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浦和地方裁判所 昭和45年(行ウ)1号 判決 1980年5月09日

埼玉県川越市岸町二の二二の五

原告

木村千代

右訴訟代理人弁護士

石野隆春

飯田幸光

加藤雅友

箕輪勝彦

松倉雪夫

埼玉県川越市三光町三六の一

被告

川越税務署長

癸生川勝己

右指定代理人

小沢義彦

右指定代理人

筧康生

井上克男

大沢清孝

堀野富士夫

三宅康夫

中島重幸

主文

一  原告の請求はいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四四年三月一〇日付でなした原告の昭和四〇年分、同四一年分の各所得税更正処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所地において食品、医薬品、燃料等の小売販売業を営むいわゆる白色申告者であるが、被告に対し、次表記載のとおり昭和四〇年分、同四一年分の所得税について確定申告をしたところ、被告から、同表記載のとおり更正および過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。そこで原告は、これを不服として同表記載のとおり、被告に対し異議の申立をしたが、棄却されたため、更に同表記載のとおり関東信越国税局長に対して審査請求をしたところ、右審査請求も棄却された。

(昭和四〇年分)

<省略>

(昭和四一年分)

<省略>

2  しかしながら、本件更正処分は以下のとおり違法である。

すなわち、

(一) 原告および原告の息子木村豊太郎は、川越地方の中小企業者の自主的団体である初雁民主商工会に所属していたものであるが、右民主商工会が中小企業者の営業と生活を守る目的で、現行の税務行政を批判し、税制の民主化を図る運動を展開していたものであるところ、被告はこれを嫌悪し、右民主商工会に対する弾圧と組織破壊を目的として、何ら合理的な理由もないのに、原告に対して本件更正処分をなしたものであり、したがつて本件処分は憲法二一条一項の結社の自由を侵害するものとして違法である。

(二) 取消訴訟の違法性の有無は、当該行政処分のなされた時点を基準として判断されなければならないところ、本件更正処分は、処分時において何ら合理的な推計の根拠もその資料もないまま強行されたものであり、いわゆる見込課税であつて違法である。

(三) 原告には昭和四〇年分および同四一年分に課税されるべき所得がなかつたところ、被告は右両年分における原告の所得を過大に認定したもので違法である。

3  よつて、原告は被告に対し、本件更正処分の取消を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の(一)の事実のうち、本件更正処分が民主商工会の組織破壊を目的としてなされたものであるとする点は否認する。

3  同2の(二)の事実のうち、本件が見込み課税であるとの点は否認する。

4  同2の(三)の主張は争う。

三  被告の主張

1  推計の必要性

被告は原告の本件各係争年分の事業所得金額を推計によつて算定したが、推計によらざるを得なかつた理由は次のとおりである。

原告は、昭和四〇年分の確定申告に際し、確定申告書に専従者控除額一一二、五〇〇円、所得金額一七二、五〇〇円と、また、昭和四一年分の確定申告に際し、確定申告書に収入金額三〇〇、〇〇〇円、専従者控除額一四二、五〇〇円、所得金額一五八、五〇〇円とそれぞれ記載しているのみで、右各確定申告書の基礎となつた収入金額、必要経費の明細の記載をしていなかつた(所得税法一二〇条一項一一号)。そして、原告が昭和四一年分の確定申告書に記載したとおり収入金額が三〇〇、〇〇〇円だとすると、必要経費が一切なかつたことになり、また、同年分の確定申告書に記載されている収入金額および専従者控除額を前提に計算すれば、同年分の原告の所得金額は原告の確定申告額を下回る一五七、五〇〇円になるはずであり、結局、原告が被告に提出した各確定申告書によつては、本件各係争年分の所得金額を把握することができなかつた。

そこで、被告は、右に述べたほか、原告の各所得金額につきその事業規模に比して過少であると認められたので、原告の申告にかかる所得金額の算出根拠(売上、仕入および経費等)について、その明細を聴取するため、昭和四一年一〇月一三日から同年一二月二四日までの間に原告方に合計四回臨場し、また電話により再三調査に協力するよう求めた。しかし、原告は、「商売は豊太郎(原告の長男)がやつているので私にはわからない。」等と申立て、他方、原告の長男木村豊太郎は、その都度、「忙しい」、「都合が悪い」、「だめだ」、等といい、また、右木村豊太郎は、自ら調査予定日を定めて指定期限までに具体的な日時を連絡する旨被告係官に約束しておきながら、その回答を怠り、数回引きのばしを図るなどして被告の調査に全く協力せず、かつ、原告からは帳簿書類等の所得計算関係資料の提示についても協力が得られなかつた。

したがつて、被告としては、別途原告の取引先を調査して原告の仕入金額を把握したうえ、推計によつて原告の本件各係争年分の所得金額を算定せざるを得なかつたものである。

2  原告の課税所得金額の算出根拠

原告の本件各係争年分における事業所得の算出は、以下のとおりである。

(昭和四〇年分)

<省略>

(一) 収入金額(売上金額)八、二一一、〇六三円

後期各業種ごとの売上原価にそれぞれの原価率を適用して算出した業種別売上金額の合計金額である。

(1) 仕入金額(売上原価)六、三四〇、四八九円

次のとおり、被告が原告の仕入先を調査して得た原告の業種別仕入金額の合計金額である。

(イ) 食料品の仕入金額四、九三八、五一四円

内訳は別表(一)記載のとおりである。

なお、同表記載の仕入先のうち、順号<21>の株式会社村瀬商事の仕入金額については、被告の調査時点において、右村瀬商事の昭和四〇年一月一日から同年五月二五日までの取引帳簿は既に廃棄されていた。そこで被告は、右村瀬商事に対し、昭和四〇年一月一日から同年五月二五日までの間の原告との取引の有無およびその金額について尋ねたところ、原告との右取引は、原告との昭和四一年分および同四二年分の同期間と同じ割合で存在したという回答であつた。

したがつて被告は、昭和四〇年分の右村瀬商事からの仕入金額を、次の算式のとおり推計したものである。

(算式)

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

(ロ) 医薬品雑貨の仕入金額一、一七六、九〇〇円

内訳は別表(三)記載のとおりである。

(ハ) 燃料の仕入金額 二二五、〇七五円

飯野燃料株式会社からの仕入金額である。

なお、売上原価の額は、一般的には期首商品有高に期間仕入金額を加算し、期末商品有高を減算して求めるのであるが、原告は被告の再三の連絡にもかかわらず協力しなかつたので、原告が期首および期末の棚卸高の期首期末の有高が大差ないことから、原告についても期首期末の商品棚卸高には異動がないものと認め、原告の仕入金額をもつて原告の売上原価の額としたものである。

(2) 原価率

各業種毎の原価率は次のとおりである。

(イ) 各種食料品小売業の原価率七七・三九四%

別表(五)記載のとおり、同業者四名の昭和四〇年分の平均原価率である。

(ロ) 医薬品、雑貨小売業の原価率七六・六〇〇%

別表(七)記載のとおり、同業者三名の昭和四〇年分の平均原価率である。

(ハ) 燃料小売業の原価率 七六・六五〇%

別表(九)記載のとおり、同業者一名の昭和四〇年分の原価率によつた。

(3) 業種別売上金額

(イ) 各種食料品の売上金額 六、三八一、〇〇三円

前記食料品の仕入金額四、九三八、五一四円に前記同業者の平均原価率七七・三九四%を除して算出した金額である。

(算式)

