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津地方裁判所四日市支部 平成4年(ワ)128号 判決 1999年2月26日

三重県鈴鹿市<以下省略>

原告

X1

三重県尾鷲市<以下省略>

原告

X2

岐阜県加茂郡<以下省略>

原告

X3

三重県四日市市<以下省略>

原告

X4

三重県四日市市<以下省略>

原告

X5

右五名訴訟代理人弁護士

浅井岩根

秋田光治

井口浩治

今村憲治

太田勇

小川淳

織田幸二

奥村哲司

角谷晴重

北村明美

纐纈和義

柴田義朗

清水誠治

新海聡

杉浦英樹

鈴木良明

高柳元

柘植直也

福井悦子

福島啓氏

松川正紀

東京都中央区<以下省略>

被告

野村証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

川村和夫

太田千絵

右川村和夫訴訟復代理人弁護士

松隈知栄子

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告は、原告X1に対し、金二六二一万七五〇〇円及び内金八〇一万五五〇〇円に対する昭和六二年五月二一日から、内金一八二〇万二〇〇〇円に対する平成三年四月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、金七二二万五〇四〇円及びこれに対する平成元年三月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、金一一八六万二六八〇円及びこれに対する平成二年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告X4に対し、金六二三万一一〇〇円及びこれに対する平成二年七月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告X5に対し、金四八六四万四二五〇円及び内金二五九六万一二五〇円に対する平成二年七月一九日から、内金七三五万一五〇〇円に対する同年八月一〇日から、内金一五三三万一五〇〇円に対する同年一一月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告(証券会社)の従業員らからワラント(新株引受権証券)取引の勧誘を受け、被告からワラントを購入した原告らが、被告の従業員らは、原告らに対してワラント取引の勧誘をした際、ワラント取引の一般的な仕組みやその特質について十分説明せず、また、誤解を生ぜしめる表示をしたり、必ず利益が上がるかのような断定的判断の提供をし、さらに、原告らの証券投資に関する知識や経験、意向、資力に照らし、原告らがワラント取引についての適合性を欠くにもかかわらずこれを勧誘するなどしたものであり、かかる原告らに対する一連の勧誘行為等はいずれも違法であって、この違法行為によってワラント買付金額相当ほかの損害を被ったとして、被告に対し、民法七一五条に基づき、右損害の賠償をそれぞれ求めるとともに、原告X5が、被告の従業員は原告X5に無断でリコーワラントを購入したとして、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、その購入代金相当額の支払いを求めた事案である。

一  基礎となる事実(争いがない事実のほかは、括弧内掲記の証拠により認定した。)

1  被告は、証券業を営むことを目的とした株式会社(証券会社)である。

2  原告X1(以下「原告X1」という。)は、昭和六二年五月一八日ころ、被告四日市支店の従業員であるB(以下「B」という。)による勧誘に応じて、被告から三菱商事ワラント(外貨建ワラント、数量一〇ワラント、以下「本件三菱商事ワラント」という。)を代金八〇一万五五〇〇円で買い付けた(同月二一日受渡)。

また、原告X1は、平成三年四月一九日ころ、被告四日市支店の従業員であるC(以下「C」という。)による勧誘に応じて、被告から日立情報システムズワラント(外貨建ワラント、数量一〇〇ワラント、以下「本件日立情報システムズワラント」という。)を代金一五二〇万二〇〇〇円で買い付けた(同月二四日受渡)。

なお、原告X1は、平成二年一月二六日、被告からリコーワラント(数量七ワラント)を代金一六四万五〇〇〇円で買い付け、同年四月二五日、これを一九五万六七一三円で売り付けて、約三一万円の利益を得、また、平成二年九月一四日、被告から川崎製鉄ワラント(数量一一〇ワラント)を代金一四二五万三八〇〇円で買い付け、平成三年四月一九日、これを一四九八万二六六〇円で売り付けて、約七三万円の利益を得た(乙第一号証)。

3  原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成元年三月八日ころ、被告新宿駅西口支店の従業員であるD(以下「D」という。)による勧誘に応じて、被告から神戸製鋼所ワラント(外貨建ワラント、数量二九ワラント、以下「本件神戸製鋼所ワラント」という。)を代金六〇二万五〇四〇円で買い付けた(同月九日受渡)。

なお、原告X2は、平成元年三月二九日、被告から旭化成ワラント(数量二〇ワラント)を代金三六九万七三七五円で買い付け、同年四月三日、これを四一六万五九三〇円で売り付けて、約四七万円の利益を得、また、同年四月四日、被告から三井物産ワラント(数量二〇ワラント)を代金三八五万四一〇〇円で買い付け、同年一二月五日、これを四二二万八三〇八円で売り付けて、約三七万円の利益を得、さらに、同年四月一一日、被告からダイセルワラント(数量一〇ワラント)を代金二二九万二一八一円で買い付け、同年四月一九日、これを二三二万〇二四〇円で売り付けて、約三万円の利益を得た(乙第二号証)。

4  原告X3(以下「原告X3」という。)は、平成二年六月二〇日ころ、被告岐阜支店の従業員であるE(以下「E」という。)による勧誘に応じて、被告から日新製鋼ワラント(外貨建ワラント、数量一一〇ワラント、以下「本件日新製鋼ワラント」という。)を代金一〇一六万二六八〇円で買い付けた(同日受渡)。

原告X3は、平成四年五月七日、本件日新製鋼ワラントを代金七二一四円で売却し、国内取引税二一円、譲渡益税七二円を差し引かれた七一二一円を受領した。

5  原告X4(以下「原告X4」という。)は、平成二年七月一八日ころ、当時被告四日市支店の従業員であったF(以下「F」という。)による勧誘に応じて、被告から大京ワラント(外貨建ワラント、数量三〇ワラント、以下「本件大京ワラント」という。)を代金五二三万一一〇〇円で買い付けた(同月二三日受渡)。

6  原告X5(以下「原告X5」という。)は、平成二年七月一六日ころ、Fによる勧誘に応じて、被告からヨミウリランドワラント(外貨建ワラント、数量一〇〇ワラント、以下「本件ヨミウリランドワラント」という。)を代金二五九六万一二五〇円で買い付け(同月一九日受渡)、同年一一月二二日ころ、Cによる勧誘に応じて、被告から大林組ワラント(数量一三〇ワラント、以下「本件大林組ワラント」という。)を代金一〇七三万二五〇〇円で買い付けた(同月二八日受渡)。

また、原告X5の名義により、リコーワラント(数量五〇ワラント、以下「本件リコーワラント」という。)が、同年八月三日ころ、代金七三五万一五〇〇円で被告から買い付けられている(同月一〇日受渡)。

二  当事者の主張

1  ワラント取引勧誘における証券会社の従業員の義務について

(原告らの主張)

(一) ワラント取引の危険性について

ワラント(とりわけ外貨建ワラント)は、以下のように、顧客に損失を生じさせる危険性の極めて高い特異な商品である。すなわち、ワラントは、権利行使期間と権利行使価格とが予め定まっており、現在の株価がワラントの権利行使価格を上回らないままの状態でその権利行使期間を経過すると、その価値がなくなり、紙くず同然と化すものである。また、外貨建ワラントは、ほとんどの場合、証券会社が顧客との間で自ら売主となって手持ちあるいは他から調達したワラントを顧客に売り付け、自ら買主となって顧客のワラントを買い付ける仕組み(相対取引)となっているため、顧客が売却を望んでも、証券会社がこれに応じない場合には事実上売却が不可能となり、その価格も取引市場によって形成されるものではなく、証券会社自身が決定しているものである。さらに、外貨建ワラントは、為替変動の影響を受けるものである。

(二) 適合性の原則について

証券取引においては、いわゆる自己責任の原則が妥当するが、その前提として、投資家がその取引を自らの責任において行い得るに足りる環境にあることが必要であり、まず、証券会社の従業員は、顧客の知識、経験、意向、資力等から、当該顧客の取引への適合性を慎重に検討した上、顧客に適合した取引のみ勧誘をなす義務を有するものというべきである。そして、特に外貨建ワラント取引については、前記のとおり危険性の極めて高い特異な商品である以上、少なくとも専門的知識に長けた機関投資家が行うにとどめるべきものであり、いわゆる一般投資家に適合するものとは認めがたく、証券会社の従業員は、一般投資家であることが明らかな顧客に対して、外貨建ワラント取引を勧誘すべきではない。

(三) 説明義務及び助言義務について

自己責任の原則を妥当させるには、投資家に対して、適切な投資判断を行って自己責任を果たし得るだけの基礎情報が与えられることが必須であり、ワラントが前記のとおり危険性の極めて高い特異な商品である以上、証券会社の従業員は、顧客にその購入を勧誘するに際し、顧客に対して、前記のようなワラント取引の一般的な仕組みやその特質、とりわけ、ワラントの商品構造(新株引受権証券であること、権利行使価格、権利行使期間等)、株価と権利行使価格との関係、ワラントの価格とその意味(ポイント、パリティ、プレミアム等)、ワラントの価格の変動要因、権利行使期限を過ぎると無価値になること、証券会社自身が売買の相手方となる相対取引であり、価格は市場で形成されるものではなく、業者間の気配値にとどまること、さらに、実際に勧誘している当該ワラントの権利行使期間や権利行使価格等の具体的な意味、内容などについて、資料等を示すなどしてよく説明し、これらを十分理解させた上でワラントを購入させるべき義務を有するものというべきである。

また、証券会社の従業員は、右の説明義務に引き続き、顧客に証券取引をさせた後も、信義則上、その証券の処分時期等につき適切な助言をする義務を有するものというべきであり、ワラント取引については、それが前記のとおり危険性の極めて高い特異な商品である以上、一層細やかな指導、アドバイスをなすべきである。

(四) 断定的判断の提供の禁止について

顧客に比して卓越した専門的知識、能力、豊富な情報網を有する証券会社の従業員が、顧客に対し、断定的な判断を提供して特定銘柄の取引を勧誘するときは、もはや当該顧客自身の判断による取引ではあり得ず、ここに自己責任の原則を適用することはできない。したがって、証券会社の従業員は、顧客に対し、断定的判断を提供して取引を勧誘してはならない義務を有するものというべきである。

(五) 虚偽の表示、誤解を生ぜしめる表示の禁止について

証券会社の従業員が、有価証券取引について、その専門的知識や能力、顧客からの信頼等を背景に、顧客に対し、虚偽の表示や誤解を生ぜしめる表示をした場合(積極的に表示することのほか、必要な表示を欠く不作為を含む。)には、自己責任の原則の適用根拠が失われるのみならず、それ自体、刑事罰にも値する悪質な行為であるといわざるを得ない。したがって、証券会社の従業員は、有価証券取引について、顧客に対し、虚偽の表示、誤解を生ぜしめる表示をしてはならない義務を有するものというべきである。

(被告の主張)

投資家は、自らの判断及びリスク負担により、各種投資商品に対して投資するものであり、その投資判断の前提である投資商品の内容、性質等について調査する義務は、投資家自身にあるものであって、証券会社が投資家に対して有価証券投資を推奨する際に併せて投資判断に資する情報を提供しているのは、あくまでもサービスとして行っているものである。したがって、証券会社は、顧客に対し、その証券投資についての知識や経験、関心の程度に応じて、商品説明及び銘柄説明をし、顧客が投資判断をするのに必要な情報を提供しており、その内容は、顧客の知識や投資経験等によって、自ずと濃淡を生じるものである。そして、ワラント取引を勧誘する場合において、それに必要な説明の内容は、ワラントが新株引受権証券であること、権利行使期限があり、定められた権利行使期間内にワラントのまま売却するか、新株引受権を行使し、権利行使金額を追加払込して新株を購入するかの選択が必要であり、権利行使期間内に売却も権利行使もしない場合には、ワラントはその価値がなくなり、ワラント買付代金全額を失うことになることが中心である。

2  被告の原告X1に対する損害賠償義務について

(原告X1の主張)

(一) 適合性の原則違反

原告X1は、昭和一三年○月○日生で、高校卒業後、父親の経営する水産加工業を手伝い、昭和三五年五月にa運輸株式会社(以下「a運輸」という。)を設立して、その代表取締役に就任しているが、同会社は、従業員四五名の小規模の運送屋であり、原告X1が特段の経済的識見を有しているわけではない。

原告X1は、株式等の投資経験は皆無であったところ、昭和六一年七月ころ、被告四日市支店の従業員Gからの勧誘を受けて、初めて現物株式や投資信託の証券取引をなし、以後、運用資金二〇〇〇万円くらいで、投資金額のみを指示した上、ある銘柄を売却しては被告従業員の選定した銘柄をそのまま購入するというような受働的態度による投資を重ねていた。また、昭和六二年五月に本件三菱商事ワラントを購入するまでの間、株式信用取引や先物取引等の危険性の高い特殊取引の経験も一切なかった。

このように、原告X1は、証券取引について不十分な知識、経験しかなく、専ら受働的な投資態度に終始していたものであり、B及びCが原告X1に対してワラント取引を勧誘することは、適合性の原則に違反する違法なものである。

(二) 説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示

原告X1は、昭和六二年五月一八日午前九時三〇分ころ、Bから電話を受け、一〇分間ほど話をして、本件三菱商事ワラントの購入を勧められた。Bは、その際、「今、株と同じようなもので、ワラントという公社債がある。公社債とかファンドとかと同じようなものです。これよりもっと儲け率が高い。USドル建てなので、円安ドル高になればより有利です。今がチャンスですよ。」などと述べたが、ワラントの性質、取引の仕組み、株や公社債との差異について全く説明をしなかった。また、このころは、証券会社の従業員が顧客にワラント取引説明書を交付し、顧客からその確認書を徴求するような制度もなかった。原告X1は、ワラントがどのようなものか皆目理解できなかったが、乏しい証券知識の中で、信用取引は危険である旨を記憶していたことから、Bに対し「ワラントとは信用買いではなく現物か。」と尋ねたところ、Bは、「これは現物です。」と答え、さらに、「日経新聞で三菱商事の株価を見ていてください。その株価の変動で上下します。」と述べた。そして、原告X1は、本件三菱商事ワラントを購入し、Bからいわれるままに八〇〇万円を振り込んだが、右購入に際して、売買数量や単価については何ら聞かされていなかった。

その後、原告X1は、平成二年一月二六日、リコーワラントを、同年九月一四日、川崎製鉄ワラントをそれぞれ被告から購入した。同年四月ころに原告X1の担当がBからCに替わったが、B及びCは、右各ワラント取引の際、原告X1に対し、いずれもワラントの性質、取引の仕組み、危険性、権利行使期限等について説明をしなかった。

原告X1は、平成三年四月一九日午前九時三〇分ころ、Cから電話を受け、一〇分間ほど話をして、本件日立情報システムズワラントの購入を勧められた。Cは、その際、「日立情報システムズのワラントがあります。これは短期間で儲けられるので、是非買ってください。これまでの他の株での損を取り戻してください。」などと持ちかけたが、ワラントの性質、取引の仕組み、危険性、権利行使期限等について全く説明をしなかった。

原告X1は、平成三年八月二日に被告から送られてきた同年七月三一日付け「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」という書類の記載を見て、初めて権利行使期限の存在を知り、同月三一日、被告従業員のH課長及びCから、本件三菱商事ワラントについて、権利行使期限が平成四年四月二八日であり、その期限内に行使しないと権利が失効してしまうこと、現在三菱商事の株価が権利行使価格を下回っており、右ワラントに何の価値もないことなどの説明を受けた。

B及びCによる本件三菱商事ワラント及び本件日立情報システムズワラントについての右勧誘行為は、ワラント取引の一般的な仕組みやその特質について説明すべき義務に違反し、また、ワラント取引に危険がないような誤解を生ぜしめる表示をしたり、必ず利益が上がるかのような断定的判断の提供をした違法なものである。

