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浦和地方裁判所 昭和53年(ヨ)394号 判決 1979年8月10日

債権者

水上幸雄

右訴訟代理人弁護士

福島等

右同

西嶋勝彦

右同

堀敏明

債務者

株式会社 金剛製作所

右代表者代表取締役

武藤正壽

右訴訟代理人弁護士

矢野範二

右同

坂本政三

主文

一  債権者が債務者の従業員たる地位を有することを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、昭和五三年八月以降本案判決確定に至るまで、毎月一五日限り月額二五万円の割合による金員を仮に支払え。

三  申請費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請の趣旨

主文同旨

二  申請の趣旨に対する答弁

1  本件申請を却下する。

2  申請費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  債務者は、特殊自動車その他の輸送運搬用機械及び装置の製造、販売、修理を目的とする株式会社である。

2  債権者は、昭和四五年有限会社水上工業所(以下「水上工業所」という。)を設立してその代表取締役となり、同時に、水上工業所と債務者間の請負契約に基づき、債務者工場においてダンプ車の組立作業の一部である部品取付け熔接作業に従事してきたが、そのうち、水上工業所が人件費の上昇に追いつけなくなってその従業員が漸次減少するに至り、ついに債権者一人になってしまったため、昭和五一年一〇月末日をもって水上工業所の休業措置をとり、翌昭和五二年三月二五日、同工業所の解散登記をなした。

3  その間、債権者と債務者間において、昭和五一年一一月初旬ころ、遅くとも同月下旬ころ、債権者を債務者の従業員として雇用する旨の合意をした。

4  仮に右3の主張が認められないとしても、債権者は昭和五一年一一月初旬ころから、債務者工場において組立第一課第三班に所属し、同班班長中野喜八郎の指揮監督のもとで組立ダンプライン第七工程の熔接作業に従事し、右作業がない場合には、同班長の指示に従って他の作業にも従事してきた。債権者は右作業に従事するにあたり、債務者所有の、若しくは債務者から支給された機械器具類、作業衣、安全帽等を使用し、出退社時のタイムレコーダーへの打刻、朝礼への参加等を義務づけられ、また昭和五二年一月からは、右中野班長が記録する作業工程表にも、債務者の従業員として出欠、残業、遅刻、早退等を記入されるようになった。そのほか、債権者は債務者から、昭和五二年一月以降、債務者が手続を懈怠している労働者災害補償保険以外の保険加入、有給休暇、時間外割増金の支給、後記賃金の支払い形式等を除いて、他の従業員と全く同様の待遇を受けており、殊に債権者が従事してきた右の労働実態からみて、債権者と債務者間には、遅くとも昭和五二年一月以降、黙示の合意による雇用契約が成立していたものである。

5  仮に右3、4の各主張が認められないとしても、債権者と債務者間において、昭和五二年四月一一日、債権者を同年二月以降、債務者の従業員として雇用する旨の合意をした。

6  債権者と債務者間の右雇用契約に基づく賃金の支払い方法は、昭和五一年一一月及び一二月分については出来高払い、昭和五二年一月分については単価八三〇円の割合による時間給、同年二月以降の分については月額二五万円とし、いずれも当月一日から月末までの分を翌月一五日に支払いを受けていた。なお、同年一月以降の分については現金で支払いを受けていたものである。

7  しかるに債務者は、昭和五三年六月三〇日、債権者と債務者間の右雇用契約の存在を否認し、債権者の債務者に対する地位は、前記水上工業所と債務者間に存したと同様の請負契約上の地位でしかないと主張し、債権者に対し、右請負契約を解除する旨の意思表示をしたうえ、同年七月一日以降、債権者の就労を拒否している。

8  債権者は、右債務者の就労拒否により、昭和五三年七月一日以降、他に収入を得ることができず、本案訴訟の確定を待っていては回復しがたい損害を蒙ることになる。

よって、債権者は、債権者が債務者の従業員たる地位を有することを仮に定め、かつ、債務者が債権者に対し、昭和五三年七月分以降の賃金として、同年八月以降本案判決確定に至るまで毎月一五日限り月額二五万円の割合による金員を仮に支払うことを求める。

