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浦和地方裁判所 平成10年(ワ)2090号 判決

原告 A

原告 B

右原告ら訴訟代理人弁護士 沼田安弘

同 宮之原陽一

同 川西秀樹

右原告ら訴訟復代理人弁護士 長田敦

同 上田美帆

被告 池田レディースクリニックこと 池田誠

右訴訟代理人弁護士 須田清

同 園部洋士

同 生田康介

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ二六一七万四八一三円及びこれに対する平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、それぞれ三八九二万六一〇五円及び平成一〇年五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の経営する池田レディースクリニック(以下「本件病院」という。)において出生した亡C(以下「C」という。)が、被告又は被告の従業員の過失により、臍帯から出血し死亡したとして、Cの両親である原告らが、被告に対し、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者間に争いがない事実及び証拠により容易に認定することができる事実(以下「争いのない事実等」という。)

1  原告B(以下「原告B」という。)は、平成一〇年五月一日午後二時、本件病院において、原告らの子Cを出産した。

2  Cの臍帯結紮は、結紮糸で行われた。

3  その後、Cは、臍帯切断面から約二八〇グラム出血した(甲二、乙一、被告本人、弁論の全趣旨)。

4  被告は、右同日午後三時ころ、Cが全身蒼白になっていることに気づき、臍帯切断面からの出血による貧血症状と診断した。

5  被告は、公立藤岡総合病院に対し、右同日午後三時三〇分から午後四時ころの間に、Cの転院を依頼し、Cは、同日午後四時三〇分ころ、同病院に転院した。

6  Cは、右転院後、低酸素性虚血性脳症による植物状態に陥り、平成一二年一月二九日、肺炎を合併して死亡した。

7  原告らは、Cの有していた権利義務を二分の一宛相続した。

二  争点

1  過失の有無

(一) 臍帯結紮の程度

(原告らの主張)

被告は、Cの臍帯の結紮を万全に行い、臍帯からの出血を防止する義務があったのにこれを怠り、Cの臍帯から二八〇グラムの血液を出血させた。

(被告の主張)

Cに対する臍帯結紮は看護婦糸井美和子(以下「糸井」という。)が行ったが、同人の手法、部位は適切であり、被告医師も結紮の部位と止血状況を確認しているし、臍帯結紮後、Cは沐浴や身体測定、原告A(以下「原告A」という。)との写真撮影、分娩室での原告Bとの面会等をしているところ、その間出血はなかったのであって、臍帯からの出血について予見可能性はない。

(二) 看視の程度

(原告らの主張)

(1)  被告は、新生児であるCについて巡回管理を行い、異常がないか看視する義務があったのに、これを怠り、看護婦が、Cの出産からCの異変に気づくまでの一時間の間にCの巡視を行ったのは一回だけであった。

また、糸井は新生児室のCの顔が青白いことを認識しながらガラス越しに様子を見たにすぎず、看護婦坂本美和(以下「坂本」という。)は、右巡視の際、Cの体温計測を行い、Cの体温が低下していたこと及びCの唇にチアノーゼが表出していたことを認識しながら、Cの全身状態を確認せず、漫然とCに毛布をかけただけで、被告に回診を求めることなく放置し、Cの臍帯からの出血の発見を遅らせた。

(2)  被告の主張に対する反論

被告は、新生児のベッドの下にアラームを装着し、無呼吸発作、身体の動作の低下・停止等何らかの異常があれば直ちに警報が鳴るシステム(以下「ベビーセンス」という。)を使用していたと主張するが、ベビーセンス自体は、乳幼児突然死症候群の発見を目的として開発されたものであって、その装着により、十分な看視を行う義務が免除されるわけではない。

(被告の主張)

新生児の管理について、被告は、ベビーセンスを採用しており、当時の本件病院の水準に応じて適切な管理を行っていたし、臍帯からの出血について予見可能性がない以上、それ以上の注意をもって看視すべき義務はない。

また、坂本が巡視を行った時点で臍帯からの出血を確認したとしても、Cの低酸素性虚血性脳症の回避可能性は認められない。

2  因果関係の有無

(原告らの主張)

Cには、臍帯切断面以外に出血部位はないこと、出血量が二八〇グラムであったこと、臍帯結紮の不十分以外には出血傾向の存在を疑わせる兆候はなかったことから、臍帯からの出血の原因は臍帯結紮の不十分によるものであると認められる。

低酸素性虚血性脳症は脳循環障害による低酸素状態によって惹き起こされるものであること、出血量が二八〇グラムであったこと、出血の直後に低酸素性虚血性脳症が発症していることから、出血とCの傷害との因果関係も認められる。

(被告の主張)

Cに対する臍帯結紮が不十分であったとしても、これにより臍帯から出血し、更に右出血によりCが低酸素性虚血性脳症による植物状態に陥ったとは認められない。

3  損害額

(原告らの主張)

