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浦和地方裁判所 平成4年(行ウ)18号 判決 1996年4月22日

浦和市根岸四丁目一六番一三号

原告

土橋勇

右訴訟代理人弁護士

岡田滋

右訴訟復代理人弁護士

木村博貴

浦和市常盤四丁目一一番一九号

被告

浦和税務署長 根本昭捷

右訴訟代理人弁護士

岩渕正紀

右指定代理人

矢澤敬幸

田部井敏雄

川名克也

高橋伯吉

武内信義

佐野友幸

寉田明雄

江口育夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和六二年分の所得税について平成元年七月七日付けでした更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六三年三月一五日、昭和六二年分の所得税について、別表の確定申告欄記載のとおり確定申告(以下、「本件確定申告」という。)をし、同年一二月二七日、別表の修正申告欄記載のとおり分離課税の短期譲渡所得金額を三四五万円、所得税額を一七六万三五〇〇円とする修正申告(以下、「本件修正申告」という。)をした。

2  被告は、これに対し、平成元年七月七日付で別表の更正・賦課決定処分欄記載のとおり更正処分(以下、「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、それぞれ「本件過少申告加算税賦課決定処分」、「本件重加算税賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)をし、さらに、平成二年五月一〇日付で、本件修正申告により納付すべき税額を基礎として過少申告加算税の額を一万一〇〇〇円、重加算税の額を二八万円とする賦課決定処分をした。

3  原告は、本件各処分を不服として、平成元年九月七日、被告に対し異議申立てをしたところ、被告は、平成二年五月一一日付で別表の異議決定欄記載のとおり更正処分の一部を取り消し、各加算税の額を変更する異議決定をした。

4  原告は、これに対し、平成二年六月一一日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、平成四年五月二九日付で、これを棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は、同年六月一二日ころ、原告に送達された。

5  被告は、原告がその所有する別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物(以下、これらを合わせて「本件課税物件」という。)の譲渡の日及び譲渡代金等の認定を誤って本件各処分を行ったものであるから、本件各処分は違法である。

6  よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実はいずれも認める。

2  請求原因4の事実中、裁決書の到達日は不知、その余の事実は認める。

3  請求原因5の事実は否認し、法的主張は争う。

三  被告の主張

1  本年更正処分の適法性について

(一) 原告の昭和六二年分の総所得金額五二一万八八八〇円は、本件確定申告及び本件修正申告のそれと同額である。

(二) 分離課税の短期譲渡所得金額

(1) 原告は、齋藤に対し、昭和六二年七月二五日、本件課税物件を売買により、代金三八〇〇万円で譲渡した。

(2) 取得費

原告は、本件課税物件を昭和五四年四月二八日に代金一六五五万円で買い受けた。右金額は、本件確定申告及び本件修正申告のそれと同額である。

ただし、本件課税物件のうち建物の取得費四〇〇万円に係る、原告が所有した昭和五四年四月二八日から昭和六二年八月一八日までの減価償却費相当額一三八万円は、すでに不動産所得の必要経費に導入されているので取得費から控除される。したがって、取得費は、一五一七万円である。

(3) 譲渡に要した費用

原告は、本件課税物件を齋藤に譲渡するに際し、赤木不動産に対し、仲介手数料一〇八万円を支払った。

(4) 本件課税物件の譲渡所得金額

本件課税物件の譲渡所得金額は、右(1)の譲渡価額から、右(2)及び(3)の金額を控除した金額である二一七五万円である。そして、本件更正処分類(異議決定による一部取消後のもの)二〇七五万円は、右金額の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。

なお、原告は、前記のように本件課税物件を昭和五四年四月二八日に取得し、昭和六二年七月二五日に譲渡しており、その所有期間は、同年一月一日において一〇年以下であるから、租税特別措置法第三二条第一項により、本件課税物件の譲渡所得は分離課税の短期譲渡所得となる。

(三) 所得税額

(1) 昭和六二年分の総所得金額に応ずる所得税額は四〇万五五〇〇円であり、分離短期譲渡所得金額に応ずる所得税額は九六四万七〇〇〇円であるから、原告が納付すべき昭和六二年分の所得税額は一〇〇五万二五〇〇円であり、これから本件修正申告により確定した所得税額一七六万三五〇〇円を控除すると、原告が新たに納付すべき所得税額は、八二八万九〇〇〇円である。

2  原告の本件課税物件の譲渡先及び譲渡金額について

原告は、前記のように昭和六二年七月二五日に本件課税物件を三八〇〇万円で譲渡したものであって、その経緯等は左記のとおりである。

(一) 齋藤益男(以下、「齋藤」という。)は、原告に本件課税物件の買受方を申し入れたところ、原告から全て赤木不動産こと赤木紀子(以下、「赤木不動産」という。)に任せてある旨の回答がなされたので、右買受につき赤木不動産に仲介を依頼した。そして、齋藤は、赤木不動産の従業員男松卓志(以下、「男松」という。)から本件課税物件について説明を受けたが、その際、赤木不動産作成の本件課税物件に係る重要事項説明書の売主欄には原告の名前が記載されていた。その後、原告と齋藤は、代金三六〇〇万円で本件課税物件の売買契約を交わすことにした。

