浦和地方裁判所 平成8年(行ウ)22号 判決 1998年1月26日
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が平成八年六月五日付けでした、原告及び浅子友二の平成八年度固定資産課税台帳に登録された事項についての審査請求を棄却する旨の決定を取り消す。
第二 事案の概要等
一 事案の概要
本件は、原告及び選定者浅子友二(以下「原告ら」という。)が、越谷市長(以下「原処分庁」という。)が決定し、平成八年度固定資産課税台帳に登録された別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)の価格等について不服があるとして審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたところ、被告がこれを棄却する旨の決定(以下「本件審査決定」という。)をしたので、原告が選定当事者として、(1)右決定は本件土地の評価を誤った違法がある、(2)本件審査決定の手続に違法があるとして、その取消しを請求した事案である。
二 本件処分に関連する法制
1 地方税法(以下、単に「法」というときは、地方税法を指す。)は、固定資産に対し、当該固定資産の所在する市町村において固定資産税を課することとしている(法三四二条)。そして、固定資産の価格は、自治大臣が定めて告示した固定資産評価基準によって、市町村長が決定する(法三八八条一項、四〇三条一項)。
2 固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日であり(法三五九条)、土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、基準年度の賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税台帳(以下「土地課税台帳等」という。)に登録されたものである(法三四九条一項)。ここでいう価格とは、適正な時価をいい(法三四一条五号)、基準年度とは、昭和三一年度及び昭和三三年度並びに昭和三三年度から起算して三の倍数の年度を経過したごとの年度をいう(法三四一条六号)。
3(一) 基準年度に係る賦課期日に所在する土地(以下「基準年度の土地」という。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第二年度(基準年度の翌年。法三四一条七号)、第三年度(第二年度の翌年。ただし昭和三三年を除く。法三四一条八号)においても、原則として基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格で土地課税台帳等に登録されたものである(法三四九条一ないし三項)。
(二) しかし、第二年度又は第三年度において、当該土地について、地目の変換その他これらに類する特別の事情等があるため、基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格(第三年度については、第二年度において比準価格によっているときは第二年度の価格)によることが不適当である場合等には、市町村長は、当該土地に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格で当該土地を評価しなければならず、当該土地の固定資産税の課税標準は、右比準価格で土地課税台帳等に登録されたものである(法四〇九条一項、四一〇条、三四九条二項ただし書、三項ただし書)。
4 市町村長は、登録した価格等が前項(二)により比準した価格によって決定したものであるときは、遅滞なく、その旨を当該土地に対して課する固定資産税の納税義務者に通知しなければならない(法四一一条一項)。
5 固定資産評価基準は、市街地的形態を形成している地域における宅地の評価をいわゆる路線価方式によって評価することとし、各筆の評点数を第一章別表第3「画地計算法」を適用して付設するものとしている。そして、その際の評価単位については、「画地計算法」の2において、「各筆の宅地の評点数は、一画地ごとに画地計算法を適用して求めるものとする。この場合において一画地は、原則として、土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録された一筆の宅地によるものとする。ただし、一筆の宅地又は隣接する二筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体としている部分の宅地ごとに一画地とする。」と定めている。
6 土地についての固定資産税の納税者は、土地課税台帳等に登録された事項(土地登記簿に記載された事項等を除く)に不服がある場合には、市町村に設置された固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(法四三二条一項本文)、その決定に不服がある場合には、審査決定の取消しの訴えを提起する方法によってのみ争うことができる(法四三四条一項、二項)。
ただし、第二年度及び第三年度において、いわゆる価格の据置きがなされた場合には、法三四九条二項一号に掲げる事情があるため同条同項ただし書、三項ただし書又は五項ただし書の規定の適用を受けるべきものであることを申し立てる場合以外は、審査の申出をすることができない(法四三二条一項ただし書)。
