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浦和地方裁判所 平成9年(行ウ)21号 判決 2001年2月19日

原告

原告

原告

原告

原告

以上5名同訴訟代理人弁護士

鳥飼重和

多田郁夫

森山満

遠藤幸子

村瀬孝子

鳥飼重和訴訟復代理人弁護士

内田久美子

被告

川越税務署長

白津吉英

同指定代理人

松村葉子

金谷滝夫

安部憲一

内田秀明

小野塚仁

磯野宏

中沢信明

櫻井保晴

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成7年3月10日付けで己に対してした下記の各課税処分をいずれも取り消す。

1  平成3年分の所得税に係る更正のうち、総所得金額1437万9648円、納付すべき税額386万7600円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

2  平成4年分の所得税の更正のうち、総所得金額1380万8848円、納付すべき税額307万4400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

3  平成5年分の所得税の更正のうち、総所得金額1651万0357円、納付すべき税額416万円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

第2事案の概要

1  本件は、己(以下「己」という。)がした平成3年分ないし同5年分の所得税の確定申告に対し、被告(税務署長)が、同人が所有地を同族会社に賃貸したことにより得たとする不動産所得につき所得税法157条1項(同族会社等の行為又は計算の否認)の規定を適用して同人の所得を認定し、これに基づいて更正及び過少申告加算税賦課決定をしたところ、その後死亡した同人の相続人として、その所得税納付義務を承継した原告らが、各課税処分を不服として、各取消しを求めた事案である。

本件の争点は、上記賃貸借契約に対する所得税法157条1項適用の適否(争点1)、各更正通知書に付された理由附記の適法性(同2)、国税通則法65条4項所定の「正当な理由」の有無(同3)である。

2  基本的事実関係(特に証拠等を挙げない限り、当事者間に争いがない。)

(1)  己は、別紙[1]物件目録1ないし5記載の各土地(各土地の地積合計2万6317.35平方メートル。以下、各土地を一括して「本件土地」という。なお、個別に、同目録1記載の土地を「本件土地1」ということがある。)を所有していた。

己は、平成7年11月13日に死亡した。己の相続人は、妻である原告乙、長男の原告甲(以下「原告甲」という。)、二男の原告丁、長女の原告戊及び原告甲の妻であり、かつ、己の養子である原告丙(以下「原告丙」という。)である。また、庚(以下「庚」という。)は、原告甲及び原告丙の娘である。

原告甲及び庚は、同物件目録6ないし8記載の各土地(地積合計1558.64㎡、以下「本件共有地等」という。)を所有ないし共有していた。

(2)  株式会社A(以下「A」という。)は、平成元年5月24日、本件土地及び本件共有地等(以下、右各土地を併せて「本件転貸地」という。)の有効活用のため、不動産の賃貸及び管理業務、不動産の売買並びに仲介、自動販売機による飲料水の販売等を目的として設立された会社である(平成7年4月25日付けの組織変更により、有限会社Aとなった。)。

Aの代表取締役には原告丙、取締役には原告甲及び庚、監査役には己が、各就任した。Aの株式は、原告甲が40パーセント、原告丙が20パーセント、庚が40パーセントを所有しており、そのため、Aは、法人税法2条10号所定の同族会社に該当する。

(3)  Aは、平成元年12月4日、土地所有権者である己、原告甲及び庚の承諾のもとに、本件転貸地を露天自動車置場(モータープール用地)として使用することを目的として、平成11年10月31日までの期間、B株式会社(以下「B」という。)に賃貸(転貸)する旨の土地賃貸借契約(以下「本件転貸借契約」という。)を締結した。

なお、そのための造成工事に関し、整地費用はBが、アスファルト舗装費用はAが負担する(ただし、後日、賃料に上乗せして償還させる。)こととされていた。

そして、本件転貸地の賃料(以下「本件転貸賃料」という。)としては、平成3年は、年間4679万3877円(消費税控除後で1㎡当たり1629.75円、本件土地に係る転貸賃料相当額は4289万0752円となる。)、平成4年及び平成5年は、同4943万0856円(同1㎡当たり1721.59円、前同4530万7778円となる。)と合意された。

(4)  Aは、本件転貸借契約締結に先立って、己から本件土地を、原告甲及び庚から本件共有地等を、それぞれ賃借した(以下「本件賃貸借契約」という。)。本件賃貸借契約における本件土地の賃料は、平成3年から同5年の各年度につき、年間1520万4000円(1㎡当たり577.71円、以下「本件賃料」という。)であった。

(5)  己は、平成5年12月8日、埼玉県土地開発公社との間で、建設省が施工する首都圏中央連絡自動車道鶴ヶ島南インター工事に伴う工事用地として土地を収容される壬に対する代替地用地として、同公社に対し本件土地1を売り渡す旨の売買契約を締結し(同公社に対する本件土地1の引渡しは平成6年1月31日とすることとされた。)、平成5年12月2日、同人に対し、本件土地1に関する所有権移転登記手続をした。

同公社は、平成6年1月31日、己に対し、右土地売買代金を支払い、己は、同年2月1日、Aと間で、本件土地から本件土地1を除いたそのほかの土地を賃貸借の目的とする賃貸借契約を締結した(1か月当たりの賃料を84万7000円、賃貸期間10年)。これに伴い、Aは、同月28日、Bとの間で、本件転貸借契約の対象土地から本件土地1を除外する旨の変更合意をした。

