津地方裁判所 昭和27年(行)5号 判決
原告 大岡角松
被告 三重県知事
一、主 文
「被告が原告に対し昭和二十六年第七八九号を以つてなしたる換地予定地の指定を取消す」との原告の請求はこれを棄却する。
爾余の原告の訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和二十六年第七八九号を以つてなしたる換地予定地の指定はこれを取消す。又は被告は原告に対する右換地予定地指定を桑名市京町千三百五十三番地及び千三百五十四番地に変更すべし。」との判決を求め、その請求の原因として原告は桑名市京町千三百五十二番地の一に間口四間奥行八間の宅地三十二坪八合(以下本件宅地と称する。その位置は別図記載の<二>に該当する。)を所有し右地上に約七坪半の店舗を建て原告の娘婿訴外須藤勇の名義を以つて菓子商を営んでいたところ昭和二十六年六月頃特別都市計画事業桑名復興土地区画整理施行者被告三重県知事青木理の名を以つて第七八九号の通知書により同町千三百五十一番地に該当する間口二間半奥行十間半の面積二十七坪のブロツク番号46符号22(別図記載の<三>の土地)に仮換地の指定を受けた。しかしながら右換地の指定は次の如き点よりして違法であり取消さるべきものである。即ち
原告所有の本件宅地は油町と京町通の西角に所在し魚町通の特別都市計画による二十五間道路竣工の今日においては東面は繁華なる京町と油町の角地に当り西面においては同じく京町と桑名市の幹線道路である魚町との角地となり営業上景勝の位置を占むることになり右場所を引続き占拠することは原告としてはまことに望ましきことである。しかるに原告の受けたる換地先は奥行こそ相当にあれ間口は僅か二間半という本件宅地に比して一間半を減じたる狭少のものである。しかもその位置は西は訴外伊藤島之助の住宅、東は一軒を隔てて信用組合桑名金庫の二階建洋館の大建築に挾まれ外見上貧弱なる場所にあり店舗を張り顧客の注意をひく場所を必要とする原告の如き営業をなすものにとりては本件宅地と新換地とを比較するときは甚だしく後者の状況低下し長年月の間に受くる原告の損害は多大のものである。
しかのみならず被告は本件宅地を強いて換地すべき理由なくそのまま原告の希望を尊重し得られないことはないのである。即ち本件宅地西側の訴外川瀬昌之助の所有地が魚町通の幅員二十五米の道路拡張のため全部収用せられ而もそれが道路拡張前の魚町通の角地にあつた関係上矢張り角地を与えねばならぬとの理由で拡張後においては原告の本件宅地が角地に当ることになるため右川瀬の換地として原告の本件宅地を指定したのであるが(但しこれは後に変更せられて他に換地せられ本件土地は緑地々帯にする計画に変更せられた模様である。)川瀬に対して本件宅地を換地しなければならない理由はない。蓋し川瀬の所有地はその西に訴外水谷錠一の所有地があり元はこれに挾まれていたのであるがその後川瀬がこれを買取り、始めて角地を占むることになつたもので右川瀬の所有地が角地を占むるに至つたのはごく最近のことである。これに反し原告は二十余年来本件宅地を所有していたのであるから換地指定に当つては右の事情を当然斟酌しなければならぬ筈である。然しこれは後に方針がかわり前叙川瀬の換地を更に換地し本件宅地は緑地々帯にするとのことであるがそれにしてもこれまた桑名市より見たる位置、又拡張せられる魚町の状況より見てその必要のないことは市民の等しく認めるところである。緑地々帯に指定したというのは他に魂胆があるのではないかとさえ推察せられるのである。しかして川瀬の所有地の換地にあたり被告の主張した理由を正当とするならば矢張り原告の本件宅地の換地先を油町の道路を距てた現在訴外伊藤島之助の所有地(その位置は別図記載の<五>に当る)を他に換地してその跡を原告に換地せねばならぬところである。しかるに被告は右伊藤の所有地はそのままにしておいて前叙の如く原告に対し菓子商を営むに不便なる場所に地積を減歩してその換地の指定をなしたのである。