<省略>

(ロ) 医薬品、雑貨の売上金額一、五三六、四二一円

前記医薬品、雑貨の仕入金額一、一七六、九〇〇円に前記同業者の平均原価率七六、六〇〇%を除して算出した金額である。

(算式)

<省略>

(ハ) 燃料の売上金額二九三、六三九円

前記燃料の仕入金額二二五、〇七五円に前記同業者の原価率七六、六五〇%を除して算出した金額である。

(算式)

<省略>

(二) 算出所得金額一、三三四、八七九円

前記各業種ごとの収入金額に、後記各所得率を乗じて算出した業種別算出所得金額の合計金額である。

(1) 所得率

なお、原告の事業所得金額を算出するための所得率(売上金額から売上原価の額および営業に必要な一般経費<その企業に固有な経費を除く>を控除した差引所得金額に対する割合をいう。以下同じ。)は、原価率算出に際して選定した業種ごとに算出し、かつ、同業者は原価率算出に際して選定した業者と同一である。

(イ) 各種食料品小売業の所得率一五、六九〇%

別表(一一)記載のとおり、同業者四名の昭和四〇年分の平均所得率である。

(ロ) 医薬品、雑貨小売業の所得率一七、九三一%

別表(一三)記載のとおり、同業者三名の昭和四〇年分の平均所得率である。

(ハ) 燃料小売業の所得率一九、八二二%

別表(一五)記載のとおり、同業者一名の昭和四〇年分の所得率によつた。

(2) 業種別算出所得金額

(イ) 各種食料品の算出所得金額一、〇〇一、一七九円

前記食料品の収入金額(売上金額)六、三八一、〇〇三円に前記同業者の平均所得率一五、六九〇%を乗じて算出した金額である。

(算式)

6,381,003円×15・690%=1,001,179円

(ロ) 医薬品、雑貨の算出所得金額二七五、四九五円

前記医薬品、雑貨の収入金額(売上金額)一、五三六、四二一円に前記同業者の平均所得率一七、九三一%を乗じて算出した金額である。

(算式)

1,536,421円×17・931%=275,495円

(ハ) 燃料の算出所得金額五八、二〇五円

前記燃料の収入金額(売上金額)二九三、六三九円に前記同業者の所得率一九、八二二%を乗じて算出した金額である。

(算式)

293,639円×19・822%=58,205円

(三) 雑収入 一四、九三三円

原告は切手、はがきの販売をしており、昭和四〇年分の販売高に対して、川越郵便局から取扱い手数料として一四、九三三円の交付を受けているので、これを雑収入として計上した。

(四) 特別経費 二一四、八六九円

所得率計算の際の一般経費に含まれていない経費であり、その内訳は次のとおりである。

(1) 雇人費 一七九、九〇〇円

昭和四〇年に、原告の従業員として勤務していた新井弘美に対して支払われた給料および賞与の額一七九、九〇〇円を計上した。

(2) 建物減価償却 一五、三一八円

原告は、昭和二七年から昭和三三年までの間に、三回にわたつて営業の用に供している店舗用建物(借家)に改造をなし、その費用として合計三七〇、〇〇〇円を支出しているので、右費用について、次表のとおり昭和四〇年分の減価償却費一五、三一八円を算出したものである。

<省略>

(3) 支払家賃 五、五五〇円

原告使用の建物のうち店舗部分にかかる家賃について、原告の申立により五、五五〇円を計上した。

(4) 支払利子 一四、一〇一円

原告が事業資金として国民金融公庫から借入れた金二〇〇、〇〇〇円について、昭和四〇年中に支払つた利子一四、一〇一円を計上した。

(昭和四一年分)

<省略>

(一) 収入金額(売上金額)八、九九〇、九八〇円

昭和四〇年分と同様、後記各業種ごとの売上原価にそれぞれの原価率を適用して算出した業種別売上金額の合計金額である。

(1) 仕入金額(売上原価)六、九七二、一四二円

次のとおり、被告が原告の仕入先を調査して得た原告の業種別仕入金額の合計金額である。

(イ) 食料品の仕入金額 五、三一七、五三八円

内訳は別表(二)記載のとおりである。

(ロ) 医薬品雑貨の仕入金額一、四二五、五八九円

内訳は別表(四)記載のとおりである。

(ハ) 燃料の仕入金額 二二九、〇一五円

飯野燃料株式会社からの仕入金額である。

(2) 原価率

各業種ごとの原価率は次のとおりであり、原価率を算出する基礎となつた同業者は昭和四〇年分と同一である。

(イ) 各種食料品小売業の原価率七七・二八五%

別表(六)記載のとおり、同業者四名の昭和四一年分の平均原価率である。

(ロ) 医薬品、雑貨小売業の原価率七八・五五二%

別表(八)記載のとおり、同業者三名の昭和四一年分の平均原価率である。

(ハ) 燃料小売業の原価率 七七・四四三%

別表(一〇)記載のとおり、同業者一名の昭和四一年分の原価率によつた。

(3) 業種別売上金額

(イ) 各種食料品の売上金額六、八八〇、四二六円

前記食料品の仕入金額五、三一七、五三八円に前記同業者の平均原価率七七・二八五%を除して算出した金額である。

(算式)

<省略>

(ロ) 医薬品、雑貨の売上金額一、八一四、八三四円

前記医薬品、雑貨の仕入金額一、四二五、五八九円に前記同業者の平均原価率七八・五五二%を除して算出した金額である。

(算式)

<省略>

(ハ) 燃料の売上金額二九五、七二〇円

前記燃料の仕入金額二二九、〇一五円に前記同業者の原価率七七・四四三%を除して算出した金額である。

(算式)

<省略>

(二) 算出所得金額一、四三五、〇八二円

前記各業種ごとの収入金額に、後記各所得率を乗じて算出した業種別算出所得金額の合計金額である。

(1) 所得率

なお、以下の各業種ごとの所得率を算出する基礎となつた同業者は、昭和四〇年分と同一である。

(イ) 各種食料品小売業の所得率一五・八三三%

別表(一二)記載のとおり、同業者四名の昭和四一年分の平均所得率である。

(ロ) 医薬品雑貨小売業の所得率一六・〇二一%

別表(一四)記載のとおり、同業者三名の昭和四一年分の平均所得率である。

(ハ) 燃料小売業の所得率一八・五八三%

別表(一六)記載のとおり、同業者一名の昭和四一年分の所得率によつた。

(2) 業種別算出所得金額

(イ) 各種食料品の算出所得金額一、〇八九、三七五円

前記食料品の収入金額(売上金額)六、八八〇、四二六円に前記同業者の平均所得率一五・八三三%を乗じて算出した金額である。

(算式)

6,880,426円×15・833%=1,089,377円

(ロ) 医薬品、雑貨の算出所得金額二九〇、七五四円

前記医薬品、雑貨の収入金額(売上金額)一、八一四、八三四円に前記同業者の平均所得率一六・〇二一%を乗じて算出した金額である。

(算式)

