津地方裁判所四日市支部 昭和47年(ワ)32号 判決 1974年12月19日
原告
今村ハル
ほか四名
被告
中協生コン株式会社
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
一 訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
事実
第一申立
(原告ら)
一 被告は、原告今村ハルに対し金三九三万五二六一円、同今村正和、同加藤満子、同森下洋子、同熊沢育子に対し各一七六万八五一三円と右各金員に対する訴状送達の日の翌日(昭和四七年三月二六日)から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
一 訴訟費用は被告の負担とする。
一 仮執行の宣言
(被告)
主文同旨の判決
第二請求原因
被告の認否および主張
一 事故
訴外今村正一は昭和四六年九月一九日午後四時三〇分ころ、四日市市河原田町一、二五四所在被告会社四日市工場構内において、作業に使用されていた訴外朝倉治の運転する小型貨物自動車(三4め九九〇八号、以下事故車という)の荷台に乗車して積荷を看守中、平坦な地面から洗車場へ上る段の上での振動の衝撃で振り落されて死亡した。
訴外正一が上記日時場所において、事故車から落ちて死亡した事実は認めるが、荷台に乗つていた目的および振り落されたとの点は否認する。
二 責任原因
1 被告は事故車を所有して自己の業務のために運行の用に供していたから自賠法三条の責任
認める。
2 被告は訴外朝倉治を雇傭し、自己の業務のため、事故車を運転させていたところ、同人の後記過失により、本件事故を発生させたから民法七一五条一項の責任
訴外朝倉治の過失は否認し、その余は認める。
(過失の内容)
訴外朝倉治には、荷物の看守のため他人を荷台に乗車させる場合、その安全を十分確認してから、発車させなければならない義務があるのに、これを怠つて事故車をまんぜんと発車させた過失がある。
朝倉は積み込みが終つたことを確認して発車した。発車の際には亡正一は、乗車していなかつた。その後の徐行中に運転者に合図することなく、荷台のはね部に飛び乗つたものである。
3 被告は雇傭契約上の安全保証義務を怠つたから債務不履行の責任。
即ち、雇傭契約は労務提供と報酬支払を基本的内容とする双務契約であるが、通常労働者は使用者の指定する労働給付場所に配置され、使用者の提供する設備、機械、器具等を用いて労務給付を行うものであるから、雇傭契約に含まれる使用者の義務は報酬支払につきるものではなく、右の諸設備から生ずる危険が労働者に及ばないよう労働者の安全を保護する義務が含まれている。労働基準法一条、四二条、四五条、四六条はその現われである。
否認する。
被告は、従業員の安全について経験則上考えられる注意義務を尽しているから、安全義務違反はない。
被告は安全靴、軍手、ヘルメツトの着用を指示指導しており、本件事故当日もヘルメツト着用を指示し、ほとんどの者が着用していた。
そして、本件においては、被告は大会社で営利主義によるため車検切れの廃車を労働者に使わせ、日曜日であるのに、貧しいためいやおうなく働かなければならない訴外亡正一を午前六時五〇分から重労働につかせ、まだ勤続二ケ月のため仕事になれない臨時雑役工である亡正一に対し何らの配慮もせず、事故車の走行した地面には構内洗車場に上るところに三〇度ほどの傾斜で長さ七、八寸の間に高低差が六、七寸もある段がありかなり危険であるのに手間と費用を省き右段を取り除くこともしなかつたし、その場所を走行しないようにとの指示もしなかつた。このことは使用者が経済的支出を免れることにおいて労働者は、危険を負担するものである。
事故の二日前に車検切れとなつているが構内整理用の車にしたため、車検は不要である。
亡正一は、被告の前身である三宅ナマコン会社に昭和四四年五月から勤務していて、工場内の模様は熟知していた。