三 本件の経緯及び前提的事実(証拠により認定したものは、括弧書きにより掲記する。)
1 原告らは、平成八年度の本件土地の固定資産税の納税者である。
2 本件土地の分合筆及び処分の経緯等
(一) 本件土地に該当する部分は、平成六年一月一日現在において一筆の土地(本件土地と地番及び地積、範囲は同一である。便宜上、「旧本件土地」という。)であり、吉井新一の所有であった(〔証拠略〕)。なお、右当時、旧本件土地上には居宅が存在した(〔証拠略〕)。
原処分庁は、平成六年度の旧本件土地の価格を八〇四九万二九四〇円と決定した。
(二) 旧本件土地は同年七月二七日に東西に細長い別紙物件目録(二)記載の三筆に分筆登記され、そのうち同目録記載二の土地は豊田實に、同目録記載三の土地は成田喜美子にそれぞれ所有権移転登記がされた(〔証拠略〕)。なお、右土地上に存した居宅は、同年一〇月一九日に取り壊され(〔証拠略〕)、右三筆の土地は更地となった。
(三) 原告らは、同年一一月一六日、右三筆の土地を譲り受け、同月二八日、原告らの共有名義で所有権移転登記がされた。
(四) 平成七年一月一日現在において、右各土地は三筆のまま、いずれも原告らの共有であった。
(五) 原処分庁は、右各土地の平成七年度固定資産評価において法三四九条二項ただし書に該当するものとして評価替えを行い、右各土地の平成七年度の価格をそれぞれ決定した。右三筆の土地の価格の合計は七四七七万一八五二円であった。
(六) 原告らは、同年二月三日、右三筆の土地を合筆し(以下「本件合筆」という。)、その旨登記した。
(七) 平成八年一月一日現在、本件土地は更地で一筆の土地であり、原告らの共有であった。
3 本件土地の価格決定
原処分庁は、本件土地の平成八年度固定資産評価において、平成八年の賦課期日において土地の区画形質に変更があり、法三四九条三項ただし書に該当するものとして評価替えを行い、本件土地の価格を八〇四九万二九四〇円と決定(以下「本件価格決定」という。)し、右価格が土地課税台帳に登録された。
原処分庁の本件価格の決定は、旧本件土地の平成六年度の価格に比準して算出された。
4 原処分庁は、原告らに対し、右価格決定及び登録価格について、法四一一条一項に基づく通知をしていない。
5 原告らの本件審査請求及び本件審査決定
(一) 原告らは、法定の不服申立期間内である平成八年五月二日、被告に対し、本件土地の固定資産課税台帳の登録事項に関し、本件審査請求をした。
(二) 被告は、同年六月五日、本件審査決定をし、右決定の通知書は同月六日に原告らに送達された。
四 本件の争点
1 本件土地の平成八年度登録価格の決定は適法か。
(一) 本件合筆は、法三四九条三項ただし書、同条二項一号に定める特別の事情に該当するか。
(二) 本件土地の面積が周辺の宅地より広いという要因による価格の補正の要否は、本件審査請求の対象となるか。またもこの要因を考慮しなかった本件価格決定は適法か。
(三) 本件価格決定には、前記特別の事情の有無の判断基準日を誤った違法があるか。
(四) 原処分庁が、原告らに対して法四一一条一項の通知をしなかったことは、本件価格決定の適否に影響を与えるか。
2 本件審査決定の手続は適法か。
五 原告の主張
1 本件価格決定は、以下の点で違法である。
(一) 法三四九条二項一号に掲げられる地目の返還その他これらに類する特別な事情とは、その土地の全部又は一部について、用途変更による地目の変換又は浸水、土砂の流入、隆起、陥没、地すべり、埋没等によって当該土地の区画、形質に著しい変化があった場合等をいう。そして、ここでいう区画、形質の著しい変化とは、自然的変化の外、一団の土地を造成して複数の宅地を区割りするような場合が該当するのであって、土地の分合筆による納税者間の不公平を防止するため、利用上何らの変化ももたらさない単なる分合筆は含まれないと解すべきである。行政実例においても、単なる合筆の場合においては、合筆後の土地の価格が当該合筆前の土地の基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格と一致するように評価するものとされている。
本件土地は、平成七年度及び平成八年度の賦課期日現在においていずれも未利用の更地であり、平成七年二月三日に本件合筆をした以外に何ら物理的にも利用形態的にも変化はない。平成八年度の本件価格決定は、今後一体利用されるか、分割利用されるのか特定できない状況のもとでの評価であるから、原処分庁の側で勝手に一体利用を前提とする評価をすることは避けるべきである。
したがって、本件土地の平成八年度の価格につき、一体利用地として新たに平成七年度の価格を上回る価格を決定した原処分庁の本件価格決定は違法である。
(二) 仮に、本件合筆が前記の特別の事情に該当するとしても、その場合の不服については、評価替えに当たっては、画地計算法に規定されている要因だけでなく、不動産の評価額に影響を及ぼすその他の価格形成要因も考慮すべきである。
本件土地の地積は三四九・〇八平方メートルであり、周辺の画地の平均地積一〇〇ないし一六五平方メートルと比較してかなり広く、また、立地条件が良く地価水準が高いことから、土地の価格の総額は大きくなる。このような総額の大きい土地は市場性が劣り、不動産鑑定評価において相当な減価要因となるから、これを考慮すべきである。