(三) 助言義務違反

Bは、平成二年二月当時、本件三菱商事ワラントについて、原告X1に四三六万円もの損失が生じ、かつ、権利行使期限(平成四年五月一四日)までにあと三年しかない状況であったのであるから、原告X1に対し、損失を拡大させないために、適切な時期に売却するなどの助言をすべき義務があったのに、これを怠り、本件三菱商事ワラント購入後、三菱商事の株価が上がらないことを気に掛けていた原告X1に対し、「商社株はいま全般的に悪いから、そのうち上昇するのでしょう。しばらく待っておれば大丈夫ですよ。」などと述べたのみで、適切な助言を行わなかった。

また、Bから担当を引き継いだCは、本件三菱商事ワラントについて、原告X1に対し、損失を更に拡大させないために、適切な時期に売却するなどの助言をすべき義務があったのに、これを怠り、平成二年四月ころ、大損をしているので本件三菱商事ワラントを売却したい旨の意向を示した原告X1に対し、「いま売ると損をしますよ。三菱商事の株が上がるのを待つしかありませんね。」などと述べたのみで、適切な助言を行わなかった。

B及びCが原告X1に対して適切な助言をし、もつと早い時期に本件三菱商事ワラントを損切り売却していれば、損失を最小限にとどめることができたはずである。

(四) 被告従業員のB及びCによる右一連の行為は、不法行為を構成するものであり、被告は、民法七〇九条及び七一五条に基づき、原告X1に対し、次のとおり、合計二六二一万七五〇〇円の損害を賠償すべき義務がある。

1 本件三菱商事ワラントの買付金額 八〇一万五五〇〇円

2 本件日立情報システムズワラントの買付金額一五二〇万二〇〇〇円

3  弁護士費用 三〇〇万円

(被告の主張)

(一) 原告X1は、a運輸株式会社の代表取締役であるほか、原告X1の弟が代表取締役を務めるb有限会社の取締役でもあり、年収は約二〇〇〇万円である。原告X1は、昭和六一年七月から被告と有価証券取引をし、本件三菱商事ワラントを購入するまでの間、多数の有価証券取引をした経験を有しており、また、a運輸株式会社も、同年八月から被告と有価証券取引をしていた。原告X1は、被告従業員による銘柄の推奨を鵜呑みにすることなく、被告従業員からの説明を十分に聞き、必要があれば質問をした上、自らの判断で三〇〇〇万円にも及ぶ投資金額を決定し、自ら儲かるかどうかを判断して買付け及びその売却を決定していた。

(二) Bは、昭和六二年五月一八日、原告X1に対し、一〇分程度の電話で、三菱商事ワラントの購入を勧誘した際、ワラントが新株引受権、すなわち、株を買う権利であること、ワラントが基本的には株式の値動きと連動して値段が上下するが、株式よりも値動きが激しく、株価が上がれば利益も大きいが、株価が下がれば損失も大きいこと、ドル建てであるため、為替相場の変動により為替損益が生じること、権利行使期限を徒過すれば、価値がなくなること等を説明し、売買価格を知らせた(なお、Bがワラントの基本的な特質について原告X1に対し一〇分程度の電話で説明することは、原告X1とBとの従前の取引関係からすれば、十分に可能である。)。Bは、原告X1に対し、当該ワラントについて値上がりが期待できる旨の話はしたが、ワラントが公社債であるとか、株や公社債と同じようなものであるなどと言ったり、必ず儲かるなどと言った事実はない。原告X1は、Bによる右説明を受けて、「それは現物取引なのか」などと問い返した上、本件三菱商事ワラントの買付けを決定した。そこで、Bは、原告X1に対し、三菱商事株式の株価の変動に注意するように述べた。

(なお、本件三菱商事ワラントの購入代金については、原告X1が一株八八〇円以上で売却するよう指示して売り注文を出していた三協アルミニウム工業株式が一株八八七円、総額一〇四八万五九五〇円で売却できたため、原告X1の指示により、右売却代金の中から賄われた。)

(三) その後、Bは、原告X1に対し、週に二度くらい電話をして、本件三菱商事ワラントの値動きなどを連絡した。また、Bを引き継いだCは、原告X1に対し、平成二年五月ころ、本件三菱商事ワラントの値下がりについて詳しい話をし、本件日立情報システムズワラントの購入を勧める以前の同年九月ころに川崎製鉄ワラントの購入を勧めた際にも、三〇分ほど面談して、同ワラントについて様々な説明をした。さらに、Cは、原告X1が本件日立情報システムズワラントを購入した後も、原告X1に対し、右ワラントの値動きなどを連絡した。かようにして、原告X1は、権利行使期限等について重ねて説明を受けるとともに、購入したワラントの価格変化についても十分認識し、その値下がりについて文句を述べながらも、右ワラントを保有していたものである。

(四) したがって、B及びCによる原告X1に対するワラント取引の勧誘行為は、適合性の原則及び説明義務に違反したものではないし、誤解を生ぜしめる表示をしたり、断定的判断の提供をしたものでもない。また、B及びCに助言義務違反もない。

3  被告の原告X2に対する損害賠償義務について

(原告X2の主張)

(一) 適合性の原則違反

原告X2は、大正三年○月○日生で、青果商や乾物商等を営んだ後、昭和四一年ころ、東京都新宿区に所在するc株式会社に入社し、主に商品管理を担当し、昭和六三年五月、流通サプライ課の課長職を最後に退職し、以後、月額一九万円足らずの年金生活をしていた。退職当時の年収は、約四〇〇万円であった。

原告X2は、昭和五八年一〇月ころ、被告新宿駅西口支店と証券取引をするようになり、以後、流動資産一八〇〇万円のうち三〇〇万円ないし四〇〇万円くらいを運用資金として、被告従業員の勧める銘柄をそのまま購入するというような受働的態度で、一部上場企業株の現物取引を重ねていた。また、平成元年三月当時は、自宅の新築により、家計に余裕資金はない状態であった。

このように、原告X2は、平成元年三月当時、七四歳の年金生活者であり、証券取引について不十分な知識、経験しかない一方、堅実な投資方針をもって、専ら受働的な投資態度に終始していたものであり、Dが原告X2に対してワラント取引を勧誘することは、適合性の原則に違反する違法なものである。

(二) 説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示

原告X2は、平成元年三月八日の朝、Dから電話を受け、本件神戸製鋼所ワラントの購入を勧められた。Dは、その際、「今、みなさんに神戸製鋼所のユーロドルワラントというものを勧めているのですが、これを買えば相当な利益が必ず上がります。」などと述べたが、ワラントの性質、取引の仕組み、危険性、権利行使期限等について全く説明をせず、ワラント取引についての説明書を事前に交付することもしなかった。

原告X2は、本件神戸製鋼所ワラント購入後、Dに対し、ワラント取引についての説明書の送付を要求したが、原告X2のもとには、単に確認書のみが送られてきただけであり、平成三年一二月一三日になって、ようやく説明書が届いた。

Dによる本件神戸製鋼所ワラントについての右勧誘行為は、ワラント取引の一般的な仕組みやその特質について説明すべき義務に違反し、また、ワラント取引に危険がないような誤解を生ぜしめる表示をしたり、必ず利益が上がるかのような断定的判断の提供をした違法なものである。

(三) 被告従業員のDによる右勧誘行為は、不法行為を構成するものであり、被告は、民法七〇九条及び七一五条に基づき、原告X2に対し、次のとおり、合計七二二万五〇四〇円の損害を賠償すべき義務がある。

1 本件神戸製鋼所ワラントの買付金額 六〇二万五〇四〇円

2 弁護士費用 一二〇万円

(被告の主張)

(一) 原告X2は、昭和五八年に被告と取引する以前から、日興証券新宿伊勢丹支店において証券取引をした経験を有し、被告と取引をするようになってからも、三菱金属株やNTT株等の株式取引によって大きな割合の利益の取得あるいは損失を経験していたものであって、株式投資における価格変動による危険を十分認識していた。原告X2は、被告従業員による銘柄の推奨を鵜呑みにすることなく、被告従業員からの説明を十分に聞き、新聞やテレビ等から株価変動についての情報を収集した上、自らの判断において売買を決定していたものであり、昭和六三年五月に現住所(肩書地)に転居した後も、取扱い支店を変更することなく、被告新宿駅西口支店で取引を継続することを希望した。

(二) Dは、原告X2が平成元年三月七日、神戸製鋼所株式五〇〇〇株を代金四五〇万円で買い付けたので、翌八日、原告X2に対し、一〇分ないし一五分程度の電話で、神戸製鋼所の株式が更に値上がりすると考えるのであれば、神戸製鋼所の株式を購入するより株式が値上がりしたときにより大きく値上がりする可能性があるワラントという商品がある旨を述べて、本件神戸製鋼所ワラントの購入を勧誘した。その際、Dは、ワラントが新株引受権であること、株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であること、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなること等を説明した上、本件神戸製鋼所ワラントは権利行使期限まで四年ほどあり、リターンを大きく得られる可能性があることを述べた(なお、Dがワラントの基本的な特質について原告X2に対し一〇分ないし一五分の電話で説明することは、原告X2の投資経験や、原告X2がこれまで一〇回以上にわたり、Dから電話による説明を受けて買付けを行っており、電話による説明を聞くことに慣れていたことなどからすれば、十分に可能である。)。Dは、原告X2に対し、当該ワラントについて値上がりが期待できる旨の話はしたが、相当な利益が必ず上がるなどと言った事実はない。

(三) したがって、Dによる原告X2に対するワラント取引の勧誘行為は、適合性の原則及び説明義務に違反したものではないし、誤解を生ぜしめる表示をしたり、断定的判断の提供をしたものでもない。

4  被告の原告X3に対する損害賠償義務について

(原告X3の主張)

(一) 適合性の原則違反

原告X3は、昭和六年○月○日生で、d県立高校卒業後、昭和二五年四月、e銀行に入行し、昭和五八年四月、同銀行f支店長代理の職からg工業株式会社(以下「g工業」という。)に出向し、平成三年七月に同銀行を退職し、同年八月にg工業に入社し、同社総務部長の職にあったものであり、年収は約五〇〇万円である。

原告X3は、不動産投資や先物取引などの経験はなく、証券取引についても、平成二年五月一六日にEからの勧誘を受けてダイダン株三〇〇〇株を代金一〇〇九万円で購入したのが初めてであり(なお、右株式については、同年六月一九日にEから売るように言われて一〇九五万円で売却した。)、投資資金一〇〇〇万円くらいで、上場株の現物取引に投資する旨の意向を持ち、被告従業員から提供される情報のみによって、勧められるままに売買の注文をしていた。

このように、原告X3は、平成二年六月当時、証券取引について不十分な知識、経験しかない一方、堅実な投資方針をもって、専ら受働的な投資態度に終始していたものであり、Eが原告X3に対してワラント取引を勧誘することは、適合性の原則に違反する違法なものである。

(二) 説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示

原告X3は、平成二年六月二〇日午後二時ころ、会社での会議中、Eから電話を受け、「ワラント債というおもしろいものがあります。」「ダイダンの売却金で、日新製鋼ワラント債を買いませんか。」などと本件日新製鋼ワラントの購入を勧められたが、「買うつもりはありません。」と返答した。その後一時間ほどして、再びEから電話を受け、「日新製鋼は、高値一七〇〇円以上の実績があります。現在、七百数十円そこそこで絶好の買い場です。いま買ってくだされば間違いなく儲かりますよ。」「(ワラント債とは)ドルで株を買う権利を買うものです。」などと勧誘されたが、断りの意味で「考えさせて欲しい。」と返答した。さらにその約一五分後、再びEから電話を受け、「絶対損はしないから、早く決断してください。締切りまで時間がありません。」などと勧誘された。その際、原告X3は、「ワラント債とはどんなものか。わけが分からないので説明をして欲しい。」と言ったが、Eは、「取引の時間が迫っており、今は時間がないので、詳しい説明は後日訪問したときにさせてもらいます。とにかく損はしませんから買ってください。」と言うのみで、ワラントの性質、取引の仕組み、危険性、権利行使期限等について全く説明をせず、ワラント取引についての説明書を事前に交付することもしなかった。

Eによる本件日新製鋼ワラントについての右勧誘行為は、ワラント取引の一般的な仕組みやその特質について説明すべき義務に違反し、また、ワラント取引に危険がないような誤解を生ぜしめる表示をしたり、必ず利益が上がるかのような断定的判断の提供をした違法なものである。

(三) 助言義務違反

Eは、平成二年秋ころには本件日新製鋼ワラントの値上がりが期待できないことが明らかになったのであるから、原告X3に対し、損失を拡大させないために、適切な時期に売却するなどの助言をすべき義務があったのに、これを怠った。

(四) 被告従業員のEによる右一連の行為は、不法行為を構成するものであり、被告は、民法七〇九条及び七一五条に基づき、原告X3に対し、次のとおり、合計一一八六万二六八〇円の損害を賠償すべき義務がある。

1 本件日新製鋼ワラントの買付金額 一〇一六万二六八〇円

2 弁護士費用 一七〇万円

(被告の主張)

(一) 原告X3は、昭和二五年四月から昭和五八年三月までe銀行に勤務し、融資担当業務も行い、有価証券の担保価値について判断した経験を有し、同年四月以降は、g工業において、総務部長として経理事務全般を統括し、昭和六三年にg工業が株式投資をした際には、証券会社担当者との交渉を一手に引き受け、g工業の投資に関する窓口としての業務を行っていた。また、日常的に日本経済新聞を講読し、株式市況や為替相場の動向について注意を払っていたものであり、平成元年から平成二年五月当時までの株価の全体の変化についても十分認識していた。そして、一〇〇〇万円程度の資金を目処に、価格の変動する商品に投資する意向を有し、被告従業員による銘柄の推奨を鵜呑みにすることなく、自らの判断において売買を決定していた。

(二) Eは、平成二年六月二〇日、原告X3に対し、合計三回にわたる電話でワラントの購入を勧誘した。午前中に一回目の電話をしたが、原告X3が会議中であったため、昼ころに二回目の電話をし、時間をかけてワラントの商品性について説明した。その際、ワラントとワラントで買い付けることのできる株式との関係を土地の手付金と土地代金の関係に例えながら、ワラントの価格は株価の上下に連れて上下し、ワラントの価格は株価の変動率より大きく変動すること、ワラントは権利行使期限が到来すると手付流れと同じく、価値が無くなってしまうことなどを説明した。そして、三回目の電話で本件日新製鋼ワラントの購入を勧誘したところ、原告X3は、平成二年六月当時の株式相場の状況から、右ワラントが値上がりするものと考えて、右ワラントを買い付けた。Eは、原告X3に対し、当該ワラントについて値上がりが期待できる旨の話はしたが、間違いなく儲かるなどと言った事実はない。

(三) 原告X3は、自己の判断で株式相場の状況を判断できる人物であり、購入したワラントの価格変化についても十分認識しながら、右ワラントを保有していたものである。平成二年秋ころはいわゆる湾岸危機の最中であり、これが解決すれば再び株式相場が回復していくという見方も強くあったものであって、右のころに本件日新製鋼ワラントの値上がりが期待できないことが明らかになったという事実はない。

(四) したがって、Eによる原告X3に対するワラント取引の勧誘行為は、適合性の原則及び説明義務に違反したものではないし、誤解を生ぜしめる表示をしたり、断定的判断の提供をしたものでもない。また、Eに助言義務違反もない。

5  被告の原告X4に対する損害賠償義務について

(原告X4の主張)

(一) 適合性の原則違反

原告X4は、昭和一二年○月○日生で、昭和三五年三月にh経済大学を卒業し、四年余りの間、紙問屋の会社に勤務し、その後、合資会社i工業所(以下「i工業所」という。)に入り、現在、代表社員の地位にある。i工業所は、製綿業を営む従業員六名、年商三五〇〇万円の会社である。原告X4の年収は、七二〇万円である。