(6)  己は、平成3年分から同5年分の所得税につき、次のとおり確定申告をした(以下「本件確定申告」という。)。

ア 平成3年分

確定申告日 平成4年3月16日

総所得金額 1437万9684円

分離長期譲渡所得の金額 192万0300円

納付すべき税額 386万7600円

イ 平成4年分

確定申告日 平成5年3月11日

総所得金額 1380万8848円

納付すべき税額 307万4400円

ウ 平成5年分

確定申告日 平成6年3月14日

総所得金額 1651万0357円

納付すべき税額 416万円

(7)  被告は、平成7年3月10日付けで、己のした本件各確定申告に対し、次のとおり、それぞれ更正及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、各更正を併せて「本件更正処分」といい、各過少申告加算税賦課決定処分を併せて「本件賦課決定」という。)を行った。

ア 平成3年分

総所得金額 3049万3294円

納付すべき税額 1128万1000円

過少申告加算税の額 91万6000円

イ 平成4年分

総所得金額 3123万8362円

納付すべき税額 1104万3000円

過少申告加算税の額 103万8500円

ウ 平成5年分

総所得金額 3315万0350円

納付すべき税額 1200万5500円

過少申告加算税の額 96万6000円

(8)  被告は、本件更正処分をするに当たり、埼玉県日高市内における東日本旅客鉄道川越線以南及び八高線以東の区域内での個人土地所有者とその同族会社間以外の取引のうち、完成自動車置場(モータープール用地)として貸し付けているものについて、平成3年ないし同5年における年間1㎡当たりの貸付単価を調査したたところ、次のような結果を得た(以下「同業者平均単価」という。)。

平成3年 1191.18円

同  4年 1241.19円

同  5年 1211.32円

そこで、被告は、この調査結果に基づき、所得税法(以下「法」という。)157条1項を適用して、本件土地の賃貸借契約により己がAから取得すべき賃料収入については、平成3年分につき1190円、平成4年分につき1240円、平成5年分につき1210円の各1㎡当たりの貸付単価を本件土地の面積に乗じて計算した次の金額を各年分の賃料相当収入額として認定し、この認定に応じて、本件各更正処分及び本件各賦課決定を行ったものである。

平成3年分 3131万7646円

平成4年分 3263万3514円

平成5年分 3184万3993円

(9)  被告は、己に対し、本件各更正処分及び本件各賦課決定につき、平成7年3月10日付けの各更正・加算税の賦課決定通知書(以下「本件通知書」という。)を送付した。

本件各通知書の「処分の理由」欄の記載内容は、別紙[2]ないし[4]のとおりである。

(10)  己は、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成7年4月28日、被告に対し異議申立てをしたところ、被告は、同年8月11日、異議申立てをいずれも棄却する旨の異議決定をした。

そこで、己は、右異議決定に係る原処分に不服があるとして、平成7年9月4日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、前記のとおり、己は、平成7年11月13日に死亡し、その相続人であり、己の所得税の納付義務を承継してた原告らが、審査請求人としての地位を承継した。

国税不服審判所長は、平成9年5月22日、上記審査請求を棄却する旨の裁決をし、その裁決書は、同月31日頃、原告らに送達された。

(11)  後記の被告主張のとおり、本件賃貸借契約につき、法157条1項を適用すべきであり、かつ、本件土地の賃貸借契約により己がAから取得すべき賃料収入額が被告認定のとおりであることを前提として、己の平成3年分ないし同5年分の所得税の納付すべき税額を計算すると、次のとおりとなる(弁論の全趣旨、以下「被告算定税額」という。)。

ア 平成3年分

(ア) 総所得金額 3052万4348円

[次の①の不動産所得の金額及び②の給与所得の金額の合計額]

① 不動産所得の金額 2967万4348円

[次のⅰの総収入金額からⅱの必要経費及びⅲの青色申告控除額を差し引いた金額]

ⅰ 総収入金額 6702万9021円

[次のaの己所有の本件土地の賃貸料収入相当額とbのその他の賃貸料収入の合計額]

a 本件土地の賃貸料収入相当額 3134万8700円

己は、本件土地を、Aに本件賃料額(年間1㎡当たり577.71円)で賃貸していたが、本件賃貸借契約については、法157条の適用により、次式のとおり、同業者平均単価(年間1㎡当たり1191.18円)に基づいて本件土地の適正賃料相当収入額が算出される。

26,317.35㎡×1,191.18円/㎡=31,348,700円

(本件土地の総面積)(本件土地の賃貸単価)(適正賃料収入相当額)

b その他の賃貸料収入額 3568万0321円

[己の申告額]

ⅱ 必要経費 3725万4673円

[己の申告額]

ⅲ 青色申告控除額 10万円

[己の申告額]

② 給与所得の金額 85万円

[己の申告額]

(イ) 分離課税の長期譲渡所得の金額 192万0300円

[己の申告額]

(ウ) 所得控除額 81万5000円

[己の申告額]

(エ) 課税総所得金額 2970万9000円

[(ア)の総所得金額から、(ウ)の所得控除額を控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項による1000円未満の端数を切り捨てた額]

(オ) 課税される分離課税譲渡所得の金額 192万円

[(イ)の金額について、(エ)と同様に1000円未満の端数を切り捨てた額]

(カ) 算出税額 1133万8500円

[次の①及び②の税額の合計額]

① 課税総所得金額に対する税額 1095万4500円

[(エ)の金額に法89条(ただし、平成6年法律109号による改正前のもの)を適用して算出]