また、画地計算法を適用する場合においても、固定資産評価基準では、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「画地計算法」の付表等について、所要の補正をすることとしているのであるから、本件土地の評価でも、この所要の補正において面積過大の減価要因を考慮すべきである。
(三) 特別の事情の有無の基準日を誤った違法
平成八年度において本件土地に前記特別の事情があったかどうかは、平成七年度の賦課期日の翌日から平成八年度の賦課期日までに発生した事情によってのみ決定すべきであり、平成六年度の賦課期日の翌日から平成七年度の賦課期日までに発生した事情は、平成七年度の評価額に織り込まれ、吸収されているから、これを考慮すべきでない。したがって、被告が平成八年度における本件土地の評価を決定するに当たり、平成六年度の賦課期日の翌日から平成七年度の賦課期日までに発生した事情を考慮したのは、法三四九条三項の解釈を誤ったものであって、違法である。そして、平成七年度の賦課期日と平成八年度のそれにおける本件土地の状況を対比すると、その差異は、平成七年度の賦課期日においては三筆であったものが、平成八年度の賦課期日においては一筆になっただけであるから、平成八年度の賦課期日に前記特別の事情がないことは、明らかである。
(四) 通知義務違反
法四一一条一項は、第二年度又は第三年度の価格が比準価格によって新たに決定された場合には、市町村長から当該固定資産の納税義務者に通知をすることとしている。これは、固定資産の価格の決定では土地の評価額は三年間据え置かれるのが原則であるので、第二年度及び第三年度には、納税者は、その所有する土地の評価額は据え置かれたものと判断し、縦覧期間中の課税台帳の縦覧をなおざりにしがちであることから、この通知によって、審査申出や行政訴訟提起等の法的措置を講じる機会を逸しさせないようにしたものである。
そして、前年中に土地の所有権移転登記がされた場合等には、納税義務者は前年度(前所有者当時)の固定資産課税台帳を縦覧することを許されないから、当該年度の固定資産課税台帳を縦覧しただけでは特別の事情による評価替えの有無は確知できず、法四一一条一項の通知によって初めて特別の事情による評価替えがなされたことを知り得るような場合があるから、右通知が単に縦覧制度の補充的、便宜的役割を有するにすぎないということはできず、両制度が一体となって納税者の権利を保護しているものである。したがって、本件においても、原処分庁の価格の決定手続には、法四一一条一項の通知をしなかったという重大な瑕疵が存し、右瑕疵は、原告らがたまたま固定資産課税台帳を縦覧してその内容を了知したことによって治癒されるものではないから、このような瑕疵ある決定に基づく固定資産課税台帳の登録事項は無効である。
2 本件審査決定は、次のとおり決定手続に違法があり、取り消されるべきである。
(一) 決定書作成手続等の違法
被告は、固定資産課税台帳に登録された事項に関する不服を審査決定するために、法四二三条により独立的、中立的機関として設置されたものであり、納税者から審査の申出があった場合には、公平、中立的な立場から審査することが義務付けられている。ところが、本件審査決定における審理の方法も決定書の作成方法は、以下のとおり、固定資産評価委員会の独立的・中立的機関性を定めた右規定に反するものであって、違法である。
(1) 本件審査請求の口頭審理が終了したのは午後三時四五分であり、これに引き続き午後四時から四時三五分までの間、委員会会議が開催された。この委員会には、被告委員三名と書記の他、越谷市税務部長をはじめとする越谷市の担当職員が議事等参与者として出席している。そして、資産税課長の補足説明がなされた後、被告委員からの質問とこれに対する回答があり、被告は本件の審査請求を棄却することに決定している。その後、書記が棄却決定通知書の文案を朗読し、原案について被告委員ら全員の承認を得ている。
しかし、この委員会会議には不可解な点が多い。まず、口頭審理後このような短時間で、書記が本来の職務以外に、被告委員らの了承を得られるほど完成度の高い決定書案を作成することはほとんど不可能であり、そうすると、当日の委員会では事前に書記と越谷市職員によってほとんど作成されていた決定書案が朗読された可能性が高い。また、本来作成に数日はかかると思われる決定書案について、口頭審理終了後一時間も経過しないうちに被告委員らがそのまま承認していることからすると、被告委員らには当初から決定書案をそのまま採用しようという意向があったといわざるを得ない。さらに、被告委員らが審査申出人の同席していない場で越谷市職員に質問することが認められるとしても、回答を得た後は、書記以外の越谷市職員を退席させた上で、被告委員らのみで協議するべきであるにもかかわらず、越谷市の担当職員は、被告の委員会会議の最後まで出席していた。
しかも、決定書案等の決裁過程の起案文書などについて、被告委員ら、書記以外の越谷市職員が合議している。正式な決定書案の起案文書の決裁過程に越谷市職員が関与していれば、起案内容が原処分庁の都合の良いように修正されることは容易に想像されるところであり、仮に、単に目を通しただけだとしても問題がある。このことも、決定書案の作成に原処分庁が関与していると推定させる事実である。