1,814,834×16・021%=290,754円

(ハ) 燃料の算出所得金額五四、九五三円

前記燃料の収入金額(売上金額)二九五、七二〇円に前記同業者の所得率一八・五八三%を乗じて算出した金額である。

(算式)

295,720×18・583%=54,953円

(三) 雑収入 二一、七九四円

原告は切手、はがきの昭和四一年分の販売高に対して、川越郵便局から取扱い手数料として二一、七九四円の交付を受けているので、これを雑収入として計上した。

(四) 特別経費 二四〇、〇九二円

(1) 雇人費 一九九、〇〇〇円

昭和四一年に、原告の従業員として勤務していた新井弘美に対して支払われた給料および賞与の額一九九、〇〇〇円を計上した。

(2) 建物減価償却費 一七、四一一円

原告は、昭和二七年から昭和四一年までの間に、四回にわたつて営業の用に供している店舗用建物(借家)に改造をなし、その費用として合計五七〇、〇〇〇円を支出しているので、右費用について、次表のとおり昭和四一年分の減価償却費一七、四一一円を算出したものである。

<省略>

(3) 支払家賃 五、五五〇円

原告使用の建物のうち店舗部分にかかる家賃について、原告の申立により、五、五五〇円を計上した。

(4) 支払利子 一八、一三一円

次表のとおり、原告が事業用資金として国民金融公庫浦和支店ほか一店から借入れた合計金四五〇、〇〇〇円について、昭和四一年中に支払つた利子合計一八、一三一円を計上した。

<省略>

3 推計の合理性

被告は、原告が食料品、医薬品および燃料(石油およびプロパンガスを除く)の小売業を営んでいたことから、原告の仕入先についてその仕入金額を調査し、これに同業者の原価率を適用して売上金額を逆算し、更に右金額に右同業者の所得率を乗じて所得金額を算出した上、これに雑収入金額を加算し、特別経費を差引いて事業所得金額を推計したものであつて、右同業者については、被告川越税務署長の管轄内において所得税の確定申告を青色申告書によつて行ない、昭和四〇年分および同四一年分につき、所得税青色申告決算書を提出している者のうち、各種食料品小売業(日本産業分類による小分類番号四五一によるもの)は原告の仕入金額から同規模、同程度の同業者四名、医薬品雑貨小売業は原告の仕入金額等から同規模、同程度の同業者三名、燃料小売業はそのうち原告と同じ石油およびプロパンの取扱いをしていない業者が一名しかいなかつたために、この一名を選定したものである。

なお、燃料小売業については、被告は当初、同業者を抽出するにあたつて、<1>原告の店舗の所在する川越税務署管内において燃料小売業(石油およびプロパンガスを除く)を専業に営む個人事業者であること、<2>昭和四〇年および昭和四一年を通じ事業を継続しているもので、かつ、その期間の中途において転業または業態の変更等のないもの、<3>所得税青色申告決算書を提出している青色申告者であることのほか、<イ>店舗の所在地が原告と同様、川越税務署管内の主要駅から徒歩で二〇分程度の距離にあるもの、および、<ロ>昭和四〇年分の年間仕入金額が一五万円から三〇万円までのものの各条件を充すものにしぼつて抽出調査をしたが、石油およびプロパンガス取扱い業者を除く燃料小売業者で右<イ>、<ロ>の条件を充す青色申告者は一名もいなかつた。そこで被告は、やむを得ず右<イ>、<ロ>の条件をはずし、右<1>ないし<3>の条件をもつて同業者を抽出調査したところ、これらに適合する同業者は一名だけしか存在しなかつたものである。しかし、右<1>ないし<3>の抽出条件は適切なものであるので、たとえそれによつて抽出された同業者が一件のみであつたとしても、右同業者と原告との類似性は高いといえるのであつて、これにより推計の合理性は十分担保されているものである。

4 本件更正処分の適法性

以上によれば、原告の本件各係争年分の事業所得金額は、昭和四〇年分においては一、一三四、九四三円、昭和四一年分においては一、二一六、七八四円であつて、被告が原告の事業所得金額を昭和四〇年分につき一、〇六三、二九八円、また昭和四一年分につき、一、二〇八、七二八円とそれぞれ認定してなした本件各更正処分は、いずれも右金額の範囲内でなされているものであるから、被告の原告に対する本件各更正処分には、何らの違法はない。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1のうち、本件各係争年分の申告所得金額については認め、被告が主張のような事後調査をしたことは否認する。原告は被告から帳簿等の提示を求められたこともない。また、推計課税の必要性があつたとする被告の主張自体は争う。

2  同2のうち、

(一) 昭和四〇年分について

(1) (一)の仕入金額および同(1)の(イ)、(ロ)のうち、各業種別ならびに各仕入先別仕入金額についてはいずれも否認する。また、同(1)の(ハ)については全部否認する。

(2) (一)の(2)、(3)および(二)については全部争う。

(3) (三)のうち雑収入の金額は否認する。

(4) (四)のうち

(イ) 特別経費の総額は争う。

(ロ) (1)は争う。

(ハ) (2)ないし(3)については全部認める。

(二) 昭和四一年分について

(1) (一)の仕入金額および同(1)の(イ)、(ロ)のうち、各業種別ならびに各仕入先別仕入金額についてはいずれも否認する。また、(1)の(ハ)については全部否認する。

(2) (一)の(2)、(3)および(二)については全部争う。

(3) (三)のうち雑収入の金額は争う。

(4) (四)のうち、

(イ) 特別経費の総額は争う。

(ロ) (1)は争う。

(ハ) (2)ないし(3)については全部認める。

3  同3の推計の合理性および同4の本件更正処分の適法性に関する主張については、いずれも争う。

五  原告の反論

1  推計の必要性について

被告は本件更正処分をなすにあたつて、原告に対して何ら調査を行なつていない。即ち、

(一) 被告は、前記請求原因記載のとおり、昭和四一年三月一五日および昭和四二年三月一五日にそれぞれ原告を事業主として確定申告がなされているにかかわらず、当初事業主を原告の長男木村豊太郎と断定し、原告らの説明も聴かずに右豊太郎に対して課税処分をなした。

(二) そして、右木村豊太郎に右のような違法な課税処分をなす際にも、同人に対しても何ら合理的な調査を行なわなかつた。即ち、被告が調査を行なつたと主張する昭和四一年一〇月一三日ころから同年一二月二四日ころまでの間は川越市議会の議会開催中でもあり(因に、同市議会は同年九月二一日から同月三〇日までと同年一二月六日および同月一二日から同月一九日まで開催されていた。)同市議会議員であつた右木村豊太郎は右議会の開催や翌年四月に行なわれる予定の同市議会議員選挙の準備等で被告の調査に応ずる時間がなく、被告係官に対して昭和四一年一二月二〇日以降でなければ会えない旨伝えていたところ、被告はその意向を無視し、調査非協力の事実もないのに事業主を右木村豊太郎と強弁して同人に課税処分をした。

(三) そこで当然、右木村豊太郎は右の課税処分を争つて、昭和四二年一一月四日付で審査請求をしたところ、昭和四四年三月三日付をもつて、関東信越国税局長名で右課税処分の取消決定を得た。

