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浦和地方裁判所 平成5年(ワ)584号 判決 1994年7月14日

主文

一  原告と被告株式会社ノヴァとの間において、原告が別紙供託目録(一)記載の供託金の還付請求権を有することを確認する。

二  原告と被告ワールドマネジメント株式会社との間において、原告が別紙供託目録(一)ないし(四)記載の各供託金の還付請求権を有することを確認する。

三  被告株式会社ノヴァは、原告に対し、平成六年六月一日以降、一か月金二〇万円の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決の第三項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、訴外矢野孝夫を債務者とする債務弁済契約公正証書に基づく債権により、裁判所の債権差押命令を得て、同訴外人が別紙物件目録記載の建物(「本件建物」という。)の賃借人である被告株式会社ノヴァ、訴外(分離前の相被告)森泉弘、同岡村幸男、同渡邊貴子に対して有する賃料債権を差し押え、取立権を行使したところ、被告ワールドマネジメント株式会社が、本件建物の賃貸人の地位を訴外矢野孝夫から承継したとして本件建物賃料取得権限が原告に存することを争い、被告株式会社ノヴァを含む前記の本件建物賃借人に対して賃料の支払いを求めたため、右賃借人らにおいて債権者を確知できないとして賃料を供託したことから、原告が被告らに対し、右供託金の還付請求権が原告にあることの確認及び差押えによる取立権の行使としての賃料の支払いを求めたものである。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実

1  原告は、訴外矢野孝夫(以下「訴外矢野」と略称する。)に対する、東京法務局所属公証人岩田農夫男作成にかかる平成二年第一〇二六号債務弁済契約公正証書に基づき、訴外矢野を債務者、被告ノヴァ、訴外(分離前の相被告)森泉弘、同岡村幸男を第三債務者として、訴外矢野が被告ノヴァ、訴外森泉弘、同岡村幸男に対して有する賃料債権について、浦和地方裁判所に債権差押命令の申立をなし、更に、訴外(分離前の相被告)渡邊貴子を第三債務者として同様の申立をした(甲三の一ないし三、甲四により認められる。なお、原告が被告ノヴァを第三債務者として訴外矢野が被告ノヴァに対して有する賃料債権について浦和地方裁判所に債権差押命令の申立をなした事実は、原告と被告ノヴァとの間において争いがない。)。

2  訴外矢野は、被告株式会社ノヴァ、訴外森泉弘、同岡村幸男、同渡邊貴子に対し、左記賃貸借契約に基づき、賃料債権を有していた。なお、いずれの賃貸借契約においても、賃貸期間については定めがなく、賃料は毎月末日限り翌月分を支払う定めである(弁論の全趣旨により認められる。)。

(一) 賃借人 被告株式会社ノヴァ

賃貸借物件 本件建物のうち、一階店舗部分。

賃料 一か月二〇万円

(二) 賃借人 訴外森泉弘

賃貸借物件 本件建物のうち、D号室

賃料 一か月三万六〇〇〇円

(三) 賃借人 訴外岡村幸男

賃貸借物件 本件建物のうち、G号室

賃料 一か月四万五〇〇〇円

(四) 賃借人 訴外渡邊貴子

賃貸借物件 本件建物のうち、F号室

賃料 一か月四万四〇〇〇円

3  前記1記載の原告の債権差押申立に基づく、被告ノヴァ、訴外森泉弘、同岡村幸男を第三債務者とする債権差押命令は、平成三年二月一八日になされ、右命令正本は、訴外矢野に対しては、平成三年二月二七日に、被告ノヴァに対しては平成三年二月二〇日に、訴外森泉弘に対しては平成三年二月二一日に、同岡村幸男に対しては平成三年二月二一日にそれぞれ送達され、また、同渡邊貴子を第三債務者とする債権差押命令は、平成三年三月八日になされ、右命令正本は、訴外矢野に対しては、平成三年三月九日に、訴外渡邊貴子に対しては平成三年三月一四日に送達された(甲三の一ないし三、甲四により認められる。なお、被告ノヴァを第三債務者とする債権差押命令正本が、被告ノヴァに対して平成三年二月二〇日に送達された事実は、原告と被告ノヴァとの間において争いがない。)。

