大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津地方裁判所四日市支部 昭和62年(タ)21号

主文

一  原告と被告を離婚する。

二  原被告間の長男大作(昭和50年9月19日生)と長女美沙(昭和53年11月30日生)の親権者を原告と指定する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告と被告は、昭和47年12月5日に婚姻の届出をした夫婦であり、原被告間には長男大作と長女美沙の2人の子供がいる。

2  原告は、被告との結婚後、喫茶店「○○○」を開業し、被告もこの手伝いをしてきたが、被告は、朝起きるのが遅く、炊事や掃除等家事仕事をほとんどしないので、原告が注意をすると、被告はふてくされて部屋に閉じこもり、よけいに何もしない始末であった。

3  昭和50年には長男が、昭和53年には長女が誕生したので、原告は、被告の態度が少しは変わるのではないかと期待したが、被告は、あいかわらず朝起きるのが遅く、朝食を作らない日が多かった。

4  また、昭和56年には、長男が小学校へ入学することもあって、被告は原告に、居宅の増築をしてほしい、増築してもらったら、朝も早く起きるし、食事の用意や掃除洗濯などの家事仕事をきちんとするといったので、原告は、居宅の増築工事をしたが、被告の生活態度は変わらず、小学校へ入った子供の朝食の準備もしなければ、見送りもしないという日が度々あった。

5  さらに、被告は、子供に学校の用事を頼まれて、その時はよい返事をしておきながら、当日になると、そんな話は聞いていなかったといって子供との約束を平気で破り、子供に当たり散らすので、子供らは被告の顔色をうかがいながらの生活が続いた。

このため、原告は、被告との離婚を何度となく考えたが、子供らのことを考えて我慢を続けてきた。

6  ところが、被告は、昭和60年ころから、異常な話し方や動作をすることが目立ち出し、それが徐々にひどくなっていくので、原告は、被告の両親らとも相談して、昭和62年2月に、被告を病院へ連れていって診察してもらうことになったが、被告はこれを頑強に拒否した。

このため、原告は被告を、3日ほどかけて説得し、○○市民病院へ連れていって診察させたところ、被告は脊髄小脳変成症(以下では「本症」という。)と診断された。

よって、原告は、民法770条1項5号により被告との離婚を求めるとともに、2名の子の親権者を原告と指定するよう求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、喫茶店を開業した点は認め、その余は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の事実は否認する。

6  同6の事実のうち、被告の病名は認め、その余は否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれをここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、本件記録上明らかである。

二  請求原因2ないし5の各事実のうち、被告の言動については、原告はこれに沿う供述をするが、被告のこれと反対趣旨の供述に照らしてたやすく措信できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

三  本症について

1  いずれも弁論の全趣旨により成立の認められる甲第1号証及び乙第2号証、証人山室伸一及び同遠藤照美の各証言、原告及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告は、昭和59年ころ、階段を登る際にうまく登れないと感じたことがあり、その後、原被告が経営していた喫茶店で客にコーヒーを出す際、手が震えるということがあった。

そのため、昭和62年3月ころ、○○市民病院で診察を受けたところ、本症に罹患している旨診断され、同月から同病院に入院した。

(二)  原告は、被告の入院後、昭和62年6月初めころまで被告を見舞い、毎月8000円ないし1万円の入院雑費を渡したが、その後は見舞いに行っていない。

なお、本症は、国の特定疾患に指定されているため、治療費の個人負担はない。

(三)  本症の原因については、ウイルス説、染色体異常説などが唱えられてはいるが、現在のところ判然とせず、また、その治療も対症療法が主となっている。

本症は、脊髄や小脳の神経に変成を来たすもので、その結果、身体の平衡が保てず、真っ直ぐ歩けない、階段を上手に降りられない、物を正しく運べない、物を持てないなどの症状を呈し、さらに、言語障害、視覚障害なども呈するものである。

(四)  被告は、○○市民病院に入院後、脊髄や小脳の変成を防ぐ薬剤の注射や脳の代謝、循環をよくする薬の投与を受け、機能回復訓練を受けるなどしたが、現在のところ、真っ直ぐ歩けない、階段は手すりにつかまらなければ昇降できないなどの平衡感覚の障害が顕著にあり、言語障害も若干認められるという状態である。

被告の現在の状態では、家族の協力の下で日常生活を行うことは決して不可能ではないが、家事労働を行うことは困難である。

(五)  原被告間の2人の子は、原告が養育している。

2  右事実によれば、今後、原被告が夫婦として暮らして行くとは困難であると認められ、したがって、原被告間の婚姻を継続し難い重大な事由があるものといわざるをえない。

なるほど、妻が難病に罹患した場合に、夫が献身的に妻の介護にあたり、夫婦のきずなを保ち続けるという事例もあることは公知の事実であるが、このような行為は美談として称賛されるものではあっても法的にこれを強制することまではできず、また、原告は、昭和62年6月初めに見舞った後は、被告の見舞いにも行かず、入院雑費も負担しておらず、これが夫婦の関係を疎遠なものにした一因ではあるが、これが婚姻関係の破綻の主たる原因であるともいえない。

そうすると、原告の離婚請求は理由がある。

また、原被告間の2名の子については、原告が監護するほかないので、原告を親権者と定める。

四  よって、原告の離婚請求は理由があるから認容し、2名の子の親権者を原告と定め、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!