(二) 原告の代理人である岡田滋弁護士(以下、「岡田」という。)と齋藤は、昭和六二年七月二五日に本件課税物件の売買契約を締結した。その際、前記重要事項説明書の売主欄は、齋藤の了解なく一方的に千宏建設株式会社(以下、「千宏建設」という。)に変更されており、また、同日付で作成された売買契約書の売主名義も千宏建設とされた。しかし、その理由について、齋藤は岡田から、「税務上の理由で」と説明を受けたにとどまり、原告又は岡田が千宏建設や隼建設株式会社(以下、「隼建設」という。)から本件課税物件の処分を委任されているとか、或いは本件課税物件の売主が千宏建設若しくは隼建設であるとの説明は一切受けなかった。右売買契約締結の際、売主側として原告、岡田、買主側として齋藤、仲介者として赤木不動産及び男松が立会ったが、千宏建設及び隼建設の関係者は立会っておらず、齋藤が手付金三六〇万円を原告に交付した際に、原告が千宏建設あるいは隼建設の代理人である旨の表示はなされていない。

(三) その後、原告は、齋藤に対し、いわゆる裏金として二〇〇万円を増額し、右契約の売買代金額を総額三八〇〇万円に変更するように申し入れ、これを承諾した齋藤は、同年八月一八日、残代金の内金三二四〇万円を原告代理人である岡田に、内金二〇〇万円を原告の妻である土橋富美子にそれぞれ支払い、原告から、本件課税物件について売買を原因とする所有権移転登記を受けた。その際、千宏建設及び隼建設の関係者は同席していなかった。

原告は、齋藤から受領した代金から、一〇八万円を仲介手数料として赤木不動産に支払い、二六四〇万円を別紙物件目録記載三及び四の物件(以下、それぞれ「甲1物件」「甲2物件」という。)の根抵当権者である埼玉中央信用組合に和解金として支払い、さらに六〇〇万円を原告自身の土地購入用資金として支出した。他方、隼建設においては、右譲渡収入を自己のものとした事実はない。

(四) 以上のように、齋藤は、本件課税物件の売買契約締結に際し、その交渉の当初から所有権移転手続きに至るまで、隼建設の存在自体を知らず、また、千宏建設の代表者その他関係者に会ったこともなく、原告から本件課税物件を購入したものと明確に認識していた。

3  本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性

原告の本件確定申告における本件課税物件の取得費及び譲渡に要した費用の過大計上額三〇万円(前記1(二)(2)の減価償却費相当額一三八万円と1(二)(3)の費用一〇八万円との差額)及び原告が修正申告した譲渡費用額の過大計上額二七万四四四六円については、国税通則法第六五条第四項の正当理由があるとは認められないから、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

本件過少申告加算税は、左記(一)と(二)の合計八万五五〇〇円である。

(一) 仮装隠蔽に基づかない事実のみに基づいて更正をした場合に納付すべき税額(修正申告分を除く。)は、二三三万七五〇〇円で、本件修正申告により納付すべき税額は一七六万三五〇〇円であり、したがって、過少申告加算税の基礎となる税額は五七万四〇〇〇円であって、この一万円未満の端数を切り捨てた金額五七万円に国税通則法第一一八条第三項に規定する税率(一〇パーセント)を乗じた金額。五万七〇〇〇円

(二) 過重過少申告加算税が課されるべき金額は、国税通則法施行令第二七条の二により、過重過少申告加算税が課される金額八二八万九〇〇〇円から、重加算税が課されるべき金額七七一万五〇〇〇円を控除した五七万四〇〇〇円であり、そこで国税通則法第六五条第二項の規定により課されるべき過少申告加算税は、右金額の万円未満の端数を切り捨てた金額五七万円に同条項に規定する税率(五パーセント)を乗じた二万八五〇〇円である。

4  本件重加算税賦課決定処分の適法性

原告は、前記のとおり本件課税物件を三八〇〇万円で齋藤に譲渡したにもかかわらず、本件課税物件が原告から千宏建設を経て齋藤に譲渡されたごとく仮装し、本件課税物件を譲渡価額一八〇〇万円で千宏建設に譲渡したものとして、分離課税の短期譲渡所得金額を過少に記載した納税申告書を提出した。したがって、右行為が国税通則法第六八条第一項に規定する仮装隠ぺい行為に当たることは明らかである。

そして、重加算税額は、新たに納付すべき所得税額八二八万九〇〇〇円から、過少申告加算税の基礎となる所得税額五七万四〇〇〇円を控除した残額七七一万五〇〇〇円の一万円未満の端数を切り捨てた金額七七一万円に国税通則法六八条一項に規定する税率(三五パーセント)を乗じた二六九万八五〇〇円であるから、本件重加算税賦課決定処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)は、認める

2(一)  同1(二)(1)の事実は否認する。本件課税物件売買契約は、後記主張のとおり、原告又は岡田が隼建設の代理人として契約したものであり、右契約における売主は隼建設である。

(二)  同1(二)(2)は争う。

(三)  同1(二)(3)の事実は、否認する。仲介手数料を支払ったのは、隼建設である。

(四)  同1(二)(4)の事実は、否認し、法的主張は争う。

3(一)  同2(一)の事実は、原告が本件課税物件の売買契約を交わすこととなったとの点は否認し、その余の事実は認める。

(二)  同2(二)の事実中、岡田が原告の代理人として本件課税物件の売買契約を締結したこと、重要事項説明書の売主欄が齋藤の了解なく一方的に変更されたこと、齋藤が手付金を原告に交付したこと、岡田が「税務上の理由で」と説明したことは、いずれも否認し、その余の事実は認める。

(三)  同2(三)の事実中、岡田が原告の代理人として残代金中三二四〇万円を受領したこと、原告が六〇〇万円を原告自身の土地購入資金として支出したこと、隼建設が譲渡収入を自己のものとしたことがないとの点は、いずれも否認し、その余の事実は認める。なお、齋藤に対する所有権移転登記は、中間省略登記としてなされたものであり、原告が赤木不動産に一〇八万円を、埼玉中央信用組合に二六四〇万円を支払ったのは、委任事務の履行としてである。

