津地方裁判所四日市支部 昭和47年(ワ)171号 判決 1974年9月18日
原告
小出岸夫
ほか四名
被告
松竹運輸商事株式会社
主文
一 被告は、原告小出岸夫に対し、金四四万八、八二五円及び内金四〇万八、八二五円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金四万〇、〇〇〇円に対する昭和四七年一二月一七日以降、各完済まで年五分の割合による金員を、原告小出ハルに対し、金四一万四、九二五円及び内金三七万四、九二五円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金四万〇、〇〇〇円に対する昭和四七年一二月一七日以降、各完済まで年五分の割合による金員を、原告奥山ふくに対し、金六三万八、九五六円及び内金五七万八、九五六円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金六万〇、〇〇〇円に対する昭和四七年一二月一七日以降、各完済まで年五分の割合による金員を、原告須藤喜市に対し、金一〇二万九、二〇一円及び内金九三万六、二〇一円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金九万三、〇〇〇円に対する昭和四七年一二月一七日以降、各完済までの年五分の割合による金員を、原告須藤志げ子に対し、金六三万六、五〇〇円及び内金五七万九、五〇〇円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金五万七、〇〇〇円に対する昭和四七年一二月一七日以降各完済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
二 原告らその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告小出岸夫、同小出ハル、同奥山ふくの負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告小出岸夫、同小出ハルにおいてそれぞれ金一五万〇、〇〇〇円ずつの、同奥山ふくにおいて金二五万〇、〇〇〇円の、同須藤喜市において金四〇万〇、〇〇〇円の、同須藤志げ子において金二五万〇、〇〇〇円の各担保を供するときは、その原告の勝訴部分に限り仮りに執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、
(一) 原告小出岸夫に対し、金三九四万六、二五一円及び内金三五八万八、二五一円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金三五万八、〇〇〇円に対する訴状送達の翌日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を、
(二) 原告小出ハルに対し、金三五七万三、二五一円及び内金三二四万九、二五一円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金三二万四、〇〇〇円に対する訴状送達の翌日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を、
(三) 原告奥山ふくに対し、金二一八万二、二二四円及び内金一九八万四、二二四円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金一九万八、〇〇〇円に対する訴状送達の翌日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を、
(四) 原告須藤喜市に対し、金一〇二万九、二〇一円及び内金九三万六、二〇一円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金九万三、〇〇〇円に対する訴状送達の翌日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を、
(五) 原告須藤志げ子に対し、金六三万六、五〇〇円及び内金五七万九、五〇〇円に対する昭和四六年三月一九日以降、内金五万七、〇〇〇円に対する訴状送達の翌日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を、
それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
訴外小出保一、同奥山均、同須藤光代は次の交通事故によつて死亡した。
