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浦和地方裁判所 平成3年(ワ)329号 判決 1992年4月03日

原告

茂木進

ほか一名

被告

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告茂木進及び同茂木ヒデ子に対し、各金三〇五一万円及びこれに対する平成三年四月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告ら

原告茂木進(以下「原告進」という。)及び茂木ヒデ子(以下「原告ヒデ子」という。)は、亡茂木敏和(以下「亡敏和」という。)の父母である。

2  本件事故

(一) 本件事故の発生

亡敏和は、平成二年九月一日午前一時四五分、自動二輪車(練馬て三四九四、以下「敏和車」という。)を運転して、東京都内の下宿先から単身群馬県邑楽郡邑楽町にある実家に帰宅する途中、埼玉県北埼玉郡騎西町大字西ノ谷六六番地先の国道一二二号線(片側一車線)を大宮市方面から館林方面へ向けて進行中、折から同道路を同方向に向け走行していた佐々木功運転の一一トン大型貨物自動車(川崎一一か二四三八、以下「佐々木車」という。)の後輪に巻き込まれ、頭蓋骨頭蓋底骨折、脳挫傷により即死した(以下右事故を「本件事故」といい、右事故の発生場所を「本件事故現場」という。)

(二) 本件道路の状況

(1) 本件道路は、大宮方面から館林方面に通じるもので、ほぼ南北に走る直線の見通しのよいアスフアルト舗装道路であり、中央は黄色実線で標示され、その西側には幅員三・三五メートルの館林行きの北に向かう車線が、東側には幅員三・三〇メートルの大宮行きの南に向かう車線が位置し、北に向かう車線は、白色実線によつて車線と路肩を画する車道外側線が標示され、幅員一・〇〇メートルの路肩(車道外側線外側部分、以下「本件路側帯部分」という。)が設けられ、その外側は、未舗装部分(以下「本件未舗装部分」という。)となつていた。

(2) 本件道路左側の砂利が敷きつめられた非舗装部分(本件未舗装部分)は、以前から砂利が敷かれ、日頃からダンプカー等の長距離車両の一時休憩場所となつていた関係で、所々で砂利が盛り上がつていたり、深さ約二五ないし三〇センチメートルの凸凹状部分が何箇所もあつた。また、本件道路の左側路側帯部分(本件路側帯部分)には、大型車両等が駐・停車のため本件未舗装部分と道路部分との間を頻繁に出入りし、道路上に出る際に砂利をはね上げるため、砂利が本件路側帯部分に飛散し、散乱していたほか、本件未舗装部分と本件路側帯部分の間に相当な段差ができていた。また、本件道路を北に向かつて進行すると、本件事故現場付近の手前から路側帯部分の左側が広範囲にわたつて舗装されている状態にあり、それが本件未舗装部分に連なつていた。

(三) 本件事故の発生原因

本件道路の車道部分の片側の幅員は三・三五メートルと狭く、本件事故当時には、佐々木車(車長一〇メートル、車幅二・五メートル、車両総重量二〇トン弱)は、敏和車の後方から道路部分をほぼいっぱいに、しかも高速度で走行しており、敏和車を追い越そうとしたため、亡敏和は、外側線の左側にそれて本件路側帯部分にはみ出て走行せざるを得なかつた。ところが、同人は、同部分に砂利が散乱していたため自車のハンドルを左にとられ、本件未舗装部分に進入してしまい、ハンドルを右に修正しようとしたが、同部分が凸凹状態の上、本件路側帯部分と本件未舗装部分との間に相当の段差があつたことから、自車の運転の安全を失い、車体ごと転倒して、佐々木車の後輪に巻き込まれたものである。

また、亡敏和が、本件路側帯部分に進入してしまつたのは、本件事故当時夜間で、本件事故現場付近は証明もなく、暗かつたため、本件事故現場手前の路側帯左側の舗装部分からそのまま進行してしまつたことによるとも考えられる。

3  責任原因(国家賠償法二条の責任)

被告は、本件道路の設置管理者であるが、本件道路には、次のとおり設置又は管理に瑕疵があつたから、被告は、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

(一) 多数の大型車両等が、本件未舗装部分に駐・停車の目的で頻繁に出入りしたため、本件未舗装部分に敷かれた砂利が本件路側帯部分上に飛び散り、本件道路上を大型車が通行する際に本件路側帯部分を通行せざるをえない二輪車等の通行に危険を生じさせていたのであるから、被告は、本件未舗装部分に車両が進入しないように措置すべき義務があつたが、これを放置していた。