(四)  同2(四)の事実は知らない。

4  同3の事実は否認し、法的主張は争う。

5  同4の事実は否認し、法的主張は争う。

五  原告の反論

1  原告は、昭和五八年一二月一九日又は昭和六二年七月二五日に、隼建設に対し、本件課税物件を二〇〇〇万円で譲渡した。

2  原告は、昭和五七年二月一六日、隼建設との間で、甲1物件、甲2物件及び別紙物件目録記載五の不動産(以下、「甲3物件」といい、甲1物件ないし甲3物件を合わせて「甲物件」という。)を左記内容で買い受ける契約(以下、「甲物件売買契約」という。)を締結した。

売買代金 四五〇〇万円

手付金 一〇〇万円

中間金 九〇〇万円

中間金支払期日 昭和五七年二月二〇日

甲物件引渡期日 同年四月二〇日

下取り物件 乙物件及び本件課税物件

下取り物件の下取り価額 乙物件 九〇〇万円

本件課税物件 二二〇〇万円

下取り期日 乙物件 昭和五七年二月二〇日

本件課税物件 その所有権移転登記手続の完了と同時

右下取りは、右下取り価額と同額の代金債権の支払に代えて、下取り物件の所有権を移転する趣旨である。

なお、当初は売買目的物は、甲1物件と甲2物件で、代金は三〇〇〇万円であり、下取り物件である本件課税物件の価額を一七〇〇万円とする契約であったが、原告が隼建設の要望で甲3物件も買い受けることとなったことから、代金を四五〇〇万円とし、本件課税物件の価額も二二〇〇万円と変更された。

3  原告は、同日、隼建設に対し、手付金として一〇〇万円を支払うとともに、乙物件の所有権移転登記手続きに必要な一切の書類を交付した。

4  隼建設は、昭和五七年四月二〇日が経過しても甲物件の引渡をせず、それどころか、同年同月二七日に埼玉中央信用組合との間で、甲1物件及び甲2物件につき、債務者を隼建設、極度額二六四〇万円、債権の範囲を信用組合取引、手形債権、小切手債権とする根抵当権設定契約を締結して(以下、「本件根抵当権設定契約」という。)、その設定登記手続を行った。また、隼建設は、右物件を第三者に二重譲渡し、その上右物件につき第三者を担保権者とする根抵当権、抵当権の各設定登記を経由した。その外、既に被担保債務が弁済されている抵当権設定登記も抹消されないまま残っていた。そのため原告は右根抵当権、抵当権の各抹消登記手続を請求する訴訟、処分禁止の仮処分等の法的手段を講ずることを余儀なくされ、多額の資金を費やした。

5  原告は、隼建設が甲物件売買契約の履行をしないため、昭和五八年三月一五日、浦和地方裁判所において、甲1物件及び甲2物件について所有権移転登記手続を請求する訴訟を提起し、同年一一月三〇日に勝訴の判決を受け、右判決に基づき、同年一二月一九日、甲1及び甲2物件につき所有権移転登記手続をした。

6  甲3物件は、隼建設以外の所有名義であった上、競売手続中であった。そして、隼建設は昭和五七年一二月に倒産し、右物件を競落する資力がなかったため、原告は、隼建設が右物件を競落することは不可能と判断し、岡田に依頼して、昭和五九年八月一四日に岡田名義で右物件を競落し、真正な登記名義の回復を原因として右物件の所有権登記を原告に移転した。したがって甲3物件の売買契約は、右競落により解除され又は無効になった。これに伴い、甲1物件及び甲2物件の代金は、三〇〇〇万円と確定した。

7  隼建設が前記のように倒産し、本件課税物件以外に資産を有しなかったところから、原告と隼建設は、昭和五九年一二月二四日、隼建設が原告に対し、本件課税物件を売却し、その代金で埼玉中央信用組合に対する本件根抵当権の被担保債務その他一切の負担を清算する事務を委任するとともに、右売却代金に余剰が生じたとしても右余剰は原告に帰属し、右売却代金だけでは右清算に不足である場合にも、原告は右不足分を隼建設及びその代表取締役である坂本惇(以下、「坂本」という。)に請求しない旨合意した(以下、「本件清算合意」という。)。

8  隼建設は、岡田に対し、甲1物件及び甲第2物件の処分に関する権限並びに埼玉中央信用組合に対する本件根抵当権の被担保債務その他一切の負担を清算する権限を授与し、そこで、岡田は、右授権に基づき、昭和六二年七月二五日、原告との間で、甲物件売買契約の特約一三条に基づき、本件課税物件の所有権を隼建設に移転する旨合意し、次いで、齋藤に対し、本件課税物件を代金三七〇〇万円で売る旨の契約を締結した。その頃、甲物件売買契約に基づく原告の残債務は一五〇〇万円と確定していた。

9  齋藤との間における本件課税物件の右売買契約締結の際、岡田は、隼建設名義ではなく、千宏建設名義を用いたが、同年一月一〇日に岡田は千宏建設の全株式を取得し、坂本は、右のように千宏建設名義を用いることについて、事前に岡田と合意していた。なお、岡田が右のように隼建設名義を用いなかった理由は、隼建設が名うてのトラブルメーカーとしての不動産ブローカーであり、かつ右売却時に坂本の立会いが得られなかったので、後日坂本から右売却についてトラブルを起こされないために、坂本の了解を改めて確認的に得た上、それと等価の名義を顕出する以外方法がなかったからであり、そこで事故が絶対に起こりえない岡田の一人株主会社である千宏建設の名義を使用したものである。

10  齋藤は、本件課税物件の代金三七〇〇万円全額を隼建設の代理人である岡田に支払い、岡田は、本件清算合意に基づき、右の中から一〇八万円を赤木不動産に対する仲介手数料として、二六四〇万円を埼玉中央信用組合に対する債務の弁済に支払い、残金は、原告の代理人として、原告に対する損害賠償金として受け取った。