原告X4は、日興証券で株式を購入したことがあったが、その経験は、証券取引に習熟する程度のものではなかった。原告X4は、平成元年五月ころから、Fの勧誘を受けて、被告四日市支店と証券取引をするようになったが、安全で有利な商品を購入したい意向を有しており、その取引内容は、平成二年七月一八日に大京ワラントを購入するまでの約一年二か月の間に、転換社債や投資信託を中心に取引しており、その投資資金も、アルファイールドという外国の投資信託の購入に約九七〇万円を投資したことがあったものの、その余はこれを大きく下回るものであった。

このような原告X4の投資家としての属性に照らせば、Fが原告X4に対してワラント取引を勧誘することは、適合性の原則に違反する違法なものである。

(二) 説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示

原告X4は、平成二年七月一八日午後二時ころ、Fから電話を受け、ワラントの購入を勧められた。Fは、その際、「必ず儲かる新規発行のものですが、今日が締切りなので、月曜日お金を入れてください。金額は五〇〇万円くらいです。」「野村証券発行のものですから、間違いはありません。」「投資信託のようなものですが、損するようなことはありません。」「中間の配当はありませんが、最後になれば会社から連絡が行くようになっていて利益が取れますよ。」などと述べ、また、ワラントの価格が株価と連動して上下することや、為替変動の影響も受けることなどの話もしたが、どういう要因や理由でどの程度変動するのかについては説明をせず、さらに、ワラントの性質、取引の仕組み、危険性、権利行使期限等についても一切説明をしなかった。

Fによる本件大京ワラントについての右勧誘行為は、ワラント取引の一般的な仕組みやその特質について説明すべき義務に違反し、また、ワラント取引に危険がないような誤解を生ぜしめる表示をしたり、必ず利益が上がるかのような断定的判断の提供をした違法なものである。

(三) 被告従業員のFによる右勧誘行為は、不法行為を構成するものであり、被告は、民法七〇九条及び七一五条に基づき、原告に対し、次のとおり、合計六二三万一一〇〇円の損害を賠償すべき義務がある。

1 本件大京ワラントの買付金額 五二三万一一〇〇円

2 弁護士費用 一〇〇万円

(被告の主張)

(一) 原告X4は、i工業所の代表社員であり、h経済大学を卒業し、社会経験も一般的理解力も十分に有していた。また、被告と取引する以前から、他の証券会社で証券投資をしており、平成二年七月当時、一〇〇〇万円を運用し得る資力を有するとともに、いずれも価格変動が大きい銘柄で知られるタテホ化学工業株式及び太陽化学株式を保有するなど、価格変動が大きい傾向の商品に投資する意向を持って、投資対象等を決定していた。

(二) Fは、平成二年七月一八日、原告X4に対し、電話で本件大京ワラントの購入を勧誘した。その際、ワラントが新株引受権を売買するものであること、株式に比べて価格の変動が大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使価格及び権利行使期限があり、右期限を過ぎれば無価値となること、外貨建てであるため、為替相場の影響を受けること、大京ワラントが新規発行の銘柄であることなどを説明した。また、Fは、原告X4に対し、被告とワラント取引をするに当たっては、一〇〇〇万円相当額の預かり資産があることが必要である旨を述べ、一〇〇〇万円相当額の株券を預けることができるかどうかを尋ねたところ、原告X4は、タテホ化学工業株式三〇〇〇株と太陽化学株式三〇〇〇株を預けることができる旨を回答し、本件大京ワラントの買付約定が成立したその日のうちに、右株式の株券を被告に預託するとともに、ワラント説明書を受領した。原告X4は、平成二年七月二三日までに、右説明書末尾の確認書に署名した上、これを被告に返送した。Fは、原告X4に対し、当該ワラントについて値上がりが期待できる旨の話はしたが、ワラントが投資信託のようなものであるとか、最後になれば会社から連絡が行って利益が取れるなどと言った事実はない。

(三) したがって、Fによる原告X4に対するワラント取引の勧誘行為は、適合性の原則及び説明義務に違反したものではないし、誤解を生ぜしめる表示をしたり、断定的判断の提供をしたものでもない。

6  被告の原告X5に対する損害賠償義務について

(原告X5の主張)

(一) 適合性の原則違反

原告X5は、昭和二四年○月○日生で、昭和四六年三月にj学院大学経済学部を卒業し、約二年半の間、繊維関連の会社に勤務し、昭和四九年に実父の経営する「k商店」(その後、株式会社になっている。)に入り、昭和五八年に「k商店」(平成元年三月に株式会社「k1」に社名が変更されている。)の代表取締役に就任した。株式会社k1(以下「k1社」という。)は、従業員三八名、年商五億円の寝装衣料の製造販売を業務とする会社であり、原告X5は、右会社から月額一二五万円の給与の支払いを受けている。また、原告X5は、月額六五万円の賃料収入がある。証券取引について特段の勉強を行ったことはなく、有している知識も、株価が景気の状態や会社の業績に影響されるといった程度のものであり、定期講読している新聞も、朝日新聞であった。

原告X5は、昭和六二年一〇月ころから昭和六三年八月ころまでの間、日興証券四日市支店と証券取引をしていたが、その取引内容については、中期国債ファンドなどの貯蓄性の高い商品が中心であり、株式売買は三回程度で、その投資資金も一〇〇万円から三〇〇万円の範囲にとどまり、日興証券の担当者から推奨される銘柄を勧められるままに売買していた。原告X5は、昭和六三年八月ころから、Fの勧誘を受けて、被告四日市支店と証券取引をするようになったが、その取引内容は、平成二年七月一六日に本件ヨミウリランドワラントを購入するまでの約二年の間に、転換社債の売買が一回、株式の売買が四回という程度で、その投資資金も、スター精密株の購入に約一〇〇〇万円を投資したことがあったものの、その余は三〇〇万円から五〇〇万円の範囲にとどまり、Fから推奨される銘柄のみを購入していた。

原告X5は、証券取引について十分習熟していたわけではなく、でき得る限りリスクを回避したいという意向を持ち、自らが代表取締役を務める会社の資金に余裕がある場合に投資をしていたものである。

このような原告X5の投資家としての属性に照らせば、Fが原告X5に対してワラント取引を勧誘することは、適合性の原則に違反する違法なものである。

(二) 本件ヨミウリランドワラントについての説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示

原告X5は、平成二年七月一六日の午前中、Fから電話を受け、ワラントの購入を勧められ、いったんこれを断ったものの、約二時間後に、再びFから電話があり、同様の勧誘を受けた。その際、Fは、「社長さんに大きく儲けていただきたい話がある。」「値上がりが確実で大きく見込めるものがある。」「金額が大きく、二五〇〇万円の投資額になりますが、私に任せてください。」などと持ちかけ、「ワラント債」という言葉を用いて、本件ヨミウリランドワラントの購入を勧めた。そして、原告X5が危ないものは買わない旨述べると、「株と全く同じようなものです。」「信用取引と違って危険はありません。」などと話し、また、原告X5が資金がないことを理由として断ると、資金を借りてでも購入するように迫り、それ以上に、原告X5に対し、ワラントの性質、取引の仕組み、危険性、権利行使期限等について全く説明をせず、ワラント取引についての説明書を事前に交付することもしなかった。

Fによる本件ヨミウリランドワラントについての右勧誘行為は、ワラント取引の一般的な仕組みやその特質について説明すべき義務に違反し、また、ワラント取引に危険がないような誤解を生ぜしめる表示をしたり、必ず利益が上がるかのような断定的判断の提供をした違法なものである。

(三) 本件大林組ワラントについての断定的判断の提供

原告X5は、平成二年一〇月中旬ころ、Fの後任であるCと面識を持ち、以来一週間に一、二度の割合で電話又は訪問により、株式及びワラントの購入の勧誘を受けていたが、Cは、当時一〇〇〇万円を超える損失を受けていた原告X5に対し、「これほどの大きい損失の穴埋めは、単に待っているだけではだめである。」「何か新しいものを購入して値上がり益をぶつけないとカバーできない。」「これからは公共投資が求められる時代です。建設株が最適です。」「株価はもう下がらないから大丈夫です。」などと持ちかけて、本件大林組ワラントの購入を勧めた。

Cによる大林組ワラントについての右勧誘行為は、断定的判断の提供をした違法なものである。

(四) 被告従業員のF及びCによる右一連の行為は、不法行為を構成するものであり、被告は、民法七〇九条及び七一五条に基づき、原告X5に対し、次のとおり、合計四一二九万二七五〇円の損害を賠償すべき義務がある。

1 本件ヨミウリランドワラントの買付金額 二五九六万一二五〇円

2 本件大林組ワラントの買付金額 一〇七三万一五〇〇円

3 弁護士費用 四六〇万円

(被告の主張)

(一) 原告X5は、昭和五八年から年商五億円ほどの会社の代表取締役を務め、社会経験及び経済人としての力量も十分にあり、収入も月額二〇〇万円弱あって、株式投資の経験も相応に有していた〔*⑪5頁、⑫2頁〕。そして、Fが証券取引を熱心に勧誘しても、これに容易に応ずることなく、慎重な投資態度を見せており、Fの説明をよく聞いた上、例えば、約一〇〇〇万円で買い付けたスター精密株を約一か月後には売却し、その売却代金のうちの約半分の額を再投資するなど、自らの主体的判断に基づいて投資対象、投資額等を決定していた。

(二) Fは、原告X5に対し、平成二年六月一日から同年七月一六日までの間に、面談の上、ワラントがハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期限を過ぎれば無価値となること、外貨建てならば為替の影響を受けること、売り手、買い手が被告であるいわゆる相対取引であることを説明し、平成二年七月一六日、電話で本件ヨミウリランドワラントの購入を勧誘した。原告X5は、銀行から短期の借入をした上、右ワラントを購入し、その後、遅くとも一週間以内にワラント取引説明書を受領し、その確認書に署名した上、これを被告に返送した。Fは、原告X5に対し、当該ワラントについて値上がりが期待できる旨の話はしたが、値上がりが確実であるとか、ワラントが株と全く同じようなもので、危険はないなどと言った事実はない。

(三) Cは、既にワラント取引の危険性を十分認識していた原告X5に対し、ワラントについて十分説明をした上、本件大林組ワラントの購入を勧誘し、原告X5は、その説明を十分聞いて、自らの判断でこれを購入したものである。Cが原告X5に対し、株価はもう下がらないから大丈夫であるなどと言った事実はない。

(四) したがって、Fによる原告X5に対するワラント取引の勧誘行為は、適合性の原則及び説明義務に違反したものではないし、誤解を生ぜしめる表示をしたり、断定的判断の提供をしたものでもない。また、Cによる原告X5に対するワラント取引の勧誘行為は、断定的判断の提供をしたものではない。

7  被告の原告X5に対する無断売買に基づく不当利得返還義務について

(原告X5の主張)

本件においては、原告X5の名義により、本件リコーワラントが平成二年八月三日ころ、代金七三五万一五〇〇円で被告から買い付けられていることになっているが、これは、Fが原告X5の指示ないし事前の了解なくして行った無断売買である。そして、原告X5は、この無断売買によって、被告から本来受け取るべき本件リコーワラントの購入代金相当額の支払いが受けられず、同額の損失が生じ、他方、被告は、本来支払うべき右金額を収受して、同額の利得を上げたものである。したがって、被告は、原告X5に対し、七三五万一五〇〇円を不当利得として返還する義務を有する。

(被告の主張)

原告X5は、Fの勧めを受けて、値下がりし始めた本件ヨミウリランドワラントの一部を売却し、そのリスクの分散を図るために、本件リコーワラントを買い付けたものであり、Fが無断で行ったものではない。

三  争点

1  被告従業員B及び同Cによる原告X1に対する不法行為の成否及び損害額

2  被告従業員Dによる原告X2に対する不法行為の成否及び損害額

3  被告従業員Eによる原告X3に対する不法行為の成否及び損害額

4  被告従業員Fによる原告X4に対する不法行為の成否及び損害額

5  被告従業員F及び同Cによる原告X5に対する不法行為の成否及び損害額

6  原告X5の被告に対する本件リコーワラントの代金相当額の不当利得返還請求権の有無

第三当裁判所の判断

一  ワラントの意義及び証券会社の注意義務等について

1  ワラントの意義について

甲第六ないし第九号証、第一三、第一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証、第四〇、第四一、第五〇号証、乙第二六、第三三、第四二、第八五号証に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) ワラントとは、昭和五六年の商法改正で創設された新株引受権付社債制度のもとで発行される新株引受権付社債(ワラント債)の社債部分(エクスワラント)から切り離され、それ自体で独立の取引の対象とされている新株引受権ないしこれを表象する証券のことをいい、発行会社の株式を、一定期間(「権利行使期間」という。国内発行銘柄は六年、海外発行銘柄は四年又は五年となっているのが一般である。)内に一定の価格(「権利行使価額」という。通常、ワラント債発行条件決定時の株価に約二・五パーセント上乗せした価額で定められ、原則として変更されない。)で一定量購入することのできる権利(証券)である。換言すれば、ワラントとは、その保有者が、権利行使期間中、ワラント債の券面額を権利行使価額で除する方法で算出された株数の株式を権利行使価額で購入することができる権利(を表章する証券)をいう。

このようにワラントは、新株引受権を表象するものであり、その権利を行使して株式を取得するための期間と価格が当初から定められているものであることから、ワラント債発行会社の株価が権利行使価格を上回っている場合であれば、ワラントへの投資家は権利を行使することにより一般市場で当該株式を取得するより有利に株式を取得する機会を得ることができるが、株価が権利行使価格を下回っている場合であれば、市場において自由に株式を取得する方が有利であるから、投資家は新株引受権を行使する経済的な意味を失うこととなる。したがって、ワラントは、権利行使期間が残存する間は、将来当該ワラント債発行会社の株価が上昇する可能性があるとの期待感がある限り無価値となることはないが、権利行使期間が経過した時点で当該株価が権利行使価格を下回っているとき、又は権利行使期間内においても再び権利行使価格を上回ることがないことが確実となったときには、当該ワラントはその価値を失うこととなる。

(二) ワラントの価格(通常はポイント数で表示される。)は、理論的には、新株引受権を行使して得られる利益相当額、すなわち、当該ワラント債発行会社の株価から権利行使価格を差し引いた額(ワラントの理論的価格で「パリティ」という。)によって規定されるが、現実の市場では、将来における株価の上昇を期待して、右の額に将来の株価上昇の期待値(「プレミアム」という。)が加算された価格で取引されている。また、外貨建ワラント(外国新株引受権証券)の場合には、新株引受権を行使するために払い込まなければならない金額が外貨建で定められているため、日本円での払込みを前提とすると、現実の払込額は、そのときの為替相場によって変わることとなり、ひいてはこれを反映してワラントの価格も為替変動の影響を受けることとなる。

このようなワラントの性質からして、一般的に、ワラントの価格は当該ワラント債発行会社の株価の上下に伴ってその数倍の幅で上下する傾向がある(ギアリング効果)ため、少額の資金で株式を売買したと同等以上の効果をあげることも可能であるが、その反面値下がりも激しく、場合によっては投資資金の全額を失うこともある(しかし、投資家の損失は、投資額に限定され、株式の信用取引や商品先物取引のように投資資金以上の損失を被ることはない。)。

以上のように、ワラントは、同額の資金で株式の現物取引を行う場合に比べると、より多額の利益を得られることもある反面、投資資金全額を失うこともある危険性を併せ持つ点で、ハイリスク・ハイリターンな金融商品ということができる。

