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津地方裁判所 昭和62年(行ウ)4号 判決 1990年9月06日

三重県鈴鹿市平田本町二丁目三-五

原告

阪田公彦

右訴訟代理人弁護士

川嶋冨士雄

三重県鈴鹿市神戸九丁目二四番四五号

被告

鈴鹿税務署長

坪川勉

右指定代理人

天野登喜治

高瀬正毅

木村三春

都嵜清孝

小池幸男

瀬古浩利

鈴木彬夫

清水利夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が昭和六〇年一一月二八日付でした原告の昭和五七年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額一〇四六万二九八三円を超える部分、昭和五八年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額一一一一万四三四四円を超える部分、昭和五九年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、所得金額八六五万三〇〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が、原告の昭和五七年分ないし昭和五九年分の所得税につき、右各年度の原告の総所得のうちの事業所得につきこれを実額で把握することができないとして、推計課税の方法によって課税したのに対し、原告が、前記請求記載の各年度の所得金額を超える部分はいずれも原告の所得を過大に認定したものであると主張して、推計方法の合理性を争い、被告のした更正及び加算税の賦課決定の一部取消しを求めている事案である。

一  争いのない事実

原告は肩書住所地において新聞販売業を営むものであるが、昭和五七年分ないし昭和五九年分の各所得税の確定申告を別紙「本件課税処分等の経緯」別表一ないし三の各確定申告欄記載のとおりの申告をしたところ、被告は税務調査の結果に基づいて右各年度の原告の事業所得金額を推計し、同表各更正賦課決定欄記載のとおり所得金額の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(原告の確定申告内容については弁論の全趣旨により認められる。)。

二  争点

1  推計課税の必要性

2  被告の推計方法の合理性

3  右2に対する反証として原告が主張する一部実額、一部推計による所得金額の算出方法の合理性

第三争点に対する判断

一  推計課税の必要性について

原告は、被告職員の税務調査に対し、わずかに昭和五九年分の新聞社からの新聞等の仕入れ金額を示す請求書及び領収書並びに水道、光熱費等の必要経費のごく一部を示す領収書を提出したのみである(証人前川晶三丁、原告本人二丁。なお、新聞購読料の領収書の半券を提出した旨の原告本人の供述〔一四丁〕は、右証拠に対比して信用できない。)。また、本件訴訟において原告が提出した集金台帳(甲九、一〇)については、後記五2のとおり、その記載内容の信用性に欠ける外、本件訴訟の経過に照らせば、原告が、昭和五七年分ないし昭和五九年分のいずれかの所得金額についてもこれを明らかにするような十分な帳簿書類その他の資料を有しないことは明らかである。

よって、被告が、原告の昭和五七年分ないし昭和五九年分の所得税につき推計課税の方法によったことは相当である。

二  被告が推計によって、算出した原告の事業所得金額について

被告が推計によって算出した原告の昭和五七年分から昭和五九年分の事業所得金額及びその内容は、別紙「所得金額計算表」記載のとおりであり、同表中の「新聞等購読料」及び「折込、補助・奨励金等」の明細は、別紙「新聞等仕入金額明細表」及び「折込、補助・奨励金等収入金額明細表」記載のとおりである。

三  被告の推計方法及びその合理性

被告は、原告の新聞等購読料収入金額の算定と売上原価以外の必要経費の額を算定するにつき同業者の所得資料を使用しているので、右同業者の選定過程の合理性につき検討する。