「段」ではなく、ゆるやかな傾斜で一メートルの距離につき、一〇センチメートルの勾配にすぎないから車両の通行に何らの支障をきたすものではない。従来事故の発生の危険を指摘されていた場所でもない。改善する必要はなかつた。
他の未舗装部分を通るより、却つて安全である。
他方訴外亡正一は、仕事が終る直前であり、事故車の最後の運行であつたから、こぼれるおそれのある積荷がこぼれないように看守するため、および後始末を見届けるためにも荷台に乗る必要があり、また仕事熱心のためなお更その必要を感じて荷台に乗車したのでありそれはまた作業にとつていいことであつた筈である。
亡正一に乗車を指示していないし、荷降場には別の作業員がおり、積荷も少なく、途中で荷くずれをするおそれもなかつたから、亡正一が乗車する必要もなかつた。
また、乗り方も車が一旦停止中に飛び乗つたのであつて走行中ではない。結局亡正一には過失はない。
亡正一は事故車が徐行中、走り出てきて、運転者に合図することもなく飛び乗つたものである。
仮りに不安定な荷台に乗つた点に多少の過失があつたとしても使用者は絶対に労働者が生命を失うような状況に置いてはならないのであり段がなければ事故は起り得なかつたのであり更に前示のような事情のもとでは亡正一に多少の過失があつたとしても不問に付するのが衡平の原理にかなうものである。
よつて、被告には段を取り除かなかつたことと、右段がある以上、事故車の荷台に乗らないように指導教育しなかつたし、運転者に対しても車を発進させる場合に後方荷台等の安全確認をするよう教育もしなかつた点に、安全保証義務を怠つた債務不履行がある。
事故車の両側の車体をしつかりつかむことができたのに、それをしないで、右手で積荷の番線をつかみ左手で荷台の箱のふちをにぎつていたにすぎず車両の少しの動揺でも転落する姿勢で乗つていた。
三 損害
否認する。
(一) 訴外亡正一の得べかりし利益 四六五万一〇七八円
(1) 被告会社に勤務し、事故前三ケ月間の平均給与は一ケ月四万〇一三〇円であつた。
(2) また、妻である原告ハルとともに田三反、畑五反を耕作し、年平均米二五俵、金額にして二二万五〇〇〇円みかん七五〇〇キログラム金額にして六〇万円の収益があり、経費は米について五万円、みかんについて一〇万円であり、訴外人の寄与率は五〇パーセントであつたから右正一の収入は三三万七五〇〇円となる。
(3) そして、正一は死亡時五八歳就労可能年数八・二年生計費は一ケ月一万五〇〇〇円、ホフマン係数を七・二七八として計算すると、{(4万0130円×12)+33万7,500円-(1万5,000円×12)}×7.278=465万1,078円
となる。
(二) 訴外正一の慰謝料 二〇〇万円
(三) 相続
原告ハルは亡正一の妻であり、その余の原告らはいずれもその子であるので、各相続分に従つて、亡正一の損害金(一)、(二)の合計のうち原告ハルはその三分の一にあたる二二一万七〇二六円を、その余の原告らはそれぞれ六分の一にあたる一一〇万八五一三円を各相続した。
但し相続関係認める。
(四) 葬儀費用 三五万八二三五円
原告ハルが負担した。
(五) 原告らの固有の慰謝料
原告ハル 一〇〇万円
その余の原告ら 四名
各五〇万円
(六) 弁護士費用 一〇〇万円
原告ハルは三六万円、その余の原告らは各一六万円を負担した。
(七) よつて、原告ハルの損害合計は三九三万五二六一円、その余の原告らの損害合計は各一七六万八五一三円となる。
四 結論
よつて原告らは被告に対し前記の損害賠償として請求趣旨の金員およびそれらに対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年三月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三被告の抗弁(自賠法三条但書)
原告らの認否および主張
1 本件事故車には構造の欠陥又は機能の障害はなかつた。
否認する。
事故車は昭和四六年九月一七日車検証の有効期間が満了したので、以降、工場内整理用車としてのみ使用されていたので道路運送車両法二条五項にもとづいて、車検の更新はしなかつたものである。
