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津地方裁判所 昭和43年(ワ)136号 判決 1974年6月06日

伊勢市常磐町一二六番地

原告 山村ふさ

<ほか三八名>

右三九名訴訟代理人弁護士 戸田謙

同 伊藤廣保

被告 三重県

右代表者知事 田川亮三

右訴訟代理人弁護士 俵正市

同 重宗次郎

同 弥吉弥

同 苅野年彦

主文

一  被告は、原告らに対し、別紙認容額一覧表の「合計額」欄記載の金員および内同表「時間外勤務手当金」欄記載の金員に対する昭和四三年四月一九日から、内同表「付加金」欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

1  被告は、原告らに対し、別紙債権目録記載の金員およびこれに対する昭和四三年四月一九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告らは、いずれも別紙原告目録「勤務校」欄記載の各三重県立学校に勤務し、地方自治法二〇四条、公立学校職員の給与等に関する条例(昭和三〇年三月一七日三重県条例第一〇号、以下単に給与条例という。)に規定する給与を被告から受けている教職員であり、昭和四二年度における給与の月額は、各原告の別紙超過勤務手当明細表(以下単に「明細表」という。)「本俸又は本俸と調整額の合計」欄記載のとおりである。

(二)  原告らは、昭和四二年度において明細表記載の年月日にそれぞれ学校長の指示により、正規の勤務時間外である同表記載の超勤開始時刻から超勤終了時刻まで同表「勤務内容」欄記載の勤務をなし、時間外勤務を行った。なお、代休ありと記載した分については、同日の勤務に対して代休が与えられている。

そこで、右時間外勤務につき労働基準法三七条一項、給与条例一四条、一八条に基づき時間外勤務手当を計算すると、明細表「超勤額」欄記載のとおりとなる。

(三)  しかるに、被告は、右時間外勤務手当を支払っていないから、労働基準法三七条に違反するものである。

(四)  よって、原告らは、被告に対し右時間外勤務手当および労働基準法一一四条、三七条に基づく右手当と同額の付加金とを合算した別紙債権目録記載の各金員およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年四月一九日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)の事実中、原告らがその主張の学校に勤務し、地方自治法二〇四条および給与条例に規定する給与を被告から受けている教職員であることおよび給与の月額が原告小沢利明の昭和四二年一〇月分ないし一二月分を除き原告ら主張のとおりであることは認める。原告小沢利明の給与の月額は五万二、三〇〇円である。

(二)  同(二)の事実中、別紙超過勤務手当明細表記載の年月日における同表「勤務内容」欄記載の行事の有無、原告らの参加の有無ならびにその時間(行事参加の開始時刻および終了時刻)についての認否は、同表「被告の認否」欄記載のとおりである。原告ら主張の時間外勤務につき学校長が指示したことは否認する。原告福森明允主張の時間のうち一七時二〇分から一七時五〇分までは正規の勤務時間内であり、原告佐藤大雄主張の昭和四二年一一月五日については同月一〇日に代休が、原告木下篤司主張の同月三日については同月六日に特別休暇が、原告菅野良孝の同月四日については同月一四日代休が、原告中條敏主張の同月四日の分については代休が、原告滝川弘主張の同月三日には同月七日に代休がそれぞれ与えられ、原告酒井啓主張の勤務時間の内二一時から二二時までは定時制高校のため勤務時間内である。なお、祝日は時間外勤務手当請求の対象とならない日である。

(三)  同(三)の事実中、被告が原告らに対し時間外勤務手当を支払っていないことは認めるが、その余は争う。

三  被告の主張

(一)  現行法上、地方公務員たる教員に対しては、時間外勤務手当を支給しないという原則がとられているので、被告にその支払義務はない。即ち、

1 市町村立学校職員給与負担法(昭和二三年七月一〇日法律一三五号)の制定に際し、教職員の給与額を一般職員のそれより一割程度増額し、この中に時間外勤務手当を含ませて別個に同手当を支給しないこととしたので、同手当は同法に列挙した諸手当から除外されている。

2 義務教育費国庫負担法(昭和二七年八月八日法律三〇三号)にも時間外勤務手当が規定されていないほか、地方交付税法の基準財政需要額の算定基準の中に教職員に対する時間外勤務手当は計上されておらず、国の予算および財政計画も教職員に対し右手当を支給しない建前で計上算定されている。

3 前記市町村立学校職員給与負担法の一部を改正する法律(昭和三二年六月一日法律一四七号)において、同法一条所定の都道府県の負担する給与として、事務職員に対し時間外勤務手当が新たに加えられたが、右改正法の国会審議において、教職員についてはその給与額を一般職員のそれより一割程度増額されているので、教職員に対し時間外勤務手当を支給しないことを当然のこととしていた。そして、同法一条に列挙した諸手当のうち時間外勤務手当についてのみ「事務職員に係るものとする」と規定されているところからも、同規定は、教職員に対しては時間外勤務手当を支給しないことを宣言したものと解すべきである。

4 原告ら県立の高等学校職員に適用のある前記給与条例一八条は、時間外勤務手当の支給を定めているが、同条例は前記市町村立学校職員給与負担法等に基づいて制定されたものであり、同法一条と同じく、右時間外勤務手当は「事務職員に係るものとする」と解釈するのが正当である。

以上の現行法上の措置は実質的にみても妥当である。即ち、教職員の主たる職務は学習指導要領に従い生徒の教育を行うものであって、労働時間をもってこれをはかることが困難な特殊性を有し、又春、夏、冬の休暇中は毎日定刻には出校しないで自宅で時を過したり、平日においても授業が終れば勤務時間中に退出することが少なくないのが勤務の実態であるからである。