名古屋国税局長は、昭和六二年九月二八日付で原告住所地を管轄する鈴鹿税務署並びにその近隣を管轄する桑名、四日市、津及び松阪の各税務署に対し一般通達を発し、右各税務署管内で主として中日新聞の新聞小売業を営む個人事業者で昭和五七年分ないし昭和五九年分の所得調査を実施したもののうち、「(1)所得税法第一四三条(青色申告)の承認を受けて、所得税の確定申告について、各年分とも青色申告書を提出している者、(2)新聞等購読料収入金額に対応する原価が昭和五七年分は金五〇二二万三一七六円以上金二億〇〇八九万二七〇二円以下、昭和五八年分は金五二五三万〇五〇二円以上金二億一〇一二万二〇〇八円以下、昭和五九年分は金五三七七万〇〇〇六円以上金二億一五〇八万〇〇二二円以下である者、(3)所得税青色申告決算書又は営庶業所得調査書において、総収入金額が各年分とも新聞購読料収入金額と折込、補助・奨励金等収入金額とに区分できる者」の各条件に該当する全員の所得税の課税事績について報告を求め、四日市税務署から二人、津及び桑名の各税務署から各一人の課税事績が報告された(乙一一ないし一五の各一ないし四、証人前川晶一〇丁)。右報告の結果は、別紙同業者比率表(昭和五七年分ないし昭和五九年分)記載のとおりであり、これによると右各同業者の各年分の新聞等購読料収入金額に対する新聞等仕入れ金額の占める割合(以下「新聞等原価率」という。)の平均値は右各表<5>新聞等原価率欄の平均欄に記載のとおりであり、総収入金額に対する売上原価以外の必要経費の額の割合(以下「経費率」という。)の平均値は右各表<7>経費率欄の平均欄に記載のとおりである。

原告は、鈴鹿市内において主として中日新聞の新聞小売業を営む個人事業者で(原告本人一丁)、その新聞等仕入れ金額が後記のとおり昭和五七年分は金一億〇〇四四万六〇八九円、昭和五八年分が金一億〇五〇六万一〇〇四円、昭和五九年分が金一億〇七五四万〇〇一一円であるから、前記各同業者はいずれもその業種、業態、所在地、事業規模において原告と類似しており、かつ、機械的に抽出したものであって、その新聞等原価率と経費率により原告の新聞等購読料収入金額及び経費を推計することには合理性がある(原告は、他の同業者とは異なる特有の事情について何ら主張立証していない。)。

四  原告の事業所得金額について

1  昭和五七年分事業所得金額について

原告の昭和五七年分事業所得金額は、別紙「所得金額計算表」昭和五七年分欄に記載のとおり<2>新聞等購読料及び<3>折込、補助・奨励金等を合計した<1>総収入金額から<4>売上原価及び<5>経費を控除した金額である金一七六八万七四三九円である。

以下、各費目について判断する。

(一) 新聞等仕入れ金額(売上原価)

別紙「新聞等仕入金額明細表」昭和五七年分欄に記載のとおり合計金一億〇〇四四万六〇八九円である(乙七ないし一〇、証人前川晶五、六丁)。

株式会社中日新聞社、株式会社中部経済新聞社、株式会社日本経済新聞社名古屋支店については、いずれも被告が右各社に取引照会をして得た回答により判明した実額である。

共同新聞販売株式会社分については、原告の同社に対する支払金額は判るが、その取引金額が不明であるので、回答のあった昭和五八年、五九年分の原告の同社に対する支払金額に対応する取引金額の割合を昭和五七年分の支払金額に乗じた金額が同年分の取引金額であると推計するのが合理的である。

右計算結果は次のとおりである。

<省略>

<省略>

(二) 新聞等購読料収入金額

金一億二九三七万四一四八円

右(一)の新聞等仕入れ金額を前記三の新聞等原価率で除した金額である。

(三) 折込、補助・奨励金等収入金額

別紙「折込、補助・奨励金等収入金額明細表」昭和五七年分欄に記載のとおり合計金四三一三万三九二四円である(乙一ないし六、一〇、証人前川晶六ないし一〇丁)。

(1) 補助・奨励金等収入のうち株式会社中日新聞社、株式会社中部経済新聞社、株式会社日本経済新聞社名古屋支店については、いずれも名古屋国税局直税部長が右各社に取引照会をして得た回答により判明した実額である。

共同新聞販売株式会社分については、原告の同社に対する支払金額は判るが、補助・奨励金額が不明であるので、回答のあった昭和五八年、五九年分の原告の同社に対する支払金額に対応する補助・奨励金額の割合を昭和五七年分の支払金額に乗じた金額が同年分の補助・奨励金額であると推計するのが合理的である。

右計算の結果は次のとおりである。

<省略>

<省略>

(2) 折込収入のうち中日興行株式会社分及び株式会社鈴鹿中日サービスセンターの六月ないし一二月分は、名古屋国税局直税部長が右各社に取引照会をして得た回答により判明した実額である。