なお当初原告の本件宅地が川瀬に換地せらるるに当つては情実あるが如き風聞があるがそれは別としても原告に対する換地指定は叙上の如く甚だしく妥当を欠き憲法第二十二条に悖り従来の判例の趣旨にも反するものといわなければならない。
叙上の如き理由により被告のなした換地予定地の指定処分は違法であるから右指定は取消されるべきものであり、しからざれば被告は本件宅地の換地予定地を京町千三百五十三番地及び同町千三百五十四番地(その位置は別紙図面記載の<七>に該当する)に変更すべきものである。
仍つて原告は被告の叙上換地処分につき被告を経由して昭和二十六年六月六日建設大臣に対し訴願をしたのであるが爾来今日に至る迄何等の裁決がないので茲に行政事件訴訟特例法第二条に基き請求趣旨の如き判決を求めるため本訴に及んだのであると陳述した。(立証省略)
被告指定代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張事実中被告が原告所有にかかる本件宅地に対し原告主張の如き換地予定地の指定をしたこと(但しその指定通知をなしたのは昭和二十六年六月ではなく昭和二十三年九月であると主張する)原告が昭和二十六年六月六日右処分に対し被告を経由して建設大臣に訴願したが未だ右に対する裁決のないことは認めるがその他の事実は争う。原告は本件宅地上に建物建築の許可を申請してきたが当時の計画では道路拡張用地になつていたので許可しなかつたところ原告は無許可のまま一夜のうちに同地上に建物を建築しその娘婿訴外須藤勇に居住させたため被告は昭和二十六年十二月二十六日附計第五一二号を以つて都市計画法施行令第十四条により右居住者須藤勇に対し原状回復命令を交付したのである。しかして都市計画法第十二条並びに第十三条および特別都市計画法第五条により土地区画整理の施行により道路、広場、公園、緑地等公共の用に供すべきものとなつた土地は都市計画法第十五条ノ三および都市計画法施行令第二十条ノ四により無償で国又は公共団体の所有地に編入し、その反面耕地整理法第十一条第一項により廃道敷地のような不用になつた土地はその地区内の土地所有者にこれを交付するのであるが換地は原則として耕地整理法第三十条第一項によるのであり右に述べたように整理施行により道路等公共用地に充当し国又は地方公共団体の所有地に編入せられる土地の面積は廃道敷地その他不用となる土地の面積より大となるから地区内の各土地所有者の換地面積は従前の土地の面積よりそれぞれ減少した地積(権利地積)を基準とせざるを得ないのである。ところで右の減少する率即ち減歩率は桑名復興土地区画整理に於ては平均二割二分八厘であるから原告従前の土地三十二坪八合に対する権利地積は三十坪未満となるのであるが本件宅地は特別都市計画法施行令第十三条による丙地区内の宅地であるから同地区内においては百平方米(三十坪)未満は過小宅地となる。従つて権利地積三十坪未満である本件宅地は特別都市計画法第七条第一項により所謂過少宅地として換地を交付せず換価処分をしても差支えないのであるが被告は原告に対し前叙の如き換地指定をしてむしろ原告を救済したことになるのであるから原告としては本件宅地より低位の場所に換地予定地の指定を受けたとしてもこれに対して異議を述べ得ないのである。しかのみならず原告に対し前叙の如き換地予定地の指定をなすに至つたのは原告の希望する本件宅地(別図記載の<二>の位置に当る)は魚棚道路拡張後においては角地となるが訴外川瀬昌之助所有の土地一、三五三番地五十二坪六合一勺及び一、三五四番地六十七坪九勺合計百十九坪七合は従前においては角地であつたため右宅地の換地として道路拡張後においては角地に当る本件宅地を交付しなければならなかつたのである。