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津地方裁判所四日市支部 平成14年(ワ)103号 判決 2005年4月20日

原告

X1

(ほか4名)

同5名訴訟代理人弁護士

渡邉功

同5名訴訟復代理人弁護士

服部一孝

被告

桑名広域清掃事業組合

同代表者管理者

同訴訟代理人弁護士

楠井嘉行

宇都木寧

北薗太

川端康成

西澤博

市川洋一郎

赤木邦男

加藤明子

今井潔

中西正洋

同指定代理人

舟橋則夫

内田省己

内山育雄

葛山進

笹井保男

金森敏恭

伊藤邦男

花井了一

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  事実関係について

本件の事実関係については、上記の第2の2の前提となる事実(当事者間において争いがない事実及び掲記する証拠並びに弁論の全趣旨によって認められる事実による。)に加えて、〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1)  被告の本件事業について

ア  被告は、三重県内の桑名市、東員町、いなべ市及び木曽岬町の2市2町の清掃業務を行う一部事務組合(特別地方公共団体)であること(昭和52年2月1日設立許可)、

イ  被告は、本件土地を含む本件力尾地内において、ごみ固形燃料(RDF)化施設の建設工事を行い、また、三重県も、RDF焼却・発電施設の工事を進めたこと、被告が進めている本件事業は、環境にやさしく、ダイオキシンの発生抑制につながる資源循環型ごみ処理システムであること、本件事業により、2市2町18万人の住民を始めとして、県下26ヶ市町村のごみ処理が行われること、

ウ  被告が従前から稼動させていたごみ焼却施設は、昭和54年の建設以来すでに20年が経過し、建築物、構造物を始めとして、施設全体に老朽化が進んだこと、排ガス処理施設老朽化により、大気汚染防止法に係る基準値等は満たしているものの、現状を維持するのに苦慮している状況にあること、そこで、ごみのもつエネルギーの有効活用、環境負荷軽減の施策としてRDF化施設の建設が進められたものであること、

エ  本件事業は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)及びダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)の規定に基づき、ダイオキシン類の排出規制が強化、適用される平成14年12月1日までに完成させ、その施設を稼動させなければならなかった極めて公共性・緊急性の高い事業であること、

オ  被告の事業は、三重県の発電所の爆発事故により大きな打撃を受けたが、現在、被告のごみ固形燃料化事業の再稼動を始めており、今後2市2町の住民のごみ処理を担っていること、

(2)  本件契約における使用貸借期間について

ア  本件契約第3条には、本件土地の使用貸借の期間を「平成11年4月1日から目下準備中の土地区画事業組合設立、土地区画整理事業による仮換地指定の後前条に規定する必要な施設用地としての譲渡をもって終了する。」と明記されていること、これは、土地区画整埋組合が設立され仮換地して以後、被告が施設用地を取得するまでの間と定められているものであること、

イ  力尾土地区画整理事業は、平成9年10月5日区画整理組合設立準備委員会が発足し、土地利用計画案、資金計画、定款、事業計画の作成作業に入り、権利関係調査、測量調査、環境影響評価に係る現況調査の作業が終了していること、

ウ  原告X2は、〔証拠略〕のとおり力尾区画整理準備委員会の事業に同意する旨の平成13年11月26日付け同意書を提出していること、

エ  力尾土地区画整理事業の最近の進捗状況は、次のとおりであること、

(ア) 平成12年、準備委員会が土地区画整理案の検討を行ったこと、

(イ) 平成13年、「桑名・員弁生活創造圏環境交流エリア構想(以下「環境交流エリア構想」という。)」が打ち出されたことから、土地区画整理案と環境交流エリア構想との整合について検討を行ったこと、さらに、土地区画整理案の実現化方策として、経済産業省のエコタウン構想を目指すため、国、三重県など関係機関と検討、協議を行ったこと、

(ウ) 力尾土地区画整理準備組合からa株式会社代表取締役X2に対し、平成13年11月1日「土地区画整理事業への協力依頼について」と題する書面が出されたこと(〔証拠略〕)、原告X2は、準備組合に対して、上記のとおり平成13年11月26日付け同意書(〔証拠略〕)を提出したこと、

(エ) 平成14年、引き続きエコタウン構想について検討、協議が行われていること、また、原告らを除く地権者が、準備委員長に土地区画整理事業推進の同意書を提出したこと、

オ  本件契約においては、仮に土地区画整理事業が不調となったときは、被告が本件土地をRDF事業の用地として買収する約定になっていること(〔証拠略〕)、また、土地区画整理事業が完成すれば、当然優良宅地が供給されるのであり、組合員が多額の負債を被るということはないこと、