二  申請の理由に対する答弁

1  申請の理由1及び2の事実は認める。

2  同3の事実は否認する。

3  同4の事実のうち、債権者が債務者会社工場において、組立ダンプライン第七工程の熔接作業に従事していたこと、債権者について、保険加入手続及び有給休暇、時間外割増賃金などの支給措置がとられていなかったことは認め、その余の事実は否認する。

4  同5の事実は否認する。

5  同6の事実のうち、債務者が債権者に対し、昭和五一年一一月及び一二月分については出来高払いで、昭和五二年一月分については単価八三〇円の割合による時間単位で、同年二月以降の分については月額二五万円の定額で、いずれも月末締めの翌月一五日払いとして、それぞれ金員を支払ったことは認めるが、右金員が賃金として支払われたとの点は否認する。右金員は、債務者が債権者に対して、後述の請負契約にもとづく請負代金として支払ったものである。また、昭和五二年一月分の支払いが現金でなされたとの点も否認する。同月分は小切手で支払ったものである。

6  同7の事実は認める。

債権者主張の就業関係が、雇用契約によるものでなく請負契約に基づくものであること及び右契約を解除した経過は次のとおりである。すなわち

(1) 債務者は、水上工業所が昭和五一年一〇月三一日をもって最後の従業員が退職したところから、同年一一月初旬その代表者である債権者に対し、水上工業所を再建するか或いは転業するかのいづれかを決めるよう求め、その取決めをなすまでの間暫定的に、債権者をして、水上工業所との工事請負契約にもとづき、従前どおりの熔接作業を継続してなさせることを承認した。

(2) 次いで、債務者は、昭和五二年四月一一日債権者との間で、債権者を一人親方として請負作業をなすこととし、請負作業内容は従前水上工業所が請負っていた作業の一部(第七工程ボデーブラケット等の熔接作業)、請負代金は同年二月に遡って月額二五万円の定額、契約期間は目標として同年九月頃まで、最高でも昭和五三年三月末日までと定め、債権者が企業を再建するか、或いは再建不能が決定的となるかの何れかに決着がつけられることを解除条件もしくは解約事由とする工事請負契約を締結した。

(3) 債権者は、前記契約に基づいて就業してきたものであるところ、昭和五二年九月を経過するも下請会社の再建を図ろうとせず、かえって昭和五三年二月労働基準監督署に対し、雇用関係確認の申立をした。その結果、債務者は同年三月二七日右監督署から、債権者との間に労働関係が成立しているとの認定のもとに、労働者名簿、賃金台帳作成等の是正勧告を受けたことから、右勧告が事実に反する不満な内容のものであったが、債権者との関係につき善処することとし、同年四月二五日債権者に対し、嘱託としての雇用契約を締結する旨の提案をすると共に、これに基本的に同意しない場合はその時点で請負契約を解約する旨申入れ、次いで同年五月一三日文書により具体的契約内容を記載した嘱託雇用契約書を提出したところ、債権者は同月二〇日契約内容が不満であるとしてこれを拒絶する旨の回答をなした。その後、債務者は、さらに債権者と交渉を重ねようとしたが、債権者は総評全金の労働組合に加入し、債務者との交渉を組合にまかせた旨言って話し合いに応じないため、債務者は債権者との雇用契約の交渉を打切り、同月三〇日債権者に対し前記請負契約を解約する旨の意思表示をした。

従って、債務者が債権者に対し、就業を拒絶したことにつき、不当な点はない。

7  同8の事実は否認する。

三  債務者の主張

仮に、債権者と債務者間における昭和五二年四月一一日の前記合意が、労働契約としての性格をもつとしても、右契約は前記のとおり存続期間を昭和五三年三月末日とし、かつ、右存続期間内に債権者が企業の再建を図り、企業が再建されること、または、その再建が不能になることを解除条件若しくは解約事由とする旨の定めのある一時的暫定的な性格のものであり、その後前記経過により契約期間が事実上延長されたが、同年六月三〇日債務者は債権者が企業を再建する可能性のない状態において、債権者に対し右解約事由に基づき解約(解雇)する旨の意思表示をした。