(四) 被告は、右取消決定とほとんど同時の昭和四四年三月一〇日付で、原告に対し、本件各更正処分をなしたもので、その間原告に対して全く調査を行なつていないのは明らかである。

したがつて、本件推計に基づく各更正処分は、調査非協力という前提要件を欠くものとして違法である。

2  特別経費について

原告の本件各係争年分の雇人費および減価償却費として、次のものがある。

(昭和四〇年分)

(一) 雇人費

昭和四〇年の原告の雇人は新井弘美および今村文子と若干のアルバイトであり、これらに対する支払給料は、新井弘美につき二三二、〇〇〇円、今村文子につき一二〇、〇〇〇円である。

(二) 減価償却費

(1) 事業用自動車の減価償却費 六八、九三一円

右は、昭和三七年一二月二一日に二三〇、〇〇〇円で購入したダイハツミゼツト(三埼て二一〇一)の昭和四〇年分の減価償却費である。

(2) 冷凍ケースの減価償却費 三七、三五〇円

右は、昭和三六年五月に二五〇、〇〇〇円で購入したもので、昭和四〇年分の減価償却費である。

(昭和四一年分)

(一) 雇人費

原告は、昭和四一年中に、雇人新井弘美に対しては二四九、〇〇〇円、同今村文子に対しては一二〇、〇〇〇円の各給与を支払つた。

(二) 減価償却費

(1) 事業用自動車の減価償却費 五、九六三円

(2) 冷凍ケースの減価償却費 三七、三五〇円

3  推計の合理性について

(一) 被告は、原告の事業所得金額を推計するにあたり、各営業品目のうち、各種食料品小売業についてはAないしDの四件、医薬品雑貨小売業についてはAないしCの三件、燃料小売業についてはA一件の同業者を抽出し、かつ、右同業者は原告と同規模、同程度の業者であると主張するが、原告商店は国鉄川越線と東武東上線の乗り入れている川越駅から東南に向つて徒歩で一六、七分の、市街地とは正反対の位置にあり、かつ、以下のように特殊事情があるのであつて、被告主張のように、単純に右同業者と原告との間に類似性が存するとするのは疑問である。

(1) 原告は、市価よりも一割ないし一割五分程度安い生協の小売価格を参考にし、右生協価格とほぼ同一の小売価格で各商品を販売していたものであり、したがつて粗利も生協と同様、約一〇%程度であつた。

(2) 原告は種々雑多な食料品を取扱つていたが、そのうち、特に塩、乾物、竹輪等の練物については翌日に持ち越すことができないものであるところ、毎日かなりの売れ残りがあり、また、肉類については肉専門店と異なり、五〇円、一〇〇円包みのものを小売値段の一〇パーセント引きで肉屋から仕入れていたものであつて、肉専門店とは比較にならない程利益は薄いものであつた。

(3) 原告の取扱つていた燃料は練炭、炭、豆炭の三種類のみであつて、しかもこれらを常時店に置いていたのではなく、注文があると、問屋である飯野燃料店に依頼して同店から直接顧客に配達してもらうといつた営業形態であり、しかも右飯野燃料店に対しては配達手数料を支払つていたものであつて、安い夏場に大量に仕入れて値の上つた冬場に売り出すといつた専門店とは比較にならないほど原告の利益幅は少ないものであつた。

(二) 被告は燃料小売業について同業者の抽出例が一件であつたとしても、その抽出条件が適切であるから右同業者と原告との類似性は高いと主張し、右抽出条件として三点を掲げている。しかし、右同業者と原告との共通点を強いて見い出せば、取扱い商品のうち、両者が石油およびプロパンガスを扱つていないという消極的点だけであり、それ以外は、個人事業者といつた点を除き全て著しく異なるものであつて、仕入金額なども六倍もの開きがある。また、燃料小売業といつても、原告には営業形態において、前記(一)(3)のような特殊性が存するのであつて、被告の選定業者一件から原告の所得を推計するのは極めて不合理である。

(三) 被告は、原告との同規模、同程度の同業者であるとして、これらの者を単にA、B、C、Dといつた符号で表示するのみで、その住所・氏名を明らかにしない。しかし、それでは、右の業者が実在するものかどうか、実在するにしてもそれが選定同業者として適切であつたかどうか等、原告との関係において具体的に比較検討することが不可能であり、また、原告に対し、推計の合理性についての反証の機会を奪うものである。したがつて、これら被告の抽出例は、その証明力が極めて薄弱なものであつて、ひいては推計の合理性を欠くものというべきである。

(四) 被告は、本件推計にあたり、単純に同業者の平均所得率を算出してこれを原告に適用しているが、これは極めて不合理である。すなわち、被告があげているA、B、C、Dの同業者の中にも平均値以下のものが実在するのと同様、原告が平均値以下である可能性は十分にあり、また平均率そのものも被告がその算出の基礎とした同業者の数がわずか一名ないし四名と少数であることから、科学的統計的正確性を保証し得ないからである。したがつて右平均率を原告に適用してなした本件推計は合理性を欠くものというべきである。

六  原告の反論に対する被告の認否および再反論

1  原告の反論1ないし3は総て争う。

2  原告の反論1について

被告は、本件各係争年分の所得の確定申告そのものは原告名でなされていたが、原告が当時七四才(明治二五年三月三日生)の老令であるうえ、実際の商品の仕入販売等は原告の長男木村豊太郎および同人の内縁の妻今村文子等が行なつていたこと、銀行取引も右木村豊太郎名義でなされており、同人の昭和三九年ないし昭和四一年分の給与所得の源泉徴収票によると、原告が所得税法上の扶養親族として被告川越税務署長に届け出されていること、昭和四一年一〇月一三日から同年一二月二四日までの間に、被告係官が所得調査のため原告方に臨場した際、原告が、商売は長男がやつているので原告にはわからない旨申立てたことなどにより、原告を事業主と考えるのは不自然なことから、右木村豊太郎を事業主と判断して同人に課税した。

しかし、その後、右課税処分に対する審査請求の審理において、右木村豊太郎から、同人が事業主ではなく、原告が事業主である旨の申立てがなされ、関東信越国税局長は事業主が原告であるのか右木村豊太郎であるのか判然としなかつたが、従前の事業主は原告であり、特に右木村豊太郎に変つたという事情も認められないことなどから、同人の申立てを容れて、昭和四四年三月三日付をもつて、木村豊太郎に対する右課税処分の全部を取消した。

そこで被告は、所得者の原告に対して適正な課税を行なうべく、右木村豊太郎に関してなした調査資料を活用して、原告の所得金額を算出したうえ本件各更正処分を行なつたものであり、したがつて本件更正処分にはこの点に関して何ら違法はない。

3  原告の反論2について

(一) 雇人費に関し、今村文子は原告の雇人ではない。すなわち、本件係争年分である昭和四〇年および昭和四一年当時、原告は前記のとおり老令であり、また、原告の長男木村豊太郎は川越市会議員および団体役員の職を兼ねていて多忙であつつたため、右両名とも原告の営む事業にはほとんど従事していなかつたものであるところ、右木村豊太郎の内縁の妻である今村文子は、原告方に同居していて原告らと生計を一にし、自己名義で当座預金口座を開設して、原告の営む事業につき右預金口座から仕入代金の支払い等を行なうなど商品の仕入や販売、銀行取引等の仕事にもつぱら従事していたものであり、事実上事業主のような立場にあつたものである。

