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浦和地方裁判所 平成9年(行ウ)4号 判決 1998年2月23日

埼玉県上尾市大字平方九七八番地

原告

石川新一

右訴訟代理人弁護士

新井宏明

大森恆太

埼玉県上尾市大字南七一番地一

被告

上尾税務署長 金田茂

右指定代理人

湯川浩昭

須藤哲右

芦澤治

谷脇輝夫

内田明

原田鉄也

櫻井勉

山田文恵

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告の平成四年分所得税について、被告が平成六年二月二二日付けでした更正処分のうち納付すべき税額一七八三万九五〇〇円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、被告が、原告の平成四年分所得税について、平成六年二月二二日付けで、納付すべき税額を三五六七万九〇〇〇円とする更正処分をしたところ、原告が、被告に対し、原告から株式会社富田染工芸(以下「富田染工芸」という。)へ別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を譲渡したことにより生じた所得については、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の二第二項七号(ただし、平成元年法律第一二号による改正後のもので、平成六年法律第二二号改正前のもの。以下「措置法三一条の二第二項七号」といい、同条同項同号による譲渡所得の課税の特例を、「本件特例」ともいう。)に該当するので、同条一項に定める長期譲渡所得の課税の特例を適用しなかったことは違法であるとして、右更正処分のうち原告の確定申告による納付すべき税額一七八三万九五〇〇円を超える部分の取消しを求めた事案である。

二  本件における課税処分の経緯(争いがない。)

1  原告は、平成五年三月、原告の平成四年分所得税について、総所得金額を一〇万四六五五円、分離課税の長期譲渡所得金額を一億二〇〇二万五三八一円、納付すべき税額を一七八三万九五〇〇円とする確定申告をした。

2  被告は、平成六年二月二一日付けで、原告の同年度分の所得税について、総所得金額、分離課税の長期譲渡所得金額を原告の申告額と同額とし、納付すべき税額を三五六七万九〇〇〇円とする更正処分をした。

3  原告は、平成六年四月八日、被告に対し、本件更正処分につき異議申立をしたところ、同年六月三〇日付けで右異議申立を棄却する旨の決定をした。

4  原告は、平成六年七月二七日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成八年一一月一日付け裁決書をもって右審査請求を棄却する旨の裁決をし、裁決書は原告に送達された。

三  本件課税標準額

原告の平成四年分の所得税の課税標準額は以下のとおりである(甲第六号証及び弁論の全趣旨)。

1  総所得金額 一〇万四六五五円

右金額は、原告の確定申告額と同額である。

2  分離課税の長期譲渡所得金額 一億二〇〇二万五三八〇円

右金額は、後記(一)の金額から同(二)ないし(四)の合計額を控除した額である。

なお、本件土地はいずれも譲渡した年である平成四年一月一日において所有期間が五年を超えるもので、本件土地の譲渡による譲渡所得は、長期譲渡所得として分離課税の対象となる〔措置法三一条一項及び二項(ただし、平成七年法律五五号による改正前のもの。以下同じ。)〕。

(一) 譲渡収入金額 一億七九八〇万円

右金額は、原告が後記のように平成四年五月二二日に本件土地を富田染工芸に対し譲渡したことによる収入金額であり、原告の確定申告と同額である。

(二) 取得費 三七一〇万二七二〇円

右金額は、次の(1)及び(2)の合計額である。

(1) 本件土地の取得費 八九九万円

本件土地は、後記のように平成二年六月二六日に原告の父である石川新兵衛が死亡したことにより、原告が相続により取得したものであり、措置法三一条の四第一項に定めるところにより、本件土地に係る譲渡収入金額一億七九八〇万円の一〇〇分の五に相当する金額が本件土地の取得費とるなる。

(2) 取得費に加算される相続税額 二八一一万二七二〇円

本件土地は、平成二年六月二六日に原告の父である石川新兵衛が死亡したことにより相続により取得したものであり、措置法三九条一項(ただし、平成五年法律一〇号による改正前のもの。)及び同法施行令二五条の一五第二項(ただし、平成五年政令八七号による改正前のもの。)の規定により、別表のとおりの算式で算定した二八一一万二七二〇円が取得費に加算される。

(三) 譲渡費用 二一六七万一九〇〇円

右金額は、原告が本件土地を譲渡する際に支払った費用の合計額であり、原告の確定申告額と同額である。

(四) 特別控除額 一〇〇万円

右金額は、措置法三一条四項(ただし、平成七年法律第五五号による改正前のもの。)に規定する金額である。

3  所得控除額 一二〇万円

右金額は、社会保険料控除一五万円、配偶者控除三五万円、扶養控除三五万円及び基礎控除三五万円の合計額であり、原告の確定申告額と同額である。

4  課税総所得金額 〇円

右金額は、前記1の総所得金額一〇万四六五五円から、所得控除額のうちこれと同額である一〇万四六五五円を控除した金額である。

5  課税分離長期譲渡所得金額 一億一八九三万円

右金額は、前記2の分離課税の長期譲渡所得金額一億二〇〇二万五三八〇円から、前記3の所得控除額のうち、前記4のとおり総所得金額からの控除不足額である一〇九万五三四五円を控除した額(ただし、国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。