従って、債権者と債務者間の雇用契約関係は消滅した。

四  債権者の答弁

債務者の主張中、債権者と債務者との間に雇用契約が成立したことは認めるが、その余は否認する。

五  債権者の主張

仮に、債務者の債権者に対する昭和五三年六月三〇日の契約解除の意思表示が、解雇の意思表示であったとしても、右解雇には何らの正当事由がないばかりか、次の各理由により解雇権の濫用であって、無効である。すなわち、

1  債務者の定めた就業規則の解雇事由に該当しない。

2  債権者は、昭和五三年五月一日、総評全国金属労働組合に加盟を申し込み、同組合によって加盟が承認された。同組合埼玉地方本部金剛製作所支部は、同年六月二四日、債務者に対し、債権者の組合加入を通告するとともに、以後債権者の労働条件、待遇問題につき、組合を相手として協議するよう申し入れた。しかるに債務者は、債権者の組合員としての身分を否定し、かつ、右組合の申し入れを無視して、債権者にとって労働条件の変更にあたる嘱託雇用契約の締結に債権者が応じないことを理由として、債権者を解雇した。従って、本件解雇は、昭和四八年一一月一日、債務者と右組合間で取り交された確認書二項に違反し、また、正当な理由がなく右組合との団体交渉を拒否した点で、不当労働行為に該当する。

3(一)  債権者は、浦和地方裁判所昭和五二年(ヨ)第四一号事件(いわゆる関東陸送支部組合員と債務者間の地位保全仮処分事件)について、提訴以来、債権者が所持する資料を提供したほか、打合わせ会議に参加して労働関係の実態や債務者の不当労働行為意思の存在につき助言するなど、右組合員を支援してきた。

(二)  債権者は、昭和五二年末ころから、債務者会社の社内下請としての協力工場に働く従業員を説得するなどして、その組合結成に助力してきた。その結果、昭和五三年五月二五日全国金属労働組合埼玉地方本部金剛製作所支部協力工場分会が結成され、従来、交渉主体として弱かった下請労働者が、下請企業の枠を越えて組織されることになり、債務者に直接待遇改善を要求する力を備えるようになった。

(三)  債権者は、前記1記載のとおり組合に加盟した。

(四)  債務者の債権者に対する本件解雇は、債権者の右(一)ないし(三)の活動及び組合加入を理由とするものであり、不当労働行為に該当する。

六  債務者の答弁

1  権者の主張1の事実は争う。

2  同2の事実のうち、全国金属労働組合埼玉地方本部金剛製作所支部が、昭和五三年六月二四日、債権者の組合加入を通告したこと、同月二八日、同組合から債権者主張のような申し入れがあったことは認めるが、債権者の組合加盟の経緯については知らない。その余の事実については否認する。

3  同3の(一)の事実は知らない。

4  同3の(二)の事実のうち、債権者主張の日に債権者主張の協力工場分会が結成されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同3の(三)の事実は知らない。

6  同3の(四)の事実は否認する。

第三証拠(略)

理由

一  申請の理由1及び2の事実については、当事者間に争いがない。

二  雇用契約の成立

1  債権者が昭和五一年一一月初旬ころから、債務者工場において、組立ダンプライン第七工程の熔接作業に従事していたこと、債権者について、労働者災害補償保険以外の保険の加入手続及び有給休暇、時間外割増賃金などの支給措置がとられていなかったこと、債務者が債権者に対し、昭和五一年一一月及び一二月分については出来高払いで、昭和五二年一月分については単価八三〇円の割合による時間単位で、同年二月以降の分については月額二五万円の定額で、いずれも月末締めの翌月一五日払いの方法で、それぞれ金員を支払っていたことは、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実と、(証拠略)によると以下の事実が認められ、これに反する(人証略)は措信することができず、他にこの認定をくつがえすに足りる証拠はない。

