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浦和地方裁判所 平成10年(行ウ)36号 判決 2000年10月16日

亡甲訴訟承継人

原告

原告

原告

右三名訴訟代理人弁護士

小宮清

桝井信吾

小宮圭香

小沢剛司

原告乙訴訟代理人弁護士

今泉良隆

被告

上尾税務署長 水井隆治

右指定代理人

黒澤基弘

磯野宏

安部憲一

金谷滝夫

内田秀明

小野塚仁

田口勉

永塚光一

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成九年六月二三日付けでした甲の平成六年五月一四日相続開始に係る相続税の更正処分のうのうち、納付すべき税額四〇万五七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異義決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  被告が平成九年六月二三日付けでした原告乙の平成六年五月一四日相続開始に係る相続税の更正処分のうち、納付すべき税額二二〇万二〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告乙及び甲は、戊の子であり、甲が、平成一一年六月二八日に死亡したため、甲の国税の納付義務を、甲の妻である原告乙、甲の子である原告丙及び丁が承継したが、平成六年五月一四日に死亡した戊についての相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、甲につき課税価格八五〇万〇六〇〇円、納付すべき税額四〇万五七〇〇円、同乙につき課税価格四六一六万三〇〇〇円、納付すべき税額二二〇万二〇〇〇円を記載した申告書を、法定申告期限までに提出し、本件相続税を申告(以下「本件申告」という。)した。

2  被告は、右申告に対し、平成九年六月二三日付けで、甲につき課税価格三九八八万四五〇〇円、納付すべき税額二五四万四九〇〇円、過少申告加算税の額二九万四五〇〇円、原告乙につき税価格金四六一六万三〇〇〇円、納付すべき税額二六四万九九〇〇円、過少申告加算税の額四万四〇〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行い、同乙及び甲に通知した。

3  原告乙及び甲は、これに対し、甲を申立人総代とし、平成九年八月六日、被告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分の異議申立てをしたところ、被告は、同年一一月二五日付けで本件更正処分及び本件賦課決定処分の一部を取り消し、甲につき課税価格三九八五万一〇〇〇円、納付すべき税額二四〇万三二〇〇円、過少申告加算税の額二七万三五〇〇円、同乙につき税価格四一三四万円、納付すべき税額二四九万二九〇〇円、過少申告加算税の額二万九〇〇〇円とする異議決定をした。

4  原告乙及び甲は、異議決定を経た後の本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、甲を総代として選任して、平成九年一二月二二日に国税不服審判所長に審査請求をしたが、右所長は、平成一〇年八月一九日付けで審査請求を棄却する裁決をし、甲に通知した。右裁決書の謄本は、同年九月四日に甲に送達された。

5  本件更正処分及び本件賦課決定処分(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)は、その内容に瑕疵があり、違法である。

6  よって、原告らは、被告に対し、本件構成処分及び本件賦課決定処分のうち、甲の相続税につき、課税価格八五〇万〇六〇〇円、納付すべき税額四〇万五七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)及び原告乙の相続税につき、納付すべき税額二二〇万二〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は、認める。

2  請求原因のうち、裁決書謄本が、平成一〇年九月四日、甲に送達されたことは知らないが、その余の事実は、認める。

3  請求原因5の主張は、争う。

三  被告の主張

1  本件更正処分

(一) 課税価格の合計額 一億三九五〇万円

右金額は、(1)の原告乙、甲及び己(以下、三人を一括して、「本件相続人ら」という。)が、相続により取得した財産の価格から、(2)の控除すべき債務及び葬式費用の金額を控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により、右各人ごとに課税価格の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額の合計額である。

(1) 相続により取得した財産の総額 一億六〇九四万〇九〇一円

右金額は、本件相続人らが相続により取得した財産の総額であり、次の<1>ないし<8>の金額を合計した額である。

<1> 別紙物件目録五記載の土地 四五四一万四四〇〇円

右金額は、別紙物件目録五記載の土地(以下「本件係争土地」という。)を租税特別措置法(平成八年法律第一七号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六九条四の規定に基づき評価したものである。すなわち、戊は、その所有する別紙物件目録一記載の二筆の土地(以下「本件第一譲渡土地」という。)及び別紙物件目録二記載の二筆の土地(以下「本件第二譲渡土地」といい、本件第一譲渡土地と本件第二譲渡土地を一括して、「本件譲渡土地」という。)をA株式会社(以下「A」という)に譲渡し、その対価として、Aから譲渡を受けた別紙物件目録三記載の八筆の土地(以下「本件第一取得土地」という。)及び別紙物件目録四記載の五筆の土地(以下「本件第二取得土地」といい、本件第一取得土地と本件第二取得土地とを一括して、「本件取得土地」という。)を取得したものであるが、戊の譲渡所得収入金額は、本件取得土地の一部である本件係争土地の時価(本件取得土地二三七二平方メートルから埼玉県北本市に寄付した五九八平方メートルを除いた一七七四平方メートルに一平方メートル当たり二万五六〇〇円を乗じたもの)である四五四一万四四〇〇円が、措置法六九条の四の規定により、本件係争土地にかかる相続税の課税価格に算入すべき価格となる。