したがつて、右今村文子を事業主たる原告と雇用関係にある使用人、すなわち、右事業における雇人であつたと考えるのは全く不自然であり、現に右今村文子が契約に基づき、役務等の対価として原告から給与等の支払いを受けていた事実はないのである。

(二) 減価償却費に関し、本件各係争年分について原告主張のような減価償却費があつたことは認められない。すなわち、原告主張の資産のうち、ダイハツミゼツトは原告の長男木村豊太郎の所有であり、また冷凍ケースはその存在が明らかでなく、本件各係争年分について、右各資産が現実に減価償却資産として原告の営む事業の用に供されていたかは極めて疑問である。

また仮に、右各資産が減価償却資産として原告の営む事業の用に供されていたとしても、それらの減価償却費は一般経費に該当するものであるところ、前記のとおり本件各係争年分の原告の事業所得金の算出過程の中に既にこれらは包摂されているものであつて、更にこれらを特別経費として控除すべきでないことは明らかである。

4  原告の反論3について

(一) 同業者の氏名の不開示に関し、被告は職務上知り得た秘密について守秘義務を負つているところ(所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項)、本件では推計資料として同業者の青色申告書が用いられている場合であつて、右同業者の氏名を明らかにすれば、総収入金額、仕入金額、算出所得金額等各同業者の秘密事項が総て公開されることになるので、右守秘義務に違反することは明らかである。

一方、納税者の所得はその納税者自身が最もよく知り得る立場にあるところ、原告は自らの帳簿書類その他の資料によつて自己の実際の所得金額を主張立証するなど、立証技術を工夫することにより容易に反証を挙げることが可能であり、被告が同業者の氏名を明らかにしないからといつて、訴訟上原告を不利な立場に置くものともいえない。

また、本件においては、同業者個人の所得そのものが争点になつているものではないから、被告は右同業者の平均値が恣意によらず、合理的に算出されたものであることを可能な限度において明らかにすれば足り、また右同業者の住所、氏名を明らかにしたからといつて同業者選定の合理性が担保されるものでもないから、これを開示しないことをもつて、原告主張のように証拠価値がないということはできないものである。

(二) 同業者の平均値による所得金額の推計に関し、推計はそれ以外に方法がない場合のやむを得ない方法であるから、右推計によつてなされた所得金額の認定が真実の所得金額と必ずしも一致するものでないことは当然である。

また、納税者の仕入金額が明らかとなつており、かつ、帳簿記録などでは差益率および所得率の算出が困難である場合には、各種推計方法の中で、同業者の平均値により売上金額を推計し、次に右推計売上金額を基礎として各事業の種類ごとの差引所得金額(算出所得金額)を算出したうえ、右差引所得金額に収入および支出の明確となつている雑収入金額を加算し、更に特別経費の額を控除して当該所得金額を算出する推計方法は最も合理的な方法であり、したがつて本件の場合にも右推計方法によつて算出した被告主張の原告の各所得金額は、真実の所得金額に近似するものというべきである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇ないし第一三号証、第一四号証の一ないし三、第一五、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第二〇号証、第二一号証の一ないし四、第二二ないし第二五号証、第二六号証の一ないし三、第二七号証、第二八号証の一ないし七、第二九号証の一ないし三の各一、二

2  証人木下専次郎、同木村豊太郎、同今村文子、同白石せつの各証言

3  乙第三八号証、第三九号証の一ないし三、第四〇号証の成立は認める。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第二九号証、第三〇ないし第三五号証の各一、二、第三六ないし第三八号証、第三九号証の一ないし三、第四〇ないし第四四号証

2  証人福山智博、同赤尾重男、同山口都朗、同中島盛栄、同大塚弘(第一、第二回)、同水沼和男、同秋野利夫、同久保田和男の各証言

3  甲第一ないし第五号証、第一一号証、第一七号証の成立は認める。第八号証のうち、記事以外の書込み部分の成立は知らないが、その余の部分の成立は認める。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  推計の必要性について

原告は、被告が各更正処分をなすにあたつて、何ら調査を行なわず、また原告側に調査非協力という事実もないのに、推計により本件各更正処分を強行したもので、違法である旨主張するので、まず、この点につき検討する。

右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一ないし第五号証、乙第三九号証の一ないし三、証人福山智博、同赤尾重男の各証言および弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ、これに反する証人木村豊太郎の証言は措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

昭和四〇年九月ころ、当時川越税務署所得税第二課第一係長であつた福山智博は、昭和三九年分、同四〇年分の原告の確定申告にかかる事業所得金額が、原告の事業規模に比して過少であると認められたため、上司から、原告の右両年分の所得調査をするよう命じられ、併せて、進行年分である昭和四一年分についても資料を収集するようにとの指示を受けた。そこで右福山智博は、昭和四〇年一〇月一三日ころ、原告の所得調査のため原告方に臨場したが、原告が「私は老令で、事業の内容は息子(木村豊太郎)でないとわからない」。旨申し立て、原告自身からは詳しい事情を聞くことができなかつたので、以後は同年一二月一五日ころまでの間、前後三回にわたり原告方に赴き、かつ、その間数度にわたつて電話連絡するなどして原告の長男木村豊太郎に対し、直接または同人の内縁の妻今村文子を通じ、原告方商店の事業所得の調査に協力するよう求めた。しかし、右木村豊太郎はその都度多忙であること等を理由に被告係官の調査に応じようとせず、またその間木村豊太郎自ら係官に対して調査に協力できる日を指定日までに連絡する旨約束しながら、その回答を怠るなど、被告の調査に対する協力依頼に関して誠意ある態度を示さず、そのため被告係官において原告側から帳簿書類等の資料の提示も得られなかつた。そこで被告は、右のように原告側から調査に対する協力が得られず、所得についての実額を把握することができないことから、右昭和三九年分、同四〇年分に加え、既に昭和四二年三月一五日付で提出されている昭和四一年分の確定申告書記載の所得金額についても右両年分と大差がなかつたため、推計課税によるほかないものとし、反面調査を開始した。

ところで被告は、原告が老令(明治二五年三月三日生)であるうえ、事業の内容については長男である木村豊太郎でないとわからない旨申立て、実際の事業運営も右木村豊太郎や同人の内縁の妻今村文子などが行なつていたこと、右木村豊太郎の昭和三九年ないし昭和四一年分の給与所得の源泉徴収票にも原告が所得税法上の扶養親族として届けられていること等から、原告方商店の事業主が原告ではなく、右木村豊太郎であるものと判断し、昭和四〇年分、同四一年分の事業所得に関して、右木村豊太郎に課税処分をなしたところ、これに対する審査請求の結果、昭和四四年三月三日付をもつて、右木村豊太郎に関する課税処分の全部が取消された。

そこで被告は、改めて原告を事業主とみなし、昭和四〇年分、同四一年分について原告に対して適正な課税を行なうべく、右木村豊太郎に関する課税処分に用いられた調査資料を活用することとし、右反面調査によつて得られた原告の仕入金額に同業者の原価率、所得率を適用し、推計によつて右本件各係争年分の更正処分を行なつた。

