浦和地方裁判所 平成4年(ワ)1158号 判決 1994年7月15日
原告
奥田誠
ほか一名
被告
高野加津郎
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告奥田誠に対し二六五七万一一二二円、原告奥田恵美に対し一三一七万〇四三二円及び右各金員に対する昭和六二年七月二日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用のうち、原告奥田誠と被告らとの間に生じた部分はこれを三分し、その一を同原告の負担とし、原告奥田恵美と被告らとの間に生じた部分はこれを四分し、その三を同原告の負担とし、その余はいずれも被告らの各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告奥田誠に対し三九二四万二九九七円、原告奥田恵美に対し五三九六万二一四〇円及び右各金員に対する昭和六二年七月二日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を受けた。
(一) 発生日
昭和六二年七月一日
(二) 場所
埼玉県川口市青木西四丁目二三番二三号先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 事故の態様
原告奥田誠(以下「原告誠」という。)運転車両(同乗者原告奥田恵美(以下「原告恵美」という。))が青木町方面から本件交差点に進入したところ、被告高野加津郎(以下「被告高野」という。)運転車両が蕨市方面から本件交差点に進入してきて、同車両の左側前部を原告誠運転車両の前部に衝突させた。
2 責任原因
(一) 被告高野
被告高野は、前記交差点の信号が赤であるにもかかわらずこれを無視し、ブレーキを踏まずに同交差点に進入した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。
(二) 被告伊庭稔(以下「被告伊庭」という。)
被告伊庭は、本件事故当時、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条本文に基づき損害賠償責任を負う。
3 本件事故による被害の程度
(一) 原告誠
(1) 病名
右大腿骨骨幹部骨折、右腓骨神経不全麻痺、右大腿骨変形遷延治癒骨折、右下腿大腿筋力低下・筋萎縮、右下肢短縮、右足背しびれ知覚鈍磨、右膝関節運動障害
(2) 入院日数
昭和六二年七月一日から同年八月一二日まで四三日間(博慈会記念総合病院)
(3) 通院実日数 合計四二日間
ア 昭和六二年八月一三日から平成二年四月二六日まで治療実日数一三日間(博慈会記念総合病院)
イ 昭和六二年八月一三日から同年一〇月二八日まで治療実日数二九日間(石田接骨院)
(4) 後遺障害 自賠法施行令別表第一一級該当
ア 長管骨の奇形(変形) 第一二級第八号該当
イ 右下肢の短縮(約二センチメートル) 第一三級第九号該当
ウ 右下肢の醜状痕 第一四級第五号該当
エ 右下肢のひざ上には、三〇センチメートル程度の平棒(補強材)が多数の長短の釘によつて留められている状況にある。右平棒及び釘は、今後とも一切外すことができないものであり、釘が入つたままであるため、一生痛みが続くこととなる。
オ よつて、アからウまでの等級にエの要素を加えると、後遺障害は、第一一級に相当する。
(二) 原告恵美
(1) 病名
前額部・眉毛部挫創(瘢痕形成)、鼻根部・前額部及び右上眼瞼瘢痕拘縮並びにこれらによる醜形
(2) 入院日数 合計一八日間(博慈会記念総合病院)
ア 昭和六二年七月一日から同月二日までの二日間
イ 昭和六三年三月三〇日から同年四月七日まで九日間
ウ 昭和六三年七月一三日から同月一九日まで七日間
(3) 通院日数
平成二年四月一六日から平成四年三月一一日まで治療実日数一一日間(博慈会記念総合病院)
(4) 手術の回数 四回
(5) 後遺症 自賠法施行令別表第七級該当
4 損害
(一) 原告誠
(1) 文書料 二万二四〇〇円
(2) 器具(杖二本)購入費 一万〇五〇〇円
(3) 医師への謝礼 一〇万円
(4) 入院付添費 一九万三五〇〇円
原告誠の妻は、入院期間中、原告誠に付添い看護した。
四五〇〇円(一日当たりの付添い看護費)×四三日間=一九万三五〇〇円
(5) 入院雑費 五万一六〇〇円
一二〇〇円(一日当たりの入院雑費)×四三日間=五万一六〇〇円
(6) 入院中交通費 三万八六六〇円
(7) 通院交通費 二万円
(8) 休業損害 一三三万五〇〇〇円