<2> 本件係争土地以外の土地 九六四三万六六〇一円

<3> 家屋、構築物 四三六万九二一〇円

<4> 事業(農業)用財産 三二万三六〇〇円

<5> 有価証券 一三万二〇〇〇円

<6> 現金、預貯金等 二四二万二七一五円

<7> 家庭用財産 五〇〇万円

<8> その他の財産 六八四万二三七五円

(2) 債務及び葬式費用の金額 二一四三万九三〇五円

右金額は、相続税法一三条及び同法一四条の規定により本件相続人らが相続により取得した財産の合計額から控除すべき債務及び葬式費用の金額であり、次の<1>ないし<3>の合計額である。

<1> 公租公課 一九二九万一七〇〇円

右金額は、被相続人たる戊に係る平成八年二月二八日付けの平成四年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分により発生したものである。

<2> 未払金 一〇万五二一八円

<3> 葬式費用 二〇四万二三八七円

2  本件相続人らの納付すべき相続税額 四八九万六一〇〇円

右金額は、相続税法一五条ないし一七条の規定により、算出したもので、次のとおり、後記(八)<1>、(八)<2>及び(八)<3>の合計金額である。

(一) 本件相続人らの課税価格の合計額 一億三九五〇万円

(二) 遺産にかかる基礎控除額 八〇〇〇万円

(三) 課税遺産総額 五九五〇万円

右金額は、前記(一)から(二)を控除した金額である。

(四) 法定相続分に応ずる各所得金額

<1> 甲 一四八七万五〇〇〇円

<2> 原告乙 一四八七万五〇〇〇円

<3> 己 二九七五万円

右金額は、本件相続人らが、相続税法一六条の規定により、右(三)を法定相続分に応じて相続財産を取得したものとした場合における各取得金額であり、右(三)に、本件相続人らの法定相続分をそれぞれ乗じて算出した金額(ただし、通則法一一八条一項の規定により各人ごとに一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。

(五) 相続税の総税額 八四一万二五〇〇円

右金額は、右(四)<1>ないし<3>に、それぞれ相続税法一六条の規定により、それぞれ算出した金額(ただし、通則法一一九条一項の規定により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの)の合計額である。

(六) 本件相続人らの相続額

<1> 甲 二四〇万三二〇一円

<2> 原告乙 二四九万二九九五円

<3> 己 三五一万六三〇四円

右金額は、相続税法一七条の規定により、本件相続人らがそれぞれ取得した各人のあん分割合を、右(五)の金額に乗じて算出した金額である。

(七) 配偶者の税額軽減額 三五一万六三〇四円

右金額は、相続税法一九条の二の規定により、前記(五)に、己の課税価格が、課税価格の合計額に占める割合を乗じて算出した金額である。

(八) 本件相続人らが納付すべき各相続税額

<1> 甲 二四〇万三二〇〇円

<2> 原告乙 二四九万二九〇〇円

<3> 己 〇円

右<1>及び<2>金額は、前記(六)<1>及び<2>の金額を通則法一一九条一項の規定により、一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額である。右<3>の金額は、前記(六)<3>から、右(七)を控除した後の金額である。

3  右2本件相続人らが納付すべき相続税額は、本件更正処分に係る本件相続人らが納付すべき相続税額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

4  過少申告加算税

(一) 甲に課されるべき過少申告加算税の額 二七万三五〇〇円

右金額は、通則法六五条一項の規定により、本件更正処分によって甲が新たに納付すべき税額(ただし、通則法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)である一九九万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額一九万九〇〇〇円及び同条二項の規定により、甲が本件更正処分により新たに納付すべき税額のうち五〇万円を超える部分に相当する金額一四九万円に一〇〇の五割を乗じて算出した金額七万四五〇〇円とを合計した金額である。

(二) 原告乙に課されるべき過少申告加算税の額 二万九〇〇〇円

右金額は、通則法六五条一項の規定により、本件更正処分によって原告乙が新たに納付すべき税額(ただし、通則法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数を切り捨てた後のもの)である二九万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額である。

(三) 右(一)及び(二)の金額は、本件賦課決定処分と同類であるから、本件賦課決定処分は、適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1及び2については、本件係争土地につき、措置法六九条の四の適用があり、本件係争土地の時価が一平方メートル当たり二万五六〇〇円であるとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、措置法六九条の四を適用せずに計算すべきであり、そうでないとしても、戊の譲渡所得収入金額は三・三平方メートル当たり七万円程度として計算するのが相当である。

2  被告の主張3及び4は、争う。

五  原告らの主張

1  措置法六九条の四の適用について

本件係争土地は、本件取得土地の一部であるが、本件譲渡土地の譲渡は、戊が、平成四年中に、庚及び辛のそれぞれ所有する本件所得土地との交換(以下「本件交換取引」という。)であり、本件交換取引については、次のとおり、所得税法(以下「法」という。)五八条一項(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例。以下「本件交換特例」という。)の適用を受ける土地であるため、租税特別措置法施行令(ただし、平成八年政令八三号による改正前のもの。以下「施行令」という。)四〇条の二第二項一号の規定により、措置法六九条の四の規定は適用されず、財産評価基本通達の定めにより評価した額によって評価すべきであるから、原告乙及び甲による申告額が正当である。