(一) 日時 昭和四六年三月一八日午後一一時四〇分頃
(二) 場所 三重県三重郡川越町亀須新田地内名四国道上
(三) 加害車(被告車) 大型貨物自動車
運転者 訴外 平野久広
(四) 被害車 普通乗用自動車
運転者 訴外 小出保一
同乗者 訴外 奥山均、同須藤光代
(五) 事故の態様 四日市方面から名古屋方面へ進行中の被害車と、事故現場で中央分離帯に乗り上げた他車を牽引作業中の加害車とが衝突
(六) 被害の態様
(1) 訴外 小出保一 頭部顔面挫滅により即死
(2) 同 奥山均 右同
(3) 同 須藤光代 頭蓋骨開放性骨折、脳挫滅、顔面多発性挫創により即死
2 責任原因
被告は、次の理由により、本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
(一) 加害車を業務用に使用し自己のため運行の用に供していたから自賠法三条による責任。
(二) (予備的主張)加害車の運転手訴外平野久広、及び助手金光五行は共に被告の被用者であるところ、本件事故は、同人らが被告の業務執行のため加害車を運行して四日市方面から名古屋方面に向つて事故現場に差しかかつた際、さきに同所でコンクリート製の中央分離帯に乗り上げ停車していた大型貨物自動車(以下訴外事故車という)の運転手大滝正義に同車を中央分離帯から引き外すための牽引作業を依頼されて同作業を行うに際し、あらかじめ警察官に連絡してその指図を仰ぎ、また後方(南方)に十分な距離をおいて後続車の誘導係員を配置し、或いは南方に向つて停車している前記事故車の前照灯を点灯して危険を予知させるなどして、後続する北進車に対する事故防止につき万全の措置を講ずべき注意義務があるのにこれを怠り、交通ひんぱんな名四国道で、しかも夜間、北進車線二車線の内第二車線上に漫然と加害車を停車させて、同車と訴外事故車とをワイヤーロープで連結する作業を行つていたため、これに気づかず接近した被害車が加害車に衝突して発生したもので、右事故の発生については右平野ら被告の被用者に右注意義務違反の過失がある。よつて民法七一五条一項による責任。
3 損害
(原告小出岸夫、同小出ハルの損害について)
(一) 訴外亡小出保一に生じた損害
(1) 逸失利益 金三四九万八、五〇二円
(算出根拠)
(イ) 事故時年令 二二才(健康な男子)
(ロ) 事故前年収(調理士給与所得) 三一万八、四八〇円
(ハ) 就労可能年数(六三才まで) 四一年間
(ニ) 生活費控除 五〇パーセント
(ホ) 中間利息控除 年五分・ホフマン方式
(2) 慰謝料 金一〇〇万〇、〇〇〇円
(以上小計 金四四九万八、五〇二円)
(二) 相続
原告小出岸夫、同小出ハルは、右亡保一の父母で、その相続人の全部である。よつて同原告らはその相続分に応じ、亡保一の右損害についての賠償請求権を二分の一ずつの割合で相続した。その額は、それぞれ金二二四万九、二五一円ずつである。
(三) 原告小出岸夫に生じた固有の損害
(1) 亡保一の医療費 金三万九、〇〇〇円
(2) 同人の葬儀費 金三〇万〇、〇〇〇円
(3) 慰謝料 金一〇〇万〇、〇〇〇円
(以上小計 金一三三万九、〇〇〇円)
(四) 原告小出ハルに生じた固有の損害
慰謝料 金一〇〇万〇、〇〇〇円
(五) 以上の同原告らの損害合計金額は次のとおりとなる。
原告小出岸夫分 金三五八万八、二五一円
同小出ハル分 金三二四万九、二五一円
(六) 本訴弁護士費用
(1) 原告小出岸夫負担分 金三五万八、〇〇〇円
(2) 同小出ハル負担分 金三二万四、〇〇〇円
(原告奥山ふくの損害について)
(一) 訴外亡奥山均に生じた損害
(1) 逸失利益 金三八五万九、六八九円
(算出根拠)
(イ) 事故時年令 二二才(健康な男子)
(ロ) 事故前年収(会社員給与所得) 金三五万一、三六〇円
(ハ) 就労可能年数(六三才まで) 四一年間
(ニ) 生活費控除 五〇パーセント
(ホ) 中間利息控除 年五分・ホフマン方式
(2) 慰謝料 金一〇〇万〇、〇〇〇円
(以上小計 金四八五万九、六八九円)
(二) 相続
原告奥山ふくは右亡均の母である。よつて同原告は、亡均一の右損害についての賠償請求権をさきに離婚した夫(亡均の父)と二分の一ずつの割合で相続した。その額は、金二四二万九、八四四円(円未満切捨)となる。
(三) 同原告に生じた固有の損害
(1) 亡均の医療費 金三万九、〇〇〇円
(2) 同人の葬儀費 金二一万五、三八〇円
(3) 慰謝料 金二〇〇万〇、〇〇〇円
(以上小計 金二二五万四、三八〇円)
(四) 損益充当