(二) また、少なくとも、本件未舗装部分の砂利が、本件路側帯部分等に散乱しないよう、本件未舗装部分を整地するなどして手入れすべき義務があつたが、被告はこれを放置していた。

(三) 本件道路では、大型車両が頻繁に、かつ高速で走行していたため、二輪車等が、本件未舗装部分に進入したり、進入せざるをえないことがあることが予想されるのに、被告は、本件未舗装部分の凸凹や同部分と本件路側帯部分との間の段差を放置していた。

(四) 本件事故現場手前の路側帯部分の左側が広範囲にわたつて舗装されていて、その先が本件未舗装部分に連なつていたが、そのことを知らずに車両等が右路側帯左側の舗装部分を進行する危険性があつたのであるから、被告は本件道路と右舗装部分とを明確に区分する義務があつたが、被告は、これを怠つていた。

(五) 被告は、本件道路に街灯等を設置して、通行車両の安全を確保すべき義務があつた。本件道路は、昭和五六年三月二七日付建設省都市局長、道路局長通達により定められた「道路照明施設設置基準」(以下「設置基準」という。)によつても、「夜間交通上特に危険な場所」ないし「局部照明を必要とする特別な状況にある場所」として、局部照明(必要な箇所を局部的に照明すること)を必要とする場所であつた。しかし、被告は、右義務を怠つていた。

4  損害

(一) 逸失利益

亡敏和は、昭和四六年二月一六日生れで、本件事故当時一九歳であつた。同人は、平成元年三月に足利工業大学付属高等学校を卒業後、同年四月に専門学校に入学し、平成三年三月卒業予定であつた。そして、本件事故当時、既に東京消防庁に就職が内定していた外、警察官になることを目指して受験手続中であつた。

亡敏和は、平成三年四月から四七年就労が可能であつたところ、賃金センサスに基づく高校卒業者の全年齢平均給与額を基準にし、ライプニツツ係数により中間利息を控除し、その生活費控除を五〇パーセントとして計算すると、同人の逸失利益は、三九〇三万一三五六円である。

(計算式)

四三四万一四〇〇円(年収)×一七・九八一〇(ライプニツツ係数)×〇・五=三九〇三万一三五六円

原告進及び同ヒデ子に、右金員の二分の一である各金一九五一万五六七八円を相続した。

(二) 慰謝料

亡敏和は、原告ら夫婦の一人息子であり、同人が本件事故により死亡したことによる原告らの精神的苦痛は筆舌に尽くし難く、これを慰謝するためには、少なくとも各九〇〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用

原告らは、原告訴訟代理人に訴訟の提起・追行を委任し、これに要する弁護士費用として合計四〇〇万円(各二〇〇万円)の損害を受けた。

(四) 以上合計 各三〇五一万五六七八円

5  よつて、原告らは、被告に対し、国家賠償として右各金三〇五一万五六七八円のうち各金三〇五一万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である平成三年四月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(原告ら)の事実は認める。

2  同2(本件事故)について

(一) 同(一)(本件事故の発生)の事実中、敏和が自動二輪車を運転・走行中に交通事故を惹起したこと及び同人が死亡したことは認め、その余の事実は知らない。

(二) 同二(本件道路の状況)の事実中、(1)の事実は認める。なお、本件未舗装部分は、道路改良予定地であつて、本来自動車の通行の予定されていない部分である。同(2)の事実のうち、本件未舗装部分には以前から砂利が敷かれていたこと、タンプカー等の長距離車両が本件未舗装部分と道路部分との間を頻繁に出入りしたこと、本件未舗装部分と本件路側帯部分の間に段差ができていたことは認める。ただし、右段差は若干であり、本件道路すべてに段差があつたものではない。右大型車両等が本件未舗装部分と道路部分との間を頻繁に出入りし、道路上に出る際に砂利をはね上げるため、砂利が路側帯ないし路肩部分に飛散し、散乱していたことは知らない。その余の事実は否認する。

(三) 同(三)(本件事故の発生原因)の事実中、本件路側帯部分と本件未舗装部分との間に段差があつたこと及び本件道路の車道部分の片側幅員が三・三五メートルであることは認め、佐々木車が敏和車の後方からこれを追い越そうとしたこと及び本件現場付近は照明がなかつたことは否認し、その余の事実は知らない。

なお、本件事故は、亡敏和が追越し禁止に違反して先行する大型貨物自動車を左側から追い越すべく、道交法一七条一項に違反して外側線の外側である路肩部分ないし道路改良予定地部分を高速度で走行するという違法かつ無謀な運転が原因で発生したものである。