このような経緯からすれば、本件審査決定は、決裁の最終権限は被告にあるとしても、実質的には、被告と越谷市職員の共同によってなされたものと推認される。
(2) また、正式な棄却決定書の決裁をしたのは被告委員全員ではなく被告委員長一人であり、したがって、被告委員長以外の二名の被告委員らは、正式な棄却決定書の内容について十分認識していなかった。事前に了承した決定書案と正式な棄却決定書が同一の内容になるとは限らないので、当該二名の被告委員も最終決裁に加わるべきであったにもかかわらず、被告の右二委員はこれをしなかったのであるから、本件審査決定は、その決定方法及び手続に不備がある。
(3) このように、被告の審査決定手続において、口頭審理は単に形式上行われただけであって、棄却決定通知書の実質的作成権限は、越谷市の一職員である書記及びその上司である税務部長、資産税課長にあり、被告委員らは単に同意権があるにすぎない制度となってしまっていることが推察される。
本来、決定書は、固定資産評価審査委員会の委員が、外部から一切干渉されることなく、審査申出人及び原処分庁から提出された資料、自ら職権で調査した事項等を基にして自由心証主義により作成すべきものである。しかし、本件審査決定は、決定案の作成を原処分庁の職員に任せ、さらに処分をした当事者と合議していたのであって、これによれば、決定書が原処分庁側に偏向した内容となっているおそれがある。
(二) 口頭審理の終結
本件審査決定の棄却決定通知書は、平成八年六月六日午前一〇時頃、被告から原告らに郵送されたが、原告らは、同日午前九時、被告に対し口頭審理の継続を要請する依頼文書を内容証明郵便で発信し、右内容証明郵便は、翌七日に被告に配達された。棄却決定通知書が効力を発生するのは原告らに郵送された時であり、依頼文書が効力を発生するのは原告が発信した時であるから、棄却決定通知書の効力が発生する前に原告らは審査継続を依頼したものである(法四三三条七項、法四三二条二項、行政不服審査法四二条一項、二項、一四条四項)。
固定資産評価審査委員会に期待される役割は、中立的機関である委員会の審理により固定資産の評価の客観的合理性を担保して納税者の権利を保護するとともに、固定資産の適正な賦課を期すことにあり、また、口頭審理の制度は、当事者に主張立証の機会を与えて、委員会の判断の基礎及びその過程の客観性と公平を図る趣旨に出るものと解される。そうであれば、とりあえず口頭審理が終了した場合でも、棄却決定通知書の効力発生前に審査請求人から口頭審理継続の依頼があれば、これを受理して継続することが制度の趣旨に合致する。特に、原告ら代理人が審理当日の口頭審理開始直前に原処分庁の答弁書を渡されたためにその内容を十分理解しないうちに審理が始まり、また、原告ら代理人が審理の進行について不慣れであったという本件審査請求の口頭審理の経緯からすれば、被告が決定をするに熟したと判断するに当たっては、審理が手続に従って行われ、当事者から継続要請がなかったという形式面を充たすだけでなく、一回目の口頭審理終了の際、原告ら代理人に審理継続を希望するかどうかを確認するなどの配慮をしたかどうかという実質面も勘案することが要請される。しかし、本件ではそのような実質面を充たしていないから、被告には原告らの継続依頼を拒否する正当な理由がなかった。
このように、被告は、審理継続の依頼を拒絶する正当な理由がないにもかかわらず、審理を打ち切って決定したものであって、本件審査決定手続には重大な瑕疵があるから、本件審査決定は取り消されるべきである。
(三) 職権探知主義違反
固定資産評価審査委員会の審理には、同法四三〇条、四三一条により職権探知主義が適用されているから、被告は原処分庁が本件土地を評価替えした根拠とする同法三四九条三項ただし書が準用する同条二項一号に規定する特別の事情の内容及び法四一一条一項の通知の有無についても十分調査すべきであったにもかかわらず、右調査を怠った違法がある。
六 被告の主張
1 本件土地の評価額の適法性
(一) 本件土地の評価方法
(1) 前記固定資産評価基準第一章別表第3によると、各筆の宅地の評点数は、原則として、土地課税台帳等に登録された一筆の土地であり、一画地の宅地ごとに画地計算法を適用して付設することとなるが、この一筆の土地とは、原則として不動産登記簿謄本において一筆とされている土地と同一である。そして、例外として、二筆以上の土地が現実に一体として利用されている場合には、土地の現況により、これらの土地を一筆の土地とみなして評価額を算定することができる。
(2) このように、原則として登記簿上の一筆の土地が一画地とされるから、前年度の賦課期日の翌日から当年度の賦課期日の間に土地が合筆あるいは分筆された場合には、法三四九条二項一号にいう「その他これらに類する特別な事情」に含まれる区画の著しい変更に該当する。
ちなみに、行政実例にいう「単なる分合筆」とは、一筆の土地を一体として利用している状態のままで分筆するような場合、あるいは二筆以上の土地を一体として利用している状態のままで合筆したような場合のことをいい、現実に利用されていない土地の区画の認定は、不動産登記簿上の筆数によって、その筆ごとに区分されたものとして判断すべきものである。