四  本件土地の開発許可及び売買契約の経緯(証拠の記載のないものは争いがない。)

原告は、平成二年六月二六日に原告の父である石川新兵衛が死亡したことにより本件土地を相続したが、本件土地を売却し、その譲渡所得について本件特例による譲渡所得の軽減税率の適用を受けて、相続税及び他の相続人への財産分与金を捻出することとした(甲第一号証の二及び第一五号証)。そこで、譲渡の相手方として予定していた富田染工芸と協議をしたが、土地所有者でないと都市計画法二九条の開発許可を受けられないと誤解していたこと、また、開発許可を受けるには時間がかかることから、原告が開発許可を受けることとして、その申請をし、平成四年三月一七日、原告は、本件土地を戸建専用住宅として開発する旨の開発行為の許可を受けた(甲第一号証の三、第一五号証)。

その後、原告は、地主が自ら開発許可を受けて土地を造成をした上で、これを売却した場合には、その所得は譲渡所得とはならず、事業所得又は雑所得となることが分かり、税理士、上尾税務署等に相談の上、本件土地を富田染工芸に譲渡するとともに、開発許可を受けた者の地位承継(都市計画法四五条)を行う方法により、本件特例の適用を受けることを企画した(甲第二号証の一、二及び第一五号証)。

原告は、富田染工芸に対し、平成四年五月二二日に本件土地を売却し、同月二六日にその所有権移転登記手続を了し、富田染工芸は、同年六月三日、上尾市に対し、都市計画法四五条の開発許可地位承継承認申請を同月一九日付けで承認を受けた。なお、その際の申請書の承継の原因欄には、「石川新一は措置法三一条二項の適用を受ける為に開発許可を受けたが、自らが造成したのでは、同法の適用が受けられない事が訳り当社と売買するので」と記載されている(甲第二号証の一)。

五  本件の争点

本件の争点は、本件土地の所有者であった原告が同土地について開発許可(都市計画法二九条、三五条一項)を受けた上で同土地を売却し、その後、譲受人が原告の開発許可に基づく地位の承継(同法四五条)を受けた場合、原告の譲渡所得につき本件特例の適用があるかどうかである。

1  被告の主張

本件土地の譲渡による譲渡所得については、以下のとおり、本件特例の適用はないと解すべきである。

(一) 措置法三一条の二の規定内容

(1) 措置法三一条の二第二項七号によれば、同号に規定する「優良住宅地等のための譲渡」とは、都市計画法二九条又は同法附則四項の開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人(都市計画法四四条又は四五条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である個人又は当該地位を承継した個人。)又は法人(都市計画法四四条又は四五条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である法人又は当該地位を承継した法人。)に対する土地等の譲渡で、<1>当該譲渡に係る土地等が当該一団の宅地の用に供されるもので、その面積が一〇〇〇平方メートル以上であり、かつ、<2>宅地の造成が当該開発許可の内容に適合して行われると認められるものであること、及びこれらの点について大蔵省令で定める開発許可申請書等の写し等(措置法施行規則一三条の三第二項七号)の確定申告書への添付によって証明されたものであることを必要とするとされている。

(2) 措置法三一条の二第二項は、同法の適用対象となる土地等の譲渡について規定しているところであるが、同項各号は、同法一項の適用対象となる土地等の譲受人の要件を規定するのみであり、土地等の譲渡人については、何ら規定していない。これを本件特例についてみると、同号の適用を受けるためには、当該土地譲渡が同号の要件に該当する譲受人、すなわち、「開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人又は法人」に対するものであることが要件とされている。したがって、本件特例の括弧書き内の者も、土地の譲受人を指すものと解される。

さらに、措置法三一条の二は、公共用地取得の円滑化及び優良な宅地の供給を図るための特別の減税措置であり、右条項に該当する者は、他の一般納税者であれば当然負担するべき税額を一定範囲で免れることができるのであって、他の一般納税者に比して特別の恩恵的減税措置を受けることになる。一般に、租税法規の規定の解釈はみだりに拡張すべきでなく、特に、本件特例のような例外的減税措置は、該当者が特別の恩恵を受けるものであるため、他の納税者との間の課税の公平ないし中立からして厳格かつ客観的に解釈されなければならず、当然条項の文言に忠実に適用されなければならない。