原告誠は、本件事故当時株式会社アイ・エヌー・エー新土木研究所(以下「アイ・エヌー・エー」という。)に勤務していたところ、本件事故による受傷のため、昭和六二年七月一日から同年一〇月三一日まで四か月間欠勤を余儀なくされた。右欠勤期間中の給与相当分及び昭和六三年夏期賞与の減額相当分のうち六〇万円については被告らから賠償を受けているが、昭和六三年夏期賞与減額分の残金五〇〇〇円及び同年冬期賞与減額分一三三万円の合計一三三万五〇〇〇円については、まだ賠償を受けていない。
(9) 慰謝料 二〇四万円
(10) 後遺障害による逸失利益 二六四二万七〇三七円
原告誠の長管骨の奇形、下肢の短縮等は、生涯絶対に治らないものであり、平棒等の異物は、一生その体内から消滅することはない。
原告誠の勤務するアイ・エヌー・エーの業務内容はダムの調査、設計、計画、管理を主とするものであるところ、原告誠は、山中の現場調査に始まつて、設計にしても管理にしても始終山中の足場の悪い現場に出向くことが不可欠である技術営業の仕事に従事していたのであり、本件事故は、原告誠の仕事に決定的な影響を与えた。
原告誠の症状固定は平成元年七月一二日であるところ、右当時の原告誠の年収は、九五七万五九八五円であつた。
九五七万五九八五円×〇・二(後遺症第一一級の労働能力喪失率)×一三・七九八六(四三歳男子のライプニツツ係数)=二六四二万七〇三七円
(11) 後遺障害による慰謝料 五五〇万円
(12) 弁護士費用 三五〇万円
(二) 原告恵美
(1) 医師への謝礼 一〇万円
(2) 入院付添費 九万円
原告恵美は、合計一八日間入院し、かつ、四回の手術のうち二回については、本来であれば入院を必要としたのであるが、通院によりそれぞれ丸一日かけて施術された。右入院期間中及び二回の手術については、常時付添い看護を必要としたため、母親が付添い看護をしたものである。
四五〇〇円(一日当たりの付添い看護費)×二〇日間=九万円
(3) 入院雑費 二万七〇〇〇円
一五〇〇円(一日当たりの入院雑費)×一八日間=二万七〇〇〇円
(4) 入院中交通費 六万五八八〇円
三六六〇円(往復の交通費)×一八回=六万五八八〇円
(5) 通院交通費 四万〇二六〇円
三六六〇円(往復の交通費)×一一日=四万〇二六〇円
(6) 慰謝料 二〇〇万円
(7) 後遺障害による逸失利益 三六七三万九〇〇〇円
原告恵美は、これから就職しようとしていた未婚の女子学生であるところ、極めて成績優秀で、本件事故がなければ、将来は四年制大学に入学し、高額の収入を得られる職業に就くことが確実であつたにもかかわらず、顔面醜状痕の後遺障害によつて、選択することができる職業が限定されてしまい、仮に就職したとしても、その収入が右後遺障害のない場合と比較してはるかに低いことは明らかである。更に、右後遺障害は、原告恵美本人の稼働意欲などにも重大な影響を与えている。
三六一万〇九〇〇円(大学卒全年齢平均年収)×〇・五六(後遺症第七級の労働能力喪失率)×一八・一六八七(ライプニツツ係数)=三六七三万九〇〇〇円
(8) 後遺障害による慰謝料 一〇〇〇万円
(9) 弁護士費用 四九〇万円
5 よつて、原告らは、被告らに対し、被告高野については民法七〇九条に基づき、被告伊庭については自賠法三条本文に基づき、各自、原告誠に対しては三九二四万二九九七円、原告恵美に対しては五三九六万二一四〇円及び右各金員に対する不法行為の日の翌日である昭和六二年七月二日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 請求原因2は認める。ただし、同(一)については、被告高野は、赤信号を無視したのではなく、看過したにすぎない。
3(一)(1) 請求原因3(一)(1)は知らない。
(2) 同(2)は認める。
(3) 同(3)は知らない。
(4) 同(4)ア及びイは認める。
(5) 同ウは否認する。
(6) 同オは否認する。労働者災害補償保険法及び自賠法に基づく後遺障害の認定においては、たとえ複数の後遺障害が認められる場合であつても、それらが同一の原因に基づくものと認められるときは、実質的には同一の障害と考えられるので併合の繰上げの対象とはならず、いずれか上位の等級をもつてその後遺障害の等級とする扱いとされている。本件に即していうと、長管骨の骨折部位が不正癒合した結果、長管骨の変形又は偽関節と下肢の短縮障害が存した場合には、いずれか上位の等級によるものとされている。本件の右下肢短縮は、右大腿骨骨折によりその骨癒合の過程において屈曲変形してしまつたがゆえに生じたものであり、右大腿骨骨幹部屈曲変形治癒、骨癒合の別の観点からみた障害といえるのであつて、両者を別個独立の障害として評価するのは疑問である。よつて、原告誠の後遺障害は、重い右大腿骨骨幹部屈曲変形治癒、骨癒合の第一二級第八号をもつて評価するのが相当である。また、右下肢の醜状痕は、仮に後遺障害と認められるとしても、第一四級第五号該当であつて、第一三級以上の併合理由とはならない。