同原告は、被害車の自賠責保険から本件事故による損害賠償金として、金二七〇万〇、〇〇〇円の支払を受けているので、これを前記損害金合計金四六八万四、二二四円の内金に充当した。よつてその差引残額は金一九八万四、二二四円となる。
(五) 本訴弁護士費用 金一九万八、〇〇〇円
(原告須藤喜市、同須藤志げ子の損害について)
(一) 訴外亡須藤光代に生じた損害
(1) 逸失利益 金三一七万八、〇〇〇円
(算出根拠)
(イ) 事故時年令 一八才(健康な女子)
(ロ) 予想年収(昭和四三年賃金センサスによる高校卒女子の平均年間総収入) 金二七万三、六〇〇円
(ハ) 就労可能年数(六三才まで) 四五年間
(ニ) 生活費控除 五〇パーセント
(ホ) 中間利息控除 年五分・ホフマン方式
(2) 慰謝料 金一〇〇万〇、〇〇〇円
(以上小計 金四一七万八、〇〇〇円)
(二) 相続
原告須藤喜市、同須藤志げ子は、右亡光代の父母で、その相続人の全部である。よつて同原告らはその相続分に応じ、亡光代の右損害についての賠償請求権を二分の一ずつの割合で相続した。その額は、それぞれ金二〇八万九、〇〇〇円ずつである。
(三) 原告須藤喜市に生じた固有の損害
(1) 亡光代の医療費 金一万九、〇〇〇円
(2) 同人の葬儀費 金一八万七、七〇一円
(3) 同人の墓碑建設費 金一五万〇、〇〇〇円
(4) 慰謝料 金一〇〇万〇、〇〇〇円
(以上小計 金一三五万六、七〇一円)
(四) 原告須藤志げ子に生じた固有の損害
慰謝料 金一〇〇万〇、〇〇〇円
(五) 損益充当
同原告らは、被害車の自賠責保険から本件事故による損害賠償金として、総額金五〇一万九、〇〇〇円の支払を受けているので、これを各相続分に応じて前記各自の損害金の内金に充当した。よつてその差引残額は、次のとおりとなる。
原告須藤喜市分 金九三万六、二〇一円
同須藤志げ子分 金五七万九、五〇〇円
(六) 本訴弁護士費用
(1) 原告須藤喜市負担分 金九万三、〇〇〇円
(2) 同須藤志げ子負担分 金五万七、〇〇〇円
4 結論
よつて原告らは被告に対し、各請求の趣旨記載のとおり、それぞれ前記損害合計金及び、その内前記弁護士費用を除いた各金員については本件事故の翌日以降、前記各弁護士費用については訴状送達の翌日以降、各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2の(一)の事実のうち、被告が加害車の運行供用者であつたことは認める。
(二) 同2の(二)の事実のうち、本件事故の発生につき訴外平野久広及び同金光五行らに過失があつたとの主張は争う。
3 同3の事実はすべて不知。
4 被告の主張(免責)
本件事故は、被害車の運転者である訴外亡小出保一の一方的過失により発生したもので、被告及び被告車の運転者らには何らの過失もなく、また同車に構造上の欠陥または機能上の障害もなかつた。
即ち、本件事故は、訴外平野が被告車(大型トレーラー)を運転して事故現場に北進して差しかかつた際、さきに同所で南進中他車にあて逃げされてコンクリート製の中央分離帯に乗り上げて困却していた訴外事故車の運転手大滝正義に、同車を牽引して右中央分離帯から引き外す作業を依頼されて、同作業に従事中発生したものであるが、右平野は、まず被告車を、訴外事故車の後方、片側二車線の現場道路の第二事線上で、中央分離帯に平行に密接させて停止し、同車の運転席の屋根の上にある黄色の回転灯を点灯して他車の注意を換起すると共に、訴外事故車の助手高田茂をして、同車の後輪附近で、被告車備付の赤色の非常灯を振らせて後続の北進車に対する誘導に当らせ、また訴外事故車の前照灯も当然点灯され南方を照射していた。このような状態で、右平野、大滝と被告車の助手金光らが同車と訴外事故車とをワイヤーロープで連結しようとしているとき、南方から第二車線上を、法定制限速度を二〇キロメートル毎時も超過する時速八〇キロメートルのスピードで進行して来た被害車が、そのまゝ右作業現場に接近し、まず右高田を突然はねとばし、つづいて停止中の被告車の左後部に激突し、その反動で左斜めに進行して道路左(西)端のガードレールに衝突したものである。なお、被害車の運転者小出保一は当時、乗車前に飲酒したウイスキーなどの影響で血液一ミリリツトル中に一・六ミリグラムのアルコール成分を含有していて酒に酔つて正常な運転のできない状態にあり、前方注視を怠つて右事故を惹き起したことが明らかである。