本件の場合は、原告が本件土地に係る開発許可を得たのは、平成四年三月一七日であり、本件土地の譲渡がなされたのが同年五月二二日であるところ、右開発許可が富田染工芸に承継されたのは、右譲渡に遅れる同年六月一九日である。そうすると、本件譲渡が行われた時点において、譲受人である富田染工芸が本件特例の要件を満たしていなかったことは明らかである。

(3) また、都市計画法四五条は、「……土地の所有権その他当該開発行為に関する工事を施行する権限を取得した者は、……当該開発許可に基づく地位を承継することができる。」と規定しているのであって、同条の文言による限り、所有権の取得、すなわち譲受けが地位の承継に先行するものとされている。本件特例には「都市計画法四五条に規定する……場合」と規定されていることからみて、右と同様の順序が予定されている。

そうすると、本件のように、土地等の譲渡人が自ら開発許可を受けた後に土地を売却する場合、必然的に、まず「土地等の譲渡」がなされ、次の段階で「開発許可に基づく地位の承継」がなされることになるのであるから、本件特例の適用を受ける余地はなくなる。

右を受けて、「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」(直資四―五・直所四―五(例規)・直法二―六・昭和四六年八月二六日)の三一の二―一三(宅地造成につき開発許可を受けた者が有する当該宅地造成区域内の土地等の譲渡についての特例の不適用・平成六年一二月一九日課資三―一追加)は、「……開発許可に基づく地位の承継に係る被承継人である個人が当該開発許可に係る宅地造成事業の施行地域内に有する土地等を当該開発許可に基づく地位を承継した個人又は法人に譲渡した場合における当該土地等の譲渡については措置法三一条の二第一項の規定の適用はないことに留意する。」と定めている。なお、右通達の「留意する」との文言からすれば、右通達は、これにより新たな取扱いを定めたものではなく、従前の取扱いを確認したものと解すべきである。

したがって、本件のように土地の所有者が当該土地について都市計画法二九条に基づく開発許可を受けた上で土地を譲渡し、譲受人が開発許可に基づく地位の承継をして土地を造成した場合には、本件特例の適用はない。

(二)本件特例の改正前の規定及び改正の趣旨

(1) 平成元年法律第一二号による改正(以下「平成元年改正」という。)前の措置法三一条の二第二項四号(以下「措置法三一条の二第二項四号」といい、同条同項同号による譲渡所得の課税の特例を「改正前の特例」という。)について

本件特例は、平成元年法律第一二号により改正されているが、右改正前の特例は、軽減税率の特例が適用されている土地等の譲渡について、「都市計画法第二十九条又は同法附則第四項の許可(以下この項において「開発許可」という。)を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人(同法四十四条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である個人又は当該地位を承継した個人。……)又は法人(同上に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である法人又は当該地位を承継した法人。……)に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該一団の宅地の用に供されるもの」と規定されていた。右にいう都市計画法四四条に規定する開発許可に基づく地位の承継者には、開発行為の許可を受けた個人の死亡によりその個人から当該造成に係る地位を承継した相続人等及び開発行為の許可を受けた法人の合併によりその法人から当該造成に係る事業を引き継いだ合併法人を含むとされていた。

右規定は、都市計画法四四条所定の開発許可に基づく地位の承継があった場合には、開発許可に基づく地位の被承継人である開発許可を受けた者(被相続人又は被合併法人)とその承継人(相続人等又は合併法人)とをいわば同一の譲受人として扱うことにより、同一の造成事業が継続するものとして、開発許可に基づく地位の被承継者又は承継者のいずれに対して行った土地等の譲渡についても、その譲渡人に対し軽減税率の特例の適用を認める趣旨のものである。すなわち、改正前の特例所定の土地等の譲受人は、<1>譲渡人以外の開発許可を受けて造成を行う個人又は法人、<2>右<1>の個人又は法人から都市計画法四四条所定の開発許可に基づく地位の承継を受けた個人又は法人のいずれかに限られており、したがって、譲渡人が自ら開発許可を受け、当該開発許可に基づく地位が相続人等又は合併法人に承継された場合には、当然、軽減税率の適用は認められなかったものである。

(2) 平成元年改正の趣旨

平成元年改正後の本件特例は、軽減税率の特例が適用される土地等の譲渡について、「開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人(都市計画法第四十四条又は第四十五条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である個人又は当該地位を承継した個人。……)又は法人(同法四十四条又は四十五条に規定する開発許可に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である法人又は当該地位を承継した法人。……)に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該一団の宅地の用に供されるもの」と規定されており、都市計画法四四条所定の開発許可に基づく地位の承継者に対する譲渡に加えて、新たに、同法四五条所定の開発許可に基づく地位の承継者に対する譲渡も含むこととした。