(二)  仮に、現行法上、教職員に時間外勤務手当が支給せらるべきものとしても、本件の各場合はいずれも時間外勤務に該当しない。即ち、

1 本件の各時間外勤務をするについて校長の明示または黙示の命令がない。

2 前記給与条例三四条、公立学校職員の勤務時間および休暇に関する規則(昭和三一年三重県教育委員会規則人事委員会規則第三号、以下、単に勤務時間等に関する規則という。)二条によれば、勤務時間は一週間につき四四時間とし、その割り振りは、原則として昼間に授業を行う学校の職員については午前八時三〇分から午後五時一五分(土曜日は午後零時三〇分)までとし、夜間に授業を行う学校の職員については、午後零時一五分(土曜日は午後五時)から午後九時までとされているが、校長は学校運営上の必要がある場合には、右とは別の勤務時間の割り振りをし、他の日に割り振られた勤務時間の繰り替えをし、または勤務を要しない日の繰り替えをすることができるとされており、右は労働基準法三二条二項に規定する変型労働時間制を定めたものと解される。従って、校長の命令により正規の勤務時間外の勤務をした場合でも、その時間外勤務分については、教職員が通常勤務終了時刻である午後五時一五分まで在校せず、授業時間終了後間もなく帰宅することが許されている実情に鑑みて、この早退時間分や夏期休暇中の自宅待機分との間に勤務時間の割り振りの変更または休日の振り替え等の措置が明示または黙示になされていると解するのが妥当であり、従って、右通常時間外の勤務はいわゆる時間外勤務に該当しない。

3 時間外勤務に該当しないことを類型別に述べれば、次のとおりとなる。

(1) 遠足および修学旅行の付添について

イ いずれも遠足計画、修学旅行計画作成によって正規の勤務開始、終了時間を超えて勤務に就くについて、校長が前記(二)の2の勤務時間の割り振りを変更している。休日の場合は前記勤務時間および休暇に関する規則二条五項に基づいて休日の繰り替えをして代休を与えている。

ロ 仮に、右が認められないとしても、遠足および修学旅行の付添勤務は、遠足、旅行スケジュールの円滑進行、生徒の健康、安全の管理、集団生活のルールおよび公衆道徳の遵守等の面から生徒を監視するものの、授業の場合とは異なり、高校生には主体性があり、旅行中の事故発生の危険性も少ないから、専ら高校生の自主的活動および自主的規制を尊重しており、特に車中や旅館内においては、大部分の時間を休養しているか生徒と自由交歓しているのが常であって、手待時間が多く、付添教師の身体の疲労または精神的緊張度は極めて少なく、労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」に該当し、かつ客観的に同号の許可基準を充足するから同法三二条、三三条、三七条の適用は除外され、超過勤務手当請求権は発生しない。

ハ また、校長が原告らに対し、修学旅行中のいわゆる不寝番を命じたことはなく、原告らが不寝番をしたとすれば、それは原告らが任意にしたにすぎない。

(2) 対外試合およびクラブ合宿の引率等について

イ 対外試合への参加は、生徒の一部に限られているため、全学生の参加を建前とした学校行事や正規のクラブ活動とは異なる。従って、対外試合への引率は、被告県とは別個の主催団体から教師が個人として委嘱された業務であり、これに対して、原告らが自発的意思に基づき任意に応じてなした行為であるから、教師の職務範囲に属するものとはいえない。クラブが主催する合宿や対外試合についても、正規のクラブ活動は教師の勤務条件改善、生徒の過剰疲労防止、学習との健全な両立の見地から午後五時までに限られるべきであるから、午後五時以降や休日にわたる合宿、対外試合は、正規のクラブ活動に含まれないクラブの任意的活動であり、従って、これに対する引率も教師の職務範囲に属しない。そして、いずれの場合も右引率指導を校長が命令したことはない。

ロ 仮に、右引率が原告らの職務範囲内のものと認められるとしても、いずれも校長が前記(二)の2の勤務時間の割り振りの変更、休日の振り替えをしている。

ハ さらに、右が認められないとしても、右引率は、前記修学旅行の場合と同様に、いずれも教師の本務に付随する職務であって、労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」に該当する。

(3) 文化祭、運動会、後夜祭およびそれらの準備等について

イ 文化祭、運動会、体育祭等については、校長が事前に前記条例三四条四項、前記規則二条五項一号に基づき学校行事の必要性から休日の振り替えをしたものであり、いずれの場合も代休日を与えている。従って、右勤務はいずれも休日労働に該当しない。

ロ 運動会準備は原告らが任意に正規の勤務時間を超えてその業務を行ったにすぎないのであり、また通常生徒が手助けしており、手当を対価とする時間外勤務とは到底評価しえない。

ハ 仮に、右が認められないとしても、校長が右勤務について前記(二)の2の勤務時間の割り振りの変更をしているので時間外勤務に該当しない。後夜祭についても同様である。

(4) 対外試合の審判、技術検定委員について

右はいずれも被告とは別個の団体から対外試合、技術検定の運営のために委任された業務であって、教師の職務範囲に含まれない。

(5) 職員会議出席、家庭訪問等について

イ 校長は、正規の勤務時間を超過して会議に出席したり、正規の勤務時間外に家庭訪問その他父兄と面接すべきことを原告らに命じたことはなく、原告らが任意に行ったものである。

ロ 仮に右が認められないとしても、校長は前記(二)の2の勤務時間の割り振りの変更をしている。

(三)  仮に、原告ら主張の時間外勤務の各事実が認められるとしても、次に述べるように、信義則に反し、権利濫用となるから、時間外勤務手当請求権は発生しないか、もしくは発生してもその行使は許されない。即ち、

1 原告ら主張の時間外勤務に対しては、殆んどその都度所属校所定の旅費規程に基づき旅費等の実費以外に一定基準の日当が支給され、原告らはこれを時間外勤務手当の対価として承認しており、同手当は請求しないか、あるいは支払わない旨の事実たる慣行が存在していた。しかるに、原告らが本訴において時間外勤務手当を請求するのは、原告ら教員の従来の右態度に対する被告の確定的な信頼を裏切るものである。

2 さらに、原告ら教員に対しては、前述のように、一般公務員よりも給与面で優遇しているので、これにより時間外勤務手当支給の期待は満されている。

(四)  労働基準法一一四条に基づく付加金の支払義務は、裁判所がその支払を命ずることによって初めて発生するのであるから、その履行遅滞の時期も、右命令以後と解すべきである。

