浦和地方裁判所 平成5年(ワ)479号 判決 1996年2月09日
原告
永井隆
同
永井英瑞
同
永井ルリ子
右三名訴訟代理人弁護士
豊田愛祥
同
古川晴雄
被告
埼玉県
右代表者知事
土屋義彦
右訴訟代理人弁護士
鍜治勉
右訴訟復代理人弁護士
梅園秀之
理由
一 請求原因1(当事者)について
請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 請求原因2(事故の発生及びその結果)について
1 請求原因2(一)(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。
2 同(二)(原告隆の後遺障害)の事実は、〔証拠略〕により認められる。
3 前次請求原因1及び2の各事実に、〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 本件高校において、平成二年九月一二日、原告隆を含む二年三組及び四組の男子生徒合計五六名について、第三時限(午前一〇時四〇分から午前一一時三〇分まで)及び第四時限(午前一一時四〇分から午後〇時三〇分まで)の二時限連続で、体育の授業が行われた。担当教諭は、小田川教諭であった。
小田川教諭は、生徒に対し、第三時限において陸上競技のリレーの練習を行わせた。同日は、非常に厚く、第三時限の全時間をリレーの練習に充てたことから、第四時限については、本件プールにおいて水泳の授業を実施することとした。これは、プールの中で泳いでもよいし、プールサイドで休養してもよいというもので、生徒らに休養を与えるとの意味合いを含むものであった。
なお、同日の水泳の授業は、夏休みが明けて最初であり、同年度に入って二回目であった。
(二) 本件プールは、縦の長さ二五メートル、横の長さ一八メートルのステンレス製で八コースを有し、各コースには、高さが水面から二六センチメートル(満水時)のスタート台が設置されていた。また、本件プールの水深は、満水時において、中央部で一・五メートル、スタート台の直近で一・三メートルであった。
(三) 小田川教諭は、教諭の資格を取得した後、昭和五二年四月から、本件高校において保健体育の科目を担当してきた。
平成二年九月一二日当時、埼玉県を含め全国でプールの飛込み事故が多数発生し、新聞等によって報道されていた。小田川教諭も、同日当時、同県熊谷市や神奈川県において、生徒がプールに飛び込んだところ、その底に頭部を激突させて重い身体障害を負うという事故が発生したことを記憶していた。しかし、被告の教育委員会は、県内及びその南部地区において、毎年、体育担当の教師に対し、研修会は実施していたものの、プールの飛込み事故の頻発を理由に、その予防のための特別の研修等を行ってはいなかった。本件高校内においても、プールの飛込み事故を予防するために特別の研修等が実施されたことはなかった。
(四) 小田川教諭は、同年九月一二日午前一一時五〇分ころ、本件プールにおいて、第四時限の水泳の授業を始めたが、生徒に対し、危険な飛込み方法を禁止するなどプールに関する注意事項を伝達することはしなかった。
小田川教諭は、まず、生徒に対し、本件プールの各コース(二五メートル)を二、三回泳がせた後、プールの中で泳いでもよいし、プールサイドで休養してもよいという自由練習の時間とする旨告げた。小田川教諭は、授業の開始後間もなく、五分ないし一〇分間、本件プールの第二コースを泳いで数回往復した後、第二コースのスタート台の上に腰掛けた。
生徒は、本件プールの中で泳いでいる者、本件プールの中で立っている者、プールサイドに座って生徒同士で話し合っている者など様々であり、約半数が本件プールの中にいた。
小田川教諭は、前記スタート台付近から、生徒を監督していたが、飛込みについては、小田川教諭が着任して以来、本件高校においてプールでの事故の発生がなかったこともあって、スタート台から飛び込む生徒がいることは認識していたものの、それ以上に生徒の飛込みに対し注意を払うことはしなかった。
(五) 原告隆は、昭和四八年一〇月二六日生まれの健康な男子であり、四歳から一二歳までの間、学校以外で水泳を習っていて、自己の水泳能力について相当の自信を有していた。
原告隆は、平成二年九月一二日当時、身長約一・七五メートル、体重約六〇キログラムであったが、同日、本件プールの中に入ったところ、スタート台付近において水面がへその位置より少し上くらい(約一・二メートル)であったため、通常よりも水かさが少ないと感じていた。
(六) 同日の水泳の授業において、生徒の一人である中村浩之は、一度、第七ないし第八コースのスタート台から、助走を付けた上、プールに飛び込む際に手を前に伸ばさず体側に付けたまま頭から水の中に飛び込むという、当日、このような方法で飛び込んだ生徒らが「魚雷」式飛込みと呼んでいた方法で、本件プールの水中に飛び込んだ。