右改正の趣旨は、平成元年改正前の規定を前提として、これに都市計画法四五条所定の場合を追加することによって、<1>例えば、倒産などにより事業の継続が不可能となった開発許可を受けた事業者の地位を他の事業者に承継させることによって、優良宅地の開発を円滑に行わせるとともに、<2>措置法二八条の四及び同法二八条の五においては、都市計画法四五条の規定により地位を承継した者も、同法四四条の規定により地位を承継した者と同様に取り扱うこととされており、また大都市地域における優良宅地開発の促進に関する緊急措置法においては、大都市地域における優良宅地開発の促進に関する緊急措置法による認定事業者の地位の承継についても、認定事業者の地位の承継に関しては、相続・合併のほか認定事業者から宅地開発事業を実施する権限を取得した場合についても、同列に取り扱うこととされているので、これらの規定との整合性を保つところにあると解される。

そうすると、平成元年改正前の特例の規定の枠組み及び趣旨は、右改正後も本件特例にそのまま引き継がれ、本件特例が適用される場合は、<1>譲渡人以外の開発許可を受けて造成を行う個人又は法人、<2>右の<1>の個人又は法人から都市開発法四四条又は四五条所定の開発許可の地位の承継を受けた個人又は法人のいずれかに対する土地の譲渡に限られると解すべきである。

(三) 都市計画法の趣旨との関係

右に述べたところは、都市計画法二九条等の内容に鑑みても肯定される。

(1) 都市計画法二九条は「市街化区域又は市街化調整区域において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、建設省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。」と規定し、開発行為をしようとする者(開発行為者)が自ら都道府県知事の許可(開発許可)を受けなければならないとしている。このことは、都市計画法が「農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきこと」(二条)を基本理念として掲げ、開発行為の許可の制度が、右基本理念の下に、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るために市街化区域及び市街化調整区域において行う開発行為を都道府県知事の許可にかからしめていること、すなわち、同法二九条に基づく許可は、あらかじめ申請に係る開発行為が同法三三条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという法律効果を有するとされているところ、そのために、開発行為者が都道府県知事に開発行為の許可を申請し(同法三〇条ないし三二条)、都道府県知事が右申請に係る開発行為について同法三三条一項各号に列挙されている開発許可の基準(その地域全体の都市計画と調和しているかどうか、道路・公園・給水排水・消防・学校・店舗・医療施設などの適切な配置がなされているかどうか等)に適合しているか否かを審査するとされていることからも明らかである(同法三三条一項)。

したがって、土地等の所有者が、自らは当該土地等について開発行為を行う意思がないにもかかわらず、自己名義で都道府県知事に対して開発行為の許可を申請して開発許可を受け、その後当該土地等を開発業者等に譲渡してその許可に基づく地位を承継させることは、都市計画法二九条等の趣旨に反するものである。

(2) しかるに、措置法三一条の二第二項七号の規定が、自ら開発行為を行う意思がないにもかかわらず開発行為の許可を受けた者が開発業者に対して土地を譲渡した場合にも適用されることとなれば、右のような譲渡を助長し、ひいては都市計画法二九条等の趣旨に反する結果となる。

したがって、本件特例は、開発許可を自ら受けた者が開発許可に基づく地位の承継を受けた者に土地を譲渡した場合には適用すべきではない。

(四) 原告の主張に対する反論

(1) 平成四年三月当時、上尾税務署の管理・徴収第一部門には尾崎廣司徴収官(以下「尾崎徴収官」という。)が勤務していたが、尾崎徴収官が原告に対し、原告主張のように、当該土地を譲渡し、譲受人が都市計画法四五条の規定による開発許可に基づく地位の承継をすれば本件特例の適用を受けることができる旨の回答をした記録が存在しない。右当時の尾崎徴収官の担当は管理・徴収事務であり、本件特例の適用の有無に関する事務は担当していなかった。上尾税務署において、本件特例の適用の有無に関する質問を受けた場合には、その対応は資産税事務の担当者によって行われる。したがって、仮に尾崎徴収官が原告から本件特例の適用について質問を受けたとしても、これに対して正式な回答を行うことはあり得ない。

(2) 仮に原告主張のとおり、尾崎徴収官が原告に対する回答をしたとしても、これをもって本件譲渡に係る譲渡所得について本件特例の適用をする根拠とすることはできない。けだし、課税減免規定の適用について仮に税務職員に誤指導があったとしても、課税減免規定の実体的要件を欠く納税者には、元来、同規定によって保護されるべき法的利益がなく、そのような者の課税を減免することは、かえって租税平等の原則に反する結果になるからである。