② 課税される分離課税の長期譲渡所得の金額に対する税額 38万4000円

[己の申告額]

(キ) 源泉徴収税額 4万2000円

[己の申告額]

(ク) 納付すべき額 1129万6500円

[(カ)の算出税額から(キ)の源泉徴収税額を控除したもの]

イ 平成4年分

(ア) 総所得金額 3126万9679円

[次の①の不動産所得及び②の事業所得及び③の給与所得の各金額の合計額]

① 不動産所得の金額 3036万7829円

[次のⅰの総収入金額からⅱの必要経費及びⅲの青色申告控除額を差し引いた金額]

ⅰ 総収入金額 7287万7961円

[aの本件土地の賃貸料収入相当額とbのその他の賃貸料収入の合計額]

a 本件土地の賃貸料収入相当額 3266万4831円

前記と同様、本件賃貸借契約には、法157条の適用により、次式のとおり、同業者平均単価(年間1㎡当たり1241.19円)に基づいて本件土地の適正賃貸料相当の収入額が算出される。

26,317.35㎡×1,241.19円/㎡=32,664,831円

(本件土地の総面積)(本件土地の賃貸単価)(適正賃料収入相当額)

b その他の賃貸料収入 4021万3130円

[己の申告額]

ⅱ 必要経費 4241万0132円

[己の申告額]

ⅲ 青色申告控除額 10万円

[己の申告額]

② 事業所得の金額 5万1850円

[己の申告額]

③ 給与所得の金額 85万円

[己の申告額]

(イ) 所得控除額 126万7600円

[己の申告額]

(ウ) 課税総所得金額 3000万2000円

[(ア)の総所得金額から、(イ)の所得控除額を控除し、通則法118条1項により1000円未満の端数を切り捨てた額]

(エ) 算出税額 1110万1000円

[(ウ)の金額に法89条(ただし、平成6年法律第109号改正前のもの)を適用して算出]

(オ) 源泉徴収税額 4万2000円

[己の申告額]

(カ) 納付すべき額 1105万9000円

[(エ)の算出税額から(オ)の源泉徴収税額を控除したもの]

ウ 平成5年分

(ア) 総所得金額 3318万5089円

[次の①の不動産所得及び②の事業所得及び③の給与所得の各金額の合計額]

① 不動産所得の金額 3228万3239円

[次のⅰの総収入金額からⅱの必要経費及びⅲの青色申告控除額を差し引いた金額]

ⅰ 総収入金額 7245万4417円

[aの本件土地の賃貸料収入相当額とbのその他の賃貸料収入の合計額]

a 本件土地の賃貸料収入相当額 3187万8732円

前記と同様、本件賃貸借契約には、法157条の適用により、次式のとおり、同業者平均単価(年間1㎡当たり1211.32円)に基づいて本件土地の適正賃貸料相当の収入額が算出される。

26,317.35㎡×1,211.32円/㎡=31,878,732円

(本件土地の総面積)(本件土地の賃貸単価)(適正賃料収入相当額)

b その他の賃貸料収入 4057万5685円

[己の申告額]

ⅱ 必要経費 4007万1178円

[己の申告額]

ⅲ 青色申告控除額 10万円

[己の申告額]

② 事業所得の金額 5万1850円

[己の申告額]

③ 給与所得の金額 85万円

[己の申告額]

④ 譲渡所得の金額 0円

[己の申告額]

(イ) 分離課税の長期譲渡所得の金額 0円

[己の申告額]

(ウ) 所得控除額 125万5000円

[己の申告額]

(エ) 課税総所得金額 3193万円

[(ア)の総所得金額から(ウ)の所得控除額を控除し、さらに通則法118条1項により1000円未満の端数を切り捨てた額]

(オ) 算出税額 1206万5000円

[(エ)の金額に法89条(ただし、平成6年法律第109号改正前のもの)を適用して算出した額]

(カ) 源泉徴収税額 4万2000円

[己の申告額]

(キ) 納付すべき額 1202万3000円

[(オ)の算出税額から(カ)の源泉徴収税額を控除したもの]

(12)  己の平成3年分ないし同5年分の所得税の確定申告について、被告算定税額をもとに更正処分がされた場合に課される各年度の過少申告加算税は、次のとおりとなる(弁論の全趣旨。以下「被告算定加算税」という。)。

ア 平成3年分

過少申告加算税(通常分)の基礎となる税額 742万円

(更正処分により新たに納付すべきこととなった税額[通則法66条1項]ただし、通則法118条3項により1万円未満の端数切捨て)

課税割合(通常分) 100分の10(通則法65条1項)

過少申告加算税額(通常分) 74万2000円

期限内申告税額 390万9600円

過少申告加算税(過重分通常分)の基礎となる税額 351万円

(1万円未満の端数切捨て)

課税割合(過重分) 100分の5(通則法65条2項)

過少申告加算税(過重分) 17万5500円

過少申告加算税合計 91万7500円

イ 平成4年分

過少申告加算税(通常分)の基礎となる税額 798万円

(更正処分により新たに納付すべきこととなった税額[通則法66条1項]ただし、通則法118条3項により1万円未満の端数切捨て)

課税割合(通常分) 100分の10(通則法65条1項)

過少申告加算税額(通常分) 79万8000円

期限内申告税額 311万6400円

過少申告加算税(過重分通常分)の基礎となる税額 486万円

(1万円未満の端数切捨て)

課税割合(過重分) 100分の5(通則法65条2項)