小田川教諭は、中村が飛び込んだことは知っていたものの、それまで「魚雷」式飛込みを見たことがなく、また、前記のとおりそもそも飛込みに対し特別の注意を払っておらず、さらには、中村の飛び込んだ位置が小田川教諭が座っていた第二コースと反対側の本件プールの端付近だったこともあって、中村の飛込みの方法が「魚雷」式であることまでは分からなかった。したがって、小田川教諭は、中村に対し、「魚雷」式で飛び込んだ際、何ら注意を与えなかった。
(七) 原告隆、井出真及び後藤弘之は、中村の「魚雷」式飛込みを目撃して好奇心に駆られ、中村のまねをして「魚雷」式飛込みをすることとなった。右三名は、それまで「魚雷」式飛込みをしたことがなくちゅうちょがあったことから、飛び込む順序を決めるため、スタート台が並んでいるプールサイドに集まってじゃんけんをした。小田川教諭は、前記のとおり第二コースのスタート台の上に座っていたが、右三名がプールサイドでじゃんけんをしていることに気がつかなかった。
じゃんけんの結果、まず、後藤が第四コースから「魚雷」式で飛び込み、その約三〇秒後、後藤の「よーい、どん。」という合図とともに、原告隆及び井出が一斉に「魚雷」式で飛び込んだ。右両名が飛び込んだのは、原告隆が第四コースのスタート台、井出が第五コースと第六コースの中間付近のプールサイドからであった。
原告隆ら三名が「魚雷」式で飛び込んだのは、中村が「魚雷」式で飛び込んでから約五分ないし一〇分後のことであった。
(八) 原告隆は、中村及び後藤が「魚雷」式飛込みを見事に成功させたことから、自己の水泳能力に自信を有していたこともあって、この飛込み方法が特別危険であるとは感じなかった。また、原告隆は、飛込みの深度について、通常の飛込み方法の場合には、頭の先に伸ばした手のひらで深度を調節することができるが、「魚雷」式飛込みの場合には、飛び込む際の体形によって深度を十分調節することが可能であると考えた。さらに、水中に入った後には手を前に伸ばすことなく、飛び込んだ際と同じ体形でいるつもりであった。
ただ、原告隆は、これまでに、手を頭の前に伸ばして入水する通常の方法で飛込みをして、プールの底にぶつかったり、顔をこすりそうになったことがあった。
原告隆は、とにかく整った体形で飛び込むことを心がけ、助走を付けることなく、スタート台を軽くけって、「魚雷」式で飛び込んだところ、水中に入った次の瞬間、手を前に伸ばす余裕もなく、その頭部が本件プールの底に激突した。
(九) 小田川教諭は、前記位置に腰掛けていたが、前記のとおり、飛込みに対し特別の注意を払っていなかったことから、右三名が飛び込むことに全く気がつかなかった。
ただ、小田川教諭は、大きな音が聞こえたので、ちょうど水面から浮かび上がった井出に対し、「今、何をした。」などと声を掛けて、井出と話を交わしていたところ、本件プールの中にいた生徒から、「大変です。」などという声が上がり、原告隆が第三コースと第四コースの間にうつ伏せのまま浮かんでいるのに気がついた。
小田川教諭らは、直ちに原告隆を本件プールの中からプールサイドに移した。その後、原告隆は、本件高校の近くの病院に運ばれ、さらに、同日、川口総合病院に転送された。
(一〇) 本件高校は、同日、本件事故後、本件プールについて、第一コースのスタート台から約五〇センチメートル離れた箇所の水深を測定した。それによると、一・二メートルであった。
(一一) 原告隆は、第五頸椎に過度の軸圧痛(頭部からの圧迫)を受けた結果、右頸椎を脱臼骨折した。その結果、頸髄を損傷し、これにより四肢及び体幹の完全横断性まひの後遺障害を負った。
原告隆の後遺障害は、平成二年一一月三〇日にほぼ固定し、改善される見込みはほとんどない。平成四年八月三一日の段階で原告隆に残存している運動機能は、<1>頸の固定及び回旋、<2>肩甲骨の挙上、<3>肩関節の挙上、<4>ひじ関節の屈曲及び<5>手関節の背屈(ただし、正常な力はない。)であって、その他の運動機能及び知覚は、すべて失われている。この後遺障害の結果、原告隆は、労働能力を一〇〇パーセント喪失し、自力での排尿排便や食事ができないなど日常生活のほとんどすべてについて介助を必要とする状態にある。
原告隆は、今後、二次的な合併症の予防に努める毎日を送らざるを得ない。すなわち、合併症の中では呼吸器合併症が最も危険であり、気道を確保して排痰を完全に行わせないと窒息死のおそれがある。また、じょくそう(床ずれ)の悪化は、細菌感染による敗血症、たんぱく質の漏出による低たんぱく血症(低栄養)及び自律神経過反射の悪化を招くことから、じょくそうの発生予防が重要である。さらに、泌尿器合併症の予防も重要であり、排尿状況を怠りなく把握して、ぼうこうからの細菌感染を予防し、腎機能を正常に保つ必要がある。
三 請求原因3(被告の責任原因)について
1 〔証拠略〕によると、水泳における飛込み事故についての医学界の知見は次のとおりであると認められる。