3  同3(責任原因)の事実中、被告が本件道路の管理責任者であつたことは認め、その余は否認し、主張は争う。

(一) 同3(一)及び(二)の主張について

本件路側帯部分は、本来自動車の通行が予定されていない部分であり、若干の土砂が滞留していたからといつて、道路の設置又は管理に瑕疵があつたということはできない。本件事故当時の本件路側帯部分にも、車両の通行に支障が生じる程度の砂利があつたとはいえず、砂利が散乱するのを防止するために、本件未舗装部分に車両が進入しないように措置すべき義務や本件未舗装部分を整地するなどして手入れすべき義務があつたということはできない。

(二) 同3(三)の主張について

本件未舗装部分は、道路ではなく、車両の通行の用に供されていた部分ではない。そして、本件道路の館林行きの北に向かう車線は、車道部分の幅員が三・三五メートル、路肩部分の幅員が一・〇〇メートル、合計四・三五メートルであつて、車幅二・四九メートルの大型貨物自動車の走行に一・八六メートルの余裕があることからしても、自動二輪車を運転して本件道路を通過する者が安全な走行のために当然払うべき通常の注意義務を怠らない限り、敢えて未舗装部分を走行する可能性はまず考えられないところである。したがつて、本件未舗装部分の凸凹や同部分と本件路側帯部分との間の段差があつたことを理由に公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたということはできない。

(三) 同3(四)の主張について

原告が広範囲にわたつて舗装されていたと主張する部分は、本件事故現場手前にある中古自動車販売会社が中古自動車の陳列ないしはその出入りの便宜のために舗装した部分又は交差道路の舗装部分を指しており、右部分は本件道路の設置・管理とは無関係である。

(四) 同3(五)の主張について

本件事故現場付近道路には、事故現場からは若干距離はあるが付近には照明灯も設置されており、敏和車及び大型貨物自動車の佐々木車のヘツドライトによる照明もあつたのであるから、車道外側線の認識はもちろんのこと、路面状況は十分把握できたものと認められるので、路面の照明を問題とするのは失当である。また、本件道路は、前後に照明灯の設置された交差点がある直線道路であり、設置基準上、局部照明の設置を必要とする箇所ではない。したがつて、照明灯が設置されていなかつたからといつて、直ちに道路の設置・管理の瑕疵となるものではない。

4  請求原因4(損害)の事実は知らない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(原告ら)の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2について

1  請求原因2(一)(本件事故の発生)の事実中、亡敏和が自動二輪車を運転・走行中に交通事故を惹起したこと及び同人が死亡したことは当事者間に争いがなく、その余の事実は、成立に争いのない甲一ないし四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙六号証により認めることができる。

2  請求原因2(二)(本件道路の状況)について

(一)  請求原因2(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  請求原因2(二)(2)の事実中、本件未舗装部分に以前から砂利が敷かれていたこと、ダンプカー等の長距離車両が本件未舗装部分と道路部分との間を頻繁に出入りしたこと、本件未舗装部分と本件路側帯部分の間に段差ができている部分のあつたことは当事者間に争いがない。

(三)  また、前掲甲三号証、弁論の全趣旨により平成二年九月五日当時の本件事故現場付近を撮影した写真であることが認められる甲五号証の一ないし五(ただし、撮影対象については争いがない。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 本件未舗装部分は、本件事故現場の道路の西の外側にある幅四・〇メートル、長さ三〇メートルの未舗装の空地であり、道路改良予定地となつていた。そして、本件未舗装部分には、砂利が敷かれており、同部分の北側の約半分近くには、高さ一五センチメートルの砂利の山が約四ケ所あり、一部分が本件路側帯部分まで続いており、さらに砂利の山の間に三ケ所の窪みがあり、その中には直径一メートル位のくぼみもあり、凸凹状態となつていた。そして、本件未舗装部分を出入りする車両のために、本件未舗装部分の砂利が本件路側帯部分にはみ出していた。本件未舗装部分と本件路側帯部分との段差は数センチメートルで、本件未舗装部分と本件路側帯部分との間の一部分にできていた。

(2) 本件現場の手前部分から路側帯の左側が広範囲にわたつて舗装された状態になつていたが、この舗装部分は、事故現場の手前にある中古自動車販売会社が中古自動車の陳列、出入りのため、舗装した部分であつた。そして、右舗装部分の北側は、本件未舗装部分に連なつていた。