もつともその後において右訴外人の換地予定地の形状不良、減歩過大のため同訴外人は別図記載の<六>の位置に権利地積約九十坪を希望したのであるが右位置の土地は桑名市の所有地であるため同市当局と折衝して右<二>の土地と交換することとなつたが更に変更して右訴外人に対する換地の減歩過大の分を右<六>に換地し同人に対する換地としては右<六><二>の二ケ所において約九十坪の換地予定地を指定することとなつている。叙上の如く原告に対する換地としてその希望の右<二>の土地を交付することはできない事情にあるのである。しかも右川瀬及び訴外伊藤島之助はいずれもその所有地に自己所有の建物を有しその家族が居住しているのであるが原告は他の場所に住居を構え本件宅地はその娘婿須藤勇に貸与しているばかりでなく右伊藤島之助の建物は許可済でありその建坪も大であるが原告の本件宅地上の建物は無許可建築であり且つ右伊藤の建物に比しその建坪も小さいのである。
これを要するに前叙の如く原告に対しては過少宅地として換地の交付をしなくてもいいのであるが叙上の諸点を勘案してこれを救済する意味で前叙の如き換地予定地を指定したものであつて原告主張の如き違法の点はないのである。原告は本件土地を二十余年来所有すると主張するが右土地が原告の所有として登記せられたのは昭和二十三年二月十日であるのに前叙川瀬所有の一、三五三番地の土地は昭和二十一年四月十二日に一、三五四番地の土地は昭和二十二年六月十一日にそれぞれ所有権取得登記がなされているのである。仮りに原告主張の如く原告の本件土地の取得が右川瀬の登記より以前であつたとしても川瀬は換地設計前に右一、三五四番地の土地の取得登記をしているのであるから右所有権取得の先後に関係なく角地としてこれが換地予定地の位置を斟酌せられるべきである。
原告はその換地予定地が信用組合桑名金庫の建築物等外観の比較によつてその営業価値が減少すると主張するがその主張の如くであるとしてもこれが補償は工事完了後において精算すれば事足りるのであつてこれがため被告の換地指定処分が違法となるわけではない。
又原告は被告の右処分は憲法第二十二条に悖ると主張するが被告の処分は公共の福祉のため都市計画法並びに特別都市計画法に基いてなしたものであつてこれがためたとえ長年居住していた土地といえども原地換地を交付しない例は枚挙に遑がないのであり、ましてや原告は本件宅地に居住していなかつたのであるから右原告の主張は失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
先ず換地予定地指定処分の取消を求める原告の請求につき考えてみるに原告本人訊問の結果と本件口頭弁論の全趣旨を綜合すると被告が昭和二十三年九月頃原告に対し第七八九号の通知書によつて原告所有の本件宅地の換地予定地として間口二間半奥行十間半面積二十七坪ブロツク番号46符号22の土地(別図記載<三>の土地、もつともその地番については原被告の主張が牴触しているが地位面積において一致している以上右点につき深く探究する必要をみない)を指定したことが認められ、原告は右指定を不服として昭和二十六年六月六日に被告を経由して建設大臣に訴願を提起したが未だにその裁決がないことは当事者間に争がない。
そこで被告がなした右換地予定地指定処分の適否について判断するに成立に争のない甲第一号証の記載に証人村井茂理平、川瀬昌之助の各証言検証の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると原告所有の本件宅地の地積は三十二坪八合であるが桑名市特別都市計画の土地区画整理においては換地の地積の基準(権利地積)は従前の宅地の地積から二割一歩宛頭割に控除したものを基準とするのが実際上の取扱いであり本件宅地が右に所謂権利地積は三十坪未満となること、しかして右土地は特別都市計画法施行令第十三条にいわゆる丙地区内の宅地であるからその権利地積においては過少宅地として取扱われるものであること、これに反し訴外川瀬昌之助は京町一、三五三番地に五十二坪六合