四  被告の主張に対する原告らの反論

(一)  原告ら主張の勤務は、いずれも学校教育法施行規則、高等学校学習指導要領に定められている学校の教科活動、特別教育活動、学校行事の中にふくまれ、学校の年度初めに原告らの校務分掌として定められているものである。そして、校長はさらに右各勤務について事前に命令したか、少なくとも出張命令簿等に押印して承認しており、いずれも校長の明示または黙示の命令に基づきなされたことは明白である。

(二)  被告主張の労働基準法三二条二項の変型労働時間制を適法に採用するためには、勤務時間の割り振り自体によって予め一日の勤務時間である八時間、一週間の勤務時間である四四時間を超えて勤務させる日ないし週が条例等によって特定されていなければならず、その都度の校長の指示による勤務時間の変更は、たとえその指示が予めなされたとしても、初めから一日八時間労働の原則を排除しようとするもので違法である。従って、被告主張の給与条例および勤務時間規則は適法な変型労働時間制を定めたものとはいえない。また、休日の振替についても、予め条例等によって振替の具体的事由と振替える日とを定め、週休制をそこなわない範囲でなされなければならないから、本件の場合、適法な休日の振替はなされていない。もともと、変型労働時間制は常態として八時間労働制を採りえないような事業に適用されるべきであって、教員の勤務時間に適用の余地がない。

(三)  労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」とは、通常の勤務が常態として断続的であるものおよび同法施行規則二三条に規定している宿直又は日直の勤務についてであり、教師の通常の勤務および遠足、修学旅行等の付添勤務がこれに該らないことは明らかである。右付添勤務の内容は、生徒に対する教育効果の達成、危険の予防等重大な責任を負担し、日常の勤務と比較にならないほどの不断の緊張と疲労を伴うものであり、被告の主張するような性質のものではないからである。

(四)  不寝番については、修学旅行中の生徒の安全確保のために不可欠なものであり、従って、毎年の旅行に例外なく実施されており、右旅行計画立案の段階で明示的ないしは黙示的に確認されているのであって、校長の命令に基づかない任意のものとはいえない。

(五)  対外試合への参加はクラブ活動の一環として実施され、多くの場合、年度初めの職員会議の議を経て参加決定がなされ、そうでない他校との練習試合等についても、事前に校長の承認を得てこれを実施している。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告らが被告三重県の設置した別紙目録「勤務校」欄記載の各学校に勤務する教職員であり、地方自治法二〇四条、公立学校職員の給与等に関する条例(昭和三〇年三月一七日三重県条例第一〇号)に規定する給与を被告から受けていることは当事者間に争いがない。

二  そこでまず、原告ら主張の行事の有無、原告ら参加の有無ならびにその時間(行事参加の開始時刻および終了時刻)について判断する。

(一)  別紙超過勤務手当明細表「被告の認否」欄中、行事の有無、参加の有無、時間についてすべて認と記載した分(1の(2)、5の(1)ないし(3)、12の(1)、14の(1)、(2)、15の(1)、(2)、(4)、23の(5)ないし(7)、(13)、(14)、27の(2)、37の(1)ないし(7))については、同表記載の年月日に同「勤務内容」欄記載の行事が行われ、同表記載の原告がその主張の時間これに参加したことは当事者間に争いがない。

(二)  同「被告の認否」欄中、行事の有無、参加の有無についてのみ認と記載した分(1の(1)、2の(1)、3の(1)ないし(6)、4の(1)ないし(6)、6の(1)ないし(6)、7の(1)ないし(5)、(7)、(8)、8の(1)ないし(5)、9の(1)ないし(6)、10の(1)、11の(1)、(2)、13の(1)ないし(6)、15の(5)ないし(7)、(9)、(10)、16の(1)、17の(1)ないし(3)、18の(1)、(2)、19の(1)ないし(3)、20の(1)ないし(6)、21の(1)ないし(5)、22の(1)ないし(12)、23の(1)ないし(4)、(8)ないし(12)、24の(1)、(3)ないし(16)、(18)、(19)、(21)、(22)、25の(1)ないし(15)、26の(1)ないし(8)、27の(1)、(3)、28の(1)ないし(24)、(26)、29の(1)、(2)、30の(1)ないし(7)、31の(1)ないし(16)、32の(1)ないし(5)、(7)、33の(1)ないし(13)、34の(1)ないし(9)、35の(1)ないし(9)、36の(1)ないし(7)、38の(1)ないし(6)、39の(1)ないし(8))については、同「勤務内容」欄記載の行事が行われ、同表記載の原告がこれに参加したことは当事者間に争いがなく、右参加従事した時間は、≪証拠省略≫によりいずれも明細表各年月日の「超勤開始時刻」欄記載の時刻から「超勤終了時刻」欄記載の時刻までであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。次に、7の(6)、(9)につき検討するに、原告小西旭が昭和四二年八月一二日および同年一一月二六日高体連主催の軟式野球大会の審判をしたことは当事者間に争いがなく、右審判のほかに試合参加の生徒の付添をしたことを認めるに足りる証拠はないけれども、≪証拠省略≫によれば、同原告は昭和四二年八月一二日午後零時高体連主催の軟式野球の審判のため宇治山田高校に行き、同日午後五時試合が終了しグランド整備を終えるまで同校に残っていたこと、同年一一月二六日午前七時桑名高校で開催された高体連主催の軟式野球の審判のため宇治山田駅を出発し、同日午後七時試合が終了しグランド整備を終えるまで同校に残っていたことが認められるので、結局同原告は明細表7の(6)、(9)の「超勤開始時刻」欄記載の時刻から「超勤終了時刻」欄記載の時刻まで審判のため右行事に参加従事していたということができる。なお、8の(3)の内原告木下篤司の零時から五時まで(原告木下篤司の昭和四二年一一月一日の分)については原告木下がその間勤務していたことを確認するに足る証拠がない。

