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浦和地方裁判所 昭和32年(ワ)235号 判決 1958年11月10日

事実

原告水野所三郎は請求原因として、被告は昭和三十二年八月二日及び六日の二回に亘り金額二十四万七千円、同十六万四千円の約束手形二通を訴外丸栄株式会社宛振り出したが、原告は右手形二通を丸栄株式会社より裏書により取得した。そこで原告は右手形を各満期に支払場所に呈示して支払を求めたところ、その支払を拒絶されたので、原告は被告に対し右約束手形金合計四十一万一千円及びこれに対する完済に至るまでの遅延損害金の支払を求めると主張した。

被告は抗弁として、本件手形はいわゆる融通手形として被告から訴外大森佐太郎宛に交付されたものであるが、同人は訴外丸栄株式会社の代表取締役であつたところから受取人欄に右丸栄株式会社名を、振出日欄に原告主張の日時をそれぞれ補充したものであり、更に原告は右丸栄株式会社の取締役であるところから右手形の裏書譲渡を受けたものであるところ、右丸栄株式会社の取締役である原告が同会社から本件各手形の譲渡を受けた行為は、これについて右丸栄株式会社取締役会の承認を受けていないから、商法第二百六十五条に違反して無効であり、原告はこれによつては本件手形上の権利を取得し得ないものであるから、原告の本訴請求は失当であると主張した。

理由

証拠によると、本件手形は丸栄株式会社から同社取締役である原告へ裏書されたものであることが認められるから、たとえ右丸栄株式会社の実態が大森佐太郎(同社代表取締役)の個人経営と何ら異なるものでないにせよ、原告が右丸栄株式会社から本件手形の譲渡を受けた行為は、商法第二百六十五条にいう取締役が会社と取引した場合に該当すると解するのが相当である。原告はこの点について、右裏書は金員貸付の担保の趣旨の下になされたものであるところ、右商法の規定は会社の利益を保護することを目的とするものであるから、会社の利益にこそなれ、何らその不利益を招来しない本件のような場合は商法第二百六十五条にいう会社、取締役の取引に当らないと主張するけれども、手形行為自体について商法第二百六十五条の適用があることは前段説示のとおりであるばかりでなく、なるほど本件手形の裏書は原告の丸栄株式会社に対する貸付金の担保のためになされたものであることはこれを認めることができるけれども、右の貸付金については日歩十銭の利息の定めがあることは原告の自認するところであつて、原告は右利息の約定は原告が右丸栄株式会社の代表取締役である大森佐太郎に対して別途に有する債権の弁済に充当する趣旨を含むものであるから、高利を支払う不利益を右丸栄株式会社に帰せしめることにはならないと主張するけれども、そのように取締役が会社との間に会社の他の取締役に対する債権を会社債務の利息の一部としてこれを含めて日歩十銭の割合による利息を会社から支払を受けることを特約の一つとする契約をすることは、会社の不利益を招来するものでないということはできないから、このような場合は取締役が自己のために会社と取引する場合に該当し、取締役会の承認を受けなければならないものと解するのが相当である。ところで、本件手形の裏書及びその原因関係について丸栄株式会社取締役会の承認を受けなかつたことは原告の自ら認めるところであるから、右は商法第二百六十五条に違反して無効であり、従つて原告は本件手形上の権利を取得し得ないものというべきである。

よつて被告の抗弁は理由があるとして、原告の請求はこれを棄却した。

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