11  同年八月一八日、いわゆる中間省略登記により、原告から齋藤に本件課税物件の所有権移転登記がなされ、これにより、その所有権が原告、隼建設、齋藤と順次移転した。

12  以上のとおりであって、原告は、隼建設に対し、甲1物件及び甲2物件の売買代金債務の支払に代えて本件課税物件を譲渡し、甲1物件及び甲2物件の代金である。三〇〇〇万円のうち、一〇〇万円は手付金として現金で支払い、九〇〇万円は乙物件により代物弁済したから、本件課税物件の譲渡価額は、右残額二〇〇〇万円である。そして本件課税物件の譲渡の日は、原告が判決に基づいて甲1物件及び甲2物件の所有権移転登記を経由した昭和五八年一二月一九日又は、本件課税物件につき隼建設と齋藤との間に売買契約がなされた昭和六二年七月二五日である。

13  仮に、被告主張のとおり、昭和六二年八月二五日の本件課税物件の売買契約が原告と齋藤の間で締結されたとしても、本件課税物件は前記のとおり、原告が甲1物件及び甲2物件の代金債務の支払いに代えてその所有権を隼建設に移転する旨合意したことにより、その所有権は隼建設に移転したところ、隼建設は、原告及び岡田に対し、本件課税物件の一切の処分について授権していたから、原告・齋藤間の右売買契約の締結により、本件課税物件の所有権は、隼建設から齋藤に直接移転することになる。すなわち、原告は、原告の名において、隼建設の所有に属していた本件課税物件を、齋藤に売却したものであるが、原告には、所得は存在しないものである。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1の事実は否認する。

2  同2の事実中、中間金支払期日、甲物件引渡期日、当初売買目的物は甲1物件と甲2物件であった等の経緯は知らないが、その余の事実は認める。なお、甲1物件及び甲2物件の代金は三〇〇〇万円、甲3物件の代金は一五〇〇万円であった。

3  同3の事実中、原告が手付金一〇〇万円を支払ったことは認めるが、その事実は知らない。

4  同4の事実中、隼建設が原告主張のように本件根抵当権設定契約を締結し、その設定登記手続を行ったことは認めるが、その余の事実は知らない。

5  同5の事実中、原告が訴訟を提起した日時は知らないが、その余の事実は認める。

6  同6の事実中、甲3物件は隼建設以外の所有名義であって、競売手続中であったこと、隼建設が昭和五七年一二月に倒産したこと、岡田が右物件を競落したこと、右物件につき原告に所有権登記がなされたことは認めるが、その余の事実は知らない。

7  同7の事実中、本件清算合意がなされたことは、否認する。

8  同8の事実は、否認する。

9  同9の事実中、本件課税物件の売主が千宏建設名義であることは認めるが、その余の事実は知らない。

10  同10の事実中、齋藤が三七〇〇万円支払い、赤木不動産に一〇八万円、埼玉中央信用組合に二六四〇万円が支払われたことは認め、その余の事実は否認する。

11  同11の事実中、原告から齋藤に所有権移転登記がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

12  同12の事実中、手付金及び乙物件が代物弁済に供されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

13  同13の事実は、否認する。

14  仮に甲物件売買契約の成立が認められるとしても、原告と隼建設との間で右契約に基づき実際に実行されたのは、甲1物件及び甲2物件の引渡、手付金一〇〇万円の支払い及び乙物件の引渡のみであり、これをもって右取引は完結した。原告は、このように一〇〇〇万円という比較的安い価額で甲1物件と甲2物件を購入したので、これらの物件の根抵当権であった埼玉中央信用組合に対して二六四〇万円を支払ったものである。そして、譲渡所得が生じるのは当該物件を引渡した時であるところ、原告は、甲1物件及び甲2物件について負担のない完全な所有権を取得するまで、隼建設に対して本件課税物件を引き渡す意思はなく、本件課税物件のうち別紙物件目録記載二の建物は、原告自身の居住の用に供しており、また、昭和六〇年二月以降、株式会社東京進和に対し右建物を貸料月額七万円で賃貸し、賃料を取得している。さらに、原告は、昭和六〇年分及び同六一年分の所得税確定申告において、右建物を昭和五四年五月から所有していたものとして減価償却費を算出し、経費の額に算入していた。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一1  請求原因1ないし3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  成立に争いがない乙第一号証によれば、同4の事実中、裁決書謄本が平成二年六月一二日ころ原告に送達されたことが認められ、同4のその余の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件更正処分の適法性について

1  成立に争いがない乙第二及び第四号証によれば、本件更正処分における総所得金額五二一万八八八〇円は、本件確定申告及び本件修正申告のそれと同額であることが認められる。

2  分離課税の短期譲渡所得金額

(一)  本件課税物件の譲渡について

(1) 原本の存在及び成立に争いがない乙第一八号証、第二八号証の一及び三、成立に争いがない甲第二、第三、第七、第二八、第二九、第四七号証、乙第一三号証、第一五号証の一、二、第一六号証の一、二、第一七号証の一、二、第一八号証、第一九号証、証人坂本惇の証言及び原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一及び第六号証、証人坂本惇の証言により真正に成立したものと認められる甲第一六号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五一号証、証人坂本惇、同土橋富美子、同岡田滋の各証言及び原告本人尋問の結果を合わせると、次の事実が認められる。