3  請求原因2(三)(本件事故の発生原因)について

(一)  請求原因2(三)の事実中、本件路側帯部分と本件未舗装部分との間に段差があつたこと及び本件道路の車道部分の片側が三・三五メートルであつたことは当事者間に争いがない。

(二)  そして、前掲甲三号証によれば、敏和車が、砂利のある本件路側帯部分を進行した後に、前記のとおり凸凹状態となつていた本件未舗装部分の北側部分に進入し、転倒したことが認められる。

(三)  しかし、佐々木車が、敏和車の後方から、敏和車を追い越そうとしたこと、そのために、敏和車が本件路側帯部分を進行せざるをえなかつたものであること、亡敏和が、本件路側帯部分の砂利が原因で自車のハンドルを左にとられたために本件未舗装部分に進入してしまつたこと等の事実については、これを認定するに足りる証拠はない。

(四)  さらに、敏和車が、本件事故現場が暗かつたことが原因で、本件事故現場手前の路側帯左側の舗装部分からそのまま進行したことについても、これを認めるに足る証拠はない。

三  請求原因3(責任原因)について

1  請求原因3の事実中、被告が本件道路の管理者であつたことは当事者間に争いがない。また、弁論の全趣旨によれば、本件未舗装部分も被告の管理にかかるものであることが認められ、公の営造物に該当する。そこで、本件道路及び本件未舗装部分の設置又は管理の瑕疵の有無について検討する。

2  国家賠償法二条一項の営造物の設置、管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右の安全性は、営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を考慮して具体的個別的に判断されるべきである。そして、道路における安全性については、道路自体の設置、その構造及び管理の面からと、これを利用するものの通行方法、態度等利用者側の面からとの両面から総合的にこれを検討するのが相当である。したがつて、当該道路自体が、その安全性について細心の注意をもつて設置されていても、これを利用する通行者等において、通常予測しえない方法で通行するときは、当該道路における通行の安全が損なわれるのはいうまでもないことであり、また、道路自体、あらゆる交通上の危険に対処し、これを防止しうる絶対的安全性を具備していることが一般的には望ましいことであるが、道路といえども、所詮、社会生活上欠くことのできない施設の一つに過ぎないものであるから、他の生活必需施設との関係等を考慮すれば、これを利用するものの常識的な秩序ある利用方法を期待し、これを前提とした相対的安全性の具備をもつて足りるものと解するのが相当である。

3  請求原因3(一)ないし(五)の主張について

(一)  請求原因3(一)(本件未舗装部分への車両の進入防止措置をしていない瑕疵)について

本件未舗装部分に出入りする車両のために、本件未舗装部分の砂利が本件路側帯部分にはみ出していたことは前記二2(三)(1)のとおりである。

しかし、道交法一七条一項は、車両は路側帯と車道の区別がある道路においては車道を通行しなければならないと規定している。同項但書で路側帯に進入することが許されるのも、道路外の施設、場所に出入りするためやむをえず横断する場合、法令で許容される停車、駐車の場合にのみ限定され、その場合も車両には徐行が義務づけられている(道交法二五条一項)。もつとも、社会生活上、路側帯部分を自動二輪車が通行することは相当数見られ、全く予想できない事態ではないので、被告にその管理にかかる国道の路側帯の安全を図る義務があることを否定はできないが、右のとおり同部分の通行は原則的に禁止され、一定の場合にのみ通行が許されるのであるから、同部分を通行する車両は、同部分の安全に十分注意を払い、高速度の運転等無謀な運転は差し控えるべきことは当然である。したがつて、本件道路の管理者である被告としては、本件路側帯部分を通行する車両が自車の安全に十分配慮して進行することを予定して、同部分の安全を管理すれば足りると解すべきである。

そして、前掲甲五号証の二、三、五により認められる本件路側帯部分の砂利は多量であると認められず、本件路側帯部分を通行する車両が自車の安全に配慮し、減速するなどの措置をとるならば、その通行に支障をきたすものとは解されない。したがつて、右の程度の砂利が本件路側帯部分にはみ出すことを防止するために、被告が本件未舗装部分へ車両が進入しないよう措置すべき義務があつたということはできない。

なお、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙二号証及び平成三年八月三〇日当時の本件事故現場付近を撮影した写真であることに争いのない乙七号証によれば、被告は、本件事故後の平成二年九月から一〇月の間に、本件事故現場手前の路側帯左側の舗装部分から本件未舗装部分のある箇所にかけて、路側帯部分とその外側部分の境界付近に交通安全対策防護柵(鉄製ポール)を設置し、本件未舗装部分への車両の進入を制限していることが認められるが、この事実は右の判断を左右するものではない。