2  証券取引の投資勧誘における証券会社の注意義務等について

(一) 一般に証券取引は、その価格が当該企業の業務実績等の個別的な要因はもとより、取引時点及び将来における政治、経済情勢、天候等の不確定な要素によって影響され、本来的にリスクを伴うものであって、証券会社が投資家に提供する情報、助言等も、右事情を反映して経済情勢の不確定な要素を含む予測や見通しの域を出ないのが通常であるから、投資家自身において、自らの知識、情報等をもとに、当該取引の危険性と、その危険に耐えるだけの財産的基礎を有するかどうかを自らの責任と判断において行うべきものであり(自己責任の原則)、このことは、本件のようなワラント取引においても妥当するものといわなければならない。

しかしながら、証券会社が証券市場を取り巻く政治、経済情勢はもちろん、証券発行会社の業績、財務状況等について、高度の専門的知識、経験、情報等を有する一方で、多数の一般投資家が、右情報、知識等を有する証券会社の推奨、助言等を信頼して証券市場に参入している状況の下においては、このような一般投資家の信頼が十分に保護されなければならないことも当然である。

(二) 証券取引法五〇条一項一号、六号(平成三年法律第九六号による改正前の五号)、一五七条二号(平成四年法律第七三号による改正前の五八条二号)、昭和四〇年大蔵省令第六〇号「証券会社の健全性の準則等に関する省令」二条一号(平成三年大蔵省令第五五号による改正前の一条一号)は、証券会社又はその役員若しくはその使用人による断定的判断の提供、虚偽の表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめる表示等を禁止し、また、「投資家本位の営業姿勢の徹底について」昭和四九年蔵証第二二一一号日本証券業協会長宛通達は、投資家に証券の性格や発行会社の内容等に関する正確な情報を提供すること、勧誘に際し投資家の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われるよう十分に配慮すること、特に、証券投資に関する知識、経験が不十分な投資家及び資力の乏しい投資家に対する投資勧誘については、より一層慎重を期することなどを要請し、さらに、日本証券業協会制定の「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則(公正慣習規則第九号)」三、四条は、各証券会社に対し、ワラントの取引開始基準を作成し、それに合致する投資家に限り取引を行うように要請し、同規則五条は、証券会社はワラント取引等にかかる契約を締結するときは、当該顧客に対し、あらかじめ所定の説明書を交付し、当該取引の概要及び当該取引に伴う危険に関する事項について十分説明するとともに、取引開始にあたっては、顧客の判断と責任において当該取引を行うべきものであることを理解させるものとしている。

もっとも、これらの法令、通達、協会規則等は、公法上の取締法規又は営業準則としての性質を有するにすぎないものであるから、証券会社の顧客に対する投資勧誘が、これらの定めに違反したからといって、直ちに私法上も違法であるとの評価を受けるものではないことはいうまでもないが、前記のような投資家保護の要請等からすれば、証券会社やその使用人は、投資家に投資商品を勧誘する場合には、信義則上、投資家の証券会社に対する信頼を保護すべく相当の配慮が要請されるべきであり、投資家が当該取引に伴う危険性について的確な認識形成を行うのを妨げるような虚偽の情報又は断定的判断等を提供してはならないことはもちろん、適合性原則をふまえて投資家の意向やその財産状態、投資経験等に照らして、明らかに過大な危険を伴うと考えられる取引を積極的に勧誘することを回避すべき注意義務があるというべきであるし、また、商品内容が複雑でかつ取引に伴う危険性が高い投資商品を勧誘する場合には、当該商品の周知性が高い場合や勧誘を受ける投資家が当該取引に精通しているような場合を除き、当該投資家の職業、年齢、財産状態及び投資経験、投資目的等に応じて、投資家の意思決定にあたって認識することが不可欠な当該商品の概要及び当該取引に伴う危険性について説明する義務を負うと解するのが相当であり、証券会社やその使用人がこれに違反して投資勧誘に及んだときなどは、具体的状況によっては、右勧誘行為は、私法上も違法であるとの評価を受けることもあるというべきである。

そして、前記認定のとおり、ワラントは、一定の条件で発行会社の株式を引き受けることができる権利であり、一定期間を経過すると無価値になり、価格変動が一般に株式よりも大きく不安定であることなどからすると、証券会社及びその使用人は、このようなワラントへの投資を勧誘するにあたっては、顧客の証券取引についての経験、知識等にも考慮しつつ、少なくとも株式にはないワラントの危険性として、ワラントの価格は一般的に株価に比してその数倍の値動きをすること、及びワラントは権利行使期間の経過により無価値となることについて説明する義務があるものというべきである。

二  争点1(原告X1に対する不法行為の成否)について

1(一)  前記基礎となる事実に、甲第一、第一九、第二〇号証、第二二ないし第二六号証、第二七ないし第二九号証の各一、二、乙第一、第一〇、第一一号証、第一二号証の一ないし三、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし九、第二五ないし第二七号証、第二八号証の一、二、第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一号証、第六三ないし第七二号証、第八六ないし第九〇号証、第九四号証、証人B及び同Cの各証言、原告X1本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告X1(昭和一三年○月○日生)は、昭和三二年に高校を卒業した後、父親の経営する水産加工業を手伝い、昭和三五年五月に自らa運輸を設立して、その代表取締役に就任するとともに、弟が代表取締役を務めるb有限会社に出資し、その取締役にも就任した。右a運輸は年商三億円を上げる株式会社であり、原告X1の年収は約二〇〇〇万円である。

原告X1は、昭和六一年七月ころ、被告四日市支店の従業員Gからの勧誘を受けて、初めて現物株式や投資信託などの証券取引を行い、その後本件三菱商事ワラントを購入するまでの間、二七回にも及ぶ有価証券(株式や転換社債、投資信託等)取引をしており、そのうち、買付金額が一〇〇〇万円を超える取引も一〇回程度行い、一度に代金三〇〇〇万円を超える株式の買い付けを行ったこともあった。また、a運輸が当事者となる有価証券取引も、同年八月ころから行われていた。

(2) Bは、昭和六二年二月ころから、原告X1の担当となり、外国証券を含む多数の証券の推奨、取引を行っていた。Bは、昭和六三年五月一八日、右のような取引の結果原告X1の投資額が約三〇〇〇万円にも達していたことから、ワラントを勧めてみようと考え、原告X1に架電し、当時被告四日市支店営業課の職員が見込のある銘柄として考えていたドル建ての三菱商事ワラントの購入を勧めた。この際Bは、原告X1に対し、三菱商事の株価の見込を述べた上、概ね、ワラントが新株引受権、すなわち、株を買う権利であること、ワラントが基本的には株式の値動きと連動して値段が上下するが、株式よりも値動きが激しく、株価が上がれば利益も大きいが、株価が下がれば損失も大きいこと、ドル建てであるため、為替相場の変動により為替損益が生じること、権利行使期限を徒過すれば、価値がゼロとなるが、本件三菱商事ワラントについては、権利行使期限まで五年残されているため、大丈夫であろうということを説明し、その売買価格を知らせた。原告X1は、Bによる右のような説明を受けるとともに、同人に対し、「ワラントとは何か。」「それは現物ではないのか。」等の質問をするなどしてワラントの基本的な性質を理解し、これにより利益を上げられる可能性が高いと判断したため、本件三菱商事ワラントの買付けを決定した。そこで、Bは、原告X1に対し、三菱商事株式の株価の変動に注意するように述べた。右電話は、約一〇分程度のものであった。そして、本件三菱商事ワラントの購入代金は、原告X1が一株八八〇円以上で売却するよう指示して売り注文を出していた三協アルミニウム工業株式が一株八八七円、総額一〇四八万五九五〇円で売却できたため、原告X1の指示により、右売却代金の中から賄われた。

その後、Bは、原告X1に対し、週に二度くらい電話をして、三菱商事ワラントの値動きなどを連絡した。また、原告X1は、平成二年一月、Bから、リコーワラントを勧められてこれを買い付け、同年四月にこれを売却して、三〇万円余りの利益を得た。このように原告X1がリコーワラントを購入した後に、Bは、原告X1に対し、「ワラント取引説明書」を交付し、原告X1は、平成二年二月一日、「ワラント取引に関する確認書」(乙第一〇号証)を被告に返送した。右「ワラント取引説明書」は、「その特徴と仕組みについて」との副題が付された冊子であり、ワラント債やワラントの意義をはじめ、その価値、価格(株価との関係)、権利行使期間経過による権利失効、外貨建てワラントとそのリスク、売買手数料などについての記載がなされていた。

(3) さらに、原告X1は、平成二年九月、Bから原告X1の担当を引き継いだCから川崎製鉄ワラントの購入を勧誘された。この際Cは、原告X1に三〇分程度面談した上で川崎製鉄について詳しい説明をし、これを推奨したが、原告は、先に購入した本件三菱商事ワラントの評価損があったことからこれを断った。さらにCは、原告X1に対し、電話で再度川崎製鉄ワラントの購入を勧めたところ、原告X1は、川崎製鉄ワラントを約一四〇〇万円で買い付け、a運輸の代表者としても、川崎製鉄ワラントを購入し、この際、a運輸に対しても、前記「ワラント取引説明書」が交付され、同年九月二一日付で取引確認書が被告に提出された。

(4) Cは、原告X1に対し、平成二年五月ころ、本件三菱商事ワラントの値下がりについて詳しい話をし、同年九月ころに川崎製鉄ワラントの購入を勧めた際にも、三〇分ほど面談して、同ワラントについて、その仕組みや性質等につき様々な説明をした。その後、原告X1は、平成三年四月に本件日立情報システムズワラントを購入したものであるが、Cは、この後も、原告X1に対し、本件日立情報システムズワラントの値動きなどを連絡した。この間、原告X1に対しては、平成二年二月から同四年に至るまで三カ月ごとに「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」と題する書面が送付され、同書面には、原告X1が購入したワラントの時価評価とともに、ワラントが新株引受権であること、株価に連動してその価格は上下するがその変動率が大きいこと、期限が過ぎればその価値を失うこと、為替リスクがあることなどが記載されていた。そして、原告X1は、購入した本件三菱商事ワラント等の価格が低下し続けていたことを、右各書面によって知っていたにもかかわらず、平成三年九月に至るまで、被告に対して、ワラント取引についての説明の不十分さについての抗議はしなかった。

(二)(1)  以上の認定に対し、原告X1は、Bから権利行使期限の存在等ワラントの持つリスクについては全く説明を受けたことがないなどと主張し、原告X1本人の供述(甲第一号証、本人尋問の結果)中にも、右主張に副う部分がある。

しかしながら、原告X1が本件三菱商事ワラントを購入した後である平成二年になって受領したワラント取引説明書(原告は、その受領の事実を否認するかのようであるけれども、平成二年二月一日、ワラント取引に関する確認書に自ら署名、押印の上、これを被告に返送しているのであり〔概ね原告X1の自認する事実である。〕、右確認書には、「私は、貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」という極めて平易で短い文章のみが記載されているものであること、右確認書は、もともとワラント取引説明書の一部としてこれと一体となった形状のものであり、原告X1は、これをワラント取引説明書から切り離した上で被告に返送していること〔いずれも、乙第一〇号証及び弁論の全趣旨等によって認められる。〕などからすると、原告X1が、そのころ、右説明書を受領していることは明らかといわなければならない。)には、前記認定のとおり、ワラントの意義、その価格(株価との関係)、権利行使期間経過による権利失効、外貨建てワラントとそのリスクなどについての記載がなされており、また、原告X1が、その後に送付された前記外貨建てワラント時価評価のお知らせの記載から、ワラントの特性、リスクについて十分に理解したと認められる後に至ってもなお、被告に対し、当初のBの説明が不十分であったとか、ワラントに対する誤解についての抗議をしていないばかりか、本件三菱商事ワラント価格が、同社株価の値下がりの倍以上の割合で下がったことを認識した後にも、本件川崎製鉄ワラント等のワラントの買付注文をしているのであり、これは、Bの説明の内容が、その後に原告X1が入手したワラント取引説明書等の書面の内容とほぼ同一のものであったことを推認させる。

また、原告X1自身、その陳述書(甲第一号証)において、Bからワラント価格が株価に連動して上下するものであるとの説明を受け、本件三菱商事ワラントについても、三菱商事の「株式」の価格が値上がりしないことについてBに抗議した旨述べており(これは、とりもなおさず、原告X1が、ワラント価格が基本的に株価に連動することを認識していたことの証左である。)、右のようにワラント価格形成の基本となる株式の価格自体が値下がりすることもあることは、原告X1にとって常識であったことは明らかであること、前記認定のとおり、豊富な証券取引の経験を有し、損失を計上したことのある原告X1に対し、Bが敢えて証券の一種であるワラントについて、高リターンのみが得られるリスクのない商品であるなどという不合理な説明をしたとは考え難いこと、原告が被告に対し、平成三年九月にワラントの損金を弁償するよう要求した際にも、ワラントが大きく値下がりする危険があり、権利行使期限が過ぎると無価値になる商品であることの説明をBから聞いていないことについての抗議はなく、しかも当時、より大きな評価損を出して権利行使期限の経過による失効の可能性の高かった本件三菱商事ワラントの勧誘担当者であるBに対しては何ら抗議をしないで、「Cにだまされた。」として、Cに対する非難のみをしていたこと、商品内容(原告X1の供述によれば、取引の仕組みはおろか、その数量についての説明も全く受けていないとされている。)についての詳しい説明を聞かずに、即座に代金八〇〇万円を超える金融商品の購入を決意すること自体不自然といわざるを得ないことなどをも併せ考慮すると、「Bからワラントの持つリスクについては説明を受けていない。」という前記原告X1の供述は措信することはできず、その主張はこれを採用することができない。

(2) また、原告X1は、Bが原告X1に対し、「ワラントは公社債と同じものである。」などと申し向けて、本件三菱商事ワラントへの投資を勧誘したと主張し、原告X1本人の供述(甲第一号証、本人尋問の結果)中にも、右主張に副う部分がある。

しかしながら、原告X1は、同尋問において、公社債とは具体的には何かわからないと供述し、株式も公社債も同じと考えていたと述べる一方、結局公社債と同じようなものとは、持っていればいつかは上がりゼロにはならないという意味であるなどと実質的に供述を変遷させており、しかも、前記認定のとおり、原告松下が、株式等の証券につき相当の取引経験を有していることをも併せ考慮すると、「ワラントは公社債と同じものである。」などと言って勧誘されたとする原告X1の前記供述はにわかに措信することができず、その主張はこれを採用することができない。

2(一)  適合性原則違反について

前記1(一)で認定した事実によれば、原告X1は、各種会社の取締役に就任して相応の経済的見識を有しているのみならず、被告との間で、昭和六一年七月から個人取引を始めたほか、同年八月からは自らが経営する会社との法人取引を行っているなど、株式、投資信託等の証券取引経験を有しているのであり、しかも、その取引額も数千万円に上り十分な資力も有することが認められるから、原告X1が本件三菱商事ワラントを購入するまではワラント取引をした経験がなく、しかも前記認定のとおり、ワラントには、株式の取引とは違った特質があることを考慮してもなお、原告X1が、ワラント取引についての適合性を欠くということは到底いえない。

(二)  説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示について

(1) 前記認定のとおり、Bは、原告X1に対して本件三菱商事ワラントの購入を勧誘した際、ワラントが新株引受権であること、ワラントが基本的には株式の値動きと連動して値段が上下するが、株式よりも値動きが激しく、株価が上がれば利益も大きいが、株価が下がれば損失も大きいこと、ドル建てであるため、為替相場の変動により為替損益が生じること、権利行使期限を徒過すれば、価値がなくなること等を説明していたのであり、この事実に加え、原告X1が、それまでにも豊富な証券取引の経験を有しており、被告担当者から特定の銘柄の推奨を受けた場合であっても、自己の判断でこれを断ったこともあること(原告X1は、その本人尋問において、被告からの勧誘を断ったのは資金が不足したときのみであるとも供述するけれども、この弁解は、原告X1自身が、同尋問において、少しずつ借入れを起こしながら証券取引をしていたとも供述していることに照らして採用することができない。)、原告X1自身、Bの説明に対し、不明な点はこれを質したことを自認していること、本件全証拠によっても、右説明の内容が虚偽のものであったなどという事情も認められないことなどを総合すると、原告X1は、Bの右説明によって、ワラントの仕組み、リスク等について十分理解し得たものというべきであり、Bは、原告X1に対し、ワラントについての説明義務を尽くしたものというべきである。