(一) 戊は、平成四年、同人が所有する本件譲渡土地と庚が所有する本件第一取得土地及び辛が所有する本件第二取得土地(本件取得土地)を交換した取引(本件交換取引)を行ったが、本件譲渡土地と本件取得土地とは、いずれも土地であることから、同種の固定資産である。

(二) 本件譲渡土地と本件取得土地とは、いずれもそれぞれの所有者が一年以上所有していた固定資産であり、交換の目的で取得したものではない。

(三) 原告らは、本件取得土地を本件譲渡土地の譲渡直前の用途と同一の用途(田畑)に供している。

(四) 本件交換取引において、交換差金は収受していない。

(五) 本件交換取引の相手は、庚及び辛であり、戊とこれら両名との間で本件譲渡土地と本件取得土地とを交換している。

(六) Aは、工場兼事務所用地として本件譲渡土地を含む土地の買収計画を、仲介人をB株式会社(以下「B」という。)として、進め、本件譲渡土地については、原告の所有する本件譲渡と庚及び辛がそれぞれ所有する本件取得土地とを交換し(本件交換取引)、Aが庚及び辛から本件譲渡土地を買い取る計画であったが、右計画が早期に実現するためには、本件譲渡土地は、農地であるから、農地法五条許可を早く得ることが必要であるところ、新地主からの右許可申請はすぐに受け付けられないので、本来は、戊の所有する本件譲渡土地と庚及び辛の所有する本件取得土地を交換するところを、戊が本件譲渡土地についての右許可申請をし、Aに譲渡し、庚及び辛が、戊に本件取得土地を売却した形式を採ったに過ぎず、本件第一譲渡土地については、埼玉県知事に提出した農地法五条の規定による許可申請書(以下「本件許可申請書」という。)において、譲渡人を戊、譲受人をAとし、所有権移転登記の名義人もAとしているのも、右のとおり、農地法五条の許可を早期に受けるために仲介人のBが、原告らに知らせずに行ったもので、実質とは異なる内容である。

2  信義則違反

(一) 戊は、平成四年分の所得税について確定申告をするに先立ち、平成五年二月二二日、原告乙を使者として、右確定申告につき上尾税務署職員である壬に税務相談をし、右壬の本件交換取引につき法五八条一項の適用がある旨の指導ないし助言又は説明にしたがって、甲及び原告乙は、右申告を行ったにもかかわらず、右壬の指導等と異なった内容による本件更正処分及び本系賦課決定処分は、信義則に反し、違法なものであって、取り消されるべきである。

(二) 上尾税務署は、平成五年三月三日以降は、本件交換取引について、法五八条一項の適用がないことを知っていたにもかかわらず、右申告をしている甲及び原告乙に対し、右のとおり本件交換取引に法五八条一項の適用がない旨を通知すべき信義則上の義務があるにもかかわらず、それを怠ってした本件更正処分及び本件賦課決定処分は、信義則に反し、違法なものであって、取り消されるべきである。

3  本件譲渡土地の譲渡所有金額の不当性

仮に、本件交換取引に法五八条一項が適用されないとしても、本件譲渡土地の譲渡に係る総収入金額は、本件交換取引時の時価である三・三平方メートル当たり金七万円程度で計算すべきであり、総収入金額は、三七六三万三〇三円である。

すなわち、戊が本件交換契約により取得した土地の地積は、二三七二平方メートルのうち、北本市に寄付した五九八平方メートルを除く、一七七四平方メートルである。そして、一七七四平方メートルにつき、三・三平方メートル当たり七万円の割合にて換算した額が総収入金額となるのである。

したがって、総収入金額を金四五四一万四四〇〇円を前提として認定した被告の前記更正処分は、戊の所得を過大に認定した違法があり、当然取り消されるべきである。

六  原告らの主張に対する認定及び被告の反論

1  原告らの主張に対する認否

(一) 原告らの主張1のうち、本件譲渡土地と本件取得土地とは、いずれも土地であることから、同種の固定資産であること、本件第一譲渡土地については、本件許可申請書において、譲渡人を戊、譲受人をAとし、所有権移転の登記の名義人もAとしていることは認め、その余の事実は否認し、主張は、争う。

(二) 原告らの主張2及び3については、すべて争う。

2  被告の反論

法五八条一項は、居住者が、<1>一年以上有していた固定資産を、<2>他の者が一年以上有していた同種の固定資産(交換のために所得したと認められるものを除く)と交換し、<3>交換により取得した資産を交換により譲渡した資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合においては、交換により譲渡した資産の譲渡はなかったものとみなす旨規定しているところ、戊は、その所有する本件譲渡土地をAに譲渡し、その対価として、Aが庚から取得した本件第一取得土地及び辛から取得した本件第二取得土地を取得したものであり、Aは、本件取得土地を一年以上保有しておらず、かつ、Aは、本件取得土地を本件譲渡土地と交換するために取得しており、本件譲渡土地の譲渡について、法五八条一項の適用がないことは明らかである。