(一) 水泳それ自体は、傷害の発生率が極めて低いスポーツであるが、他方において、飛込みによる頸椎(頸髄)損傷という重篤な傷害発生の危険を有している。スポーツによる頸椎(頸髄)損傷の原因のほとんどは、水泳の飛込みである。頸椎(頸髄)を損傷すると、四肢のまひを来し、統計的にも、飛込みによる頸椎(頸髄)損傷の場合、その半数が四肢の完全まひに至っている。したがって、水泳は、いったん事故が発生すると、重大な結果を招来するスポーツである。
(二) 飛込みによる頸椎(頸髄)損傷は、水深の浅い所に飛び込み、水底に頭部を強打して発生する例がほとんどである。この場合には、頸椎に対し、頭頂部が水底に密着固定した状態で屈曲力が加わるとともに、高所から飛び込んだことによる垂直圧迫力も作用する。さらに、水底強打により急に身体が減速又は停止するため、頸椎に対し、回旋力も作用する。したがって、頸椎に対し、屈曲力及び垂直圧迫力(場合により回旋力も)が作用して、さらに、水深、飛込み方法、身長、体重などの個々の状況が右三者の作用の度合に影響を及ぼしつつ、損傷を与えるものと考えられる。
(三) 過去のプール事故の例においては、その水深が〇・八ないし一・三メートル以内の場合がほとんどで、専門家は、一・三メートル以下ないし一・二メートル以下での飛込みの禁止を提言している。
(四) 飛込みによる頸椎(頸髄)損傷の発生原因として、浅い水深のほか、危険な飛込み方法が挙げられる。飛込みの際の入水角が大きいと、重心が下がって頭下がりの回転モーメントを生じて到達点が深くなり、水底で頭部を打つ危険性が増す。また、飛込みの際には、両腕を頭の先にしっかり伸ばして頭部を保護することも重要である。両腕を頭の先に伸ばすことなく飛び込むと、到達点が深くなって水底で頭部を打つ危険性が高くなる。
2(一) 1及び二において認定したとおり、飛込みは、その方法のいかんによっては生命、身体に対する大きな危険性を有していること、小田川教諭は、本件事故の当時、飛込みによる事故の発生を知っていたことに照らすと、小田川教諭は、水泳の指導に従事する教師として、生徒の飛込みについて、危険な飛込み方法を試みる生徒の有無を絶えず確認するなど十分な配慮をして、事故の発生を防止すべき注意義務を負っていたというべきである。
なお、証人小田川功は、平成二年度の水泳の第一回の授業において、危険な飛込み方法を禁止するなど飛込みについて注意を与えていた旨証言するが、前示のとおり、原告隆らは、高校二年生という若年の男子であって、時に不注意や自己の能力に対する過信などから、無謀とも思える行為や危険な行為に及ぶ可能性も十分に考えられるところ、本件授業は、生徒らに休息を与えることをも目的とする自由練習の時間であり、その解放感などからも、そのような可能性が一層大きかったものであることが推認されることなどをも考慮すると、仮に同証言のとおり第一回の授業において注意を与えていたとしても、これをもって前記注意義務を免れるものではないというべきである。
(二) ところで、〔証拠略〕によると、本件プールは、本件事故当日まで余り使用されることがなかったため、その水深は、前示のとおりスタート台付近で一・二メートルと通常時よりかなり水かさが少ない状態にあったこと、小田川教諭も、過去のプール事故において水深が問題にされていたことを認識していたことが認められる。
(三) このような状況の下で、前示のとおり、まず中村が「魚雷」式飛込みを行ったのであるが、その後本件事故の発生との間には約五分ないし一〇分間の間隔があったこと、また、小田川教諭は、第二コースのスタート台の上という生徒の飛込みを観察するのに何ら支障のない位置に座っていたことに照らすと、小田川教諭において、生徒の動静になお十分の注意を払っていれば、中村の「魚雷」式飛込み及びその危険性に気がつくことが可能であったということができ、そうすると、その時点で、このような極めて危険な飛込み方法を試みたことについて厳しい注意を与えることにより、生徒らに対し、「魚雷」式飛込みの危険性について注意を喚起し、もって、本件事故の発生を未然に防ぐことが十分可能であったというべきである。
(四) しかるに、小田川教諭は、本件プールの水深や生徒の飛込みの状況についてほとんど注意を払わないまま、生徒に対し、自由に飛び込むことを許し、その結果、中村が「魚雷」式飛込みという危険極まりない方法による飛込みを敢行するのを看過したあげく、中村の右飛込みに触発された原告隆らの追随を招いて本件事故の発生に至ったものであって、その注意義務違反を到底免れないといわざるを得ない。
3 そして、国賠法一条一項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれると解されるところ、二において認定した各事実によると、小田川教諭は、本件事故当時、被告が設置する本件高校に勤務する地方公務員であり、その職務として水泳の指導に従事していたことが認められる。