(二)(1) 請求原因3(二)(1)ないし(3)は認める。
(2) 同(4)は知らない。
(3) 同(5)は否認する。自賠法施行令別表第七級第一二号の「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」とは、顔面にあつては、鶏卵大面以上の瘢痕、長さ五センチメートル以上の線状痕又は一〇円銅貨大以上の組織陥凹で、それが人目に付く程度以上(他人をして醜いと思わせる程度)のものをいうとされている。原告恵美については、前額部から鼻にかけて肌色で一・三センチメートル及び三・五センチメートル、前額部に同じく肌色で一・五センチメートル及び一・〇センチメートルの各線状痕が認められるが、右はいずれも前記基準に達しないので、原告恵美の後遺障害は、同別表第一二級第一四号の「女子の外貌に醜状を残すもの」と評価するのが相当である。
4(一)(1) 請求原因4(一)(1)、(4)、(6)及び(9)は否認する。
(2) 同(10)は否認する。そもそも、原告誠は、本件事故後も特段の収入の減少はなく、むしろ増加しているのであつて、後遺障害による労働能力への影響について疑問の余地がある。
(3) 同(11)は否認する。
(4) 同(一)のその余は知らない。
(二)(1) 請求原因4(二)(2)、(4)及び(6)は否認する。
(2) 同(7)は否認する。原告恵美の後遺障害は、顔面醜状痕であるため、労働能力への影響は考え難いので、逸失利益が生じるとすることには疑問がある。選択し得る職業が限定されたとの点については、一般的な可能性として想定し得るものにすぎず、どの程度限定されたのか明らかでない。顔面醜状が稼働意欲に影響を与えるという点も、慰謝料の算定に当たつて考慮すれば足りる。
(3) 同(二)のその余は知らない。
第三証拠関係
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。
二1 請求原因2(責任原因)(一)のうち、被告高野が信号機の表示に従うことなくブレーキを踏まずに交差点に進入した過失により本件事故を発生させたことは当事者間に争いがないから、被告高野は、民法七〇九条に基づき、原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき責任がある。
2 同(二)は、当事者間に争いがない。
三1(一) 請求原因3(被害の程度)(一)(1)(原告誠の病名)の事実は、成立に争いのない甲第一号証及び乙第四号証並びに原本の存在と成立に争いのない乙第二号証により認められる。
(二) 同(2)(原告誠の入院日数)の事実は、当事者間に争いがない。
(三) 同(3)(原告誠の通院実日数)の事実は、前掲甲第一号証及び成立に争いのない甲第一八号証により認められる。
(四) 同(4)(原告誠の後遺障害)ア(長管骨の奇形)及びイ(右下肢約二センチメートルの短縮)の点は、当事者間に争いがない。同ウ(右下肢の醜状痕)の点は、前掲甲第一号証により認められる。同エ(右下肢の痛み等)の事実は、同号証、原本の存在と成立に争いのない乙第八、第九号証及び原告誠本人尋問の結果により認められる。
ところで、原告誠は、同アからエまでを総合すると、その後遺障害は、自賠法施行令別表第一一級に相当すると主張するので、その点につき検討する。同一の原因によつて身体の同一の部位に生じた後遺障害において、それが機能上又は形態上一個の障害であつて、ただ同別表上複数の観点からの評価が二個以上にわたるにすぎない場合には、その後遺障害は実質的には一個と評価すべきものであるから、二個以上の後遺障害がある場合に関する同施行令二条一項二号ニの後遺障害の等級の併合繰上げの規定の適用はないと解すべきである。
前掲甲第一号証によると、請求原因3(一)(4)イ(右下肢約二センチメートルの短縮)の点は、右大腿骨骨折後の骨癒合の過程で骨幹部が屈曲変形したまま癒合した(これが同アに該当する。)結果生じたものであり、同アと同イとは、実質的には同一の原因に基づく一個の後遺障害であるが、同別表上複数の観点からの評価が数個にわたる結果、同ア及びイという二個の後遺障害が存在するかのような外観を呈しているにすぎないと認められるほか、成立に争いのない乙第三号証によると、大宮調査事務所長は、平成五年一月一八日、原告誠の後遺障害を第一二級第八号と認定したことが認められ、同調査事務所長の認定を不当とする資料はないことをも併せ考えると、原告誠の後遺障害は、同別表第一二級第八号に該当すると認めるのが相当である。