(二)  請求原因3(二)(本件未舗装部分を整地するなどして手入れすべき義務)について

右(一)のとおり、本件未舗装部分から本件路側帯部分にはみ出した砂利は、本件路側帯部分を通行する車両が自車の安全に配慮する限り、その通行に支障をきたすものとは認められないのであるから、右の程度の砂利が本件路側帯部分にはみ出すことを防止するために、被告が本件未舗装部分を整地するなどして手入れすべき義務があつたということはできない。

なお、前掲乙二、七号証によれば、被告は、本件事故後の平成二年九月に、本件未舗装部分に砂利を撒いて整地したことが認められるが、この事実は右の判断を左右するものではない。

(三)  請求原因3(三)(本件未舗装部分の凸凹や同部分と本件路側帯部分の間の段差を解消すべき義務)について

本件未舗装部分は道路ではなく、車両が通行することを予定していないことは明らかである。そして、本件道路の館林方面に向かう車線の幅員が三・三五メートルで、幅員一・〇〇メートルの路肩が設けられていること(請求原因2(二)(1))は当事者間に争いがなく、その幅員の合計は四・三五メートルであるから、佐々木車(前掲甲四号証によれば、その車幅は二・四九メートルであることが認められる。)のような大型車両が通行する際にも、なお一・八六メートルの余裕があり、本件道路を通行する二輪車が安全走行のための通常の注意を怠らない限り、やむをえず本件未舗装部分に進入しなければならないという事態を予定する必要はない。したがつて、同部分への車両の進入を予定して、凸凹状態を解消したり、本件路側帯部分と本件未舗装部分との段差を解消すべき義務があつたということはできない。

(四)  請求原因3(四)(本件事故現場手前の路側帯左側の舗装部分と本件道路とを区別する義務)について

本件事故現場手前の路側帯の左側が広範囲に舗装され、その舗装部分の北側が本件未舗装部分に連なつていたことは前記二2(三)(2)のとおりである。しかし、前掲甲五号証の一によれば、右舗装部分のある箇所でも、車線部分と路側帯とは、白線によつて、明確に区別されていたことが認められるのであるから、その路側帯又は外側の舗装部分を通行する車両が前記のとおりの自車の安全に十分配慮して進行する義務を遵守すれば、同部分をそのまま進行して、本件未舗装部分に進入することは考え難く、右のような事態までも予定して、被告が右舗装部分と路側帯部分とを明確に区分する義務があつたということはできない。

なお、前掲乙二、七号証によれば、本件事故後に、右部分に鉄製ポールが設けられて右路側帯部分とその外側の舗装部分との区分が明確になつたことが認められるが、この事実は右の判断を左右するものではない。

(五)  請求原因3(五)(街灯等の照明を設置すべき義務)について

前掲甲三号証によれば、本件事故現場には照明がなく、暗い場所であることが認められる。

しかし、照明設置は、道路の構造及び道路交通の状況などから見て、夜間、交通事故が発生するおそれの多い所で、かつ、道路照明により事故の減少が図れる箇所、あるいは照明によつて便益を受ける道路利用者の多い箇所が優先して設備されるべきであるものである。

そして、成立に争いのない乙九号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、照明施設をより効果的に設置できるように、昭和五六年三月二七日付け建設省都市局長・道路局長通達をもつて設置基準を定め、国道等の照明施設について右設置基準により設置することとしており、我が国においてはすべて同設置基準により照明施設の設置がなされていて、これが妥当なものとして広く社会一般に受入れられていることが認められる。

これを本件事故現場付近道路についてみると、まず、連続照明(原則として一定の間隔で灯具を配置し、その区間全体を照明すること)について検討するに、設置基準の第二章の2―2の(1)、1)によれば、一般国道等の連続照明の設置については、「市街部」の道路につき交通量が一日二万五千台以上ある場合設置すべきこととなつているが、本件事故現場付近(特に下り車線側)が市街部を形成している証拠はない。次に、局部照明について検討するに、本件事故現場は、前後に交差点がある直線道路であり、設置基準の第二章2―2の(2)、1)に定めるような特に危険な場所であること及び特別の状況を認めるに足りず、右局部照明の設置を必要とする場所であるとは認められない。したがつて、被告には本件道路について十分な照明を有する照明灯を設置すべき義務はないから、本件事故現場付近道路について照明灯が設置されていなかつたことをもつて、直ちに本件道路の設置・管理に瑕疵があるものということはできない。

四  結論

以上の次第で、原告らの被告に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩谷雄 都築政則 田中千絵)

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