4 以上によると、その余の点について判断するまでもなく、被告は、国賠法一条一項に基づき、本件事故によって原告らが被った損害を賠償する責任を負う。
四 請求原因4(損害)について
1 原告隆の損害 合計一億五六三七万三三三五円
(一) 逸失利益 八三五三万〇五二八円
前示のとおり、原告隆は、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失したこと、本件事故当時、満一六歳の健康な男子であったことが認められ、右各事実によると、原告隆は、本件事故がなければ、本件高校を卒業後一八歳から六七歳までの四九年間就職して相当の収入を得ることができたと認めるのが相当である。
したがって、平成二年度賃金センサス第一巻第一表により認められる男子労働者の平均給与額年間五〇六万八六〇〇円を基礎とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、原告隆の逸失利益を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
五〇六万八六〇〇円×(一八・三三九-一・八九五)=八三五三万〇五二八円
(二) 付添看護費 合計三五七七万六八五〇円
(1) 入院付添費 二四五万六〇〇〇円
〔証拠略〕によると、原告隆は、本件事故の日である平成二年九月一二日から平成三年一月一三日までの間(一二四日間)川口総合病院に、同月一四日から平成六年三月三〇日までの間リハビリテーションセンターにそれぞれ入院していたこと、川口総合病院及びリハビリテーションセンターは、右各期間、完全看護体制を採用していたが、両親である原告英瑞及び原告ルリ子は、原告隆が川口総合病院に入院していた期間においては毎日、リハビリテーションセンターに入院していた期間においては四九〇回、それぞれ原告隆の付添看護をしたことが認められ、原告隆の後遺障害の程度、部位、原告隆の年齢等を考慮すると、右両原告による付添いの必要性を認めるべきである。そして、近親者の入院付添費は、一日当たり四〇〇〇円と認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる入院付添費を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
四〇〇〇円×(一二四日+四九〇日)=二四五万六〇〇〇円
(二) 介護料 三三三二万〇八五〇円
前掲甲第三〇号証、原告英瑞、原告ルリ子の各本人尋間の結果によると、原告隆は、平成六年三月三〇日(当時満二〇歳)にリハビリテーションセンターを退院した後、自宅において、両親である原告英瑞及び原告ルリ子の介護を受けながら生活していることが認められるところ、前示のとおり、原告隆は、日常生活のほとんど全般にわたり他人の介助を必要とする状態にあり、この状態は、一生涯継続する可能性が極めて高いことが認められる。
そして、平成五年簡易生命表によると、原告隆は、リハビリテーションセンターを退院後五七年間生存すると推定され、原告英瑞及び原告ルリ子が原告隆の存命中最後まで介護を続けることができないことが予想されることなども考慮すると、介護料は、一日当たり六〇〇〇円と認めるのが相当であるから、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる介護料を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
六〇〇〇円×三六五日(一八・七六一-三・五四六)=三三三二万〇八五〇円
(三) 療養雑費 五五五万三四七五円
原告隆の前示症状に照らすと、原告隆は、自宅において生活するに当たり、将来にわたって、健康な通常人の生活費用のほか、その症状により必要となる療養雑費の支出を余儀なくされることが認められるところ、その額は、一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、(二)(2)のとおり原告隆の余命を五七年とし、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる療養雑費を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
一〇〇〇円×三六五日×(一八・七六一-三・五四六)=五五五万三四七五円
(四) 改造費等特別出費 合計一一五一万二四八二円
(1) 自宅購入費 計二八二万九〇〇〇円
原告英瑞本人尋問の結果によると、原告隆は、後遺障害の結果、リハビリテーションセンターを退院後、両親である原告英瑞及び原告ルリ子と同居するためには、従前同居していた家屋では不適当であり、新たに家屋を建築する必要のあったことが認められる。