他方右平野においては、交通量の多い現場道路で中央分離帯に乗り上げ、後続、対向の各車に対し交通の危険を生じさせている訴外事故車を右分離帯から引き外し、右交通の危険を排除するため、大滝の要請に応じて、しかも右作業に適した自車を利用して、直ちに前記作業にとりかかつたことは、自動車運転者として当然の義務でもあり(本件事故現場道路は一般道路ではあるが交通ひんぱんな国道であるので、高速自動車国道等における場合の道路交通法七五条の一〇、一項後段の規定の趣旨が準用されて然るべきである)、そのことについては何ら責められるべき点もなく、また同作業を行うに際しては、前記のとおり後続車等に対する危険防止の措置を十分ほどこしていたのであるから、その点についても過失はない。
第三証拠〔略〕
理由
一 (本件事故の発生とその状況)
1 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。そこで本件事故発生状況につきさらに検討する。
2 〔証拠略〕を併せると次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場道路は、車道総幅員約一六メートルの舗装されたほゞ南北に延びる道路(名四国道)で、片側二車線ずつに区分され、中央に幅約五〇センチメートルの凸起したコンクリート製の中央分離帯が一本設けられており、右現場附近は直線区間で見通しがよく、事故当時指定速度制限はなされていなかつた。
(二) 訴外平野久広は、加害車を運転して北進中事故現場に差しかかつたところ、さきに同所に南進してきて中央分離帯に乗り上げ、自力で車線内に戻れなくなつている訴外事故車(大型貨物自動車)の運転手大滝正義に、救援を求めて呼び止められ、加害車が右事故車を牽引するに適した車両であり、また中央分離帯をまたいでいる同車の後方(北方)には同分離帯の切れ目があつて、同車を若干後方に牽引すれば比較的簡単に右分離帯から引き外すことができる状況であつたので、心易くこれを承諾し、加害車を一旦前進させたうえ、同車の右側タイヤを中央分離帯に平行に密接させるように後退して、同車の後部と訴外事故車の後部との間隔を五メートル位に保つ位置で停車し、加害車のエンジンはかけたまゝ、他車の注意を喚起するため同車の運転席の屋根の上に取付けられている黄色の回転灯を点灯して下車し、さらに同車に備え付けてあつた赤色の懐中電灯を訴外事故車の助手高田茂に持たせて、同車の左後輪附近で後続する北進車の誘導に当らせ、その間右平野、大滝と加害車の助手金光らが同車と訴外事故車とをワイヤーロープで連結する作業にとりかゝつたところ、折柄北進第二車線上を進行して来た被害車が、突然右高田に接触し、次の瞬間、停止している加害車の左後部に激突し、つづいて北進車線を左斜めに突切つて道路左(西)端でガードレールに衝突し、水平に一回転して前部を南方に向けて停止した。
右の事故は、加害車が前記位置に停止してから約四、五分後のことであつた。
以上のとおり認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
二 (原告の責任原因)
1 被告が本件事故当時加害車の運行供用者であつたことは当事者間に争いがない。
2 ところで、自賠法にいわゆる自動車の「運行」とは、定義規定たる同法二条第二項によれば、自動車を「当該装置の用い方に従い用いることをいう」とされているが、右の趣旨は、自動車がエンジンその他の動力等により「位置の移動」を伴う「走行」状態にある場合のみならず、前示本件加害車のように、「走行」を前提としてその準備(本件においては他車を牽引するための連結作業)のため、一般交通の場たる道路上において一時停止している場合をも「運行」の概念に含ましめるものと解するのが、自動車による特殊の危険から被害者を保護せんとする同法の立法目的に即応するものと解され、そうすれば、本件事故は加害車の運行中に生じたものであるから、被告は、(原告ら主張のその余の責任原因につき判断するまでもなく、)同法三条により、本件事故につき被害者に生じた損害を賠償する責任がある。
三 (被告の免責事由の有無と過失割合)
1 本件道路は一般国道であるが、国道一号線のバイパス道路として名古屋四日市間を結ぶ自動車交通量の多い幹線道路であることは当裁判所に顕著な事実であるところ、かゝる道路上で、しかも夜間中央分離帯側の第二車線上に加害車を停止させて、前示訴外事故車の牽引作業を行うことは後続の北進車に対し交通障害を来し、事故を招来し易い危険な行為であるから、訴外事故車の救出については、最寄りの警察署或いは道路管理機関等に連絡し、当該係員の臨場を待つてその指示に従い作業に当るのが、右作業自体については最も適切な措置であるということはできる。