又車検の有無と本件事故の発生とは関連性がない。
車検切れの廃車であつた。
2 被告と運転者朝倉治は運行に関し注意を怠つておらず、本件事故は亡正一の全面的な過失にもとづいて発生したものである。
即ち、
(1) 本件事故車は被告会社工場内においてパツチヤープラントの改造した後の鉄くずばん線、残材の片づけ作業をしていたものであるところ、責任者小林恒雄が作業分担を定め積込み作業は亡正一他二名、事故車の運転は前記朝倉治、荷降し場所の作業は訴外新居が各分担しており、右小林は監督を怠つていない。そして正一に荷台に乗るよう命じたこともなくその必要もなかつた。
(2) 事故車は第一回目の運搬も荷台には同乗者はいなく、第二回目も朝倉治は積荷の状態を確認してから発進し、徐行中、正一は何の合図もなく荷台のはね部に飛び乗り、しかも動揺の激しい不安定な荷台はね部に乗つたのに、車体につかまつていなかつた。
また運転台からは正一が荷台に飛び乗るのは見ることができなかつた。
(3) そして事故車が途中の洗車場前を通過する際、そのコンクリート路面のでこぼこにより、荷台のはね部があおり正一は荷台に積んであつたばん線につかまつたため、体を支えることができず、転落した。
(4) 事情
訴外朝倉治は刑事処分を受けていない。
被告会社も労働基準監督署から過失の認定を受けておらず、単に今後の留意事項を指摘されたにすぎない。
否認する。
請求原因二、2 3で主張した事実を援用する。
第四証拠〔略〕
理由
一 事故について
(一) 昭和四六年九月一九日午後四時三〇分ころ、四日市市河原田町一、二五四所在の被告会社四日市工場構内において、訴外今村正一が訴外朝倉治の運転する小型貨物自動車(三4め九九〇八号、以下事故車という)の後部荷台から落ちて死亡した事実は当事者間に争いない。
(二) 事故の経緯および内容
〔証拠略〕を総合すると、
(1) 事故現場のうち亡正一が転落した地点は被告会社の敷地内の一画にあるコンクリート舗装された洗車場のたゝきの上であるが、転落の原因となつたシヨツクはそこから約一〇メートル北側に位置した右洗車場のたゝきへの上り口にあるへこみで受けた。しかしそのへこみは手前の平坦なところからなだらかに傾斜し、一メートル進む間に深さ約一〇センチの最深部に至り、更に一メートル進むと洗車場のたゝきの平面に達する程度の勾配であり、車の運行には支障なく、現に運転手にとつてはほとんどシヨツクを感じない程度のものであつた。そして事故車が右のへこみを走行した際、亡正一はその振動で体の重心を失い、体をひねるようにして、洗車場のコンクリートのたゝきの上に転落し頭部を打撲し頭蓋内出血のため翌日午前五時ころ死亡した。
(2) 事故車は積載量四〇〇キログラム程度の四輪トラツク(三菱コルト)であり、車検の有効期間が経過して二日目の車であつたが、道路運送車両法によつて構内専用に使用するため車検を更新する必要がなく、また構造の欠陥や機能の障害は全くなかつた。
(3) 事故当時、事故車は荷台の後部のはねないしあおりをほゞ水平に降して鎖でつつたうえバツチヤープラントの部品交換によつて生じた番線を主体とした廃物を積み時速約二〇キロメートルで直進していた。他方亡正一は地上約六〇センチメートルの高さにある不安定な右荷台のはねないしあおりのところに乗り、前方に向つてしやがんだ姿勢で両手で積荷の番線をつかんでいたかあるいは左手だけは荷台の箱のふちを握つていた。