(3)  保安林の解除について

ア  被告は、当初は、本件事業を含む土地区画整理事業地内全地域を対象として保安林解除の計画をしたこと、そのために地権者全員から同意書を徴求したこと、保安林解除のために公共の目的が必要となるところ、当初はRDF事業および関連事業の目的で保安林解除ができるとの計画であったこと、ところが、保安林解除手続をすすめる過程で、三重県から、本件事業について具体的な事業計画が策定されているものの、関連事業については具体的計画が現実に策定されていなければならないとの指摘を受けたこと、そこで、被告は、とりあえず第一段階として本件事業用地のみ保安林解除手続を行うこととなり、それ以外の区域については、第二段階として保安林解除申請を行うこととなったこと、このことについては、原告らを含む地権者にこの経緯を含めて十分に事情等説明を行い、了解を得ていること、そして、旧多度町長は地権者らに説明した後、平成11年2月ころから保安林解除の申請手続を行ったこと、

イ  地元説明会は何回も開催されたが、平成10年1月14日、旧多度町の力尾集会所における力尾土地区画整理組合準備委員会事項書において、保安林指定解除の同意について説明がなされたこと及び「施設部分と工業団地部分は時期がずれるので申請は、一期、二期に分ける」ことが明確に記載されていること、

平成10年8月ころ、地権者から保安林解除に同意書を徴求していること、そして、原告X1からも本件土地について保安林の指定解除の同意書を徴求していること、

ウ  原告X2は、土砂採取業等を営んでおり、上記の保安林解除申請手続を熟知していたこと、具体的に、被告は、平成10年1月23日、力尾区全体説明会のあとに、原告X2にも説明を行い事業への協力依頼を行っていること、

(4)  本件甲土地及び本件乙土地の用地買収について

ア  本件甲土地の用地買収について

(ア) 本件甲土地は、登記簿の表題部に「B」の記載があったが、所有権保存登記はなされていなかったこと、

(イ) 被告が、保安林の解除の申請を行うため、調査したところ、「B」の除籍謄本は戦災により消失し、相続人等の確認が難しかったこと、そして、地元関係者等を調査しても、実質的な所有者やBの相続人等縁故者が容易に判明しなかったこと、そこで、被告は、保安林解除申請時期に迫られていたことから、保安林解除がなされたとしても、実質的な所有者や相続人に不利益を及ぼすことはないと考えて、やむをえず「B」のままの名義で保安林解除を行ったものであること、

(ウ) その後、被告が、相続人を調査したところ、平成13年夏ころになってようやく、Bは大正14年10月21日に死亡しており、その相続人が判明したこと、相続人Cから保安林解除には異議がなく、土地の売渡しに応ずる旨の承諾書を徴収したこと(〔証拠略〕)、

(エ) そして、平成14年1月8日付けで、大阪市旭区〔番地略〕C名義でその所有権保存登記がなされ、平成14年3月25日、被告は、Cから本件甲土地の売渡を受け、平成14年3月25日に所有権移転登記手続を経由したこと(津地方法務局桑名支局平成14年3月25日受付第5641号所有権移転登記)、

イ  本件乙土地の用地買収について

(ア) 本件乙土地は、被告の保安林解除申請の段階では、登記簿の表題部に「D」の記載があったが、所有権保存登記はなされていなかったこと、

(イ) 被告が調査したところ、「D」の除籍謄本は戦災により消失し、その相続人等の確認が難しかったこと、しかし、その後被告が、調査したところ、桑名市掛樋17番地 訴外Eが実質上の所有者であることが判明したので、同人と交渉し、平成10年5月15日ころ、その保安林解除及び土地区画整理の同意を得たこと、そして、同時にE作成の同意書も徴求していること、

(ウ) 当時、Eへの所有権保存登記手続が直ちにできなかったので、被告は、Eの承諾を得て、保安林解除の申請は「D」名義で申請していること、

(エ) その後の調査から、Dは、昭和4年2月13日に死亡していることが分かり、桑名簡易裁判所にてE氏の所有権を確認する旨の判決を取得して、平成14年1月29日付で、E名義に所有権保存登記がなされ、平成14年3月25日、被告は、Eから本件乙土地の売渡を受けて、平成14年3月25日に所有権移転登記手続を経由したこと(津地方法務局桑名支局平成14年3月25日受付第5640号所有権移転登記)、