また、前記認定の事実によれば、Cは、原告X1に対し、平成二年五月ころから、本件三菱商事ワラントの値下がりについて詳しい話をするとともに、同年九月ころに川崎製鉄ワラントの購入を勧めた際にも、ワラントについて、その仕組みや性質等につき具体的に説明をしたものと認められ、本件全証拠によっても、右説明の内容が虚偽のものであったなどという事情も認められないから、Cは、原告X1に対し、説明義務を尽くしたものというべきである。

(2) なお、本件におけるBの原告X1に対するワラントの説明は電話をもってなされており、しかも、ワラント取引説明書の交付やワラント取引確認書等の送付も、本件三菱商事ワラントの代金が支払われた後になされていることは、前記認定のとおりである。

確かに、ワラント取引の経験がない者に対する説明、勧誘としては、ワラント取引説明書を事前に交付した上、面談して十分に説明をすることが望ましいということはできるけれども、証券取引が基本的には取引を行う者自身の責任においてなされるべきものであり、証券会社が、取引内容に関し顧客に対してなすべき説明の程度も、顧客の属性(知識、能力等)に応じて精粗があってしかるべきことは前記説示のとおりであり、前記認定のBが原告X1に対して電話で行ったワラントについての説明は、原告X1の前記属性に加え、原告X1と被告との間の従前の証券取引関係(とりわけ、それまでにもBと原告X1との間では、電話による有価証券の勧誘及び注文も相当回数繰り返されていたこと〔証人Bの証言、弁論の全趣旨〕)をも併せ勘案すれば、ワラントの基本的特質を理解するに足りる程度のものであったというべきであり、また、原告X1としては、ワラントの買付けを決断するに際して、なおワラントの理解につき不十分な部分があると考えた場合には、Bの面談による説明を求めることもできたのであるから、Bの勧誘が電話による説明のみをもってなされたこと自体を取り上げて、これを違法と評価することはできない。ワラント取引確認書の事前受入れは、顧客の意思確認、後日の紛争防止のために望ましいことではあるが、有価証券取引の迅速性から確認書受入れが事後的になされることはあり得ることであって、事前受入れがなされなかったことの一事をもって、右取引が顧客の自主的意思に基づかない取引であったということはできず、また、勧誘行為自体が違法になるものでもない。

(3) 以上によれば、B及びCが原告X1に対して行ったワラントについての説明が、説明義務に違反するものであるとか、断定的判断の提供や誤解を生ぜしめる表示行為にあたり違法であるということはできない。

(三)  助言義務違反について

原告X1は、証券会社の助言義務について縷々主張するけれども、前記一2説示のとおり、証券投資は、投資家自身が自己の責任において行うのが原則であるから、ワラント投資においても、経済動向や当該個別会社の業務実績等の購入したワラントの相場に影響を与えるような情報やワラントの価格についての情報を収集するのは第一次的には投資家自身の責務というべきであり、それゆえにこそワラント投資の勧誘に際しては前記のとおりの説明義務等が認められるのである。したがって、証券会社及びその使用人は、顧客である投資家に対して、これらの情報を提供する法的義務を負うものではなく、証券会社の顧客に対する説明等が、投資家の自己決定権を侵害する態様のものであったり、投資家の意向に反するものであった等の特段の事情のない限り、投資に関する助言について投資家に対して責任を負わないものというべきである。

これを本件についてみると、前記認定のとおり、原告X1が本件三菱商事ワラント及び同日立情報システムズワラントを購入した後においても、原告X1に対しては、被告から「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」が送付されていたほか、Bからも、一週間に二回くらいの架電がされており、またCからも、日立情報システムズワラントの価格の連絡がされているのであり、本件全証拠によっても、原告X1に対して与えられた右各情報が虚偽のものであったとか、原告X1の意向を無視してその後の取引が継続されたなどという事情は何ら認められないから、被告の助言義務違反を言う原告X1の主張は理由がない。

(四)  したがって、原告X1の被告に対する不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求には理由がない。

三  争点2(原告X2に対する不法行為の成否)について

1(一)  前記基礎となる事実に、甲第二号証、第四三ないし第四七号証、第八三号証、乙第二号証、第一六ないし第二〇号証、第二一及び第二二号証の各一、二、第二三、第二四、第四二、第八五号証、証人Dの証言、原告X2本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告X2(大正三年○月○日生)は、青果商や乾物商等を営んだ後、昭和四一年ころ、東京都新宿区所在のc株式会社に入社し、主に商品管理を担当し、昭和六三年三月、流通サプライ課の課長職を最後に退職し、以後、月額一九万円程度の年金で生計を立てている。原告X2の退職当時の年収は、約四〇〇万円であった。

原告X2は、昭和五八年一〇月ころ、それまで取引をしていた日興証券株式会社に加えて、被告新宿駅西口支店とも証券取引をするようになり、以後、本件神戸製鋼所ワラントを購入した平成元年三月までにも、流動資産約一八〇〇万円のうち、約一〇〇〇万円程度を運用資金として、三菱瓦斯化学株や三井金属鉱業株などの証券取引を数十回にわたって行っており、藤倉電線株で一〇〇万円以上(約七割五分)の利益を得たのをはじめ、一銘柄で三割以上の損益を計上する証券(株式)取引も多数回行っていた。

被告は、昭和六三年五月に原告X2から住居を東京都世田谷区から肩書地である三重県尾鷲市内に変更する旨の住居変更届を受領したため、三重県内の支店を紹介しようとしたが、原告X2の希望により、取扱店を変更することなく、新宿駅西口支店を通じて原告X2との取引を継続した。

(2) Dは、原告X2が平成元年三月七日に、それまで買い付けていた神戸製鋼所株式六〇〇〇株に加えて、同株式五〇〇〇株を代金約四五〇万円で買い付けたため、翌八日、原告X2に架電し、神戸製鋼所の株式がさらに値上がりすると考えるのであれば、株式より株価が値上がりしたときにより大きく値上がりする可能性があるワラントという商品がある旨を述べて、神戸製鋼所ワラントの購入を勧誘した。その際、Dは、原告X2に対して、ワラントが新株引受権であること、その価格が株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であること、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなること等を説明した上、今ワラントは非常に大きなにぎわいを見せており、銘柄としては神戸製鋼所ワラントが権利行使期限まで四年ほどあって、株価の上昇も続いており、今後も値上がりする見込が強い旨述べて、リターンを大きく得られる可能性があるものとしてこれを推奨した。このときDは、原告X2に対し、神戸製鋼所の株価や発行時の行使価格、適用される為替などの説明をした。原告X2は、ワラントの価格(ポイント)、為替、数量等を確認した上、それまで既に神戸製鋼所株に約九〇〇万円を投資しており、今後も同株式の価格の上昇が見込まれたことなどから、当時保有していた日本鋼管株五〇〇〇株と三菱金属株二〇〇〇株を売却した代金で、本件神戸製鋼所ワラントを購入することを決定した。右電話は一〇分ないし一五分程度のものであった。また、このときDは、原告X2に対し、ワラント取引には、外国証券口座開設のための書類やワラント取引確認書が必要になることを説明し、署名、押印をして返送するよう依頼した上、翌日ころ、被告が原告X2にワラント取引説明書を郵送したところ、平成元年三月一〇日ころ、原告X2は、被告に対し、外国証券取引口座設定約諾書及びワラント取引に関する確認書を自ら署名、押印の上、返送した。右取引説明書には、ワラント取引の仕組みやそのリスクについての詳細な記載がなされていた。

その後も原告X2は、Dの推奨に基づき、平成元年三月二九日に旭化成ワラント二〇ワラントを代金三六九万七三七五円で、同年四月四日に三井物産ワラント二〇ワラントを代金三八五万四一〇〇円で、同月一一日にダイセルワラント一〇ワラントを代金二二九万二一八一円でそれぞれ購入したものであるが、右各取引の際、Dは原告X2に対し、各銘柄の推奨理由を説明し、原告X2は、購入するワラントのポイント、為替、数量等を確認した上で、右各ワラントの購入を決定した。その後、Dは、原告X2に対し、一カ月に一度か二度の割合で電話連絡をとり、ワラント価格の値動きを説明するとともに、被告から原告に対しては、平成二年二月以降三カ月ごとに、「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」が送付されていた。右「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」の裏面には、ワラントが新株引受権であること、株価と連動して価格が上下するが、その上下する幅は株価の変動よりも大きいこと、権利行使期限があり期限が過ぎたときにはその価値を失うこと、為替相場の影響を受けることなどが記載されていた。

(二)(1)  以上の認定に対し、原告X2は、その本人尋問において、概ね、「ワラントの説明は受けておらず、また、ワラント取引説明書の送付も受けていなかったが、ワラント取引確認書への署名、押印をした。本件神戸製鋼所ワラントは、被告から取引報告書が送付されたため仕方なしにその購入を決めたのであって、右ワラント取引確認書への署名、押印を行った際には、まだワラントを購入するか否かは決めていなかった。」旨供述する。

しかしながら、原告X2が署名、押印の上、被告に返送したことを自認する「ワラント取引に関する確認書」には、「私は、貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」という極めて平易で短い文章のみが記載されているのであり(乙第一六号証)、また、右確認書は、もともとワラント取引説明書の一部としてこれと一体となった形状のものであったこと(乙第一六号証及び弁論の全趣旨等によって認められる。)などからすると、ワラント取引説明書の送付を受けないまま右確認書に署名、押印をしてこれを被告に送付したという原告X2の前記供述は、にわかにこれを採用することができない。そして、右のような確認書記載の文面に、原告X2がこの文書と同時に署名、押印したことを自認する外国証券取引口座設定約諾書(乙第一七号証)の内容を併せ見れば、これらの書類が、顧客がワラント取引を開始することを確認する旨証する書面であることは明らかであること、原告X2は、その本人尋問において、平成二年一月三一日付で送付された「外貨建てワラント時価評価のお知らせ」等によって、本件神戸製鋼所ワラントが約一六〇万円の損失を計上していたことを知ったのにこれを売却しなかった理由について、Dから、権利行使期間が三年あると言われたからである旨供述していること(原告X2は、この際、右権利行使期間の意味も分からなかったし、その説明も受けなかった旨供述するけれども、一〇〇万円を超える大きな損失を被るか否かの重大な決断を迫られている右のような場面で、理解できない言葉による説明を鵜呑みにしてその助言に従ったなどという行動は理解に苦しむというほかない。)、原告X2は、被告との間で、本件神戸製鋼所ワラントを購入した後も、株式取引のみならず数銘柄のワラント取引をも繰り返しているが(当事者間に争いがない。)、その際被告に対し、ワラント取引説明書の交付を受けていないことや、Dのワラントについての説明が不十分であったことなどについて、被告に抗議した形跡も窺えないことなどをも併せ勘案すると、前記「ワラントの説明は受けず、また、ワラント取引説明書の交付も受けないまま、『仕方なしに』本件神戸製鋼所ワラントを購入した。」とする原告X2の供述は、それまで、代金一〇〇万円ないし三〇〇万円程度の商品の購入を行ってきた原告X2が、一度に六〇〇万円もの投資を決意するに至った経緯に関するそれとしては、まことに不自然というべきである。原告X2の前記供述は、これを採用することができない。

(2) また、原告X2は、本件神戸製鋼所ワラントの価格の値下がりを知ったのは、平成二年三月になってのことであると主張し、原告X2本人の供述(本人尋問の結果、甲第二号証)中にも右主張に副う部分がある。

しかしながら、原告X2は、被告との間で、本件神戸製鋼所ワラントを購入した後も平成元年中に、Dを窓口として九銘柄にも及ぶ証券取引を行っているのであり(乙第二号証、弁論の全趣旨)、右各取引の際、原告X2が最も関心のあるはずの保有銘柄の価格動向を一度も問い質さないなどという事態は想定し難く、また、Dが敢えてこれを秘匿したり、虚偽の情報を伝えたなどといった事情も認められないこと、原告X2は、その本人尋問において、神戸製鋼所のワラント価格や株価については、(株式を全て売却した後にも)、これに注目して見ていたなどと供述していることなどからすると、原告X2の前記主張を採用することはできない。

2(一)  適合性の原則違反について

前記1(一)で認定した事実によれば、原告X2は、本件神戸製鋼所ワラントを購入した当時、年金生活者であったとはいうものの、保有する流動資産は一八〇〇万円にも上り、しかも、それまでにも被告ほか一社の証券会社との株式取引をした経験があり、その回数も豊富であったことが認められるから、原告X2が、それまで、ワラント取引をした経験がなく、また、ワラントには、株式の取引とは違った特質があることを考慮してもなお、原告X2が、ワラント取引の適合性を欠くということはできない。

(二)  説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示について

(1) 前記1(一)で認定した事実によれば、Dは、原告X2に対して、ワラントが新株引受権であること、株価と連動して、株価が一割上がれば三割上がる、一割下がれば三割下がるというハイリスク・ハイリターンの性質を持つ商品であること、権利行使期限を徒過すれば、投資価値がなくなること等を説明した上、本件神戸製鋼所ワラントの権利行使期限等の説明をしたことが認められ、この事実に加え、原告X2が、本件神戸製鋼所ワラントを購入するまでにも、豊富な証券取引の経験を有していること、本件全証拠によっても、Dの原告X2に対する説明の内容が虚偽のものであったなどという事情も認められないことなどを総合すると、原告X2は、Dの右説明によって、ワラントの仕組み、リスク等について十分理解し得たものというべきであり、Dは、原告X2に対し、ワラントについての説明義務を尽くしたものというべきである。

(2) 確かに、前記1(一)で認定した事実によれば、原告X2は、ワラントの性格、仕組み等について、説明書等の文書による説明は受けずに、Dからの電話による口頭の説明のみで本件神戸製鋼所ワラントの購入を決定したことが認められる。

しかしながら、原告X2は、昭和六三年八月に現住所地(三重県尾鷲市)に転居した際には、取扱支店を新宿駅西口支店としたまま被告との取引を継続すれば、同支店に直接赴くことが困難となり、必然的に電話による説明、注文等が被告との主たる取引形態となることを予想し得たにもかかわらず、前記認定のとおり、敢えて被告新宿駅西口支店との取引の継続を希望したものであり、現実に、それ以降本件神戸製鋼所ワラントを購入するまでに、前後一〇回以上にもわたって電話による買付注文を出していること(乙第二号証、弁論の全趣旨)、被告は、原告に対し、本件神戸製鋼所ワラント取引が行われた翌日ころにはワラント取引説明書を交付しているところ(原告X2は、この事実を否認するかのようであるけれども、前説示のとおり採用できない。)、原告X2がDに対し、さらに説明を求めたり、勧誘時の口頭(電話)による説明の不十分さを抗議したりした形跡も窺えないことなどをも併せ考慮すると、Dの原告X2に対する右説明が、口頭でのみなされたとしてもなお、不法行為法上違法との評価を受けるほど不十分であったとはいい難い。