(3) 平成七年度の賦課期日においては、本件土地に該当する部分は、現実に利用されていない東西に細長く三筆に分筆された更地であり、これらの土地の所有者である原告らは賦課期日の直前である平成六年一一月二八日に三名の所有者から所有権を取得したが、右三筆は一体として利用されていなかったので、原処分庁は、固定資産評価基準における原則どおり、登記簿上の筆ごとに区分された土地として評価額を算定した。
しかし、平成八年度の賦課期日においては、本件土地は、平成七年二月三日の合筆により一筆の更地となっていたので、法三四九条二項一号にいう「その他これらに類する特別な事情」がある場合に当たったから、前記三筆をそれぞれ独立に評価した第二年度の価格によることが不適当であって、固定資産評価基準に従って登記簿上の筆ごとに一筆一区画として評価額を算定すべきであった。そこで、原処分庁は、法三四九条三項ただし書に基づいて新たに価格の決定を行い、その際、旧本件土地の基準年度の価格に比準して右価格を算出した。
以上のとおり、本件価格決定は、法及び固定資産評価基準に従ってなされたものであって、何ら違法な点はない。
(二) 固定資産評価基準による所要の補正の要否
(1) 前記第二の二3(二)のとおり、本件土地の価格は、本件土地に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格で土地課税台帳に登録されることになるから、その価格の決定は、第三年度の賦課期日における本件土地が基準年度の賦課期日に存在したものとして、その基準年度の価格、すなわち基準年度の路線価に比準して評価した価格を算定する方法によることになる。そうすると、新たに標準地を選定した上でその適正な価格を求め、それをもとに路線価を付設替えして算出するものではないから、基準年度において路線価を算定する手続である、「標準地の選定と適正な時価の評定」、「路線価の付設」といった評価の内容については、基準年度における審査申出期間の経過によって既に確定したものであって、本件審査請求の対象とはならないものである。
(2) また、固定資産評価基準所定の所要の補正とは、市町村長の裁量の範囲を示したものであって、傾斜地、無道路地、高圧送電線の下の土地等、所定の算定方式に従って算出したのでは適正な価格とはいえないと市町村長が判断した場合に補正が行われる。しかし、土地の面積の大小という要素については、それだけで土地の単位面積当たりの価格が当然に低くなるとする根拠がないばかりでなく、その判断基準は極めて曖昧であって明確な基準を設定することはできない。
したがって、原処分庁が本件土地の面積を理由として所要の補正を行わなかったことには、何ら違法はない。
(三) 原処分庁は、右(一)のとおり、本件土地の平成八年度の賦課期日における状態と前年度の賦課期日におけるそれを対比して、前記特別の事情があると判断したものであって、原処分庁には、その判断の基準日を誤った違法はない。
(四) 通知の欠如
原処分庁は、原告らに法四一一条一項の通知をしていないが、これは、納税義務者の便宜を図るための補充的制度であり、固定資産課税台帳縦覧の制度がある以上、通知がないことによって決定された価格等が無効となるものではない。
原告らは、所定の期間内に固定資産課税台帳を縦覧し、所定の期間内に審査申出をしており、右通知がなされなかったことは、原告らの権利行使に何らの影響も与えていない。
したがって、右通知がなされなかったことは、本件審査決定の取消事由とはならない。
2 審査手続の適法性
(一) 決定手続等の適法性
被告は、審査申出人の申出書とその代理人による口頭の主張・説明を聞くとともに、原処分庁から提出させた答弁書と資料を検討し、かつ、原処分庁の担当者に詳細な事実関係を説明させた結果、審査申出人の申出には理由がないと判断した。
被告は、各委員の責任において判断し、三人の委員の合議に基づいて決定を行ったものであり、書記には右合議の結果に基づく決定書の案を起案させたけれども、書記は審査の内容に立ち入って判断したり決定したりする権限はない。
(二) 口頭審理終結の適法性
被告は、決定をするに熟したと判断して口頭審理を終結したのであり、審理手続についての最終決定権は被告にある。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 争点1(一)について
(一) 前記第二の二3のとおり、法は、基準年度の土地に対して課する固定資産税の課税標準は、第二年度、第三年度においても、原則として基準年度の固定資産税の課税標準の基礎となった価格で土地課税台帳等に登録されたものとされるとしつつ、賦課期日において地目の変換その他これらに類する特別の事情等があるため、基準年度の固定資産税の課税標準の基準となった価格によることが不適当であると認める場合等においては、市町村長は、当該土地に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格で当該土地の価格を決定しなければならないとしている。
これは、税負担の安定及び課税事務の簡素化を図る目的で、課税標準となる土地の価格を原則として三年間据え置く制度を採用した上で、据置期間中に土地の状況が変化して価格形成要因に大きな変化が生じたと認められる場合には、課税の公平を図るために、新たな価格を決定することとしたものと解される。