過少申告加算税(過重分) 24万3000円

過少申告加算税合計 104万1000円

ウ 平成5年分

過少申告加算税(通常分)の基礎となる税額 786万円

(更正処分により新たに納付すべきこととなった税額[通則法66条1項]ただし、通則法118条3項により1万円未満の端数切捨て)

課税割合(通常分) 100分の10(通則法65条1項)

過少申告加算税額(通常分) 78万6000円

期限内申告税額 420万2000円

過少申告加算税(過重分)の基礎となる税額 365万円

(1万円未満の端数切捨て)

課税割合(過重分) 100分の5(通則法65条2項)

過少申告加算税(過重分) 18万2500円

過少申告加算税合計 96万8500円

3  争点に対する当事者の主張

(1)  争点1(本件賃貸借契約に対する法157条1項適用の適否)

ア 原告ら

本件各更正処分は、己とAとの間の本件賃貸借契約に基づく賃料収入につき、同業者平均単価を用いた結果に基づき、法157条1項を適用してされているが、本件において同条項を適用することは、以下の理由により違法である。

(ア) 本件賃貸借契約は、経済的合理性を備えた正常な取引であって、「税負担を不当に減少させる結果となる」ものではない。

① すなわち、法人税法施行令(以下「施行令」という。)137条は、土地に借地権等を設定して当該土地を使用させる行為をした法人について、権利金の収受をしていない場合であっても、当該土地の価額に照らし当該使用の対価として「相当の地代」を収受しているときは、当該土地の使用に係る取引は正常な取引条件でされたものとして、その法人の各事業年度の所得の金額を計算するものと定め、これを受けた法人税法基本通達13-1-2は、法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合において、これにより収受する地代の額が当該土地の更地価額に対しておおむね年8%程度のものであるときは、その地代は施行令137条に規定する相当の地代に該当するものとする、と規定している。

これらの規定は、年8%程度の地代が収受されている土地賃貸借は、相当の地代の収受のある正常な取引条件でされた取引として取り扱う旨の一般的な表明であり、かつ、その性質上、賃貸人が個人の場合であっても妥当するものと解すべきである。

そして、本件賃貸借契約における本件賃料額は、これらの規定を認識の上、本件土地の更地価格に対する年8%相当額として算出されたものであるから、本件賃貸借契約は、令137条所定の相当の地代の収受のある正常な取引条件でされた取引に該当するものであって、これに法157条1項を適用することは許されない。

② 本件賃料額は、本件土地が、国道に面していない無道路地であること、舗装のされていない土地であること等の条件の下に設定された金額であって、それ自体が経済的な合理性を欠く低廉な賃料ということはできない。

③ 被告主張の同業者平均単価は、本件転貸借の転借人であるBを賃借人とする同一の露天駐車場(モータープール)敷地の他の賃貸人との賃貸借契約における約定賃料から算出されたものであるところ、この賃料額は、B固有の土地使用の必要から、相場を無視して極めて高額に設定されたものであって、本件賃料と比較することは適当でない。

本件賃料額と比較すべき賃料は、本件土地に近接する土地の賃料額または駐車場用地としての平均的賃料額である。

そして、一般的に、権利金を授受せず、更地のまま駐車場用地として使用させる場合の賃料は、更地価額の年3%相当額としても経済的合理性があるとされている。

本件土地と道路を挟んだ反対側の土地は、株式会社Cがゴルフ場用地として賃借している土地である。そして、この土地の2人の地主(土地賃貸人)が同社から受領する賃料は、1人が1㎡当たり575.75円、もう1人が1㎡当たり757.58円であり、本件賃料額(1㎡当たり577.71円)とほぼ同額である。

更に、貸地の更地価格を元本としたときの継続地代の比率である活用利子率という観点から比較しても、本件賃料額は、各年度の東京都(23区住宅地及び商業地平均)及び埼玉県における実態を遥かに上回っている。

(イ) 法157条は、特定株主に支配される同族会社であるが故に不自然、不合理な計算が行われるという租税回避行為を阻止することに法の趣旨があるのであるから、その適用の対象として、同族会社と株主等との行為が含まれるとしても、その株主等と同族会社の行為全体の不自然性というものを問題とするのではなく、同族会社の行為自体に着目して、当該行為が営利法人としての行為として不自然であって経済的合理性を欠く場合に限定して適用されるのであって、同族会社であっても、非同族会社においても行われる、法人として合理的な経済行為に対しては適用されないものと解すべきである。

したがって、仮に、本件賃料額が他との比較において低額であったとしても、そのような低額な賃料額設定により利益を受ける同族会社(A)にとっては、本件賃貸借契約締結行為は極めて経済的合理性のある行為であり、非同族会社においても行われるものであるから、これに法157条を適用することはできないものというべきである。

このように解しないと、自然人の法的経済的行為は、常に法人と同義の経済的合理性を追求して行われるものではないという一般的認識を前提として、原則として個人の行う無償又は低額取引に対し認定課税を行っていないという従来の課税実務に反し、また、他の所得税法の規定との整合的理解も困難になる。

(ウ) 被告の担当官は、税務調査の際、己に対し、平成3年分以降の本件賃貸借契約に基づく賃料の値上げとそれに伴う各年分の所得税の修正申告を慫慂するととに、その引換条件として、Aの各事業年度の法人税の計算上、この賃料引上額を損金に算入するという職権更正をするとの提案をした。