(5)  本件土地の図面について

ア  〔証拠略〕の図面は、力尾土地区画整理準備組合が、平成9年ないし平成10年ころに、地権者らの承認のもとに作成した図面であること、そして、図面作成当時は原告らもこれを承認していたこと、

イ  その後に、原告らは、被告や準備組合との関係が悪くなってから、〔証拠略〕の図面を虚偽のものと主張し始めたものであること、

ウ  他方、〔証拠略〕の図面は、その作成経緯は明らかではなく、地元の地権者らは、これを了承していないこと、

(6)  原告らとの本件事業用地の売買契約と本件契約締結の経緯について

ア  被告は、上記のとおりダイオキシン類の規制の観点から、平成14年12月までに本件事業を開始する必要に迫られていたこと、そして、原告らとの土地の売買交渉は困難を極めたが、本件事業の期限が迫っていたことから、〔証拠略〕の売買契約(売買代金5億1111万9125円)を締結したものであること、

イ  本件事業の用地の存する桑名市多度町力尾字沢地付近の土地は、その公図が存しないか、あるいは、存したとしても精度の低い、いわゆる「集合図」のみしかない地域であったこと、

ウ  力尾土地区画整理事業の設立準備委員会は、平成9年10月に、土地区画整理事業を行うために発足したが、登記簿の調査に基づく権利関係調査、現地踏査、地権者への調査等により外周測量を行い、集合図(調整公図)を作成していること、そして、力尾土地区画整理事業の設立準備委員会が行った境界測量は、平成9年10月、訴外b株式会社に委託して三重県土木部が定めた用地等共通仕様書を適用して行っていること、しかし、これは隣接地の所有者の立会いが未了なものであり、また、飛地、無籍地、白地の土地の位置や所有関係等の問題が未解決であり、かつ、境界の確定や面積の確定等も行われていないものであること、また、本件土地の位置については、原告X2らはその境界立会いをしていないこと、そして、被告は、力尾土地区画整理事業の準備委員会作成の集合図(調整公図)を借り受けて、これを参照して〔証拠略〕を作成したこと、

エ  当時の状況としては、被告は、本件土地を含む桑名市多度町地内において、平成14年12月に稼動を目指してごみ固形燃料(RDF)化施設の建設の必要に迫られていたこと、そして、三重県も被告の施設建設と並行して、RDFの焼却・発電施設の建設を進めていたこと、このように、本件事業は、廃棄物処理法及びダイオキシン類対策特別措置法の規定に基づき、ダイオキシン類の排出規制が強化して適用される平成14年12月1日までに稼動する必要に迫られていたこと、

オ  力尾土地区画整理事業は、平成9年10月に発足したが、設立準備委員会の集合図が上記のようなものであったことから、〔証拠略〕において表示された本件土地の位置は、不確かなものであったこと、そこで被告は、〔証拠略〕で表示された土地よりも広い範囲を無償で借り受けることとしたこと、すなわち、桑名市多度町力尾字沢地地内(小字全域の土地)の地権者全員との間で本件の使用貸借契約を締結したこと、このことは、〔証拠略〕の平成10年1月28日付け「力尾地区の土地利用について」と題する書面にも明記されていること、このような経緯を理解してくれた地権者の了解を得て、本件の使用貸借契約を行ったものであること、

このように、本件土地付近には公図がなく、土地区画整理事業が完了するまでの間(土地区画整理事業が完了するまでには相当長い年月を要する)、地権者から明渡請求がないように事業予定地より広く字沢地全体を無償で借り受けたものであること、そして、被告は、今後、本件事業計画地付近の公図が整備されるか、土地区画整理事業が進行すれば、事業屠地の買収等を行いたい意向であったので、その旨を原告らを含む全ての使用貸借契約書に記載していること、

カ  被告は、本件土地を〔証拠略〕より精度の高い図面で大概の位置関係を推定し、特定する作業を専門家たる富田常豊土地家屋調査士に委託したこと、「桑名郡多度町大字力尾字沢地・石塚・八反田・阿越・南谷の字図・登記簿・旧土地台帳」「多度町役場保管図面」「航空写真」「林班図」等を参照しながら推測特定する作業を行った富田常豊土地家屋調査士は、桑名広域清掃事業計画図を基本図面として、本件土地の位置について以下のように検証を進めたこと、

<1> 事業計画図に林班図を重ね合わせたもの(〔証拠略〕において本件土地を青色にて着色した部分)

<2> 事業計画図にb株式会社が現地にて地権者に聞き取り調査を行い作成した図面(以下、「b図面」という。)を重ねたもの(同様に〔証拠略〕において本件土地を黄色にて着色した部分)