(二) ところで、固定資産評価基準第一章別表第3の2によれば、土地の評価においては原則として一画地ごとに評点数を求めることになる。この場合の一画地とは、土地課税台帳に登録された一筆の土地であり、土地課税台帳には土地登記簿からの登録事項の移記が予定されていることからすると、土地登記簿における一筆が一台帳となり、かつ、評価の単位である一画地となるのが原則である(法三八一条一項参照)。そして、前記のように固定資産評価基準一章別表第3の2によれば、隣接する二以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分ごとに一画地とするものとされている。
次に、固定資産評価基準で定められる宅地の評価方法において、土地の形状が比準する際の重要な要素とされていることは当裁判所に顕著な事実である。そこで、宅地において、例えば第三年度の賦課期日前に数筆の宅地が合筆された場合、これらの宅地が合筆以前においてその形状、利用状況等により一画地として評価されていたときは、合筆されたからといって法三四九条三項ただし書により準用される同条二項一号の特別の事情があるものとはいえないが、これとは異なり、合筆前の数筆の土地が一体をなしていなかったようなときは、合筆により、通常一画地としての形状に変更を生じるのであって、その際、評価単位としての一画地の形状が著しく変化すれば、固定資産の課税標準の基礎となる価格について、課税の公平を損ねる事態が生じることは明らかである。したがって、宅地の場合、合筆により当該土地の区画に著しい変化があった場合には、比準価格によるべき特別の事情があるというべきである。
前記第二の三2のとおり別紙物件目録(二)記載の三筆の土地は平成六年一〇月一九日以後本件分筆に至るまで更地であり、したがって、右三筆の土地は本件合筆前に一体として使用されていたものではなかったところ、〔証拠略〕によれば、本件土地は、平成七年度の賦課期日において細長い三筆の宅地であったものが、本件合筆により、平成八年度の賦課期日において、面積三四九・〇八平方メートルの正方形に近い形状の一筆の土地となったことが認められる。そこで、右事実によると、本件土地は、本件合筆により平成八年度の賦課期日において土地の区画に著しい変更があったものということができるから、原処分庁が、本件価格決定において、第二年度の価格で評価することが不適当な場合に該当すると認めたことに違法はない。
2 争点1(二)について
(一) 法四〇九条一項、三四九条三項ただし書によれば、第三年度において同条二項一号に定める特別の事情等がある場合の土地の評価は、当該土地に類似する土地の基準年度の価格に比準する価格によって決定される。これは、第三年度において当該固定資産の価格を新たに決定する場合において、当該土地と同一の諸条件を備える基準年度の土地は存在しないのが通常であるから、条件の類似する土地の価格から比準することとし、また、固定資産の価格は三年間据え置かれるのが原則であるから、他の固定資産との評価の均衡を維持するために、基準年度の価格から比準する方法によるとしたものと解される。したがって、法及び固定資産評価基準の規定によれば、本件価格決定においては、本件土地に類似する土地の基準年度の価格から比準する方法によるべきこととなる。
ところが、原処分庁は、前記のように、旧本件土地の平成六年度の価格から比準する方法で本件土地の価格を算定した。
しかしながら、本件土地は、一筆の土地が第二年度の賦課期日までに分筆され、その後、第三年度の賦課期日までに合筆されて基準年度の賦課期日における形状に戻ったものであって、本件土地と全く同じ条件の土地の基準年度の価格が存在するという例外的な事例である。原処分庁の本件価格決定は、このような特殊な事例において、本件土地と全く同じ条件を備える旧本件土地を類似する土地として選定し、この基準年度の価格に比準する方法により評価したものということができる。そうすると、当該土地に類似する土地の基準年度の価格から比準するという制度の趣旨は、前記のように他の固定資産との評価の均衡の維持にあることをも併せ考えれば、本件土地と全く同一の条件にある旧本件土地の基準年度の価格から比準して算定した本件価格決定に不合理な点はないというべきである。
(二) ところで、法四三二条一項によれば、固定資産税の納税者は、第二年度、第三年度の登録価格について不服があるときは、これが法三四九条二項一号に掲げる事情があるために比準価格によるべきものであることを申し立てる場合には、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができるところ、このように比準価格によるべき場合において、土地の比準価格とは、前記のように、当該土地に類似する土地の基準年度の価格から比準されたものである。そして、類似する土地の基準年度の価格が既に確定しているときは、何人も最早これを争うことはできないから、納税者が基準年度の価格が決定される時に右類似する土地の所有者でなかったときにおいても、第二年度、第三年度において、前記特別の事情があるためその所有する土地の価格が新たに決定されるに当たっては、類似する土地の基準年度の価格を当然前提とすべきものである。そこで、旧本件土地の基準年度の価格が確定していることは、弁論の全趣旨により明らかであるから、原告らも、本訴において、旧本件土地の平成六年度の価格を争うことはできないのであり、この点は、旧本件土地の面積過大を理由としてその減価を主張する場合においても同様である。