(三)  同「被告の認否」欄中、行事の有無についてのみ認と記載した分(24の(17))については、同「勤務内容」欄記載の行事(運動会準備)が行われたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫により、同原告は昭和四二年一〇月七日午後一時五分から同日午後七時五分までグランド整備等翌日行われる運動会の準備をしたことが認められる。

(四)  同「被告の認否」欄中、行事の有無について不知あるいは否認と記載した分(15の(3)、(8)、24の(2)、(20)、28の(25)、32の(6))について

1  (15の(3)) について ≪証拠省略≫により、原告大市栄夫は昭和四二年四月二〇日午後五時一〇分から同日午後六時二〇分まで生徒指導、ホームルーム運営委員会にクラス担任として出席したことが認められる。

2  (15の(8)) について ≪証拠省略≫によると、原告大市栄夫は昭和四二年一〇月一九日午後五時一〇分から同日午後五時三五分まで生徒指導部の主催で開催された全学年のホームルーム担任者全員の担任会議にクラス担任として出席したことが認められる。

3  (24の(2)) について ≪証拠省略≫によれば、原告伊豆晃は昭和四二年五月一四日午前七時、伊勢市の県立体育館で行われる三重県高校バドミントン選手権大会兼全国大会県予選に出場する生徒を集合させ、同生徒を引率して右大会に参加し、同日午後五時右大会が終了したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

4  (24の(20)) について ≪証拠省略≫によれば、原告伊豆晃は昭和四二年一一月二六日午前七時津市の県立体育館で行われる三重県バドミントン選手権大会に出場する生徒を集合させ、同選手を引率して右大会に参加し、同日午後五時右大会が終了したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

5  (28の(25)) について ≪証拠省略≫によると、原告小沢利明は昭和四二年一一月二六日午前八時一五分三重県高校庭球新人大会に出場する生徒を集合させ、同生徒を引率して右大会に参加し、同日午後五時同生徒を解散させたことが認められる。

6  (32の(6)) について 昭和四二年一一月一九日三重県サッカー新人大会が開催され、原告岡島久司がこれに出場する生徒を引率して右大会に参加したことは、これに副う≪証拠省略≫は≪証拠省略≫に照らし直ちに信用できず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

三  次に、前記給与条例三四条および前記勤務時間等に関する規則二条によれば、一週間四四時間の勤務時間の割り振りは、昼間に授業を行う学校の職員については、午前八時三〇分から午後五時一五分(土曜日は午後零時三〇分)までとし、夜間に授業を行う学校の職員については午後零時一五分(土曜日は午後五時)から午後九時までとする、但し、校長はその勤務の態様および内容に応じこれを別に割り振ることができる、日曜日は勤務を要しない日とする、但し、校長は学校運営上必要がある場合は、他の日と繰り替えることができると定められており、≪証拠省略≫によれば、三重県立伊勢実業高等学校は定時制高校であり、同校(明細表7)における勤務時間は午後零時五五分から午後九時まで、≪証拠省略≫によれば、三重県立久居農林高等学校(同15)における勤務の終了時間は午後五時一〇分、≪証拠省略≫によれば、三重県立養護学校(同18)における勤務の終了時刻は午後五時二〇分、≪証拠省略≫によれば、三重県立盲学校(同19)における勤務時間は午前八時一〇分から午後四時五五分まで、≪証拠省略≫によれば、三重県立飯南高等学校(同23)における勤務時間は午前八時四〇分から午後五時二〇分まで、≪証拠省略≫によると、松阪高等学校(同24)における勤務の終了時刻は午後五時五分まで、≪証拠省略≫によると、三重県立宇治山田高等学校(同1)における勤務の終了時刻は午後五時一〇分、三重県立水産高等学校(同5)における勤務の終了時刻は午後四時五五分、三重県立白子高等学校(同13)における勤務時間は午前八時二五分から午後五時一〇分まで、三重県立宮川高等学校荻原分校(同26)における勤務時間は午前八時一五分から午後五時まで、三重県立尾鷲高等学校(同37)における勤務の終了時刻は午後五時であることがそれぞれ認められ(但し、いずれも土曜日は除く)、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はなく、以上の学校に限って前記規則の定めと若干異った勤務時間の割り振りをしているものというべきである。従って、ほかに勤務時間の割り振りの変更が認められない限り、前段認定の行事に参加従事した時間(但し、祝日は除く)はいずれも正規の勤務時間外であるということができる。

なお、≪証拠省略≫によると、同原告勤務の学校は定時制高校であることが認められ、≪証拠省略≫によると、原告吉村英夫勤務の学校は定時制高校であること、右両名のほか原告小西旭を除くその余の原告らは全日制の学校勤務であることが認められ、前記認定の勤務時間を除くその余の原告らの勤務時間は特段の事情が認められない本件においては、前記勤務時間等に関する規則所定の勤務時間と認むべきである。

被告は、原告福森明允主張の勤務時間中、午後五時二〇分から同五時五〇分までは正規の勤務時間であり、また原告酒井啓主張の勤務時間中、午後九時から同二二時までは勤務時間ある旨主張するけれども、前記認定を覆し、これを確認するに足る証拠はない。

四  ところで、被告は、現行法上地方公務員たる教員に対しては時間外勤務手当を支給しないという原則がとられていると主張するので、まずこの点について判断する。

市町村立学校職員給与負担法および義務教育費国庫負担法は、教職員に対する時間外勤務手当につき何らの規定をも設けておらず、市町村立学校職員給与負担法一条は、同条に列挙された諸手当のうち時間外勤務手当に限って「事務職員に係るものとする」と規定しているけれども、右各法律はいずれも規定から明らかなように、公立の義務教育諸学校の経費あるいは市町村立の小学校等の職員の給与の負担者を定めているにすぎないものであって、教職員の時間外勤務手当請求権の有無については何ら規定していないし、また、教職員の給与額が被告主張のように一般職員の給与よりも増額されているとしても、右措置が時間外勤務手当を支給しないことのみかえりであることが法令上明確にされているわけではなく、教職員の職務は、職務の性質上機械的に勤務時間でもって計りがたい面を有することは否定できないにしても、教職員といえども無定量の職務専念義務を負うものではないし、教職員が現実にした時間外勤務の時間を明確にすることが不可能ではないので、教職員の右職務の特殊性を理由に、直ちに時間外勤務手当請求権を否定しなければならないものではない。従って、たとえ前記法律が教職員に時間外勤務手当請求権が存在しないことを前提に立法され、あるいは地方交付税法の基準財政需要額の算定基準の中に教職員に対する時間外勤務手当が計上されておらず、国の予算および財政計画にも右手当を支給しない建前で計上算定されているとしても、地方公務員法上教職員に対しても労働基準法三七条が適用されることとされている以上、教職員の時間外勤務手当請求権をを否定することはできない。従って、また給与条例一八条に規定する時間外勤務手当についても事務職員に限ると解釈することはできない。

