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津家庭裁判所 平成16年(少ハ)400009号 決定 2004年10月18日

本人 M・R (1977.5.21生)

主文

1  当裁判所が、平成15年10月14日、平成15年(少)第1313号窃盗保護事件についてした、本人を津保護観察所の保護観察に付する旨の決定を取り消す。

2  上記事件を津地方検察庁検察官に送致する。

3  当裁判所は、平成15年7月1日、平成15年(少)第556号、第747号、第500076号窃盗、出入国管理及び難民認定法違反、道路交通法違反保護事件についてした、本人を津保護観察所の保護観察に付する旨の決定は取り消さない。

理由

1  本人は、当裁判所平成15年(少)第556号、第747号、第500076号窃盗、出入国管理及び難民認定法違反、道路交通法違反保護事件(以下「第1事件」という。)につき、同年7月1日、当裁判所において、津保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受け、更に同年(少)第1313号窃盗保護事件(以下「第2事件」という。)につき、同年10月14日、当裁判所において、津保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受けて、平成16年4月27日、第1事件にかかる津保護観察所の保護観察に付する旨の決定を少年法27条2項により取り消された者である。

2  本人は、第1事件及び第2事件に係る捜査機関の取調べ、当裁判所の調査、審判の際、一貫して、「S・R・M(1983年10月25日生)」と氏名及び生年月日を供述して、同名義の旅券や同旅券により取得した外国人登録証明書などを提出し、本人の母親もこれに口裏を合わせたため、当裁判所は、本人が未成年であることを認定して上記各保護処分を行った。

しかし、その後の捜査機関の捜査により、本人と同一の指紋を有する者が、平成9年9月22日、津地方裁判所において「M・R(1977年5月21日生)」名で窃盗罪等により懲役1年4月(3年間執行猶予)の判決を受け(名古屋地方検察庁検察事務官○○作成の前科調書謄本)、平成9年10月14日、「M・R」名義の旅券により人定事項を確認された上で退去強制となっていること(司法警察員○○作成の捜査関係事項照会書謄本、入国者収容所東日本入国管理センター所長○○作成の同月12日付け及び名古屋入国管理局企画管理・処遇・執行部門・首席入国警備官○○作成の同年10月7日付け捜査関係事項照会書(回答)、東京入管局作成の2004年7月22日付け外国人出入国記録調査書謄本)、本人が、「M・R」名の出生証明書及び国民身分証書を有していること(司法警察員○○作成の平成16年8月6日付け捜査報告書(出生証明書等の複製・翻訳報告)謄本)が判明し、本人及び本人の母親が、本人は、以前「M・R(1977年5月21日生)」名で有罪判決を受け、退去強制となったが、本人が再び本邦に入国するため、本人の母親が、本人の妹の頭文字と生年月日を使い「S・R・M」名義の出生証明書と同名義の旅券をAと称するペルー人に報酬15万円で依頼して取得し、本人が当該他人名義で本邦に入国したなどと供述している(平成16年7月21日付け本人の検察官調書謄本、平成16年7月15日付けR・Rの警察官調書謄本)。

以上によれば、本人の人定に関して、矛盾するペルー共和国での公文書が存在しているが、本人が本邦を退去強制となった後、再び本邦に入国するため、他人名義で旅券を取得したという本人及び本人の母親が供述する経緯は相互に合致しているし、供述内容自体が自然かつ具体的であって、これらの供述は信用することができ、これらの供述に合致する出生証明書等に記載された「M・R(1977年5月21日生)」を本人の氏名及び生年月日と認めるべきである。

3  よって、本人は、第1事件及び第2事件についての審判当時すでに成人に達しており、本人に対し、審判権がなかったことを認めうる明らかな資料を発見したというべきである。そして、少年法27条の2第1項の取消しの趣旨が、保護処分の適格性ないし必要性がなく、その執行が無用のものと判明したときに確定した保護処分の執行力を排除することにあることからすれば、同条項における保護処分の継続中とは、保護処分決定後、現実に保護処分が執行されている期間をいうと解すべきである。とすれば、第1事件にかかる保護処分は、第2事件にかかる保護処分と競合したため、当庁において同法27条2項により取り消されており、保護処分が継続中であるとはいえないから同法27条の2第1項の取消しの対象とはならないが、第2事件にかかる保護処分は、現在執行されており、継続中であるから、同条項の取消しの対象となるので、第1事件につき、本人に対する保護処分を取り消さないこととし、第2事件につき、少年法27条の2第1項により、本人に対する保護処分を取り消した上、同条4項、19条2項に基づき、第2事件を津地方検察庁検察官に送致する。