(三) もっとも、原告の主張は、類似する土地の基準年度の価格から本件土地の価格を比準するに当たり、面積が過大であることを減価要因として、固定資産評価基準における「所要の補正」をすべきであるという比準の方法についてのものと解されなくはない。
しかし、旧本件土地の基準年度の価格の算定において面積の過大を理由として減価されていなかったとしても、旧本件土地と本件土地は諸条件が同じであるから、旧本件土地の基準価格から本件土地の価格を比準するに当たり、本件土地の価格の算出においてだけ面積の過大を考慮することは不合理である。したがって、右比準に当たり、「所要の補正」をすべきであったということはできない。
ちなみに、固定資産評価基準第一章第三節二(一)4は、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「画地計算法」の付表等について、所要の補正をして、これを適用するものとしているが、具体的にいかなる場合にこの補正を施すべきかは、法及び固定資産評価基準からは明らかでなく、一般的に、この補正を行うか否かは、市町村長の裁量に委ねられているものと解される。しかし、固定資産評価基準が法の定める適正な時価の算定方法を定めたものであることからすると、評価の対象となる土地の個別的価格形成要因が価格に大きな影響を与えるものであり、当該要因を考慮しないで固定資産評価基準に従って評価した場合には、適正な時価を上回るような特段の事情がある場合には、市町村長は、補正を施すことが義務づけられると解するのが相当である。そして、〔証拠略〕によれば、不動産鑑定評価においては、面積過大という要素は減価要因として考えられていること、減価要因としての評価の基準は、その地域の標準的な地積の二倍以上の地積を有する場合で最大一〇パーセントの減額要因となるとされていることが認められる。そうすると、面積過大の減価要素としての影響力は、最大でも一〇パーセント程度にすぎないものということができる。もっとも、本件証拠上、本件土地の面積が地域の標準的地積の二倍を超えるものとは断定し難いけれども、仮に旧本件土地の面積が過大で減価要因になり得たとしても、平成六年度の土地の価格の決定においては、各市町村長は、自治事務次官が平成四年一月二二日付で発出した「『固定資産評価基準の取扱いについて』の依命通達の一部改正について」と題する通達により、標準宅地の評価額を地価公示価格、鑑定評価価格等から求められた価格の七割程度を基準として評価していることは当裁判所に顕著な事実であるから、右の減価要因を考慮しなかったとしても、旧本件土地の価格が適正な時価を超えるものということはできない。したがって、原処分庁が旧本件土地の基準年度の価格から本件土地の価格を比準するに当たり、先行処分である旧本件土地の基準年度の価格決定に違法性があったと認めることはできず、また、右比準において、前記「所要の補正」をしなかったことが違法であったということもできない。
3 争点1(三)について
前記1に認定のとおり、原処分庁は、平成七年度の賦課期日の翌日から平成八年度の賦課期日までに発生した事情が前記特別の事情に当たるとして、本件価格決定をしたものであるから、原処分庁には、右特別の事情の有無を判断するにつき、その基準日を誤った違法はない。また、本件土地が合筆されたことが右特別の事情に当たることも、前説示のとおりである。
4 争点1(四)について
土地課税台帳等には、土地登記簿に表示の登記として記載されている事項のほか、当該土地の価格等が記載されているにすぎないから、第二年度又は第三年度において法三四九条二項ただし書又は同条三項ただし書により新たに価格の決定がなされたかどうかを、当該年度の固定資産課税台帳等を縦覧したのみで判断することは困難である。したがって、当該年度の前年中に土地又は建物の所有権移転登記を終えた場合など、納税者が前年度の固定資産課税台帳等と比較することが事実上不可能な場合に、市町村長より法四一一条一項の通知がされないと、納税者は、新たな価格の決定についての不服申立ての機会を逸するおそれがないとはいえない。
しかし、右の通知は、第二年度又は第三年度において新たに価格の決定がなされてから、事後的に右決定がなされたこと及びその結果を納税義務者に通知するものに過ぎず、価格決定自体の要件を成すものではない。したがって、この通知がされなかったことにより納税者が新たな価格の決定を確知できず、当該価格決定の不服申立期間を徒過した場合に、その救済の理由となり得るかはさておき、右通知が欠如しているという瑕疵それ自体は、市町村長の価格決定の適否に影響を与えないというべきである。
よって、右通知がなされなかったことを理由として本件価格決定が違法であるとする原告の主張は失当である。
二 争点2について