(4) 事故車の目的は前記番線、鉄片、木片などを構内の約一〇〇メートル離れたところにある廃棄場所に運搬することであり、二回の運転でその作業は終了することになつていた。そして、第一回目の運搬のとき、亡正一他二名の作業員が積込み作業をした後、訴外朝倉治が運転し、助手席に、訴外新居しげるを乗せて廃棄場所まで行き、右新居が荷降しを担当し、廃棄場所に残つた、右運搬に際して荷台には誰も乗らなかつたし、その必要もなかつた。第二回目の運搬も、亡正一他二名が積込み作業を担当し右朝倉は、積込みが完了したことを確認してから事故車を発車させたがその際、荷台には、亡正一はもちろん他の誰も乗つていなかつたし積荷も約二〇貫(七五キロ)程度で無理をして積んでいなかつたため荷くずれや落下のおそれはほとんどなく、積荷を看守する必要はなかつたし、荷降しも前記新居しげると朝倉の二名でやれば十分な程度であつたから、荷降し場に亡正一らが行く必要は全くなかつた。(もつとも荷台に作業員が乗ることについては禁止も命令もなされていなかつた。)そして発進して一〇数メートルほど進行したとき、前方に多くの車が停車していたため、事故車も人の歩くくらいの速度でのろのろ進行していたが、その時か、更に一時停止した時、亡正一が走り出てきて、前記荷台のはねないしあおりのうえに飛び乗つたが、運転者に対し何の合図もしなかつたし、運転者からは右正一が飛び乗つたことを見ることができなかつた。また運転者にとつては前示のように荷台に作業員が乗る必要を認めていなかつたし、積荷完了時には誰も乗つていなかつたため、なおのこと発進した後の一時停止中に亡正一が飛び乗ることは全く予想することができなかつた。そのため、朝倉は亡正一が荷台の、しかも前示のような不安定な場所に、不安定な姿勢で乗つていることを知らず、廃棄される番線等だけを積んでいるとの前提で約五〇メートル進行し、本件事故現場に至つたとき亡正一は前示の如く転落した。
(5) 事故のあつた被告工場の敷地はもと訴外三宅ナマコン株式会社のものであり、亡正一は昭和四四年五月から右会社に勤務していたところ、被告会社が工場を買収し、従業員もそのまゝ雇傭したものであり、亡正一は敷地の状況は十分知つていたし、構内で車に同乗者として乗ることも多かつた。事故の日は日曜日であり、元来は休日であつたが、工場が運転されない日に工場内の整備をする必要から、従業員のほとんどが出勤し、亡正一も午前七時ころから働いていたが、その月は八日から一六日まで休暇を取つており、一七日から連続して三日間働いていたのみで体は健康であつた。その日の仕事内容は午後四時ころまでは工場正門前道路沿いにある排水溝の清掃であり、午後四時すぎから、パツチヤープラント下にちらばつている番線、鉄片、木片などの廃物を片づける作業にとりかかつた、その日だけの臨時の作業であつた。その際いつもはヘルメツトをかぶつて作業するのに事故の日はヘルメツトを着用していなかつた。
以上の事実を認めることができ、〔証拠略〕中右認定に反する部分はにわかに採用し難い。
二 責任原因について
(一) 被告が訴外朝倉治を雇傭し自己の業務のため事故車を運転させていた事実は当事者間に争いはないが、先に認定した事実によれば右朝倉治には、積荷完了後発進するに際し、また、途中一時停止して後発進するに際し、更にその後走行を続けている間においてのいずれの段階においても運転者としての何らの過失はなかつたものと認められる。従つて被告が民法七一五条一項の責任を負うことはない。
(二) 被告が事故車を所有して自己の業務のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。しかし、先に認定した事実によれば、本件事故車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたし、車検の有効期間が経過したことと事故との因果関係もなく、運転者朝倉治には前示のように何の過失もなく、被告にとつても事故車の「運行に関し」ては何らの不注意もなかつたことが認められる。けだし自賠法三条の「運行」とは自動車という機械を当該装置の用い方に従い用いることをいうから、運行に関する注意を怠つたか否かの判断の中には、事故車の走行する地面の管理についての過失は含まないものと解され、この見地によれば、事故車の運行に関しては運転者にも被告にも何ら過失がないものといえる。もつとも工場内で走行させる自動車であるから被告は自動車の走行する地面の管理の責任があり、そのことも「運行に関する」ということの中に含まれると解する余地はないではないが、後述のように結局、右走行地面の管理について不注意は認められない。そして更に本件事故は亡正一が何の必要も指示もないのに運転者に知らせることなくしかも、すでに目的地に向つて進行している途中の徐行中ないし一時停止中の事故車の不安定な荷台のはねに不安定な姿勢で乗つていたため自動車の走行に支障のないへこみを通過する際のわずかのシヨツクによつて転落したものであるから、亡正一の一方的過失によつて事故が発生したと認めるのが相当である。