4  被告ノヴァ、訴外森泉弘、同岡村幸男、同渡邊貴子は、前記の各債権差押命令の送達を受けた後、被告ワールドマネジメント株式会社から、同被告が本件建物の賃貸人の地位を訴外矢野から承継したとして、本件建物の賃料の支払請求を受けたため、債権者を確知できないとして、それぞれ、別紙供託目録(一)ないし(四)記載のとおり本件建物賃料を供託した(乙A四ないし一〇、一四ないし二一、乙B一ないし六、乙C一ないし四、乙D一ないし四により認められる。なお、被告ノヴァが原告主張のとおりの供託をした事実は原告と被告ノヴァとの間において争いがない。)。

5  被告ワールドマネジメント株式会社(旧商号・セカイ管理株式会社)は、平成五年一月七日受付をもって、真正な登記名義の回復を原因として、訴外矢野から本件建物の所有権移転登記を経由した(この事実は当事者間に争いがない。)

三  争点

被告ワールドマネジメント株式会社が訴外矢野から本件建物の所有権移転を受けて建物賃貸人の地位を取得したとしても、同被告は原告申立てによる差押えの効力を引き継ぐか否か。

第三  争点に対する判断

一  継続的給付の債権の差押えがなされたとしても、差押債務者は、その継続収入を発生させる原因たる基本の法律関係の処分を禁止されるわけではないから、賃料の差押えが行なわれている場合でもその賃貸不動産の譲渡は可能で、右譲渡がなされ、譲受人への移転登記が経由されたときは、賃貸借関係が譲受人に引き継がれることになるけれども、賃料差押えの効果は、以後も継続し、新賃貸人を拘束すると解すべきである。

二  そして、本件の債権差押命令は、それぞれ平成三年二月一八日及び平成三年三月八日に発せられ、その各正本は、債務者訴外矢野に対しては平成三年三月九日までに、被告ノヴァに対しては平成三年二月二〇日に、訴外森泉弘及び同岡村幸男に対しては平成三年二月二一日に、同渡邊貴子に対しては平成三年三月一四日に送達され、被告ワールドマネジメント株式会社(旧商号・セカイ管理株式会社)の主張によれば、同被告が本件建物の所有権を取得し、その旨の登記を経由して建物賃貸人の地位を承継したのは、平成五年一月七日である。従って、被告ワールドマネジメント株式会社が建物賃貸人の地位を承継したとしても、その時期は、原告の本件債権差押命令が発せられ、かつその命令正本の債務者及び第三債務者への送達がなされた後であるから、同被告は右差押えの効力を引き継ぐことになるといわざるを得ない。

(別紙)

物件目録

一 所在 北本市中丸三丁目三番地・六番地弐・六番地四

家屋番号 三番

種類 店舗 共同住宅

構造 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺弐階建

床面積 一階 九弐・七四平方メートル

二階 九六・〇五平方メートル

二 所在 北本市中丸三丁目六番地参

家屋番号 六番参

種類 共同住宅

構造 軽量鉄骨造スレート葺弐階建

床面積 一階 壱五四・参五平方メートル

二階 壱五四・参五平方メートル

(別紙)

供託目録(一)