一勺(別図記載<一>に当る)及び一、三五四番地に六十七坪九勺(別図記載<四>に当る)合計百十九坪七合の宅地を所有しているのであるが右宅地は土地区画整理によつて道路となる結果右土地に対し換地を交付しなければならないのであるが右宅地が従前においては角地に当つていた関係上同地に対する換地としては整理後においても角地に当る部分を交付するのが相当であるところ換地として交付し得る角地は京町油町附近では本件宅地(別図記載<二>の位置に当る)以外に適当な場所がなかつたため右川瀬の所有地に対し過大減歩してその換地として本件宅地を指定したものであり、又訴外伊藤島之助所有の一、三五一番地の土地(別図<五>の位置に当る)は本件宅地の如くその権利地積においても過少宅地ではなく原告と異り右地上に自己所有の建物を有し家族が居住しているのであるからその場所に原告の本件宅地の換地を指定せんがため敢てこれを他に換地し同訴外人所有の建物をわざわざその換地先に移転させることは隠当でないと考えられたので右宅地はそのままにして同地に対しては別に換地の予定地の指定をしなかつたものであること、しかして原告は本件宅地以外に住居を構えているのであるが本件宅地上に店舗を張り菓子商を営んでいた原告の娘婿訴外須藤勇のこと等を考慮してこれに換地を交付することとしたが京町油町附近には本件宅地以外に適当なる宅地がなかつたため当初若干営業上不利な位置ではあるが前叙伊藤島之助の所有地の裏に換地予定地の指定をしたところ原告より予定地変更の申出でがあり本件換地予定地が桑名市の保有地であつたため原告の希望を斟酌して同地に換地の指定をなしたものであることが認められる。
叙上認定の諸事情を併せ考えると被告が本件宅地の換地予定地を別図記載の<二>或は<五>の位置に指定せず<三>の部分に指定したのは相当であつて都市計画において準用すべき耕地整理法第三十条第一項に何等違反している点はないものといわなければならない。原告は本件換地予定地は従前の土地に比し菓子商を営む点よりみれば著しくその等位が低下するものと主張する。なるほど換地予定地が従前の本件宅地に比し菓子商を営む上からは若干不利な土地であることは証人須藤勇原告本人の各供述より窺われるところであるが検証の結果及び弁論の全趣旨によつて明かな如く本件換地予定地は角地ではないがその位置は本件宅地よりは僅かに八間新拡張道路よりは約十間隔つているにすぎず且つ幅員三、三間の京町道路に南面し右道路を隔てその向い側には牛肉店、履物店があり右土地で菓子商を営むのにさして支障を来すが如き場所ではないから換地予定地が本件宅地の従前において占めていた地形位置に比し菓子商を営むについて著しく低位の場所であるとは認められない(此の点に関する証人林長蔵の供述部分は措信しない)。しかして戦災都市を復興して公共の福利を増進するためになされる都市計画事業によつて私人が多少の不利益不便を蒙ることは已むを得ないものであり本件換地予定地が従前の土地に比し若干低位の場所であるとしてもこれを目して憲法第二十二条に反するものということはできず原告の主張はその理由がない。
果して然らば被告の本件換地予定地指定処分は正当でありこれが取消を求める原告の請求はその理由なく失当であるといわなければならないからこれを棄却する。
次に原告は被告に対し本件換地予定地を桑名市京町一、三五三番地及び同町一、三五四番地(別紙図面<七>に該当する部分)の土地に変更すべきことを訴求するが右は行政庁に対し積極的に行政処分をなすことを求めるものに外ならず斯る訴は実質においては裁判所に行政処分を求めると同様の結果となるから特別の規定なき限りかかる訴は許容されないものというべく右特別の規定なき本件の訴は不適法として却下すべきものである。
仍つて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 木戸和喜男 中瀬古信由 家村繁治)
図<省略>