株式会社鈴鹿中日サービスセンターは昭和五七年六月に設立されたものであり、それ以前は、原告が折込広告の依頼者から直接注文を受けていたものであるところ、この部分の収入は実額で把握できなかった。そこで、右収入については、株式会社鈴鹿中日サービスセンターから回答のあった昭和五七年六月ないし一二月分の収入に昭和五八年、五九年の六月ないし一二月の収入に対する一月ないし五月分の収入の割合を乗じた金額を、さらに同センターの手数料である契約金額の一〇パーセントが控除されないことを考慮して〇・九で除した金額であると推計するのが合理的である。

右の計算の結果は次のとおりである。

<省略>

<省略>

(四) 売上原価以外の必要経費の額(経費)

金五四三七万四五四四円

右(二)及び(三)を合計した総収入金額に前記三の同業者の経費率を乗じた金額である。

2  昭和五八年分事業所得金額について

原告の昭和五八年分事業所得金額は、別紙「所得金額計算表」昭和五八年分欄に記載のとおり<2>新聞等購読料及び<3>折込、補助・奨励金等を合計した<1>総収入金額から<4>売上原価及び<5>経費を控除した金額である金二一五九万七八二〇円である。

以下、各費目について判断する。

(一) 新聞等仕入れ金額(売上原価)

別紙「新聞等仕入金額明細表」昭和五八年分欄に記載のとおり合計金一億〇五〇六万一〇〇四円である(乙七ないし一〇、証人前川晶五丁)。

いずれも名古屋国税局直税部長が取引照会をして得た回答により判明した実額である。

(二) 新聞等購読料収入金額

金一億三六一〇万七〇一三円

右(一)の新聞等仕入金額を前記三の新聞等原価率で除した金額である。

(三) 折込、補助・奨励金等収入金額

別紙「折込、補助・奨励金等収入金額明細表」昭和五八年分欄に記載のとおり合計金五〇四八万五二四三円である(乙一ないし四、六、一〇、証人前川晶六ないし八丁)。

株式会社中日興業からの折込収入金額については当事者間に争いがなく、その余はいずれも名古屋国税局直税部長が取引照会をして得た回答により判明した実額である。

(四) 売上原価以外の必要経費の額(経費)

金五九九三万三四三二円

右(二)及び(三)を合計した総収入金額に前記三の同業者の経費率を乗じた金額である。

3  昭和五九年分事業所得金額について

原告の昭和五九年分事業所得金額は、別紙「所得金額計算表」昭和五九年分欄に記載のとおり<2>新聞等購読料及び<3>折込、補助・奨励金等を合計した<1>総収入金額から<4>売上原価及び<5>経費を控除した金額である金二三〇七万〇四六六円である。

以下、各費目について判断する。

(一) 新聞等仕入れ金額(売上原価)

別紙「新聞等仕入金額明細表」昭和五九年分欄に記載のとおり合計金一億〇七五三万九四一一円である(乙九、一〇、証人前川晶五丁)。

株式会社中日新聞社及び株式会社日本経済新聞社名古屋支社からの新聞等仕入れ金額については、いずれも当事者間に争いがなく、その余は、いずれも名古屋国税局直税部長が取引照会をして得た回答により判明した実額である。

(二) 新聞等購読料収入金額

金一億三七六九万四五〇八円

右(一)の新聞等仕入れ金額を前記三の新聞等原価率で除した金額である。

(三) 折込、補助・奨励金等収入金額

別紙「折込、補助・奨励金等収入金額明細表」昭和五八年分欄に記載のとおり合計金五七〇一万三一一九円である(乙一、四、六、証人前川晶六ないし八丁)。

株式会社日本経済新聞社名古屋支社及び株式会社中部経済新聞社からの補助・奨励金等収入金額並びに株式会社中日興業からの折込収入金額については当事者間に争いがなく、その余はいずれも名古屋国税局直税部長が取引照会をして得た回答により判明した実額である。

(四) 売上原価以外の必要経費の額(経費)

金六四〇九万七七五〇円

右(二)及び(三)を合計した総収入金額に前記三の同業者の経費率を乗じた金額である。

五  右三、四に対する反証として原告が主張する一部実額、一部推計による所得金額の算出方法の合理性について

1  原告は、昭和五七年ないし昭和五九年分の所得が別表1ない3のとおりであり、その内訳のうち各年分の総営業収入及び昭和五九年分の売上原価は実額であり、その余のうち売上原価は総営業収入に五四・九パーセントの原価率を、販売費及び一般管理費は総営業収入に四〇パーセントの経費率をそれぞれ乗じたものである旨主張するので、以下順次検討する。