五  そこで、原告らが前記認定の明細表記載の日時に同「勤務内容」欄記載の行事に参加したことが原告ら教職員の職務の範囲に属し、校長の明示又は黙示の命令に基づくもであるか否かについて検討する。

(一)  遠足および修学旅行の付添、運動会、体育祭、文化祭について

学校教育法施行規則五七条、五七条の二の規定に≪証拠省略≫を合わせ考えると、右掲記の原告ら主張の行事は各教科、科目等とあいまって高等学校教育の目標を達成するため教育活動の一部として学校が年間を通ずる計画のもとに実施するものであることが認められ、右事実に徴し、特段の事情のない限り、同行事に参加することは教師の職務であるとともに校長の命令に基づくものといわなければならない。

1  ≪証拠省略≫によれば、原告山村ふさの付添った昭和四二年一一月一一日の遠足は計画どおり午前七時三〇分集合、午後七時一〇分解散になったものであることが認められ、右事実に前記五の冒頭の認定事実を合わせ考えると、右は校長が正規の勤務時間よりも早く、あるいは超過して右勤務に就くことを命じたものというべきである。

2  ≪証拠省略≫を総合すると、右原告宮崎、同佐藤、同木下、同菅野、同中條、同堀江、同林、同西村、同玉木、同滝川、同西口、同酒井らのいずれの場合においても、修学旅行は予め学校において行先地、日程、参加人員、付添教員、旅費等を計画し、教育委員会の承認を得て実施されるが、その際付添教師は、生徒が修学旅行の目的を達成し、安全に旅行を終えるため、教師の起床時刻から就寝時刻まで生徒の指導、監督を行うとともに、生徒の危険防止、健康管理等に万全の注意を払うことが要請されていること、又船、車中泊の際は従来から生徒の事故防止、規律の維持等の必要から付添教師の中から不寝番を決め夜通し船車中を見廻っており、本件の各場合(明細表4の(1)、(5)、6の(1)、(2)、(5)、(6)、8の(5)、9の(1)、(5)、13の(1)、20の(1)、(5)、25の(14)、26の(1)ないし(5)、38の(1)、(5))においても不寝番をすることが当然必要なこととされていたことが認められ、右事実に前記五の冒頭の認定事実を合わせ考えると、校長は付添教師に対し教師の起床時刻から就寝時刻までの間右勤務に就き、船、車中泊の際は不寝番をすることを命じたものというべきであり、右認定に反する≪証拠省略≫は採用するをえない。

(二)  高校体育連盟等主催の各種大会の選手引率、付添について

≪証拠省略≫によれば、三重県高等学校体育連盟は、高校におけるスポーツの健全な発展を目的として県下の各高校によって組織され、教育長が顧問、校長、教職員が理事、専門部長等の役員に就き、経費は高校生徒の負担金および県からの補助金によってまかなわれ、高校生の対外競技のため諸体育大会を開催することを主たる事業とする団体であり、右大会は前記役員によって教育的に企画運営され、正課の体育、校内競技、特別教育活動であるクラブ活動と密接な関連を有すること、そして教職員が右大会に参加する選手を引率し付添うことは右大会参加の教育効果を高めるとともに、参加選手の事故防止等のため必要であることがそれぞれ認められる。ところで、教師は学校における教科、特別教育活動および学校行事等に関する教育を掌るものであり、従って右と密接な関連を有する限り、たとえ高体連が被告県とは別個の団体であっても、右大会参加の選手を引率し付添うことは教師の職務の範囲に属するというべきである。このことは、三重県高校体育連盟の上部団体である東海高校体育連盟、全日本高校体育連盟あるいは右高体連以外の高校野球連盟、庭球協会、ハンドボール協会、水泳協会、県陸上競技会、上野市教育委員会等主催の大会であっても、校長が右大会に参加することに教育的意義を認めて参加の承認をしている限り、前記高体連主催の場合と同様に参加選手の引率、付添は教師の職務に入ると解すべきである。

そして、≪証拠省略≫によれば、前記各大会はいずれも校長宛に大会案内状が送付され、校長が同大会参加の教育的効果を認め原告西出剋己、同小西旭、同村林史郎、同岡村昌明、同大西昭、同福森明允、同伊豆晃、同滝川弘、同西口光、同小沢利明、同中川睦男、同中筋美代、同吉森茂雄、同岡島久司、同長崎拓夫、同伊東格郎、同山本明弘、同大森英明、同森弘幸らに大会参加の選手を引率し付添うことを事前に命じ、あるいは事後に承認していることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫ 従って、右各大会参加選手の引率、付添はいずれも校長の命令に基づくものというべきである。

(三)  前記高校体育連盟主催の大会の審判について

高校体育連盟主催の大会は、前記五の(二)において認定したように校長、教職員等の役員よって教育的配慮のもとに計画、運営され、学校体育教育、クラブ活動等と密接な関連を有するものであるから、競技等につき審判をすることは大会運営上不可欠のことであり、右は教員の職務の範囲に入るというべきであり、≪証拠省略≫によれば、校長は原告小西旭、同岡島久司に対し右大会の審判をすることを承認していることが認められ、右事実に照らし、右審判は校長が命令したものということができ、これに反する≪証拠省略≫は採用するを得ず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(四)  クラブ主催の練習試合への生徒引率、付添、クラブ合宿(キャンプ)指導について