第三証拠

本件記録中、書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当事者間に争いがない事実及び甲第一号証ないし第三号証、第四号証の各一、二、乙第一号証、第二号証、第三号証の各一、二、第四号証ないし第二八号証、第二九号証の各一、二、第三〇号証ないし第三五号証並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  Aは、平成三年一一月一一日、Bに対し、戊が所有する本件譲渡土地を含む土地を買い受け、右土地上に工場兼事務所を建設することに関する業務を、委託した(以下「本件委託契約」という。)。

2  平成四年六月七日、戊とAは、Aは戊のために、本件譲渡土地と同等の面積の代替地を捜して戊に引き渡すこと、戊は、本件譲渡土地はいわゆる農業振興地域及び市街化調整区域のため、右代替地を捜す前に、本件譲渡土地について、戊名義で農地法五条の規定による許可申請を行い、右許可後には、直接Aに所有権を直接移転すること、右代替地を見つけ次第、戊と右代替地地主で、農地法三条による所有権移転の申請を行い、所有権移転登記をする旨を合意(以下「本件合意」という。)し、その旨を記載して契約書(乙第二号証)を取り交わした。右合意については、本件委託契約に基づき、Bが立会人となった。

3  戊は、平成四年六月一〇日、埼玉県知事に対し、本件第一譲渡土地について、譲受人をA、譲渡人を戊とする農地法五条の規定による許可申請書(本件許可申請書。乙第二号証の二)を提出し、埼玉県知事は、平成四年七月二八日付けで、条件つきで農地法五条一項による許可をした(乙第三号証の一)ので、本件第一譲渡土地について、同年九月一二日の売買を原因として、同月一八日受付で、戊からAに所有権移転登記が経由された(乙第四号証、第五号証)。

また、甲、己及び原告乙は、平成六年ころ、Aに対し、本件第二譲渡土地について、本件第一取得土地との交換のため、除外申請及び農地法第五条の許可が済み次第、Aに本件第二条と土地の所有権を移転し、右除外申請、農地法上の許可申請及び所有権移転時に印鑑証明書及び住民票をBに渡す旨を約した。

4  庚は、平成四年九月二八日、Aに対し、仲介業者をB、引渡時期及び所有権移転登記申請時期を本件第一譲渡土地及び本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地について農地法五条の許可及び本件取得土地につき農地法三条の許可を受けた後として、本件第一取得土地を代金七六〇二万〇〇四五円で売り渡した。戊及び庚は、右売買契約後の同年一一月ころに、Bの取締役である癸の指示により、戊のAに対する本件第一譲渡土地及び本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地の譲渡に、法五八条一項を適用させるために、本件第一譲渡土地及び本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地と本件第一取得土地とを交換差益無しで交換した旨の不動産売買契約書(土地交換)(乙第七号証及び第九号証)を作成した。

そして、本件第一取得土地につき、平成四年九月二八日の売買を原因として、同月二九日受付で、庚から戊に所有権移転登記がされた(乙第一四号証ないし第二一号証)。

5  辛は、平成四年九月二八日、Aに対し、仲介業者をB、引渡時期及び所有権移転登記申請時期を本件第二譲渡土地のうち上谷埼玉県鴻巣市大字字西ヶ崎の土地につき農地法五条の許可及び本件第二取得土地につき農地法三条の許可を受けた後として、本件第二取得土地を、代金二四四三万六五二七円で売り渡した。戊及び辛は右売買契約ごの同年一一月ころに、Bの癸の指示により、戊のAに対する本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地の譲渡に、法五八条一項を適用させるために、本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地と本件第二取得土地とを交換差益無しで交換した旨の不動産売買契約書(土地交換)(乙代一〇号証及び第十二号証)を作成した。

そして、本件第二取得土地につき、平成四年九月二八日の売買を原因として、同月三〇日受付で、辛から戊に所有権移転登記がされた(乙第二二号証ないし第二六号証)。

6  庚及び辛は、平成五年三月三日、それぞれ本件第一所有土地、本件第二所有土地をAに売却した旨の平成四年度の確定申告をした。

7  戊は、上尾税務署から、平成五年一月二九日付けの「買い入れられた不動産についてのお尋ね」と題する書面二通(甲第二号証及び第三号証)の送付を受けた。

8  癸が、平成五年二月二日、上尾税務署に来署し、上尾税務署個人課税第六部門の相続税、贈与税及び所得税のうち譲渡所得関係の担当職員である壬に対し、埼玉県北本市深井地区でBが土地買収に関わり何人かの地主と接触しているところ、右地区で農業を営んでいる者と他の地区で農業を営んでいる者の土地を交換したいと考えているが、右交換の際に税金のかからない方法がどのような場合であるか等の質問をした。それに対し、壬は、癸に、個人の個別事業に関しては回答できない旨の回答をした上、土地の交換に関する法令のうち法五八条に規定する固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例により交換により譲渡した資産の譲渡がなかったものとみなされるには、居住者が、一年以上有していた固定資産を、他の者が一年以上有していた同種の固定資産のうち交換のために取得したと認められるものを除いたものと交換し、右交換により取得した資産を交換により譲渡した資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供したこと等が必要である旨の説明をした。その際、壬は、癸に対し、BがAから委託を受けた同社の工場兼事務所用の土地の買収について、今後の事務の参考とするため、右買収全体の計画図面(以下「本件買収計画図面」という。)を持参するよう依頼した。