3  原告の主張

本件土地の譲渡による譲渡所得については、次のとおり、本件特例が適用されるべきである。

(一) 原告は、本件土地について開発許可を受けた後の平成四年三月頃、本件土地の譲渡により生ずる所得に対する本件特例の適用について、税理士と相談の上で上尾税務署に指導を仰いだところ、上尾税務署の尾崎徴収官から、地主が造成すると譲渡所得ではなく事業所得や雑所得となるが、都市計画法四五条の地位承継をした上で土地の譲渡をすれば、本件特例が適用される旨の回答を得た。原告は、この回答に従って、富田染工芸に対して都市計画法四五条に規定する開発許可に基づく地位の承継を行うこととした。そして、富田染工芸は平成四年四月に上尾市役所に赴いて相談をしたところ、土地の所有権移転登記手続をすれば開発許可に基づく地位の承継が認められる旨の回答を得たので、原告から本件土地の譲渡を受けた上、開発許可に基づく地位の承継をした。

(二) 本件土地の開発許可取得者は、名目的、形式的には原告であるが、実質的には富田染工芸である。

原告は自ら土地を開発することは考えておらず、富田染工芸の求めに応じて、同社に売却するために開発許可申請者となったにすぎない。すなわち、原告と富田染工芸との間の本件土地の売買契約は平成四年五月二二日にされているが、富田染工芸による造成が開始されたのは同年七月一日、代金の支払がされたのは同年一一月以降であるから、実質的な売買契約は富田染工芸が開発許可に基づく地位の承継をした日以降ともいえるのであり、原告の許可申請・許可取得は実質的には「承諾書」的なものであったといえる。

したがって、もともと開発許可を受けたのは譲受人である富田染工芸で、譲渡人である原告は「承諾書」を出しただけと考えることが妥当であり、本件土地の譲渡に関する譲渡所得には本件特例が適用されると解すべきである。

(三) 本件特例は、条文上は、譲受人について、開発許可を受けて造成を行う個人又は法人(都市計画法四五条の特定承継の場合は承継人)と定めるのみであり、譲渡人が自ら開発許可を受けた場合を除外するとの文言はなく、また、そのように解釈すべき根拠もない。本件特例の趣旨は、社会に優良宅地を供給を促進することにあると考えられるから、優良宅地さえ供給されればよいのであって、少なくとも譲渡人が開発許可を受けたか、譲受人が開発許可を受けたかにより区別すべき理由はない。

平成元年改正前の特例においては、その適用を受け得る開発許可に基づく地位の承継は一般承継の場合しか認められていなかったが、平成元年改正後の本件特例では、特定承継による開発許可に基づく地位の承継者に対する譲渡にも軽減税率の特例の適用が認められたので、自ら許可を受けた者と開発許可に基づく地位の承継を受けた者とが同一に取り扱われることになった結果、開発許可に基づく地位の承継を受けた者も、直接譲受人が開発許可を受けた場合と同様に扱われるべきことになり、このように平成元年改正により、都市計画法四五条の特別承継も認められた時から、「都市計画法二九条の申請者はあくまで譲受人によるものに限る」ということが論理的にできなくなった。

(四) また、平成元年改正の趣旨は、土地高騰を抑制する方策として土地(優良宅地)供給の拡大を図ることにあったといわれている。改正前の特例は、転売がなされると土地高騰に道を拓くから特定承継に本件特例は適用できないとしていたものを、平成元年改正により、特定承継による場合も本件特例の適用対象とされたのであるから、譲渡人自身が開発許可を受けたときも本件特例の適用を受けられないとする理由はない。そして、都市計画法四五条の特定承継を認めた本件特例における「開発許可を受けて」という意味は「受けている状態」を説明する以上のものではなく、譲渡人が許可を受けた場合と、譲受人が許可を受けた場合とを区別することは認められていないものと解釈すべきである。

なお、被告の主張する解釈によっても、譲渡人が許可申請を取り下げて、譲受人が許可申請をすれば本件特例が適用されることになる。しかし、このような方法によれば、再び許可申請費用がかかるのであり、また、地域に縁のない譲受人が許可申請をするよりも、その地域に居住し縁の深い譲渡人が申請した方が近隣対策費や行政官庁との折衝において経費がかからないことは公知の事実である。そして、都市計画法四五条の立法趣旨は、既に開発許可付きの土地売買が存在する場合には、本来、許可は一身専属的なものであるから、権利の移転や造成の権限を取得したといっても譲受人が改めて許可を受ける必要があるが、売買が相当数存在する状況を鑑みて、事務手続きの簡易化を図るため、許可に代えて都道府県知事の承認を認めたものである。そうすると、取下げ・再申請によることは法の趣旨に悖ることになり、また、そうしない限り右軽減措置を受け得ないとする実質的な理由はない。

(五)<1> 本件土地の譲渡時には富田染工芸に対して開発許可に基づく地位の承継がされていなかったとしても、結果として地位の承継がされているのであるから、本件特例は適用されると解すべきである。