≪証拠省略≫によると、クラブ活動は学校の特別教育活動として生徒の自発的な活動を助長することをたてまえとし、右活動は常に教師の適切な指導が必要であり、その実施にあたっては学校の事情に応じ適当な時間を設けて計画的に実施することが要請されており、≪証拠省略≫によると、右活動の実施は原則として教師の勤務時間内に限られるべきことが認められる。しかしながら、他校との練習試合、クラブ合宿等は教師の勤務時間外に行わざるを得ず、それらがクラブ活動として必要かつ有益なものである限り、同試合参加の生徒の引率、付添およびクラブ合宿指導等は教師の職務に属するというべきであり、≪証拠省略≫によれば校長が各原告の引率、付添、クラブ合宿指導等をいずれも承認している事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫ 従って右練習試合の引率、付添、クラブ合宿指導等は校長がいずれも命令したものということができる。

(五)  生徒指導について

≪証拠省略≫によれば、原告中田稔は、当初昭和四二年一二月二三日(土曜日)の午前中同原告の担任でかねてから問題のあった生徒を母親同席のもとに指導しようとしたが、母親の来校が遅れ、しかも同生徒もその場に列席させたほうがよいということで、校長とも相談のうえ同生徒を呼び出したりして手間取り同日午後四時頃から午後六時一五分頃までの間校長室に於て校長、母親同席のもとにその指導が行われたものであることが認められる。従って、同日午後五時一五分以降六時一五分までの間の生徒指導は同原告の職務に属し、校長が同席し右勤務時間外にわたる指導を承認している以上、校長の命令に基づくものというべきであり、右認定に反する≪証拠省略≫は採用できない。

(六)  家庭訪問について

≪証拠省略≫によると、原告村林史郎、同山本明弘のした家庭訪問は、いずれも父兄が夜間しか在宅しないか、あるいは長時間の指導を要する等の理由から、勤務時間外に生徒指導に関し父兄と懇談するため行われたものであること、そしていずれも校長の承認を得ていることが認められるので、原告村林史郎、同山本明弘のした右各家庭訪問は、同原告らの職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(七)  農業クラブ上級位検定試験委員について

≪証拠省略≫によると、右検定は、三重県学校農業クラブ連盟が主催したものであるが、同連盟は県下の農業科のある高等学校の農業クラブによって組織され、経費は生徒の負担金および農業教育振興会からの補助金によってまかなわれている団体であり、教科外活動である農業クラブ活動の成果を試験するため検定を行うものであって、同検定は右教科外活動と密接な関連を有すること、そして校長は右検定に不可欠な試験委員になることを承認していることがそれぞれ認められるので、右試験委員としての活動は教師の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(八)  ホームルーム生徒指導委員会、担任会について

≪証拠省略≫によると、原告大市栄夫は昭和四二年四月二〇日および同年一〇月一九日ホームルーム生徒指導委員またはホームルーム担任者としてホームルームの運営等に関し開催された会議に参加したが、当日の同会議の進行上やむをえず同原告の勤務時間外にまで続行されたこと、そして事後に校長の承認を得るなり、または予定された学校行事として実施したものであることが認められるので、右勤務時間外にわたる各会議に参加したのは同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものということができる。

(九)  校内就職模擬試験監督について

≪証拠省略≫ならびに原告伊豆晃本人尋問の結果によれば、右模擬試験は同原告の所属する三重県立松阪高等学校が職員会議の決定を経て就職を希望する同校の生徒を対象に昭和四二年五月二七日その実力を判定するために実施したものであることが認められ、右事実によれば、右試験監督は原告伊豆晃の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(十)  クラスキャンプ付添について

≪証拠省略≫によると、原告伊豆晃は昭和四二年八月五日クラスのキャンプに付添ったのであるが、右はホームルーム活動として生徒二七名が参加して行われ、校長が同原告の付添参加を承認したことが認められるので、右は同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものということができる。

(十一)  弁論大会、定時制生活体験発表会付添について

≪証拠省略≫によると、原告吉村英夫は昭和四二年一〇月二九日松阪高等学校において行われた三重県下高等学校弁論大会および同年同月二二日行われた定時制通信教育振興会主催の定時制生活体験発表会に、原告福森明允は同年六月二五日松阪女子短大主催の英語弁論大会にそれぞれ参加する生徒に付添ったものであるが、右各大会は学校の教科あるいはクラブ活動と密接な関連を有し、右参加について事前もしくは事後に校長の承認を得ていることが認められるので、右付添は教師の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

(十二)  新聞部記事取材、新聞校正について

≪証拠省略≫によると、原告山本明弘は新聞部のクラブ顧問であるが、昭和四二年五月一四日、同年六月一一日、同月一七日および同年一〇月一四日同部加入の生徒とともに勤務時間外にクラブ活動としての新聞記事取材あるいは新聞校正を行わざるを得なかったこと、そして校長はこれを承認したことがそれぞれ認められるので、右は同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものということができる。

(十三)  運動会準備、後夜祭監督について

≪証拠省略≫によると、原告伊豆晃は昭和四二年一〇月七日午後学校行事として行われた同月八日の運動会の準備のため生徒とともにグランドの整備、テント張り等をしたものであり、校長は勤務時間外にわたっても右準備を完了するように命じていたこと、そして、同月八日運動会が行われたが、後夜祭は毎年運動会終了後行われており、運動会に付属するものであること、そして校長が教師にその監督を命じたことがそれぞれ認められるので、右は同原告の職務に属し、校長の命令に基づくものというべきである。

また同年一〇月二九日文化祭が行われたことは前記認定のとおりであるが、文化祭が学校行事の一環として行われるものであることは推認するに難くなく、以上の事実によれば、右行事は同原告の職務に属し、かつ校長の命令に基づくものというべきである。

