浦和地方裁判所 平成5年(レ)30号 判決 1994年4月27日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、金九〇万円及びこれに対する平成四年六月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二 事案の概要
一 本件は、学習塾の経営を業とする控訴人が、生徒の学習等に供するために平成元年五月に販売店より購入した被控訴人製造のパーソナルコンピューター七台(PC-9801EX2、以下「本件パソコン」という。)の三・五インチ・フロッピーディスクドライブのプッシュ式スイッチの表面に絶縁皮膜(酸化皮膜)が形成されてしまうという、製造過程で生じた重大な欠陥があり、そのためフロッピーがフロッピーディスクドライブに入つているのに入つていないと判断されたり、ライトプロテクトがオンになつていないのにオンになつていると判断されて書き込み禁止の表示が出たりという故障が発生して使用できなくなつたとして、被控訴人に対し不法行為による損害賠償請求権に基づきその損害の賠償として九〇万円(本件パソコンを修理に出した際の交通費、人件費・二万五二〇〇円、電話料、コピー代金、ネットワーク利用料、その他・四八〇〇円、逸失利益(故障及び修理のため本件パソコンを使用できなかつたことによる損害として、パソコン一台につき、一日当たり一〇〇〇円とし、使用できなかつた期間を合計三七二日として計算したもの。)・三七万二〇〇〇円、慰謝料・六〇万円の四項目、合計一〇〇万二〇〇〇円の内金)の支払を求めるものである。
二 争いのない事実
PC-9801EX2という機種のパソコンが、被控訴人の製品であることは当事者間に争いがない。
三 争点
1 本件の争点は、<1>控訴人が本件パソコンを所有しているか、<2>本件パソコンの不具合の存在・発生時期、<3>不具合の原因、<4>損害の発生、<5>不具合の発生についての被控訴人の故意・過失、<6>不具合と損害との因果関係である。
2 控訴人は、本件で問題となつている故障は重大な欠陥であるから、その様な欠陥のある商品を流通させた被控訴人は、欠陥が製造過程で生じたものかどうか、また、右欠陥の発生について被控訴人に故意又は過失があるかどうかに係わらず、右欠陥によつて生じた損害について不法行為に基づく損害賠償責任を負うとの主張もしているが、このような見解は当裁判所の採るところではない。
第三 《証拠関係略》
第四 争点に対する判断
一 控訴人が本件パソコンを所有していることは、《証拠略》により認められる。
二 本件パソコンについて、控訴人主張のような不具合が発生したこと及び発生時期がほぼ平成二年から平成四年までの間であることは、《証拠略》により認められる。
三 次に、本件パソコンの不具合の原因について検討する。
《証拠略》によれば、<1>本件パソコンと同一機種のPC-9801EX2のうち、昭和六三年九月から翌平成元年八月までの間の製造品については、故障率が他の時期の製造品に比べて高かつたこと(通常の故障率は月あたり〇・一パーセントであるのに、右期間の製造品については少なくともその一・五倍ないし二倍の故障率であつた。)、<2>故障率が高かつたのは、検出スイッチの不具合により、フロッピーがフロッピーディスクドライブに入つているのに入つていないと判断したり、ライトプロテクトがオンになつていないのにオンになつていると判断して書き込み禁止の表示を出したりという故障が発生したからであること、<3>右不具合の原因は、スイッチ部品に埃が付かないようにするために洗浄薬剤として使つたシアン化ソーダが、一年くらい経つと接点に絶縁皮膜をつくり接触不良を起こす点にあることが認められる。
以上の事実に、本件パソコンは、いずれも平成元年五月に製造されたものだと認められること、本件パソコンの不具合の態様がシアン化ソーダが原因となる不具合の態様と同一であること、不具合が発生した時期が本件パソコン製造後一年以上経つてからであることを総合すると、本件パソコンの不具合の原因は、前記<3>のシアン化ソーダの使用にあると強く推認される。
被控訴人は、本件パソコンのうち、出張修理をした二台の故障の原因は埃にあるとして、故障部分の写真を証拠として提出しているが、本件パソコンは学習塾で使用されており、通常パソコンが使用される場合に比べて特に埃の多い環境で使用されていたものとは認められず、右推認が覆されるには至らない。
四 そこで、更に、被控訴人がスイッチ部品に埃が付かないようにするために洗浄薬剤としてシアン化ソーダを使つたことについて、被控訴人に(故意又は)過失があるかが問題となる。
故障率が高いことは、問題となる期間に製造された同一機種のパソコンに同種の故障が生じた場合、その原因がスイッチ部品の洗浄剤にシアン化ソーダを使つたことにあることを強く推認させる事実ではあるが、故障率が高いという事実から直ちに被控訴人の洗浄剤の選択に過失があつたことまでを推認することはできない。したがつて、技術面、経済面その他の観点からみた被控訴人の過失を基礎付ける事実の立証が必要である。
しかし、控訴人は、被控訴人の過失を基礎付ける事実について何ら主張立証を行わず、かつ本件記録上右事実を推認させる事実はない。
五 以上により、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山崎健二 裁判官 川島貴志郎 裁判官 渡辺真理)