<3> 基本図面に原告X2主張の〔証拠略〕測量図を重ね合わせたもの(同様に〔証拠略〕において本件土地を赤色にて着色した部分)

上記のような3つのパターンの図面について検証していくと、本件土地の位置については、すべて様々であって、〔証拠略〕は、信頼性の低い作成者、作成経緯不明の図面であり、〔証拠略〕は、外周の精度は高いが、中の地番や形、面積の信憑性は低いものとなったこと、林班図が当時の地形をほぼ正確に表現していると解されるが、林班図に記載した青色着色部分の位置が本件土地の位置であるとは断定は出来ない状況にあること、

キ  以上のような経緯であるので、被告は、原告らを含む桑名市多度町力尾字沢地地内(小字全域)の土地の地権者と使用貸借契約を締結したものであること、

(7)  原告らの宅地等開発事業に関する技術マニュアルについて

ア  指導開発マニュアルについては、「宅地開発事業に関する技術マニュアル」は存在するが、同マニュアルは、都市計画法第29条に墓づく開発許可申請を行う技術マニュアルであること、このマニュアルの目的は、無計画な宅地開発を防止し、もって開発対象地並びに、開発地周辺の住民に対して、防災を含めた良好な住環境を提供しようとするところにあること、本件事業については、都市計画法第29条第1項第3号「政令で定めた公益上必要な建築物」にあたり、土地区画整理事業は、都市計画法第29条第1項第6号の「土地区画整理事業の施行として行う開発行為」にあたり、いずれも都市計画法の開発許可申請の制限対象外工事になること、このことから、本件事業については、都市計画法の開発許可申請の対象行為ではなく、したがって、上記マニュアルの対象外工事であること、

イ  また、本件事業と土地区画整理事業は、事業目的、事業予算、事業主体も違うことから、それぞれ個別の開発事業として事業毎に行うべきであること、そして、RDF化工事については、公共性の強い工事であることから、工事手順を厳格に行うべきとして上記マニュアルに準拠した工事工法によることにしたものであること、

ウ  なお、被告は、土地区画整理事業区域の工事計画が遅れていることから、同区域の雨水の一部が、RDF化工事区域内に流入する状況にあるおそれが高いと判断したことにより、その対策として周辺の環境保全と災害防止に万全を期すべく工法を検討したところ、<1>バイパス水路の設置と<2>既存調整池の改修の2方式を検討したこと、その結果、現場が山地であるという地形上の問題点、並びに、河川までの距離が長いという問題点から、第2の調整池の改修という方法を選定し改修工事を速やかに行うこととしたこと、

(8)  本件契約の用途について

ア  本件契約における使用目的は、RDFプラント施設及び関連施設の用途に供するものと明示されていること、

イ  被告は、本件契約締結時より、本件事業について十分説明しており、原告らもこれを承知の上で本件土地を被告に貸与したものであること、そして、RDFを燃料として電気をつくる発電施設の設置も契約書第2条のRDFの関連施設に含まれるものであること、

ウ  なお、原告が提出した〔証拠略〕の図面によれば、本件土地は、三重県の発電施設部分には存しないこと、つぎに、富田土地家屋調査士が他と比較してまだ相対的に信用しえる林班図によっても、三重県の発電施設部分には本件土地は存しないこと、また、〔証拠略〕のb株式会社のb図面によれば、本件土地の大部分は、被告の施設用地内であり北西角の一部が三重県の発電施設部分にかかることになること、しかし、上記のとおり〔証拠略〕のb株式会社のb図面は、外図の精度はともかく、内部位置関係は机上計算によるもので、精度が著しく低いことから、仮に〔証拠略〕の図面に基づいたとしても、その一部分が発電所用地となっているにすぎないこと、

以上の各事実が認められ、上記認定に反する〔証拠略〕は、上掲の他の各証拠に照らしてこれらを採用することはできない。そして、本件全証拠によるも、他に上記認定を左右するに足りる証拠は何ら存在しない。