ところが、己がこの提案を拒否したために、被告は、法157条を適用して、己の本件賃貸借契約に基づく賃貸料収入の認定を伴う本件各更正処分を行ったものである。

このことは、被告は、己に対し法157条を適用することが困難であることを認識しておりながら、一種の意趣返しとして同条項を適用したことを物語るものである。

したがって、本件に右条項を適用することは、被告の裁量権の範囲を著しく逸脱するものというべきである。

イ 被告

原告らの主張は、いずれも争う。

本件賃貸借契約に基づく賃貸料収入につき、被告が法157条1項を適用した上でした本件各更正処分及びこれを前提とする本件各賦課決定は、いずれも適法である。

(ア) 法157条1項の規定は、同族会社等が少数の株主によって支配されているため、その株主等の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、そのような計算がされた場合に、それを正常な行為や計算に引き直して更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものであり、同族会社等の行為・計算が、株主等の所得税の負担を不当に減少させるものであれば、租税回避に対処するのみならず、独立当事者間の取引と比較して異なる取引が行われる場合において、正常取引を行った者との租税公平負担の観点からも適正な所得を算定し得るし、外部からの経済的価値の流入が認められない場合であっても、所得の発生を擬制し、法36条の収入金額又は総収入金額に参入すべき金額を計算して課税することを認める規定である。

(イ) このような規定の趣旨及び立法の経緯からすれば、同規定の適用に当たっては、株主等と同族会社等の間の取引行為を全体として把握し、両者間の取引(行為計算)が客観的にみて個人の税負担の不当な減少の結果を招来すると認められるかという観点からその適用の当否を判断すべきであり、適用対象となる同族会社等の行為・計算とは、同族会社等を一方当事者とする取引、すなわち、株主等と同族会社等の取引行為全体であり、また、所定の要件が充足されたときに否認されるのは、所得税計算の基礎となる株主等の行為・計算であり、法人(同族会社)の側からの観点からみてその判断を行えば足りるというものではない。

(ウ) 同条項の定める同族会社の行為・計算が「所得税の負担を不当に減少させる結果と認められる」かどうかについては、専ら経済的、実質的見地において、当該計算が通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準として判断すべきであり、それが、異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合のほか、独立・対当で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引と異なっている場合をも含むものと解される。

(エ) このような見地から、己とA間の本件賃貸借契約を検討すると、そこで合意された本件賃料額は、通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認めるべきである。

① 本件賃料額は、前記のとおり、平成3年から同5年の各年度につき、年間1520万4000円(1㎡当たり577.71円)であった。

これに対し、賃借人Aから転借人Bに対する本件転借賃料は、前記のとおり、平成3年は1㎡当たり1629.75円、平成4年及び同5年は、1㎡当たり1721.59円であった。

② ところで、被告は、本件更正処分をするに当たり、本件土地の所在する埼玉県日高市内で東日本旅客鉄道川越線以南及び八高線以東の区域内において個人土地所有者とその同族会社間以外の取引で、完成自動車置場(モータープール用地)として貸し付けているもの(通則法ないし行訴法の規定による不服申立て期間又は出訴期間の経過していない者及び現在不服申立て又は訴えが提起され審理中でない者)12件(いずれも、本件土地を含むBのモータープール[高萩モータープール]用地の貸付者)について、平成3年ないし同5年における年間1㎡当たりの貸付単価を調査し、その平均値を求めたところ、前記のとおり、平成3年1191.18円、同4年1241.19円、同5年1211.32円の同業者平均単価を得た。

③ 上記同業者平均単価を求めた対象地は、本件土地と立地条件や使用状況等が類似している貸付地であり、本件土地の適正賃料額を算出するための基準地として適切な土地である。

④ これらによると、本件賃料額は、本件転借賃料額と比較すると約3分の1であり、また、前記基準地の同業者平均単価と比べても約2分の1と極めて低額であるから、本件賃料額の設定は、通常の経済人の行為として不合理、不自然なものというべきであって、法157条にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ということができる。

したがって、被告が、本件各更正処分において、同条項を適用し、この同業者平均単価を基礎として本件土地の適正賃貸料相当額を認定したことは、十分合理性を有する。

(オ) 施行令137条は、借地権等の設定により土地を使用させた法人につき、権利金を収受する取引上の慣行がある場合において、権利金を収受していなくとも、「相当の地代」を収受していれば、権利金の認定課税をしないという趣旨の規定である。そして、本件賃貸借契約においては、法人であるAは賃借人であって、賃貸人でなく、しかも、駐車場としての使用を目的とする本件賃貸借には権利金の収受が行われないのが通常の取引形態であるから、本件においては、そもそも、右条項にいう「相当の地代」が問題となる余地はなく、右条項を根拠に、経済的合理性を備えた正常な取引であると主張することは意味をなさない。

当該取引が経済的合理性を欠いているかどうかの判定は、土地の価額に照らし、その使用の対価として相当の地代かどうかによって決するのではなく、独立当事者間の取引との比較において、すなわち、本件においては、本件モータープール用地の他の貸付者の賃料との比較を基準としてされなければならない。

この意味において、隣接のCの賃借地は、その使用状況を全く異にする点でその賃料と比較することは不適当であり、また、原告らの援用する東京都及び埼玉県の活用利子率との比較も、あらゆる貸付地の活用利子率を平均したものであって、本件土地と立地条件及び使用状況の類似性が認められないものである以上、やはり、比較の対象としては不適当である。