<1> 原告と隼建設は、昭和五七年二月ころ、原告が甲1物件及び甲2物件を代金三〇〇〇万円で買い、右代金の内金一七〇〇万円の支払に代えて本件課税物件の所有権を隼建設に移転する旨合意したが、程なく隼建設が本件課税物件の下取り価額を二二〇〇万円に増額するから、甲1物件の裏側にある袋地の甲3物件も一緒に買い受けて貰いたい旨要望したので、原告も右要望に応ずることとし、同年二月一六日、甲1物件及び甲2物件を代金三〇〇〇万円に、甲3物件を一五〇〇万円にし、代金総額を四五〇〇万円に変更し、甲物件売買契約を締結した。その際、原告は、現金で支払うべき代金額は、同年四月二〇日までに労働金庫等から借り受けて支払うことを約した。右売買契約において、本件課税物件及び乙物件を下取りとする意味は、売買代金のうち二二〇〇万円の支払に代えて本件課税物件の所有権を、売買代金のうち九〇〇万円の支払に代えて乙物件の所有権をそれぞれ隼建設に移転することである。原告は、隼建設に対し、同日手付金として一〇〇万円を支払い、及びその頃乙物件を引き渡すとともに、その所有権移転登記手続に必要な書類を交付した。なお、本件課税物件は原告が自宅として使用しており、また、甲3物件は、関力男の所有名義であり、競売手続中であった(甲物件売買契約を締結したことは、中間金支払期日及び甲物件引渡期日の点を除いて、争いがなく、また、原告が手付金を支払ったこと及び甲3物件が隼建設以外の所有名義であり、競売手続中であったことも争いがない。)。

<2> 隼建設は、甲物件の引渡期日である昭和五七年四月二〇日が経過してもその引渡しをせず、他方、原告も労働金庫等からの借り入れができず、同日までに一三〇〇万円の支払をしなかった。そして、隼建設は、同月二七日、甲1物件及び甲2物件につき、埼玉中央信用組合との間で本件根抵当権設定契約を締結し、翌二八日にその設定登記をし(この点は、争いがない。)、その後原告から一三〇〇万円の支払がないことを理由に、常生寺との間で甲物件の売買契約を結んだ。

そこで原告は、昭和五八年三月一五日、隼建設を被告として、甲1物件及び甲2物件につき所有権移転登記手続を請求する訴訟を提起し、同年一一月三〇日に勝訴の判決を受け、同年一二月一九日、右判決に基づき、甲1物件及び甲2物件につき所有権移転登記を経由した(この点は、訴え提起の日を除いて争いがない。)。

<3> 原告は、日時は明白ではないが、隼建設から甲1物件及び甲2物件の引渡を受け、岡田亨に甲2物件を賃貸した。

また、甲3物件は、前記のように競売手続中であったところ、隼建設が昭和五七年一二月に倒産したこともあって、右物件を競落しないため、昭和五九年八月一四日、原告の依頼を受けた岡田は、原告の出捐により右物件を競落し、昭和六二年七月二一日に真正な登記名義の回復を原因として原告に対して所有権移転登記手続をした。原告と隼建設との間で、原告がこのようにして甲3物件の所有権を取得したことが同物件の売買契約に及ぼす影響について協議や合意がなされたことはない(隼建設が倒産したこと、岡田が甲3物件を競落したこと、同物件につき原告に所有権移転登記手続がなされたことは、争いがない。)。

<4> 昭和五九年六月ころ、原告は、隼建設を被告として、当庁に対し、甲1物件及び甲2物件に関する昭和五七年二月一六日付売買契約に基づく売買代金債務は、隼建設の債務不履行により原告が三回の裁判を余儀なくされたことによる五〇〇万円の損害賠償請求権と合意により相殺したから、二〇〇〇万円ではなく、一五〇〇万円であることを確認することを求める訴えを提起し、同年七月一九日にいわゆる欠席判決により請求認容の判決がなされた。しかし、原告は、隼建設の債務不履行による損害は、右五〇〇万円に尽きず、もっと高額であると考えていた。

<5> 坂本は、隼建設が既に倒産した上、原告から右のように数回にわたり訴訟を提起され、甲物件売買契約に基づく収支を考えると、右売買契約の履行を巡り原告と紛争を継続したり、また自らその履行をする意欲を失い、本件課税物件の処分等右売買契約に基づく処理を一切岡田に委任することとし、昭和五九年一二月二四日ころ、岡田に対し、(1)本件課税物件の管理に関する一切の件、(2)埼玉中央信用組合に対する支払をするに際し右物件を処分する一切の件、(3)その他関連事件一切を委任し、右(2)の場合は、中間省略登記、名義人を如何にするか等一切の権限を与え、但し、右物件の処分で隼建設の原告に対する一切の責任をないこととし、それ以上責任を追及されないようにして貰いたい旨記載した昭和五九年一二月二四日付の委任状を交付した。

<6> 原告は、甲1物件及び甲2物件につき埼玉中央信用組合の根抵当権設定登記が抹消され、本件課税物件を隼建設に引き渡すまでは本件課税物件の所有権は原告に帰属すると考えていたので、本件課税物件のうち、別紙物件目録記載二の建物に居住を続け、昭和六〇年一月以後、右建物の一部を渡辺アサノに賃料月額一五万円で、また同年二月以後、同建物の一部を株式会社東京進和に賃料月額七万円で賃貸し、これら賃料を取得しており、昭和六〇年分ないし同六二年分の所得税確定申告において、右建物を昭和五四年五月から所有しているとして減価償却費を算出し、経費の額に算入している。もっとも、昭和六二年七月ころは、空家であった。

<7> 埼玉中央信用組合は、甲1物件及び甲2物件につき、本件根抵当権に基づき不動産競売を申し立て、昭和六〇年三月一五日、右申立てに基づき、不動産競売の開始決定がなされた。