そして、原告英瑞本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一一号証の三ないし七、一七、一八による原告英瑞は、新たに家屋を建築するため、請求原因4(一)(4)ア<1>ないし<3>(仲介手数料、登記費用)の各費用合計二八二万九〇〇〇円を支出したことが認められるところ、右支出は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(2) 改造費等 計八二二万三四八二円
〔証拠略〕によると、請求原因4(一)(4)イ<1>ないし<3>(家屋特別改造費、特別器具購入費、引越料)の各費用合計八二二万三四八二円を支出したことが認められるところ、右支出は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(3) 交通費 四六万円
原告英瑞本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告英瑞及び原告ルリ子は、原告隆の付添看護をするため、車両を使用して、川口総合病院(所要時間約二〇分)及びリハビリテーションセンター(所要時間約五〇分)に通院したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある交通費は、四六万と認めるのが相当である。
(五) 慰謝料 二〇〇〇万円
原告隆の後遺障害の内容、回復の見込み、原告隆の年齢その他諸般の事情を考慮すると、原告隆が本件事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、二〇〇〇万円が相当である。
2 原告英瑞及び原告ルリ子の損害その1―慰謝料 各二五〇万円
原告隆の両親である原告英瑞及び原告ルリ子は、原告隆が本件事故によって回復の見込みのない重篤な後遺障害を負ったことにより、原告隆の死亡に比肩すべき精神的苦痛を被ったことは明らかであって、その慰謝料額は、各二五〇万円が相当である。
五 抗弁(過失相殺)について
1 前示のとおり、原告隆は、本件事故の当日において満一六歳であったこと、四歳から一二歳までの間、学校以外で水泳を習っており、自己の水泳能力について相当の自信を有していたこと、過去に手を頭に伸ばして入水する通常の方法で飛込みをしてプールのそこにぶつかったり、顔をこすりそうになったことがあったこと、本件事故の当日、本件プールの水かさが少ないと感じていたこと、飛び込む際には、頭の前に伸ばした手のひらで深度を調節することを知っていたことが認められ、また、原告隆自身も、その本人尋問において、手を頭の前に伸ばして飛び込んでいれば、本件のような傷害を負うことはなかったと思う旨を供述しているのであって、以上のような原告隆の年齢、経験、知識等を総合すると、原告隆は、飛込みの深度を調節し、また、その調節を誤った場合にも、プールの底部に対する激突から頭部を保護すべく、飛び込む際には、手を頭の前にきちんと伸ばして入水すべきであったにもかかわらず、自己の水泳能力を過信して、未経験の「魚雷」式飛込みという危険極まりない方法で飛び込んだ過失により本件事故の発生に至ったものというべきであり、原告隆には、右発生につき五割の過失があったとするのが相当である。
2 右過失相殺により、原告隆の損害は七八一八万六六六七円、原告英瑞及び原告ルリ子の損害は各一二五万円となる。
六 原告英瑞及び原告ルリ子の損害その2―弁護士費用 各一二五万円
弁論の全趣旨によると、原告英瑞及び原告ルリ子は、原告ら訴訟代理人に対し、請求原因4(二)(2)(弁護士費用)のとおり、それぞれ一二五万円を支払ったことが認められるところ、右各支出は、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
七 結論
以上によると、原告らの請求は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求として、原告隆については、七八一八万六六六七円及びこれに対する不法行為の日である平成二年九月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告英瑞及び原告ルリ子については各二五〇万円及びうち各一二五万円に対する不法行為の日である同日から、うち各一二五万円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成五年四月一八日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当であるからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言及び逸脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河本誠之 裁判官 梅津和宏 小林邦夫)