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浦和地方裁判所 昭和54年(わ)317号 判決 1979年11月14日

主文

被告人張栄發を懲役八月に、同高橋茂、同渡邊忠文をそれぞれ懲役六月に処する。

この裁判確定の日から、被告人張栄發に対して五年間、同高橋茂、同渡邊忠文に対して、それぞれ三年間、右各刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人張栄發は、埼玉県川口市本町四丁目三番六号所在の本町ハイツ二一三号室に事務所を設け、「日本求人協会」又は「関東求人情報センター」の名称で求人者を会員として募集する一方、求職者を募集して登録し、右求人側会員に求職登録者の名簿および面接通知書を送付し、求人側会員をして求職者に面接通知をなさしめる方法により雇用関係の成立をあつ旋する事業を営んでいるものであり、被告人渡邊忠文、同高橋茂の両名は、いずれも被告人張に調査員として雇われて右営業に従事しているものであるが、被告人三名は、小沢孝啓らと共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、別表記載のとおり、昭和五三年一〇月三一日ころから同五四年二月一五日ころまでの間、各求人者の営業所等において、スターヒユーズ株式会社ら一五名の求人者と、それぞれ前記方法により求職者をあつ旋する契約をなしてこれを会員とし、右あつ旋の報酬として右求人者らから、その各契約期間に応じ、あらかじめ会費名下に金一五万円ないし二五万円を受領したうえ、右求人者らに対し、前記登録にかかる求職者の住所・氏名・年令・学歴及び希望職種並びに希望収入額等を個別に掲載した「求職新聞」等と題する名簿のほか、当該求人者らが右名簿に掲載された求職者に対して雇用面接を行う際に使用させるための「面接通知書(往復はがき)」及びいわゆる企業案内書などを郵送交付し、よつて、前記スターヒユーズ株式会社ら一五名の求人者をして、昭和五三年一一月初旬ころから昭和五四年二月下旬ころにいたるまでの間三四回にわたり、いずれも前記名簿に掲載されている求職者井手口新一ら三〇名に対し、右「面接通知書」による面接通知手続をなさしめ(但し別表13については、清野ミツヲの居住していた婦人相談所係員をして、求人者に電話せしめ面接日を確定せしめ)、もつて、有料の職業紹介事業を行つたものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、包括して刑法六〇条、職業安定法六四条一号、三二条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人張栄發を懲役八月に、同高橋茂、同渡邊忠文を各懲役六月に処し、各被告人に対し、情状により刑法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から、被告人張栄發に対して五年間、同高橋茂、同渡邊忠文に対して各三年間、それぞれその刑の執行を猶予することとする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人らの行為は、職業安定法三五条の「文書の頒布による募集行為」に止まつていて、同法三二条の定める「職業紹介」には該当しないと主張する。

しかし前掲各証拠によると、被告人らは、日刊紙の折込み等によつて求職を勧誘し、葉書で申込みをした求職者について、住所、年令、学歴、希望職種、希望月収額等を記載したリストを作成し、他方ダイレクト・メール等によつて求人者を募り、応募して来た者に対しては、自ら出向いて面談のうえ、会員契約を締結し、その際、求人者に対して希望職種に該当する求職者を紹介する旨確約し、右リストから、適当な求職者を選び出して記入した「求職新聞」と被告人らが作成した面接通知書を送付し、求人者らにおいて、更に右の中から適当な者に右面接通知書を発送して、求職者と面接するように仕向けたことが認められ、被告人らの右行為は「職業紹介」に該当するものと解するのが相当である。

ところで労働者の募集とは、職業安定法五条五項によると「労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人をして、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘すること」を言うにあるが、本件の場合は、右に述べたように、被告人らは、労働者を雇用しようとする者に対し、その者らの希望に副えるように、既に勧誘して、求職の申込を受けてリストに記載してある求職者を紹介したと言うのであるから(被告人らと求人者らとの間で締結された契約が、求職者を確保してあるから、契約をすれば、求人者らの求めに応じて、直ちに適当な求職者を紹介すると言うことにあつたことは、前掲各証拠により明らかである)、被告人らが、雇用者側の依頼を受けて、当該雇用者の被用者となるように、労働者となろうとする者に対し、文書で勧誘したものにすぎないとは認め難い。

よつて主文のとおり判決する。

別表

<省略>

<省略>

<省略>

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