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浦和地方裁判所 昭和30年(ヨ)119号 判決 1955年12月27日

申請人 右島利三郎 外一九名

被申請人 岩崎鈑金工業株式会社

主文

本件仮処分申請を却下する

申請費用は債権者等の負担とする

事実

債権者等代理人は、申請の趣旨として、債務者は債権者等に対して別紙目録記載の金員を仮りに支払えとの判決を求め、その申請の理由として、債権者等はいずれも債務者会社の旧従業員であつたが、別紙目録記載の日に任意退職したものである。ところがこれより先債権者等を含む債務者会社従業員は岩崎鈑金労働組合(以下本件労働組合という)を組織しておつて、同組合は債務者会社の前身である合資会社岩崎鈑金製作所との間に労働協約を結び昭和二十九年七月債務者会社が設立するに及んで債務者会社との間に右労働協約を承継したが右労働協約によれば、従業員は任意退職の場合には退職金を支給されることになつていて、その規定の内容は別表のとおりであるから、右の労働協約の定めに従うと債権者等が債務者会社からうけるべき退職金は別紙目録記載のとおりである。しかるに債務者会社は債権者等に対して右退職金の支払をしないので、債権者等は債務者会社に対して右退職金請求の訴を提起するのであるが、債権者等は財産をもたない労働者であるため本案判決の確定をまつことができないから債務者会社に対して「仮りに右退職金を支払うべき」旨の仮処分を求めるものである、と述べ、債務者の抗弁事実を否認し、一、仮りに本件労働組合と債務者会社間に前記労働協約を承継する旨の合意がなかつたとしても、合資会社岩崎鈑金製作所と債務者会社とはただ名称を変更したにすぎないのであつてその事業経営の実体は全く同一であるから合資会社岩崎鈑金製作所との間の労働協約は債務者会社に対して当然承継されるものである。二、仮りに右労働協約の承継が認められないとすれば、債務者会社が設立された昭和二十九年七月頃債権者等を含む債務者会社の従業員と債務者会社との間に右労働協約の内容と同一内容をもつ退職金支給の契約が成立したものである。と述べた。(疏明省略)

債務者代理人は、本件申請を却下するとの判決を求め、答弁として、債権者がいずれも債務者会社の旧従業員であつたが任意退職したこと(但し内十名が昭和三十年三月十八日というが昭和三十年三月十七日である)及び債権者等を含む債務者会社の従業員が本件労働組合を組織し、合資会社岩崎鈑金製作所との間に労働協約を結んでいたことはこれを認めるが、爾余は否認する。すなわち債務者会社は本件労働組合と合資会社岩崎鈑金製作所との間の労働協約を承継したことはなく、また債権者等は退職後昭和三十年五月分から向う六ケ月間にわたり失業保険法による保険金の支払をうけ、その額は債権者等の退職当時の日給の約八〇パーセントにあたるし、また債務者会社から債権者等に対して平均日給の三十日分にあたる退職慰労金を既に支給しているから本件仮処分は保全の必要性がないと述べ、抗弁として、一、仮りに債務者会社が本件労働組合と合資会社岩崎鈑金製作所との間の本件労働協約を承継したとしても、右労働協約に従えば有効期間満了一ケ月前までに双方または一方から協約の改訂を申入れたときは期間満了の日から三ケ月経過しても新協約が成立しないときは協約は効力を失うことになつている(第四十三条)ところ、債務者会社は有効期間満了の日である昭和二十九年八月二十一日の一ケ月前である同年七月上旬頃本件労働組合に対して右協約の改訂を申入れたが右組合においてこれに応じなかつたため遂に新協約の成立を見るに至らなかつたのであるから右労働協約は右期間満了の日から三ケ月を経過した昭和二十九年十一月二十一日その効力を失うに至つたものである。二、仮りに右の抗弁が理由ないとしても本件労働組合は昭和三十年三月十一日解散したので前記労働協約も同日限り失効したものである。(疎明省略)

理由

まず本件仮処分の必要性について考えるのに債権者等が財産を有しないことは当事者弁論の全旨によつて認められるけれども、債権者等が債務者主張のように失業保険法による保険金の支給をうけていることは当事者間に争がなく、また債権者等の退職当時債務者会社は債権者等の要求する退職金の半額に相当する額を即時支給し残額は債務者会社が更生して後において支給する旨の申入をしたが債権者等においてこれを拒絶したことは債権者右島利三郎訊問の結果によつて認められるところである。これらの事実に本件基本債権が退職金であることなどをあわせ考えれば、債権者等が仮処分によつて退職金の支払をうけるまでのさしせまつた事情にあることは到底これを認めることができないので、結局本件は保全の必要をかくものといわなければならない。よつて本件申請は爾余の点について判断を加えるまでもなく失当であるからこれを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十五条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡岩雄)

(別紙)

目録

氏名

就職日

退職日

退職当時の日給

退職金額

備考

右島利三郎

昭和24・6・20

昭和30・3・18

五七五円

八六、二五〇円

鯨井喜与次

〃24・11・1

〃30・3・18

四八七

六〇、三八八

田口信二

〃22・5・2

〃〃

四三八

九一、九八〇

小林真徳

〃28・4・4

〃〃・23

一四〇

四、二〇〇

森田二三江

〃〃

〃30・3・20

一二五

三、七五〇

(以下省略)

別表

(イ) 勤続年数一ケ年以内のものは勤務月一ケ月を一日分とする(退職当時の日給額により)

(ロ) 勤続年数二ケ年以内のものは三十日分とする

(ハ) 勤続年数三ケ年以内のものは六十日分とする

(ニ) 勤続年数四ケ年以内のものは九十日分とする

(ホ) 勤続年数五ケ年以内のものは百二十日分とする

(ヘ) 勤続年数五ケ年を超えるものは一年増すごとに三十日分加算する

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