(カ) なお、本件土地は、無道路地であるが、前記同業者平均単価算出の対象地における個別の賃料算出に当たっては、当該貸地が道路に面しているか否かの個別的差異は格別影響しておらず、このことは、AとBとの本件転貸借の賃料が無道路地である本件土地と道路に面している本件共有地等とを区別せず面積によって算定されていることからも伺えるのであって、仮に、そこに僅かな差異があったとしても、平均値を求める過程で包摂、解消されることから、右事由は、被告のした適正賃料額算出の合理性を動かす理由にはならない。

(2)  争点2(本件通知書の理由附記の適法性)

ア 原告ら

本件各更正処分に係る本件通知書でされた処分の理由の附記は、同業者の比準要素や計算根拠に関する説明がなく、具体的計算過程を捨象しており、単に結論のみを記載するものであり、また、法157条の適用理由についても、本件賃料が極めて低額である旨が記載されているだけで、同条項を適用したことについての具体的理由の記載はない。このような理由の記載では、法155条2項の要求する更正理由を附記したものとはいえず、違法である。

イ 被告

更正の理由附記の趣旨は、処分庁の判断を慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることであり、法157条の適用によって青色申告に係る更正をする場合の更正の理由附記の程度は、① 更正に係る勘定科目とその金額を示し、② 更正するに至った過程自体を具体的に説明する必要がある。

そして、被告が己に対してした本件各更正処分の更正の理由附記は、前記のとおりであって、この①、②の要請を満たしているものというべきであるから、原告らの更正の理由附記の不備があるとの主張は、理由がない。

(3)  争点3(通則法65条4項の「正当な理由」の有無)

ア 原告ら

原告ら主張の前記事実関係によれば、己が前記のとおりの本件賃貸借契約を締結したことは社会通念上相当とみることができるから、本件においては、通則法65条4項に定める「正当な理由」があるというべきであり、したがって、原告らに過少申告加算税を課す本件賦課決定は、違法である。

イ 被告

原告らの主張は、争う。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件賃貸借契約に対する法157条適用の適否)について

(1)  法157条は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社又はその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われる危険性が高いことに鑑み、税負担の公平を維持するために、そのような行為や計算が行われた場合に、それを正常な計算に引き直して当該株主等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めるものである。そして、この規定の趣旨からすれば、同条項にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる同族会社の行為」に該当するか否かは、純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算、すなわち、当該行為・計算が通常の経済人として経済的合理性を欠いていると認められるか否かにより決せられると解するのが相当である。

(2)  証拠(甲13号証、95号証、99号証、102号証、乙1号証の1、2、2号証、3号証、10号証、11号証、証人辛)及び弁論の全趣旨によると、前記基本的事実関係のほか更に次の事実を認めることができる。

ア 前記のとおり、Aは、同族会社であり、己は、Aの株主たる原告甲、原告丙及び庚の親族であるところ、所得税法施行令275条所定の居住者に該当する。

イ 己は、かねてから自己の所有に係る本件土地の有効利用を考え、顧問税理士の辛に相談したところ、同税理士から、資産管理会社として同族会社のAを設立し、己所有の本件土地及び原告甲及び庚所有ないし共有の本件共有等を一括してAに賃貸し、これらをAから第三者に転貸して収益をあげる方法について教示を受け、更に、転借人として、当時、本件土地付近に大規模なモータープール用地を物色していたBを紹介された。そして、右モータープールの用地としては、本件土地、本件共有地等のほかこれに隣接する多数の土地が他の所有者多数から賃貸される運びとなり、結局、この助言に沿って、己らによって前記のとおりAの設立、本件賃貸借契約及び本件転貸借契約の締結が順次行われた(本件転貸借締結の当初の転貸賃料は、年4464万円余りであった。)。

平成3年から同5年にかけての己とA間の本件賃料額が年間1㎡当たり577.71円であり、AとB間の本件転貸賃料額が平成3年は同1629.75円、平成4年及び同5年は同1721.56円であったことは、前記のとおりである(なお、本件転貸賃料額には、Aが当初負担したアスファルト舗装費用の分担分が含まれており、これを除外した実質転貸賃料は、平成3年は、年間1㎡当たり約1265円、平成4年及び同5年は、同じく約1360円となる。)。

本件賃料額の設定は、辛税理士の助言に基づき、土地の使用に伴う対価についての所得に関する規定である施行令137条及び同条に規定する相当の地代をおおむね8%とする法人税法基本通達13-1-2を参考として、本件土地の更地価格のおおむね8%相当額に当たるものとして前記金額が定められた。

ウ 他方、被告は、本件更正処分をするに当たり、本件土地の所在する埼玉県日高市内で東日本旅客鉄道川越線以南及び八高線以東の区域内において個人土地所有者とその同族会社間以外の取引で、完成自動車置場(モータープール用地)として貸し付けているもの(通則法ないし行訴法の規定による不服申立て期間又は出訴期間の経過していない者及び現在不服申立て又は訴えが提起され審理中でない者)を調査し、その結果として得た合計12件の賃貸借契約についての調査結果により、平成3年ないし同5年における年間1㎡当たりの貸付単価の平均値を求めたところ、平成3年1191.18円、同4年1241.19円、同5年1211.32円の同業者平均単価を得たことは前記のとおりである。

これらの土地は、いずれも、本件土地を含むBのモータープール[高萩モータープール]用地として賃貸された土地であるが、被告は、これらの土地が本件土地と立地条件や使用状況等が類似している貸付地であり、本件土地の適正賃料額を算出するための比準地として適切な土地であると判断した。