2(一) 請求原因3(被害の程度)(二)(1)から(3)まで(原告恵美の病名、入院日数及び通院日数)の事実は、当事者間に争いがない。
(二) 同(4)(原告恵美の手術の回数)の事実は、成立に争いのない甲第一六号証及び原告恵美本人尋問の結果により認められる。
(三) 同(5)(原告恵美の後遺障害)について検討する。
成立に争いのない甲第二号証及び第九、第一九号証の各一、二によると、原告恵美の前額部から鼻にかけて約三・五センチメートルの、右眉毛の下から鼻にかけて約一・五センチメートルの、前額部に約一・五センチメートルの各線状痕でいずれも人目につく程度以上のものが認められるほか、成立に争いのない乙第五号証によると、大宮調査事務所長は、平成五年一月一三日、原告恵美の後遺障害を第一二級第一四号と認定したことが認められ、同調査事務所長の認定を不当とする資料はないことをも併せ考えると、原告恵美の後遺障害は、自賠法施行令別表第一二級第一四号に該当すると認めるのが相当である。
四 請求原因4(損害)について検討する。
1 原告誠
(一) 文書料 二万二四〇〇円
成立に争いのない甲第四ないし第六号証及び原告誠本人尋問の結果によると、原告誠は、本件事故に伴う文書料として合計二万二四〇〇円を支払つたことが認められるところ、右金額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(二) 器具(杖二本)購入費 一万〇五〇〇円
原告誠本人尋問の結果によると、原告誠は、本件事故により日常生活において杖を使用することを余儀なくされ、杖二本を購入するため、一万〇五〇〇円を支払つたことが認められる。
(三) 医師への謝礼 一〇万円
原告誠本人尋問の結果によると、原告誠は、本件事故に伴う手術を行つた医師に対し、謝礼として一〇万円を支払つたことが認められるところ、原告誠の前記受傷の程度、治療の状況等に照らすと、右謝礼金は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(四) 入院付添費 一九万三五〇〇円
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一七号証及び原告誠本人尋問の結果によると、原告誠は、入院期間中、付添い看護を必要とする状態にあり、右期間中その妻が付き添つたことが認められるところ、近親者の入院付添費は、一日当たり四五〇〇円と認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる入院付添費を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
四五〇〇円×四三日間=一九万三五〇〇円
(五) 入院雑費 五万一六〇〇円
三1(二)のとおり、原告誠が博慈会記念総合病院において四三日間入院治療を受けたことが認められるところ、入院雑費は、一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる入院雑費を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
一二〇〇円×四三日間=五万一六〇〇円
(六) 入院中交通費 三万八六六〇円
成立に争いのない甲第七号証の一ないし八及び前掲第一七号証並びに原告誠本人尋問の結果によると、前記原告誠の入院期間中、その妻が付添いのために前記病院に通院する際、タクシーを利用することがやむを得ず、そのタクシー代として合計三万八六六〇円を支払つたことが認められる。
(七) 通院交通費 二万円
前掲甲第七号証の一ないし八及び弁論の全趣旨によると、原告誠は、通院期間中、交通費として合計二万円を支払つたことが認められる。
(八) 休業損害 一三三万五〇〇〇円
成立に争いのない甲第一四号証及び原告誠本人尋問の結果によると、原告誠は、本件事故当時アイ・エヌ・エーに勤務していたところ、本件事故により、昭和六二年七月一日から同年一〇月三一日まで欠勤を余儀なくされた結果、昭和六三年夏及び同年冬の賞与が減額され、同年夏の賞与の減額分の残額及び同年冬の賞与の減額分の合計は、一三三万五〇〇〇円であることが認められる。
(九) 傷害慰謝料 一五〇万円
三1において認定した原告誠の受傷の部位、程度、治療経過その他諸般の事情を考慮すると、原告誠の傷害についての慰謝料額は、一五〇万円が相当である。
(一〇) 後遺障害による逸失利益 一八四九万九四六二円