1(一) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件審査請求の口頭審理は平成八年五月三一日午後二時から開催され、被告委員三名及び書記の他、審査申出人ら代理人として補助参加人が、越谷市側として税務部長、税務部次長兼主税課長、資産税課長他職員数名がそれぞれ出席した。この口頭審理において、当事者の主張等、被告委員から当事者への質問及びこれに対する当事者の回答がなされた。被告委員長は、審査申出人ら代理人に既に提出したほかには意見がないことを確認し、後日決定書を郵送することを説明した上、同日午後三時四五分に口頭審理を終了した。
(2) 同日午後四時から、第二回固定資産評価審査委員会が開催され、右委員会に、被告委員三名及び書記が出席した。その際、右税務部長、税務部次長兼主税課長、資産税課長他職員数名が同席し、被告委員から越谷市側に対し、本件審査請求に関して画地計算法についての質問がなされ、資産税課長がこれに回答した。その後、被告委員らは、合議の結果、第一に、本件の評価額は固定資産評価基準に従って評価されていること、第二に、本件土地の面積を理由とする所要の補正はしないこと、第三に、平成八年度の合筆については、一画地として基準年度に遡って計算するのが正当であることを理由に本件審査請求を棄却することに決定した。そこで、その案文を書記が朗読し、被告委員らはこれを確認して、午後四時三五分に委員会は終了した。なお、越谷市側職員は、この委員会の終了まで同席していた。
(3) 被告委員らは、書記に決定書の案文の作成を指示し、書記が前記理由の骨子に沿って同年六月二日頃までに決定書案を作成した。被告委員らは決定書案を各自検討した上で、正式な決定書を作成した。
(二) 右認定のような経緯によれば、本件審査請求において、被告委員らが審理の方針及び結論、結論に至る理由について決定していること、すなわち、本件審査決定及び決定書の作成は、被告の権限と責任においてなされていることは明らかである。
(三) なお、原告は決定書案等の決裁過程の起案文書について、被告委員ら、書記以外の越谷市職員が合議しているとし、また、正式な決定書の決裁をしたのは被告委員長のみであり、他の二名の委員はその内容を十分認識していなかったと主張する。
しかし、〔証拠略〕によれば、本件審査請求に対する審査手続に関し、固定資産評価審査委員会及び口頭審理の招集、会議結果の報告、決定書の送付手続などについて、固定資産評価審査委員会の事務の担当部署である越谷市税務部内で決裁手続がとられていることが認められるが、本件全記録を検討してみても、原告が主張するような事実を認めるに足りる証拠はない。
(四) もっとも、本件審査請求に対する審査において、被告は、前記のように越谷市税務担当職員が同席している状態で、被告委員らの合議を行って、結論を決定しており、この点は、本来公正・中立であるべき固定資産評価審査委員会における審理の仕方としては、その公正・中立性について疑問を生じさせうるものであって、妥当とは言い難いところである。しかしながら、前認定のとおり、本件審査決定は、被告委員らの権限と責任においてなされているから、このことのみをもって直ちに本件審査決定を違法とすることはできない。
(五) よって、本件審査手続において、本件審査決定を取り消すべき違法があるということはできない。
2 次に、被告が口頭審理を継続しなかった違法があるかどうかを検討すると、本件審査決定の通知書は、前記のように平成八年六月六日に原告らに送達されたものである。他方、原告らは同日被告に対して口頭審理の継続を求める内容証明郵便を発信したが、これが被告に到達したのは翌七日であることは、原告の自認するところである。そして、原告らの口頭審理の継続の要請は、被告の職権発動を促すだけであって、被告の審理手続を継続させる効果はないから、たとえ原告らが右内容証明郵便を発信したのが、原告らに本件審査決定の通知書が送達される前であったとしても、これによって本件審査決定の効力の発生は妨げられない。また、固定資産評価審査委員会における不服申出の審査は、行政不服審査法の所要の規定が準用され、準司法的な手続による争訟裁断行為であるから(法四三三条)、本件審査決定には、いわゆる不可変更力があると解すべきである。そうすると、被告は本件審査決定を職権によって取消し、変更をすることはできず、したがって、本件審査決定の効力発生後に原告らからの審理継続を要請する書面が到達しても、被告は、最早本件審査請求について口頭審理を継続することもできなくなったものである。よって、原告らから口頭審理継続の要請があったとしても、被告がこれを継続しなかったことに、何ら違法はない。なお、被告は、前記のように、本件口頭審理を終結するに当たり、原告らの代理人に他に意見がないことを確認しているのであって、被告には、本件審査請求の審理において、審理を尽くさなかった点があると認めることもできない。
3 職権探知主義違反の有無について
既に述べたところから明らかなとおり、本件合筆は法三四九条三項ただし書、同条二項一号に掲げる特別の事情に該当し、また、法四一一条一項の通知の有無は本件価格決定に影響を与えないものであるから、被告がこれについて職権で調査すべきであったとする原告の主張は、その前提を欠くものであって、失当である。
三 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 小島浩 水上周)