9  原告乙が、平成五年二月二二日、戊の代理として、戊の平成四年分の所得税の確定申告のため、上尾税務署に来署し、壬に対し、Aが本件第一譲渡土地と第二譲渡土地(本件譲渡土地)を工場兼事務用地として取得したいとの話を受けたが、戊としては今後も農業を続けたいとの意向を有していたので、本件譲渡土地と庚が所有する本件第一譲渡土地及び辛が所有する本件第二譲渡土地と交換したものであると主張して、平成五年一月二九日付けの「買い入れられた不動産についてのお尋ね」と題する書面二通(甲第二号証及び第三号証)、不動産売買契約書(土地交換)(乙第八号証)、不動産交換契約書(土地)(乙第一一号証)及び本件第一譲渡土地の登記簿謄本(以下「本件第一譲渡土地登記簿謄本」という。乙第四号証及び第五号証)等を提出した。これに対し、壬は、右本件第一譲渡土地の登記簿の甲区順位番号壱事項欄に、所有者戊と記載され、同弐事項欄に、平成四年九月一八日受付、原因平成四年九月一二日売買、所有者Aと記載されていることから、本件譲渡土地の譲渡は売買であり、法五八条の規定の適用はないと判断し、その旨を原告乙に説明した。しかし、同乙は、右壬の説明に納得せず、本件譲渡土地の譲渡は、本件取得土地との交換であり、法五八条に該当する交換として戊の確定申告書を提出する旨を主張した。そこで、壬は、確定申告期間中で納税相談者が多数来署していること、同乙を説得したとしても本件譲渡土地の譲渡が売買に該当することを了承しないと思われること及び申告納税制度では自主申告であることから、同乙の主張のとおり、本件譲渡土地の譲渡が、本件取得土地との交換に該当し、法五八条の適用があるとして、戊の確定申告所の作成を補助し、所定金額欄の記載等を行った。その際、壬は同乙に対し、本件譲渡土地の譲渡は、交換には該当しないが、自主申告であるから、同乙の主張のとおり、本件譲渡土地の譲渡が交換に該当するとして、計算し、戊の確定申告書(甲第四号証の一及び二)を作成するが、後で修正申告をしてもらうことになる旨を説明した。そして、壬は、右経緯を明らかにするため、同乙に「土地の交換について」と題するもので、作成名義人を戊として、戊が本件譲渡土地一八九六平方メートルと庚及び辛が所有する本件所得土地二三七二平方メートルとを交換したこと、交換であるため値段は定めていないこと、本件譲渡土地の周辺の土地の価格は坪当たり一四万円であること、交換した土地の面積の差があるが、戊が農業を継続する意向があるので、その旨了承していること、右交換について税務署でよろしく取り計らわれるよう依頼することを記載した書面(乙第二八号証。以下「本件乙作成書面」という。)の作成を依頼し、同乙は、右書面を作成し、右確定申告書とともに、壬に提出した。さらに、壬は、本件譲渡土地の譲渡が交換に該当するか否かについて確認するため、同乙に対して、本件譲渡土地に係る農地法上の許可申請書及び本件第二譲渡土地の登記簿謄本も提出するように依頼した。

10  癸が、平成五年三月三日、上尾税務署に来署し、壬に対し、本件第一譲渡土地についての農地法五条の規定による本件許可申請書及び指令農政第5―19埼玉県知事による農地転用許可証の写し(乙第三号証の一及び二)を提示した。壬は、癸に対し、本件譲渡土地の譲渡は、法五八条が適用される交換には当たらないと説明したが、癸は、右本件譲渡土地の譲渡は、交換に該当する旨を主張するだけであった。壬は、癸に対し、右書類に加え、本件第二譲渡土地の登記簿謄本及び右土地に関する農地法による許可申請書及び農地転用の許可通知も提出するよう依頼した。

癸は、右翌日、上尾税務署に、前日に壬に提示した本件第一譲渡土地についての農地法五条の規定による本件許可申請書及び指令農政第5―19埼玉県知事による農地転用許可証の写し(乙第三号証の一及び二)を提出した。

癸は、同月一六日、上尾税務署に来署し、壬に対し、本件買収計画図面を示し、買収の目的は、埼玉県北本市深井地区にAの工場兼事務所を建設するためであり、右地区の土地買収について、BはAから委託され、右土地買収を実施していること、右買収が三期にわたること、右地区の関係地主が一〇名以上いること、本件譲渡土地の譲渡は、本件所得土地と交換したもので、現金の授受はない旨説明し、本件譲渡土地の譲渡について、税務上の交換の特例を認めて欲しい旨の申出があった、それに対し、壬は、癸に対し、本件譲渡土地の譲渡が法五八条の交換に該当するとは認められない旨を説明した。