右認定事実によると、被告は原告の所得の実額調査につとめたが、原告側からの協力が得られず、そのためやむを得ず推計課税によつたもので、推計課税の必要性の存したことが明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

三  次に、原告は、被告が初雁民主商工会に対する弾圧と組織破壊を目的として本件各更正処分をなしたものであり、違憲、違法である旨主張するが、原告が主張するような目的で被告が本件各更正処分を行なつたと認めるに足りる証拠はない。

四  原告は、本件各更正処分が、処分時において何ら合理的な推計の根拠もその資料もないままなされた見込み課税であつて違法である旨主張する。しかし、本件訴訟の対象たる本件各更正処分の基礎となつた課税標準の存否は処分時の資料のみに基づいて判断されなければならないものではなく、また、証人福山智博の証言によれば、本件各更正処分は、反面調査によつて得られた資料をもとに行なわれていることが認められ、したがつて、仮にその資料が十分なものでなかつたとしても、これをもつて直ちに本件課税処分を見込み課税であり、違法であるとすることは妥当ではなく、この点に関する原告の主張は採用できない。

五  次に、原告は、本件各更正処分は原告の所得を過大に認定したものであり違法である旨主張するので、以下この点につき検討する。

1  推計の合理性について

証人大塚弘の証言(第一、第二回)により真正に成立したものと認められる乙第二八、第二九号証、第三〇ないし第三五号証の各二、同秋野利夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三〇ないし第三五号証の各一、証人大塚弘(第一、第二回)、同秋野利夫の各証言および弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

関東信越国税局長は、昭和四六年五月一七日付で被告川越税務署長に対し、本件訴訟資料に供する目的で、「税務訴訟に関する資料の報告について」と題する一般通達(乙第二八号証)をなし、川越税務署管内において、各種食料品小売業(日本産業分類による分類番号四五一に該当するもの)、医薬品および雑貨小売業、燃料小売業(石油およびプロパンガスを取扱つている者を除く)を各専業に営み、卸売業と小売業を兼ねていない個人事業者で、本件各係争年分につき次の抽出条件に該当する者全部について、売上金額、売上原価、差益金額、一般経費、特別経費、原価率(売上原価を売上金額で除したもの)、所得率(差益金額から一般経費を差引いた金額を売上金額で除したもの)等を調査のうえ、「同業者調査表」を作成して報告するよう求めた。

(一)  昭和四〇年および同四一年の両年をとおして事業を継続しているもので、かつ、その期間の中途において転業または業態の変更等のないもの

(二)  所得税青色申告決算書を提出している青色申告者であること。

(三)  店舗の所在地が主要駅から徒歩で二〇分程度の距離にあるもの

(四)  昭和四〇年分の年間仕入金額が、各種食料品小売業については三、五〇〇、〇〇〇円ないし六、五〇〇、〇〇〇円、薬品および雑貨小売業については八五〇、〇〇〇円ないし一、五五〇、〇〇〇円、燃料小売業については一五〇、〇〇〇円ないし三〇〇、〇〇〇円の範囲内にあるもの

これに対し、被告川越税務署長は、同署備付けの索引簿を用い、同署係官をして右通達で指定されている条件を充す同業者全部として、各種食料品小売業については四名、薬品および雑貨小売業については三名を抽出して報告したが、燃料小売業については右(三)および(四)の条件を充すものがいなかつたため、これを抽出することができなかつた。

そこで、関東信越国税局長は、昭和四六年六月二一日付をもつて被告川越税務署長に対し、燃料小売業につき右(三)および(四)記載の条件を外したうえ、再度右通達と同一内容の一般通達(乙第二九号証)を発し、これを受けた被告川越税務署長は、前回同様の方法により、同通達の条件全部を充す同業者として燃料小売業者一名を抽出し、前回同様、これにつき売上金額、売上原価、一般経費、原価率、所得率等を記載した「同業者調査表」を作成のうえ、これを関東信越国税局長に提出した。

右により抽出報告された各業種別同業者の売上金額(収入金額)、売上原価、差引(所得)金額、原価率、所得率は別表(五)ないし(一六)記載のとおりである。

右認定の事実によれば、本件各同業者の抽出は、原告方店舗の存在する川越税務署管内から、同署で保管されている所得税青色申告決算書等より機械的に抽出されたものであつて、恣意の働く余地はなかつたものということができ、また、抽出同業者が本件では一名ないし四名と少数であ〓、燃料小売業者については、右(三)および(四)の条件が欠如してはいるものの、本件各抽出の条件およびその過程に照ら〓値を求める資料として合理性を担保し得ない程の特別な事情が認められない本件では、これに基づく推計を不合理なものということはできない。

原告は、被告が右各同業者の住所・氏名を明らかにせず、単にA、B、C、Dの符号のみをもつて表示しているため、原告との関係において、右のものが選定同業者として適切であるかどうかを検討できず、また、原告に対して推計の合理性についての反証の機会を奮う結果になるから不合理である旨主張するが、被告が同業者の住所・氏名を開示しないのは、所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項に規定するところの守秘義務を負つているからであり、また、同業者の住所・氏名が開示されないことによつて、原告が反証を挙げることを幾分困難にするものであることは否めないけれども、原告において、他の方法による推計を主張し、原告側に存する帳簿その他の資料を活用して容易に反証を挙げることも可能であるから、被告が同業者の住所・氏名を開示しない一事をもつて、これらの数値を根拠とした推計を不合理なものということはできない。

また、原告は、被告が本件推計にあたり、単純に同業者の平均値を適用して所得を算出していることをもつて不合理である旨主張するが、そもそも推計によつて得られる所得金額と一致している必要はなく、経験則上、真実の所得金額に近似していると認められる蓋然性が存在することをもつて足りるものであり、平均値の適用方法が妥当である限り、一般的に平均値をもつて所得金額を推計することは、他にそれによる以上に適切な方法が無い場合にはやむを得ない方法といえるのであつて、本件では被告は反面調査によつて得られた原告の仕入金額に同業者の平均原価率を適用して売上金額を算出し、右売上金額に同業者の平均所得率を適用して算出所得金額等を導き出しているのであるから妥当な推計方法というべきである。また、本件では抽出同業者が少数ではあるが、そのことのみをもつてその平均値による推計が科学的統計的正確性を全く保持し得ないということはできず、他に適切な数値が見当らない以上、これもまたやむを得ないものというべきである。

なお、原告は、事実摘示欄第二、五、3の(一)の(1)ないし(3)において原告商店の営業の特殊性を主張するところ、各商品について生協と同様、粗利が一〇パーセント程度であつたとする点については、一部これに副うかのような証人白石せつの証言部分もあるが、それが全商品にわたるものかどうか明らかでなく、また、必ずしも正確な資料や根拠に基づいたものとはいえないものであつて、単に主観的個人的な評価や感想に過ぎないと見られる面が多分にあり、措信することができず、他に右の点に関する原告の特殊事情を認めるに足りる証拠もない。次に、練物等についての売れ残りについては一般的な小売業者に関しても通常の営業形態においてあり得る現象であり、これをもつて特殊事情ということはできず、また肉類に関する販売形態については、これに副う証人今村文子の証言があるが、同証人によつても肉類が原告の全商品に対して占める割合等は明らかでなく、かつ、他の各種食料品小売業者と比較して特殊な阪売形態であるかどうかも判然としないものであり、これをもつて推計を不合理ならしめる程の特殊事情とは認められない。更に、燃料小売販売に関する特殊事情の主張については、他の業者との間に、具体的にどの程度の利益幅の違いがあるのか明らかでなく、この点に関する原告の特殊事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