供託局 浦和地方法務局大宮支局

供託者の住所氏名 埼玉県北本市中丸三丁目三番地

株式会社ノヴァ

被供託者の住所氏名 埼玉県北本市中丸三丁目七番地

矢野孝夫

又は

東京都北区岸町二丁目一〇番一二号

高畠ハウス二号

ワールドマネジメント株式会社

1 申請年月日 平成五年四月二三日

供託番号 平成五年度金第一八五号

供託金額 金二〇万円

2 申請年月日 平成五年五月一九日

供託番号 平成五年度金第三七〇号

供託金額 金二〇万円

3 申請年月日 平成五年六月二四日

供託番号 平成五年度金第六三五号

供託金額 金二〇万円

4 申請年月日 平成五年七月二〇日

供託番号 平成五年度金第八六〇号

供託金額 金二〇万円

5 申請年月日 平成五年八月二〇日

供託番号 平成五年度金第一〇八二号

供託金額 金二〇万円

6 申請年月日 平成五年九月二二日

供託番号 平成五年度金第一三三二号

供託金額 金二〇万円

7 申請年月日 平成五年一〇月一五日

供託番号 平成五年度金第一五一九号

供託金額 金二〇万円

8 申請年月日 平成五年一一月二二日

供託番号 平成五年度金第一八一八号

供託金額 金二〇万円

9 申請年月日 平成五年一二月二一日

供託番号 平成五年度金第二一〇三号

供託金額 金二〇万円

10 申請年月日 平成六年一月二四日

供託番号 平成五年度金第二三八二号

供託金額 金二〇万円

11 申請年月日 平成六年二月一六日

供託番号 平成五年度金第二五七五号

供託金額 金二〇万円

12 申請年月日 平成六年三月二四日

供託番号 平成五年度金第二八五八号

供託金額 金二〇万円

13 申請年月日 平成六年四月二〇日

供託番号 平成六年度金第八一号

供託金額 金二〇万円

14 申請年月日 平成六年五月一八日

供託番号 平成六年度金第二八五号

供託金額 金二〇万円

供託目録(二)

供託局 浦和地方法務局大宮支局

供託者の住所氏名 北本市中丸三丁目六番地

ハイコーポD号室

森泉 弘

被供託者の住所氏名

1ないし3 埼玉県北本市中丸三丁目七番地

矢野孝夫

又は

東京都北区岸町二丁目一〇番一二号

高畠ハウス二号

セカイ管理株式会社

4ないし6 埼玉県北本市中丸三丁目七番地

矢野孝夫

又は

東京都北区岸町二丁目一〇番一二号

高畠ハウス二号室

ワールドマネジメント株式会社

1 申請年月日 平成五年二月一六日

供託番号 平成四年度金第二六一二号

供託金額 金三万六〇〇〇円

2 申請年月日 平成五年二月一六日

供託番号 平成四年度金第二六一三号

供託金額 金三万六〇〇〇円

3 申請年月日 平成五年三月二五日

供託番号 平成四年度金第二九三四号

供託金額 金三万六〇〇〇円

4 申請年月日 平成五年四月三〇日

供託番号 平成五年度金第二八三号

供託金額 金三万六〇〇〇円

5 申請年月日 平成五年五月三一日

供託番号 平成五年度金第四八八号

供託金額 金三万六〇〇〇円

6 申請年月日 平成五年六月二九日

供託番号 平成五年度金第七二一号

供託金額 金三万六〇〇〇円

供託目録(三)

供託局 浦和地方法務局大宮支局

供託者の住所氏名 埼玉県北本市中丸三丁目六番地

ハイコーポG号室

岡村幸男

被供託者の住所氏名

埼玉県北本市中丸三丁目七番地

矢野孝夫

又は

東京都北区岸町二丁目一〇番一二号

高畠ハウス二号

セカイ管理株式会社

1 申請年月日 平成五年三月五日

供託番号 平成四年度金第二八二一号

供託金額 金四万五〇〇〇円

2 申請年月日 平成五年三月五日

供託番号 平成四年度金第二八二二号

供託金額 金四万五〇〇〇円

3 申請年月日 平成五年五月二一日

供託番号 平成五年度金第三九四号

供託金額 金四万五〇〇〇円

4 申請年月日 平成五年五月二一日

供託番号 平成五年度金第三九五号

供託金額 金四万五〇〇〇円

供託目録(四)

供託局 浦和地方法務局大宮支局

供託者の住所氏名 埼玉県北本市中丸三丁目六番地

ハイコーポF号室

渡辺貴子

被供託者の住所氏名

埼玉県北本市中丸三丁目七番地

矢野孝夫

又は

東京都北区岸町二丁目一〇番一二号

高畠ハウス二号

セカイ管理株式会社

1 申請年月日 平成五年二月一六日

供託番号 平成四年度金第二六一四号

供託金額 金四万四〇〇〇円

2 申請年月日 平成五年二月一六日

供託番号 平成四年度金第二六一五号

供託金額 金四万四〇〇〇円

3 申請年月日 平成五年三月二五日

供託番号 平成四年度金第二九二二号

供託金額 金四万四〇〇〇円

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