11  平成六年五月一四日に死亡した戊についての相続に係る本件相続税について、甲につき課税価格八五〇万〇六〇〇円、納付すべき税額四〇万五七〇〇円、原告乙につき課税価格四六一六万三〇〇〇円、納付すべき税額二二〇万二〇〇〇円と記載した申告書を、平成七年一月一二日に提出し、本件相続税を申告(本件申告)した。

被告は、右申告に対し、平成九年六月二三日付けで、甲につき課税価格三九八八万円七〇〇〇円、納付すべき税額二五四万四九〇〇円、過少申告加算税の額二九万四五〇〇円、原告乙につき税価格金四六一六万三〇〇〇円、納付すべき税額二六四万九九〇〇円、過少申告加算税の額四万四〇〇〇円とする本件更正処分及び本件賦課決定処分を行い、同乙及び甲に通知した。

原告乙及び甲は、これに対し、平成九年八月六日、被告に対し本件更正処分及び賦課決定処分に対し、異議申し立てをしたところ、被告は、同年一月二五日付けで本件更正処分及び本件賦課決定処分の一部を取り消し、甲につき課税価格三九八五万一〇〇〇円、納付すべき税額二四〇万三二〇〇円、過少申告加算税の額二七万三五〇〇円、同乙につき税価格四一三四万円、納付すべき税額二四九万二九〇〇円、過少申告加算税の額二万九〇〇〇円とする異議決定をした。

原告乙及び甲は、異議決定を経た後の本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成九年一二月二二日に国税不服審判所長に審査請求をしたが、右所長は、平成一〇年八月一九日付けで審査請求を棄却する裁決をした。

二  措置法六九条の四適用について

原告らは、戊は、庚が所有する本件第一所得土地及び辛が所有する本件第二取得土地を、戊所有の本件譲渡土地との交換によって取得したのであるから、右各土地の取引は、法五八条一項の定めるところにより、固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(本件交換特例)の適用が認められるべきであり、施行令四〇条の二第二項一号の規定により、措置法六九条の四規定は適用されないと主張する。

しかしながら、次のとおり、戊は、本件譲渡土地をAに対して譲渡し、Aが庚及び辛から取得した本件取得土地とを交換したというべきであるから、戊が本件交換特例を受けるべき立場にないから、これを前提とする原告らの右主張は、理由がない。

1  前記認定した事実によると、Aは、平成三年一一月一一日、工場兼事務所を建設することを企図して、本件譲渡土地を含む一体の土地を買い受けることとし、その事務をBに委託したこと、そこで、Aは、平成四年六月七日、戊との間で、本件合意に関する契約書(乙第二号証)を取り交わし、戊は、本件合意に基づいて、本件第一譲渡土地について、同年六月一〇日、埼玉県知事に対し、譲受人をA、譲渡人を戊とする農地法五条の規定による本件許可申請書を提出し、同知事は、同年七月二八日、条件付きで右申請を許可したこと、戊は、Aのために同年九月一八日、原因を同月一二日売買とする所有権移転登記を了したこと、甲、己及び原告乙は、Aに対し、本件第二譲渡土地を「北本市深井八丁目七筆分との交換のため、除外申請及び農地法五条の許可が済み次第所有権を移転する。」旨を記載した年月日付け(月日は白紙)の念書(乙第六号証)を交付したこと、庚及び辛は、平成四年九月二八日、本件第一及び第二取得土地をAに対してそれぞれ売り渡したこと、戊は、同月二九日、本件第一取得土地について、原因を同月二八日売買とする所有権移転登記を了し、また、同月三〇日、本件第二取得土地について、原因を同月二八日売買とする所有権移転登記を了したことが認められる。

右事実に照らすと、Aは、工場兼事務所の建設用地として、本件譲渡土地を含む一体の土地の取得を企図したが、戊から、本件譲渡土地の譲渡に当たっては、本件譲渡土地と同等の面積を有する代替土地の取得を求めたことから、庚及び辛から本件取得土地を取得した上、平成四年九月二八日、これを戊に譲渡したものと認められる。そうすると、戊は、本件譲渡土地を、Aに譲渡し、その対価として、Aが庚及び辛から取得した本件取得土地を交換により取得したというべきである。

この点、原告らは、戊は、庚及び辛との間で、本件譲渡土地と本件取得土地とを交換したと主張し、右主張に沿う乙第七及び第九、第一〇号証及び第一二号証が存在するが、Bは、Aから、Aが本件譲渡土地を含む一体の土地に工場兼事務所を建設するために、本件譲渡土地を含む一体の土地を取得するための事務の委任を受け、戊は、Aに対して本件譲渡土地を譲渡したものであり、右取得の経緯の中で、Bの癸が、戊のために、本件譲渡土地の譲渡が法五八条が適用されるように指示したことに基づいて、右乙各号証が作成されたものであるから、これらの記載内容に沿った事実を認めることは困難であるといわざるを得ないから、これらによって、原告らの主張を認めることはできない。

