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浦和地方裁判所 平成4年(わ)201号 判決 1992年7月06日

被告人

本店の所在地

埼玉県八潮市大字大瀬六四三番地

代表者の住居

東京都葛飾区亀有二丁目四三番七号

代表者の氏名

松本信夫

株式会社松伸

本籍

東京都葛飾区細田五丁目一六四番地

住居

東京都葛飾区亀有二丁目四三番七号

会社役員

松本信夫

昭和二四年二月七日生

立会検察官

林菜つみ

弁護人 岡田滋

主文

被告人株式会社松伸を罰金一五〇〇万円に、被告人松本信夫を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人松本信夫に対し、この裁判の確定した日から三年間、右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社松伸は、昭和六一年一月三〇日、埼玉県八潮市大字大瀬六四三番地に本店を置き、鉄筋工事業等を目的として資本金五〇〇万円で設立された株式会社であり、被告人松本信夫は、その設立以来、代表取締役として、業務の全般を統轄していたものであるが、被告人松本は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空の外注費や材料費を計上する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和六三年一二月一日、同県越谷市赤山町五丁目七番四七号所在の所轄越谷税務署において、署長に対し、昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度に被告人会社が納付すべき法人税について、その実際の所得が七七八五万三六九四円であったのに、これが二五七八万六三三三円で、その税額が九八五万一四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出して納付期限を過ごし、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税の三一七一万九五〇〇円との差額の二一八六万八一〇〇円の法人税を免れ、

第二  平成元年一二月二日、同所において、同署長に対し、昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度に被告人会社が納付すべき法人税について、その実際の所得が一億五五五九万二五五四円であったのに、これが四五八八万六六九六円で、その税額が一八二〇万一五〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出して納付期限を過ごし、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税の六四二七万三一〇〇円との差額の四六〇七万一六〇〇円の法人税を免れた。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人松本の当公判廷における供述

一  被告人松本の検察官に対する供述調書

判示冒頭の事実について

一  被告人松本の大蔵事務官に対する平成三年七月一七日付供述調書

一  登記官作成の会社登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実について

一  被告人松本の大蔵事務官に対する平成三年六月一四日付(謄本)、一八日付(同)、七月五日付(同)、一七日付、一九日付、二四日付、八月八日付、二六日付、一〇月三一日付、一一月二一日付、一二月三日付各供述調書

一  須藤一及び知念辰昇の検察官に対する各供述調書

一  須藤一及び知念辰昇(三通、謄本)及び松本敬子の大蔵事務官に対する各供述調書

一  検察官作成の捜査報告書

一  越谷税務署長作成の回答書二通

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、材料費調査書、外注費調査書、事業税認定損調査書、雑費調査書及び福利厚生費調査書

判示第二の事実について

一  千田勝行、千田直子の大蔵事務官に対する各供述著書

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書

(法令の適用)

被告人松本の判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条一項に、被告人会社については、さらに同法一六四条一項に該当するところ、被告人会社については、情状に鑑み、同法一五九条二項を適用し、被告人松本については、所定刑中、懲役刑を選択し、被告人両名について、右各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については、同法四八条二項により、右脱税額を合算し、その金額の範囲内で、被告人松本については、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内でそれぞれ処断し、被告人会社を罰金一五〇〇万円に、被告人松本を懲役一年にそれぞれ処し、被告人松本に対しては、同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間、その刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、これを被告人両名に連帯して負担させることとする。

(量刑の事情)

被告人会社の経営は、実際は、被告人松本個人によって行われているものであるところ、本件犯行は、被告人松本が自らの事業を法人として営むことにより、税法上をはじめとする種々の社会的利便を享受する一方で、最小限の社会的責任、すなわち、応分の法人税の負担を免れたものであること、その目的が専ら同被告人個人の蓄財にあったこと、その態様は、前記のとおり、確定申告にあたり、売上の一部を除外し、架空の外注費や材料費などを計上したものであり、そのために、日頃から、架空の会社や個人名義の預金口座を設けて利用したり、取引先と通謀して架空名義の請求書の作成を得るなどして準備していたこと、虚偽申告の程が著るしく、各事業年度の申告率が三分の一以下であったこと、その脱税が多額であったこと、そして、同被告人は、右の取引先に対し、その見返りとして、同様にしてその脱税に協力していたことなどを併せ考えると、事案は悪質で、被告人らの罪責は重いといわなければならない。

他方、被告人松本は、両親が離婚し、施設内で過ごすなど、環境に恵まれずに育ち、高校を卒業後、努力一筋に苦労を重ねて現在の事業を営むに至り、この間、昭和四五年に結婚して二子をもうけ、その妻にも右事業拡大のために相当の苦労を共にさせた様子が窺われるところ、本件犯行については、被告人会社の売上げが昭和六二年ころから折からの建築ブームに乗って急増するに至ると、やがてブームが去った後のことを考えたり、自らがかつて味わった生活を思い起こし、家族の将来の生活の安定を確保すべく、脱税しても蓄財したい思いに駆られて犯行に及んだ様子が窺われること、その方法は友人から教えられたものであり、被告人松本は、日頃から、同人の協力を得て、架空取引の操作を行っていたが、その手口は比較的単純で、いずれ発覚を免れ難いものであったこと、被告人会社は、本件の発覚により、昭和六一年から平成元年までの四事業年度についての修正申告を余儀なくされ、その結果、この間の不足税に延滞税や重加算税を加えた総額一億四七〇〇万円余りの課税を受け、所得の大部分を失い、その税を今後平成七年五月に至るまで分割して納付することとなり、国税については、すでに、平成五年五月までの毎月一〇〇万円宛の先付小切手を発行して納めたこと、被告人松本は、本件犯行による蓄財をすべて被告人会社に戻したうえ、右納税資金を調達するため、自らや家族の生命保険契約を解約することまでしていること、被告人松本は、本件が発覚した後は、被告人会社の経理について、税理士の指導を受けながら適正に処理することに努めている様子が窺われ、本件審理を受け、自らが犯した罪の程を改めて知り、反省、悔悟を深めた様子が認められること、被告人松本については、従業員二〇名余りを擁して被告人会社を実質的に一人で経営し、家庭内では教育盛りの二子を抱え、その、いずれにおいても支柱としての役割を果すことが切望される状況にあること、妻が証人として出廷し、同被告人をそれなりに監督することに努める旨約束したこと、被告人会社については、本件の発覚後、売上げが減少した様子が窺われることなど、それぞれについて斟酌すべき点も存する。

これら諸般の事情を総合考慮した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩垂正起)

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