2  総営業収入について

(一) 新聞等購読料収入について

証人佐古田宣章及び原告本人は、甲九、一〇(集金台帳)が新聞購読料が入金された際に領収書の半券と照合して記載されたものであって新聞の売上は全て記載されており、これを集計したものが甲四(「総収入金額の算定」と題する書面)であり、これに銀行振込による新聞購読料の入金を銀行通帳から拾い出した甲六(「銀行振込分」と題する書面)の金額を合計すると新聞等購読料収入の全てを網羅したことになる旨供述する。

しかし、甲九、一〇には、数回の入金を後に一括して記載している部分や(原告一七丁)、原告自身その記載内容について説明できない部分がある(原告一七丁)外、一万あるいは一〇万単位で記載された部分が極めて多く、その記載内容自体からして集金された新聞購読料を正確に記載したものとは到底認められない。さらに、甲九、一〇を裏付ける基礎資料の提出が全くないことや集金台帳としての性格上売掛金の把握ができないことも考え併せると、甲九、一〇を直ちに新聞等購読料収入の算定の基礎として採用することはできない。

(二) 折込、補助・奨励金等収入について

右のうち昭和五七年一月ないし五月分の折込広告収入のうち原告が直接注文を受けた分及び同年分の共同新聞販売からの補助・奨励金等収入以外のものは、原告の取引先に対する調査の結果実額で把握したものであって、これを覆すに足りる証拠はない。

昭和五七年一月ないし五月分の折込広告収入のうち原告が直接注文を受けた分につき、原告は、甲七(「チラシ広告収入(1)中日サービスセンター」と題する書面)を提出しているが、その金額の算出根拠は本件全証拠によっても不明である

昭和五七年分の補助・奨励金等収入については、原告は算定の資料を有しないため、原告提出の証拠には収入として計上されていない(甲一、五、原告本人八丁、証人佐古田七ないし一〇丁)。

(三) 以上のとおりであるから、原告提出の営業収入に関する証拠は全体としてはもちろん、部分的にも信用できない。

3  原告主張の原価率及び経費率について

右につき原告は、いずれも全国の中小企業の平均値であるTKC経営指標の新聞小売業に関するものを採用している(甲一七、証人佐古田五、六丁)。

しかし、右は全国の新聞小売業者の平均値であって、地域性や業態を全く反映していない外、売上原価については、昭和五七年分の一部を除いて実額で把握されており、実額で把握できなかったものについても前記四1(一)のとおり原告自身の当該取引先に関する指数を用いて算出しており、右原価率による算出よりも信頼性が高いこと、経費率についても、右指標は法人に関するものであるところからその数値から役員報酬相当部分を差し引いて使用しており個人営業における経費率の根拠として適切ではない。

よって、原告主張の原価率及び経費率は採用できない。

六  以上のとおり、被告のなした推計の方法は合理的であるというべきであり、原告の昭和五七年分ないし昭和五九年分の各所得金額は前記四1ないし3に記載の各金額であると認められる。

したがって、右各金額の範囲内でなされた本件各更正処分には何ら違法な点はなく、また、これを前提としてなされた本件各過少申告加算税の賦課決定処分にも何ら違法な点はない。

七  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大橋英夫 裁判官 橋本勝利 裁判官 多見谷寿郎)

本件課税処分等の経緯

別表一

(昭和57年分)

<省略>

別表二

(昭和58年分)

<省略>

別表三

(昭和59年分)

<省略>

別紙

同業者比率表(昭和五七年分)

(金額単位円、率は小数点以下五位を切り上げ)

<省略>

別紙

同業者比率表(昭和五八年分)

(金額単位円、率は小数点以下五位を切り上げ)

<省略>

別紙

同業者比率表(昭和五九年分)

(金額単位円、率は小数点以下五位を切り上げ)

<省略>

別紙

所得金額計算表

<省略>

別紙

新聞等仕入金額明細表

<省略>

別紙

折込、補助奨励金等収入金額明細表

<省略>

別表1

昭和57年分

<省略>

別表2

昭和58年分

<省略>

別表3

昭和59年分

<省略>

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