(十四)  職員会議出席について

職員会議は、校長が教員らを招集し、校長主宰のもとに学校運営上の諸問題の審議、行事計画の確定、学校事務の連絡、報告等を行う会議であって、右会議出席は教師の職務に属することは顕著な事実であり、校長が正規の勤務時間の終了時刻になっても右会議を終了させない限り、引き続き教員らに右会議に出席すべきことを命令したものということができる。しかして、前記原告らが勤務時間を超えて職員会議に出席した事実によれば、本件の各場合いずれも校長が勤務時間外に右会議を続行したものと推認すべきであるから、同会議出席は校長の命令に基づくものというべきである。

(十五)  農業部会議出席について

≪証拠省略≫によれば、右会議は学校内において農場専門科目担当教師でもって農場の運営、教科の指導等に関し協議するものであること、そして昭和四二年四月一四日、同年五月一五日、同年七月四日および同年一一月一〇日の各会議は議事の進行上やむをえず勤務時間外にわたって続行され、校長が黙示的に承認していたことがそれぞれ認められる。従って勤務時間後の右会議出席も校長の命令に基づくものというべきである。

よって、前記原告らが右認定の明細表記載の日時に同「勤務内容」欄記載の勤務をしたことがいずれも原告ら教職員の職務の範囲に属し、校長の明示または黙示の命令に基づくものというべきである。

六  次に、被告は以上の勤務に対しては、学校運営上の必要から勤務時間の割り振りの変更、休日の振り替えをし、労働基準法三二条二項に規定する変型労働時間制に基づく措置をしていると主張するので、この点につき判断する。

給与条例三四条、勤務時間等に関する規則二条によれば、校長は通常の日課にない特別の行事等を学校全体が行う場合その他正当な理由がある場合には、勤務を要する日とする日曜日の属する週の間において他の日と繰り替えることができる旨規定し、また、校長は学校運営上必要ある場合は、土曜日に割り振られた勤務時間を当該土曜日の属する週の間において他の日に割り振られた勤務時間と繰り替えることができる旨を規定するところ、原告宮崎恒一につき昭和四二年一〇月二九日、同菅野良孝、同中條敏、同玉木泰雄につき各同年一一月五日、同伊豆晃につき同年一〇月八日、同月二九日、同滝川弘につき同年六月四日、同年一〇月二九日、同吉村英夫につき同年一〇月八日、同山本明弘につき同年五月一四日の勤務を要する日とする各日曜日の正規の勤務時間内に行われた勤務に対してはそれぞれ他の日を代休として与えられていることは右原告らの認めるところであり、右事実によれば、右代休は校長が前記勤務時間等に関する規則により、勤務を要しない日の繰り替えを行ったものというべきであり、≪証拠省略≫によると、原告菅野良孝につき同年一一月四日の土曜日の正規の勤務時間内に行われた勤務に対し同月二日に代休をとったことが認められ、右事実によれば、右同様校長が勤務を要しない日の繰り替えを行ったものというべきであり、従って、右日曜日または土曜日の正規の勤務時間内に行われた勤務は時間外勤務に該当しないので、右時間は超勤時間から差引くべきである。

なお、被告は、原告中條敏の勤務した昭和四二年一一月四日(土曜日)につき代休を与えた旨主張するけれども、これを確認するに足る証拠はなく、原告佐藤大雄が勤務した同月五日につき同月一〇日に代休を与えた旨主張するが、仮にそうだとしても、同原告らが正規の勤務時間中のものにつき時間外勤務手当の請求をしていないことは主張自体明らかであるから、被告の右主張については判断の要はない。

次に、被告は休日は時間外勤務手当が支給されないと主張するけれども、給与条例一九条によれば、休日(国民の祝日に関する法律に規定する祝日を含む。)において正規の勤務時間中に勤務が命ぜられた場合は時間外勤務手当と同額の休日勤務手当が支給されることになっており、原告らの時間外勤務手当の請求も右休日勤務手当の請求を含んでいると解せられるので、被告の右主張は理由がないけれども、同条二項は、右休日に勤務した代りに他の勤務を要する日に特別休暇が与えられた場合は、右休日勤務手当は支給しない旨を定めているので、原告らがした休日勤務に対して右特別休暇が与えられたかどうかについて検討する。

原告菅野良孝、同玉木泰雄の昭和四二年一一月三日、同山本明弘の同年一一月二三日の各休日勤務に特別休暇(代休)が与えられていたことは同原告らの認めるところであり、また≪証拠省略≫によれば、原告滝川弘は同月三日の休日勤務に対し、同月七日に特別休暇が与えられることが認められるので、右時間は超勤時間から差引くべきである。なお、被告は原告木下篤司が勤務した同月三日については、同月六日に特別休暇が与えられた旨主張するが、仮にそうだとしても、同原告が正規の勤務時間中の分につき時間外勤務手当の請求をしていないことは主張自体明らかであるから、被告の右主張は判断の要はない。

しかしながら、右勤務を要しない日あるいは休日の振り替えを認定した以外の前記認定の各時間外勤務に対して校長があらかじめ勤務時間の割り振りの変更をした事実を認めるに足りる証拠はなく、教師が平常特別の用務のない限り正規の勤務時間終了前に帰宅したり、夏期等休業期間中に出校しないことが許されているとしても、右は自宅研修をする等教師の職務の特殊性から是認されているにすぎず、右時間が勤務を要しない時間となっているものではないから、これをもって勤務時間の割り振りの変更があったものとみなすこともできない。従って、前記振り替えを認定した以外の時間外勤務については、勤務時間の割り振りの変更をしたとする被告の主張は採用することができない。

七  次に遠足、修学旅行、対外試合等における生徒の引率、付添勤務が労働基準法四一条三号の「監視または断続的労働」に該当するか否かについて検討するに、右引率または付添勤務の内容は、修学旅行の付添について前述したように、付添教師は絶えず生徒の行動を掌握し、危険防止、健康管理等に細心の注意を払うとともに、遠足、修学旅行、対外試合参加についてはその教育目的が達成されるよう生徒の指導、監督を行っているのであって、車中や旅館においても付添教師の右注意義務等が軽減されるものではなく、被告主張のように車中や旅館においては大部分の時間を休養したり、生徒と単なる自由交歓している事実を認めるに足りる証拠はないので、右付添勤務は前記「監視または断続的労働」に該当するものということはできない。

