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津地方裁判所 昭和47年(行ウ)7号 判決 1973年10月20日

原告 山本勝

被告 上野市長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告

1  被告が原告に対して昭和四七年四月一〇日付でした同年度固定資産税の課税処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文第一項同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告に対し、昭和四七年四月一〇日付で同年度固定資産税を金五二三〇円と決定し、納税告知した。

2  しかし、被告が昭和四七年三月、地方税法四一五条所定の縦覧期間に縦覧に供した原告所有の固定資産(以下本件固定資産という。)の固定資産課税台帳には、右固定資産の所有者である原告の住所、氏名が登録されているが、右固定資産の基準年度の価格が登録されておらず、そのうえ、被告は右縦覧に供した日以後、固定資産課税台帳に価格の登録がなされていないことを発見したときには、同法四一七条の規定に則り、右価格を右台帳に登録し、その旨を原告に通知しなければならないにもかかわらず、右措置をしなかつた。

したがつて、被告が固定資産課税台帳に法定の登録事項を登録せず、かつ地方税法四一七条の措置をとらないでした本件課税処分は、法の定める手続をふまないでなされた違法があり、当然無効である。

3  よつて、原告は、被告に対し、本件課税処分の無効確認を求める。

二  請求原因に対する答弁および被告の主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、被告が昭和四七年三月縦覧に供した本件固定資産の固定資産課税台帳に、右固定資産、所有者である原告の住所、氏名が登録されているが、右固定資産の基準年度の価格が登録されていなかつたことおよび被告が地方税法四一七条所定の措置をとらなかつたことは認めるが、その余は争う。

3  固定資産課税台帳は、一葉の用紙に、一筆ごとに地番順に法定の登録事項を記載するのであるが、名寄帳は納税者ごとに一葉の用紙を用いて、その所有するすべての土地また家屋及び基準年度の価格等を記載するので、納税者は名寄帳を縦覧することにより、自己所有の固定資産の状況が一目瞭然にわかり、課税台帳を地番順に一枚一枚調査する必要もないので、納税者にとつてはかえつて簡便である。また被告は、縦覧に際しては右名寄帳を補助簿として固定資産課税台帳とともに縦覧に供したのであるから、本件課税処分は有効であり、また右事実からも明らかなように、固定資産の価格に変更、錯誤があつたわけではないから、被告は同法四一七条所定の措置を構ずる必要もない。

三  被告の主張に対する原告の反論

名寄帳に価格を記載して固定資産課税台帳の補助簿とすることは、法律上の根拠がなく許されない。

第三証拠<省略>

理由

一  原告主張の請求原因1の事実及び被告が地方税法四一五条の規定に基づき、昭和四七年三月縦覧に供した原告所有の本件固定資産の固定資産課税台帳に右固定資産、所有者である原告の氏名、住所が登録されているが、右固定資産の基準年度の価格の登録がなされていなかつたことは当事者間に争いがない。

しかして、成立に争いのない乙第一、第二号証の各一、二に証人越山盛俊の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、昭和四七年三月縦覧に供した本件固定資産の課税台帳には基準年度の価格の登録がなされていなかつたので、被告はこれを補充する意味において、右課税台帳とともに原告所有の土地及び家屋の名寄帳を右縦覧期間に縦覧に供したこと、そして、右名寄帳には原告の所有する土地家屋、原告の氏名住所及び右土地家屋の基準年度の価格が記載されていたことを認めることができる。

二  ところで、地方税法は、市町村は当該市町村内の土地及び家屋について、固定資産課税台帳に基づいて自治省令で定める様式によつて土地名寄帳及び家屋名寄帳を備えなければならないものとし(地方税法三八七条)、法は固定資産課税台帳のほかに、これとは別個に土地及び家屋の名寄帳を作成することを義務付けており、同法施行規則一四条、同規則二四号、二五号、二八号及び二九号様式によると、固定資産課税台帳は、一筆の土地または家屋ごとに一葉の用紙を用いてこれにその課税価格、所有者の氏名住所等を記載し、これを地番順または家屋番号順に一定数とりまとめて簿冊としたものであり、土地または家屋名寄帳は、個々の納税者ごとに一葉の用紙を用いてこれにその所有するすべての土地または家屋及びその課税価格等を記載し、これを一定数まとめて簿冊としたものであり、固定資産課税台帳及び名寄帳はそれぞれその様式を異にすることが認められ、前顕乙第二号証の一、二によると、原告所有の土地の名寄帳には固定資産課税台帳に登録すべき基準年度の価格その他所定の記載があり、これが地方税法施行規則の定める様式に従つたものであることは明らかである。

しかして、固定資産課税台帳の登録事項につき、名寄帳の記載をもつてこれを補充することを許す規定はないから、基準年度の価格の記載を欠いた本件固定資産課税台帳は、地方税法三八一条所定の要件を欠く違法のものといわなければならない。しかしながら、土地または家屋名寄帳が作成されるのは、けだし、市町村長が納付者に対し課税を行なうにつき課税客体たる固定資産を納税者別にまとめる必要があるためと解せられること、前段説示のとおり、固定資産課税台帳に登録すべき事項はすべて名寄帳に記載されるのであり、これによつて固定資産課税台帳備え付けの目的である固定資産の状況及び課税標準である価格を明らかにするといつた法の目的(同法三八〇条)は達せられているということができ、また法が課税台帳を関係者の縦覧に供するのは、納税者に対し、その所有する固定資産に対して課せられる課税標準である固定資産の価格を知らしめ、同台帳に登録された事項につき不服のある者に不服申立をなす機会を与えるためであるというべきであるから、前記認定のとおり被告が本件固定資産課税台帳に登録すべき価格を記載した土地または家屋の名寄帳を固定資産課税台帳とともに縦覧に供した以上、実質的にみれば、固定資産課税台帳に価格を登録して縦覧に供した場合と比較し、作成様式の違いにより縦覧者に多少の不便を与えることがあるとしても、ほぼ同等の目的を達しているものということができるので、被告において固定資産課税台帳に価格を登録してこれを縦覧に供しなかつた瑕疵があつたとしても、本件課税処分が違法であつてこれを無効とするほどの重大な瑕疵があつたものということはできない。

なお、前記認定のとおりであつて、固定資産課税台帳及び名寄帳を縦覧に供した後に価格を決定または修正した事実は認められないから、被告において地方税法四一七条所定の手続をとる必要はなく、したがつて、この点については何らの違法はない。

よつて、本件課税処分が無効であることの確認を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白川芳澄 林輝 吉岡浩)

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