また、確かに、前記1(一)で認定した事実によれば、Dは、原告X2に対し、本件神戸製鋼所ワラントの購入によって、リターンを大きく得られる可能性があることを述べたことが認められ、原告X2がその買付けを決意したのも、右Dの勧誘によって、右ワラントの購入により大きな利益が得られるであろうとの見通しを持ったためであることが窺える。しかしながら、Dが原告X2に対し、ワラントの基本的性格について、ハイリターンの点のみならず、株価が下がった場合には、それよりも大きな割合で価格が下がる可能性があることや、権利行使期限の徒過により無価値になることなどのハイリスクの点についても説明をし、一方原告X2自身も、それまでの株式取引によって三割を超える損失を被った経験もあったことは前記認定のとおりであり、しかも、本件神戸製鋼所ワラントが購入された平成元年三月当時、株式市況は、昭和六〇年ころからの円高や長短金利の大幅な低下(金融緩和)を背景とした史上空前の活況を呈しておりいわゆる右肩上がりの傾向が今後も継続すると一般に考えられていたこと(公知の事実である。)、原告X2は、本件神戸製鋼所ワラントのほかにも、旭化成ワラント、三井物産ワラント及びダイセルワラントなどのワラントを購入し、それぞれ数十万円ないし数万円の利益を上げていること(当事者間に争いがない。)、その他本件神戸製鋼所ワラントが購入された当時の状況などをも併せ考慮すると、仮に原告X2が、Dの右勧誘によって、今後の見通しとして相当の利益が見込まれるとの印象を持ったとしても、その見通しには客観的根拠があったものというべきであり、大多数の者が今後の景気の拡大を信じ、株価の大暴落のような事態が起きることを予想することは困難であった当時の右経済状況に照らすと、Dの右のような勧誘が違法であったと認めることはできない。結局、本件神戸製鋼所ワラントは、D及び原告X2の今後も株価が好調を維持するであろうという一致した経済的見通しの下に購入されたものというべきであり、前記認定のとおり、原告X2がワラントの持つリスクを認識してこれを購入した以上、たとえ右見通しに反する結果が生じたとしても、それは原告X2の経済的予測が外れたというにとどまるものであって、原告X2が本件神戸製鋼所ワラントの購入によって損失を受けたのは、原告X2が主張するようにワラントの価格形成の仕組みが複雑であるとか、権利行使期間経過後は無価値となるといったワラントの性質やこれに対する原告X2の無理解に起因するのではなく、むしろ原告X2が、他の大多数の人々と同様に、その後の株価の暴落を予測し得なかったことに起因するところが大きいものというべきである。

(3) 以上によれば、Dが原告X2に対して行ったワラントについての説明等が、説明義務に違反するものであるとか、断定的判断の提供や誤解を生ぜしめる表示行為にあたるということはできず、その他本件全証拠を検討しても、Dの右行為等が違法であるとの評価を基礎づける事実は見あたらない。

(三)  したがって、原告X2の被告に対する不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求には理由がない。

四  争点3(原告X3に対する不法行為の成否)について

1(一)  前記基礎となる事実に、甲第三号証、第六〇号証の一、二、第六一ないし第六七号証、第六八号証の一、二、乙第三、第三三、第五五号証、第五六号証の一ないし三、第五七ないし第六二号証、証人E及び同I(以下「I」という。)の各証言、原告X3本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告X3(昭和六年○月○日生)は、d県立高校を卒業した後、昭和二五年四月、e銀行に入行し、融資担当業務等を行い、有価証券の担保価値について判断をする職務も担当していた。原告X3は、昭和五八年四月、同銀行f支店の支店長代理の職から岐阜県関市所在のg工業に出向したが、その後平成三年七月に同銀行を退職し、同年八月にg工業に入社し、同社総務部長等を務め、平成七年七月に同社を退職した。原告X3の年収は、約五〇〇万円であり、四〇〇〇万円程度の銀行預金も有する。

原告X3は、g工業において、総務部長として経理事務全般を統括し、昭和六三年にg工業が株式投資をした際には、複数の証券会社担当者との交渉を担当するなど、g工業の投資に関する窓口としての業務を行っており、g工業は、原告X3が取次役となって、東洋エクステリア株や大垣共立銀行株などの証券取引を行って、利益を上げたこともあった。また、原告X3は、自らも一〇〇〇万円程度の資金を目処に個人として証券取引を行い、平成二年五月には、被告岐阜支店でダイダン株三〇〇〇株を代金約一〇一八万円で買い付け、その約一カ月後にこれを売却することによって、約五三万円の利益を得るなど、価格変動の大きい商品の購入をしたこともあった。また、原告X3は、平成五年五月からは、山一証券株式会社とも証券取引を開始した。

(2) Eは、g工業との取引を通じて原告X3と面識を持ったものであるが、右ダイダン株の取引など、原告X3の個人取引においてもその担当者となっていた。

Eは、平成二年六月二〇日午前一〇時三〇分ころ、会議中であった原告X3に架電し、概ね「日新製鋼ワラントという商品があります。ワラントはドル建てで、一定の期間内に決まった株価で将来買い付ける権利のことをいいます。その権利を買ってみませんか。ただ、ワラントは上昇するときは、株価の上昇率以上に上昇しますが、下がるときも同様に株価の下降率以上に下がりますので、そういう意味では、ハイリスク・ハイリターンな商品です。」などと言ってワラントの購入を勧誘した。その際Eは、原告X3に対し、日新製鋼株は、高値が一七九〇円で、底値が七百数十円であり、そこから株価は上がっておらず九百数十円の位置にあるので、将来値上がりしそうであるなどという説明を加えて、同ワラントを推奨した。これに対して原告X3は、Eに対し、「なじみのない商品だな。会議中なのでゆっくり話しておれない。後で電話してくれ。」などと言って電話を切った。その約一、二時間後、Eは、原告X3に再び架電し、概ね「ワラントは、手付を打って土地を買う権利によく似ています。例えば、一億円の土地があり、一〇〇〇万円の手付を打ったとして、この土地が一億二〇〇〇万円に値上がりしたとすれば、一〇〇〇万円の手付は、三〇〇〇万円の価値があることになります。逆に、土地が八〇〇〇万円に値下がりすると、手付の一〇〇〇万円を打っていたとしても、残金九〇〇〇万円を支払うことになり、意味がないことになります。そして土地の残金九〇〇〇万円の支払期日が来ると手付流れになってしまうこともあるでしょう。この手付と土地との関係を、ワラントと株式との関係に置き換えてみると分かり易いのではないかと思います。」などと言って、ワラントとワラントで買い付けることのできる株式との関係を土地の手付金と土地代金の関係に例えながら、ワラントの価格は株価の上下に連れて上下し、株価の変動率より大きく変動すること、ワラントは権利行使期限が到来すると手付流れと同じく、価値が無くなってしまうことなどを説明するとともに、右の説明は理論上の話であり、ワラント価格は、基本的には株価に連動するが、連動しないこともあり、株式の需給とワラントの需給は別ものであって、例えば、株式に将来強い値上がり期待があれば、株価は上がらなくてもワラントが値上がりすることもあり、逆に、株式を購入するまでの期間が短ければ、売買しにくくなるので、株式に比べて安くなることもあることなどを説明した。これに対し原告X3は、「なるほど、考えておくよ。」と言って電話を切った。この電話は、約二〇分程度のものであった。そして、Eは、二回目の電話からさらに約二時間くらいが経った後、原告X3に三回目の電話を架け、日新製鋼の株価について説明し、「高値がこういう位置ですが、日新製鋼の株価が上がると思えば、ハイリスク・ハイリターンの商品ですが、株式を買うより効率的ですから買って下さい。」などと言って、本件日新製鋼ワラントの購入を勧誘した。そうすると、原告X3は、その当時、平成二年一月から急落した株式相場が回復基調にあるとの認識を有していたことから、右ワラントが値上がりするものと考えて、これを代金一〇一六万円余りで買い付けた。

(3) 平成二年六月二八日ころ、被告岐阜支店は、原告X3に対し、ワラント取引説明書を送付し、原告X3は、取引確認書を被告に返送した。右取引説明書には、ワラント取引の仕組みや、そのリスクについての詳細な記載がされていた。その後被告は、同年八月ころ、同三年二月ころ、同年五月ころ、同年七月ころ、同年八月ころ及び同年一一月ころなど数回にわたって、原告X3に「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」を送付した。右書面には、本件日新製鋼ワラントの時価評価が記載されているとともに、その裏面部分に、ワラントが新株引受権であること、ワラントの価格変動が株式よりも大きいこと、権利行使期間が終了した場合にはその価値を失うことなどが記載されていた。そして原告X3は、これらの書面が送付される都度、「貴社に預けている金銭の残高及び証券の残高等(取引明細を含む。)の内容に相違ありません。」などといった記載のある回答書を、自ら署名、押印の上被告に返送していた。また、被告は、平成三年五月、原告X3に対し、「お預かり明細および建玉明細のお知らせ」と題する書面及び「なるほど・ザ・ワラント」と題する小冊子(ワラントの仕組み等について、わかりやすく説明がなされた書面)を送付した。

(4) 原告X3は、平成四年五月七日、本件日新製鋼ワラントを代金七二一四円で売却し、国内取引税二一円、譲渡益税七二円を差し引かれた七一二四円を受け取った。

(二)(1)  以上の認定に対し、原告X3は、その本人尋問において、「Eからワラントが株式よりも値動きが大きいとは聞いていない。株価より大きく変動することを知ったのは平成三年五月ころのことである。」「ワラントには期限があって、期限が来ると無価値になるのを知ったのは、平成三年六月ころのことである。」などと供述する。

しかしながら、一方原告X3は、本件日新製鋼ワラントを購入した直後である平成二年六月に、被告からワラントの意義、その価格(株価との関係)、権利行使期間経過による権利失効、外貨建てワラントとそのリスクなどについての記載がなされているワラント取引説明書の送付を受けていたのであり(当事者間に争いがない。)、また、原告X3は、その本人尋問において、右説明書には、ワラントが期限の経過により価値を失うということや、株価に比較して変動率が大きくなる傾向があるとの記載がされていることを認識し、その数日後には、Eから本件日新製鋼ワラントが大幅な損失を計上していることも聞かされたとも供述している。さらに、原告X3は、本件日新製鋼ワラント購入後、三カ月ごとに送付される「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」を受領して、同ワラントが四割ないし七〇〇万円の値下がりをしていたことを認識していたにもかかわらず、そのうち価格も回復するであろうなどと考えたことから、被告に対し、証券の取引の明細や残高等の内容に相違ない旨回答し、Eの当初の説明については、何ら抗議をしていなかったこと(乙第五七ないし第五九号証、原告X3本人尋問の結果)、銀行員として、有価証券の担保評価の業務に就いたこともあり、また、Eから初めてワラント取引の勧誘を受けた際には、それがそれまで取引経験のあった金融商品とは違った性格を有すること自体は認識していた原告X3(いずれも、原告X3が自認する事実である。)が商品内容を全く理解しないままその日のうちに代金一〇〇〇万円以上の金融商品の購入を決断するのは不自然といわざるを得ないことをも併せ勘案すると、原告X3の「ワラントが、株式よりも値動きが大きいことを知ったのは平成三年五月のことであり、権利行使期限を過ぎると無価値になることを知ったのは同年六月のことである。」とする原告X3の前記供述は、これを採用することができない。

(2) また、原告X3は、その本人尋問において、Eからの説明によってワラントが社債のようなものであり、額面で払い戻されるものであると考えた旨供述する。

しかしながら、原告X3本人尋問の結果によれば、原告X3は、銀行の融資担当者として得た種々の知識によって、社債の基本的な性格、仕組みについてはこれを熟知していたことが認められるのに、原告X3は、その本人尋問において、Eからは社債の重要な要素である額面額や償還期限、利払いの話等は一切なかった旨自認していることなどに照らし、右供述はこれを採用することができない。

2(一)  適合性の原則違反について

前記1(一)で認定した事実によれば、原告X3は、地方銀行において支店長代理の地位にもあったものであり、しかも、銀行からの出向先の会社においても、総務部長として経理事務全般を統括し、同社が株式投資をした際には、複数の証券会社担当者との交渉を担当して、同社の投資に関する窓口としての業務を行っていたのみならず、個人としても、一〇〇〇万円程度の資金を目処に被告外一社の証券会社を通じて証券取引を行い、価格変動の大きい商品の購入をしたこともあったことが認められるから、原告X3が本件日新製鋼ワラントを購入するまではワラント取引をした経験がなく、しかも前記認定のとおり、ワラントには、株式の取引とは違った特質があることを考慮してもなお、原告X3が、ワラント取引の適合性を欠くということはできない。

(二)  説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示について

(1) 前記1(一)で認定した事実によれば、Eは、原告X3に対し、ワラントの価格が株価の上下に連れて上下し、株価の変動率より大きく変動すること、ワラントは権利行使期限が経過すると価値が無くなってしまうことなどを説明していたことが認められ、この事実に加え、原告X3が、個人取引のみならず、法人取引を行う窓口としてそれまでに豊富な証券取引の経験を有していること、本件全証拠によっても、Eの原告X3に対する説明の内容が虚偽のものであったなどという事情も認められないことなどを総合すると、原告X3は、Eの右説明によって、ワラントの仕組み、リスク等について十分理解し得たものというべきであり、Eは、原告X3に対し、ワラントについての説明義務を尽くしたものというべきである。

(2) 確かに、前記1(一)で認定した事実によれば、原告X3は、ワラント取引説明書の交付を受ける前に電話による説明のみで本件日新製鋼ワラントの購入を決定したものであり、右説明書に記載されているようなワラント取引の詳しい内容とか、その取引の特性を十分に理解しないままにその購入の申込みをしたことが窺えるところであって、Eの原告X3に対するワラントの説明が十分であったとはいい難い面もある。

しかしながら、前記説示のとおり、証券取引が基本的には取引を行う者自身の責任においてなされるべきものであり、証券会社が、取引内容に関し顧客に対してなすべき説明の程度も、顧客の属性に応じて精粗があってしかるべきところ、前記認定の原告X3の属性に加え、原告X3と被告との間の従前の証券取引関係(とりわけ、それまでにもEと原告X3との間では、数分ないし数十分の電話による取引で、代金一〇〇〇万円以上のダイダン株の買付けも行われたことがあったこと〔証人Eの証言、原告X3本人尋問の結果〕)をも併せ勘案すると、Eのワラントについての説明が前記認定の程度のものであり、より詳しい説明は、右取引成立の約一週間後に交付されたワラント取引説明書に譲るところとなったとしても、Eの右説明が、不法行為法上も違法であったといえる程不十分であったとはいい難く、仮に原告X3が自らのリスクにおいて投資するにはワラントの理解が不十分であると考えるのであれば、Eにさらなる説明を求めるなり、取引そのものを差し控えるなどの態度をとるべきであったというべきである。

(3) また、原告X3は、Eが原告X3に対して、ワラント投資における「パリティ」「プレミアム」「ギアリングレシオ」「ギアリング効果」「プレミアムとギアリングとの関係」等ワラントの価格形成のメカニズム、価格ポジションについて詳細な説明をしないで、本件日新製鋼ワラントのようなパリティが低くてプレミアムの高い銘柄を推奨したことをもって、被告の説明義務違反を構成すると主張する。

しかしながら、前記説示のとおり、投資家は、基本的に自己の責任において投資を決定すべきものであり、証券会社が、取引内容に関し顧客に対してなすべき説明の範囲も、顧客の属性に応じて広狭があってしかるべきところ、前記認定のEの説明は、原告X3がワラントの持つ特性、リスクについて理解させるのに十分であったものと認められるのであり、原告X3が、右のEの説明に加えて、原告X3主張の右各用語、ワラント価格の形成の仕組み等その他の事項について、さらに詳細な知識を得る必要を感じたのであれば、投資顧問業者等の専門家に相談するなり、被告にその説明を求めるなどして自ら情報を収集してしかるべきである。