すなわち、一般の取引形態としては、土地の譲渡及び所有権移転登記が譲受人の開発許可の取得に先行しており、また、都市計画法四五条に規定する開発許可に基づく地位の承継の実務においては、現に富田染工芸が指導を受けたように、地位の承継の請求権者として、地主から承諾書を貰っただけの者は認めず、土地の所有権を譲り受けた者に限るように指導する地方公共団体が存在する。そうすると、譲受人が開発許可を取得した後に当該土地を譲り受けた場合に限り譲渡人は本件特例の適用を受けることができる、すなわち、常に譲受人側における開発許可の取得が土地の譲渡に先行すべきであるという被告の解釈によれば、右のような一般的な取引事例や地方公共団体の指導に従った場合において、譲渡人は本件特例の適用を受けることが許されなくなる。しかし、このような解釈によれば、都市計画法四五条による開発許可に基づく地位の承継はできても、全て本件特例は受けられないことになるが、同条が開発許可に基づく地位につきその特定承継を認めている以上、同法に基づき適法に開発許可の承継が認められる限り、譲渡人に本件特例が適用されるべきであるから、被告の右のような解釈は、都市計画法四五条との整合性に欠けるものというべきである。したがって、譲渡人が開発許可を取得した場合であっても、本件特例が適用されると解すべきである。

<2> 仮に、譲渡があったときに既に開発許可を受けていなければ本件特例の適用はないとしても、原告は平成四年三月一七日に開発許可を受けており、富田染工芸は六月一九日に地位承継をしたのであるから、富田染工芸は平成四年三月一七日に遡って開発許可を取得したものになると考えるべきである。法律に規定する地位承継の意味は、被承継人の許可取得がそのまま承継人の許可取得となるものであるから、原告が取得した平成四年三月一七日の許可がそのまま富田染工芸の許可となるのであり、結果的に、土地の譲渡があったときに、富田染工芸は開発許可の地位を取得していたものというべきである。原告から富田染工芸に土地が譲渡されたときに、富田染工芸が地位承継をしていなかったから本件特例の要件を満たしていなかったなどと解釈すれば、それは条文を無視して承継を否定することに他ならない。

(六) 租税法律主義違反

本件特例の文言は、これを自ら開発許可を申請し、その開発許可を受けて造成を行う者に対する譲渡と限定的に読まなければならない理由も、必然性もないことは前述のとおりであるが、仮に右文言を右のように限定的に読むべきであるとしても、これが条文上明確であるということはできない。現に、税の専門家である上尾税務署員や原告が委任した税理士においても右条文の文言から被告が主張するような解釈が導けなかったし、また、関東甲信越国税税務相談室、東京国税局税務相談室や、原告が相談した税理士も、そのような解釈はできなかったであろうとしている。このように税の専門家や税務署に事前の検討を依頼しても、誰も正確に読むことができないような条文は、租税法律主義に違反する。なお、税務署内で、個々の税務署員に対する内部の事務分配がどうなっているかは問題ではない。仮に、尾崎徴収官の行動が上尾税務署の内部事務分配に反していたとしても、上尾税務署員として原告に明確な回答をしたものである。

被告が主張する本件特例の解釈は、本件における土地譲渡の後である平成五年八月一〇日に発行された国税庁資産税課課長補佐の執筆による「優良住宅地等のための譲渡の軽減税率の特例」という解説書において初めて同旨の結論のみが示され、平成六年に至り、被告が主張する解釈を採る通達(措通三一の二―一三 平六課資三―一追加、「宅地造成につき開発許可を受けた者が有する当該宅地造成区域内の土地の譲渡についての特例の不適用」)が出され、さらに平成八年一二月に右国税庁資産税課課長補佐の執筆した解説によっても結論が記載されているだけであって、理由も根拠も記載されていない。このように、本件土地の譲渡当時、譲渡人が開発許可の地位を取得した場合に本件特例の適用を受けることができないとする根拠や資料となるものは全くなかった。

原告は法律に従い、上尾税務署の指導に基づき行動したのであり、別の方法を採れば本件特例の適用を受けられたにもかかわらず、税務署や税の専門家により示された方法で本件土地の譲渡を行ったことにより、予測に反して巨額の税を課せられることになった。本件特例の文言は、税の専門家である税理士にも理解できず、上尾税務署がむしろ逆の指導をし、国税庁の資産税課の責任者にも十分な説明ができないようなものであり、租税法律主義に違反するものというべきである。