八  次に、原告らの本件時間外勤務手当の請求が信義則に反したり権利濫用となるかどうかについて判断する。

≪証拠省略≫によれば、各高等学校は、旅費規定を設け、教職員が生徒の引率、付添等で出張した場合、運賃、宿泊料の外に一〇〇円ないし五〇〇円程度の日当が支給されていることが認められるけれども、右日当が時間外勤務に対する対価とは到底認められないところ、仮に原告らが従来右日当の支給を受けたことにより、時間外勤務手当を請求しなかったとしても、右請求権を放棄していたものと解することはできず、また被告に対し同手当を請求しなかったことをもって、直ちに時間外勤務手当を支給しない旨の事実たる慣習が成立していたとすることもできないのみならず、仮にしからずとしても、労働基準法および給与条例で定める時間外労働に対する割増賃金の支払は公の秩序に関するものであるから、これに反する慣習は無効というべきである。また教職員に対し一般職員よりも給与面で優遇しているとしても、これが時間外勤務手当を支給しないことのみかえりであると断定できないことは前述したとおりである。

従って、原告らの被告に対する本訴請求が信義則に反したり、権利の濫用となるということはできない。

九  そこで、原告らのそれぞれの時間外勤務手当額を算出することとする。

原告らの給与の月額が原告小沢利明の昭和四二年一〇月ないし一二月分の給与を除き、明細表「本俸または本俸と調整額の合計」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、同原告の同年一〇月ないし一二月の給料の月額が五万四、六〇〇円または被告が認める五万二、三〇〇円を超える額であることを認めるに足りる証拠がないので、同原告の右期間の給料月額は被告の認める限度の五万二、三〇〇円と認めるのほかない。

そして、以上認定の事実によれば、原告らの月別超過勤務時間は別紙認定額明細表の超勤時間欄記載のとおりとなる(但し、括弧内は除外)。

右手当の算出方式は、前記給与条例二八条、一八条によれば、次のとおりとなる。

(1)  勤務一時間当りの給与額

給料の月額×12/44(1週間の勤務時間)×52

但し、一円未満は切り捨て(同条例二七条の二)

(2)  時間外勤務一時間当りの手当額

(1)において求めた金額×125/100

午後一〇時から翌日の午前五時までの間である場合

(1)において求めた金額×150/100

但し、一円未満の端数は切り上げ(右二七条の二)

(3)  各月当りの時間外勤務手当

(2)において求めた金額×当月全時間外勤務時間

但し、一時間に満たない端数のあるときは三〇分以上は一時間とし、三〇分未満は切り捨てる。(公立学校職員の給料および手当の支給に関する規則一二条の二)

右方式に従い原告らの割増賃金を計算すると、各金額は別紙認定額一覧表時間外勤務手当金欄記載のとおりとなり(なお、付言するに、原告ら主張の一時間当りの超勤単価は、右(1)の計算に際し、端数を切り上げて算出しているが、右端数は切り捨てるべきものであることは右説示のとおりである。)、被告は原告らに対し、右割増賃金を支払う義務があるものといわなければならない。

一〇  次に、付加金の請求について判断する。

労働基準法三七条一項は、使用者が一日について八時間の労働時間を延長し、もしくは同法三五条にいう休日に労働させた場合または午後一〇時から午前五時までの間に労働させた場合においては通常の労働時間または労働日の賃金の計算額二割五分以上の割増賃金を支払うことを規定している。

ところで、前記給与条例三四条、勤務時間等に関する規則二条によれば、教職員の勤務時間は一週間について四四時間と定められ、そのうち校長が学校運営上の必要から別の割り振りをしない限り土曜日に四時間が割り振られており、各学校において校長が右と異った割り振りをしたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、土曜日に正規の勤務時間を超えて勤務しても一日八時間以内の勤務になる場合および労働基準法三五条にいわゆる毎週少くとも一回の休日以外の国民の祝日に関する法律所定の祝日に勤務した場合は、前記給与条例に基づく時間外勤務手当および休日勤務手当の請求をすることができても、労働基準法三七条一項に基づく割増賃金の請求はできないので、被告が原告らに対し、土曜日の正規の勤務時間を超えて勤務した勤務時間にして八時間以内のものおよび前記祝日の正規の勤務時間内のものにつき割増賃金を支払わなかったとしても、被告は同条に違反せず、従って、その限度においては、割増賃金不払いを理由とする付加金の請求は理由がないものといわなければならない。

そこで、原告らの各月の勤務時間から右説示にかかる土曜日の八時間の超勤時間および祝日の正規の勤務時間を差引いて各月の勤務時間を算出すると別紙認定額明細表の超勤時間欄の括弧をもって表示したものとなり(但し、時間に変動のないものは従前どおり。)、労働基準法三七条一項に違反する割増賃金の額は計算上同明細表の付加金額欄記載のとおりとなる。

しかして、被告が原告らに対し、右割増賃金の支払をしていないことは当事者間に争いがなく、被告が労働基準法三七条に違反していることは明らかであるので、当裁判所は被告に対し、付加金として別紙認容額一欄表記載の付加金欄の金員の支払を命ずることとする。

なお、右付加金の支払義務は裁判所の命令によって初めて発生するものと解すべきであるから、被告は裁判所の支払を命ずる判決が確定した日の翌日から遅滞におちいるものというべきである。

一一  よって、原告らの本訴請求は、被告に対し別紙認容額一覧表「時間外勤務手当金」欄および「付加金」欄記載の金員の合計額である同表「合計額」欄記載の金員および右の内「時間外勤務手当金」欄記載の金員に対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかなる昭和四三年四月一九日から、右の内「付加金」欄記載の金員に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容すべきであるが、その余の請求は理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白川芳澄 裁判官 林輝 裁判官吉岡浩は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 白川芳澄)

<以下省略>

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