(3)  以上の事実関係を総合すると、平成3年ないし同5年の間、己が本件土地を同族会社であるAに対し賃貸したことにより得た本件賃料は、被告において本件土地と立地条件や使用状況等が類似している貸付地であって、本件土地の適正賃料額を算出するための比準地として適切な土地であると判断した前記土地の貸付賃料の平均値(同業者平均単価)と比較して半値以下であること、そして、同期間において、己の賃借人であるAが、本件土地を含む本件転貸地をBに対して転貸したことにより得た賃料(本件転借賃料)は、アスファルト舗装費用の分担分を控除した実質転貸賃料額をみても、前記同業者平均単価を上回っていることが明らかである。そして、前示の事実関係及び弁論の全趣旨に照らせば、被告が本件土地の適正賃料額算定の比準地として前記各土地を選択した前記判断及び同業者平均単価の算定過程にも格別不合理な点は認められないものというべきである。

そうすると、本件賃貸借契約の賃貸料の設定は、純経済人の行為として不合理・不自然な行為というほかなく、通常の経済人としての合理性を欠いていると認めるのが相当であるから、本件賃料の計算は、法157条1項所定の「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」場合に当たるというべきである。

(4)  この点に関し、原告らは、本件賃貸借契約は経済的合理性を備えた正常な取引であって、所得税の負担を不当に減少させる結果となるものではなく、本件賃料収入の計算につき法157条を適用することは違法であるとして前記のとおり主張するが、いずれも採用できない。すなわち、

ア 施行令137条及びこれを受けた法人税法基本通達13-1-2を根拠とする主張について

施行令137条は、法人が同令所定の借地権等の設定により当該土地を使用させる場合に、その使用の対価として通常権利金その他の一時金を収受する取引上の慣行がある場合においても、その一時金の収受に代えてその土地の価額に照らしその使用の対価として「相当な地代」を設定しているときには、当該土地の使用に係る取引は、正常な取引条件でされたものとして、特に一時金の認定をすることはせずに法人税の計算をする旨の規定であり、法人税法基本通達13-1-2は、この規定を受けて、この「相当な地代」の意義について定め、法人がその土地の更地価額に比しておおむね8%程度の地代を収受しているときは、その地代は、前記「相当の地代」に当たることを明らかにしている。そして、本件賃料額は、税理士の助言のもとにこれらの規定を根拠として定められたことは前記のとおりである。

しかし、これらの規定の趣旨が賃貸人が非法人の場合にも妥当するものであると解するとしても、これらの規定は、一時金を収受する取引上の慣行がある土地の使用契約であっても、これに代わる「相当な地代」の設定があるときは一時金の所得の認定をしないという限定的な場合における計算の取扱いを定めたものであって、駐車場としての使用を目的とする本件賃貸借には権利金の収受が行われないのが通常の取引形態であるから、本件においては、これらの規定の適用が問題となる余地はないというべきである。したがって、これらの規定の適用のあることを前提として、本件賃料の設定が経済的合理性を備えた正常な取引であると主張することは当を得ないものというべきである。また、これらの規定の意義が前記のとおりである以上、これらの規定をもって、年8%程度の地代が収受されている土地賃貸借は、相当の地代の収受のある正常な取引条件でされた取引として取り扱う旨の一般的な表明と解することもできないものというべきである。

イ 本件賃料は、本件土地が無道路地、無舗装の土地であること等の事情の下においては、低廉とはいえないとする主張について

甲103号証、乙2号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地は、道路に接しておらず、本件賃貸借契約以前は無舗装の土地であったことを認めることができる。

しかし、乙1号証の1、2、同3号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件賃料額の相当性比較のため選択した前記の比準地のうちには、道路に接していない土地が含まれており、また、それらは無舗装の土地であるが、右貸付地の賃貸人らはアスファルト舗装費用を負担していないことが認められるところ、これらの土地に関する賃料の平均が前記の同業者平均単価なのであるから、本件土地が道路に接していないことや無舗装の土地である等の事実の故に、本件賃料額が低廉に設定されたということはできないものというべきである。

ウ 本件賃料と比較すべき各賃料の評価について

被告が本件土地と比較するのが相当として選択した前記比準地は、本件土地を含むBのモータープール(高萩モータープール)用地として賃貸された土地であるところ、被告は、これらの土地が本件土地と立地条件や使用状況等が類似している貸付地であり、本件土地の適正賃料額を算出するため適切な土地であると判断したものであり、この判断及び同業者平均単価の算定過程に格別非合理な点は認められないことは、前記のとおりである。

原告らは、この同業者平均単価は、B固有の土地使用の必要から、相場を無視して極めて高額に設定されたものであると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

また、一般的に、権利金を授受せず、更地のまま駐車場用地として使用させる場合の賃料は、更地価額の年3%相当額としても経済的合理性があるとされているとの事実を認めるに足りる証拠も見当たらない。

更に、甲95号証及び99号証によると、原告らが本件土地の比準地として適切であると主張するC用地の賃料は原告ら主張のとおりであることを認めることができるが、当該土地の用途は、本件賃貸借契約と異なり、ゴルフ場であることが明らかであるから、これを本件土地の比準地とすることは適切とはいえない。