原告誠が本件事故により自賠法施行令別表第一二級の後遺障害を負つていることは、三1(四)において認定したとおりであり、この場合の労働能力喪失率は、労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号によると、一四パーセントであることが認められる。また、前掲甲第一号証によると、原告誠(昭和二一年四月二〇日生まれ)の後遺障害は、平成元年七月一二日に症状固定となつたことが認められる。
ところで、原告誠がアイ・エヌ・エーから支払を受ける給与は、成立に争いのない甲第八号証及び第一一ないし第一三号証によると、平成元年が九五七万五九八五円、平成二年が一一二九万七五二七円、平成三年が一一三〇万一八八〇円、平成四年が一二二九万七三八〇円と年々増額になつていることが認められるが、前掲第一七号証及び原告誠本人尋問の結果によると、アイ・エヌ・エーの業務内容はダムの調査、設計、計画、管理を主とするものであるところ、原告誠は、管理技術士の資格を有し、山中の現場調査に始まり、現場での打合せや出張も多く、デスクワークと現場の仕事がほぼ半々の技術営業の仕事に従事していたこと、前記後遺障害により現場に出ることができず、従事することのできる仕事の内容が大幅に制約されるようになつたこと、本件事故後は定期昇給だけであり、その定期昇給もアイ・エヌ・エーの業績が上向いているためであつて、仮に業績が落ちれば現場を歩けない者として職制上大きな不利益を受ける可能性があること、本件事故後賞与の査定で減額されていること、同人の右ひざの上から太ももにかけて三〇センチメートルの金具が入つているところ、医師からは右金具は一生取れないと言われており、また、無理をすると折れる可能性もあること、日常生活において杖を手放すことができず、長時間の起立、徒歩には苦痛を伴うことが認められ、更に、原告誠本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証によると、右後遺障害が原告誠の今後の昇給及び昇格には相当影響を与えていることが認められる。
以上の認定事実によると、原告誠は、右後遺障害により、症状が固定した四三歳から六七歳までの二四年間を通じて、その労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。
したがつて、症状固定時(平成元年)の収入九五七万五九八五円を基礎とし、ライプニツツ方式により中間利息を控除して、原告誠の逸失利益を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
九五七万五九八五円×〇・一四×一三・七九九=一八四九万九四六二円
(一一) 後遺障害慰謝料 二四〇万円
前記後遺障害の内容、これに伴う日常生活への影響等を考慮すると、原告誠の後遺障害についての慰謝料額は、二四〇万円が相当である。
(一二) 弁護士費用 二四〇万円
弁論の全趣旨によると、原告誠は、本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約束しているものと認められるが、本件事案の性質、審査の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告誠が被告ら各自に対し本件事故による損害として賠償を求めることができる額は、二四〇万円が相当である。
2 原告恵美
(一) 医師への謝礼 一〇万円
原告誠本人尋問の結果によると、原告誠は、娘である原告恵美の本件事故に伴う手術を行つた医師に対し、謝礼として一〇万円を支払つたことが認められるところ、原告恵美の前記受傷の程度、治療の状況等に照らすと、右謝礼金は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(二) 入院付添費 九万円
原告恵美が合計一八日間入院したことは、三2(一)のとおり当事者間に争いがなく、前掲甲第一六、第一七号証及び原告恵美本人尋問の結果によると、二回の手術については、本来であれば入院を必要としたところ、丸一日かけて通院により施行されたこと、右入院期間中及び二回の手術に際しては、付添い看護を必要とする状態にあり、右期間中原告恵美の母親が付き添つたことが認められるところ、近親者の入院付添費は、一日当たり四五〇〇円と認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる入院付添費を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
四五〇〇円×二〇日間=九万円
(三) 入院雑費 二万一六〇〇円
