大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成10年(わ)475号 1998年10月29日

本店所在地

東京都千代田区神田小川町三丁目九番地一〇

株式会社ニッカ食品

右代表者代表取締役

小林駿児

本籍

埼玉県春日部市大字牛島六〇二番地一

住居

埼玉県春日部市大字樋堀三四八番地三

会社役員

小林駿児

昭和一五年二月二六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官根津宏行出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社ニッカ食品を罰金一、八〇〇万円に、被告人小林駿児を懲役一年二月に処する。

被告人小林駿児に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社ニッカ食品(以下「被告会社」という。)は、東京都千代田区神田小川町三丁目九番地一〇(平成八年一一月一九日以前は同区神田錦町三丁目一五番地)に本店を置き、埼玉県春日部市豊野町二丁目八番二号を指定納税地とし、食料品の製造販売等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社、被告人小林駿児(以下「被告人」という。)は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入れを計上するなどの不正な方法により所得を秘匿した上

第一  平成五年一〇月一日から同六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一、六七〇万一、九三七円であったにもかかわらず、平成六年一一月二二日、埼玉県春日部市大沼二丁目一二番地一所在の所轄春日部税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、三八九万一、八七八円で、これに対する法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三、八一八万五、二〇〇円と右申告税額との差額三、八一八万五、二〇〇円を免れ

第二  平成六年一〇月一日から同七年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七、四五五万二、三八六円であったにもかかわらず、平成七年一一月二二日、前記春日部税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三、〇一一万四、九九八円で、これに対する法人税額が二二二万七、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二、二六九万四、六〇〇円と右申告税額との差額二、〇四六万六、七〇〇円を免れ

第三  平成七年一〇月一日から同八年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四、三一六万八、一五八円であったにもかかわらず、平成八年一一月一四日、前記春日部税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四〇八万四、四三五円で、これに対する法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一、四一三万八、八〇〇円と右申告税額との差額一、四一三万八、八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官調書三通(乙1ないし3)

一  犬山徹也(甲8)、小林章二(甲9)、佐々木洋介(甲11)、小田敦司(甲12)、後藤智子(甲13)、佐藤美弥子(甲14、15、17)の各検察官調書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲1)

一  登記簿謄本(乙4)

判示第一、第二の事実について

一  林竹一の検察官調書(甲10)

判示第一の事実について

一  修正損益計算書(甲2)、脱税額計算書(甲5)

判示第二、第三の事実について

一  佐藤美弥子の検察官調書(甲16)

判示第二の事実について

一  修正損益計算書(甲3)、脱税額計算書(甲6)

判示第三の事実について

一  修正損益計算書(甲4)、脱税額計算書(甲7)

(法令の適用)

一  罰条

被告会社 いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人 いずれも同法一五九条一項

二  刑の選択

懲役刑(被告人)

三  併合罪

被告会社 刑法四五条前段、四八条二項

被告人 同法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

刑法二五条一項(被告人)

(量刑の理由)

一  本件は、食料品の製造販売等を目的とする被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していた被告人が、架空仕入れを計上する方法により、判示第一の事業年度においては、三、八一八万五、二〇〇円を、判示第二の事業年度においては、二、〇四六万六、七〇〇円を、判示第三の事業年度においては、一、四一三万八、八〇〇円を、それぞれほ脱したという事案である。

二  本件犯行のほ脱金額が合計七二七九万円余りと多額であるばかりか、そのほ脱率は、実に、判示第一及び第三が一〇〇パーセント、判示第二が約九〇・二パーセントに及んでいる上、被告会社が本件第一事実の以前から同種のほ脱をしていたことが窺われるなど、その犯情は芳しいものではない。

また、その犯行態様も、被告会社と全く取引のない会社を架空の仕入先として同社名義口座に仕入金名目で入金した上、同社から隠密にそのほぼ全額の返金を受けていること、架空仕入先から架空取引を拒絶されるや、性懲りもなく別会社に架空仕入先となってもらっていること、後には架空仕入先をして被告人の女性私設秘書の名前をかたどった会社名義の銀行口座に仕入金名目で振り替え入金させるようになったことなど、計画的であるばかりか次第に手段が巧妙化しているところ、被告人は毎月の仕入額をその都度架空取引先に指示する等一貫して主導的役割を果たしており、被告人及び被告会社の刑事責任は重いというべきである。

加えて、本件ほ脱の主たる動機は、中小企業である被告会社の販路の維持拡大のための交際費、及び経営不振の際の立て直し資金の捻出にあったことが認められるものの、被告会社にはほ脱をする緊急性は何ら認められず、源泉徴収制度の下でその所得を完全に捕捉されている納税者との比較において到底正当化できるものではないから、動機において酌むべき点は少なく、また、脱所得の一部は右私設秘書との遊興費にも消費されたことをも併せ考えると、被告人は厳しい非難を免れない。

三  他方、被告人には前科前歴がない上、本件を十分反省し、本件を契機に、被告会社の経理係を一名増員するなどして再犯の防止を図っていること、被告人は、従業員約二五〇名の被告会社を一代で築き上げた上、従前から身体障害者や高齢者等を積極的に雇用するなど社会のために貢献してきたことが認められる。

また、被告会社は、本件犯行により、犯罪事実にかかる事業年度分及び本件犯罪事実外の三事業年度分の追徴租税額合計二億九七八六万円余の支払いを命ぜられ、ほ脱所得の残金のほか、被告人の自宅を追加担保するなどして、銀行から約一億二五〇〇万円を借り入れる等して、平成一〇年七月一五日までに、これを完済するなど、被告会社は事実上本件犯行による社会的制裁を受けているとも評価できる。

そこで、以上の被告人及び被告会社に不利な事情と有利な事情とを比較考量の上、主文記載の量刑とした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金二二〇〇万円、被告人につき懲役一年六月)

(裁判官 長谷川憲一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例