しかしながら他方、訴外事故車は大型貨物自動車で、これが前示中央分離帯をまたいで停止していることは、それ自体南進北進の各他車に対して危険な状態を現出しており、当該道路の交通関与者としてかゝる危険状態を速やかに解消すべく協力することは非難されるべきではなく、前示のとおり、加害車をもつてすれば、比較的容易に訴外事故車を中央分離帯から引き外せる状況であつてみれば、その作業にはさ程の時間を要するとも思えず、またその間加害車を停滞させることによつて後続車に対し交通障害をきたすとはいつても、右道路を全面的に閉鎖するわけではなく、一時第二車線の中央分離帯寄りを障害するに過ぎず(かゝる状態は、たとえば中央分離帯の切れ目などで、道路外の工場施設等に進入する右折車が右折のため中央分離帯寄りで一時停止している場合と客観的には同様であり、只本件加害車の場合はこのような右折車の場合より若干長く停滞するという差異を生ずるにとどまる)、後続車は第一車線を通行し得るのであるから、訴外事故車の運転者の要請に応じて、右作業を承諾した加害車の運転手平野及び同助手金光らの判断と行為は、そのこと自体必ずしも本件事故の発生に対し、相当因果関係ある過失として捉えることは相当でない。しかしながら、右作業は、夜間前示の如く自動車交通量の多い道路上で、右例の右折車の一時的停止の場合と異り、ある程度継続した時間に亘つて加害車を停滞させて行われるのであるから、同人らには、衝突の危険のある北進後続車に対する安全対策には十分留意し、入念の措置を講ずるべき注意義務があつたものというべきところ、以下その点の過失の有無につき検討するに、前示のとおり、右平野は、加害車を停止させて下車するに際し、同車の運転席の屋根の上にある黄色回転灯を点灯して一応他車に対する警告を与え、また訴外事故車の助手高田に加害車備付の赤色懐中電灯を持たせて北進後続車の誘導に当らせていたことは認められるが、前示のとおり同人は加害車の左後輪付近で右の誘導に当つていたことが認められ、そうとすれば、比較的高速で接近する他車のあることが予測される本件道路での誘導位置としては必ずしも適切でなく、これを有効に行うには(時速六〇キロメートル程度で接近する自動車の制動距離等を考慮しても)少なくとも右作業現場から三〇メートル程度以上南方において北進車に対する確実な誘導を行うべきであつたと考えられる。さらに前認定の本件事故発生時の状況並びに前掲各証拠によれば、右作業現場における加害車と訴外事故車の乗員ら関係者四名は、いずれも本件衝突瞬前まで、被害車の接近には殆んど気づいていなかつたことが推測され(その点から他方被害車はかなりの高速でノーブレーキのまゝ右現場に突込んだ事実も推測されるが)、以上の各事実を綜合すると、加害車の運行担当者であつた平野及び金光には、事故発生の可能性の最も大きい北進後続車に対する注意と誘導措置について、なお前記注意義務を完全に尽していたとは認め難く、その点において、本件事故の発生につき同人らに全く過失がなかつたということはできない。
よつて、被告の免責の主張は採用し得ない。
2 そこで本件事故発生に対する被害車側の寄与過失について検討する。
前示のとおり、加害車が中央分離帯に沿つて停止し、同車の運転手が下車してから本件事故発生まで約四、五分の間隔があり、その間同車の運転席の屋根の上の黄色の回転灯は点灯されており、また右現場にはいずれも大型貨物自動車である同車と訴外事故車の二台が中央分離帯附近で停止しており、またそれぞれの車両には、非常点滅灯あるいは駐車灯及び前照灯等が点灯されていたことも十分推測され、仮にこれらのランプが点灯されていなかつたとしても各車両の前後には赤色の反射鏡が設置されている筈であり、したがつて、右現場に接近して来た被害車の運転者にとつては、通常の注意義務をもつて前方を注視しておれば、夜間とはいえ加害車等の存在には、前示のとおり本件事故現場が見通しのよい直線区間であることからして、相当の距離をおいた手前から気づくことができ、法定最高速度たる時速六〇キロメートル以内であれば勿論、仮りにこれを一〇キロ内外上廻る速度で加害車の停車進路と同じ第二車線上を進行して来たとしても、加害車を発見してから適宜減速し、あるいは進路を僅かに左に変更して第一車線寄りを通過するなどすれば、容易に本件衝突を防止することができたと認められるところ、前示本件事故態様に照すと、被害車は右衝突まで、あるいは尠なくともその瞬間まで加害車の存在に全く気づいていなかつたことが推測され、したがつて同車の運転者亡小出保一は、事故直前運転者としての最も根本的な注意義務たる前方注視義務を怠り、しかもかなりの高速で被害車を運転していたものと推認される。