原告は、昭和六〇年に当庁に対し、埼玉中央信用組合を被告として、本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める訴訟を提起した。そして、昭和六二年七月六日、原告は埼玉中央信用組合に昭和六二年九月末日限り和解金二六四〇万円を支払い、同信用組合は、原告に同日限り本件根抵当権設定登記の抹消登記手続をし、両者の義務は同時履行とする旨の訴訟上の和解が成立した。

(2) 前掲甲第五一号証、成立に争いがない甲第八号証、乙第六号証、第一〇ないし第一二号証、第二九号証、証人山田の証言により真正に成立したと認められる乙第二三号証の一、二、第二四号証の一、二、第二五号証の一、二、第二六号証、証人土橋富美子、同山田文恵、同坂本惇、同岡田滋の各証言及び原告本人尋問の結果を合わせると、次の事実が認められる(ただし、証人土橋富美子、同坂本惇、同岡田滋の各証言及び原告本人尋問の結果中、後記採用しない部分を除く。)。

<1> 齋藤は、昭和六二年になって近所の知人から原告が本件課税物件を売却しようとしている旨聞き知ったので、原告に本件課税物件を買い受けたい旨申し入れた。すると、原告は、すべて赤木不動産こと赤木紀子に任せていると述べたので、齋藤は赤木不動産と交渉したところ、赤木不動産の従業員である男松が原告と齋藤の希望を調整し、その結果代金額を三六〇〇万円とすることで話がまとまった。その頃、齋藤は、男松から本件課税物件についての重要事項説明書を示されて説明を受けたところ、右重要事項説明書の売主欄には原告名が記載されていた(以上の事実については、齋藤が昭和六二年になって近所の知人から原告が本件課税物件を売却しようとしている旨聞き知ったこと及び男松が原告との齋藤の希望を調整したことを除いて争いがない。)。

<2> 昭和六二年七月二五日、赤木不動産の事務所において、原告、岡田、齋藤、赤木紀子及び男松が立会い、代金を三六〇〇万円、買主を齋藤として、本件課税物件の売買契約が締結され、齋藤は、手付金三六〇万円を原告に支払った。その際、売買契約書が作成され、売主欄には、原告及び岡田の要請により千宏建設と記載された。また、前記重要事項説明書の売主欄の記載も、原告の意向により原告から千宏建設に変更されていた(以上の事実については、争いがない。)。これらを不審に思った齋藤がその理由を尋ねたところ、岡田は、税務上の理由でこのような記載をする旨答えた。右売買契約の締結に当たり、原告及び岡田が、売主は千宏建設であるとか、あるいは原告や岡田が隼建設の代理人であると述べたことなく(この点は、争いがない。)、齋藤は、右売買契約の締結に当たり、その交渉の当初から後記所有権移転手続に至るまで、売主は原告であると考えており、隼建設の存在自体を知らず、また赤木不動産も、右売買契約の当事者は原告と齋藤であると考えていた。

<3> その後、原告は、齋藤に対し、いわゆる裏金として二〇〇万円を増額し、右契約の売買代金額を総額三八〇〇万円に増額して貰いたい旨申し入れ、これを承諾した齋藤は、同年八月一八日、東京相互銀行浦和支店において、岡田と土橋富美子に右残代金三四四〇万円の内三二四〇万円を東京相互銀行浦和支店振出の自己宛小切手により、内二〇〇万円を現金で支払った。その際、岡田や土橋富美子が隼建設の代理人であると述べたことはない(以上のうち、原告の申し入れにより売買代金が右のように増額され、齋藤がその支払をしたことは、争いがない。)。

齋藤は、右同日、本件課税物件につき、売買を原因として、原告から直接所有権移転登記を経由した(この点は、争いがない。)。なお、齋藤は、千宏建設の名義が使用される理由について、岡田から説明を受けた以上に詮索せず、原告及び岡田の要望に応じ、手付け金及び売買代金を支払った際、千宏建設名義の領収書を受け取った。

<4> 原告は、齋藤から受領した三八〇〇万円のうち、一〇八万円を赤木不動産に仲介手数料として支払い、二六四〇万円を埼玉中央信用組合との前記訴訟上の和解に基づき同信用組合に和解金として支払い、さらに、親戚の山崎敏夫に土地の購入を依頼していたので、その資金として同人に六〇〇万円を支払った。原告は、赤木不動産や埼玉中央信用組合に対する右支払の際、隼建設の代理人である旨述べたことはない(赤木不動産に仲介手数料として一〇八万円が、埼玉中央信用組合に二六四〇万円が支払われ、原告が隼建設の代理人であると述べたことがないことは、争いがない。)

(3) 以上認定の事実に基づいて、齋藤との間における本件課税物件の売買契約の売主について検討する。

<1> 原告と隼建設は、昭和五七年二月一六日、代金額を四五〇〇万円に変更し、その内訳として甲1物件及び甲2物件の代金を三〇〇〇万円、甲3物件の代金を一五〇〇万円として甲物件売買契約を締結したところ、甲3物件は、隼建設がその引渡及び所有件移転登記をしなかったため、結局原告が出捐して競落により債務を履行することが不可能となったのであるから、原告の隼建設に対する甲3物件の代金支払義務は消滅したと解される。