第三争点に対する判断

一  本件土地の開発許可の取得者について

原告は、本件土地の開発許可の取得者は名目的、形式的には原告であるが、実質的には譲受人である富田染工芸であると主張する。

しかし、都市計画法三五条に基づく開発許可が行政庁の処分であることは、その条文に照らしても明らかである。したがって、仮に、原告が当初から土地開発を予定しておらず、譲受人たる富田染工芸の求めにより同社に売却するために右許可申請者となったものであり、さらに、造成事業の開始や代金の支払が開発許可に基づく地位の承継後であったとしても、開発許可の申請が原告によってされ、これに対して原告を名宛人として本件開発許可がされた以上、開発許可を受けたのは原告であると解さざるを得ないから、原告の右主張は失当である。

二  本件特例の適用の可否について

1  措置法三一条の二第二項七号は、優良住宅地の造成等を促進するために長期譲渡所得の課税の特例の適用を定めたものであり、この点は、本件特例についての平成元年改正前の規定である措置法三一条の二第二項四号も同趣旨であると解される。

2  措置法三一条の二第二項四号は、開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人又は法人に対する土地の譲渡について長期譲渡所得の課税の特例を適用するものと定め、右譲受人について、括弧書きにおいて、開発許可に基づく地位の承継が生じたときは、都市計画法四四条の規定に該当する場合、すなわち一般承継があった場合の承継人又は被承継人である場合に限定すると定められていた。このように平成元年改正前の規定においては、課税の特例対象として、当該土地の譲渡の相手方における開発許可に基づく地位の一般承継だけが認められていたのであるから、本件のように、譲渡人が開発許可に基づく地位を取得したがこれを土地の譲渡とともに譲受人に特定承継させるような事例は、右課税の特例が適用される場合に該当しないことは明らかである。

そして、改正前の特例が、右のように譲渡の相手方として都市計画法四四条の規定による開発許可に基づく地位の承継者を含めたのは、一般承継の場合には、承継人は被承継人の有する権利義務及び法的地位を包括的に承継するのが原則であり、また、相手方は一団の宅地の造成を行う個人又は法人であるから、これに一般承継が生じても、都市計画法四四条の規定による開発許可に基づく地位の承継が認められる限り、これらの者に対する土地の譲渡につき譲渡所得税の特例の適用を認めても、優良住宅地の供給を促進するという右の特例の趣旨に反せず、また、転売利益だけを追求して土地の転売が繰り返され、その結果土地の価格が上昇するような危険性はないからであり、さらには、都市計画法の右規定が開発許可に基づく地位の一般承継を認める趣旨にも合致するからであると解される。

3(一)  平成元年改正により、本件特例は、右改正前から認められていた都市計画法四四条の規定による開発許可に基づく地位の承継に加えて、同法四五条に規定する開発許可に基づく地位の承継(特定承継)があった場合の承継人又は被承継人に対する譲渡も含まれることとされた。

甲第三号証の一ないし三、乙第三号証によれば、平成元年改正の趣旨は、主に関係法令との整合性を確保することにあったこと、すなわち、<1>措置法二八条の四に定める土地の譲渡等に係る事業所得等の課税の特例の制度や、同法二八条の五に定める超短期所有土地の譲渡等に係る事業所得等の課税の特例の制度の下では、都市計画法四五条の規定により地位を承継した者も同法四四条の規定により地位を承継した者と同様に取り扱うものとされていること、<2>大都市地域における優良宅地開発の促進に関する緊急措置法においても、その一三条による認定事業者の地位の承継には、一般承継のほか、認定事業者から宅地開発事業を実施する権限を取得した者も建設大臣の承認を受けて地位の承継を認められていることとの整合を図るためであったと解される。そして、措置法二八条の四及び同法二八条の五の場合においては、当該特例の適用を受ける個人は、自ら造成した一団の宅地の全部又は一部を譲渡した場合であり、大都市地域における優良宅地開発の促進に関する緊急措置法においては、計画の認定を受けた宅地開発事業者である認定事業者が同じく認定事業者にその地位を譲渡するものである。

(二)  措置法三一条の二第二項七号は、開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の宅地の造成を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡につき本件特例を適用するものとし、括弧書きにより、個人については、都市計画法四四条又は四五条に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である個人又は当該地位を承継した個人を含み、法人については、同法四四条又は四五条に規定する開発許可に規定する開発許可に基づく地位の承継があった場合には、当該承継に係る被承継人である法人又は当該地位を承継した法人を含むと定めている。すなわち、これを平成元年改正前の規定である措置法三一条の二第二項四号と対比しても、本件特例の適用を受ける要件として、譲受人が特定の資格を備えるべきものと定め、括弧書きにより、個人及び法人につき補充的定めをしていることは同様であり、右改正後の規定においては、括弧書きの内容において、従来の都市計画法四四条による開発許可に基づく地位の承継の外、同法四五条による承継が加えられたにすぎない。

