浦和地方裁判所 昭和46年(ワ)383号 判決
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【判旨】
一被告会社が旅行業を営むことを目的とする会社であつて、被告熊丸がその従業員であること、原告山口が昭和五五年六月中旬ころ被告会社とタイ国バンコク市等の観光を目的とし、日程を同年七月九日から同月一三日まで、費用を金八万五、〇〇〇円、被告熊丸を右旅行に添乗させることを内容とする旅行契約(本件旅行契約)を締結したこと、右旅行に被告熊丸が添乗したこと、同月一一日に予定されていたアュタヤ観光が出発直前旅行者の要望によつてパタヤ観光に変更され、そのため増加した費用金五、〇〇〇円は別途旅行者において支払つたこと及び原告山口が同月一一日ラン島のオプショナルツアーに参加し、同日午前一一時三〇分ころモーターボートによるパラセーリングを行つて落下し負傷したこと、以上の事実は、当事者間に争いがなく、<証拠>によると、原告山口は右落下により第一腰椎圧迫骨折、両足挫傷の傷害を被つた事実(本件事故)を認めることができる。
二そこで、右事故につき被告熊丸の過失の有無を判断する。
(一) <証拠>を総合すると
(1) 本件旅行については、現地における観光会社グレートワールドリバティ(訴外会社)が現地におけるサービスを提供していたのであるが、同社は昭和五五年七月一〇日バンコク市からパタヤ市に赴くバスの中で翌一一日パタヤ市の沖合約一〇キロメートルに浮ぶラン島観光のオプショナルツアーを募集し、原告山口は他の旅行客一二名とともに、パタヤ市から同島までの往復船賃及び昼食代を含めた料金五、〇〇〇円を支払つてこれに応募したこと。
(2) 翌一一日の朝食の際、被告熊丸は右オプショナルツアーに添乗しないことを告げ、同日午前一〇時ころ原告山口ら右オプショナルツアーに参加した旅行客を渡船場まで見送り、その後は予定に従い、これに参加しなかつた旅行客二名を案内してパタヤ市の観光をしていたこと。
(3) 他方、原告山口は、かつてラン島においてパラセーリングをした経験を有していたところから、その渡船の中でパラセーリング券を金一、七〇〇円位で購入したうえ、同島到着後の同日午前一一時三〇分ころパラセーリングを開始した。パラセーリングとは、身体にパラシュートを装着してモーターボートに曳かれ、一〇〇ないし二〇〇メートル位円を描いて約一分間飛翔し、着地の際には地上の係員の指示に従い所定の紐を徐々に引くといつた簡単な操作によるものであつて比較的危険性の少ないものである。ところが原告は、その着地寸前約一五ないし一八メートルの高さにおいて、眼下の錨に危険を感じて降下の紐を引き過ぎたためか、その際逆風が吹いたためか、或いはモーターボート運転者の運転操作の不手際によるものかそのいずれの原因によるかは明らかでないが、突然パラシュートが窄んで浮力を失つて落下し、本件事故の発生をみるに至つたこと。
以上の事実を認めることができる。もつとも、<証拠>によると、前示ラン島オプショナルツアーの募集に際しては、被告熊丸が説明し、その料金を徴収した事実を認めることができるけれども、右は訴外会社の案内人(タイ人)の説明を適確に伝えるための便宜的な措置であつて、料金の徴収も日本円に慣れないタイ人の手助けのためになされた事実は、被告本人熊丸竹次尋問の結果によつて認めることができるから、被告熊丸の右の如き行動から、原告らの主張するように、ラン島オプショナルツアーの募集が被告会社によつてなされたものと認めることはできず、他に右認定を動かすに足りる証拠は存しない。
(二) 原告らは、被告熊丸は添乗員として出発から帰国するまで、すなわちオプショナルツアーにも添乗してパラセーリングの危険性を具体的に説明するとともに現場の責任者をしてパラシュートの操作方法を説明させるほか、モーターボートの運転者に対し利用者の身体の安全を確保できるような運転をするよう注意する義務がある旨を主張するが、以上に認定した事実によれば、原告山口のラン島オプショナルツアーは、本件旅行契約における日程のうちパタヤ市観光の時間と自由時間とを利用し、現地における訴外会社との間に締結された右旅行契約とは別個の契約によつてなされたものであり、しかも、同原告のパラセーリングは、右オプショナルツアー中現地の船会社から自ら購入したパラセーリング券によつてしたというのであるから、被告会社ないし被告熊丸が右オプショナルツアーに添乗する旨の特約がなされていたとするなら格別、本件旅行契約から原告ら主張のように、被告熊丸が右オプショナルツアーに添乗する義務を導き出すことはできず、また、右特約の存在を認めるに足りる証拠も存しないし、既にパラセーリングの経験を有する原告山口はその危険性を知悉しながらこれを試みたというのであるから、更に被告熊丸において右原告に対しパラセーリングの危険性を具体的に説明する義務は存しなかつたものといわざるを得ない。
(三) してみると、被告熊丸に右オプショナルツアーに添乗する義務の存在したことを前提とし、パラセーリングの危険性を具体的に説明しなかつたことなどを被告熊丸の過失とする原告らの主張は、当を得たものではないから、これが存在を理由とする被告熊丸及び被告会社に対する原告らの請求は、いずれも排斥を免れない。
(長久保武 大喜多啓光 坂野征四郎)