津地方裁判所 昭和46年(わ)187号 判決 1972年4月28日
本籍
三重県尾鷲市栄町二七八番地
住居
右同所二番三一号
遊技場経営
中千代正範
大正一三年五月二九日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官森山英一出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役四月および罰金三〇〇万円に処する。
右罰金を完納できないときは金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和四〇年四月から三重県尾鷲市栄町三番四号に鉄筋コンクリート三階建店舗を構え、従業員約四〇名を使用して「赤玉観光」の名称で、パチンコ遊技場、食堂、児童遊園等の営業を続け、自らその業務全般を統轄総理していたものであるが、同四五年九月を目標に右「赤玉観光」を株式会社組織に改める計画のもとに、できるだけ多額の含み資産を確保するとともに、他方売上げの一部を帳簿に登載せず自己の自由になる資金を得る目的で、不正にその所得税を免れようと企て
第一、同四三年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額は、一、八四九万六、一四〇円であり、これに対する所得税額は、八四二万九、七〇〇円であるにもかかわらずパチンコ遊技場の売上げの一部、貸付金の利息収入の全部を除外し、簿外の普通預金、定期預金等を設定するなどの不正行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、同四四年三月一四日、同市林町一四番二九号所在所轄尾鷲税務署において、同署長に対し、右年度における被告人の所得金額が、五〇六万四、七九一円で、これに対する所得税額が一三九万三、〇〇〇円である旨虚偽の記載をした所得税確定申告書を提出し、その差額である七〇三万六、七〇〇〇円の所得税を逋脱し
第二、同四四年一月一日から同年一二月三一日までの所得金額は一、八六〇万九、六八一円であり、これに対する所得税額は八四〇万三、六〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、同四五年三月一四日、前記尾鷲税務署において、同署長に対し、右年度における被告人の所得金額が五五八万六、五四七円で、これに対する所得税額が一五五万八、〇〇〇円である旨虚偽の記載をした所得税確定申告書を提出し、その差額である六八四万五、六〇〇円の所得税を逋脱し
たものである
(証拠の標目)
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の検察官に対する供述調書
一、大蔵事務官作成の被告人に対する質問てん末書二三通
一、被告人作成の上申書一五通および申立書一通
一、大蔵事務官作成の告発書
一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和四三年一月一日 至同年一二月三一日)(判示第一につき)
一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和四四年一月一日 至同年一二月三一日)(判示第二につき)
一、大蔵事務官作成の高須正満(三通)、山本和義、中千代鈴(三通)、光村嘉茂(五通)、林孫(二通)、北村裕生、小林一、山脇昭男に対する各質問てん末書
一、光村嘉茂(二通)、北村裕生、中村あや子、若林正也作成の各上申書
一、田中武一作成の証と題する書面二通
一、尾鷲税務署長作成の証明書二通(昭和四三、四四年分)
一、奥田勉作成の電話聴取書二通
一、押収にかかる総勘定元帳(昭和四三年度)一綴(昭和四七年押第六号の五)、同(昭和四四年度)一綴(同号の六)、銀行勘定帳一綴(昭和四三年度)(同号の九)、同一綴(昭和四四年度)(同号の一〇)、パチンコ玉メモ帳一冊(同号の一三五)、売上メモ四枚(同号の一三九)、預金メモ一枚(同号の一四二)、印章(田中と刻したもの)一個(同号の一四六)、印章(植竹、村田と刻したものを各一個)二個(同号の一四七)納品複写簿一冊(同号の一七一)、元帳(昭和四三年)一冊(同号の一六六)、同(昭和四四年)一冊(同号の一六七)、仕切書(昭和四二年から四四年)一冊(同号の一七三)、同(昭和四四年一月から一二月)一冊(同号の一七四)、同(昭和四四年九月から同四五年七月)一冊(同号の一七五)、同(昭和四五年四月から七月)一冊(同号の一七六)、タバコ買受控帳一冊(同号の一七九)、借入金ノート一冊(同号の一六〇)、借用書綴一綴(同号の一四四)、売買契約書、借用金確証一綴(同号の一四五)、登記済権利証一綴(七通)(同号の一八七)、宅地売買契約書一綴(同号の一八八)、登記済権利証一綴(二通)(同号の一八九)、不動産売買確約書一枚(同号の一九〇)
(法令の適用)
被告人の判示第一、第二の各所為は、所得税法第二三八条第一項前段に各該当するところ、いずれも懲役および罰金を併科することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、懲役刑について同法第四七条本文第一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重を施し、罰金刑については情状に従い所得税法第二三八条第二項を適用して各判示逋脱額に相当する罰金額の範囲内で処断することとし、第四八条第二項により右各罪の罰金額を合算し、その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役四月および罰金三〇〇万円に処し、右罰金を完納できないときは、同法第一八条により金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、諸般の情状に鑑み同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 中原守)