4  そこで、右のような平成元年改正の趣旨、並びに右改正の前後における右のような法文の構成、文言に照らすと、平成元年改正によって本件特例の趣旨・目的が改正前の特例から基本的に変更されたと解することは困難であって、すなわち、本件特例の趣旨は、五年以上の長期にわたって土地を所有する個人が、開発許可を受けた個人又は法人にその土地を譲渡した時は、優良住宅地の開発を期待しうるとともに、優良住宅地の供給促進を図ることができ、したがって、このような場合には、譲渡所得税の軽減措置を適用することとし、さらに、このように譲渡所得税を軽減することにより、長期に土地を所有する個人が土地を譲渡し易くしたものと解するのが相当である。そして、このような趣旨からすれば、右開発許可を受けた個人又は法人において、一般承継に限らず、特定承継が生じた時も、本件特例を適用すべきこととしたのは、むしろ合理性があるということができ、また、特定承継の場合にも本件特例を適用しても、譲受人が開発許可に基づく地位の承継人である限り、転売利益だけを追求して土地の転売が繰り返され、その結果土地の価格が上昇するような危険性は大きくないものと解される。

以上のような本件特例の趣旨・目的、平成元年改正の趣旨、並びに平成元年改正前は、前記のように、譲渡人が開発許可に基づく地位を取得したがこれを土地の譲渡とともに譲受人に特定承継させるような事例は、当然に改正前の特例の対象とならなかったことも考量すると、平成元年改正により、新たに、譲渡人が都市計画法二九条に規定する開発許可に基づく地位を取得しこれを土地の譲渡とともに譲受人に承継させる場合にまで、本件特例が適用されることになったと解することはできず、むしろ、土地を長期所有していた個人が自ら開発許可を取得した後、右開発許可に基づく地位とともに土地を譲渡するような場合は、そもそも本来的に本件特例の適用対象とされていないのであって、措置法三一条の二第二項七号の括弧書き内に定める開発許可に基づく地位の承継は、優良住宅地の造成等のための譲渡の相手方あるいは譲渡を予定していた相手方において生じたものに限られると解するのが相当である。

なお、原告は、一般の取引形態としては土地の譲渡が譲受人の開発許可の取得に先行しており、また、都市計画法四五条に規定する開発許可に基づく地位の承継を土地の所有権を譲り受けた者に限るように指導する地方公共団体が存在するから、常に譲受人側における開発許可の取得が土地の譲渡に先行すべきであるとすれば、右のような場合には、譲渡人は本件特例の適用を受けることが許されなくなると主張する。しかしながら、措置法三一条の二第二項七号は、譲渡人は一団の宅地の造成を行う個人又は法人であることを要すると定めているにすぎないから、五年以上土地を所有している個人からこれを譲り受ける者は一団の宅地の造成を行う者であることを要するが、右譲受けの時に常に開発許可を受けていることまでも必要ではなく、右譲受後に開発許可を受けることにより、当該一団の宅地の造成が同条同項ロに該当すると認められれば、右要件を充たすものというべきである。したがって、原告の右主張は、五年以上土地を所有している個人が土地を譲渡している個人が土地を譲渡した場合に本件特例が適用されるための譲受人の資格と、都市計画法四五条の開発許可に基づく地位の特定承継の要件を混同したものといわざるを得ないのであって、採用することができない。

5  ところで、原告は、富田染工芸は六月一九日に地位承継をしたから、原告が開発許可を受けた平成四年三月一七日に遡って開発許可を取得したものになると考えるべきであると主張するけれども、都市開発法上、開発許可に基づく地位の承継に遡及効を認める規定はないから、原告の右主張は失当である。

6  したがって、譲渡人が開発許可を受けて、当該土地を譲渡するとともに、その地位を承継した本件において、本件特例を適用しなかったことについて、本件更正処分に違法はない。

三  租税法律主義違反の有無について

右二に説示したとおり、本件特例の要件は、法文の構成、文言、その改正の経緯、趣旨等により明確であり、譲渡人が開発許可を受けて、土地等の譲受人に対して開発許可に基づく地位の承継をした場合を含まないものと理解することができるから、措置法三一条の二第二項七号の規定は不明確であって租税法律主義に違反するとの原告の主張は、採用することができない。

なお、仮に税務署の職員が当該法令の解釈について誤った教示をしたとしても、そのことのみをもって直ちに当該法令が租税法律主義に違反するということができないことも明らかであるから、この点に関する原告の主張は失当である。

四  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 小島浩 裁判官 水上周)

物件目録

一 所在 埼玉県上尾市大字平方字雨沼

地番 九七八番二

地目 宅地

地積 一五一四・七八平方メートル

二 所在 埼玉県上尾市大字平方字雨沼

地番 九七六番二

地目 山林

地積 一〇一平方メートル

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