地処分がなされたのは平成10年7月であるところ,原告P1は,遅くとも平成6年ころから,上記競争入札等による「売却」について,本件事業の事業主体である三重県に,苦情ないし是正要求をしていたこと(甲36,原告P1本人),また,同原告は,本件換地計画が定められてからは,上記競争入札等による「売却」や上記道路用地の「売却代金」の処理の違法等を主張して異議申立てや,第1事件,第3事件の訴えを提起する等の方法により,本件換地計画の違法を主張してその是正を要求し続けていたこと,競争入札等による「売却」がなかった場合と比べ,原告P1は平均的な換地より109㎡少なく換地されていることになると計算することもできること(争いがない。),上記ウで述べたところからして本件換地計画における土地の評定につきかなりの疑問があることなどの事情に照らすと,上記競争入札等により「売却」された土地の地積や本件第2次改良区清算が進められていることなどを考慮しても,いわゆる事情判決(行政事件訴訟法31条1項)をすることが相当であるとはいえない。

よって,本件換地処分は,違法な処分として,取消しを免れない。

3  結論

以上によれば,原告P1の第4事件の請求は理由があるからこれを認容し,原告P2の訴え及び原告P1のその余の訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 後藤隆 裁判官 大竹貴)

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