(1)  債権者は、水上工業所が休業するに先立ち、債務者に対し、水上工業所の従業員の賃上げができるように請負代金の単価を上げて貰いたい旨申入れたが、債務者から経営不振を理由にこれを拒絶され、結局右従業員の賃上げができないまま昭和五一年一〇月末日をもって廃業状態となった。そこで債権者は、同年一一月、水上工業所が廃業を余儀なくされ債権者が無収入の状態に追いまれるに至ったのは債務者にも責任があるとして、債務者に対し、今後債権者を債務者の従業員として採用してもらいたい旨強く申入れた。これに対し、債務者は、水上工業所の廃業は専らその代表者である債権者の責任であり又経営状態からしても債権者を従業員として採用できない旨言って右申入れを拒絶したが、債権者が転業するなど身の振り方が決まるまでの間、暫定的に債務者工場における作業に従事することを承認した。債権者はこれに不満であったが、今後更に債務者と交渉を続けることとし、同月以降債務者工場において就業するに至った。

(2)  そこで、債権者は、同月以降大型ダンプの組立作業工程中の第七工程における熔接作業を担当することとなり、債務者会社組立第一課第三班班長中野喜八郎の下において債務者従業員と共同して、右作業に従事した。

(3)  ところで、水上工業所は休業前において、直接債務者の職制からの指示を受けることなく、水上工業所の器材器具を用いて前記組立工程中の第六ないし第八工程の熔接作業にあたり、又作業工程上に欠陥が生じた場合には、水上工業所の作業員が直接その補修をなし、作業上生じた損害については水上工業所がその賠償の責任を負い、月々の請負代金と相殺される扱いであったが、同年一一月債権者が前記作業に従事することとなってからは、債務者により水上工業所の器材器具の一切を買取ることが了承され(但し、現実に買取られたのは昭和五二年四月)て、債務者備付の器材器具を使用することとなり、作業に使用する熔接棒等の消耗品も債務者から支給され、又債権者の作業によって生じた作業工程上の欠陥は、総て債務者会社の修正班がその補修にあたり、作業上の損害についても、債権者に賠償の責任を負わされて債務者から支払われる金員と相殺されることもなくなった。

(4)  さらに、債権者は、昭和五二年一月以降、出退社時のタイムカードへの打刻を義務づけられ、前記中野班長が記録する作業日程表にも出欠、残業、遅刻、早退等が記入されるようになった。又債務者工場における朝礼への参加は義務的となり、下請作業員とは別に、債務者の従業員が整列する場所でこれを受けるようになった。作業衣は下請作業員に支給されないものであるところ、債権者はその支給を受けた。

(5)  その間、債権者は債務者に対し、重ねて債務者従業員として採用するよう申入れ交渉したが、債務者は前同様これを拒絶し、債権者に従業員としての地位を認めなかった。従って、債務者は、債権者の従事した前記作業に対する対価は、賃金としてでなく、請負代金としての支払形式をとり、昭和五一年一一、一二月分については出来高払形式、昭和五二年一月分については時間単価八三〇円の割合で対価を計上して支払い、又労働者災害補償保険以外の保険加入、有給休暇、時間外割増金の支払の扱いをしなかった。

(6)  債権者が昭和五二年二月一九日債務者会社における就業について浦和労働基準監督署に雇用関係確認の申立をしたことで、債務者は同署監督官から債権者と話合って解決するよう勧告されたため、改めて債権者と話し合い、その結果、同年四月一一日債権者との間で、債権者に従前どおりの作業を担当させ、毎月定額二五万円を同年二月に遡って現金で支払う旨、その期間は当分の間とする旨合意したが、その際にも、債権者について債務者の従業員としての身分上の扱いをすることは承認しなかった。従って、右定額の二五万円の支給に当っても、給料としての扱いをせず、出来高払としての請負代金支払の形式をとった。

(7)  債権者は、債務者が債権者との前記就業関係が請負契約によるものとして、債権者に対してその解除の意思表示をなした昭和五三年六月三〇日まで、前記状態において債務者工場において就業を継続した。

3  前記認定事実を綜合的に判断すると債権者の就業関係の実体は、債権者が債務者に対し、債務者の労務管理のもとに継続的に労務を提供する関係即ち雇用関係であったものと認められ、債権者に請負代金の名称で支払われた金員も、実質的には右労務の対価即ち給与と認める妨げとなる内容のものでないことが明らかである。