原告恵美が博慈会記念総合病院において一八日間入院治療を受けたことは、前記のとおり当事者間に争いがないところ、入院雑費は、一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる入院雑費を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
一二〇〇円×一八日間=二万一六〇〇円
(四) 入院中交通費 六万五八八〇円
前掲甲第七号証の一ないし八、原告誠本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告恵美の入院期間中、その母親が付添いのために前記病院に通院する際、タクシーを利用することがやむを得ず、そのタクシー代として合計六万五八八〇円を支払つたことが認められる。
(五) 通院交通費 四万〇二六〇円
前掲甲第七号証の一ないし八及び弁論の全趣旨によると、原告誠又はその妻は、原告恵美の通院期間中、交通費として合計四万〇二六〇円を支払つたことが認められるところ、右金額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(六) 傷害慰謝料 一〇〇万円
三2において認定した原告恵美の受傷の部位、程度、治療経過その他諸般の事情を考慮すると、原告恵美の傷害についての慰謝料額は、一〇〇万円が相当である。
(七) 後遺障害による逸失利益 五一五万二六九二円
原告恵美が本件事故により自賠法施行令別表一二級の後遺障害を負つていることは、三2(三)において認定したとおりであり、この場合の労働能力喪失率は、労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号によると、一四パーセントであることが認められる。また、前掲甲第二号証によると、原告恵美(昭和四八年四月一〇日生まれ)の後遺障害は、平成四年三月一一日に症状固定となつたことが認められる。
ところで、前掲甲第一七号証及び原告誠、原告恵美本人尋問の結果によると、原告恵美は、本件事故当時満一四歳の女子中学生であつたこと、将来は四年制大学に進学して総合職に就きたいと考えていたこと、本件事故前は明るく積極的な性格で、学校の成績も常にクラスで五番以内であるなど優秀であつたのが、右後遺障害のため、自信を失つて消極的な性格となり、高校には進学できたものの、勉学に集中することができず、成績も低下して大学受験に失敗し、現在浪人中であることが認められる。右各事実に照らすと、右後遺障害が原告恵美の人格形成過程及び学業成績に少なからぬ悪影響を及ぼしたことは明らかであり、右後遺障害がない場合と比較して、原告恵美が将来就職する場合において、その選択することができる職業、職場の範囲が制限され、あるいは収入が減少する蓋然性が認められ、原告恵美は、右後遺障害によつて、その労働能力の一部を喪失したものということができる。
以上によると、原告恵美は、右後遺障害により、症状が固定した一八歳から六七歳までの四九年間を通じて、その労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。
したがつて、症状固定時の平成四年の賃金センサス第一巻第一表により認められる一八歳女子高卒者の平均年収額二〇二万五七〇〇円を基礎とし、ライプニツツ方式により中間利息を控除して、原告恵美の逸失利益を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
二〇二万五七〇〇円×〇・一四×一八・一六九=五一五万二六九二円
(八) 後遺障害慰謝料 五五〇万円
後遺障害の部位、程度、原告恵美の性別、年齢、婚姻の有無その他諸般の事情を考慮すると、原告恵美の後遺障害についての慰謝料額は、五五〇万円が相当である。
(九) 弁護士費用 一二〇万円
弁論の全趣旨によると、原告恵美は、本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約束しているものと認められるが、本件事案の性質、審理の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告恵美が被告ら各自に対し本件事故による損害として賠償を求めることができる額は、一二〇万円が相当である。
五 以上のとおりであるから、原告らの請求は、被告ら各自に対し、原告誠については二六五七万一一二二円、原告恵美については一三一七万〇四三二円及び右各金員に対する不法行為の日の翌日である昭和六二年七月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅廷損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 清野寛甫 梅津和宏 小林邦夫)