浦和地方裁判所 平成8年(ワ)422号 判決 1999年2月26日
原告
福岡要
被告
田原礦油株式会社
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金一三八万九八二〇円及び内金一二五万九八二〇円に対する平成五年五月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して、金二四一万九八二〇円及び内金二一六万九八二〇円に対する平成五年五月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、追突された自動車の運転者である原告が、追突した自動車の運転者・被告林に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を、被告会社に対し、被告林の損害賠償債務を連帯保証したとしてその履行を求めた事案である。
一 次の交通事故(以下「本件事故」という。)の発生は、当事者間に争いがない。
1 発生日時 平成五年五月七日午前八時一五分ころ
2 発生場所 埼玉県八潮市大曽根町三九九番先路上
3 事故態様 原告の運転するトヨタカローラⅡ(大宮七七ね七六九七、以下「原告車」という。)が右発生場所の交差点(以下「本件交差点」という。)において被告林の運転するマツダボンゴ(足立四六ひ六八六五、以下「被告林車」という。)に追突され、原告が負傷した。
二 争点
1 被告らの責任原因
(一) 原告の主張
(1) 被告林には、前方注視義務を怠った過失がある。
原告は、本件交差点に差し掛かり、手前の一時停止線の直前で停止した後、先行車両に続いて五ないし一〇キロメートルの速度で自車を進行させて約四・五メートル進行し、左右の安全が確認できる地点で、再び一時停止し、左右の安全を確認したところ、約三五メートル左方に本件交差点に進行してくる大型トラックを認め、これをやり過ごすため、ブレーキペダルを踏んでそのまま停止していたところ、被告林車の左前部が原告車の後部中央部に追突した。
(2) 被告会社は、原告に対し、平成五年五月一九日、被告林の本件事故による損害賠償債務を連帯保証することを約した。
(二) 被告らの主張
(1) 被告林は、原告が本件交差点手前の一時停止線付近に原告車を停止させたのに続いて、その後方に被告林車を停止させ、原告車が発進したので、一時停止線付近まで進行して一時停止し、その後、続いて発進すべく、右側の安全を確認しつつ発進を開始したところ、そのまま進行すると思われた原告が急制動したので、直ちに自らも急制動したが、間に合わず、原告車の後部中央部に被告林車の左前部を衝突させたものである。衝突地点は、原告の主張する地点よりさらに本件交差点内に進行した地点であり、本件事故は、原告が、左方の安全確認を怠り、左方からの車両の発見が遅れ、これとの衝突を回避するために急制動して停止したものか、無用・無益な停止をしたことにより発生したものである。
よって、被告林に過失はない。
(2) 仮に被告林に過失があったとしても、原告に過失があったことは右のとおりであるから、過失相殺を主張する。
(3) 原告の主張(一)(2)は否認する。
2 原告主張の損害
(一) 検査料(平成五年五月二八日 等潤病院) 金三八〇〇円
(二) 後遺障害診断書料(平成六年七月三〇日 鳳永病院) 金四一二〇円
(三) 通院交通費(ガソリン代) 金八万一九〇〇円
(四) 慰謝料(通院分 金一三六万円、後遺障害分 金七五万円)
(1) 原告の主張
原告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、平成五年五月八日から平成六年五月二一日までの間に、九一日医療法人親和会鳳永病院に通院し、左上肢知覚低下及び知覚異常の後遺障害が残っている。
(2) 被告らの主張
仮に原告に本件事故後頸椎捻挫等の病状があらわれたとしても、それはいわゆる持病(加齢変性等)として持っていたものの病状があらわれたに過ぎない
そうでないとしても、原告の頸椎捻挫等についての本件事故の寄与度は、一〇ないし二〇パーセント程度のものに過ぎない。
(五) 弁護士費用 金二五万円