(裁判官 本山賢太郎)

〔参考〕検察官作成の保護処分取消申立書

本件申立を立件する

平成16年9月27日

津家庭裁判所

裁判官 本山賢太郎<印>

保護処分取消申立書

平成16年9月27日

津家庭裁判所 殿

津地方検察庁

検察官 検事 ○○○○

次の少年に対する 道路交通法違反、出入国管理及び難民認定法違反、窃盗保護事件につき、平成15年7月1日及び同年10月14日、津家庭裁判所裁判官がした保護処分(保護観察)は、下記のとおり少年法第27条の2第1項に該当する事由があるから、上記保護処分を取り消されたい。

国籍 ペルー共和国

住居 三重県鈴鹿市○○町××番地の××○○アパート×××号室

職業 自動車修理工(保護処分時 工員)

氏名 M・R

(保護処分時の自称氏名 S・R・M)

年齢 1977年5月21日生(27歳)

(保護処分時の自称生年月日 1983年10月25日生)

別紙記載のとおり

(別  紙)

第1申立の理由

被疑少年S・R・Mは、同人に対する道路交通法違反、出入国管理及び難民認定法違反、窃盗保護事件において、審判当時、真実の名前が「M・R」で、真実の生年月日が「1977年5月21日」であり、既に成人だったにもかかわらず、不正に入手した旅券に記載された氏名「S・R・M」が本名であり、同旅券に記載された生年月日「1983年10月25日」が真実の生年月日であると虚偽の供述をして、未成年者であると装い、少年として上記各保護事件につき審判を受けたことが判明したことから、少年法第27条の2第1項に該当する事由がある。

第2保護処分の取消しを求める保護事件

1 裁判所 津家庭裁判所

2 審判日

(1) 平成15年7月1日 保護観察(一般長期)

審判の対象となった保護事件

ア 平成15年2月7日 津地方検察庁から津家庭裁判所に送致道路交通法違反

同14年11月21日、亀山市内における無免許運転

イ 同15年4月23日 津家庭裁判所四日市支部から津家庭裁判所へ移送

出入国管理及び難民認定法違反

同年4月2日、旅券不携帯

ウ 同年6月9日 名古屋家庭裁判所から津家庭裁判所へ移送窃盗

同年5月17日、名古屋市内のスーパーにおいて、缶ビール9ケース他2点(販売価格合計3万7,880円)を窃取

(2) 同年10月14日 保護観察(一般長期)

審判の対象となった保護事件

同年9月19日 津地方検察庁から津家庭裁判所に送致

同年5月10日、鈴鹿市内のスーパーにおいて、ビール10箱及びトイレットペーパー2パック(販売価格合計4万276円)を窃取

第3被疑少年が上記審判時に成人であったことが発覚した経緯等

被疑少年は、「M・R」の名で、平成16年7月23日付けで名古屋地方裁判所に窃盗罪で起訴され、現在起訴勾留中である。上記窃盗の捜査過程において、当初、被疑少年は、「S・R・M」と名乗っていたが、同人の指紋が「M・R」の名で、平成9年9月22日、津地方裁判所において、窃盗罪により懲役1年4月、3年間執行猶予の判決を受けた者の指紋と一致したことから、同人及び同人の実母を追及したところ、被疑少年の本名が「M・R」であり、本名で上記判決を受け、その後、ペルー共和国へ強制送還されたこと、及び、ペルー共和国へ帰国後、同人が、不正に入手した上記旅券を用いて再度本邦に入国し、上記各審判の際、同旅券記載の氏名「S・R・M」、生年月日「1983年10月25日生」が真実の名、生年月日である旨虚偽の供述をし、未成年として上記各保護処分を受けたことが判明した。

第4結論

以上のとおり、前記道路交通法違反、出入国管理及び難民認定法違反、窃盗事件については、津家庭裁判所が、平成15年7月1日及び同年10月14日、被疑少年をいずれも保護観察(一般長期)に付する旨の保護処分を決定し、現在保護観察継続中であるが、上記いずれの審判時も被疑少年は既に成人であり、審判権がなかったことが判明したことから、「保護処分の継続中、本人に対し審判権がなかったにもかかわらず、保護処分をしたことを認め得る明らかな資料を新たに発見した」ときにあたるので、少年法第27条の2第1項により、津家庭裁判所においては、決定をもって、上記保護処分の取消をするよう申し立てる次第である。

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