なお、原告らは、活用利子率という観点から比較しても、本件賃料額は、各年度の東京都(23区住宅地及び商業地平均)及び埼玉県における実態を遥かに上回っていると主張するが、そのとおりの事実が認められるとしても、弁論の全趣旨に照らすと、これを算出する資料となった土地は、同地域内の各種の用途の貸付地であり、その結果算出された活用利子率もこれを平均したものであって、本件土地と立地条件及び使用状況との類似性を認めることのできないものであるから、これをもって、本件賃料の相当性を比較することが適当とはいい難いものというべきである。

(5)  次に、原告らは、法157条は、租税回避行為を阻止するという法の趣旨からみて、同族会社の行為に着目して、当該行為が営利法人としての行為として不自然であって経済的合理性を欠く場合に限定して適用されるとし、本件賃料額が他との比較において低額であったとしても、そのような低額な賃料額設定により利益を受ける同族会社(A)にとっては、本件賃貸借契約締結行為は極めて経済的合理性のある行為であり、非同族会社においても行われるものであるから、これに対して法157条を適用することはできないと主張する。

しかし、前記のような法157条の趣旨からすれば、同条の適用に当たっては、株主等と同族会社等の間の取引行為を全体として把握し、両者間の取引が客観的にみて個人の税負担の不当な減少の結果を招来すると認められるかという観点からその適用の当否を判断すべきであって、同族会社等を一方当事者とする取引、すなわち、株主等と同族会社等の取引行為全体を適用対象とし、所得税計算の基礎となる株主等の当該行為が否認される結果になるのであって、同族会社の側からの観点のみからみてその判断を行えば足りるというものではない。

このように解したからといって、従来の課税実務に反し、また、他の所得税法の規定との整合的理解も困難になるとは、未だ認めるに足りない。

原告らの主張は、採用できない。

(6)  更に、原告らは、被告は、被告が己に対し、所得税の修正申告を慫慂し、その引換条件として、Aの法人税の計算上職権更正をするとの提案を拒否したため、法157条を適用することが困難であることを認識しながら、意趣返しとして本件各更正処分を行ったものであって、本件に右条項を適用することは、被告の裁量権の範囲を著しく逸脱するものというべきであると主張する。

甲1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告が、己の平成3年分以降の本件賃貸借契約の賃料の値上げとそれに伴う修正申告をする代わりに、Aの各事業年度の法人税の計算上、右賃料引上額を損金に算入するという職権更正をするとの指導したことは認められるが、この認定以上に、右指導が、本件賃貸借契約の賃貸料収入の計算につき法157条を適用しないことを前提としたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はなく、右指導の事実のみから、被告が同規定の適用につき、裁量権行使の範囲を逸脱したと認めることはできない。

原告らの右主張は採用できない。

(7)  以上のとおりであるから、被告が、本件賃貸借契約につき、法157条1項を適用し、本件土地の賃貸借契約により己がAから取得すべき賃料収入額につき、前記同業者平均単価に基づいて認定したことは正当というべきである。

2  争点2(本件通知書の理由附記の適法性)について

(1)  原告らは、本件通知書でされた処分の理由の附記は、単に結論のみを記載したものであり、また、法157条の適用理由についても、同条を適用したことについての具体的理由の記載はないから、このような理由の記載では、法155条2項の要求する更正理由を附記したものとはいえない、と主張する。

(2)  本件通知書でされた各処分の理由の附記の内容は、前記したとおり、別紙[2]ないし[4]のとおりである。

そして、法155条2項が更正通知書に更正の理由を要求した趣旨は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることにあると解されるところ、前記の本件通知書の内容は、平成3年ないし同5年の本件更正処分のいずれについても、各更正処分によって総収入金額に加算すべき金額を記載し、かつ、右総収入金額の加算についての理由として、計算式を用いて同族会社でない法人に土地を貸し付けている個人の土地賃貸料の平均値(平成3年ないし同5年平均値)と比較し、本件賃貸借契約における本件土地の賃貸料が極めて低額であること及びAが法人税法上の同族会社に当たることを記載し、法157条の適用により、平成3年ないし同5年平均値に基づく計算式により、本件賃貸借契約における収入とすべき賃貸料の額を算出して、右金額から本件申告における不動産所得の金額の計算上収入金額に算入した金額を差し引いた金額を本件更正処分によって総収入金額に加算すべき金額とする記載がされているのであり、このような記載は、法155条2項の前記の趣旨に反するとはいえないものというべきである。

したがって、原告らの主張は、理由がなく、採用できない。

3  争点3(通則法65条4項の「正当な理由」の有無)について

原告らは、己が本件賃貸借契約を締結したことには社会通念上相当とみることができるから、通則法65条4項所定の「正当な理由」があると主張する。

しかし、前記の事実関係からすれば、己に同条項にいう「正当な理由」があったということはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件各賦課決定が違法であるとする原告らの主張は、採用することができない。

4  結論

そして、本件賃料につき、法157条1項を適用し、被告主張の数値を前提として、己の平成3年分ないし同5年分の所得税の納付すべき税額を計算すると、被告算定税額となることは前記のとおりであるところ、右各金額は、本件各更正処分に係る各年分の総所得金額及び納税すべき税額等の金額を上回っているから、本件各更正処分は、いずれも適法というべきである。

また、己の平成3年分ないし同5年分の所得税の確定申告について、被告算定税額をもとに更正処分がされた場合に課される各年度の過少申告加算税が被告算定加算税額となることは前記のとおりであるところ、右各税額は、本件賦課決定に係る金額をいずれも上回っているから、本件賦課決定は、いずれも適法というべきである。

よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壯太 裁判官 都築民枝)

裁判官 蛭川明彦は、研修中につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官 田中壯太

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