確かに、甲第六五ないし第六七号証、第六八号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、本件日新製鋼ワラントは、その購入時において、総じてプレミアムが全ワラントの平均値に比して高いものであり、株価が権利行使価格よりも相当低いこと、このような場合においては、株価が上昇しても直ちにワラントの価格が上昇しない(株価の連動が少ない)こと、その理由は、株価が上昇してもプレミアム部分が減少するためにワラント価格が初めのころは上昇しないためであるといわれていることがそれぞれ認められるところではある。しかしながら、前記認定のとおり、原告が本件日新製鋼ワラントを購入したのは平成二年六月二〇日のことであり、一方右ワラントの権利行使期限は同五年八月三一日とされ、そのマーケットメイクは同年五月三一日まで行われていたものであって、右期間内に、株価が権利行使価格を上回っていく可能性がある限り、ワラント価格がその買付け価格を上回る可能性があると考えることには一応の合理性がある。確かに、ワラントの購入時において、当該銘柄の株価がワラントの権利行使価格よりも著しく低い場合には、権利行使期限までに株価が行使価格を上回る可能性も低いこととなるけれども、この場合においても、その時点以降の株価の上昇、又はその期待が増すことによってワラント価格が上昇した場合の売買差益を得る目的でワラントを購入するのは、経済的合理性を有する行為というべきである。そして、証人Eの証言によれば、Eは、原告X3に対し本件日新製鋼ワラントを勧めるにあたって、確かにパリティーは低いし、乖離率は高いけれども、株価が上がっていったらプレミアムも減少するし、そういう意味で本件日新製鋼ワラントの価格が中長期的にも短期的にも上昇するものと分析したため、前記認定のワラントの特性、リスクについての説明を行った上で、本件日新製鋼ワラントの推奨を行ったことが認められ、しかも、右ワラントが購入された後である平成二年秋ころは、いわゆる湾岸危機の最中であり、これが解決すれば再び株式相場が回復していくという見方も強くあったこと(公知の事実である。しかも、原告X3本人尋問の結果によれば、原告X3自身、その当時同様に株式相場が持ち直すであろうとの認識を持っていた事実が認められる。)をも併せ考慮すると、Eが原告X3に対して行った説明、推奨には、一応の合理的な根拠があったものというべきである。

したがって、Eが、原告X3に対して、ワラント価格形成のメカニズム、価格ポジション(パリティ、プレミアム、ギアリングの各関係等)につき、詳細な説明をしていないことや、本件日新製鋼ワラントを推奨したことをもって、その説明等が不法行為法上も違法と評価されるものではない。

(4) 以上によれば、Eが原告X3に対して行ったワラントについての説明が、説明義務に違反するものであるとか、断定的判断の提供や誤解を生ぜしめる表示行為にあたり違法であるということはできない。

(三)  助言義務違反について

前記二2(三)説示のとおり、証券会社及びその使用人は、顧客である投資家に対して、ワラントが購入された後にも、当該ワラントの相場に影響のある詳細な情報を提供する法的義務を負うものではなく、証券会社の顧客に対する説明等が、投資家の自己決定権を侵害する態様のものであったり、投資家の意向に反するものであった等の特段の事情のない限り、投資に関する助言について投資家に対して責任を負わないものというべきであるところ、前記認定のとおり、原告X3に対しては、本件日新製鋼ワラントを購入した後においても、被告から「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」が送付されており、これに対し、原告X3は、自ら金銭の残高及び証券の残高等(取引明細を含む。)の内容に相違がない旨回答しているのであり、本件全証拠によっても、原告X3に対して与えられた右各情報が虚偽のものであったとか、原告X3の意向を無視してその後の取引が継続されたなどという事情は何ら認められないから、被告の助言義務違反を言う原告X3の主張は理由がない。

(四)  したがって、原告X3の被告に対する不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求には理由がない。

五  争点4(原告X4に対する不法行為の成否)について

1(一)  前記基礎となる事実に、甲第五号証、第三〇ないし第三八号証、第三九号証の一、二、乙第五号証、第三二ないし第三九号証、第四〇号証の一ないし三、第四一、第四二号証、証人F及び同Cの各証言、原告X4本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告X4(昭和一二年○月○日生)は、昭和三五年三月にh経済大学を卒業した後、四年余りの間、紙問屋の会社に勤務し、その後、i工業所に入社し、現在、その代表社員の地位にある。i工業所は、製綿業を営む従業員六名、年商三五〇〇万円の会社であり、原告X4の年収は、約七二〇万円である。

原告X4は、それまで取引をしていた日興証券株式会社に加えて、平成元年五月ころから、Fの勧誘を受けて、被告四日市支店と証券取引をするようになった。原告X4は、本件大京ワラントを購入した平成二年七月当時、日興証券株式会社を通じて株式等の取引をして、太陽化学等の株式を購入するとともに、被告を通じても、転換社債やタテホ化学工業株式等の株式の取引に加え、アルファイールドBという外国投資信託を七〇〇〇口(受渡金額九七七万〇一〇六円)購入するなどの証券取引の経験があった。

(2) Fは、平成二年七月一八日、原告X4に対し、電話で大京ワラント(平成二年七月一三日発行調印、同月二六日発行)の購入を勧誘した。その際Fは、原告X4に対し、概ね、ワラントは、新株引受権付債券として発行されたものから債券の部分が切り離された残りの新株引受権を売買するものであること、株式に比べて価格の変動が大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使価格及び権利行使期限があること、右権利行使期限を過ぎればその価値はゼロとなることをそれぞれ説明するとともに、大京ワラントは、外貨建ワラントであり、約定金額が為替相場の影響を受けるため、為替変動によるリターン、リスクがあること、新規発行の銘柄であり、権利行使期限まで四年間あること、ワラントは、被告と顧客との相対売買になり、取引をするのは、被告と顧客になることなどを説明して大京ワラントを推奨した。このとき原告X4は、Fから今後大京ワラントの値上がりが期待できる旨の話を聞き、また、原告X4としても、その当時、新規発行の商品は儲かるとの認識があったため、本件大京ワラントの購入を決定した。この際Fは、原告X4に対し、被告とワラント取引をするにあたっては、被告に一〇〇〇万円相当額の預かり資産があることが必要である旨を述べ、一〇〇〇万円相当額の株券を預けることが可能かどうかを尋ねたところ、原告X4は、タテホ化学工業株式三〇〇〇株及び太陽化学株式三〇〇〇株を預けることができる旨の回答をしたため、Fは、本件大京ワラントの買付約定が成立した同日のうちに、原告X4宅において、右各株券の預託を受けた。このときFは、右各株券を預かった旨被告所定の社外受渡連絡票に記載するとともに、原告X4に対し、ワラント取引を始めるために必要な「外国証券取引口座設定約諾書」の用紙並びに「国内新株引受証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」を交付し、右説明書の末尾に綴られている「国内新株引受証券及び外国新株引受権証券取引に関する確認書」及び「外国証券取引口座設定約諾書」に、各署名、押印をして被告に返送するよう依頼した。Fが原告X4に交付した右各取引説明書には、ワラント取引の仕組みやそのリスクについての詳細な記載がなされていた。その後原告X4は、平成二年七月二三日ころ、被告に対し、本件大京ワラントの買付代金五二三万一一〇〇円とともに、口座管理料合計六一八〇円を支払い、また、そのころ、外国証券取引口座設定約諾書及び国内新株引受証券及び外国新株引受権証券取引に関する確認書に自ら各署名、押印の上、これを被告に返送した。

(二)  以上の認定に対し原告X4は、Fのワラントについての説明は「ワラントは投資信託のようなものである。」「最後になったら会社から連絡がいき利益がとれる。」といった程度のものであり、「詳しいことは月曜日に集金する者が行くのでその者から説明を聞いてくれ。」などと言われそのリスクの説明は全くなかった旨主張し、原告X4の供述(本人尋問の結果、甲第五号証)中にも右主張に副う部分がある。

しかしながら、原告X4が、それまで馴染みのなかった商品について自らの担当以外の者である集金人(社外受渡担当者)からの説明を期待するということ自体不自然であるし、原告X4は、右集金人が来訪する前である月曜日の午前中に銀行から本件大京ワラントの買付資金を借り入れているのであり(原告本人尋問の結果)、原告X4の右供述が真実であるとすれば、原告X4は、商品の詳しい説明を聞く前にワラントの購入を決意したという不合理な結論となり、しかも、結果的に原告X4は、右社外受渡担当者からは、ワラントについての詳細な説明を何ら得られないまま、本件大京ワラントの代金約五〇〇万円を支払っていること(原告本人尋問の結果)などからすると、集金担当者からワラントの説明を受けることとなっていたなどという原告X4の前記供述は採用し難い。そして、原告X4は、Fから最後(四年先)になったら利益がとれるとの説明を受け、転換社債と同じように期限まで持っていて利益を上げようと考えていたと供述しながら、銀行から借り入れた購入資金を四年もの間借りるつもりはなかったなどと、これと矛盾するかのような供述をしていること、Fから、「ワラントは投資信託のようなものである。」との説明を受けてその旨誤信したなどと供述するが、買付代金を銀行借入れで賄った上、年六・五パーセントの金利を負担して(原告本人尋問の結果)まで投資信託を購入する経済的合理性はないこと(なお、原告X4は、長期の借入れは予定していなかった旨供述するけれども、これが、四年先に利益がとれるとの説明を受け、これを期待して本件大京ワラントを購入したとする原告X4自身の供述と矛盾することは、前説示のとおりである。)、Fから本件大京ワラントの数量(三〇ワラント)について説明を聞いたか否かという重要な事実についても供述を変遷させていることなどをも併せ考慮すると、原告X4の前記供述は信用性に乏しいものといわざるを得ず、その主張を採用することはできない。

2(一)  適合性の原則違反について

前記1(一)で認定した事実によれば、原告X4は、h経済大学を卒業後、種々の職業を経験した上、合資会社の代表社員となったものであり、本件大京ワラントを購入した平成二年当時、健全な常識を備えた五二歳の企業経営者として、相応の社会的、経済的見識を有していたこと、被告との取引を開始する以前から有価証券への投資を行っており、しかも、タテホ化学工業株三〇〇〇株及び太陽化学株三〇〇〇株を保有するなど、価格変動の大きい銘柄への投資も経験していたこと(特に、原告X4は、その本人尋問において、右タテホ化学工業が先物取引を行っていることを知っていた旨自認している。)、ワラント取引には、一〇〇〇万円の預り資産が必要であるとのFの説明を受けて、即時、右二銘柄の各株式を被告に預けることができるなど、高額の資産を証券取引で運用する資力を有していたことなどがそれぞれ認められ、これらの事実に照らすと、原告X4がそれまで、ワラント取引をした経験がなく、また、ワラントには、株式の取引とは違った特質があることを考慮してもなお、原告X4が、ワラント取引の適合性を欠くということは到底いえない。

(二)  説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示について

(1) 前記1(一)で認定した事実によれば、Fは、原告X4に対し、ワラントが、新株引受権を売買するものであること、株式に比べて価格の変動が大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使価格及び権利行使期限があり、権利行使期限を過ぎればワラントの価値はゼロとなること、大京ワラントは外貨建ワラントであり、為替変動によるリターン、リスクがあることなどを説明したことが認められ、これらの事実に、前記認定の原告X4の属性をも併せ考慮すると、原告X4は、Fの右説明によって、ワラントの仕組み、リスク等について十分理解し得たものというべきであり、Fは、原告X4に対し、ワラントについての説明義務を尽くしたものというべきである。

(2) 確かに、前記認定のとおり、Fは、原告X4に対し、本件大京ワラントの値上がりが期待できる旨話してこれを推奨し、また、原告X4は、本件大京ワラントを購入することで、相当程度の利益を得られるとの見込のもとにその買付を決定したものであり、原告X4が右のような見込を持ったのは、Fの前記推奨がその要因となっていることは否めないところではある。

しかしながら、本件大京ワラントが購入された時期(平成二年七月)は、日経平均株価が史上最高値を記録したとき(平成元年一二月)から一年すら経過しておらず、一般的に株価が下がったとはいえ、その後景気が大幅に後退することまでの予測は困難な状況で、右株価等の低下は、一時的な調整期であって、再び上昇に転じると予想し、かえってこのような株価等の下がった時期をとらえて株式等を購入することが有利であるとの見方も有力であったのであり(公知の事実である。)、また、前記認定のとおり、本件大京ワラントは、いわゆる新規発行の銘柄であり、権利行使期間が四年も残されていたこと、その他本件大京ワラントが購入された当時の状況などからすると、Fの前記推奨にも、一応の客観的な根拠があったものというべきである。結局、本件大京ワラントは、F及び原告X4の今後株価が回復するであろうという一致した経済的見通しの下に購入されたものというべきであり、前記認定のとおり、原告X4がワラントの持つリスクを認識し得た状況でこれを購入した以上、平成二年八月に始まった湾岸危機などの影響により、株式市場全体が低迷状態に入ったこと(公知の事実)などから、たとえ右見通しに反する結果が生じたとしても、それは原告X4の経済的予測が外れたというにとどまるものというべきであって、Fの前記推奨行為が、説明義務等に違反する違法なものということはできない。

また、確かに、本件におけるFの原告X4に対するワラントの説明は電話をもってなされているけれども、ワラントの説明が電話をもってなされたことのみをもって、その違法性を基礎づけるものではないことはこれまで説示してきたとおりであり、前記認定の原告X4の属性やFの電話による説明内容に加え、Fは、前記認定のとおり、取引成立直後同日中に原告X4宅を訪問し、買付代金が支払われる前に直接原告X4に面談した上、「国内新株引受証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」を手交したものである(なお、原告X4は、この事実を否認するかのようであるが、原告X4は、「国内新株引受証券及び外国新株引受権証券取引に関する確認書」に自ら署名、押印の上これを被告に返送している〔原告X4の自認する事実である。〕のであり、右確認書には、「私は、貴社から受領した『国内新株引受証券取引説明書』及び『外国新株引受権証券取引説明書』の内容を確認し、私の判断と責任において国内新株引受証券及び外国新株引受権証券取引を行います。」という極めて平易で短い文章のみが記載されているものであること、右確認書は、もともと右新株引受権証券取引説明書の一部としてこれと一体となり、ミシン目で切り離す形状のものであったこと〔いずれも、乙第三二号証及び弁論の全趣旨等によって認められる。〕などからすると、原告X4が、そのころ、右説明書を受領していることは明らかといわなければならない。)が、右説明書には、ワラントの基本的性格が、その有するリスクを含めて詳細に記載されており(乙第三三号証)、また、原告X4が平成二年一一月ころ以降被告から送付を受けていた「外貨建ワラントの時価評価のお知らせ」の裏面にも、ワラント価格の変動が大きく、期限が過ぎたときにその価値を失うことや為替リスクもあることなどが記載されていて(甲第三一、第三二号証、乙第四〇及び第五六号証の各一ないし三、弁論の全趣旨)、原告X4は、これらの書面によってワラントの仕組み、リスク等について詳細な知識を得られたにもかかわらず、右各書面を受領した当時、Fや被告に対し、Fのワラントについての説明不足等を抗議したなどの事情も窺えないことなどをも併せ考慮すると、Fの電話による説明が不十分であったということはできない。

(3) 以上によれば、Fが原告X4に対して行ったワラントについての説明等が、説明義務に違反するものであるとか、断定的判断の提供や誤解を生ぜしめる表示行為にあたるということはできず、その他本件全証拠を検討しても、Fの右行為等が違法であるとの評価を基礎づける事実は見あたらない。

(三)  したがって、原告X4の被告に対する不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求には理由がない。

六  争点5(原告X5に対する被告の不法行為の成否)及び同6(原告X5の被告に対する不当利得返還請求権の有無)について

1(一)  前記基礎となる事実に、甲第四号証、第四八ないし第五二号証、第五三及び第五四号証の各一、二、第五五ないし第五七号証の各一ないし三、第五八号証の一、二、第五九、第七九号証、乙第四、第三三号証、第四三ないし第五四号証、第七四、第七五号証の各一、二、証人C及び同Fの各証言、原告X5本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告X5(昭和二四年○月○日生)は、昭和四六年三月にj学院大学経済学部を卒業し、約二年半の間、繊維関連の会社に勤務し、昭和四九年に実父の経営する「k商店」(その後、株式会社に法人化されている。)に入り、昭和五八年に「k商店」(平成元年三月に株式会社k1に社名が変更されている。)の代表取締役に就任した。k1社は、従業員三八名、年商五億円の寝装衣料の製造販売等を業務とする会社であり、原告X5は、同社から月額一二五万円の給与の支払いを受けている。また、原告X5は、月額六五万円の賃料収入がある。

