津地方裁判所 昭和43年(行ウ)4号 判決 1971年8月07日
原告 吉村貢
被告 国 外一名
訴訟代理人 中村盛雄 外七名
主文
原告が昭和三五年一〇月一日を以つて教育職(一)四等級八号俸の受給権利者となつたことを確認するとの訴は、これを却下する。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、本案前の答弁について
原告が文部教官として現在支給せられている俸給等の等級号俸の適否については争いのないことその主張するところであるから、原告の本訴第一次請求中確認請求の部分は、ひつきよう単に過去の法律関係の確認を求めるものであつて、金員(差額金)支払請求の部分と独立して確認を求める法律上の利益を有するものとは認められず、その他原告がかかる確認を求める法律上の利益を有する場合のあることも考えられないので、(原告の指摘する最高裁判所昭和三二年七月二〇日大法廷判決は本件と事案を異にする)権利保護の資格を欠き不適法として却下を免れない。
二、第一次的金員支払請求について
原告の経歴および昇給歴、原告に対し昭和三五年一〇月一日法律第一五〇号附則2により教育職(一)四等八号俸を給することが可能にあつたことは当事者間に争いがない。
そこで、昇給、俸給の切替え等についての発令行為の要否を検討するに、文部教官として国立大学に勤務する講師の昇給、俸給の切替え等については一般職の職員の給与に関する法律および人事院規則によつて一般的基準が定立されているわけであるが、昇給については規定(同法第八条第六項)上からも裁量行為であることが明らかであるから発令行為を要するし、俸給の切替えについても、本件の如く昇給が伴い号俸の号数に変動を来たす場合は、その要件の有無を調査、判定する必要があり、従つてこのような場合の切替えはもちろん権限ある者の発令行為をまつてはじめて決定されるものである。一般職の職員の給与に関する法律第七条、俸給の切替え等について(通知)(昭和三五年一二月二二日給実甲第一七六号)人事院規則九-八の第二四条(現行第四五条)をはじめとする同規則の各規定もこの趣旨に出たものと解せられる。
右のように解すれば、原告に対し昭和三五年一〇月一日に教育職(一)四等級八号俸を給することが可能であつたとしても、現にその発令がなかつたのであるから、同日同号俸になつたことを前提とする原告の本訴第一次的金員支払請求はその余の点を判断するまでもなく理由がなく、棄却するべきものである。
三、第二次的金員支払請求について
原告に対し昭和三五年一〇月一日に教育職(一)四等級八号俸を給することが可能であつたことは前叙のとおりであり、本訴は国の機関で原告に対する昇給発令権者たる三重大学長の過失により右号俸の発令がなされなかつたものとして、国家賠償法一条一項により損害賠償を訴求するものであるが、本訴損害賠償請求権の成否の点はしばらくおき、まず被告の消滅時効の抗弁について判断する。
本訴損害賠償請求権の消滅時効については国家賠償法第四条により民法第七二四条が適用され、原告が損害および加害者を知つたときから三年間これを行使しないときは短期消滅時効が完成することとなる。
そこで、<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば、三重大学事務当局は原告から昇給過程に誤りがないかとの調査申入れを受けて調査したところ、昭和三五年法律第一五〇号により同年一〇月一日付をもつてなした原告の俸給号俸決定に誤りがあり、四等級八号俸に決定することができたのに一号俸低位の七号俸に決定していたことを発見したので、昭和四〇年五月一七日三重大学長より文部省大臣官房人事課長宛に原告の俸給を人事院規則九-八第二四条(現行第四五条)によつて訂正方を上申した結果、文部大臣は人事院規則九-八第二四条により原告の俸給を原告が昭和三五年一〇月一日に教育職(一)四等級八号俸を給されていれば現に給されているであろう号俸、すなわち教育職(一)二等級九号俸に訂正することの承認を人事院に求めて同年六月一六日付にてその承認を得たうえ、同日付をもつて右昇給を発令し、この書面が同年一〇月一三日に三重大学長に送付され、同月一八日頃同大学農学部から原告に交付され、その頃原告は三重大学長から教育職(一)二等級九号俸に昇給した昭和四〇年六月一六日以後の差額金を受領していることが認められるので、原告は遅くとも右差額金を受領した時点において国の公権力の行使に当る公務員である三重大学長の不法行為によつて損害を被つたこと、すなわち民法第七二四条にいう損害および加害者を了知したものであると認められるから、本訴損害賠償請求権の消滅時効は遅くとも右の時点から進行を始め、本訴提起日であること記録上明らかな昭和四三年一一月一一日までに消滅時効完成に必要な三年間を経過していることとなる。
原告は別訴の提起により右消滅時効は中断されていると主張するが、原告がその主張の頃別訴を提起したこと、これが被告主張の経緯で却下されて昭和四三年四月一三日に確定したことは当事者間に争いのない事実であるから、民法第一四九条により時効中断の効力は生じていないものといわなければならない。原告は、手続上の不備のため訴を却下され、改めて訴を提起しようとするときにはすでに消滅時効完成している場合は、権利者は権利の行使を怠つているとはいえないから消滅時効の中断を認めるべきであると主張するが、民法第一四九条・第一五七条二項・民訴法第二三五条の諸規定から考えると、裁判上の請求に時効中断の効力が認められるのは、その権利が訴訟物として主張され、判決によつて確定されたことによる効果と解すべきであるから、原告の右主張は採用できない。
以上説示の如く、原告の本訴損害賠償請求権は本訴の提起前に時効によつて消滅しているから、原告の第二次的金員支払請求もその余の点を判断するまでもなく失当として棄却すべきものである。
四、結論
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 杉山忠雄 寺本栄一 坪井俊輔)