2  ところで、法五八条一項が適用されるには、居住者が、一年以上有していた固定資産を、他の者が一年以上有していた同種の固定資産(交換のために取得したと認められるものを除く。)と交換し、交換により取得した資産を交換により譲渡した資産の譲渡した資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合である。

本件は、前記判示のとおり、戊は、その所有にかかる本件譲渡土地とAが取得した本件取得土地とを交換したが、Aは、戊が本件譲渡土地を譲渡するについて、本件譲渡土地と同面積の土地を求めたことから、本件譲渡土地と交換するために、本件取得土地を平成四年九月二八日に取得し、本件譲渡土地を取得する対価として、本件第一取得土地については、同月二九日、原因を同月二八日売買として、庚から中間省略により直接戊に対して所有権移転登記手続きを了し、本件第二取得土地についても、同月三〇日、原因を二八日売買とする所有権移転登記手続を了したのであるから、Aは、戊と本件譲渡土地と本件取得土地とを交換するまでの間、本件取得土地を一年所有していないし、本件取得土地を本件譲渡土地と交換する目的で取得したのであるから、本件譲渡土地と本件取得土地との交換取引については、法五八条一項の定めるところの本件交換特例の適用される余地のないことは明らかであるといわざるを得ない。

三  信義則違反について

原告らは、戊は、平成四年分の所得税について確定申告をするに先立つ平成五年二月二二日、右確定申告につき、原告乙が上尾税務署職員壬に税務相談をし、右壬の指導ないし助言又は説明にしたがって確定申告を行ったにもかかわらず、被告は、右壬の指導等と異なった内容による本件更正処分及び本件賦課決定処分を行っており、右本件更正処分及び本件賦課決定処分は、信義則に反し、違法なものであって、取り消されるべきであると主張する。

1  前記認定事実のとおり、壬は、平成五年二月二二日、戊の代理として来署した原告乙から、Aから本件譲渡土地を工場兼事務所用地として取得したいとの話しがあったが、戊は今後とも農業を続けたいとの意向を持っていたため、本件譲渡土地と庚及び辛が所有する本件第一及び第二取得土地を交換したもので、売買ではないという旨の説明を受けたが、原告乙が提出した本件第一譲渡土地の登記簿謄本には原因を平成四年九月一二日売買とするAへの所有権移転登記が経由されていたことから、戊の土地譲渡は交換ではなく売買と認められるので、本件交換特例が適用される事実とは認め難い旨を説明したこと、しかし、同乙は、これに納得せず、右土地の譲渡は、法五八条一項に該当するとして、その旨の確定申告を行うと強く主張したこと、壬は、同乙を説得することは困難であるとして、同乙に対し、交換に該当しないと思われるが、自主申告なので、同乙の言うとおり土地の交換に該当するとして計算するが、後に、修正申告をしてもらうことになると思われると説明した上で、同乙の主張するとおりの確定申告書の作成をし、同乙に対し、右土地の譲渡の経緯について記載した文書の作成を求めたこと、壬は、同年三月三日、原告乙から本件第一譲渡土地に関する許可申請書及び農地転用許可の通知(乙第三号証の一及び二)の提出を受けたが、右書類には譲渡人戊、譲受人Aとする記載があったため、同乙に対し、右土地の譲渡は交換に該当しないとの説明をしたが、同乙は、壬の右説明に納得しなかったこと、Bの癸は、同月一六日、Aの工場兼事務所の計画図面を持参し、壬に対し、Aの本件譲渡土地の取得の経緯等について説明し、本件譲渡土地は本件所得土地と交換したもので、現金の授受はないので、税務上の交換の特別を適用してほしい旨を申し出たが、壬は、Bの右説明及びこれまでに提出を受けた関係書類等を検討しても、本件は法五八条一項に該当する土地の交換と認めることはできない旨を説明したというのであるから、壬は、一貫して本件譲渡土地と本件取得土地の交換が、法五八条一項に定める本件交換特例が適用される事案であると認めることは困難であるとしていたのであり、壬が誤った教示をしたという経緯をうかがうことはできないところであり、かえって、同乙が、壬の右説明に納得せず、本件交換特例が適用されるとして確定申告をしたいと固執していたもので、壬は、確定申告が自主申告であることから、同乙の主張に沿った計算をした上で、後に修正申告をしてもらうことがあることを示唆した上で、確定申告書を作成したと認められるから、戊が、壬に対する税務相談の結果に基づき、壬の指導ないし助言又は説明に従って本件確定申告をしたと認めることはできない。

したがって、戊が、壬の前記教示を信頼し、これに基づいて本件確定申告を行ったことを前提とする原告らの主張は理由がない。

この点、同乙は、同乙が、平成五年二月二二日、上尾税務署で納税相談を受けた際、同乙は、本件第一譲渡土地登記簿謄本を持参しなかったし、壬は、本件譲渡土地の譲渡には、本件交換特例が適用される旨を説明し、所得税〇円とする戊の平成四年分の所得税の確定申告書をそのまま受理した旨原告らの前記主張に沿う供述等をする(乙第三三号証)が、右供述等は、前記認定の事実に照らすと、たやすく採用できないし、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠もない。

2  また、原告らは、上尾税務署は、平成五年三月三日以降は、本件交換取引について、法五八条一項の適用がないことを知っていたにもかかわらず、戊に対し、本件交換取引に法五八条一項の適用がない旨を通知すべき信義則上の義務があるにもかかわらず、それを怠ってした本件更正処分及び本件賦課決定処分は、信義則に反し、違法なものであって、取り消されるべきであると主張するが、前記認定のとおり、壬は、同年二月二二日の納税相談の際、原告乙に対し、本件譲渡土地の譲渡及び本件取得土地の取得につき法五八条一項の適用がない旨を説明し、同乙の意向に従った確定申告書を作成するが、今後修正申告をしてもらうことになる旨を告げているのであるから、壬は、戊の本件譲渡土地と本件取得土地との交換が、法五八条一項が適用される事例でないと判断し、その旨を説明し、それに従った確定申告をすることを示唆していたと認められる。したがって、被告が、本件確定申告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分をしたことが、信義則に違反する違法な処分であるとは認めることはできず、原告らの右主張は、理由がない。

四  本件譲渡土地の譲渡取得金額の不当性

乙第二七号証によると、株式会社C不動産鑑定書が、被告からの依頼に基づいて行った本件取得土地の鑑定評価によると、本件取得土地の平成四年九月二五日時点における正常価格は、一平方メートル当たり二万五六〇〇円であると評価したことが認められ(以下「本件鑑定」という。)、右正常価格の算出の手法及び算定方法もいずれも合理的で相当なものであると認められるから、被告が、戊が本件取得土地を交換により取得した右同日時点における本件取得土地の時価を一平方メートル当たり二万五六〇〇円とし、これに本件取得土地の一部である本件係争土地の合計面積である一七七四平方メートルを乗じた価格を基礎として本件更正処分をしたことは、相当である。この点、原告らは、本件譲渡土地の譲渡に係る総収入金額は、本件交換取引時の時価である三・三平方メートル当たり七万円程度で計算すべきであると主張するが、右価格で取引がされたとしても、これが直ちに課税に際しての正常価格であると認めることは困難であり、他に原告らの右主張を認めるに足りる証拠もない。

したがって、原告らの右主張は、採用できない。

五  本件相続人らが取得した財産の総額につき、本件係争土地以外の財産が一億一五五二万六五〇一円であること(被告の主張1(一)(1)の事実)、相続税法一三条及びの規定により、本件相続人らが相続により取得した財産から控除すべき債務及び葬式費用の金額が二一四三万九三〇五であること(被告の主張1(一)(2)の事実)は当事者間に争いがなく、前記判示のとおり、本件交換取引により戊が取得した本件取得土地の価格の算定に当たっては、本件交換取引には法五八条一項の定める本件交換特例の適用が認められず、本件取得土地を取得した平成四年九月二八日時点における右土地の正常価格は一平方メートル当たり二万五六〇〇円であるから、本件取得土地の一部である本件係争土地の価格は四五四一万四四〇〇円となる。したがって、本件相続人らが納付すべき各相続税額は、右本件相続人らが相続により取得した財産の総額から右控除すべき債務及び葬儀費用の金額を控除し、さらに、遺産にかかる基礎控除額を控除して、相続税法一七条により、本件相続人らがそれぞれ取得したあん分割合を乗じ、己につき、同法一九条の二による配偶者に対する相続税額の軽減を行って算出した、己につき〇円、甲につき二四〇万三二〇〇円、原告乙につき二四九万二九〇〇円(通則法一一九条により一〇〇円未満を切り捨て)となる。

したがって、原告己、同乙及び甲が右各納税額を納付すべきであるとした本件更正処分は適法であり、また、本件賦課決定処分は、本件更正処分によって新たに納付すべき税額に基づき、当時施行の通則法に従って算出された過少申告加算税を賦課するものであるから、本件賦課決定処分も適法である。

六  よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 都築民枝 裁判官 蛭川明彦)

物件目録一

一 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 三四七平方メートル

二 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 五一九平方メートル

物件目録二

一 所在 鴻巣市大字上谷西ヶ崎

地番

地目 畑

地積 三九六平方メートル

二 所在 鴻巣市大字上谷西ヶ崎

地番

地目 田

地積 六三四平方メートル

物件目録三

一 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 一〇九平方メートル

二 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 四一三平方メートル

三 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 二六四平方メートル

四 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 五九平方メートル

五 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 二三平方メートル

六 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 一〇五平方メートル

七 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 三四〇平方メートル

八 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 四八二平方メートル

物件目録四

一 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 一一九平方メートル

二 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 六六平方メートル

三 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 二〇二平方メートル

四 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 九五平方メートル

五 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 九五平方メートル

物件目録五

一 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 七七七平方メートル

二 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 一〇三平方メートル

三 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 九五平方メートル

四 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 畑

地積 三三五平方メートル

五 所在 北本市深井八丁目

地番

地目 田

地積 四六四平方メートル

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