(一) Cの逸失利益   二二五七万九二六六円

就労可能年数は、一八才から六七才までの四九年間とする。

(二) 付添看護費     三八三万四〇〇〇円

原告らは、平成一〇年五月一日から平成一二年一月二九日までの六三九日間、継続的にCの介護をした。

(三) Cの入院雑費・治療費 一〇万二三六〇円

(四) 交通費        一七万八九二〇円

原告らは、平成一〇年五月一日から平成一二年一月二九日までの六三九日間、毎日Cの看護のため通院した。

(五) 慰謝料        合計三六〇〇万円

(1)  C分           二六〇〇万円

(2)  原告ら固有分       各五〇〇万円

(六) 葬儀費用    合計一二六万五四九二円

(1)  葬儀一式           四六万円

(2)  供物代        一〇万八六七五円

(3)  式場使用料等      三万二〇〇〇円

(4)  お布施            一七万円

(5)  リース代          八五〇五円

(6)  食事代及び雑費    一四万四五三一円

(7)  仏壇費用       一九万三五〇〇円

(8)  お車代             一万円

(9)  四九日費用      一三万八二八一円

(七) 弁護士費用    一三八九万二一七三円

(八) 合計       七七八五万二二一一円

第三争点に対する判断

一  争点1(過失の有無)について

証拠(甲二、三、乙一、二、七、八の2、九の2、証人糸井、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、糸井がCの臍帯結紮を行い、被告が確認したこと、糸井は、臍帯結紮について十分な経験を有すること、臍帯は、血管の周囲にワルトリン膠様質というゼリー状の物体が付着している構造であること、Cの臍帯結紮は、<1>臍帯の内二か所をコッヘル鉗子で挟み、その間を切断する、<2>臍輪から約二・五センチメートルの部位を軽く圧挫し、臍帯結紮糸(絹糸)で一巻きして結紮し、更に一巻きして結紮する、<3>結紮部位から約一・五センチメートルの部位を臍帯剪刀でしごくように切断する、<4>沐浴後、出血を確認しながら<2>の部位を再度臍帯結紮糸で結紮する、<5>臍帯切断部を、臍粉を散布した上、臍ガーゼ二枚で包むという順序でされたこと、Cの臍帯結紮は、結紮部位がくびれる程度にされていたこと、臍帯結紮後、Cは沐浴や身体測定、原告Aとの写真撮影、分娩室での原告Bとの面会等をしているところ、その間出血はなかったこと、Cの臍帯は通常より太く、臍帯クリップを止めるのに、男性である被告が全力でしてようやくできたこと、結紮糸による方法は緩む可能性があり、糸井及び被告がその可能性を認識していたこと、ベビーセンスは、乳幼児突然死症候群の早期発見を目的とし、乳幼児の身体の動きを監視するものであること、坂本は、新生児の巡視の際、Cの体温計測を行い、Cの体温が低下していたこと及びCの唇にチアノーゼが表出していたことを認識しながら、Cの全身状態を確認せず、Cに毛布をかけただけで、被告に回診を求めなかったことが認められる。

以上の事実からすると、Cの臍帯結紮は適切にされていたが、その後結紮糸が緩み、臍帯切断面から出血したものであって、結紮糸が緩む可能性を認識しながら早期に出血を発見する体制を整えていなかった被告には、過失が認められる。右認定に反する被告の主張は採用できない。

二  争点2(因果関係の有無)について

争いのない事実等3記載のとおり、Cは、臍帯切断面から約二八〇グラム出血し、同4記載のとおり、被告は、Cが全身蒼白になっていることに気づいた際、臍帯切断面からの出血による貧血症状と診断しており、証拠(甲二、三、乙一、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、Cには、臍帯切断面以外に出血部位はないこと、臍帯結紮が緩んだこと以外に出血傾向の存在を疑わせる兆候はなかったこと、右出血の直後に低酸素性虚血性脳症を発症していることが認められる。

以上により、結紮糸が緩んだことにより臍帯からの出血が生じ、右出血により低酸素性虚血性脳症が生じたと判断される。

三  争点3(損害額)について

1  Cの逸失利益 二二五七万九二六六円

(一) 就労可能年数 四九年間 一八才から六七才までの四九年間とするのが相当である。

(二) 平成一〇年賃金センサス男子労働者全年齢平均賃金 五六九万六八〇〇円

(三) 生活費控除率 〇・五

(四) 中間利息控除 七・九二七 ライプニッツ方式による。

(五) 計算式

五六九万六八〇〇円×(一-〇・五)×七・九二七=二二五七万九二六六円

2  付添看護費 三六〇万円

証拠(甲一〇及び原告B本人)によれば、原告らは、平成一〇年五月一日から平成一二年一月二九日まで、ほぼ毎日、Cの介護をしたことが認められ、少なくとも六〇〇日間付添ったものと認めるべきであり、付添看護費としては日額六〇〇〇円で計算した合計三六〇万円が相当である。

3  Cの入院雑費・治療費(争いのない事実) 一〇万二三六〇円

4  交通費 一六万八〇〇〇円

証拠(甲一〇及び原告B本人)によれば、原告らは、平成一〇年五月一日から平成一二年一月二九日まで、ほぼ毎日、Cの看護のため通院したことが認められ、少なくとも六〇〇日間通院したものと認めるべきであり、看護のための交通費としては、日額二八〇円(弁論の全趣旨)で計算した合計一六万八〇〇〇円が相当である。

5  慰謝料 合計二〇〇〇万円

慰謝料としては、Cにつき一〇〇〇万円、原告らにつき各五〇〇万円が相当である。

6  葬儀費用 各六〇万円

葬儀費用としては、原告らに各六〇万円が相当である。

7  合計

(一) Cの損害 合計三六四四万九六二六円

原告らは、右合計額の二分の一である一八二二万四八一三円をそれぞれ相続した。

(二) 原告ら固有の損害 合計各五六〇万円

8  弁護士費用 各二三五万円

弁護士費用としては、原告らに各二三五万円が相当である。

四  よって、原告らの請求は、各二六一七万四八一三円の限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六四条本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 木本洋子 裁判官 樋口正樹)

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