よつて、被告は自賠法三条但書によつて、保有者責任も負担しないことになる。
(三) 安全保証義務違反について
(1) 使用者が雇傭契約上の安全保証義務を負担するという法理は認めうるが、その内容は労働者の担当する業務に即して具体的に判断されなければならず、労働安全衛生規則で定めるような危険の高い作業では労働者の注意力の偏倚疲労その他の原因による精神的弛緩や作業に対する不馴れ等があつたとしても事故が絶対に発生しないようにする措置を講じなければならないとされるべきであるが、先に認定した事実によれば本件は貨物自動車の構内運転作業につき、荷台に人の乗ることがその作業過程に含まれていない場合であるのに、運転者不知の間に、荷台のあおりないしはね部に飛び乗つた亡正一が振り落されたという、交通事故の一種とみなされるべき事案である。従つて荷台に人が乗ることがないものとして、右の作業過程の危険性について考えると、結局被告には自動車の整備、走行方法、路面の管理のいずれの点においても、瑕疵は存在しなかつたものと解される。
(2) もつとも、亡正一が荷台に乗つたことについて、荷台に乗るべしとの命令はなされていなかつたが、その反面、荷台に乗つてはいけないという禁止命令も出されていなかつたのであるから、亡正一が仕事熱心のあまり主観的には、荷台に乗つて積荷を看守し、廃棄場において荷降しを手伝い、仕事の終りを見届けるつもりがあつたのかもしれないことは前後の状況からいつて容易に推認されるのであつて、荷台乗車が明示的に禁止されていなかつたことと合わせて考えれば、必ずしも使用者の意思に反して乗車したとまでいい切ることは困難である。しかし現今、車の利用は一般化し、亡正一も工場内で作業のため車に同乗した経験が多かつたのであるから亡正一は車に乗るに当つて常識的にどのような注意義務を尽くすべきか十分知つていた筈であり、被告としては、亡正一がそのような注意義務は尽くすことを期待してよく、従つて亡正一が常識的な注意を怠ることはないものとして車の進行や路面の管理をすれば足りるものと解される。本件においてこれを見るに亡正一は一たん発進した途中の徐行中ないし一時停止中に乗車したのであるから運転者にその旨告げるのは絶対に必要であつたし、また、運転者に告げなかつた以上、乗つたあとは車の走行する地面の状況に合わせて自力で自己の身体を支え、その安全を保つことが絶対的に要求され、しかも事故地点のへこみがあることは十分知つていたのであるから、荷台のはねないしあおりのような不安定な場所には乗らず更には車体を十分つかんで転落を自ら防止しなければならなかつたのであるところ、亡正一はそのような注意を全くしないで転落したものである。このように、運転者に対し、同乗することを知らせず、また乗つた後も自己の身体の安全を尽くすことを全くしないということは自動車利用の一般常識上全く予想できないことであつて、その責任はひとえに亡正一にあり、被告としては、そのようなことまで予想して、車の走行方法をきめたり、車の走行する地面の整備をする必要はないと解するのが相当である。この見地からすれば本件事故地点の路面の状況とそれとの関連における事故車の走行方法には何らの瑕疵はなく被告の責任を問うことはできない。その他、亡正一が本件の片づけ作業をするについて、被告の債務不履行となる事情は存しない。
(四) 以上、いずれの観点からするも、被告の責任を認めることはできない。
三 結論
よつて、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 加島義正)