2  原告の本件各係争年分における所得金額について

(一)  昭和四〇年分の事業所得金額

(1) 仕入金額(売上原価) 六、三四〇、四八九円

次の業種別仕入金額の合計金額である。

(イ) 食料品の仕入金額四、九三八、四五二円

証人永沼和男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一、第四、第六ないし第九号証、同大塚弘の証言(第一、第二回)により真正に成立したものと認められる乙第二、第三号証、第五号証の一、第一〇号証、第一一号証の一、二、同福山智博の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証の一、第一八、第二一号証、同赤尾重男の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇、第二二号証、同山口都朗の証言により真正に成立したものと認められる乙第二三ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七号証および右各証人の証言によれば、原告の昭和四〇年分の食料品の仕入先は別表(一)記載のとおり、長谷川商店ほか二〇軒であり、その仕入先別仕入金額は同表記載のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、右は、この仕入金額の合計金額である。

なお、右の乙第一一号証の一、二、第二七号証および証人大塚弘(第一回)、同山口都朗の各証言によれば、別表(一)記載の仕入先中順号第二一号の株式会社村瀬商事の仕入金額については、昭和四〇年一月一日から同年五月二五日までの取引帳簿が調査時において既に廃棄されていたため、被告は、事実摘示欄第二、二、2の昭和四〇年分の(一)の(1)の(イ)記載のとおり、右株式会社村瀬商事の原告との右期間における取引は、昭和四一年分同四二年分の同期間中の取引と同じ割合で存在した旨の説明に従い、右事実欄記載の算式のとおり推計したことが認められる。

右認定の事実によれば、株式会社村瀬商事からの仕入金額を被告が推計によつて算出したことはやむを得ないものといえ、かつ、その推計方法も合理的であるというべきである。

(ロ) 医薬品、雑貨の仕入金額一、一七六、九〇〇円

証人永沼和男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二、第一三、第一五号証、同大塚弘の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第一四号証の一および右各証人の証言によれば、原告の昭和四〇年分の医薬品、雑貨の仕入先は別表(三)記載のとおり、間坂薬品株式会社ほか三軒であり、その仕入先別仕入金額は同表記載のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、右は、この仕入金額の合計金額である。

(ハ) 燃料の仕入金額 二二五、〇七五円

証人永沼和男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一六号証および同証人の証言によれば、原告の昭和四〇年分の燃料の仕入先は飯野燃料株式会社のみであり、その仕入金額は二二五、〇七五円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 業種別売上金額

(イ) 各種燃料品の売上金額 六、三八一、〇〇三円

右(1)、(イ)の仕入金額に別表(五)記載の同業者の平均原価率七七・三九四%を除して得た金額である。

(ロ) 医薬品、雑貨の売上金額 一、五三六、四二一円

右(1)、(ロ)の仕入金額に別表(七)記載の同業者の平均原価率七六・六〇〇%を除して得た金額である。

(ハ) 燃料の売上金額 二九三、六三九円

右(1)、(ハ)の仕入金額に別表(九)記載の同業者の原価率七六・六五〇%を除して得た金額である。

(3) 業種別算出所得金額

(イ) 各種食料品の算出所得金額 一、〇〇一、一七九円

右(2)、(イ)の売上金額に別表(一一)記載の同業者の平均所得率一五・六九〇%を乗じて得た金額である。

(ロ) 医薬品、雑貨の算出所得金額 二七五、四九五円

右(2)、(ロ)の売上金額に別表(一三)記載の同業者の平均所得率一七・九三一%を乗じて得た金額である。

(ハ) 燃料の算出所得金額 五八、二〇五円

右(2)、(ハ)の売上金額に別表(一五)記載の同業者の所得率一九・八二二%を乗じて得た金額である。

(4) 雑収入 一四、九三三円

証人山口都朗証言により真正に成立したものと認められる乙第三六号証および同証人の証言によれば、原告は原告方商店で郵便切手やはがきを販売しており、昭和四〇年分の手数料として川越郵便局から右一四、九三三円を受領していることが認められ、これに反する証拠はない。

(5) 特別経費 二一四、五六九円

次の(イ)ないし(二)の合計金額である。

(イ) 雇人費 一七九、六〇〇円

証人中島盛栄の証言により真正に成立したものと認められる乙第三七号証および同証人の証言によれば、昭和四〇年に原告の従業員として雇用されていたのは新井弘美一名であつたこと、同人に対する給料の支払方法は日給月給として計算され、同年一月分ないし一一月分については一日当り五五〇円、同年一二月分については一日当り六〇〇円の計算で支払われていたこと、その間原告方商店の休業日は毎週日曜日で右新井弘美は右休業日のほかに少くとも月平均二日間程度の休暇をとつていたこと、また、原告は右新井弘美に対し、右給料のほか夏期および冬期の賞与として各一〇、〇〇〇円を支給していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、新井弘美は原告の雇人として、年間を通じ、月平均二四日程度稼働していたものとみるのが相当であり、したがつて、昭和四〇年中に原告が右新井弘美に支払つた給料および賞与の総額は一七九、六〇〇円となる。

その算式は次のとおりである。

(1~11月分給料) (12月分給料) (賞与)

550円×24×11+600円×24+20,000円=179,600円

なお、原告は今村文子が原告の雇人であつた旨主張するが、証人今村文子、同木村豊太郎の各証言によれば、原告自身は老令であり、また原告の長男木村豊太郎は川越市議会議員等であつたために多忙なことから、原告方商店の日常の営業事務、殊に各種取扱い商品の仕入や販売につき、右木村豊太郎の内縁の妻である今村文子が、原告にかわつて事実上の事業主としての立場で行なつていたことが認められ、したがつて、右事実に照らすと、原告主張の如く右今村文子を原告の雇人と考えることはできず、また他に右今村文子を原告の雇人と認めるに足りる証拠もないから、原告のこの点の主張は採用しない。

(ロ) 建物減価償却費 一五、三一八円 当事者間に争いがない。

(ハ) 支払家賃 五、五五〇円 当事者間に争いがない。

(ニ) 支払利子 一四、一〇一円

当事者間に争いがない。

なお、原告は右に認定した特別経費のほか、昭和四〇年分の経費として事業用自動車および冷凍ケースの各減価償却費が存在した旨主張する。

しかし、右各資産が原告の事業の用に供されていたかは、証拠上必ずしも明らかではないが、仮に供されていたとしても、これらの資産は、通常原告と同程度の同業者においても、一般的に事業の用に供されている資産とみられるものであり、したがつて、これらは、既に一般経費として前記各算出所得金額の計算過程の中で計上され算入されているものであつて、更に特別経費として計上すべきでないことは明らかである。原告のこの点に関する主張は採用できない。