2  争点について

(1)  理由Aについて

上記1で認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件契約の使用貸借期間については、土地区画整理組合が設立されて、仮換地をして以後、被告が施設用地を取得するまでの間と定められていることから、これをもってその使用貸借期間が不明確であるとはいえないこと、原告X1は、力尾土地区画整理事業が実施されることを承知したうえで、本件土地についての本件契約を締結しており、仮に土地区画整理事業が不調となってしまった場合には、本件契約においては、被告が、本件土地を本件事業の用地として買収する約定こなっており、その約定の内容は、原告らにとって一方的に不利なものとはなっておらず、むしろ、原告らの利益が図られるものとなっていること、土地区画整理事業については、上記認定のとおり進捗していること、したがって、土地区画整理事業が完成すれば、優良な宅地が供給されることになっていて、その組合員が多額の負債を被るというようなことは考えられないこと、保安林の指定解除については、上記認定のとおりの経過で第一段階としての保安林解除手続がなされたものであり、原告X1や原告X2はいずれもその経過を承知していて、被告が原告らを騙したというような事実は全く認められないことがそれぞれ認められる。したがって、原告らの理由Aでいうところの無効理由又は解除理由の主張事実はいずれも認められず、同主張は理由がないから、これを採用できない。

(2)  理由Bについて

上記1で認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告らが主張するところの〔証拠略〕の図面は、何ら虚偽のものではないことは明らかであるから、とうてい本件契約における信頼関係を破壊するような理由とはならない。したがって、原告らの理由Bの主張事実は認められず、同主張は理由がないから、これを採用できない。

(3)  理由Cについて

原告らの理由Cについては、本件契約とは関連のない事項であることから、その主張自体失当なものというべきであってその理由がなく、これを採用できない。のみならず、理由Cとの関連で、本件契約においてその信頼関係を破壊して、解除理由をもたらすような事実については、本件全証拠によるもこれを認めるに足りるものはなく、この点においても、原告らの同主張は理由がないから、これを採用できない。

(4)  理由Dについて

上記1で認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件甲土地及び本件乙土地については、実質的所有者名義人での所有権保存登記がなされ、被告は、その所有者からの買収手続を行ってその手続は全て完了していることが認められ、しかも、この点は本件契約とは直接は関連のないことである。したがって、いずれにしても、原告らの理由Dでいうところの本件契約における信頼関係を破壊するような理由の主張事実は認められず、同主張は理由がないから、これを採用できない。

(5)  理由Eについて

上記1で認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事業の工事は、原告ら主張の技術マニュアルの対象外の工事であることが認められ、その工法には何ら違法な点は認められないから、原告らの理由Eでいうところの本件契約における信頼関係を破壊するような埋由の主張事実は認められず、同主張は理由がないから、これを採用できない。

(6)  理由Fについて

上記2の(1)の理由Aについての認定・判断のとおりであって、保安林の指定解除については、上記認定のとおりの経過で第一段階としての保安林解除手続がなされたものであり、原告X1や原告X2はいずれもその経過を承知していて、被告が原告らを騙したというような事実は全く認められない。したがつて、原告らの理由Fでいうところの本件契約における信頼関係を破壊するような理由の主張事実も認められず、同主張は理由がないから、これを採用できない。

(7)  理由Gについて

上記1で認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地付近はいわゆる公図の整備されていない地域で、被告は、土地区画整理事業が完了するまでの間(土地区画整理事業が完了するまでには相当長期間を要するものと解される。)、地権者から土地の明渡請求を受けないように、本件事業予定地より広く、多度町大字力尾字沢地全体を無償で借り受けたものであること、そして、被告は、本件事業計画地付近の公図が整備されるか、土地区画整理事業が進行すれば、その本件事業用地の買収等を行いたい意向であったことから、その旨を原告らを含む全ての本件契約の当事者に周知させるために本件契約書にこれを記載していること、このように被告は、字沢地地内(小字全域の土地)の地権者全員との間において本件契約を締結しているものであり、その全域の外周は図面によって特定されているものであるから、本件契約においては、契約当事者間において、その対象土地は全体として特定されているものと認めるのが相当であることがそれぞれ認められる。そうすると、本件契約においてその対象土地が特定されていないから不成立であるというような原告らの主張は認められない。したがって、原告らの理由Gでいうところの不成立の理由の主張事実は認められず、同主張は理由がないから、これを採用できない。

(8)  理由Hについて

上記1で認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告による本件土地の使用については、何ら本件契約に定める用途に違反する事実は認められない。したがって、原告らの理由Hでいうところの契約違反の理由の主張事実は認められず、同主張は理由がないから、これを採用できない。

3  まとめ

以上のとおりであって、原告らの各主張(理由Aないし理由H)は、いずれもそれらの理由がなく、これらを採用することができない。

そうすると、原告らの本件請求原因事実は認めることができず、被告には、本件土地についての本件契約という使用権限が認められるから、原告らの本件土地の明渡請求については、その余の点について判断するまでもなく、その理由がないものと認めるのが相当である。

第4 結論

よって、原告らの本件請求は、失当なものであってその理由がないから、これらをいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 安間雅夫)

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