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 甲第八号証、第一〇号証の一ないし六、第一五号証、乙第三号証の一、二、第四号証の一ないし四、第五号証、原告・被告林各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告(昭和二三年生)は、当時運送会社に勤務していた者であるが、原告車を運転して出勤途中、本件交差点に差し掛かり、これを直進しようとした。本件交差点には信号機が設けられていないが、原告車の前に車が停止していたので、原告は、これに続いて本件交差点手前の一時停止線の直前で停止した後、前方が下り勾配であるのでブレーキをゆるめ、先行車両に続き、変則交差点であるため左に少しハンドルを切りながら、ゆっくりと自車を進行させて約四・五メートル進行し、再び一時停止し、左右の安全を確認したところ、約三五メートル左方に本件交差点に進行してくる大型トラックを認め、これをやり過ごすため、ブレーキペダルを踏んだまま停止していたところに、被告林車に追突された。
(二) 被告林(昭和六年生)は、当時金属加工業を営んでいた者であるが、自宅から工場に向かう途中、本件交差点手前に至り、原告車に続いて進行し、これを左折しようとした。被告林は、原告車が停止したのに続き、その後方に被告林車を停止させ、原告車が発進したので、発進を開始したところ、そのまま進行すると思われた原告がブレーキを踏んで停止したので、自らも急制動したが、間に合わず、原告車の後部バンパー中央部に被告林車の左前部バンパーを衝突させた。
なお、衝突地点は、証拠上確定することができないが、原告車が本件交差点内に僅かに入った地点と推認される。
2 右に認定したところによれば、被告林に前方注視義務を怠った過失があることは明らかであり、一方、原告に左方の大型トラックの発見が遅れ、急停止するなどの損害額の算定につき斟酌すべき過失があったとは認められず、被告らの過失相殺の主張は採用することができない。
3 甲第四ないし第六号証、第七号証の一、二、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告会社が、原告に対し、平成五年五月一九日、被告林の本件事故による損害賠償債務を連帯保証することを約したことが認められる。
二 争点2(原告主張の損害)について
1 甲第一八号証、乙第七、第八号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告主張のとおり、原告が、本件事故による傷害の治療のための検査料として金三八〇〇円、後遺障害診断書料として金四一二〇円、通院交通費として金八万一九〇〇円を負担したことが認められ、これらは本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。
2 甲第一号証、第一〇号証の六、第一二号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負い、平成五年五月八日から平成六年五月二一日までの間に、九一日医療法人親和会鳳永病院に通院し、平成六年七月三〇日に症状が固定したと診断され、左上肢知覚低下及び知覚異常の後遺障害が残っていることが認められる。被告会社は、右後遺障害について、素因(椎間板の加齢性退行変性)の存在を考えると、本件事故の寄与度は一〇ないし二〇パーセントであるとする医師中尾清孝作成の意見書(乙第一、第二号証)を提出し、これに対し、原告は、本件事故により原告に鞭打ち損傷の発生する条件が十分に具備されているとする藤岡弘美作成の意見書(甲第一三号証の二)及び素因を考慮した本件事故の寄与度を五〇パーセントとする医師藤田知彦作成の意見書(甲第一四号証)を提出する。これらの意見書を考慮し、本件事故の態様、傷害の程度、その他本件にあらわれた諸般の事情を総合勘案すると、原告に対する慰謝料は、通院分として金八〇万円、後遺障害分として金四〇万円が相当である。
3 弁護士費用
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金一三万円と認めるのが相当である。
4 以上の原告の損害の合計は、金一四一万九八二〇円であるところ、原告が、被告会社から金三万円の損害の填補を受けたことは、争いがないから、損害の残額は金一三八万九八二〇円である。
第四結論
以上によれば、原告の請求は、被告林に対し損害賠償債務の履行として、被告会社に対し連帯保証債務の履行として、連帯して、金一三八万九八二〇円及び弁護士費用を除く内金一二五万九八二〇円に対する本件事故発生の日である平成五年五月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。
(裁判官 河本誠之)