(6) 事業所得金額 一、一三五、二四三円

原告の昭和四〇年分の事業所得金額は、右(3)の(イ)ないし(ハ)の業種別算出所得金額の合計金額一、三三四、八七九円に、右(4)の雑収入金額一四、九三三円を加えた一、三四九、八一二円から更に右(5)の特別経費の金額二一四、五六九円を差引いた金額である。

(二)  昭和四一年分の事業所得金額

(1) 仕入金額(売上原価) 六、九七二、一四二円

次の業種別仕入金額の合計金額である。

(イ) 食料品の仕入金額五、三一七、五三八円

前掲乙第一ないし第四、第六ないし第一〇号証、第一一号証の一、第二〇ないし第二五号証、第二六号証の二、証人大塚弘の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第五号証の二、証人福山智博の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一七号証の二、第一九号証および各証人の証言、証人永沼和男、同山口都朗の各証言によれば、原告の昭和四一年分の食料品の仕入先は別表(二)記載のとおり、長谷川商店ほか一九軒であり、その仕入先別仕入金額は同表記載のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、右は、この仕入金額の合計金額である。

(ロ) 医薬品、雑貨の仕入金額一、四二五、五八九円

前掲乙第一二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証および証人永沼和男、同大塚弘(第一回)の各証言によれば、原告の昭和四一年分の医薬品、雑貨の仕入先は別表(四)記載のとおり、間坂薬品株式会社ほか三軒であり、その仕入先別仕入金額は同表記載のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、右は、この仕入金額の合計金額である。

(ハ) 燃料の仕入金額 二二九、〇一五円

前掲乙第一六号証および証人永沼和男の証言によれば、原告の昭和四一年分の燃料の仕入先は飯野燃料株式会社のみであり、その仕入金額は二二九、〇一五円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 業種別売上金額

(イ) 各種食料品の売上金額六、八八〇、四二六円

右(1)、(イ)の仕入金額に別表(六)記載の同業者の平均原価率七七・二八五%を除して得た金額である。

(ロ) 医薬品、雑貨の売上金額一、八一四、八三四円

右(イ)、(ロ)の仕入金額に別表(ハ)記載の同業者の平均原価率七八・五五二%を除して得た金額である。

(ハ) 燃料の売上金額 二九五、七二〇円

右(1)、(ハ)の仕入金額に別表(一〇)記載の同業者の原告率七七・四四三%を除して得た金額である。

(3) 業種別算出所得金額

(イ) 各種食料品の算出所得金額一、〇八九、三七七円

右(2)、(イ)の売上金額に別表(一二)記載の同業者の平均所得率一五・八三三%を乗じて得た金額である。

(ロ) 医薬品、雑貨の算出所得金額二九〇、七五四円

右(2)、(ロ)の売上金額に別表(一四)記載の同業者の平均所得率一六・〇二一%を乗じて得た金額である。

(ハ) 燃料の算出所得金額 五四、九五三円

右(2)、(ハ)の売上金額に別表(一六)記載の同業者の所得率一八・五八三%を乗じて得た金額である。

(4) 雑収入 二一、七九四円

前掲乙第三六号証および証人山口都朗の証言によれば、原告は郵便切手やはがきの昭和四一年分の販売手数料として川越郵便局から右二一、七九四円を受領していることが認められ、これに反する証拠はない。

(5) 特別経費 二三五、〇九二円

次の(イ)ないし(ニ)の合計金額である。

(イ) 雇人費 一九四、〇〇〇円

前掲乙第三七号証および証人中島盛栄の証言によれば、昭和四一年中の原告の雇人は前記新井弘美一名であり、同人に対する給料の支払方法は日給月給で計算され、同年一月分ないし一一月分については一日当り六〇〇円、同年一二月分については一日当り六五〇円であつたこと、右新井弘美は毎週日曜日の定休日以外に少なくとも月平均二日程度の休暇をとつていたこと、原告は右給料のほか新井弘美に対し、夏期および冬期の賞与として各一〇、〇〇〇円を支給していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、新井弘美は昭和四一年においても、原告の雇人として、年間を通じ月平均二四日程度稼働していたものとみるのが相当であり、したがつて、昭和四一年中に原告が右新井弘美に支払つた給料および賞与の総額は一九四、〇〇〇円となる。

その算式は次のとおりである。

(1~11月分給料) (12月分給料) (賞与)

600円×24×11+650円×24+20,000円=194,000円

なお、原告は昭和四一年分についても今村文子が原告の雇人であつた旨主張しているが、右主張は採用することができない。その理由は、昭和四〇年分の雇人費について述べたと同様である。

(ロ) 建物減価償却費 一七、四一一円

当事者間に争いがない。

(ハ) 支払家賃 五、五五〇円

当事者間に争いがない。

(ニ) 支払利子 一八、一三一円

当事者間に争いがない。

なお、原告は、右のほか昭和四一年分の経費として事業用自動車および冷凍ケースの各減価償却費の控除を主張するが、右主張は採用することができない。その理由は昭和四〇年分の特別経費の理由欄の末尾に述べたと同様である。

(6) 事業所得金額一、二二一、七八六円

原告の昭和四一年分の事業所得金額は、右(3)の(イ)ないし(ハ)の業種別算出所得金額の合計金額一、四三五、〇八四円に、右(4)の雑収入金額二一、七九四円を加えた一、四五六、八七八円から更に右(5)の特別経費の金額二三五、〇九二円を差引いた金額である。

3  以上によれば、原告の本件各係争年分の事業所得金額は、昭和四〇和分につき、一、一三五、二四三円、同四一年分につき、一、二二一、七八六円であり、被告の本件各更正処分はいずれも右金額の範囲内でなされたものであるから、適法である。

六  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柿沼久 裁判官 雨宮則夫 裁判官 吉田恭弘)

別表(一)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(二)(昭和四一年分)

<省略>

別表(三)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(四)(昭和四一年分)

<省略>

別表(五)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(六)(昭和四一年分)

<省略>

別表(七)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(八)(昭和四一年分)

<省略>

別表(九)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(一〇)(昭和四一年分)

<省略>

別表(一一)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(一二)(昭和四一年分)

<省略>

別表一三(昭和四〇年分)

氏名 収入金額(円) 差引所得金額(円)

A 一、八一三、三九七 二六八、三二一 一五・七八九%

B 一、七六六、八六〇 三四九、七七四 一九・七九六

C 一、二三七、七八八 二二五、三九三 一八・二〇九

計 五三・七九四

平均 一七・九三一

別表一四(昭和四一年分)

氏名 収入金額(円) 差引所得金額(円)

A 一、七四三、一三四 二五四、八一八 一四・六一八%

B 一、五二三、六一八 二六三、一七五 一七・二七三

C 一、一八四、八一八 一九一、六一四 一六・一七二

計 四八・〇六三

平均 一六・〇二一

別表一五(昭和四〇年分)

氏名 収入金額(円) 差引所得金額(円)

A 一、七九三、八五五 三五五、五八三 一九・八二二%

別表一六(昭和四一年分)

氏名

A 一、六二〇、九九二 三〇一、二三七 一八・五八三%

別表(一三)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(一四)(昭和四一年分)

<省略>

別表(一五)(昭和四〇年分)

<省略>

別表(一六)(昭和四一年分)

<省略>

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