<2> 甲1物件及び甲2物件については、原告は甲物件売買契約後程なくその引渡を受け、その所有権移転登記手続は昭和五八年一二月一九日に判決に基づいてなされたところ、甲1物件と甲2物件の売買代金は三五〇〇万円であり、他方、原告は手付金一〇〇万円を支払い、乙物件により九〇〇万円を代物弁済し、また右各物件については、埼玉中央信用組合を債権者とする根抵当権が設定され、その債務額は二六四〇万円であって、原告は埼玉中央信用組合と訴訟上の和解をして右債務を弁済することとなったのであるから、原告が本件課税物件を隼建設に代物弁済として引渡すべき実質的な対価関係はなくなったものである。しかも、原告は、隼建設の債務不履行により五〇〇万円より高額な損害を蒙っており、甲1物件と甲2物件の埼玉中央信用組合の根抵当権設定登記が抹消されるとともに本件課税物件を引渡すまでは、本件課税物件の所有権は原告に留保されると考えており、隼建設も右所有権の留保については同様に考えていたところ、齋藤との間における本件課税物件の売買において、原告は、最初に齋藤から照会を受けた際、自分が売主であることを否定せず、赤木不動産に任せてある旨述べ、その売買代金も原告と齋藤の希望を調整した結果決定され、また赤木不動産が作成した右物件についての重要事項説明書における売主はは当初原告であったのであり、右売買契約が締結された際も、原告が岡田とともに立ち会い、手付金三六〇万円を受領し、その後原告は、齋藤に対し、いわゆる裏金として二〇〇万円の増額を求め、土橋富美子と岡田が齋藤から残代金三四四〇万円の支払を受け、原告は、右売買代金全額を自己の用途に使用し、また右売買契約の締結や売買代金の受領の際、原告や岡田隼建設や千宏建設の代理人であると述べたことはなく、それ故齋藤や赤木不動産は、本件課税物件の売主は原告であると解していたのであるから、これら事実に基づけば、原告が売主として、齋藤との間において本件課税物件の売買契約を締結したものと認められる。

<3> そこで、甲物件売買契約に基づく履行については、当事者間において紛争が継続し、同契約中の代物弁済の合意による本件課税物件の所有権の移転時期に関しては、原告も隼建設も、甲1物件と甲2物件の埼玉中央信用組合の本件根抵当権設定登記が抹消されるとともに本件課税物件を引渡すまでは、その所有権は原告に留保されると考え、隼建設に所有権移転登記もなされずに経過していたのであるから、甲物件売買契約において本件課税物件の代物弁済の合意がなされただけでは、未だ本件課税物件の譲渡、したがってまたそれによる経済的利益は未確定であるというべきであって、その後原告は齋藤と本件課税物件の売買契約を締結し、所有権移転登記手続をして齋藤にその所有権を確定的に移転したのであるから、齋藤との右売買契約の時に、本件課税物件に対する原告の売買代金債権が確定的に発生したものと解するのが相当である。なお、原告と隼建設との間において、本件課税物件を代物弁済の目的とする合意自体を解約し、その他右合意の効力が消滅したと認めるに足りる証拠はないから、債権契約としては、原告は、本件課税物件を隼建設と齋藤に二重譲渡したこととなるが、齋藤が本件課税物件につき所有権移転登記を経たのであるから、同人が本件課税物件の所有権を確定的に所得したものである。

(4)<1> ところで、前記重要事項説明書の売主の記載はその後千宏建設と変更され、また齋藤との間の本件課税物件の売買契約書における売主の名前は千宏建設とされ、齋藤に対する売買代金の領収書も千宏建設名義であるが、前記のように岡田は齋藤に対し、税務上の理由で千宏建設の名義を使用する旨答えたのであって、右事実及び前掲(2)の各証拠に照らすと、右売主の記載だけでは、右認定を覆すことはできない。

<2> 次に、坂本は、隼建設が倒産したこと等もあって甲物件売買契約の履行に関する意欲を失い、昭和五九年一二月二四日ころ、岡田に対し、(1)本件課税物件の管理に関する一切の件、(2)埼玉中央信用組合に対する支払をする際し右物件を処分する一切の件、(3)その他関連事件一切を委任し、右(2)の場合は、中間省略登記、名義人を如何にするか等一切の権限を与え、但し、右物件の処分により隼建設の原告に対する一切の責任を消滅して貰いたい旨委任し、その趣旨は、本件課税物件の処分や埼玉中央信用組合に対する支払等の一任するとともに、その代わりに甲物件売買契約に基づく原告に対する責任を追求されないようにして貰いたいというものであるが、右委任は岡田に対するものであって、原告に対するものではなく、前記のように原告自身が売主として隼建設に本件課税物件を売ったと認められるから、右事実によって前認定を覆えすことはできない。したがって、また、証人土橋富美子、同坂本惇、同岡田滋の各証言及び原告本人尋問の結果中、原告が隼建設の授権に基づいて齋藤に本件課税物件を売った旨の部分も、前記(2)の証拠に照らして採用することができない。

<3> 甲第五一号証の記載、証人岡田滋、同土橋富美子の各証言中、岡田が齋藤に対し、原告が本件課税物件を直接売るのではないと述べ、また、齋藤との売買に当たり、隼建設が札付きの筋のよくない不動産業者であるから、紛争を防止するため千宏建設の名義を使用したとの部分は、前記のように岡田が齋藤に対し税務上の理由で千宏建設の名義を使用する旨述べたこと及び前掲(2)の各証拠に照らして採用できない。

<4> 成立に争いがない甲第一四号証によれば、原告は、平成三年二月二八日に、当庁において、齋藤を被告として、本件課税物件の売買契約を締結したことがないことを理由として、昭和六二年七月二五日付で右物件を売却した旨の売買契約に基づく債務の存在しないことを確認する旨の判決を受けたことが認められるけれども、同号証によれば、右判決はいわゆる欠席判決であると認められ、また右判決がなされた頃は、前記のように本件課税物件の売買に基づく債務はすべて履行された後であるから、齋藤は右訴えにつき特に関心を持たなかったものと推定されるから、甲第一四号証によって、前認定を左右することはできない。