原告X5は、昭和六二年一〇月ころから昭和六三年八月ころまでの間、日興証券株式会社四日市支店を通じて取引を行い、一〇〇万円から三〇〇万円程度の範囲で、証券投資を行っていた。その後原告X5は、昭和六三年四月ころからFの投資勧誘を受けるようになり、同年八月ころに三菱信託銀行の転換社債を代金五〇〇万円で購入したのをはじめ、平成元年一二月にドイツ銀行株一〇株を代金約六〇万円で購入するなど、平成二年七月に本件ヨミウリランドワラントを購入するまでの約二年の間に、被告四日市支店を通じて数回の転換社債の売買や株式の売買を行っていた。その間、原告X5は、Fから二日に一回の割合で電話又は面接による投資の勧誘を受け、平成二年六月一日には、スター精密株三〇〇〇株を自らが経営する会社からの借入金約九九五万円で購入し、これを約一か月後には売却して約四〇万円程度の利益を上げるとともに、その際前記ドイツ銀行株を売却して約一〇万円弱の利益を上げ、これら売却代金の一部を再び証券投資に回し、平成二年六月二九日にタカラ株一〇〇〇株を代金約五〇〇万円で購入するなどの取引をしていた。

(2) Fは、平成元年の秋口ころからワラントを扱い始めたものであるが、原告X5に対し、平成二年六月一日から同年七月一六日までの間に、面談をした上でワラントを紹介した。その際Fは、原告X5に対し、ワラントが、新株引受権付債券として発行されたものから債券の部分が切り離された残りの新株引受権を売買するものであること、株式に比べて価格の変動が大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期限があり、これを過ぎれば価値がゼロとなること、外貨建ワラントは約定金額が為替の影響を受けること、売り手、買い手が被告であるいわゆる相対取引であることをそれぞれ説明した。その後Fは、平成二年七月一六日、原告X5に架電し、再度右のようなワラントの一般的な説明をした上、代金二五〇〇万円程度でヨミウリランドワラントを購入することを勧誘した。その際、Fは、原告X5に対し、当時、ヨミウリランド株の値上がりが有望視されていたため、同ワラントも大きな値上がりが期待できる旨の話をした。原告X5は、このようなFの説明に対して、二五〇〇万円の購入資金の手当がつくかどうかを検討する旨回答し、その後同日中にFに架電した上、銀行からの借入れが可能であるから購入したいとの意思表示をしたため、これによって、本件ヨミウリランドワラント一〇〇ワラントの購入が決まった。そこで、原告X5は、平成二年七月一九日、株式会社百五銀行から短期の借入をした上、本件ヨミウリランドワラントの代金二五九六万一二五〇円を被告に支払った。その後原告X5は、平成二年七月二四日ころ、「国内新株引受権証券取引説明書」及び「外国新株引受権証券取引説明書」を受領し、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」に署名、押印した上、これを被告に返送した。右説明書には、ワラントが期限付の商品であり、権利行使期間が終了したときに無価値となること、株式に比べ価格変動の大きいハイリスク・ハイリターンの商品であることなどが記載されていた。

(3) その後Fは、平成二年八月三日ころ、原告X5に架電し、リコーの業績など同社の値上がり見込みに関する情報を提供した上、リコーワラントの購入を勧誘した。そこで原告X5は、当時値下がりし始めていた本件ヨミウリランドワラント(一〇〇ワラント)の一部である三〇ワラントを売却して購入資金を捻出した上、代金七三五万二五〇〇円で本件リコーワラント(五〇ワラント)を買い付けた。

(4) 原告X5は、平成二年一〇月中旬ころ、Fの後任として原告X5の担当となったCと面識を持つようになり、以来一週間に一、二度の割合で電話又は面接により、株式及びワラントの購入の勧誘を受けていた。Cは、平成二年一一月二〇日ころ、原告X5に対し、過去の大林組の株式のチャート及びワラントの値動きの資料を持参した上、面談をして大林組ワラントの購入を勧誘した。その際Cは、原告X5に対して、公共投資が膨らんで内需関連株、中でも建設株の値上がりが期待できること、大林組の株価は一〇〇〇円から一四〇〇円の間を上下しており、当時株価が一一〇〇円であった大林組のワラントの値上がりが期待できる旨説明した。Cの右ワラントの説明、勧誘は、二日間、のべ約四時間程度にわたってなされた。その結果原告X5は、平成二年一一月二二日、本件大林組ワラント一三〇ワラントを代金一〇七三万一五〇〇円で購入した。

(二)(1)  以上の認定に対し、原告X5は、本件ヨミウリランドワラントを購入した際、Fから、ワラントについての具体的な説明はなく、ワラント債という言葉を用いて、「ワラントは債券のようなものである。」との説明のみを受け、その旨誤信したと主張し、原告X5の供述にも、右主張に副う部分(甲第四号証、本人尋問の結果)がある。

しかしながら、原告X5は、銀行から借入れた金員をもって本件ヨミウリランドワラントの購入代金に当てているものであるが(当事者間に争いがない。)、平成二年七月当時、社債の利率は銀行の借入金利とほぼ同じであり(乙第七四、第七五号証)、銀行借入金をもって「債券」を購入する経済的メリットはなく、会社経営者である原告X5がこの点に関する検討のないまま、ワラントの購入を決断したものとは考えられない。また、原告が本件ヨミウリランドワラントを購入した後遅くとも一週間内に受領したワラント取引説明書には、「ワラントは期限付の商品であり、権利行使期間が終了したときに、その価値を失うという性質をもつ証券です。」「ワラントの価格は理論上、株価に連動しますが、その変動率は株式に比べて大きくなる傾向があります。」などと、ワラントの持つ性質、リスクが明確に謳われており(乙第三三号証)、また、その後原告X5は、Cから大林組ワラントについての詳細かつ具体的な説明を二日間のべ四時間にもわたって聴取しているが(原告X5の自認する事実である。)、その際、Fによるワラントについての説明との相違を主張したことなく、かえって、前記のとおり、再度一〇〇〇万円以上の金員をワラントに投資しているのである(当事者間に争いがない。)。そして、原告X5は、被告から送付されたワラント取引説明書を読んで、ワラントが場合によっては無価値になることを初めて知り、Fにこれを問い質した旨を主張するけれども、他方、その際、Fから「大丈夫です。私を信用してください。」と言われただけで、それ以上質さなかった旨を主張しており、これは、何らリスクの説明のないまま二五〇〇万円もの投資をさせられた者のとる態度としては、極めて不自然なものと言わざるを得ない。しかも、原告X5は、右ワラント取引説明書の受領後直ちに、「私の判断と責任において国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引を行います。」との記載のある取引確認書(乙第四三号証)に書面押印の上、これを自ら被告へ返送している(当事者間に争いがない。)のであり、これらの各事実に、原告X5は、ワラントの購入資金を百五銀行から借入れるに際して、同銀行に対し、使途であるワラントの商品内容について説明をしていること(原告X5の自認する事実である。)、被告との取引を開始して以来、本件ヨミウリランドワラントを購入するまでの約二年間、週に一、二回Fから熱心に証券取引の勧誘を受けていたにもかかわらず、被告に入社して二年余りの同人の勧誘にはたやすく応じることはなく、社会経験豊富な企業経営者として主体的に取引を行っていた事情が窺われること(乙第四号証、証人Fの証言、弁論の全趣旨)などをも併せ考慮すると、「Fから、ワラントについての具体的な説明はなく、社債のようなものであると言われてその旨誤信した。」という原告X5の供述は措信することはできず、その主張を採用することはできない。

(2) また、原告X5は、Cから本件大林組ワラントについて、「株価はもう下がらないから大丈夫である。」などと断定的な判断を提供されたため、これを購入したものである旨主張するけれども、原告X5が本件大林組ワラントを購入した平成二年一一月には、それまで購入したワラントが、株価の値下がりとともにすでに一〇〇〇万円を超える損失を計上しており、しかも原告X5は、被告から送付された「時価評価のお知らせ」等によってこの事実を明確に認識していたのであって(甲第四号証、乙第四五号証)、ワラントの価格が当該発行会社の株価に連動して変動することやワラントの持つリスクについてはこれを十分に理解していたと認められること、前記認定の属性を有する原告X5にとっても、株価が当該発行会社の業務実績や、政治、経済情勢等の要素によって上下するものであり、これが「もう下がらない。」などと断定することが不可能であることは常識の部類に属するものであること、一方Cとしても、原告X5に対して、右のような不合理で説得力のない説明をしたとは考え難いことなどからすると、その主張は採用し得ない。

2  原告X5に対する被告の不法行為の成否(争点5)について

(一) 適合性の原則違反について

前記1(一)で認定したとおり、原告X5は、昭和四六年にj学院大学経済学部を卒業した後、昭和五八年には、年商五億円を上げる会社の代表取締役の地位に就いて、現在、月額一二五万円の給与収入のほか、月額六五万円の不動産収入があり、また、昭和六二年一〇月ころからは、同社からの借入金等を資金として、被告ほか一社を通じて証券取引を行い、本件ヨミウリランドワラントを購入するまでの間に、数百万円ないし一〇〇〇万円程度の証券取引を行った経験があったというのであるから、原告X5が本件ヨミウリランドワラントを購入するまではワラント取引をした経験がなく、しかも前記認定のとおり、ワラントには、株式の取引とは違った特質があることを考慮してもなお、原告X5が、ワラント取引の適合性を欠くということは到底いえない。

(二) 説明義務違反、断定的判断の提供及び誤解を生ぜしめる表示について

(1)(イ) 前記1(一)で認定した事実によれば、Fは、原告X5に対し、本件ヨミウリランドワラントの購入を勧める前から、ワラントを紹介するに際して、ワラントが、新株引受権を売買するものであること、株式に比べて価格の変動が大きいハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期限があり、これを過ぎれば価値がゼロとなること、外貨建ワラントは約定金額が為替の影響を受けることなどをそれぞれ説明し、また、本件ヨミウリランドワラントを勧誘するに際しても、ワラントの仕組み、リスク等について、右と同様の説明をしていたことが認められ、この事実に、前記認定の原告X5の属性(とりわけ、原告X5が年商五億を上げる会社の代表者として、相応の社会的、経済的見識を有しているのみならず、比較的多額の証券取引の経験もあったこと)や、本件全証拠によってもFの原告X5に対する説明の内容が虚偽のものであったなどの事情は認められないことをも併せ考慮すれば、原告X5は、Fの右説明によって、ワラント取引の仕組み、リスク等について十分理解し得たものというべきであり、Fは、原告X5に対し、ワラントについての説明義務を尽くしたものというべきである。

(ロ) また、前記1(一)で認定した事実によれば、Cは、原告X5に対し、本件大林組ワラントの購入を勧誘するに際して、大林組ワラントについて、二日間のべ四時間にもわたって詳細かつ具体的な説明をしたことが認められ、また、Cが、原告X5に対して、断定的判断の提供にあたると評価しうるような勧誘行為をしたとは認められないことは前記説示のとおりである。

(2) 確かに、前記認定の事実によれば、原告X5に対し、Fは、本件ヨミウリランドワラントの値上がりが期待しうる旨の話をし、また、Cも、当時本件大林組ワラントが有望であるとしてその購入を勧誘したこと、原告X5としても、右各ワラントの購入によって、相応の利益を上げられるものと期待してその買付けを決定したこと、原告X5が右のような期待を持ったのは、FやCによる右説明がその一因となっていることがそれぞれ認められるところではある。

しかしながら、本件ヨミウリランドワラントが購入された時期(平成二年七月)は、平成二年一月ころからの日経平均株価の一万円程度の暴落の後、五〇〇〇円くらいの回復が見られた時期であり、さらに株式相場が回復に向かうのではないかという見方も強くあり、また、それから約四か月後である本件大林組ワラントが購入された時期(平成二年一一月)も、日経平均株価が史上最高値を記録したとき(平成元年一二月)から一年すら経過しておらず、一般的に株価が下がったとはいえ、その後景気が大幅に後退することまでの予測は困難な状況で、右株価等の低下は、一時的な調整期であって、再び上昇に転じると予想し、かえってこのような株価等の下がった時期をとらえて株式等を購入することが有利であるとの見方も有力であったのであり(以上は公知の事実である。)、その他右各ワラントが購入された当時の状況などからすると、F及びCの前記推奨にも、一応の客観的な根拠があったものというべきである。以上によると、原告X5は、右各ワラントが値上がりするであろうとの見込みを持ったことは認められるが、前記認定のとおり、原告X5がワラントの持つリスクを認識し得た状況でこれを購入した以上、最終的には自己の経済的見通し、才覚に基づき右各ワラントを購入したものということができるから、右の見込みを下回る結果になった場合の危険は自ら負担する意思のもとにこれを購入したものというべきであって、その後ワラント価格が下落して原告X5が損失を被ったとしても、F及びCによる前記推奨行為が、説明義務等に違反する違法なものということはできない。

(3) 以上によれば、F及びCが原告X5に対して行ったワラントについての説明等が、説明義務に違反するものであるとか、断定的判断の提供や誤解を生ぜしめる表示行為にあたるということはできず、その他本件全証拠を検討しても、F及びCの右行為等が違法であるとの評価を基礎づける事実は見あたらない。

(三) したがって、原告X5の被告に対する不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求には理由がない。

3  原告X5の被告に対する不当利得返還請求権の有無(争点6)について

(一) 前記1(一)で認定した事実によれば、原告X5は、Fの勧誘を受け、値下がりし始めた本件ヨミウリランドワラントの値下がりリスクを分散するため、その一部である三〇ワラントを売却し、代金七三五万二五〇〇円で本件リコーワラントを買い付けたことが認められる。

(二)(1) これに対し、原告X5は、本件リコーワラントは原告X5の承諾なくして無断で買い付けられたものであると主張する。

(2) しかしながら、被告を通じて行われる証券取引については、逐一取引報告書が顧客に送付されるのであり、本件リコーワラントの買付についても、被告から原告X5に対し、平成二年八月三日に同ワラントが買い付けられた旨の記載のある「計算書(取引の明細)」と題する書面(甲第五二号証)が送付されたことは、原告X5が自認している(原告X5本人尋問の結果)ところ、原告X5は、それまでの取引経験等から右書面の記載の意味を十分に認識していたと認められるのに、本件全証拠によっても、原告X5が被告に対して、無断売買を理由とするクレームを申し出た事実は何ら認めることができない。

そして、原告X5は、その本人尋問において、右無断取引を知った後の対応として、「Fから電話でリコーの方が儲かると言われ、それでいいと判断した。」として、これを宥恕した旨供述するけれども、七〇〇万円以上の商品の無断売買という背信的な取引をされた者のとる態度としては、これまで認定してきた原告X5の取引姿勢に照らして(本件ヨミウリランドワラントの購入の際に、Fからそのリスクの説明がなかったというのであればなおさら)、極めて不自然であるといわなければならない。

(3) 以上の認定、説示に、すでに指摘したとおり、原告X5が相応の社会的、経済的見識を有する企業経営者としてある程度主体的に証券取引を行っていた事情も窺えることをも併せ総合すると、本件リコーワラントについて、Fによる無断売買をいう原告X5の主張は、これを採用することができない。

(三) したがって、原告X5の被告に対する不当利得の返還請求には理由がない。

第四結論

以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前原捷一郎 裁判官 大工強 裁判官 堀田次郎)

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