ところで、一定の就業関係が、法律上雇用又は請負の何れに該当するものであるかは、実体を客観的に観察して何れの要件を具備するものと認められるかによって判断すべきであって、契約当事者の付した契約名によって拘束されるものでないことはいうまでもない。ところで本件は、債権者の就業の実体が雇用であるのに、債務者が債権者に対し、雇用としての法律関係において取扱をなすことを拒絶し、請負関係にあるものとして取扱ってきたことになるのであるが、使用者が、就業の実体が雇用であっても、請負契約の形式をとることによりその就業関係を請負の法律関係によって律することが許されるものとすれば、使用者の主観的意図による労働者に対する関係保護法規の適用の排除を容認することになるから、右のような債務者の措置は到底是認し得るものでないというべきである。

以上検討したところによれば、昭和五二年一一月以降、債権者と債務者との間に雇用関係が成立しているものと認めるのが相当である。

三  申請の理由7の事実は、当事者間に争いがない。

四  本件解雇

1  債権者と債務者間において、雇用契約が成立していることは前記認定のとおりであるところ、債務者は、右契約関係を請負と解し、昭和五三年六月三〇日、債権者に対し請負契約を解除する旨の意思表示をしたのであるが、右意思表示は実質的にみれば、これをもって債権者に対する解雇の意思表示と解することができる。

2  そこで、右の解雇の効力について、以下検討する。

(一)  債務者は、本件解雇当時の債権者と債務者間の契約につき、その存続期間を昭和五三年三月末日とし、右存続期間内に債権者が企業の再建を図り、企業が再建されること、または、その再建が不能になることを解除条件若しくは解約事由とする旨の定めがあったもので、事実上右期間が延長された後も、右の解除条件若しくは解約事由の定めが有効に存続していた旨主張し、(人証略)はこれに符合する供述をしているけれども、債権者本人尋問の結果によれば、債権者は債務者に対し、終始、水上工業所を再建する意思もまた客観的な状況もない旨主張していた事実が認められ、この事実と、前示のとおり、債権者が昭和五二年三月二五日に水上工業所の解散登記をなしている事実とに照らすと、右各証人の供述は措信できず、他に債務者の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  (証拠略)によれば、債権者は昭和五三年五月一日、総評全国金属労働組合に加盟を申し込み、同年六月、同組合によって、債権者の加盟が承認されたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  昭和五三年六月二四日、右組合埼玉地方本部金剛製作所支部が債務者に対し、債権者の組合加入を通告し、以後債権者の労働条件、待遇問題につき、組合を相手に協議するよう申し入れたことは当事者間に争いがない。

(四)  (証拠略)によれば、債務者は右組合の申し入れに対し、債権者の組合員としての身分を否定し、かつ、右組合の申し入れを無視して、債権者が債務者の提案した嘱託雇用契約の締結に応じないことを理由として、債権者を解雇したこと、嘱託雇用契約の締結は、債権者にとって労働条件の実質的な変更をもたらし、かかる場合には、昭和四八年一一月一日、債務者と右組合間で取り交された確認書(疎甲第二〇号証)に基づき、債務者は組合の申し入れに対し、組合と協議する義務のあること、また、債務者が定めた就業規則(疎甲第二一号証)には第五八条に解雇事由の規定があること、がそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(五)  以上の事実を総合して判断すれば、債務者の債権者に対する本件解雇は、右確認書所定の手続に違反し、かつ、右就業規則所定の解雇事由に該当しないものであって、何らの正当事由がないから、その余の点について判断するまでもなく、解雇権を濫用した無効なものと認められる。

五  前認定の事実及び債権者本人尋問の結果によれば、債権者は本件解雇当時、債務者から月額二五万円の賃金を支払われていたものであり、債務者の解雇及び就労拒否により、他に収入を得ることができず、本案訴訟の確定を待っていては、債権者の家族が生活して行く上で回復し難い損害を蒙るおそれがあることが認められ、右認定に反する証拠はない。

よって、債権者の本件仮処分申請はいずれも理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柿沼久 裁判官 雨宮則夫 裁判官 吉田恭弘)

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