<5> 成立に争いがない甲第一五号証によれば、原告は、平成三年二月一二日に、当庁において、隼建設を被告として、本件課税物件を売却したうえ、その代金で甲1物件及び甲2物件について存する根抵当権の被担保債務その他一切の負担を清算する事務を委任する旨の昭和五九年一二月二四日付委任契約に基づく、右代金清算後の返還債務が存在しないことを確認する旨の判決を受けたことが認められる。しかし、同号証によれば、右判決はいわゆる欠席判決であり、前記のように隼建設は甲物件売買契約の履行に関する熱意を失い、また昭和五九年一二月二四日付の委任状は岡田に対するものであるから、これら事実に照らすと、甲第一五号証によって、前認定を覆すことはできない。

<6> 成立に争いがない乙第五号証は、原告と千宏建設間の 本件課税物件についての昭和五七年九月一〇日付の売買契約書(予約)及び昭和六二年八月一八日付の本契約を締結する旨の書面であるが、原告本人尋問の結果によれば、原告は、右書面を知っているかどうかとの質問に対して答えず、なお見たことはあると供述するものの、作成日の記憶も明白でなく、書類を作成した理由もよく覚えてないというのであり、他に右書面が作成された理由や経緯を認め得る証拠はないから、右記載内容が事実に符号すると認めるには、合理的な疑問があるというべきである。

(二)  取得費

前掲乙第四号証、成立に争いがない乙第三及び第九号証によれば、原告は、昭和五四年四月二八日、鈴木敬治から本件課税物件を一六五五万円で購入したことが認められる。

次に、前掲乙第一五号証の二及び第一六号証の二並びに弁論の全趣旨によれば、本件課税物件のうち別紙物件目録記載二の建物の取得費は四〇〇万円であること及び原告が右建物を所有した昭和五四年四月二八費から昭和六二年八月一八日までの減価償却費を右建物の不動産所得の必要経費に算入していたことが認められる。したがって、右建物の右期間の減価償却費相当額である一三八万円は、所得税法第三八条第二項により本件課税物件の取得費から控除される。

よって、本件課税物件の取得費は右購入金額から右減価償却費相当額を控除した金額である一五一七万円である。

(三)  譲渡に要した費用

前認定のとおり、原告は、本件課税物件を齋藤に譲渡するに際し、赤木不動産に対し、仲介手数料一〇八万円を支払った。

(四)  本件課税物件の譲渡所得

そこで、本件課税物件の譲渡所得は、右(一)の金額から右(二)及び(三)の金額を控除した後の金額である二一七五万円である。

なお、原告は、前記認定のとおり本件課税物件を昭和五四年四月二八日に取得し、昭和六二年七月二五日に譲渡したので、その所有期間は、同年一月一日において一〇年以下であるから、本件課税物件の譲渡所得は、租税特別措置法第三二条第一項により分離課税の短期譲渡所得となる。

そこで、本件更正処分における本件課税物件の譲渡所得金額(異議決定による一部取消後のもの)二〇七五万円は右金額の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。

三  本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性

前掲乙第三号証、第一五号証の二、第一六号証の二並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件確定申告において、本件課税物件の譲渡所得の取得費及び譲渡に要した費用につき、前記二2(二)と(三)との差額である三〇万円を過大計上していたことが認められ、また、前掲乙第三及び第四号証によれば、原告は、本件確定申告において、本件課税物件の譲渡所得の取得費として二七万四四四六円を過大計上していたことが認められるところ、これらにつき国税通則法第六五条第四項に規定する正当理由の存在を認めるに足る証拠はない。

そして、過少申告加算税額が被告主張のとおり八万五五〇〇円であることは、明らかである。

したがって、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

四  本件重加算税賦課決定処分の適法性

原告は、前認定のとおり、齋藤に対し本件課税物件を三八〇〇万円で譲渡したにもかかわらず、前掲乙第二号証によれば、原告は、本件確定申告において、右物件を一八〇〇万円で千宏建設に譲渡したものとして、分離課税の短期譲渡所得金額を過少に記載した納税申告書を提出したと認められるから、右行為が国税通則法第六八条第一項に規定する仮装隠ぺい行為に当たることは明らかである。

したがって、右行為にかかる部分の税額を計算の基礎として重加算税を賦課決定した本件重加算税賦課決定処分は適法である。

五  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官高橋祥子及び裁判官岡口基一は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 大喜多啓光)

別表

昭和六二年分

<省略>

(別紙)

物件目録

一 所在   浦和市根岸三丁目

地番   五七一番二

地目   宅地

地積   六六・一五平方メートル

二 所在   浦和市根岸三丁目五七一番地二

(住居表示 浦和市根岸三丁目二一番二号)

家屋番号 五七一番二

種類   店舗兼居宅

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積  一階 二七・三〇平方メートル

二階   二七・三〇平方メートル

三 所在   浦和市根岸四丁目

地番   一一九一番の二

地目   宅地

地積   九九・一七平方メートル

四 所在   浦和市根岸四丁目一一九一番地二

(住居表示 浦和市根岸四丁目一六番一三号)

家屋番号 一一九一番二

種類   居宅

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積  一階 四六・三七平方メートル

二階   四六・三七平方メートル

五 所在   浦和市根岸四丁目

地番   一一九一番の二

地目   宅地

地積   一〇五・七八平方メートル

六 所在   浦和市南浦和三丁目

地番   八五七番二一

地目   宅地

地積   二二・一一平方メートル

七 所在   浦和市南浦和三丁目八五七番地二一

家屋番号 八五七番二一

種類   店舗兼居宅

構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積  一階 一八・七六平方メートル

二階 一八・七六平方メートル

八 所在   浦和市南浦和三丁目

地番   八五七番二三

地目   宅地

地積   一・六八平方メートル

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