〔証拠略〕を併せると、本件事故当夜右亡小出は四日市市内のスタンドバー祇園で本件事故の被害者の一人である亡奥山均らとウイスキーなどを飲み、事故当時亡小出においてはその体内に血液一ミリリツトル中一・六ミリグラム、亡奥山においては同じく〇・六ミリグラムの各アルコール成分を含有していたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。そうすると、亡小出は、事故当時右アルコールの影響によりかなりの酩酊状態にあり、正常な運転のできないおそれのある状態で被害車を運転していた可能性が強く、本件事故発生原因に関する同人の前記注意義務違反は、右アルコールの影響によるものと考えられ、以上によれば、同人の過失が本件事故発生に寄与した割合は極めて高いものといわねばならない。
3 以上の事実から、本件事故発生についての、被告との関係における被害車運転者亡小出の過失割合を勘案すると(なお亡小出が前示のとおり酩酊運転を行つていたとしても、加害車側の被害者に対する前示誘導措置に関する注意義務違反の過失と本件事故発生との間に相当因果関係を認める余地が全くなかつたとまでは断定し得ない)、亡小出には少なくとも九〇パーセントの過失を認めるべきものと考える。
4 次に、亡小出を除く本件事故の被害者である亡奥山均、亡須藤光代らの本件事故発生に対する過失について考察する。
右認定の事実に基づけば、本件事故において、加害車運行担当者らは、被害車運転者亡小出とは、右亡奥山、亡須藤両名に対してはいわゆる共同不法行為者の地位に立ち、この場合異説もあるが、右共同不法行為者らはその間の過失割合如何に拘らず、被害者たる亡奥山、亡須藤両名に対してはその全損害につき賠償責任を負担し(不真正連帯債務)、その結果生ずる右共同不法行為者間の不公平は、右両者間の求償によつて解決すべきものと解する(但し後記のとおり右被害者ら自身にも固有の過失がある場合は、その割合に従い加害者らとの間で直接過失相殺がなされ得る)。
そうすると、被告は、亡奥山、亡須藤両名に対しては、前記亡小出との過失割合をもつてそのまゝこれを対抗することはできないが、しかしながら、前示のとおり亡小出の過失は、乗車前に飲んだアルコールの影響によるものと認められるところ、既に認定の事実及び〔証拠略〕によれば、亡奥山は前記スタンドバーで亡小出と共に飲酒しており、亡須藤は同バーのホステスをしていて、右飲酒後共に同バーから亡小出と食事をしに出向くべく、同人の運転する被害車に同乗していて本件事故に遭遇したものであることが認められるので、そうとすれば、亡奥山、亡須藤の両名は、右の如く亡小出が飲酒後前示のような酩酊状態で運転していることを知つて、あるいは尠なくともこれを知り得べきでありながら、敢て被害車に同乗し、亡小出に運転を継続させていた点において、本件事故については自己招来的要素が認められ、この点は同事故発生についての右両名の固有の過失として捉えらるべきものと考える。
そうして、以上認定の諸般の事情に照せば、被告との関係においては、右亡奥山、亡須藤両名には、少なくとも同人らに三〇パーセントの過失割合を負担させるべきものと考える。
五 (損害)
1 (原告小出岸失、同小出ハルの損害について)
〔証拠略〕を併せると、本件事故と相当因果関係ある損害として次のとおり認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。
(一) (亡小出保一の逸失利益)
亡小出保一は、事故当時二二歳の健康な独身の男子で、三重郡菰野町所在の有限会社魚定商店に調理士として勤務し、年額金三一万八、四八〇円の給与を得ておりそこから同人の生活費として五〇パーセントを差引いたものを純収益として、若し同人が、本件事故により死亡しなければ、推定就労可能年限たる六三歳までの四一年間、毎年少なくとも右同額以上の純収益を挙げ得たものと認められるので、これが本件事故時における現価総額を、ホフマン方式(年別複式)により年五分の割合による中間利息を控除して求めると、次のとおり金三四九万八、五〇二円(円未満切捨)となる。
318,480円×1/2×21.970(ホフマン係数)≒3,498,502円
(二) (亡小出保一の慰謝料)
本来慰謝料請求権は、被害者本人に一身専属的なものと解されるので、本件において当裁判所は、亡保一本人の慰謝料は認容しない。
(三) (相続)
原告小出岸夫、同小出ハルは、亡保一の父母で、その相続人の全部であり、したがつて、亡保一の右逸失利益についての損害賠償請求権は同原告らが各二分の一即ち金一七四万九、二五一円ずつ相続した。
(四) (原告小出岸夫に生じた固有の損害)
(1) 亡保一の屍体検案・処置料等医療関係資金三万九、〇〇〇円
(2) 同人の葬儀費用 金三〇万〇、〇〇〇円
(3) 慰謝料
前認定の諸事実並びに諸般の事情を考慮し、金二〇〇万〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
(五) (原告小出ハルに生じた固有の損害)
慰謝料
前認定の事実並びに諸般の事情を考慮し、金二〇〇万〇、〇〇〇円をもつて相当額と認める。
(六) (過失相殺)
以上によれば、前記逸失利益の相続分を含め、同原告らの損害合計金額は、
原告小出岸夫において 金四〇八万八、二五一円
同小出ハルにおいて 金三七四万九、二五一円
となるところ、前認定のとおり亡保一には本件事故発生に寄与した重大な過失があるので、同人の前示過失割合に基づけば、右損害額のうち被告が負担すべき金額は、
原告小出岸夫分につき 金四〇万八、八二五円
(円未満切捨)
(4,088,251円×1/10≒408,825円)
同小出ハル分につき 金三七万四、九二五円
(円未満切捨)
(3,749,251円×1/10≒374,925円)
となる。
(七) 弁護士費用
以上同原告らの請求認容額及び本件事案の内容、審理の経過等に照し、同原告らが被告に負担を求め得る本訴弁護士費用は、それぞれ各金四万〇、〇〇〇円ずつの限度をもつて相当と認める。
2 (原告奥山ふくの損害について)
〔証拠略〕を併せると、本件事故と相当因果関係ある損害として次のとおり認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。
(一) (亡奥山均の逸失利益)
亡奥山均は、事故当時二二歳の健康な独身男子で、大阪市に本店を有する丹平商事株式会社の四日市営業所に販売社員として勤務し、年額金三五万一、三六〇円の給与を得ており、そこから同人の生活費として五〇パーセントを差引いたものを純収益として、若し同人が本件事故により死亡しなければ、推定就労可能年限たる六三歳までの四一年間、毎年少なくとも右同額以上の純収益を挙げ得たものと認められるので、これが本件事故時における現価総額を、ホフマン方式(年別複式)により年五分の割合による中間利息を控除して求めると、次のとおり金三八五万九、六八九円(円未満切捨)となる。
351,360円×1/2×21.970(ホフマン係数)≒3,859,689円
(二) (亡奥山均の慰謝料)
当裁判所が、本件において亡均本人の慰謝料を認めないことは、前記亡小出保一の場合と同様である。
(三) (相続)
原告奥山ふくは亡均の母で、その相続人としては、本件事故当時同原告と、さきに離婚した同原告の夫(亡均の父)の二人である。したがつて、同原告は、亡均の右逸失利益についての損害賠償請求権の二分の一即ち金一九二万九、八四四円(円未満切捨)を相続した。
(四) (同原告に生じた固有の損害)
(1) 亡均の屍体検案・処置料等医療関係費 金三万九、〇〇〇円
(2) 同人の葬儀費用 金二一万五、三八〇円
(3) 慰謝料
前認定の諸事実並びに、同原告は、前記離婚した前夫から、同人が本件事故につき受給した自賠責保険金二四〇万円の贈与を受けている事実、その他諸般の事情を考慮し、同二五〇万〇、〇〇〇円をもつて相当額と認める。
(五) (過失相殺及び損害の填補)
(1) 以上によれば、前記逸失利益の相続分を含め、同原告の損害合計金額は、金四六八万四、二二四円となるところ、前認定のとおり亡均には、本件事故の発生を自招したと認めるべき過失があるので、同人の前示過失割合に基づけば、右損害額のうち被告が負担すべき金額は金三二七万八、九五六円(円未満切捨)となる。
(4,684,224円×7/10≒3,278,956円)
(2) ところで、同原告が、本件事故による損害賠償金として、既に被害車の自賠責保険から金二七〇万円を受領していることは、同原告の自陳するところであるので、これを右損害金に充当すると差引残額は金五七万八、九五六円となる。
(六) 弁護士費用
以上同原告の請求認容額及び本件事案の内容、審理の経過等に照し、同原告が被告に負担を求め得る本訴弁護士費用は、金六万〇、〇〇〇円の限度をもつて相当と認める。
3 (原告須藤喜市、同須藤志げ子の損害について)
〔証拠略〕を併せると、本件事故と相当因果関係ある損害として次のとおり認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。
(一) (亡須藤光代の逸失利益)
亡須藤光代は、事故当時一八歳の健康な独身の女子で、私立高校を卒業し、本件事故の翌日である昭和四六年三月十九日より四日市市内の上野運輸株式会社に就職する予定であつた。ところで、当裁判所に顕著な労働省労働統計調査部の賃金構造基本統計調査によれば、昭和四六年度における高校卒業以上の学歴を有する一八歳の女子労働者の年間平均給与額(賞与等特別給与を含む)は、金四七万八、五〇〇円であることが認められるので、若し同人が本件事故により死亡しなければ、推定就労可能年限たる六三歳までの四五年間、毎年平均右金額から同人の生活費として五〇パーセントを差引いた金額以上の純収益を挙げ得たものと認められ、これが本件事故時における現価総額を、ホフマン方式(年別複式)により年五分の割合による中間利息を控除して求めると、次のとおり金五五五万七、七七七円(円未満切捨)となる。
478,500円×1/2×23.230≒5557,777円
(二) (亡須藤光代の慰謝料)
当裁判所が本件において亡光代本人の慰謝料を認めないことは、前記亡小出保一の場合と同様である。
(三) (相続)
原告須藤喜市、同須藤志げ子は、亡光代の父母で、その相続人の全部であり、したがつて、亡光代の右逸失利益についての損害賠償請求権は、同原告らが各二分の一即ち金二七七万八、八八八円(円未満切捨)ずつ相続した。
(四) (原告須藤喜市に生じた固有の損害)
(1) 亡光代の診察料、屍体処置料等医療関係費 金一万九、〇〇〇円
(2) 同人の葬儀費及び墓碑建設費 金三三万七、七〇一円
(3) 慰謝料
前認定の諸事実並びに諸般の事情を考慮し、金二〇〇万〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
(五) (原告須藤志げ子に生じた固有の損害)
慰謝料
前認定の諸事実並びに諸般の事情を考慮し、金二〇〇万〇、〇〇〇円をもつて相当と認める。
(六) (過失相殺及び損害の填補)
(1) 以上によれば、前記逸失利益の相続分を含め、同原告らの損害合計金額は、
原告須藤喜市において 金五一三万五、五八九円
同須藤志げ子において 金四七七万八、八八八円
となるところ、前認定のとおり、亡光代には、本件事故の発生を自招したと認めるべき過失があるので、同人の前示過失割合に基づけば、右損害額のうち被告が負担すべき金額は、
原告須藤喜市分につき 金三五九万四、九一二円
(円未満切捨)
(5,135,589円×7/10≒3,594,912円)
同須藤志げ子分につき 金三三四万五、二二一円
(円未満切捨)
(4,778,888円×7/10≒3,345,221円)
となる。
(2) ところで、同原告らが、本件事故による損害賠償金として、既に被害車の自賠責保険から合計金五〇一万九、〇〇〇円を受領していることは、同原告らの自陳するところであるので、これを同原告らの前記相続分に応じて按分した金二五〇万九、五〇〇円ずつを右各自の損害金にそれぞれ充当すると差引残額は
原告須藤喜市につき 金一〇八万五、四一二円
同須藤志げ子につき 金八三万五、七二一円
となるが、右金額はいずれも同原告らの本訴請求額(弁護士費用を除く)を上廻る結果になるので、右本訴請求額である、
原告須藤喜市につき 金九三万六、二〇一円
同須藤志げ子につき 金五七万九、五〇〇円
の限度でこれを認容する。
(七) 弁護士費用
以上同原告らの請求認容額及び本件事案の内容、審理の経過等に照し、同原告らが被告に負担を求め得る本訴弁護士費用は、原告須藤喜市において金九万三、〇〇〇円、同須藤志げ子において金五万七、〇〇〇円の各限度をもつて相当と認める。
六 (結論)
以上によれば、原告らの被告に対する本訴請求は、原告小出岸夫において金四四万八、八二五円(内弁護士費用金四万〇、〇〇〇円)、同小出ハルにおいて金四一万四、九二五円(内弁護士費用金四万〇、〇〇〇円)、同奥山ふくにおいて金六三万八、九五六円(内弁護士費用金六万〇、〇〇〇円)、同須藤喜市において金一〇二万九、二〇一円(内弁護士費用金九万三、〇〇〇円)、同須藤志げ子において金六三万六、五〇〇円(内弁護士費用金五万七、〇〇〇円)と、右各金員の内、弁護士費用を除いた各金員に対する本件事故の翌日である昭和四六年三月一九日以降、右各弁護士費用に対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四七年一二月一七日以降、いずれも完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものとしてこれを認容し、その余の請求は、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大西秀雄)